北海道より進発した日本海軍の部隊は、その後続に徴用したクレーン付きのコンテナ船がつがる型巡視船の護衛を受けて北上していた。
戦時中の組織再編によって防衛省の管轄下に置かれた海上保安庁。平時は内務省の管轄下であるが、今は戦時下ということで全ての戦力が内務省から持って行かれた。
ーー海主陸空従。
これが今の、この戦争始まって以来のこの国の現状である。全ての余力ある資材は国土防衛の名の下に国に買い上げられていた。
木を切り、畑を耕せと国は訴え、補助金も十分に捻出されたことで、国民は多くが内地に経済的な基盤を移転させる中で木を切り倒して家となる土地を作っていた。国内では食物製造工場が昼夜を問わず食糧生産を行っていた。
「間も無く、択捉島です」
「了解した」
そこで駐留米軍を移送する部隊の第一陣の後を追いかけるように出港したこの艦隊は、ロシアより割譲された千島列島全域に防衛拠点を置くための用意を船舶運送していた。
「沙那に先行して人員が派遣されている。着岸は彼らの指示に従って行え」
「了解しました」
そこで島内最大の市街地があった場所に派遣された日本人。この戦争が生んだ歪みともいうべき状況に長年の領土問題が解結されたかと思うと、何とも両手で喜びにくい心情だった。
「それからイトゥルップ空港には遺体回収のためのロシア機が到着するらしい」
「…了解しました」
すでに居住地の調査が行われていたが、ロシア側の目的が徴兵のための調査であることはわかっていた。
ただ彼らにとって意外だったのが、まだ人は住んでいると言わなかったところだろう。あるいは人が住んでいると虚偽をはっても仕方にない段階まで兵員が減っているという問題もあるが…。
「先についた連中の話だと、島内は餓死者と砲撃の穴で溢れかえっているという話だ」
「…地獄ですね」
「ああ、民間人にはお悔やみ申し上げる」
深海棲艦に対する対抗手段をほぼほぼ持ち合わせていない彼らは、洋上に向けて40mm機関砲を向けていた。
「接岸用〜意!」
「手早く荷物を下ろしていけ!我々は最終的に占守島まで行かねばならんのだからな!」
そこで廃墟とかしているのが見て取れる沙那村に用意された港には、かつて漁船として使われていた小型船舶が多く廃棄されていた。
船体には赤錆が生え、多くの船は港で沈没していた。
「…」
その様子を前に不気味な静寂の中でその船団は接岸を行うと、先に空軍の輸送機で簡易的な港湾管理局が用意されていたこの場所で複数の職員や乗組員が急いで荷下ろしを行なっていた。
「今更こんな場所を貰ったって…何の意味があるのやら」
コンテナを下す様子を見ながら司令官は嘯いて霧のかかるオホーツクの海を見た。
作戦が始まり、おおよそ半日が経過しようとしていた。
「こっち、新しい装備品と交換しちゃって」
「りょうかいしました!」
夜にガンガンに照明を照らしてウェルドックで帰還した艦娘の艤装の修理を行う黒岩たち。まだ小規模の戦闘ばかりであるが、断続的に会敵と交戦をしている影響で予想以上に疲労が溜まっていた。
「かがさんがかえってきました!」
「損害は?」
「ひだりげんにこうくうばくだん。かじにいわかんがあるそうです」
妖精さんたちが群がって報告を次々と上げていくと、聞いていた黒岩は頷いた。
「了解。ウェルドックで緊急修理するって言っておいて」
「りょうかいしました」
そしてテキパキと他の佐伯湾泊地所属の艦隊や、このおおすみ型に配置となった他の泊地や鎮守府所属の艦隊の補給と整備を行なっていた。
「龍田さん、このまま出しますね」
「分かりました」
そこで修復を終えたばかりの艦娘を送り出していくと、無線で連絡を入れる。
「龍田並びに天霧、曙の補給と整備が完了しました」
『了解した。すぐに出してくれ。扶桑から救援要請だ』
「はい」
大忙しで彼女は艦娘の出撃を行わせると、すぐに新しく損傷した秋月の整備を行う。
「どこを怪我したの?」
「右足…擦り傷です」
「見せて」
そこですぐに彼女は秋月の負傷部位の確認を行うと、近くにいた妖精さんに言う。
「バケツ持ってきて」
「わかりました」
「待って、そんなに深い傷じゃあ…」
言おうとした秋月に黒岩は言った。
「駄目。今は一人でも戦力を増やさないといけないの」
「…」
その有無を言わさない彼女の鋭い眼光は、いつもの雰囲気とは大きく違う職人のそれに近しいものを感じた。
何というか、彼女との半年以上の付き合いで分かったのは、彼女は自分の性格が安定していないように見受けられた。
基本的に彼女は、泊地では人見知りで挙動不審な部分もあり、ここに来た当初は…と言うか今もそうだが、基本的に一人でいることを望んでいる。
そんな人見知りや挙動不審などの仕草が見られると思えば、研究所から自分の試作した薬品の強奪を行ったり、加賀達ですら言い返せないほど怖い圧力をかけたりと、芯の強い部分も持ち合わせていた。
『あいつ、実は二重人格者じゃないよな?』
山郷にそう言わせた黒岩の特異的な部分。
寝なくても良いという体。
