宿毛湾泊地は、四国の先端部にある豊後水道の出口に近い場所にある。
「今日の見回りは私だけか…」
そこでライトを片手に握って摩耶が泊地の監視を行う。
この泊地は所属している艦娘が少ないので問題とはなりずらいのだが、横須賀鎮守府などの大規模な艦娘運用基地になると、戦艦寮、巡洋艦寮など艦種に分けて寮が与えられるという。
「昔と違うな、流石に」
摩耶はそこで自分が覚えている限りとは大きく変わってしまった現状を前に軽くため意味を吐く。
彼女はそこで自分が知っている、伝説となったある男を思い出す。舞鶴にいた頃から彼のことを知っていたという山郷曰く『彼は筋金入りの偏屈者』だったそうだ。実際そうだったし、話していて面白い人であると思っていた。
「二〇人で守っていた頃とは流石に違うか…」
彼女はそう言い、かつて佐世保鎮守府で東シナ海防衛や、ひっきりなしに発信される救難信号のために永遠と出撃と入灌を繰り返す日々。
忙しく、何度も命の危機があったが、それでも帰ってくるたびに必ず岸壁に立って出迎えてきてくれていたあの男。
「提督は…」
そこで泊地の中の煉瓦積の古めかしい様相の施設を見ると、その中の一部屋の窓が開いているのが見えた。
「やれやれ…」
そして僅かに見えた部屋の明かりを前に摩耶は少し笑いながら寮を見ていく。
「…」
艦娘達が寝泊まりをするこの寮では、山郷の意図で全員に部屋が与えられていた。しかし寝坊防止も含めて部屋に数人で寝ていることが基本だった。
「ZZZ…」
襖を開けると、駆逐艦の部屋では大波と高波、不知火が二段ベッドで別々に寝ていた。
大波は寝相が悪く、そのせいでベッドは下の段で強制的に寝かされ、同時にイビキもするので不知火達は先に熟睡してイビキが耳に入らないようにしていた。
隣の部屋では秋月と涼月が深夜になって寝息を立てて静かに寝ていた。こちらは大波達と違ってイビキもなく、至って平穏な様子であった。
夜中に起きている人間がいないかどうかの見回りであるが、司令部以外で人が動いている様子がそもそもなかった。
「じゃあ、夜更かしを注意しに行きますかね…」
艦娘寮を出て摩耶は施設を歩くと、そこでは夜の見回り担当の妖精さん達が摩耶を見て挨拶をして、彼女もそれに同じく挨拶をして返しながら司令部に入ると、そこで司令官室をノックする。
「摩耶だ。入るぞ」
そう言って部屋に入ると、そこでは部屋の薄暗い明かりをつけたまま書類仕事を片付けていた山郷を見た。
「おう、どうした?」
そこで部屋に入ってきた摩耶を見て彼は顔を上げると、彼女はため息混じりに呆れていた。
「こんな時間まで仕事か?」
「ああ、先の東京襲撃のことでまた新しく国防大綱が決まったからな」
「へぇ〜…見せてくれよ」
彼女はそう言うと、山郷は頷いて印刷された書類を見せる。
「…艦娘は駆逐艦や軽巡洋艦を中心に建造せよ、か」
「戦艦や空母よりも、軽巡洋艦や重巡洋艦、駆逐艦で編成した高速移動可能な部隊での船団護衛。防備徹底を基本とした東南アジア地域安定の注力。まあ、現状ユーロ軍が初夏の大攻勢をから戦力の回復を行ったことでしばらく欧州戦線は問題ないそうだ」
「本当に大丈夫なのか?」
少々戦況を聞いて訝しむ摩耶であったが、山郷はそこで言う。
「ああ、今度欧州派遣部隊に島少将が行くことになった。まあこれでしばらくは問題ないだろう」
「おやおや、神尾学校の先輩じゃないか」
知っている名前を前に摩耶は懐かしむと、彼はそこで言う。
「基本的に今の海軍で神尾学校を出ている人間は、大抵が要職に就いているんだぞ?今更だろう」
「神尾先生は元気にしてんのかねえ?」
「さあな…」
山郷はそこで片付けなければならない資料を握りながら椅子を回して外の景色を見つめる。
「もうあの人が消えて八年になる」
「そんな経つのか?首相暗殺事件から」
「ああ」
その頃、新しく設置された鎮守府制度に則って佐世保で激戦の日々を送っていたが故に知ったのは全て終わった後だったあの事件を思い出していた。
「今も神尾先生の行方は分かっていない」
「まだ探しているのか?」
「一応な、北陸に向かったところで行方が分からなくなっている」
「そうか…」
彼らを教えて、尚且つ自分も艦娘を率いて各戦線で活躍を見せた男。その戦績は、人類を救ったとも今でも言われるほどの偉業であったとされている。
「奥さんとの仲は悪かったもんな」
「そりゃあな。あの性格じゃあ、奥さんも娘さんを連れて逃げてしまうだろうさ」
艦娘には好かれるが、人には好かれない。とまで言われていた男のことを思い出すと、摩耶はそこで言う。
「しかし、何で北陸に?」
「さあな、ただその時の北陸は北陸騒乱でボロボロの時期だ。何かしら目的があったって話だが…」
山郷はその男の足取りを思い出しながら言うと、摩耶は首を傾げた。
「誰かを探しに行ったのか?」
「いや、命の危機だろう。先生は色々とあの時期危なかったからな」
「生きていると思うか?」
「さあな…」
あの時期の不穏な情勢や、深海棲艦の攻撃で徹底的に破壊された北陸地方を前に二人は言う。
「死んでたとしても、墓参りくらいしたいもんだ」
「墓参りか…」
