ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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試される大地、北海道。

今回の目的地であり、今回の作戦を始めるための主要な後方基地である。

 

「こっちに鉄板もってこい!」

「外装パーツは余分を持って積載しろよ」

 

おおすみ型輸送艦のウェルドックは艦娘達が進発を行うための設備が整えられており、艤装が排水を終えたウェルドックに備えられていた。

 

「…」

 

その喧騒を前に百合は戸惑っている様子で立ち尽くしていた。

 

「うおっ!?」

 

その時、彼女は背中から突かれるようにぶつかられた。

 

「おい、ボーッと突っ立ってんじゃねえぞ」

「す、すみません…」

 

そして艦娘の予備砲身を運んでいた技術士官に怒鳴られて、怯えるように頭を何度も下げる。

 

「副司令?」

「?」

 

そこで話しかけられてギョッとなって隣を見ると、そこでは大波が百合を見上げていた。

 

「どうかしたん?」

「あ…ううん、大丈夫」

 

艤装技師として北海道まで移動することとなった彼女は、そこで苫小牧まで『しもきた』に乗り込んでいた。

 

「気をつけてな?ずっとみんなの艤装弄ってるんやし…」

「うん、ありがとう」

 

百合はそう話すと、大波は相変わらず寝ていない様子の彼女に半眼で怪しんだ目線を向ける。

 

「本当?」

「だ、大丈夫だって…ほら」

 

目元は相変わらず暗い彼女は、何処か妖怪にも似たような妖しさが時々漏れ出ているような気がしてならない。大波は怪しさ満々、妖しさも満々の黒岩百合に不安が増長された。

 

「…無理はせんでよ?」

 

彼女はそう言って百合の手を取ると、その中に飴を入れた。

 

「飴…?」

「うちの特性や。疲れは癒すんやで」

 

大波はそう言ってから船内に去って行くと、百合は飴と大波を交互に見る。

 

「…大阪のおばちゃんみたい。知らんけど」

 

そんな彼女の仕草にそんなことを呟き、直後に虎柄シャツを纏っている大波の姿を幻視していた。

 

 

 

その後、百合は船内に戻って指揮官室に入る。

 

「山郷少将、所属艦娘の艤装整備が完了しました」

「おう、お疲れ」

 

そこで船内で山郷は篠海や複数の提督と作戦について話しており、その中でも篠海准将にはいまだに百合は苦手意識があった。

 

「黒岩大尉、後で佐伯湾艦隊の艤装点検も頼んだ」

「は、はいっ!!」

 

そこで背筋が伸びて彼女な次に篠海を見ると、彼女は百合を見て会釈をして来たが、これでもかと釣り上がった鋭い目元は素面だと言うのに彼女を睨んでいるように見えてしまっていた。

百合はそんな篠海に相変わらず慣れないと思っていると、その無言のやり取りを見ていた山郷は呆れながら部屋に集まった他の泊地の指揮官達に言う。

 

「さて、アメリカ側から四隻分のウェルドック追加だ。甲板まで人を乗っけているから、移動空間は限られるがな」

 

そこで彼は映写機を使って作戦の概要の説明を行う。

 

「今回の参加艦艇は苫小牧港を出港の後、単冠湾にて洋上補給。その後に千島列島沿いに北上を行い、アリューシャン列島のアッツ島近海にてアメリカ側の船団と船舶を交換する」

 

そこで海域図とともに作戦が説明をされると、聞いていた者達は改めてこの作戦の重要性というものに背筋が思わず伸びてしまう。

 

「我々の部隊は船団の護衛を担当する。複縦陣で航行する兵員輸送船を五隻のウェルドック付きの船舶で護衛する。その外周を第七艦隊残存艦隊が担当する」

 

そこで作戦説明を聞いて小声で作戦を聞いていた一部の若手提督が言う。

 

「支配海域の戦闘は軍艦派か…」

「海の薬を打って強化したんだ。まあ妥当だろう」

 

