ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

72 / 72
Page.72

濛々と黒煙をあげる防御陣地を前に市民や軍人は色めき立って大混乱に陥る。

 

「何が起こっている!」

 

部屋にそう叫んで飛び込んだのは上山だった。防衛省に設置された統合作戦司令部に飛び込み、そこで走り回る職員が報告をあげる。

 

「第二海堡、並びに剣崎、金谷砲台に多数の砲弾が着弾しました」

「敵艦は?」

「現在、三浦半島沖二〇キロの地点で横須賀鎮守府より出撃した艦隊と交戦中です」

 

その距離を聞いて上山は驚愕した。

 

「なぜそこまで接近されたのだ?」

 

その問いかけに一人が答えた。

 

「現在、先の北方海域での作戦により、北海道地方を中心に戦力が偏っていて…」

「なんて事だ…」 

 

上山はそこで顔を顰めて戦況を確認する。

 

「敵第二射命中!」

「敵航空機群接近を確認」

 

レーダーサイトが破壊され、監視の目が弱まったところを敵艦隊による航空攻撃が開始される。

 

「関東全域に警報を発令。現在関東圏に駐在するすべての戦力を動員させます」

「何としても首都に敵を入れるな!」

 

上山は豪語して部下に命じると、次々と東京湾内の泊地から配属されていた艦娘達が出撃を始めて行く。

 

「敵艦隊確認!間も無く第二警戒線突破!」

「各砲台、砲撃を開始しました」

 

そこで最前線の砲台を破壊し、艦隊との砲撃戦を開始した事を伝えると新たに続報が入る。

 

「横浜港より出港した巡視艇、通信途絶」

「早い…!!」

「もう神奈川沖ではないか!!?」

 

最前線を突破され、すでに東京湾奥深くに敵が侵入した事実に彼らは驚愕する。

 

「くそっ、北方海域も連中の戦略だったのか…」

「横須賀の艦隊はどうした!!?」

「現在、後続の艦隊を抑えています」

 

そこで無数の光を伴って砲撃音が市街地の近くで聞こえる異常事態が起こっていた。

 

「突破したのは?」

「一隻のみです」

 

そこでフリップに映される赤いマーキングを前に上山は指示を飛ばす。

 

「木更津泊地に連絡!一隻の深海棲艦が突破した」

「了解しました」

 

彼は東京湾沿岸全域で発せられた避難警報を見る。

 

「避難状況はどうなっている?」

「現在、東京湾沿岸部全域に避難警報を発令。避難誘導は行われています」

 

彼らは東京全域で避難を始めている状況を目の当たりにしていた。

 

 

 

 

 

東京全域で鳴り響いている避難警報。都内では警報が鳴り響いて住民の避難が始まっていた。

 

「何?」

「深海棲艦が突破したらしいわ」

 

月島でもんじゃ焼きを堪能してから、阿賀野の要望に応えて浅草で観光をしていた天龍達は首傾げると、隣で龍田が携帯電話を見てSNSに上がっている黒煙を濛々と立ち上げる砲台の映像を見せた。すると彼女の携帯に着信が入った。

 

「はい提督」

 

そこで龍田は電話に出ると、篠海は言った。

 

『あなた達、今どこにいる?』

「浅草です」

『了解した』

 

彼女は天龍達の居場所を把握すると、すぐに指示をしてくる。

 

『作戦は一度しか言わないからよく聞きなさい』

「はっ」

 

龍田は背筋を無意識に伸ばしてしまうと、篠海は命令を下す。

 

『今から貨物列車を緊急で上野駅に回すことになった。そこから一本で上野駅まで来られるわね?』

「何をするのですか?」

 

彼女は意味深な命令に首を傾げると、彼女はこうなった事情を話す。

 

『防衛省から、突破した深海棲艦の上陸の可能性が示唆された』

「っ!!」

 

その懸念を前に龍田も少し視線が鋭くなる。

 