摩耶はそこでふと山郷を見て思った。
「(戦死するんだから私たちも死ぬんだよな…)」
そこで深海棲艦との戦争で次々と戦死していった仲間達のことを思い返しながら山郷に聞いた。
「吹雪はどうしたんだ?」
「ああ…彼女は今も南方海域にいる」
そこで神尾の元秘書艦であった艦娘の所在を聞くと、山郷は答えた。
「南方海域?」
「ああ、ブルネイ泊地に派遣されていると聞いている」
「そうなのか…」
少し意外な場所にいた事実に驚いていると、彼は言う。
「話じゃあ、随分向こうで楽しくやっているようだがな」
「大丈夫なのか?」
「ま、大丈夫だろ。なにせあの元帥閣下を長年支えた歴戦の艦娘だからな」
彼はそう言い、いわゆる初期艦とも呼ばれる最初期の頃に接触をしてきた艦娘であることを思い出すと、彼女はそこで聞いた。
「で、提督。建造はしないのか?」
「必要あるか?」
「数が多いことに越したことはねえだろう」
摩耶は至極真っ当な意見で山郷に返すと、溜まっていた仕事の確認と書類の整理を始める。
「しかしな…」
「ウジウジすんなよ」
そこで摩耶はいい加減呆れて彼に言う。
「どうせ四宮に言って他の鎮守府から艦娘を回してもらおうって考えているんだろう?」
「事実、それで阿賀野と矢矧は来たくれたぞ?」
山郷は長引きそうな書類仕事を片付けてくれる摩耶の隣で、渡された決算にサインをしながら答える。
「どうだかね。少なくとも妖精さん達のフラストレーションは溜まっていると思うぜ?」
「そうか?」
「そうだぞ。表立って言っては無いがな」
摩耶は簡単にこの書類仕事が大の苦手な山郷に言う。
「今も引っ張りだこの艤装技師抱えて、十分な陸上設備を備えている泊地なんて他にあると思うか?」
「いや、だが彼女は…」
「はぁ…」
そんな山郷の反応に摩耶はこの泊地に備蓄された資材の量を見てため息を吐いた。
「見ろ、大淀の管理でこんなに資材が溜まっているぞ?」
「補修用の資材も含まれているんだ。いつ壊れても修理できるようになる」
「どうせ四宮からまた背中を突かれるぞ。こんな国防大綱が出されちゃあ、今後艦娘を回してもらえると思うか?」
「…」
摩耶の的確に穴を塞いでくる口撃に彼も次第に閉口すると、彼女は容赦無く言う。
「提督、あの頃と時代は違うんだ。昔と違って今は十分なバックアップもあるし、増援もすぐに到着する。失う恐怖に怯える必要はないと思うが?」
そう言い、真っ直ぐ摩耶は山郷の目を見ると、彼女の海のような青い目を前に彼は長くため息をついた。
「…はぁ、分かったよ」
山郷のため息に摩耶は頷いてから彼の背中に触れる。
「また昔みたいにみんなでパッと騒いで皆で飲んで食ってしようぜ」
「ああ…そうだな」
彼女の言葉に山郷は、今では遠い過去の話となってしまったかつての景色を思い返しながら書類仕事を片付けていった。
「昔ね…」
山郷はそこで摩耶を見つめると、そこで思った言葉が口から溢れた。
「どうして、お前さんはそうなったんだろうな」
「さあな」
摩耶は軽く肩をすくめて自分に生えている一本の角に触れる。
「副司令の話じゃあ、艦娘の頃の記憶と深海棲艦の頃の記憶が混ざったんじゃないかって話だが?」
「おいおい、そんなオカルティックな話を研究者がするのか?」
「そもそもああ言う研究者からしたら、深海棲艦も艦娘も、どちらも既存の質量保存の法則から外れた存在と考えてるらしいけどな」
摩耶はそう言いながらこの自分の特殊な体を前にため息を吐く。
「ま、気長に待ってみるさ。これでも私はいい研究資料らしいからな」
「無茶だけはさせるなよ」
山郷も摩耶にやや見当違いなことを話したので、彼女は疲労が溜まっている彼を直後に司令部のベッドに叩き込んだ。
その時、夢のようなものを見ているような気がしていた。
いや、おそらくこれは夢のようなものと見ていいだろう。
「?」
視界いっぱいに広がる光景は、見覚えのある宿毛湾泊地の光景。
「(あれ?いつのまにか朝になっとる?)」
妙に視界がぼんやりとしているような気もするその光景に、ぼんやりと彼女はそれが夢を見ているのだと感じる。
「…」
その夢は見慣れた泊地の景色で、大波はその夢で誰かと手を繋いでいる様子だった。
その直後、テレビの電源を落としたように夢が途絶えた。
「…?」
目を覚ますと、そこで隣で不知火が体を揺さぶったのだろう。手を伸ばしていた。
「そろそろ起きてください、大波」
「ん、ちょっと待ってな…」
そこで起こされた大波は垂らしていたヨダレを拭いて体を起こすと、その様子に不知火は首を傾げた。
「何かありました?」
「うーん、なんか夢を見てたんやけどな…忘れてもうたわ」
大波はそう言って笑うと、高波も同じ経験がある様子で大きく頷いていた。
「よくあるかもですね。そう言うのは」
「デジャヴですか?」
「いや、それはデジャ・レヴェのほうやろ」
不知火にそう返すと、彼女たちは体を起こして周りの景色を見る。
「(見覚えがあったんやけどな…)」
大波はその夢を思い出そうとするが、霧がかかったように思い出せなかった。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。