翌朝、山郷は司令官室に置かれた赤いボタンを前に黒岩に教えていた。
「滅多にないかもしれないが。あいつらが怪我をした際は遠慮なくこのボタンを押せ。それで無くとも深海棲艦が現れた時点で押しても構わない」
「これは?」
「呉に繋がる救援要請だ」
そう話すと、そこで黒岩は納得した様子を見せた。
「なるほど!何かあればこれを押せばいいわねですね?」
「俺もなるべく早く帰るが、今日一日は居ない。俺がいない間、ここを頼むぞ」
「は、はいっ!!」
ガッチガチに緊張した様子で彼女はここに初めて来た時のように緊張していた。
「ごめんなさい。私も提督とお供しなくてはならないので……」
「いえいえ、普段からお世話になっている分。私も頑張らないととと思っていましたので……!!」
一瞬噛んで喋ってしまった彼女に山郷達は不安を拭いきれなかった。
東京に呼び出しを受けた山郷は秘書艦の大淀を連れて行く事になっている。本当は大淀を置いて行きたい所ではあるが、生憎と山郷は色々と有名人であり。同時に狙われやすいと言う事で大淀は護衛も兼ねていた。
「あいつらにも同じ物はあるから、無闇矢鱈に押すなよ」
「はいっ!!」
変に声が張って返してしまうと、そこで空からエンジンの音が聞こえ始め。山の向こうから一機のUS-2が現れた。
「うわぁ、水上機ですよ……!」
「ああ、出迎えの便だな」
山郷がそう答えると、一度大きく旋回したUS-2はそのまま泊地に面する形で着水すると、そのまま泊地の桟橋に接岸した。
「お迎えにあがりました。山郷少将閣下」
「うむ、出迎えご苦労」
「はっ!」
そこで出迎えたUS-2に山郷と大淀は乗り込む寸前。彼は泊地に待っている黒岩を見てそしてその側にいる艦娘達を見て、目線で合図を送った。
その意図に気づき、足柄や加賀が頷いて答えると二人は安心した様子でそのまま機内に入って行った。
そしてそのままUS-2は桟橋を離れると、そのまま海の方に移動していき。そのまま加速をつけて短距離で離陸していった。
「……さて、提督がいない間。我々はできることをしますかね」
足柄がそう言うと、横で黒岩は言う。
「あの……今から神社に篭って良いですか?」
「なぜ?」
彼女が聞き返すと、そこで黒岩は顔を少し青くして言う。
「少将が帰ってくるまで深海棲艦が来ないように篭って祈願しようと……」
『『『『『……』』』』』
まさかの理由の神頼みに彼女達はやや冷めた目で見てしまっていた。
「本当に大丈夫だろうか……」
宿毛湾から安全な空域を飛行するUS-2に乗った山郷は機内でそう溢すと横で大淀が答える。
「幸いにも加賀さん達の改修作業はうまく行って性能は上がりましたし、救援を呼ぶ方法も教えたので大丈夫ですよ」
「だと良いんだが……」
不安を拭いきれない様子で山郷は椅子に座る。
戦争が始まり、各基地との連絡機として急激に需要を伸ばしたこの機体は現在では日本各地に存在していた。
何処でも適度な距離さえあれば離着水ができるこの機体は様々は派生系が登場した上で積極的なセールスが行われていた。
飛行する途中、眼下の景色には首都圏に近づくにつれて海辺近くには駐屯地が多く見受けられ、かつての砲台に護衛艦の主砲を搭載した海堡が現れていた。
そして、山郷たちを乗せたUS-2はそのまま東京の羽田空港に降り立つ。
空港にはF-2やF-15などの戦闘機が駐機しており、旅客機の姿はまばらだった。
「俺がガキの頃は考えられなかった光景だな……」
かつて自衛隊が存在していた頃、深海棲艦との戦いが始まる前の時代はシュプレヒコールを叫んで自衛隊を反対する声が上がっていたが、今ではそんな声はすっかり消え去っていた。
深海棲艦と言う道の恐怖に立ち向かうための武力が必要であると、初戦の日本海海戦で思い知ったのだろう。あの戦いで多数の護衛艦は沈み、敦賀市を中心とした北陸地域は軒並み壊滅状態となり、今でもその廃墟を晒していた。あの地域でまともに生きているのは舞鶴とその周辺だけだろう。
今でこそ日本海は奪還され、世界でも珍しい安全が保障された海域ではあるが、当時は地獄のように多数の深海棲艦が夜な夜な陸地に向かって砲撃をしていた。
人々はさらに内地に逃げ込み、浜辺から人は姿を消していた。
そんな中で突如として現れたのが艦娘。今、自分の横にいる少女の姿を模したかつての軍艦の魂を引き継ぐ者達だ。
かかって日本という国を守ろうと奮戦し、沈んで行った彼女らは二二世紀という時代に再び蘇ったのだ。
「それなのに……」
今の国防の要である艦娘、すでに周辺の国々では中央集権体制が崩壊した国家もある中でも国家の規模的に行っても異常とも言われる日本の絶対的な国家体制。ここまで治安が良い理由が艦娘による国土防衛制度の確立だ。
しかし今の政治家は艦娘を完全に信用しているわけではなく、疑心に駆られている。
一度生まれた疑心は揺らぐことなく。その結果、艦娘達を泊地や鎮守府などのごく限られた空間のみに抑え込んでいた。
また国内情勢の不安を悪戯に煽らない為、深海棲艦に関する情報は厳しく統制されていた。
そんな旧時代の奴隷のような扱い方に山郷は不満を覚え、異論を唱えた。だからこそ、自分の所だけは彼女達を人と少しでも同じように扱うために泊地の出入りを条件付きで許可していた。
