ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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途中で補給地点として認められたロシアの用意した補給地点で船団は燃料の補給を済ませると、次々と進発していく。

 

「出港〜!」

 

号令と共に艦隊は駆逐艦や強襲揚陸艦が囲みながら出港していく。

北方海域の荒れた海を進む艦隊は、洋上で再び艦隊運動を行うために船団の客船の周囲を駆逐艦や強襲揚陸艦が囲んでいく。

 

「頑張れ〜!」

「ぶちかましてこい!」

 

そして洋上に出ると、そこで次々と哨戒や敵陣突撃を敢行する艦娘達を、彼らは熱烈に見送っていく。

星条旗を掲げる彼らは、出撃していく艦娘を前に残留を希望する兵士もいるほどであった。

 

「警戒態勢だ。機関銃、いつでも撃てるようにしておけ」

「薬莢片付けろ。このままじゃあ空薬莢で転けちまう」

 

昨晩の対空射撃によって、彼らが居住していた船室などにはベルトリンクや空薬莢が山のように積み上げられていた。

これらから薬莢は全てひとまとまりにされると、本国に帰還した際を考慮して保管される。

 

「ほれ、新しい弾薬だ」

「無駄撃ちすんじゃねえぞ」

 

そして消費した分の弾薬が新しく補給されていく。重機関銃をハリネズミのように並べたこの船では、たっぷりと中に帰還する兵士の第一便が詰め込まれていた。

 

「そろそろコマンドルスキー諸島か?」

「ああ、ここを越えたらアメリカだ」

 

煙草を吹かしながら陸軍所属の兵士は言うと、隣で弾薬手の兵士が頷く。

アリューシャン列島の中で唯一ロシア領であるコマンドルスキー諸島、そこを構成するベーリング島が見えた。

 

「ふぅ…噂じゃあ、新しい深海棲艦が北極海で暴れてるって噂だが?」

「気を抜くなよ、ここは深海棲艦の支配域なんだからな」

「大丈夫さ、俺ちには女神(艦娘)がいる」

 

彼らはそう言い、一面の曇天が広がるベーリング海を目の当たりにする。

この地では多くの野生動物が生息しており、その時遠くから独特の鳴き声が聞こえた。

 

「この声は?」

「鯨だ…」

 

その声の正体にすぐに勘づいた弾薬手は言うと、初めて聞いた鯨の鳴き声に機関銃手は少し感動を覚えた。

 

「はっ、まさかこんなところで聞くとはな…」

「ザトウクジラがここらへんはいるんじゃなかったか?」

「なるほどね…」

 

そこで昨晩の戦闘を思い返しながら彼らは水面を滑走する艦娘を見る。

 

「はあ、俺の娘と同じくらいの子が化け物相手に命懸けで戦っているとはね…」

「俺たちを守ってくれる女神だ。まあ、その幸運にあやかろうぜ」

 

彼らはそんな会話をしながら白波の立つベーリング海と太平洋の狭間を進んでいた。

 

 

 

 

 

その頃、休憩をしていた山郷は食堂で心底安堵していた。

 

「よかった。ロシアが変な気を起こさなくて安心した」

「はい。事前の予定通りに艦隊に補給を行ってくれました」

 

そのことに同じく休憩に入っていた篠海も頷く。

彼らは、多くの米兵を満載した艦隊を前に淡々と、粛々と壊滅した海軍基地から給油艦を差し向けて補給を行った。常に戦闘をし続けながら北上したこの艦隊は多くの艦娘が負傷し、一部が再出撃不可能な状態まで持って行かれた。

 

「しかし、今のところ大破はあれど撃沈がないのが何より喜ばしい」

「はい。現在の損耗は駆逐艦四、軽巡一。極めて軽微と言えるでしょう」

「ああ、全くもってありがたいことだ」

 

彼は頷きながらそう答えると、次にこうなった訳を口にする。

 

「これも全て、黒岩大尉のおかげとも言えるな…」

「…」

 

そのことに篠海は並行する。否定したいが、理由が見当たらない。

それは事実であり、証拠もある。長門をはじめ複数の艦娘から同様の報告が上がってくるのも、そう遠くはないだろう。

 

「ヤオビクニ…敵方の血を使うなど…明らかに危険だと思われないのですか?」

「たとえ危険であっても、この国を生きながらえさせるには、時にこういった選択も選ばされる」

 

彼は篠海に答える。

 

「特に今の我が国は太平洋側全てが最前線も同義だ。今の国力では、到底深海棲艦の大攻勢があった場合は持ち堪えられん」

 

かつて、深海棲艦の攻撃で多くの国が滅んだ。小国は海から訪れた怪物の前に次々と倒れた。

今でもその国が生損しているのかどうかさえ分からない地域も存在している。

そんな中でほぼ全国が最前線となっている日本という国は、国を守るだけでも若干足りないと言われている今の状況にため息を漏らしていた。

 

「オホーツク海では、ロシア軍は大きな損失を出しながら海域を奪還していっているそうです」

「うむ。それは吉報とも言えるな…」

 

篠海からの話に山郷は頷く。彼がせっついた事で、苫小牧経由で現在の戦況が送られてきたのだ。

 

「まさか世界最大の国土面積が、自らの首を絞めることになるとは思ってもみませんでした…」

「大国も小国も、皆が平等に飲み込まれたと言うわけだ…」

 

あの日、北陸から始まった戦争はあっという間に世界を巻き込んだ戦争になり、今では人類生存を賭けた国家総力戦へと変わりつつある。そのことを各国が意識しているかは定かではない。

山郷は刻一刻と変わりつつある世界情勢を前に、ある一つの情報を話す。

 

