輸送艦の艦内で黒岩が作戦内容を伝えていく。
「今回の作戦に際し、私達は釧路沖で船団を編成します」
山郷は作戦開始前に揚陸指揮艦に改装された『それいゆ』に詰めており、代わりに現場に向かう艤装技師の黒岩がバインダーを渡されて話せと言われていた。
「それで、えっと…」
いきなり渡された彼女は緊張し切った様子で口元を震わせていた。
「おい、大丈夫なのか?」
「腕は確かだから…」
そんな彼女の様子にため息混じりに見る作戦に参加する艦娘達。
「そもそも副司令、山郷提督に仕事ぶん投げられたらしいし…」
「可哀想に…」
「いや、まず彼女の人見知りに関しては大問題すぎるわよ」
最後に足柄がツッコミを入れると、彼女は近づいてバインダーを指差す。
「ここよ、黒岩大尉」
「あ、ありがこうございます」
そこで噛んでしまった彼女に聞いていた艦娘や艤装技師はこんな彼女に任せたことに不安を覚えていた。
「え?これで私達を統括するの?」
「俺は別に文句ねえけどな」
榎木はそんな子鹿のように震えている百合に不安しか感じないでいると、隣で宇野は言った。
「別に腕はいいんだし、元々三人しかいないし、この作戦だけだろうし?まあ良いんじゃない」
宇野はそう言い、補給や交代のタイミングを艦娘達に足柄や大波の補助を受けながら説明する百合を見る。
「それに気の弱い人の方が扱いやすいし」
「それはそれでどうなのよ」
そこで宇野の発言に榎木は苦笑して百合を見ていた。この輸送艦には宿毛湾から届いた装備品などの諸々の設備が到着しており、明石が認めた天才が改造した装備品が散らばっていた。
会議後、黒岩は港で山郷と話していた。
「よ、お疲れ」
「もう勘弁してください…」
げっそりとした様子で彼女は山郷に言った。
「何だ、艦隊指揮もできるから大丈夫だろ」
「そんな事ないですよ…」
彼に言われ、彼女はため息混じりに彼に答える。
「そもそも私が兵棋演習をしている時点で色々と可笑しいような気がするのですが…」
「そうか?艤装技師と提督の才能があったら最高じゃないか」
「器用貧乏になりますって、そんな状況」
そこで呆れた様子で黒岩は言うと、次に山郷は聞いた。
「では、疲れた大尉に最後に聞こう」
山郷が言うと途端に彼女は背筋が伸びる。それは長年の軍人任官としての癖であった。
「この作戦、損耗率はどのくらいか?」
「…」
それは本来技術士官に聞くには些か見当違いな話だろう。当然だ、技術畑の士官に戦術を聞くのだから。
「…三割、と言ったところではないでしょうか?」
しかし彼女は違う。春から山郷の手解きをされて来た彼女は…!!
技術士官でありながら彼女はその手の教育を受けていた。常時人手不足の宿毛湾泊地で山郷が倒れても問題ないように。
「今回は未だ未開地域であるベーリング海を進みます。事前偵察で低脅威目標しかいないとはいえ、船団を守り切れるのか…」
「ふむ、大尉の懸念も尤もだな」
山郷はその返答に頷くと、次に彼女の肩を叩いた。
「よし、そこまで想定したなら上出来だ。俺は揚陸指揮艦で指揮を担当することしかできない。だがお前は輸送艦に乗って作戦に直接従事する」
黒岩はこれから艤装技師として輸送艦に乗り込んで作戦行動中の艦娘たちの支援を行う。
種子島の時と違い、長い作戦期間が想定されていたために艤装技師は船舶への乗り込みが作戦の中には織り込まれていた。
「気をつけろよ」
「大丈夫ですよ」
そこで山郷の少し不安げな様子に彼女は笑みを浮かべて答える。
「宿毛湾や佐伯湾の艦隊だっていますから。私は大丈夫です」
「…そうか」
そんな自信すらある彼女に山郷も年上として、何より彼女達の命を預かる者として情けない姿を見られないようにすえ歌めに黒岩に微笑んで敬礼する。
「では、次に会うのはカムチャツキーだな」
「はい。カムチャツキーでお会いしましょう」
お互いに海軍式で敬礼を行うと、彼女はその後に輸送艦に乗り込んでいった。山郷もそこで無事に向こうで会おうと約束を済ませて満足げにしていた。
「…」
その時、彼の後ろに一人の人物が立つ。その気配はすぐに山郷も感じ取った。
「やれやれ、一足遅かったですか」
その声を聞いて、途端に山郷の表情は少し強張ってしまう。
「…お前がわざわざ苫小牧まで来るとはな」
そして振り返ると、そこでは一人の男が立っていた。
「後場」
「お久しぶりです。山郷少将」
大佐の階級章を付けた男、後場五雄はそこで敬礼をして山郷に挨拶をする。
「大佐とはな、出世したものだ」
「いえいえ、山郷少将も出世街道ではありませんか」
「はっ、何を言うかね…」
軽く山郷は笑うと、そこで後場に聞いた。
「何年振りだ?」
「神尾学校最後の合同演習依頼ですので…おおよそ十六年振りかと」
「十六年か…」
思っていたよりも長いな、と内心で思ってしまった。
「もうそれほど経つか。神尾先生が失踪してから」
「ええ、もうそれほど経過しました」
そこで二人は岸壁を歩きながら昔を懐かしんでいた。
「で、装備庁から
「今回の作戦は重要です。しかし優秀な技術者を失うのは、今後の戦略から見ても得策とは言えませんので…」