そんな会話は、近くにいた宇野や地獄耳を持つ百合や篠海も聞いていた。そして同時に薬剤の広がり具合に警鐘が鳴り響く。深海棲艦の血清を用いて作られたと言うその薬剤に、この部屋にいる提督達は薬剤を使わなかった提督が集められていた。

 

基本的に艤装技師からは嫌われているヤオビクニ。身体強化によって艤装と体の調整を別個でやらなければいけなくなる為、この戦争で培われた成長データが無意味になってしまうことから艤装技師から言われて使用をやめると言うパターンもあった。

 

「しかしまあ、ドーピングだろう?」

「ああ、俺は無理だな。手塩にかけて育てた娘には」

「用法要領を守れば良いんだよ。スポーツのドーピングもそう言われているだろう?」

 

そんな事を話していた提督達の前、船団護衛任務の指揮官を担当する山郷は言う。

 

「艦娘は五つの強襲揚陸艦に分散させる。補給と整備の為、艤装技師を各艦に三人配属させる」

 

そう話し、苫小牧までの移動の間に彼は船団護衛部隊の陣頭指揮を取ると言った。

 

「佐世保の虎か…」

「先頭で戦うんじゃないんだな」 

 

事情を知らない提督達は好き勝手に話すが、とりあえずは目の前の山郷が最も任官歴が長い為、指示に従う方針は変わらない。

 

「第一次船団に乗船する人員は約一万人、貨物船もなんでも使って運ぶ。一席でも寝られたらそれだけ人が死ぬ海域だと思え」

「「「っ!!」」」

 

それは分かっていた。この時期の冬の海というのは基本的に大荒れである。おまけに水温も低下して海に落ちたらあっという間に低体温症だ。

そして海が荒れてるのであっという間に波に攫われる。

 

「作戦の概要は異常だ。諸君らの奮戦に期待する」

「「「「はいっ!」」」」

 

山郷は説明を終えると、船団護衛を担当する提督達は敬礼をして頷いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、山郷達を乗せた輸送艦は北海道の苫小牧港に到着をする。

 

「うわっ…」

 

そこで甲板上がった宇野は驚いた様子でその光景を見ていた。

 

「すげぇ、流石に数が多いもんだ」

 

苫小牧港をはじめとした東北や北海道の港ではありふれた光景となっている投錨されていた艦隊。全て、これからの兵員輸送任務に従事する艦艇である。

 

「黒岩大尉も見てくださいよ」

 

宇野はそこで話しかけると、甲板に上がっていた彼女は挙動不審になりながら周りを見回していた。

 

「ひ、人が多い…」

「…」

 

そこで彼女は何処を見ても人ばかりの光景に目に涙を流していた。

 

「…はぁ」

「彼女、いつもこの調子なの?」

 

その様子を見て呆れていたのは榎木真奈美少尉。同じ艤装技師で宇野と同期の明石学校の卒業生であった。

 

「先が思いやられる…」

「まあまあ、腕は確かなんだからさ」

 

榎木はこめかみに手を当てて困惑すると、宇野はそんな彼女を諌めていた。上空ではP-3Cが哨戒飛行を行っており、深海棲艦による攻撃を常時警戒していた。

 

「すまないな。呼び出して」

「構わんさ。貴様の頼みならな」

 

苫小牧に到着をして、そこで山郷はある将校と握手をしてから抱擁をする。

 

北部方面艦隊司令官、海原茂雄中将。

日本の深海棲艦による攻撃を守る北の防人。北海道に駐屯する陸軍第七師団と共に日本最強の艦隊とも称されていた。

 

「出世したな。北部方面艦隊司令官とは」

「なぁに、貴様に出世欲が無いからな。先に大湊をもらったまでの事さ」

 

海原はそう言いながら駆けつけた山郷を見る。以前に比べると確かに彼は覇気を取り戻した雰囲気を感じとり、同じ神尾学校の卒業生から聞かされた噂を思い出す。

 

