ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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深海棲艦は全てに対して平等な存在である。

 

人種、民族、文化、宗教。

 

ありとあらゆる問題に対して平等に降り注ぐ厄災であり、その厄災は世界に強制的にメスを入れた。

 

突如として世界中にその戦火をくべた彼女らは、永遠に終わらないとさえ言わせしめた大戦を引き起こしている。

 

世界中で深海棲艦と艦娘による制海権の争奪戦と国土防衛の血で血を洗う戦争が繰り広げられていた。

 

「あっちだ!」

「捕縛しろ」

 

その場所はパリ。

フランスの首都にして、かつては花の都とも言われたその都市では常に重装備に身を包んだ国家憲兵隊の職員がその手に捕縛用のネットランチャーを構えて市街地を走っていた市民に向けて引き金を引いた。

 

「ぎゃっ!」

 

飛び出したネットに絡め取られたその黒人は直後に国家憲兵隊に捕縛されると、そのまま彼らが乗っていたトラックに連れ去られる。

 

「こっちに来い」

「嫌だ!俺は死にたくない…!!」

「徴兵命令に拒否した時点で逮捕される。これは明確な法令違反だ」

 

そう言い、捕縛された彼等はトラックに物のように乗せられるとそのまま市街地を走り去っていく。

そして捕縛された面々に対し、周りにいた市民達は抗議の声を上げる様子もなく、むしろ清々しささえある視線を送り、次々と他にも老若男女問わず警察官や軍人によって捕縛され、トラックに乗せられていく光景を見ていた。

全員、徴兵命令に出頭しなかったことによる罪状で片端から拘束され、そのまま入隊のために駐屯地に送り込まれていた。

 

「やれやれ、今日だけで何人捕らえた?」

「このトラックでざっと十五人と言ったところか?」

 

市街地を離れ、軍の駐屯地に向かうトラックの中で白人のフランス人達が話していた。

 

「最近は増えたな、徴兵命令拒否も」

「仕方ないだろう。この前の大攻勢以来、ずっとそうだ」

 

彼らはトラックのハンドルを握りながら荷台で銃を握った警察官は着の身着のままで連れてこられた移民達を見下ろす。乗せられた側も銃を持った相手に抗うことさえ許されず、その上でこれから先に待っている光景を前に絶望していた。

 

現在、こういったことは深海棲艦の大攻勢によって大きく戦力を減らした欧州全土でよく見られる光景であった。多くの欧州連合に加盟する国家では、不法移民や移民に対して長年の兵役義務を課し、徴兵に応えない場合は厳罰が待っていた。

 

各国政府は、これはあくまでも長年の深海棲艦による攻撃によ戦力の補充を目的とした法改正であると主張。フランスを皮切りに大半の国で同様の内容の法案が採択され、市街地やありとあらゆる場所で拘束された不法移民や徴兵拒否をした面々が次々と軍用トラックに乗せられて軍の駐屯地に向かう光景が見られた。

 

「っ…」

 

荷台に詰め込まれた移民であったその男は冷や汗をかきながら自分たちの運命を神に祈ることしかできていなかった。

深海棲艦との戦争が始まり、死地となった沿岸部の防衛に回されることとなる兵士たちの大半はこうした欧州に長年流れ着いた移民や難民が担うようになっていた。

既に移民大国でもあったフランスでは積極的な徴兵が行われており、その徴兵の中心は移民や難民によって行われていた。

 

「着いたぞ、降りろ」

 

そしてトラックが停車して荷台で逃走防止のための監視役の警察官が言うと、トラックから次々と彼らは降車をすると、視線の先の駐屯地では他にも停車したトラックから大量に人々が吐き出され、フェンスと鉄条網で囲まれた駐屯地に向かって歩き出していた。

 

「…」

 

老いも若きも、男も女も関係なくその場所に人は集められており、ただしその中に白人の姿はなかった。思わずその光景を前に息を呑んでしまいながらも、次が詰まってしまう為に大人しく指示に従って彼らも駐屯地の中で徴兵命令書を片手に自分の名前を書いていった。

 

一部ではこの移民を中心とした徴兵に対して、深海棲艦を利用した集団虐殺だと訴える人々もいたが、自分たちの差し迫った身の危険を前に国民は歓迎こそしなかったが、全員が沈黙を貫き通していた。

 

 

 

ーーそれが今の欧州であり、今の世界であった。

 

 

 

欧州でこのような事態が起こっているのには深海棲艦の大攻勢以外にも理由があった。

 

「…あれか」

 

その兵士は遠くに映った明かりを見て吸っていた煙草を地面に捨てて靴底で消した。

 

十月も半ばに差し掛かり、もうすぐすれば年明けを迎えることとなる世界。その中、欧州では前線ではない場所で大規模な作戦が実行されていた。

場所はモスクワのヤロスフラスキー駅。この時期のロシアの、骨も凍えるほどよく冷えた、この極寒の大地の駅にある長大な貨客混載列車が機関車に牽引されて進入してくる。

強力な電気機関車の重連運転を行なわれているその貨物列車は、この駅からウラジオストクまで向かうシベリア鉄道を走ることとなる。

 

「ここがモスクワか…」

「これからさらに一週間近い旅路だ」

「先にウラジオに到着した奴らが羨ましいぜ」

 

その連結され、ポーランドから遥々ベラルーシを越えてやってきた列車の客車の車内で星条旗のワッペンを付けた兵士たちが窓の外の景色を見つめていた。彼らは欧州に派遣されていたアメリカ欧州軍である。

