東京に呼ばれ、そこで四宮から新たに開発された新薬だと言うヤオビクニと言う薬に関して話を聞いていた。
「数年前より装備庁の艦娘専門の研究機関が開発に勤しんでいたそうだ。艦娘に掛かる改装に必要な物資を纏めて行えないかという研究がね」
艦娘の改装には必要な物資を纏めて工廠で妖精さんか専門職の人間に依頼して行う必要がある。しかし改装には大量の物資を使用し、その上工廠での改装には時間が掛かる。かく言う宿毛湾泊地の艦娘だって改装は纏めてではなく順々に交代して改装をしていた。
「そしてこの薬はそれら艦娘の改装に必要な物資、並びに強化用の機材の能力も備えた薬品だ」
「ほぉ、そいつはすごい」
透明なその液体を見て山郷はそう溢すと、そこで四宮はその薬を見ながら深刻な眼差しで山郷に言う。
「ただ問題なのは、
「え?」
「……なんだと?」
大淀や山郷は驚いた表情を浮かべると、そこで四宮は言う。
「その新薬を開発した人物曰く、『ヤオビクニ』はあくまでも試作品の一瞬であり。これを使用する事は危険極まりないと言ったそうだ」
「そんな試作品を正式に?馬鹿げているな」
山郷はそう溢すと、バイアルを四宮に返す。
「でも不思議です。効果はあるから採用されたのですよね?」
大淀がそこで首を傾げると大和が頷いた。
「ええ、確かに効果は抜群。しかし元は開発者から猛反対を受けている試作品にすぎない物でした」
大和がそう言うと、四宮はその開発者の前歴を話し始める。
「開発者は六年生の大学を飛び級で卒業する程の薬学の天才でありながら、艦娘の艤装に関する研究も行なっており。それらを融合した生体化学と呼ぶ新たな分野を得意とする研究者だ。博士号は持っていないにも関わらず、新薬を開発し。天賦の際とも言うべき人材だ」
彼はそう言うと、山郷はいつもの四宮の回りくどい前提話が続くと思って口を挟んだ。
「ふーん、俺に無駄話を聴かせるために呼びつけたわけでもあるまい」
「ははっ、相変わらずだ。……まあ、単刀直入に話すと。研究者が猛反対した理由と我々が使用に警戒する理由は、
このヤオビクニは深海棲艦の血液を使って作られているからだ」
「?!」
「えっ?!」
その事実を聞き、思わず山郷と大淀は驚きを隠せなかった。すると横で大和が軽くため息を吐きながら言う。
「全く愚かな話です。初めは莫大な資金を投与して発見したと大喜びだったそうですが、元は深海棲艦の血清。おまけに開発者の猛反対を口煩く感じ、工学系に就職していたのを理由に研究所から追い出し。そして艤装技師の資格があった為に僻地に飛ばしたのですから」
「……ん?」
そこで大淀はどこか引っ掛かりを覚えた。
「開発者であった
「……なあ、もしかして何だが…」
そこで山郷はやや顔を引き攣らせながら四宮を見ると、彼は山郷達を見て軽く頷きながら言った。
「その『ヤオビクニ』の開発者の名前は黒岩百合という女性だ」
「っ!!」
「……はぁ」
自分たちのよく知る人物の名前に大淀は目を見開いて驚き、山郷はため息が漏れる。
「彼女は装備庁の工学系に就職したのですが、薬学の才能を買われ、次世代装備研究所の艦娘部門にて艦娘強化薬の製造に携わっていました」
「彼女のヤオビクニは到底完成品と呼ぶには相応しくないが、早く艦娘の質を上げたい上層部の思惑で彼女の預かり知らぬ所で独自で動いたらしい」
「何と勝手な……!!」
「今の国の現状と、政治家の思惑からすれば。それくらい当たり前の事なんだろうな。嫌らしいやり方だ……」
大淀が憤慨する横で、山郷は冷静に分析をした上での結論を弾く。そんな彼の意見に四宮も頷く。
「ああ、そしてその計画を主導したのは後場五雄だ」
「チッ、あいつか……」
忌々しげに溢すその名前に反吐が山郷は出かけると、大淀が首を傾げて聞いた。少なくとも、自分が山郷の部下になって初めて聞く名前だったからだ。
「どなたです?」
「俺達の一つ下の士官だ。艦娘を兵器の一つとして考える、俗に言う軍艦派の人間だな」
軍艦派とは艦娘を軍事兵器の一種として考え、彼女らに自由を与えないように考える現在の軍部における主流派だ。戦争初期に比べて今では大分押され気味ではあるが、まだまだ多くの派閥を占めていた。反対には軍人派と呼ばれる、艦娘に自由を与えるべきだと主張する派閥が存在し。人権問題などからも最近では徐々にこちらの派閥も増やし始めていた。
「おまけに彼は軍艦派の中でも特に偏った思想を持っており、艦娘に対する人体実験も厭わない人間ですよ」
「っ!!」
「あいつの中には鬼が宿っている。氷のように冷たい鬼がな」
「人とは正義の名の下であればどんな残虐な行為でも率先して行えてしまう……恐ろしい話です」
大和は目を閉じて改めてその恐ろしさに背筋が凍ると、そこで四宮が言う。
「そこで彼女はヤオビクニの量産が行われようとした事に気づいた時に猛反対した。『深海棲艦の血清を艦娘に打つなんて狂っている』と」
「当たり前です」
艦娘に敵の血である深海棲艦の血を投入するなんて狂っている。誰だってそう考える。しかし……。
「軍艦派の人間は艦娘が死ぬ事は一大事だと考えているが、そのプロセスに至ってはどうなろうと知ったことがない。と言うことです」
