ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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北海道で在日米軍の移送作戦が始まった頃、東京の首相官邸では北海道や東北地方から次々と出港してく船団を一人の男が見つめていた。

 

「現在、全艦出港の連絡がきました」

「…了解した」

 

その男は静かに、ゆっくりと頷くと、出港していった米海軍の艦艇や日本海軍の艦艇を見つめる。

 

「作戦に参加する全将兵には、奮励努力をしてもらわなければな…」

「現在、与野党より在日米軍や在韓米軍の全将兵の撤兵に関して、防衛力低下の懸念が報告されておりますが…」

 

その言葉に総理はやや震えた声色で答えた。

 

「構わない。…そのための海軍だ」

「…」

 

そんな総理大臣の反応を前にその男は内心で呆れていた。

 

「(何の為に首班指名を勝ち取ったのやら…)」

 

目の前の座席に座っている総理大臣は、自身の公約として『戦争の無理のない継続』『志願制継続』を掲げていた。

それ故、終わりの見えない戦争に辟易としていた国民はこの総理を推した。

深海棲艦との戦争が始まり、一度は全土が無政府状態になりかけていたところを立て直した傑物と呼ばれた名政治家の後釜がこれとは…。

 

「それより、財務大臣の方は大丈夫かね?」

「はい、問題ありません。財務省からによりますと、全ての計算を終了し、準備を開始したとの報告です」

「ああ…くれぐれも諸外国には漏れないようにしてくれ」

 

とにかく事なかれ主義であるこの総理大臣は、この長年の戦争による既存の国債発行では到底間に合わなくなって来ている戦費回収の為に、新しい一手を打たなければならない状況に追い込まれていた。

 

「現在発行されている国債の発行額は前回より二〇%減。先の種子島でのロケット打ち上げ成功により、当初の推定より五%の上昇しています」

「ああ…」

 

そこで報告を聞いて苦しい表情で総理大臣はこめかみに手を当てる。

もとより戦前から兵力が不足していると言われてきたこの国は、北陸騒乱をはじめとした初期の深海棲艦との戦闘で多くの自衛隊の装備や人員を喪失し、壊滅した。

 

「なぜ戦時国債が売れないのだ…」

「在日米軍の壊滅。及び米軍の本国への帰還による社会不安。そうした諸々の防衛力の低下が根本にあるとされております」

「…」

 

壊滅した海上自衛隊や海上保安庁は、改めてこの戦争に際して前任の総理大臣の行った新憲法発布と同時に行われた組織改編で全て同じ防衛省の傘下に置かれることなども決定され、これにより海上戦力は全て防衛省に一纏りにされていた。

 

なにせ今戦っている相手は人の話の通じない怪物である。

しかしそのことを肌感覚でわかっている人間は、この東京ではおそらく防衛省の人間だけだろう。その証拠に、未だに国会では無責任に野党議員は『深海棲艦との和平』を訴える議員がいた。

 

「しかし駐留米軍の本国帰還はアメリカ政府からの正式な要請だ…断るわけにもいかないだろう」

「そのために我が国の将兵が命を賭すことになってもですか?」

 

そこで同じ部屋にいた人物の問いかけに言葉が詰まった。

 

「…」

 

その人物からの指摘に総理大臣は沈黙する。

 

「ただでさえ米国はこの時点で深海棲艦に()()()()()のです。それほどの敵を相手にしているということを、総理はわからないはずもないでしょう?」

「…ああ、わかっているとも」

 

総理大臣は深くため息を吐く。

 

「グアムやサイパンが敵の手に落ちたと聞いた時は耳を疑った…『あの米軍がここまでとは…』とな」

 

そこで彼の脳裏に過ったのは、艦橋やマストが半壊して佐世保に逃げ込んできたアメリカ海軍の駆逐艦や潜水艦母艦。なすすべなく太平洋を奪われ、現在は霧に包まれて一切が不明な太平洋。

衛星の偵察も、今次戦争が行われる前の戦争で行われたケスラーシンドロームによって断片的にしか情報収集をすることができなかった。

 

「そうです。第七艦隊が為す術無く逃げた相手。それが『深海棲艦』という存在です」

 

首相官邸で総理大臣に対してそう話すのは、海軍の将校の制服を纏った若き准将の階級章を下げた女。

この戦時下において、開戦初頭で多くの将兵を失ったことでこの国の将官は戦時任官などで平均年齢の下落が著しかった。そんな中で准将という階級を与えられた彼女は、総理大臣に対してやや鋭い口調で話す。

 

「これは人類の存亡をかけた生存戦争なのです。先の欧州の大攻勢を前にしても、多くの将兵、民間人が死亡しました」

「…」

 

そこで彼女は次々と捲し立てていく。

 

「総理。もはや米国はかつての米国ではないのです。ロシアも北朝鮮も中国も、深海棲艦の攻撃によって亡国を迎えた国家も多数あります。それだというのに今更平和主義を唱えようというのですか?」

「…」

「自国の防衛すらままならない。そんな軍隊というのは国民の信用を失いますよ?」

「分かっているとも…しかし、一度掲げた公約を踏み躙るなど…」

 

言い訳のように総理大臣は言うと、話していた彼女も良い加減に呆れてしまう。

 

「(目先の安全よりも一ヶ月後の支持率か…)」

 

こんな戦時下でも政権維持を念頭に考えるかと内心で心底呆れてしまう。

これも海軍の尽力によって、日本海や東シナ海の安全が確保されたことによる数年の平穏の影響なのだろう。

しかし国民は長年の戦争による経済の圧迫や食糧不足を前にその不満の矛先を政府に向けていた。

 

