ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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扶桑と山城の航空戦艦化改装は、黒岩の微調整の期間や訓練期間を含めて一週間ほどかかった。

 

「ありがとうございました」

「ご迷惑をおかけしました」

 

改装と習熟訓練を終えた二人は、そこで黒岩達に感謝をしながら佐伯湾泊地からの出迎えとともに帰還していった。

その後、宿毛湾艦隊に所属している艦娘たちは一旦は平穏なひと時を過ごせていた。

 

「さあ、始めましょう。撃ち方、始め!」

 

洋上で秋月を旗艦に据えて彼女達は哨戒任務を行っていた。彼女の主砲でもある長10cm連装高角砲の対空砲火が空に上がっていく。

上に打ち上げられる砲弾は、近接信管を装備した黒岩謹製の炸裂砲弾である。試作であるため十分な索敵と測距を行う必要があった。

 

「敵速約百節、高度約三千!」

 

そこで主砲を一つ潰し、対空電探やその他索敵装備を盛り盛りにした大改造を施された大波が観測を行い、その観測データを参考に秋月達が射撃を行っていた。

そうした索敵装置の鬼と化した大波と、元々目の良い高波による索敵で、基本的に先制攻撃で失敗したことはなかった。

 

「だんちゃーく、今!」

 

直後、彼女達の撃ち上げた砲弾が空中で炸裂をすると、黒煙と共に改造弾頭は起爆して対空網を濃密にさせる。

 

「起爆確認」

「データ収集、忘れないでくださいね?」

「勿論!」

「大丈夫…かもです!」

 

そこで観測を行っていた大波と高波は涼月に返答を行う。

 

「提督、聞こえていますか?」

『ああ、どうだ。射撃試験の方は?』

「問題ありません。全弾無事に起爆しました」

 

その連絡に秋月は答えると、起爆した砲弾を前に観察を行っていた山郷も頷いた。

 

「よし、帰投しろ。射撃評価のデータを工廠に持っていってくれ」

『了解しました』

 

そこで頷くと、秋月達は泊地に回頭を始める。

 

「やはり、もっと駆逐艦が欲しいところね…」

 

そして五人の駆逐艦を見ながら不知火が呟くと、大波が突っ込んだ。

 

「それよりもまずは戦艦とちゃうんか?」

「「「違いない」」」

 

彼女の意見に多いに頷くと、彼女達は宿毛湾泊地に帰投する。

 

「艦隊が無事帰投しました。皆さん、お疲れです!」

「お帰りなさい」

 

そして秋月は言うと、工廠では黒岩がタブレットを持って出迎えた。

 

「これが射撃結果です。副司令」

「うん、確かに」

 

そこで秋月から対空射撃のデータを受け取ると、彼女は頷いた上でそのデータを参考に新型砲弾の運用試験を行った論文の制作を始めて行く。

 

「また新しく何か作ったってわけね」

 

そこで射撃データを確認して足柄が覗き込むと、黒岩は頷きながらキーボードを叩いていく。

 

「一応、規則で艤装技師は実験も許可されていますから…それで何か実験をした際は必ず報告書をあげないといけなくて」

「へぇ、意外と大変なのね」

 

艤装の修理・点検・改修、弾薬の補給を日々行う中で、彼女は新しい艦娘の装備品開発を()()()行っている。この時点でかなり人外の領域に達しているが、彼女はそこに艦娘強化薬の解毒剤の研究も行っている。

 

「まだマシですよ、ここは妖精さん達が積極的に動いてくれますから」

「逆に東京にいた頃はどうだったのよ…?」

 

既に仕事のキャパオーバーが発生しているようにしか思えないような仕事量に、足柄はやや呆れ気味に話しかける。

 

「まあ、大変でしたね。気がついたら()()()()()()なんてザラでしたし…」

「どんな生活よ…」

 

そこで防衛装備庁に詰めていた頃の悲惨な内容に足柄は苦笑していた。

 

「あそこではよくある話ですよ。艦娘も深海棲艦も、分からないことだらけですから」

「ああ…」

 

鹵獲できた深海棲艦に艦娘で行われている入灌は効果があるのか。

艦娘と深海棲艦の装備品の互換性はあるのか。

深海棲艦はそもそもどのように生まれてきたのか。

生殖能力の有無等々…、基本的に調べることに事欠かない。

 

深海棲艦と艦娘、双方の関係性についても研究の対象であり、その成果として完成したのが『ヤオビクニ』である。

 

「深海棲艦と艦娘の関係性を調べることも立派な研究ですからね」

「ドロップ艦のこと?」

「はい。大波がこの泊地ではドロップ艦ですし、まあ摩耶さんも…」

「私を呼んだか?」

 

すると工廠に入ってきた摩耶が話しかけてくると、黒岩達は顔を上げて入ってきた摩耶を見た。

 

「摩耶さん?」

「よっ、相変わらず忙しそうにしているね。黒岩大尉」

 

黒岩の仕事場でもある工廠に入った摩耶は、そこで次々と任務を終えて上がってくる艦娘達を前に気さくに話してくる。

 

「艤装技師ってのはこんなに忙しいのか?」

「彼女だけよ」

 

そこで昼夜問わずに何かした作業をしているように見受けられる黒岩を前に、相変わらず昼夜逆転どころかそもそも睡眠時間を減らしていると言う狂行を実行中の彼女に相変わらずの無茶を前にため息混じりに言う。

 

「大尉って、本当に人なの?」

「失礼ですね。これでも人ですよ」

 

黒岩は不満げに摩耶に返すと、それでも訝しんだ様子で聞いてくる。

 

「本当か?少なくとも防衛装備庁にいた頃は寝たところを見たことがないって話だが?」

「どこで聞いたんですか?その話」

 

