深海棲艦との戦いが続く今の情勢、一部の地域では沿岸部を放置して人類は内陸部に逃げ込んで生き延びている地域もあった。
そんな情勢下、現在の戦闘の主戦力である艦娘に対してそれを支援する装備品の開発も行われていた。前に大和が派遣された際に使用された空挺効果用装備などがその例だ。C-130Hに搭載された『艦娘用特一型空挺降下装備』は艦娘を艤装を装備させたまま空挺降下を行うための装備で、輸送機であれば全般的に使用可能なように設計されている。防衛装備庁が開発し、量産が続けられている装備品である。
艦娘を機動するための装備は開発されており、現在は日本全土を網羅している新幹線網を利用した『艦娘専用貨物新幹線』などがその例だ。
現在、その路線の約九八%が地下化されているリニア新幹線は東京から大阪まで接続して経済活動を影から支援している。
戦時体制確立のため、国土全域にわたって鉄道網の国の一括管理が行われ、鉄道省が復活するきっかけを作っていた。
『こちらスカイホーク』
その日、高松空港にてE-2Dが離陸準備を進めていた。
戦争が始まったことで民間の航空旅客便が空に上がることは危険極まりない行為であることは常識となった。飛行しても、深海棲艦に堕とされる事例が頻発したからだ。だから世界中で旅客便は激減し、多くの航空会社が倒産した。そして余剰となった旅客便の機体は、国の徴用対象となって軍用貨物機や空中給油機などに改修を受けていた。
その中でもこのE-2DやE-767などのレーダーを装備した機体は、富士山頂に取り付けられたOTHレーダーでも探知が困難な地域のシーカバーを行っている。
『管制塔、離陸許可を』
『こちら管制塔、スカイホークの離陸を許可する』
無線のやり取りを終えて、機内で副機長が隣に座る機長に話しかける。
「今回のフライトは競合海域ですか」
「少々危険なフライトだ。観測員」
「はっ!」
そこで機内で座っていたレーダー要員が話しかけられて返事を行う。
「レーダーに目を見張っとけよ。どっちにしろ先に見つけたほうが勝てるんだからな」
「了解です」
副機長は頷くと、元々が旅客便の機長を務めていた男はエンジンスロットルに手を伸ばす。
「よし、スカイホーク。離陸する」
すっかり慣れてしまったこの機体。初めは民間企業のパイロットだったのに、軍用機の操縦なんてできるだろうかと思っていたが、何年も乗り続けていれば慣れてしまうものだった。
深海棲艦を発見した時の対処、艦載機からの避け方、そうしたものは無理やりの軌道をとって逃げるしかない。あとはこの機体の持つターボプロップの馬力と速度。
そうしたものを信用しなければ生き残れない。それは軍人として徴兵された瞬間に学んだことだった。
「気をつけろ、離陸したら護衛はないと思え」
「はい。わかりました」
そこで隣の副機長の席に座るのは、今回からこの戦場に飛び込むこととなるパイロットであった。
「もし攻撃を喰らっても、安心して胴体着陸できるくらいはしてやる」
「笑えない冗談です」
「ふふっ、俺は初めて軍用機に乗った時にそれに遭ったんだよ」
少しばかり新米なパイロットであるからか、向かう先が戦場であるからか、理由は定かではないが若干声が強張っているパイロットにそう話しかけると彼は答えた。
「では機長は戦争初期から?」
「まあ、正確には新憲法発布直後だな。あの時、真っ先にパイロットは根こそぎ徴兵されたからな」
そう答え、機長は今まで経験した事をそう多くは語らなかった。世の中、知らないままの方が良いことはいくらでもあるからだ。
「さあ、もうすぐ競合海域だ。生憎、偵察ドローンはこっちに回ってくるには時間がかかるそうだからな」
「最前線なんだから、もっと優先して配備してほしいところですけどね」
「無い袖触れない。何もかもが足りてない状況であまり文句は言えねえよ」
かつては見慣れた光景。しかし今ではすっかり遠い存在となってしまった碧色の大海原を前に機体を旋回させる。
宿毛湾泊地では、今日も出撃任務が与えられていた。
「行ってきま〜す!」
大きく手を振って阿賀野が言うと、岸壁で山郷も頷きながら手を振って見送る。
「気をつけろよ」
彼はそう話して見送ると、出撃していく艦隊が見えなくなるまで岸壁に立つ。
「相変わらずだな」
「ん?」
そこで摩耶が話しかけてくると彼は振り返った。
「見送り。昔から変わらないねえ」
「ああ、責任者だからな。当然だろう」
山郷のそんな返答に摩耶は笑った。
「はははっ、神尾先生の真似じゃないのか?」
「でも気持ちはわかるもんさ」
「そうなのか?」
「そりゃそうさ」
大いに頷いて山郷は摩耶に言う。
「出撃していくお前たちの指揮を行うのはこの俺だぞ?」
「あー、なるほど」
摩耶は帰ってくる時は必ず岸壁で待っていた目の前の男の性格を振り返った。
「神尾先生ほどじゃないが、提督も大概すかれる体質だな」
「ああ、万人受けするかどうかはまた不明だがな」
山郷はそう言って笑ってから出撃していった阿賀野たちを見送って泊地を歩く。
時折…いや、よく彼は鎮守府を歩き回って妖精さんが清掃をしたりしていて常に清潔感が漂っているこの施設の視察を行っていた。
