ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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東京襲撃の後、多くの後始末で混乱している中、その男は資料を部下に手渡していた。

 

「この路線を代替路線に使うんだな?良かろう。今は北に移した兵力を戻す事を最優先してくれ」

「分かりました」

 

そこで資料を渡して、一人になったところで上山はその後に軽く吐息する。

 

「後始末も苦労しているな…」

 

すると部屋がノックされた。

 

「入れ」

 

そこで部屋に一人の男が入ってきて、上山は眉を上げた。

 

「後場大佐か」

「はい。大将、防衛省の被害報告をまとめて参りました」

「ああ、悪いな」

 

防衛省の一つの組織である防衛装備研究所。そこで艦娘の研究を取り仕切る後場大佐は、先の襲撃の際の着弾によって被害を被った防衛省庁舎D棟の被害状況をまとめて提出していた。

 

「やはり被害は大きいか…」

 

そして建物一棟が半壊した破壊痕を見て、その被害の大きさに眉も鋭くなる。

 

「目黒地区などの被害は皆無と言っていいです。しかし本部に出入りしていた数名が被害に遭いました」

「君は大丈夫かね?」

「はい。諸用で新島試験場にいましたので」

「そうか…」

 

話を聞いて再度被害報告書を見ていくと、そこで後場は少し悲しげに聞いた。

 

「本当に退官なされるのですか?」

「ああ、当然だろう?」

 

彼はそこで報告書を片手に椅子を反転させて外の景色を見る。開けていた窓の外では、黒煙が消えてるが、倒壊した建物やサイレンの音が聞こえる東京の街並みがあった。

 

「東京に深海棲艦の上陸を許した上、都心に百名以上の被害者を出してまんまと逃げられたんだ。当然だろう?」

「しかし最善を尽くされたではありませんか。そのおかげで都心が火の海になることはありませんでした」

 

後場は上山を説得するが、彼は答える。

 

「ああ。だが政府や、彼らを選んだ国民がそれを許さないだろう」

「…」

 

その返答に後場は沈黙してしまう。現在、戦場となった東京を前に多くの報道機関はこの襲撃を守りきれなかった軍部を名指しで批判していた。

世論を前に、政府もこの襲撃の責任を襲撃の最中の彼の政府からの命令を突っぱねたことと合わせて詰ってきていたのだ。

 

「まあ、これも神尾さんからもらった席だ。うまくあの人の後釜にはなれたと思わないか?」

「…次は誰がなるのですか?」

「一応、政府から无名口廉也陸軍大将が候補として選ばれている」

「无名口大将ですか…」

 

その名前を聞いて途端に嫌な顔を見せる後場に、上山は言う。

 

「政府の言うことを聞いてくれる軍人が望ましいと言うことだ。まあ我々陸海空は、戦前は予算不足で大量に死者を出したから向こうも従っていたに過ぎんがね」

 

その言葉に後場は苦笑気味に聞く。

 

「未だに百年以上も前の軍部の暴走を恐れているのですか?」

「それで国が最終的に滅んだんだからな。人類滅亡がかかっている今じゃあ、特にそうさ」

 

上山が後場にそう返すと、報告書を卓上に置く。

 

「まあ仕方あるまい。防衛費を散々吊り上げさせるように言ったのは俺と華森防衛大臣だからな」

 

そう話し、この十年の戦争で公共インフラの圧迫すら強制した国土防衛のための軍事費の大幅増額。その際に政府から恨まれたのは上山であった。

 

「防衛大臣には残ってもらわねばならない。俺のエゴだとは思ってはいるがね」

「そうですか…」

「元々政府は、神尾学校に対してあまりいい印象がないからな」

 

上山はそう言い、後場も自分たちの想い通りに動くことのない警察や軍部を前に眉を顰めている今の政権を思い返す。

 

「まあ、社会保障制度を打ち切ったり、政治家や諸々の経済界の重鎮を多数処断したのが不味かったのでしょうね」

「全て先代の首相の差金だと言うこともそうだろうがね」

 

そこで崩壊寸前にあった中央政府の機能を立て直し、日本を深海棲艦に立ち向かわせる力を持たせることに成功した名政治家と今も名高く評価されている先代の総理大臣を二人は思い浮かべる。

 

「最後、総理大臣は暗殺され、その後に神尾先生も俺にこの席を残して消えた」

「未だに行方は分かっていません」

 

そしてその後に就任した総理大臣は組閣の際に前任の閣僚は防衛大臣と内務大臣以外は全員が変えられていた。しかもその残った大臣も神尾夏目という世界的にも名を刻んだ男の推薦があったからだ。国民的英雄でもあった男の推薦には政府も逆らえることができなかった。

 

「ああ、まあ探す暇もないってのが実情だがな」

 

そこで彼らは開戦初頭の数年で地獄となったあの景色を思い返しながら、戦前並の治安を取り戻した東京を見下ろす。

 

「俺にできるのは、この被害や他の有能な人材を防衛省にとどめておくことだけだ」

 

そう言い、彼はこの襲撃の後始末を続けていく。

 

 

 

その頃、同じ棟で四宮は東京の各所の被害報告書を受け取っていた。

 

「まさかこの時代になって対戦車砲を歩兵が欲しがるとは思っても見ませんでした…」

「対戦車ロケットランチャーなら山ほどあるぞ?米軍が払い下げて行ったものだがな」

「弾頭がなければ意味がないでしょうに…」

 

そこで四宮親子が同じ部屋で話していると、部屋の扉がノックされた。

 

「失礼します」

「おう」

 

