ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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深海棲艦との戦闘になった話は既に宿毛湾泊地に届いており、帰還した彼女達は工廠で黒岩を見た。

 

「大丈夫だった?」

 

まずそう聞かれ、加賀達はそこで少しの驚きと納得の様子を浮かべた。

 

「ええ、この通り」

「無傷ですよ」

「よかった……」

 

そこで安堵した様子を見せる黒岩に彼女達は少し新鮮味を感じてしまった。

 

「あと、不知火さん」

「はい」

「今から機関の調整をしますから…」

「それなんだけどさ……」

「?」

 

そこで不知火は黒岩にある注文をつけた。

 

「機関、このままでいいからリミッターをかけてほしい」

「?……ああ、成程!」

 

そこで勘付いて黒岩は納得した様子を浮かべる。

すなわち、緊急用のブースター的な意味合いで機関をセーブさせておいてほしいと言う意味合いと理解した彼女はそれを了承すると、そのまま艤装を外して不知火は泊地に帰還した。

 

「よう、無事に帰ってきたか」

「提督」

 

そして工廠を出た先で山郷が出迎えた。

 

「今回の戦闘もすぐに片付いたか……」

「ええ、何のための最前線艦娘ですか」

 

そこで足柄が答えると、山郷はカラカラと軽く笑った後に聞いた。

 

「どうだった?艤装技師の腕は?」

「はい、十分だったと思います」

「うむ、出だしは好調のようだな」

 

山郷はそう答えると、足柄が言った。

 

「出力も良くて、快調だったわ。よく上があんなに腕のいい子を派遣したわね」

「提督はいつも上の人とは仲が悪いですからね」

 

涼月もそう反応すると、山郷は工廠で早速仕事に取り掛かっている黒岩を見ながら溢した。

 

「なに、色々と事情があるのさ」

 

そう言い、視線の先でタブレットを片手に艤装のデータを確認している彼女をみていた。

 

 

 

 

 

その後、改修作業が初の戦闘を終え。報告書も提出さて、あとは自由時間と言ったところだった。

ここの泊地は人が少ないと言うことで資材補給の任務をする必要はなく、定期的に貨物列車で資材が運ばれてくる事となっていた。

いくら上との仲が悪いとはいえ、ここは最前線。物資も滞りなく配給されていた。

 

「どうですか?」

「問題ありません」

 

大淀の問いかけに黒岩は答える。

 

「でもこれって、技術士官がする仕事じゃありませんよね?」

「前にも申した通り、ここは常に人手不足です。なので非戦闘員の黒岩大尉には色々と仕事を兼任してもらいます」

 

大淀は黒岩を逃がさない勢いでそう話すと、彼女も軽くため息をついて上を見上げた。

 

「人手不足って、大問題なのになんで解消しないんでしょうね?」

「まあ、提督は上層部と仲が悪い人間ですからね……」

「え?そうなんですか?東シナ海の英雄と称されているのに?」

 

軍部的には良い広告塔たり得る良い存在だと思っていると、大淀は忌々しげに語り出す。

 

「大尉、前はどこの部署にいましたか?」

「え?えっと……私は装備庁の艤装装備研究所に居ました。と言っても、私は殆ど研究所に詰めていたので防衛省の方には行った事無いんですけどね」

 

少し恥ずかしげに目尻を指で軽く掻きながら答えると、大淀はさらに聞いた。

 

「目黒の方ですか?」

 

艦艇装備研究所のある目黒地区かと聞くと、彼女は首を横に振った。

 

「いえ、東立川の方です。女性自衛官が多いと言う理由でそっちに配属されました」

 

次世代装備研究所の方に配属されたと言う彼女の経歴にやや驚きつつも、大淀は納得した。

 

「なるほど……だから知らないんですね」

「?」

 

そこで大淀は泊地を歩きながら黒岩に説明を入れた。

 

「現在、防衛省は艦娘を円滑に活用するために。主に艦娘を戦力として数え。個人の自由はそれほど無いんです」

 

彼女はそこから今まで溜まっている物を吐き出すように黒岩に言う。

 

「上層部は危惧しているんでしょうね、艦娘が自分たちに砲を向けないのか。自分たちを裏切らないのかと……」

「……」

「なので、我々が街に出られることもほぼありません」

「そうなんですか?」

「ええ、一般的には」

 

黒岩は知らなかった事実に驚いていると、大淀は半ば呆れた目をしていた。

 

「就職した時に聞かれなかったんですか?」

 

そう聞くと、彼女はそこで記憶を頼りに思い返すも畝ったまま答えた。

 

「うーん、何せ就職した時は色々と忙しかったですし。そもそも私は就職して一年目の新人ですし……」

「……思い出せないならいいですよ。色々と教えてあげますから」

「すみません……何から何まで教えてもらって」

「いいですよ。私も教えがいのある人が好きですし」

 

大淀はそう言うと、黒岩はいいしれない恐怖を覚えた。

 

「こほん、話を戻しますと。艦娘に与えられた自由行動の場所は鎮守府や泊地、警備府などの限定的な場所のみで。基本的にメディアにも晒される事はありません。それが、今の防衛省の方針です」

「まるで囚人じゃ無いですか……」

 

そんな現場に思わず黒岩はそう溢してしまうと、大淀も頷く。

 

「ええ、未知とは恐怖。どこからともなく現れた私達に対する疑念はまだ晴れていないと言う事です」

 

大淀は世間一般的な艦娘に対する解釈を話すと、黒岩は分かりつつも不満を隠し切れなかった。

 