「貴様もやる気を取り戻したのなら佐世保に返り咲きでもして見ろ」

「ふふふっ、すまんな。生憎と俺は仕事が溜まってるもんで、佐世保じゃなくて横須賀の椅子でも狙うさ」

「…ふはははっ!」

 

そんな彼の言葉に海原は笑うと、その欲に塗れた彼の姿に神尾学校の頃を思い出す。そして彼は山郷の肩を叩く。

 

「良かろう。もし貴様が横須賀の席に座ったら、その時は生き残った連中で乾杯だ」

「ああ、その時は俺も秘蔵のウイスキーでも持ち込んでやる」

 

二人はそう話すと、そこで山郷は言う。

 

「しかし、流石に人数が多いな」

 

苫小牧港では大量のコンテナが届き、対深海棲艦用にハリネズミのように重機関銃(M2 ブローニング)チェーンガン(M230)を甲板に装備したアメリカ海軍所属の駆逐戦隊を見る。

 

「十五万人の兵員を移送するんだ。まあ、一週間程度の航海の予定だ」

「…地方都市の人数を丸々移送するようなものだからな」

 

そこで『しもきた』から下船して兵員輸送船に向かうアメリカ軍関係者を見る。既に数ヶ月前から多くの残存米軍が北海道を中心に集結していた。

 

「作戦開始は一週間後。俺が艦隊を率いて先端を拓く」

「ああ、後ろは任せろ」

 

山郷は言うと、海原は全面的に彼の事を信用していたので頷いた。

 

「羨ましいぞ。まだ数の揃っていない艤装技師までいるんだからな」

「訳ありさ。四宮から程の良い押し付けだ」

 

彼はそう言い、春から配属された人見知りの酷い艤装技師のことを思い浮かべる。彼女のことだ、下手をしたらこの人数を前に外に出てこないかもしれない。

ちょうどこの港には宿毛湾から送り出したコンテナが青函トンネルを通って届く頃のはずだ。全ての路線を国営に戻し、新たに廃線となった路線などにも路線を敷設していることで、石油製品に厳しい制限を加えている現状を解決しようとする国の方針を感じ取れる。

 

「その技師は装備庁から飛ばされたと聞いたぞ?」

「まあな、研究所で散々暴れた影響だろう」

「ほう、芯の強い女は好きだぞ?」

「どうだろうな、それなら佐伯湾泊地の提督の方がよっぽど良い」

 

苫小牧港で出港準備をしながら二人は作戦の再確認と艦隊運動の確認を行う。

 

「ロシア政府とも調整は済ませたそうだ。その時、極東艦隊の一部を此方に回すらしい」

「…戦争初期で極東艦隊は壊滅したんじゃ無いのか?」

「だから来るのは魚雷艇と補助艦艇が数隻。昔に比べたら悲しくなるほどの装備しかないさ」

 

北陸騒乱から瞬く間に世界中に広がった深海棲艦との戦争において、早々に多くの艦艇は撃沈されていた。商船も軍艦もお構いなく手当たり次第に破壊したことで、海上交通は完全に麻痺してしまっていた。

東・南シナ海では人民解放軍の海軍艦隊が悉く全滅し、沿岸部が砲撃されたことで革命の火種となってしまっていた。

 

「近海でまともに艦隊を動かせるのは朝鮮軍だけだ。だが動かせる艦艇は哨戒艇が限界だ」

「俺たちしか動けないわけだ…」

「おまけにアメリカが艦隊指揮をしたがっている。作戦の主導権をにぎりたいらしい。いまだにゴネてると四宮から言われたよ」

「…面倒な」

 

これもまた自分達が忌み嫌う政治的理由というやつかと内心で吐露しながら天を仰ぐ。

 

「将兵は本国に帰れれば良いのによ」

「全くだ。まあ、言われた通りに俺たちはやるだけだ」

 

海原はそう言うと昔からの同期に軽く同情をしながら苫小牧の港で他の参謀達との顔合わせを行った。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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