「軍艦派の連中は哀れな事に他人や自分自身ですら信用できない人間だ。全てにおいて疑心暗鬼であり、それゆえに虚勢を張っているだけで心も折れやすいがな」
四宮と山郷はそう話すと、大和と大淀はそこでやや苦笑する。
「確かに今まで演習で何度もご自慢の艦隊を倒してきましたが……」
「だからと言ってそれを理由に薬に手を出すのは愚の骨頂だ。麻薬中毒者ほど厄介で面倒な奴はいない」
「現在、軍部内にヤオビクニの精製方法は秘密裏に流しました。これで使わない提督ばかりだといいのですが……」
「軍艦派の奴らにしてみたら関係のない話だがな」
可哀想な話だが、軍艦派の元で働く艦娘に関してはヤオビクニを打たれる運命になるだろう。だからこそ、やるせない気持ちで大淀は拳を強く握ってしまった。
「そこで開発者の黒岩大尉は試作品にすぎなかったヤオビクニの採用と、艦娘を人と思わない研究者達に恐れたのでしょう。開発したすべてのデータを消去した直後に研究所を追い出された」
「そこで、行き場を失った彼女を提督が山郷少将の元に派遣したと言う事です。幸いにも彼女は研究所にいた時に明石の講習を受けて艤装技師の免許を取得していましたからね」
「……」
経緯を聞き、山郷は納得出来てしまった。
珍しい時期での着任、艤装技師と言う鎮守府では引く手数多の役職を持っていながら、敵の多い山郷の元に送られた理由。そして彼女が自分にやや恐れた印象を持ち、艦娘に対しても同様の反応があった事の理由が。
「とんでもない若娘だな」
「彼女を保護すると言う意味合いでも、最も安全な転勤先だと思わないかい?」
「それは……」
大淀はそこで何とも言えない表情を浮かべると、大和が言う。
「そして黒岩大尉は、研究所を去る際にすでに量産直前で置かれていたヤオビクニの原液である濃縮液の薬瓶を持ち出した疑いがあります」
「えっ?!」
「ああ、一本につき一千本のヤオビクニを生成可能な原液の入った薬瓶を数本持ち出したと推測される」
「…マジか……」
そんな心情でよくそんな行動を起こせたと山郷は半分感心してしまった。
「おそらく、せめてもの抵抗と思ったのでしょう。事実、ヤオビクニの生産はそれで遅れているわけですし……」
大和はそう言うと、四宮は表情を暗くして言う。
「しかし、いくらデータが削除されていようとすでにヤオビクニの生産はすでに始まっている」
「現在、提督の伝手を使って世界中にヤオビクニの情報を流していますが。それでも深海棲艦との戦いで戦況が芳しくないこの状況では……」
「そうだな…」
世界的に見れば、深海棲艦との戦いの戦況はあまり芳しくない。
そこに降って湧いたように艦娘を簡単に強化できる物があれば誰もが飛びつく話だ。たとえそれが、深海棲艦という人類の敵から抽出した物であっても……。
「すでに軍艦派の人間には先行して薬品の配備は進んでいるそうです」
「悲しい話だが、現在の防衛省の主派は軍艦派だ。真っ向から反対する我々には冷たい目線が送られるだろうな」
そう言うと、四宮は懐から一通の封筒を山郷に手渡す。
「黒岩大尉への命令書だ。帰ったら直接渡してくれ。君の目の前で開けるようにな」
「何の命令だ?」
「それは彼女から聞くと良い」
四宮はそう答えると、山郷を見る。
「今日、わざわざ呼んだのは黒岩大尉が派遣された理由と。軍部内で起こり始めている問題への注意喚起の為だ」
「ああ、十分伝わった。感謝するよ」
そう答えると、四宮は軽くため息を吐いて山郷に言う。
「君がそのまま佐世保にいてくれたら、こんな呼び出しを視覚ても済むと言うのに……」
「ははっ、俺はあの泊地が気に入っているのさ。移動はする気はないさ」
彼はそう言うと、席を立つ。
「生憎と泊地の防衛を新米に任せているんだ。これ以上、四国沖の状況を不安定にさせる訳には行かないからな」
「ああ、また会おう。山郷」
そう言うと、彼は大淀を連れて部屋を出ていく。
「出口までお見送りいたします」
「ああ、助かる」
そう言うと、大和は山郷達を連れて部屋を後にした。
部屋に残った四宮は時間が夜である事に今更気づき、そこで改めて大きくため息を吐いてしまう。
「もうあれから何年経った。山郷……」
佐世保鎮守府の司令官を辞任する際、彼は所属していた艦娘全員を生贄にして東シナ海を解放に導いた。その時の事をまだ負い目に感じている山郷に四宮は頭を抱えていた。
彼はあの戦いの後から、一度も建造をした事がなく。今の佐伯湾泊地に所属している艦娘は他の鎮守府や泊地などから余剰戦力として……必要ない艦娘として佐伯湾は口に送られた艦娘達だ。そして秘書艦を含めて七名しかいない佐伯湾泊地は常に人手不足に喘いでいた。それなのに彼は建造をしようとしなかった。
理由は、嘗ての部下が現れるのを恐れているのだろう。変わりなく接したくなる感情を抑えきれないと分かっているからこそ、建造をしたくないと思うのだろう。
「はぁ……」
四宮は思わずため息が漏れてしまっていた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
-
ハッピーエンド
-
微ハッピーエンド
-
モヤモヤエンド(?)
-
全部書け。