「ついさっき入った情報だ。どうやら今の政権は、徴兵枠の拡大をしない方針らしい」

「なんと…」

 

その話に篠海は愕然となるとともに『ああ、やっぱり…』と言う落胆もあった。

 

「徴兵枠の拡大は、今の総理大臣の掲げた公約に違反しますからね」

「ああ、実にくだらんよ。たった数年しか維持できない政権のために、我々に苦労を押し付けてくれるのだからね」

 

そう言い、いささか疲れたような様子を彼は見せた。それは今の政権に対する失笑なのか、怒りなのか、そのことを篠海は理解することはできなかった。

 

「アメリカ軍の方はどうなっていますか?」

「ああ、キスカ島を越えたと一方があった」

「おお、では…」

 

そこで篠海の明るくなった表情に彼は頷く。

 

「ああ、予定では四時間後に先行する釧路泊地所属の艦娘が向こうの先鋒と接触するはずだ」

「いよいよですね…」

 

その時の緊張たるや、彼女の人生の中でも五本指に匹敵する具合だった。山郷はそんな好戦的にも見えた彼女の仕草や表情を見て、改めて帽子を被りなおす。

 

「その分、敵からの攻撃も激しくなってくるぞ」

「望むところです」

 

大いに篠海は頷くと、そこで彼は一本の瓶を取り出す。

 

「どうかな?実は持ち込んでみたんだ」

 

彼はそう言い、今ではすっかりめずらしくなってしまったザ・マッカランの瓶を取り出す。そのウイスキーを前にこ『この人は…』と内心で思いながら断った。

 

「いえ、我々が無事に帰還した暁にいただきます」

「そうか…そうだな、俺もそうするとしよう」

 

その彼女の返答に山郷は頷くとともに、取り出したボトルを片付けて食堂を出る。

 

「これから船団を送り出す。所属する強襲揚陸艦はダッチハーバーを中心にキスカ島、アッツ島、に護衛の駆逐戦隊と合わせて展開する」

「はい。…ですがそれはアメリカ海軍の仕事では?」

「まあな」

 

そこで共にCICに向かう中で二人は今後の作戦の予定を再確認していく。

 

「合流後、アメリカ側かた届けられる船団を受け取りながら本艦は一八〇度回頭し、日本に帰還する」

 

彼は淡々と始まったこの移送作戦を前に篠海はため息を漏らす。

 

「輸送船団は十五回ですか…」

こちら(日本)あちら(米国)が用意した客船じゃあ規模が違いすぎる。これから出迎える船舶はでかいぞ?」

 

彼はそう話しながらCICに入ると、そこで一斉に山郷を前に乗組員達が視線を向けた。

 

「司令官入ります」

 

常駐している兵士がいったことで彼に視線が集まると、彼はすでに船団を迅速にアメリカ側に引き渡すための準備が進められている艦隊陣形を見る。

 

「状況は?」

「はっ。現在、アメリカ艦隊との通信回線が繋がっております」

「そうか…繋ぐことはできるか?」

「少々お待ちを」

 

そこで通信参謀は部下に命じると、無線機を彼に手渡した。

 

「どうぞ」

 

そしてマイクを受け取ると、彼はヘッドホンを被ってから話しかけた。

 

「あー、こちら日本海軍特別移送計画。作戦司令官、山郷勲少将である。アメリカ海軍の出迎えに心より感謝を申し上げたい」

 

彼はそう話しかけると、少し間を持って、そして少し雑音混じりに返答があった。

 

『ーーちら、アメリカ海軍、第三艦隊所属。作戦司令官のウィリアム・タイソン中将である。友軍帰国の手助けをしてくれた日本の協力に感謝する』

 

無線で返答を受けた内容に、聞いていた海軍軍人の表情はあまり優れたものではない。なにせアメリカの強い要求に政府が屈したようにしか見えないのだ。事実、このことは国内でも『弱腰』とメディアで叩かれている始末である。

なぜ他国の軍人のために自分たちが命を張る必要があるのか、自分たちが家族同然と扱う艦娘を危険に晒さなければならないのか。そんな疑問が彼らの中にはあった。

 

「作戦の内容は変わりません。事前の予定通りに船団を米国へ引き渡します」

『了解した。こちらでも船団を受け入れる準備は整っている』

 

相手の司令官は承諾した様子でレーダーにも接近する艦隊の反応を見た。

 

「艦隊を確認」

「数は?」

「IFFとの照合完了。護衛の駆逐艦十八隻と強襲揚陸艦六隻。民間徴用の船舶三十二隻を確認」

「流石だな…」

 

そこで彼はレーダーで探知した艦隊を前に船速を落とすように下命する。ここはすでにアメリカの領海に入っており、日本から派遣され、日本にこのまま帰国することになるのはおおすみ型とそれいゆだけであった。

 

 

 

 

 

その後、接近してくる艦隊を真っ先に客船に乗り込んでいた一人の陸軍兵が指差した。

 

「見えたぞ!」

 

その視線の先には多数の艦艇に守られて航行する大艦隊とでも言うべき異様の艦隊が接近中だった。

 

「国の船だ!」

「帰れる…」

「俺たち帰れるぞ!」

 

見える軍艦色に塗装された客船を前に彼らは肩を抱いて泣きあった。

作戦中であるので目立つ行動をしないように汽笛を鳴らしたりといった行為はないが、それでも祖国に帰れる喜びは何物にも変えられない、筆舌に尽くしがたい喜びとして彼らは反対方向に向かう豪華客船と、護衛していた艦隊。それから本国から派遣された艦娘を見ていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

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  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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