『それで、今都内でまとまって残っている戦力は私たちだけ。だから大和を旗艦に臨時部隊が組成されることが決まった。すぐにでも移動して』

「分かりました」

 

龍田はそこで電話を繋いだまま他の面々を見る。

 

「みんな、招集命令よ」

「分かりました」

「了解」

 

彼女達は頷くと、龍田は骨伝導イヤホンを付けて銀座線浅草駅の階段を降りていく。

周りでは突然の非難警報や避難命令を前に混乱した様子で地下に逃げ込もうとする人で溢れそうになっていた。

 

「急いで」

「走るか?」

「行けない事はないけど、上野まで行くにしても時間が掛かる。大人しく地下鉄で行きましょう」

 

ほかに艦娘達を連れて彼女達は出発直前の地下鉄に滑り込んで乗り込むと、列車は走り出していく。

 

「これから上野駅の向かうわ。そこまで提督達が列車を回してくれるそうよ」

「上野駅?」

「多分、新幹線ホームだと思う」

 

大波が龍田から伝えられた目的地に首を傾げると、隣で高波が教えた。

 

「提督達が待っているの?」

「ええ、大和を旗艦にした臨時部隊で迎撃をと」

「なるほど…」

「もう突破されてしまったのですか?」

「すり抜けたそうよ。全員繋いで」

 

龍田は狭い車内で言うと、彼女達はそこで全員が与えられた骨伝導イヤホンを装着した。

 

『全員繋いだか?』

 

そこで山郷の声もすると、聞いていた艦娘達は応えていく。そしてここにいる艦娘全員が揃っていることを確認すると、山郷はそこで指示を行う。

 

『今から二時間前、東京湾に深海棲艦が侵入した。すでに敵の砲撃によりいくつかの砲台が撃破され、現在横須賀艦隊が三浦半島沖にて後続の敵機動部隊と交戦中。少しでも遅れれば市街地戦になると予測されている』

「「「「「っ!!」」」」」

 

山郷の冷徹な推測に全員が凍りつく。

 

『これより上野駅でお前達を回収した後に作戦を実施する』

 

彼の端的な命令を前に阿賀野が首を傾げた。

 

「提督、でもどこで私たちを降ろすんですか?」

 

彼女は自分達を水面まで下ろす場所がこの東京にが意外と無いことを指摘すると、その疑問に山郷は不敵に答えた。

 

『まあ任せろ。今黒岩に準備させている』

 

意味深な様子の返答であったが、地下鉄はその間に稲荷町に到着する。

 

「今、稲荷町です」

「うわっ」

「気いつけ。流石に人が多いでな」

 

そこで一気に乗り込んでこようとする乗客に思わず潰されそうになると、大波がそこで高波の手をしっかりと握る。

 

「次で降りるぞ。降り遅れるなよ」

「はい」

 

天龍がそこで押されそうになった駆逐艦達を引っ張ると、彼女達は上野駅に向かった。

 

 

 

 

 

防衛網を突破した深海棲艦の迎撃に木更津泊地から出撃を行った武蔵率いる艦隊は、洋上でその姿を見つけた。

 

「敵視認!」

「遠慮はしない、撃てぇ!」

 

直後、艦隊は東京湾進その巨大な影を前に砲撃を行うと、放たれた無数の砲弾は水柱を上げて次々と着弾していく。その中で武蔵の放った砲弾も着弾して爆炎を上げていく。

 

「命中!命中を確認!」

「艦載機は直ちに攻撃を開始せよ!」

 

その直後、艦隊に護衛で編成されていた瑞鳳が発艦を初めていく。

 

「六五三空。発艦、始めてください♪」

 

そして発艦して行った艦載機を見ると、直後に砲撃音が聞こえた。

 

「敵発砲!」

「回避行動!」

 

武蔵は指示を行うが、その砲弾の笛のような音は聞こえてこない。

 

「っ!!」

 

そして聞こえる着弾音。その光景を前に観測を行っていた照月が思わず息を呑んだ。

 