過去の事件。
少なくともこの黒岩という個人について色々と気になるところではあるが、あいにく彼女のことを調べる術も調べる時間もなかった。
彼女と共にいるのを見かけるのは大波だろう。彼女は提督である山郷ではなく、技術士官である黒岩をよく気に入って慕っている様子だった。
電探愛が爆発している彼女だが、彼女は優れた偽装技師としての腕前を持っている黒岩と何か波長が合うのだろうか、常に起きている時間は一緒にいる印象があった。まあ、おかげで彼女が寝ないという事態をしないように監視をさせることができるようになったわけなのだが…。
「ごめんね…」
「いえ、戦力が多いことに越したことはありません」
秋月は黒岩の事情を理解した上で涼月を見ると、彼女も頷いたのですぐにバケツを使って彼女の疲労と怪我を癒すと、補給と点検を終えた艤装を纏って出撃していった。
「おい、見ろよ」
そこでウェルドックで固定具を操作していた軍人が、次々と出撃していく艦娘を見つめて次に彼女たちを見送った技官を見る。
「すげえ…」
「本当に一人で回してやがるぜ」
艦娘の出入りが激しく、常に膝丈まで水を張っているウェルドックで黒岩は遠慮なく北の海の冷たい海に足を濡らして艦娘の艤装の整備を行なっていた。
「作戦始まってからずっとあの調子だぜ?」
「一度も休憩していないぜ」
「大尉!そろそろ休憩してください!!」
そこで軍人は呼びかけるが、常に喧騒の真っ只中にあるこのウェルドックでその声はかき消されている様子で彼女は帰還した艦娘の艤装の点検を始めていた。
「…ああもう!」
その様子にその軍人は呆れて、少々苛立った様子でハシゴを使ってウェルドックに降りる。
「うおっ!」
そこで両足でウェルドックに立った時、彼はそこでその冷たさと、膝丈まで注水を行い、航行中の船舶である影響などで明日取られやすい環境に驚いた。
「よくこんな状況で平気に歩けるな…」
彼はそんな過酷な状況であるにも関わらず、簡単に歩いて、一部では走っていた彼女に驚く。
このままではうっかり流されるなんてことになりかねないため、彼は壁伝いで黒岩の近くに寄って大声で叫んだ。
「黒岩大尉!」
「っ!?」
そこで大声で呼びかけると、固定された艤装の前で黒岩は肩を揺らして振り返った。
「ど、どうしましたか…?」
彼女はもはや見慣れた挙動不審さを見せながら聞くと、彼はそこでため息混じりに黒岩に言った。
「そろそろ食事です!そろそろ上がってくてください!」
「あっ…私は、大丈夫です…」
「山郷少将からの命令ですので、必ず来てください!」
彼はそう言い、事前に山郷から聞かされていた黒岩の対処方法を実践する。
彼女の研究気質的な部分は山郷も部下としてよく知るところであったため、事前に乗り込んでいた他の乗組員に彼女を動かすなら『命令』しろと言明されていた。
「わ、わかり…ました…」
そこで黒岩も流石に上官からの命令には逆らえないため、彼女はおとなしくウェルドックを上がる。
その上では疲れた様子でぐったりとしている士官が呟いていた。
「すごいな…こんなに冷たくて流されそうになるのに、よく平然と走れる…」
彼はそう言って簡単に上がってきて食堂に向かった黒岩を見つめる。
それいゆのCICでは山郷が最新の状況を確認していた。
「今の戦況は?」
「佐伯湾艦隊、宿毛湾艦隊、双方に問題ありません」
艦隊護衛を担う艦隊は、それでも深海棲艦の支配地域となった北方海域に向けて順調に進撃を続けていた。
「アメリカ軍は現在ダッチハーバーを奪還。フォー・マウンテンズ諸島沖二〇キロ付近を航行中」
「やっとか…」
山郷はそこでアメリカからの進発した船団の情報を聞いて軽く嘆息する。
「思っていたよりも遅れています」
「ああ、アッツ島沖で合流予定なのだが…」
そこでアリューシャン列島のアメリカ海軍の拠点の一つであるアッツ島近海で合流予定であった。
「オホーツク海でもロシア海軍による攻勢活発。オホーツク海での会敵の後、以降の連絡は届いていません」
「すぐにウラジオストクに連絡を入れろ。現状の把握と、オホーツク海の制海権を知らせるように言え」
「了解しました」
山郷に言われ、通信参謀は一瞬緊張気味に背筋を伸ばしてすぐに作業を行なっていく。
現場指揮官としてこのそれいゆ乗り込んだ彼であるが、他の大湊所属の艦隊も指揮下に加えており、他の提督達は山郷の鋭い眼光に緊張が走っていた。
「全艦に通達。攻撃続行。作戦要綱に基づき、全火力を叩き込み、敵支配地域を突破せよ!」
その力強い言葉には自信さえあった。今回の作戦は防衛省より認可された作戦であり、続々と奪還した地域に艦娘が展開して橋頭堡を築き上げていた。
「(これが…佐世保の虎…)」
「(なんて恐ろしさだよ)」
そんな彼にあてられた提督達は、自分たちの艦娘が最前線で戦っている背中で、かつての英雄に尻を蹴り上げられたような気分を味わっていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。