「今の日本があるのは彼女たちのおかげだと言うのに……」
「提督、どうかされましたか?」
「いや、ただの独り言だ」
大淀の問いかけにそう答えると、二人はUS-2を降りてそのまま空港を歩く。
民間人の数は少なく、軍服を着た人間が山郷を見て敬礼し、ついでに大淀にも階級が下の者は形ばかりの敬礼をしていた。
この国の法律上、艦娘には少佐の階級が与えられ、かなりの人間が敬礼をする立場となる。そして二人はそのまま迎えの車に乗り込むと、二人は東京へと向かっていった。
戦時下という特異的現状の今、首都高も乗用車は走っているもののその多くが物資を積んだトラックか陸軍の装甲車だ。
東京湾には深海棲艦を迎撃するための自動砲台なんかも設置され、日常に戦争が完全に溶け込んでいた。
街行く警察官も背中には旧式の自動小銃を常に装備していた。
「変わったな、この街も……」
思わずそう溢すと、そこで運転手が山郷に言う。
「閣下、ままなく到着します」
「ああ、分かった」
軽く答えると車はゲートを潜り、市ヶ谷に到着する。
ここは、今の日本の防衛の要である防衛省が存在しており。今日も多くの官僚軍人が闊歩していた。
一部は山郷の姿を見て訝しむ目をする者もいた。
「相変わらず苦手な匂いだ、まるでヘドロのような匂いだ…」
「ははは……」
山郷の遠慮のない言い方に大淀は苦笑していると、大勢が行き交う中をある一人の女性が声をかけた。
「山郷提督」
声をかけた大和撫子を体現した様な見た目の女性を見て、大淀は畏まって体が一瞬固まり、山郷は陽気に答えた。
「よう、大和。わざわざ出迎えとは珍しい」
そう言い、山郷達を迎えに来た一人の少女。大和型戦艦一番艦『大和』は二人を丁重に招いていた。彼女はこれから彼らが面会する人物の秘書艦として働いており、日本でも数少ない大和型の艦娘であった。
彼女の姿を見て周囲でコチラを見ていた人間はそっと目をよそに向けていた。
「はい、閣下はこの前南部方面艦隊参謀に就任なされましたのでお部屋が移動したのです」
「ほう、あいつはまた出世か、羨ましい」
「ふふっ、山郷提督も頼めば鎮守府の椅子くらい用意してあげますよ?」
「やめてくれ。俺は田舎の泊地で余生を過ごしたい身だ」
彼はそう答えると、大淀は少し表情を曇らせ。大和も表には出さなかったが、同じ感情を抱いてしまった。
「さて、ご案内いたします。こちらに」
彼女はそう言うと、そのまま二人を案内し始めた。
名は嘗ての防衛省のままだが、中身は大きく変わっていた。現在、陸軍・海軍・空軍の三つに名称を変えた嘗ての自衛隊の創設目的は深海棲艦に奪われた海域の奪還であった。十年前に深海棲艦による戦争が始まって以来、世界は大きく様変わりをした。
かつて世界の警察を自称したアメリカは世界中に派遣した約一六五万の将兵らを現地に残したまま指揮権を所属する国家に委託する旨を発表し、事実上の見殺しを決定せざるを得なかった。そして約六万人いた在日米軍は日本軍傘下に組み込まれる事となり、当時は暴動まで発展する事態になっていた。
しかし、六万人近い将兵にタダ飯を食わせるほど余力も無かった当時の日本は米軍を『外人部隊』として戦力化し、今までの戦いに投入して来ていた。
各海域の奪還後、周辺国に居た仮想敵国は軒並み崩壊しており、北朝鮮に至っては滅んでいるのかすらも不明だった。
「提督、大和です」
防衛相のとある扉の前で大和がノックすると、そのまま部屋の扉を開けた。
「入ります」
そして大和に続いて山郷と大淀が入ると、反対側ではタブレットを持って確認作業をとっている一人の男。山郷と違い、紳士的な様相のその男は山郷を見るとタブレットを置いて山郷に気安く手を上げて話しかけた。
「やあ、山郷。思ったより早かったじゃないか」
「なに、羽田についてから空いていたもんでね。失礼するぞ」
そう言い山郷は部屋のソファに座ると、大和が紅茶を淹れて出した。
「大淀もどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
横で大和は座る事を渋る大淀に重要な話だからと行って半強制的に座らせると、そこで二人の反対側にその男。南部方面艦隊参謀の四宮幸三は座った。
彼と山郷は防衛大学校の同期であり、共に優秀な成績を収めている人物であった。片方は宮家の血筋である事も相まって今の政治体制のこの国では敬われる立場の人間だった。
「今日はわざわざ呼び出してすまない。何せ、直接話さないとまずい問題ゆえにね」
彼はそう言うと大和に軽く目配せをし、彼女は部屋の小型金庫から一本のバイアルを山郷の前においた。
「これは?」
「ここ最近流れ始めている採用されたばかりの新薬だ。名前を『ヤオビクニ』と呼ぶ」
「ふーん、人魚の名を冠する新薬ねえ」
そのバイアルを手に取って山郷は見ていると、四宮はその薬について話し出す。
「元は艦娘専用強化薬として開発をされていた物の副産物だ」
「ほう、そいつはすごい」
彼はそう溢すと、四宮はヤオビクニに付いて詳しい話を山郷達にし始めた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。