「しかし最近は冷える」
「もう冬に近い季節だ。そろそろクリスマスじゃ無いのか?」
「その前にハロウィンさ。今頃渋谷じゃあ仮装行列でもしている頃じゃないか?」
「いつの話してるんだよ…」
スダジイやイチョウなどの食べられる木の実を落としていく街路樹の横を抜けながら二人は話す。山郷の冗談混じりの話に摩耶は苦笑していた。
「そんなイベントをやれるような余裕があると思うか?」
「都市部の人間ならあり得るんじゃないか?」
「まさか…この前の東京襲撃でみんな自粛ムードだろう」
摩耶はそんな事を言っていると、施設内の工廠の近くで艤装を纏った大波を見た。
「あら、大波?」
摩耶がそこで話しかけると、彼女は摩耶に気がついて顔を上げた。
「あっ!摩耶と提督!」
いつもの訛った関西弁が漏れながら反応をすると、彼女は艤装を纏ったまま嬉しげに近づいてきた。山郷はそんな彼女を見て首を傾げた。
「おいおい、艤装付けたまま歩いて大丈夫なのか?」
それは彼女が手に握っている長10cm高角砲の事だった。この泊地にいるすべての艦娘は対空砲に同様の装備品を備えており、艤装の整備を円滑たらしめていた。
「もちろんやで!さっき副司令んとこで手伝いをしててん」
「ほお、何してたんだ?」
山郷がそこで首を傾げると、彼女は足元を指差しながら答えた。
「副司令が試作したウチらの陸戦用装備!」
「へえ…?」
どう言う事だと彼は首を傾げると、彼女は更に言う。
「副司令が、ウチらが陸上に上がっても満足に艤装を動かせるようにって、色々と手ェ加えた足やで」
「え、それって陸地に上がっても問題なく艤装を動かせるってことか?」
話を聞いた摩耶が毒親ぷ学した様子で聞くと、大波が答える。
「うーん、最終的にはそうしたいらしいんやけど、今はブーツを履き替えんと無理やし、何より試作やから何分このブーツが持つかもわからん状態やねん」
「ああ、だから色々と剥き出しなわけか」
そこで山郷はいかにも即席感溢れる背負った艤装とブーツを接続しているアームを見る。これで一体どうやって動力を伝達しているのかは不明だが、いずれにせよ彼女はまたすごい技術を発明しようとしていると言うことだけは理解できた。
「また変なの作ってやがるな?あいつ」
「副司令んとこ行ったら色々と知れるで?」
「ああ、後で立ち寄らせてもらうとしよう」
山郷は頷くと、大波はそのまま彼女が棲んでいると言っても過言ではない工廠に向かっていった。
「艤装技師…私の頃はそんな仕事なかったのになあ」
「たった数年でも世間は変わる。これでも数少ない人材なんだぞ?」
「ああ、あの艤装の改造を見てたらわかる」
二人はそこでハムスターのような雰囲気のある女性士官を思い出す。
「言っちゃああれだが、艦娘以外だと唯一の女なんだな」
「阿呆、元々ここには艦娘以外の人材は俺以外いねえよ」
「まあそりゃそうだが…」
ぐうの音も出ない反論をされて摩耶は再び苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、工廠に行こう。また変な事をやって大淀に怒られる前に色々と言っておかなきゃならんかもしれんからな」
「そうだな」
少なくとも大淀は現在、この泊地で建造を行うための資材のやり口を計算し始めている。その間、彼は無言の圧力で執務室を追い出されてしまっていたので、こうして泊地を転々と歩いて視察していたのだ。
「おーい、黒岩」
「はい?何でしょうか」
工廠の扉を開けて呼びかけると、幸いにもすぐに彼女は呼びかけに答えて振り返ってきた。
黒岩はちょうど、大波の艤装の確認のために彼女の裏に回ってふくらはぎや腿のアームの確認と新しいブーツの確認を行なっていた。
「あー、こりゃ失敬。取り込み中だったか?」
「え?あ、大丈夫です。すぐに作業を終わらせますので!」
山郷にそう答える彼女であったが、絶妙にズレているような気がしてならなかった。
しかし彼女はその言葉の通りにアームとブーツの確認を済ませてから駆け寄ってきた。
「どうかされましたか、少将?」
「ああいや、また変なもの作って大淀に怒られなうようにしておけよ、って言いにこようと思っただけなんだ」
「え?ああ、大淀さんであれば大丈夫だと思います」
黒岩はそう言い、その訳を話す。
「事前に大淀さんに伝えて備蓄資源は使用させてもらっていますので」
「おお、そうか。そうなのか」
そこで大淀の怒号が飛ばないことに内心で安堵すると、次に彼は疑問に思った。
「じゃあ知っているのか?」
「はい。この前の東京の事件で陸上で艦娘運用ができればなと思って作ってみてはいるんですけど…」
動機を聞いて山郷は納得ができた。あの時、彼女は間近で深海棲艦を見たのだ。本来、死んでいてもおかしく無いような状況に遭遇しては、彼女がこんな事を考えてもおかしくは無いだろうと思っていた。
「ま、あまり無茶はするんじゃねえぞ」
山郷はそれだけを言い残して工廠を後にした。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
-
ハッピーエンド
-
微ハッピーエンド
-
モヤモヤエンド(?)
-
全部書け。