「そうか…」
事情を知り、山郷は内心で毒吐きながら『ああ畜生、どうしてこうなった』と天に向かって嘆きたくなった。
「作戦は長期間だ。複数の艦隊でローテーションを組む都合上、補給と整備は必須だ」
「その点、妖精さんが艤装の修理は受け持ってくれます。艤装技師をこれほど多数動員されると、ただでさえ不足気味の艤装技師に拍車がかかってしまいます」
「分かっている。だが米軍を死なせたらそれこそ本末転倒だ。政府はそう判断したんだ」
「ええ、分かっていますよ」
そこで『それいゆ』の前で山郷と後場は立ち止まると、そこで彼は話す。
「すまないが、ウチは常に人手不足なんだ。猫の根も借りたい状況で、他所に人は送れんぞ」
「…では少将は泊地の母体数を増やすべきです。人手が増えれば、その分あなたの仕事は減るのでは?」
「生憎、うちの造船所はしばらく火がつかねえんだ。悪いな」
山郷は後場に切り返すと、そのままタラップを伝って船内に乗り込んでいった。その様子を後場は静かに見届けると、何も答えずに彼は岸壁を後にした。
その背後では汽笛を鳴らして出港していく中の艦艇の姿があった。
その頃、静寂が場を支配している宿毛湾泊地。
「そろそろ提督は苫小牧から出る頃合いかね…」
そこで高雄は腕を伸ばしで泊地を歩いていた。
肌は雪の様に白く、黒曜石のような髪、右側に一本付き出る角、フードの着いた葡萄色の制服。澄んだ青い瞳は、自分と同じ色合いをしている海を見ていた。
「そうですね。よていですとそろそろしゅっこうしていてもおかしくないです」
「ていとくたちはおおしごとだ!」
「おしごとおしごと〜!」
岸壁に座り込んだ高雄の隣では妖精さん達が各々休憩をしており、それぞれ金平糖やどこから持ち出したのか『戦艦殺し』などを持ち出して酒盛りを始めていた。
「はあ、私もこんな状態じゃなかったら行きたかったんだけどね…」
そこで高雄はため息まじりに自分の頭に生えた角に触れる。すると自分が握っている感覚が分かり、ここには神経が通っているのだと理解できた。
「たかおさんは、ふくしれいのすいそくだとかんむすとしんかいせいかんのはざまにあるとか」
「ああ、副司令の推察じゃあ、今の私は深海棲艦でも艦娘でもない存在か、双方を足して二で割った存在らしい」
自分にもさっぱり分かんないと言って彼女は軽く笑うと、聞いていた妖精さん達は言う。
「そもそもふくしれいはわけわからないことをよくぶつぶつつぶやいてる」
「ききとれないこともよくある」
「ははは、元々あの人はそう言う人なんだろうね」
高雄は妖精さん達にそう話し、常に何かした人に対して怯えている様子の彼女を思い出す。確かに、あれだけ壮絶な方を経験していたらああなるのも仕方ない…と言うより、よくあそこまで持ち直したものだと思ってしまった。
「彼女は、あれだけのことをされていたらそりゃあ人を信じられなくなっちまうな…」
「かわいそうでした」
「あれはなみだなしにはかたれない」
「ふくしれいはずっとひどいめにあってきていた…」
「なんてやつらだ!ふくしれいはすばらしいひとなのに!!」
そこで口々に妖精さん達は憤慨した様子を見せた。
「ははは…まあ、人間なんてそんなもんさ」
高雄はそう話すと、何かピンと来た様子で徐に立ち上がると水面に降り立った。
「悪い、ちょっと泳いでくるわ」
「わかりました」
「おきをつけて、たかおさん!」
そこで艤装を展開すると、主砲を覗かせて高雄は洋上を疾走していく。
「…」
その中で高雄は無線機で連絡を受ける。
『てきせいそんざいはけいかいらいんをとっぱ。まもなく、たかおさんのしゅほうのしゃていないです!』
「了解」
上空からの誘導を受けると、彼女は砲塔を旋回させる。
この生きた艤装は艦娘の装備品を装備しようにも元々の主砲が取り外すのにとても苦労し、たとえ装備できたとしても痛く仕方が無かったので、黒岩も諦めて装備品はそのままにしていた。
「主砲、発射!」
直後に彼女は8インチ砲による砲撃を行うと、その砲声は洋上に轟いて警戒ラインを越えて来た敵の駆逐艦に命中すると、そのまま爆沈していった。
『めいちゅう!いっせきのごうちんをかくにんしました』
「了解」
そこで敵艦の轟沈を確認すると、高雄は不敵に笑みを浮かべて発艦させようとした艦載機を片付ける。
「他に敵は?」
『げんじょうかくにんできず』
「了解」
地上基地から哨戒飛行を行っていた妖精さんの乗る一〇〇式司偵による偵察情報を聞くと、高雄は満足した様子で洋上に佇んで遊弋を始める。
「ドロップ艦の可能性は?」
『ありません。もくひょうのちんこうをかくにんしています』
「了解…」
そこで撃沈した深海棲艦に黙祷を捧げる。
かつて、あの者達の同胞であった彼女は撃たれた後に自分の中から何かが抜けていくような感覚があった事を今でも思い出す。
「不思議な因果もあったものだ…」
彼女はそう呟くと、他の艦艇に見つからないようにフードを目深く被ってから少々急足で泊地に帰還していった。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。