そして部屋に大和が入ると、入灌を終えて回復した様子を前に頷く。

 

「修復は終わったようだな」

「はい。明石さんも手伝ってくれました」

 

防衛省に戻った大和は、そこで二人を見る。

 

「被害は大きいようですね」

「ああ。複数の建物の倒壊や火災の消失。線路も新幹線が瓦礫の撤去作業で大忙しだ」

 

戦争が始まって新たに全国の鉄道が国鉄に再統合されたことで、国内では多くの鉄道路線が復活していた。戦時下のガソリンの使用制限も相まって鉄道に移動方法が移動していた。

 

「新しく部隊が創設されるんだな」

「ああ、今回の襲撃で流石に政治家たちも肝を冷やしたらしい。徴兵の日数が増やされることも今度の臨時会で決定される」

 

そこで総理大臣が今まで固執していた徴兵期間と徴兵枠の拡大が他の閣僚たちによって臨時会による議論が行われることが決定した。

 

「公約違反ですね」

「国を守るという大義名分があるさ。特にこんな土壇場では、誰も総理なんてやりたがらないさ」

「皮肉ですね」

「それが真実ってことだよ」

 

残酷なまでの現状を前に、未だに人類はこの戦争の主導権を握れたわけではないというのを思い知らされた気がしていた。

 

「特に問題なのは、今の戦力でも深海棲艦の総攻撃一つで壊滅させられる可能性があるということだ」

「現在、横須賀鎮守府をはじめ多くの鎮守府や戦場で戦力の増強が決まったんですね」

「ああ、政府からの要請でな。警察官も動員した再編成が近々行われるそうだ」

 

四宮はそう言い、ため息混じりに話す。

 

「陸軍でも都内に広範囲に即応できる体制が取られることが決定した。そこに元警察官で編成された新師団もここに配備される」

「質が落ちませんか?」

「元々兵器は米軍の卸売でなんとか数は揃っている。元々旧式小銃を与えていたから、戦闘に支障はないと判断された」

「そうですか…」

 

大和はそこで少し苦笑気味に兵力不足というわ合えない現実に少し肩を落とす。

 

「北方に展開している駐留米軍の移送が始まった矢先にこれとは…」

「敵方に主導権を握られている今、我々は防備に徹する他ないということさ」

 

彼はそう言い、大和と裕翔を見ると、彼はそこで新しい封筒を手渡した。

 

「君達に辞令が下ることとなった」

「「!」」

 

そこで四宮からの言葉に二人は背筋が伸びた。

 

「昨日の襲撃を受け、東京周辺の防衛拠点に対規模な再編成が加えられることとなった」

 

彼はそう言い、二人を交互に見つめると封筒の中身を伝える。

 

「そこで、新たに東京港にも泊地を設置する。お前たちは新たに設置される泊地に赴任を命ずる」

 

その命令に二人は驚愕した様子で彼を見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、東京の八ツ山橋近くに一台の軍用車が到着する。

 

「オーライオーラーイ」

 

そして誘導灯を持って停車させると、そこで16式機動戦闘車改が停車をする。その様子を近くを通りがかった市民は驚くが、その直後に絶妙な安心感を持ってその車両が停車するのを見ていた。

 

ここからほど近い場所の浜松町で高層ビルに砲弾が直撃して破壊された光景を直接見ていた彼らは、自分たちを守ってくれるのだと目の前の装輪戦車を見ていた。

 

 

 

今回の東京襲撃が収束を迎え、陸軍ではこの襲撃を前に新たな防衛策を展開していた。

 

「発見直後、水際での対着防衛作戦では、時間的に即応が困難です」

「上陸地点と進攻方向のケース分けで、1次及び2次展開を考慮した作戦を考えるしかないな」

 

防衛省では、東京湾要塞を突破された今回の事件を踏まえて新たに都内や関東圏に機動可能なように分散して、対深海棲艦用に改造の施された16式機動戦闘車改や10式戦車改を配備させていた。

 

「はい。ケース別に砲兵、戦車大隊及びF-35が連動した運用計画を、速やかに立案させます」

 

そこで陸軍と空軍の双方の将校が一堂に介して集まり、新たな首都防衛策を展開していた。

 

 

 

そのような具合で、新たに編成される師団や徴兵期間や徴兵枠の拡大、首都防衛の再編などが目白押しで行われていた。

 

「にしても、防衛拠点が関東近郊に偏ってますね」

「迎撃作戦は、首都防衛が最優先だ。ま、5階からのお達しらしい」

 

首相官邸では、総理大臣の会見を前に一階で記者たちが話していた。

 

「ここでも、地方は後回しですか」

「東京の人口は一〇〇〇万人強、国内の経済活動の約二〇%が集中しているんだ。国家の維持を考えた戦略的判断だ。仕方ないだろう」

「国を守るって大変ですね」

 

その話を前にどこか他人事のようにその記者は呟いていた。

 

 

 

首相官邸では西洲が少し楽しげな笑みを見せて電話をかけていた。

 

「今度東京港に新しく艦娘の運営拠点が作られるそうだな」

『ああ、新しく防衛計画を練っている中での編成さ』

 

電話の相手である裕翔は、ややため息混じりに新たに創設される東京泊地の提督として諸々の書類にサインを迫られていた。

 

「これからお前も提督か。出世しているんじゃないのか?」

『親父の秘書艦がすぐに出られるように預けてきただけに過ぎんさ。親の七光りとかどうとかで、色々言われている』

 

そこでサインを終え、大和を秘書艦として迎え入れる手続きを完了させていた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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