確かに短期政権が何度も続くのは情勢的に宜しくない。しかし今はそれよりも直鉄的に危機が迫っているのだ。その事を政治家は理解していないように見受けられた。

 

「徴兵期間の拡大。並びに徴兵対象者の拡大…いずれもお認めになってくれませんか?」

 

その女性軍人、伊藤まりはまっすぐ総理大臣を見つめた。

彼女からの強い眼差しを前に、総理大臣は一旦の沈黙の後に首を横に振る。

 

「ダメだ。徴兵期間の延長も、徴兵年齢の拡大も認められない。これは政府の決定事項なのだ」

「…」

 

いつもは事なかれ主義で財務大臣や防衛大臣に散々に言われている彼だが、こればかりは固執していた。

 

「…忠告はしておきましたよ」

 

そんな様子の総理大臣を前に伊藤は踵を返して首相官邸を後にした。

 

「…よろしかったのですか?」

「当たり前だ。最近は深海棲艦による被害も少ないのだぞ?敵の主戦力は欧州においていると言う報告書もあるではないか」

 

部屋にいた彼の副官が問いかけると、総理大臣はそのように答えていた。

 

「それに太平洋は今や深海棲艦(海の怪物)が支配する暗礁海域だ。無闇に兵力を落とすわけにもいかないだろう…」

「しかし、そもそもの現場の兵力が低下しているとの報告があります」

「ではなぜ日本海と東シナ海を奪還できたのだ?」

 

そこでは雄弁になって彼は話す。

 

「我々には優秀な海軍と陸軍がある。現に戦争が始まってから一発たりとも東京に爆弾が落ちてきたことがあるか?」

「それは…」

 

そう言われてしまっては、彼としても強く出られなかった。

 

「しばらくは問題ないだろう。私がこの椅子に座っている間はな」

 

彼はそう楽観視した様子で首相官邸で、先ほど直談判に訪れた軍人が出て行った扉を見つめた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

北海道や東北地方から出港した船団は、釧路沖合で集合をして船団を組成して行く。

 

「これより出撃します!」

 

その組成された船団の一隻から大淀の声が無線で聞こえる。

 

「気をつけて」

「はい!」

 

そこでウェルドックで百合が呼びかけて、それに反応してから彼女たちは大海原に出ていく。これから洋上で八時間の交代制で常時警戒を行う。

彼女たちは艦娘だ。当然長い任務中に疲労は溜まるため、船内にはあらかじめ彼女たちを癒す設備が整えられていた。

 

「お、来たぞ」

 

そして出撃をした艦娘を、駆逐艦の甲板から帰還予定の米海兵隊員が見ていた。その傍らにはM2重機関銃が設置され、それらは他の甲板にもハリネズミのように搭載されていた。

グアムや他の海域での戦訓から、これら駆逐艦は深海棲艦の対策としてありったけの機関銃を積載していた。この斉射によって深海棲艦を近付けさせない思惑があった。

 

「あれが艦娘か…」

「生で見るのは初めてだぜ」

 

彼らはそんなことを話しながら出撃していった艦娘を見つめていく。

現在、かつて北方四島といわれた海域を航行しており、住民全員が餓死で全滅した島々を彼らは遠目で観察していた。

 

「気をつけろ。そろそろ時化る海域だ」

「ベーリング海だもんな…」

 

そこで客船に満載に兵員を満載した客船を見る。無論、こちらにも重機関銃が装備されて自衛手段として深海棲艦に対しての攻撃準備が整っていた。

 

『オラオラオラオラオラァァァアア!!』

 

その無線機の先では、先行して進路警発を行っていた天龍達佐伯湾所属の艦隊が大立ち回りを披露していた。

 

「主砲、斉射!撃て!!」

 

扶桑と山城が回送を受けた主砲で一斉に攻撃を行うと、その砲弾が飛翔する中を天龍や天霧達が高速で突っ込んでいく。

 

「よし、見えた!」

「敵視認!」

「うしっ、魚雷発射ぁ!」

 

そこで天龍の指示で一斉に高速機動で突撃を行った艦隊は魚雷を発射すると、それらはすべて洋上を警戒していた深海棲艦の艦隊に命中していく。

 

「一、二、三…」

「魚雷命中を確認!」

「よし!このまま突き進め!!」

 

天龍達は意気揚々と先行して攻撃を行っていく。

 

「艦載機、発艦します!」

 

その後方で信濃がその手に持った大弓で編隊を発艦させていく。

 

「了解。艦載機、順次発艦」

 

その隣で先んじて出撃していた加賀も発艦を行うと、敵護衛機へ攻撃を行う戦闘機の次に艦上爆撃機を発艦させる。

 

「予定された艦載機発艦を確認」

『了解しました。空母部隊は新たな発艦作業の用意をお願いします』

 

そして大淀に指示を受けて二人は頷くと、発艦をした戦闘機部隊の戦闘の報と音を耳にする。

 

「しかし大変ね。佐伯湾の子に苦労をかけてしまって…」

「いえ、たとえ破損しても優秀な技官が母艦にはいますから」

「…」

 

加賀は淡々と信濃に応えると、一瞬意外そうな顔をした後に微笑んだ。

 

「よほど信頼しているのね」

「口は信用できませんが、腕は信用できます」

「ふふっ、なるほど…」

 

そんな彼女の受け答えを見て、信濃はなんとなくその艤装技師の性格を見たような気がした。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

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  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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