「ちゃ、着弾!市街地に砲撃」

「何だと!?」

 

武蔵はそこで黒煙の上がる本土を見つめる。目の前の深海棲艦は市街地に向けて最初に砲撃を行ったのだ。

 

「撃て!こちらに注意を引きつけろ!」

「敵発砲!」

 

そこで次の砲撃で艦隊に砲弾が飛翔していく。そして着弾。巨大な水柱が上がる。

 

「…音が重い」

 

その音を聞いて武蔵はすぐに敵の砲撃の質の高さに警戒度をあげる。

 

「警戒!敵は陸上型の可能性あり!」

 

その直後、先ほどとは違って比較的軽い音が響いた。

 

「敵の砲撃確認!」

「あいつは…」

 

そこで武蔵は敵を凝視すると、彼女は今も艦隊の迎撃を受けながら市街地に砲撃を敢行していた。

それだけで相手は凄まじい火力を有した深海棲艦で、いわゆる陸上型の深海棲艦であるとすぐに察していた。

 

「っ!!」

 

その見慣れない姿を前に武蔵は一瞬ヒュウっと息を呑んだ。

 

「何てことだ…」

 

彼女はその姿を前にすぐに叫んだ。

 

「司令部に打電!敵は『北極海の怪物』だ!」

「は、はい!!」

 

その名前を聞き、僚艦は一瞬顔を青くさせながら東京に接近中の敵艦の情報を伝達していた。

 

 

 

 

 

非難警報が都内全域に発令され、住民の避難が始まっている東京。

 

「あと三〇分で上陸します」

「マズい…!!」

「迎撃部隊はどうしているんだ!!?」

 

首相官邸の危機管理センターで真っ直ぐ陸地を目指している深海棲艦に政府役人達は肝を冷やしていた。

 

「羽田空港、横浜港、木更津基地など複数箇所に砲撃を確認」

「やばいぞ、尋常じゃ無いくらい被害が出ている」

 

防衛省からの報告に大臣が冷や汗をかく。

 

「すぐに撃退しろ。軍は何をやっている!?」

「しかし現場は人口密集地です。今は攻撃よりも避難を優先すべきです」

 

大急ぎで官僚や大臣が走り回り、次々と指示を出していく。

 

「総務省、国公省に避難場所の確保を進めてくれ」

 

官邸でこの襲撃に対して早急な対応が求められる中、東京都新宿区 東京都庁第一本庁舎でも緊急で対応を迫られていた。

 

「官邸より当庁に対する、シャドウ・エバキュエーションを考えた避難処置の指示を受理しました!」

 

都庁職員がそこで大声で会議室で叫ぶと、その中で東京都知事が言う。

 

「何故、すぐに避難指示が出せないんだ」

「なにせ想定外の事態で、該当する初動マニュアルが見当たりません」

 

副都知事が都知事に返すと、彼はそこで席に座る。

 

「災害マニュアルは、いつも役に立たないじゃないか。すぐに避難計画を考えろ!」

「しかし、このような事態の防災訓練も行なっておりませんし、すでに都内全域には避難指示命令を発令しています」

「ここは住民の自主避難に任せるしかありません」

 

副都知事達は襲撃を行い、上陸の可能性がほぼ確実とまで言われた現状に表情も強張る。

 

「現場には、交通統制によるコントロールを徹底させます」

 

そこで警視庁の警視総監が言うと、すでに避難地域に指定された場所でアナウンスが流れていた。

 

『この信号は止まっています。直ちに降車して、警察官の指示に従って行動してください』

 

東京の道路の上で多数停車していた自動車から続々と人が降りてきて避難所や近くの住民が消防士や警察官の指示で避難を行っていく。

 

『区内全域に避難指示が発令されました。住民の方は直ちに避難してください』

 

その直後、東京のある団地に砲弾が着弾して爆発した。

 

「きゃああっ!!」

「何だ!?」

 

土煙をあげて一撃で倒壊した団地を前に近くにいた避難民達は悲鳴をあげた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。