「そんな…今この国が法治国家でいられるのも。全て艦娘のおかげだと言うのに……」

「仕方ないですよ。少なくとも提督のように私達に全面の信頼をおいてくれる人は少ないと思いますよ?何せ、陸地でも大幅に性能が落ちるとはいえ。町を破壊できる威力はありますから」

 

そこで黒岩は大淀に聞いた。

 

「そんな環境で、あなた達は不満を持たないんですか?」

 

そう聞くと、大淀は軽く目を閉じて答える。

 

「ええ、少なくともここにいる間は。私も、他のみんなも不満には思わないですよ。だって……

 

 

時々街に出ていますから」

「えっ……?!」

 

そこで黒岩は驚いていると、大淀は続けて話す。

 

「偽名とか、変装をしていますけどね。提督が許可を出してくれたんです。時々買い出しに行く時とかに外出するんですよ」

「へぇ〜」

「あっ、このことはもちろん秘密ですよ?」

「はい、わかっています」

 

上にバレたら懲戒免職確定の行動だ。艦娘を街に出しているなんて知れ渡ったら大惨事になること間違いないだ。

 

「他の場所は私もよく知りませんが、少なくとこ山郷提督のように広い心を持った人は少ないでしょうね。深海棲艦の姿すら見た事の無い国民の方が多いのも事実ですし」

「国民の不安を煽がない為の情報統制……嫌らしいです」

 

黒岩自身、世論における深海棲艦と艦娘に対する関心度には不満を覚えていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それから数日後、宿舎の自室で黒岩は遮光カーテンを閉じて卓上のテーブルで持ち込んだパソコンを開いていた。

ここの泊地の夜間の警備や清掃などは全て妖精さんがやってくれているそうで。これが珍しいのかも良く分からないが、ここの設備はとても整っていた。

 

『提督は滅多にここを使いませんからね。全部の部屋を好きに使ってもらって構いませんよ?』

 

大淀はそう言ったが、正直この一部屋だけで十分だった。山郷提督は基本的に司令官室と司令官私室しか使わない男らしく、この寮も持て余していたという。

反対には艦娘の寮があり、たまにその寮の方から大声が聞こえる事もあった。

 

「……」

 

パソコンである論文を仕上げており、それは艦娘に艤装に関する論文だった。

 

「艤装に直接手を加えても戦闘には問題無かった……か」

 

そこで彼女は机の引き出しを開けると、そこに入っていた数本の薬瓶を見る。透明なガラスに紺色に近い液体が入っており、紙のラベルに油性ペンで『ヤオビクニ原液』と書かれていた。

 

「……」

 

その薬瓶を見て、一瞬彼女は手が止まってしまう。その液体は引き出しを引いた時の勢いで中身も揺れ、厳重に封をされていた。

一瞬黒岩はそれを見て、捨てようかとも考えたが。そのまま引き出しから必要なものだけを取り出すと、スケッチブックを取り出して鉛筆で線を入れ始めていた。

 

 

 

 

 

同じ頃、司令官室では山郷がパソコンを開いた状態でその画面に背を向けて海を見ながら話していた。

部屋の明かりはしており、窓の奥には月明かりに反射する水面が映っていた。

 

「それで、俺に出向しろと言うのか?」

 

そう聞き返すと、画面の向こうに座る一人の男が頷いて答える。

 

『そうだ、山郷少将は明日の一六〇〇に防衛省に出航して貰う』

「……どうするんだ?新幹線の始発には間に合わんぞ」

 

そう聞くと、その男は無問題と言った様子で彼に言う。

 

『問題ない。明日の朝に直接迎えを送る』

「はんっ、飛行艇で呼び出しか」

 

そこでこれだから中央の権力者は羨ましいと思っていると、画面に映る男は続けた。

 

『色々と話したい事もある。積もる話でもしようじゃないか』

「俺がいない間、この海域はどうするんだ?」

『この前派遣された士官にでも任せれば良いだろう』

 

彼はそう答えると、山郷は一瞬驚いた後に苦笑する。

 

「新米だぞ?おまけに技術士官に指揮能力を求めるな」

『はっはっはっ、君の事だから訓練をしていると思っていたよ』

「馬鹿言え。着任して数日の若娘に教育できるかよ」

 

山郷はそう反論すると、画面に映る男はそれもそうかと納得した様子で山郷に言う。

 

『それもそうか……いやはや、こちらも色々と忙しくてね』

「ほう、じゃあ明日を楽しみにしているよ」

 

そう言い、どうせ()()()()()()()()()連中に余計な情報を与えぬ為に山郷とその男は通信を切ると、再び暗くなった部屋で山郷は軽くため息を吐く。

 

「呼び出しか……仕方あるまいな」

 

そこで彼は内線を使って大淀を呼び出した。

 

 

 

 

 

十分後、司令官室に訪れた大淀はそこで軽く敬礼をする。

 

「お呼びでしょうか提督?」

 

そう言って伺いを立てると、山郷は彼女に言った。

 

「ああ、呼び出しを受けた。相手は四宮だ」

「っ!」

 

その名前を聞いてなんとなく察した彼女はそこで山郷を見て答える。

 

「分かりました。いつ出発しますか?」

「いや、朝に向こうから迎えが来る。それに乗って東京に一っ飛びだ」

「了解です」

 

そこで彼女は山郷の呼び出しは珍しいと思っていると、彼は大淀に伝える。

 

「今回は秘書艦としてお前も同行だ」

「……はい」

 

では基地の警護はどうするかと思ったが、深海棲艦が現れても独自で動けるほどには成長している彼女達に任せるしかないと思っていた。

 

「大尉には救援ボタンの場所を教えた方が良さそうですね」

「ああ、ついでに使い所に関してもな」

 

教えるのを忘れていたと山郷は失念していた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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