そこで研究所での話を掘り返されて彼女は少しばかり不満げな様子で摩耶を見ると、この反応には少し意外だった様子で摩耶は答えた。

 

「いやあ、ちょっとばかりこれでも大和とかには個人的な伝手があるもんでな。色々と話はできるのよ」

「大和さんですか…」

 

事情を知って、彼女は脳裏に一時的に研究所から引き抜かれた時に、大和改装設計図を最初の艤装技師の仕事として与えられた苦い経験を思い出す。

 

「どうかしたか?」

「いえ…少し四宮提督のことを思い出してしまって…」

「ああ、そう言うことね…」

 

摩耶達は、そこで彼女が微妙な顔をしていた理由を思い出して苦笑もしてしまう。

艤装技師としての最初の仕事に艤装の点検ではなく、改装設計図を書かせるあたりに中々鬼であると思ってしまうと、ふと摩耶は思い出す。

 

「そういえば、裕翔の奴が新しく提督を拝命したんだったな」

「ああ、そう言えばそうね」

 

そこで新しく開設される東京泊地の提督に配属された知り合いの軍人のことを話すと、黒岩は首を傾げていた。

 

「えっと…ゆうとさんとは?」

「あら、副司令忘れたの?」

 

足柄は呆れた様子で、人の顔を覚えられていない黒岩にため息を漏らした。

 

「ほら、私がここにきた直後に来た若い将校」

「…ああ」

 

摩耶に言われて黒岩はようやく人の名前と顔が結びついて、そこで海軍少佐の階級章を下げていた自分と同い年であると言った男を思い出した。

 

「四宮裕翔海軍少佐ですね…」

「そうそう」

「まだ完全に忘れている様子ではなかったわね」

 

足柄は安堵すると、そこで工廠にまた新しく人がやってくる。

 

「黒岩、いるか?」

「山郷少将?」

 

そこで工廠に入ってきた山郷を前に黒岩は顔を上げると、彼の姿を見た三人は首を傾げた。

 

「どうしたか?」

「何が御用?」

 

摩耶と足柄は聞くと、彼はそこで二人を交互に見ながら言った。

 

「ああ、黒岩と二人きりで話がしたい」

「あら珍しい」

「じゃあ行きましょうか」

 

山郷に言われて二人は工廠を後にすると、黒岩も新型砲弾の設計図を妖精さん達に任せた上で工廠の中で山郷と話をする。

 

「早速で悪いが、今後の政府の方針が決定した」

「方針ですか?」

「ああ、今後の深海棲艦との戦争を継続していく上で行われる軍部の戦略会議が行われた」

「っ!」

 

彼からの話を聞き、黒岩はそんな話を自分にするのかと驚いてしまった。

 

「北方海域の奪還を現時点で防衛省はこれを成功と見做し、新たに南方海域、西方海域により注力し、東南アジア・オセアニア地域での海域の安定化を行うことが決定された」

「そうなんですね…」

 

話を聞き、そんな重要な話を聞いて彼女の脳裏には南方への遠征に関する想定を立てていく。

現在我が国の艦娘が活動ている海域は西太平洋に広く点在している。『英雄』神尾夏目元海軍元帥による活躍により、亡国の途にあった東南アジア各国は日本との安全保障条約締結を求めた。そして日本も最初に艦娘を発見し、次々と破竹の勢いで海域を奪還していった海域に泊地を用意していった。

トラック泊地、パラオ泊地、タウイタウイ泊地、ブルネイ泊地などに設置された泊地がその例である。

 

「それから厄介なことに…」

 

山郷はそこで一枚の紙を見せる。それは防衛省に異動となった四宮からのホットラインからの連絡であった。

 

「北京で軍事クーデターが起こった。次々と南部や北部、内陸の地域で火の手が上がった」

「…内戦、と言うことですか?」

「まあ早い話がそうだ」

 

山郷はそこでせっかく民主化によって日本への潜在的脅威がなくなったことに安堵した矢先の出来事にため息を漏らしてしまう。

 

「今、シベリア鉄道を使って世界中に派遣されていた米軍も次々とウラジオストクに向かっている中でのこの戦争だ。まあ、碌でもないことだがね」

「どうして、深海棲艦もいるのに…」

「俺たちが海域の安全を確保したからだろうな」

 

現在、西太平洋において防衛の基本である日本の艦娘と鎮守府制度。たった一人の男が作り上げてしまったこのシステムは、今では世界中が採用する国防の基礎であった。

 

「海が安全になって、彼らにしてみれば安全に国を守れるようになったから、彼らは人類存続の前に燻っていた民族対立が表面化したってことさ」

「…地獄絵図ですね」

「まあ、まともに人が生き残っていなかった朝鮮半島よりはマシさ」

 

そこで山郷は常に彼が常に持ち歩いているスキットルの蓋を取って傾ける。

 

「アフリカ大陸も無政府状態で未開の地に逆戻り。学者の話じゃあ、この世界は二〇年前の経済状況に衰退したとも言われているって話だ」

「十年も戦争を続けていますからね」

 

深海棲艦が出現した数年で世界各国の海軍は軒並み既存兵器の無効化、誘導兵器の事実上の無力化によって壊滅的な被害を受けていた。

現在は余力ある国家は、ドック型強襲揚陸艦建造による艦娘運用を前提とした建造を推し進めていた。

西太平洋に広く拠点を構えることとなった日本は、特に戦車揚陸艦をはじめ、空挺降下装備の開発などを積極的に行っていた。

 

「そこで、だ。黒岩」

「?」

 

工廠で山郷は黒岩にある提案を持ち寄った。

 

「お前、昇進試験を受けろ」

「…はい?」

 

その提案に黒岩は困惑した様子で山郷を見つめて首を傾げた。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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