ドイツのシュトゥットガルトに司令部を構えていた彼らは、深海棲艦との戦争が始まってからは帰国できずに欧州戦線で欧州(ユーロ)軍の隷下に入り戦争を継続していた。

 

永遠に祖国に帰れないとも言われていた彼らであったが、極東地域にて日本やロシアの協力の元、ベーリング海を伝ってアラスカに道が出来たことで彼らは以前より計画されていた撤退計画に基づいて全軍の撤退を行っていた。

 

これにより、今までおんぶに抱っこのような状態であった欧州軍は急速に自軍の戦力回復を余儀なくされた。

そこでまずはそもそもが犯罪者である不法入国者を徹底的に拘束して行った。罰は兵役とし、長年の兵役義務が与えられた外国人部隊を多数組織した。

しかし長年の戦争と、敵方に有利な戦局はあっという間に不法移民を蹴散らしてしまった。

 

次に不法移民という人材が払拭してしまった政府は、既に多くの正規軍が壊滅または全滅してしまったことで次にアフリカなどから流れ着いた難民に対して『兵役満了後の市民権付与』と共に十二年の兵役義務を課した。

 

しかし直後に地中海が深海棲艦によって封鎖されると、そうした難民も中東地域を通って訪れるしかないが、中東地域もまた深海棲艦による攻撃でこうした難民を自国の戦力として取り込んでしまい、また死地に向かわされると分かった難民達がそもそも来なくなってしまったことから供給が追いつかなくなってしまった。

 

だが艦娘がいるとて襲撃によって一定数は消耗してしまう。

そこで戦力回復を謳い、国内法を改定し、国内に住む移民を対象に徴兵を開始した。

 

「ここは静かでいい」

「ああ、化け物どもが襲ってこない日がこうも長く続くとは思わなかった」

 

車内で久しぶりの静寂を前に名誉ある撤収を行なっているアメリカ兵達は、全線にわたって複線化工事を終えたばかりで、複々線化工事にも着手している最中のシベリア鉄道に入る。

日々何処かしらで行われる深海棲艦による襲撃を警戒し、疲労していた彼らは用意された客車で疲労を癒しながら眠りこけていた。

 

ポーランドとベラルーシの国境から列車に乗り込んだ彼らは、欧州から本国まで帰還をする為に兵員や装備品を纏めて撤収させていた。その兵員と装備品を乗せた列車がモスクワに到着をしていた。

 

欧州軍ではこの米軍の撤収に反対する意見もあったが、本国が兵力不足に喘いでいる中でそうした意見はアメリカの一声で封殺され、残留を希望する兵士以外は全て撤収が行われた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

順調に進んでいる米軍の撤収作戦。主導した日本では順調に船に乗り込んで撤収していく船団を一人の男が見つめていた。

 

「提督」

「おう」

 

燦々と照らされた港湾から乗船していく米軍兵士。彼らは日本本土から撤収する在日・在韓米軍最後の部隊であった。

艦娘達によって海道を整備し、この数ヶ月で出せる船舶全てを用いて速やかな撤退を行い、貨物船や揚陸艦などに持っていける物資を大量に載せ、兵員も無事に米国に送り届けていた。

そして撤収する最後の部隊ということで、その見送りのために大湊警備府から海原は出てきていた。彼は秘書艦である信濃に呼びかけられて振り返る。

 

「仕事か?」

「はい。提督は総理大臣の名代として、米軍指揮官とご挨拶と会見をしなければなりませんから」

「はあ…あまり俺の柄じゃないんだがな…」

 

軽くため息を交えながら彼は撤退中の米軍部隊の指揮官と挨拶を行うために移動する。

 

「上山さんはこれを終えたら退官されるそうだな」

「はい。東京での襲撃の責任を負われるそうです」

 

この北の大地でも作戦完遂直後に起こった東京への深海棲艦の襲撃の事件は聞いていた。おかげで北海道に集中していた兵力を大急ぎで展開させる必要があり、一部は海路を通って帰らせたほどであった。

 

「はあ…やりづらくなるな」

 

海原は後任の辞令も聞いており、その人事を聞いて頭を痛めていた。

 

「上山さんの後任は陸軍畑の人間か…」

「優秀な軍人のお聞きしておりますが?」

「どうだかな。防大出身だが、奴は風見鶏だ」

 

帽子を取り、軽く頭をかきながら彼は呟くと、彼はアメリカ側の指揮官と挨拶を行う。

 

「…?」

 

しかし挨拶を行った彼であったが、写真を撮られる人の人数が思っていた以上に少ないことに違和感を覚えた。

 

「(記者がいねえな)」

 

自分が想像している以上に事前にいたはずの記者がいなくなっていることに驚きながら、それでも淡々と言われた通りに彼は演説を終える。

とっとと帰りたいアメリカ側の意向によって短く会見を終わらせ、最後の撤退するアメリカ船籍の船舶が離岸を始める。

 

「さよーならー!」

 

横断幕を持って集められた地元住民が手を振って駐留軍を見送る中、海原は背後から信濃に話しかけられた。

 

「提督、これを」

「?」

 

信濃は渡されたスマートフォンの画面を見せると、直後にそのテロップを読んで彼は顔を顰めてしまった。

 

「(ああ、通りで記者がいなくなるわけだ)」

 

その速報を読んで彼は納得した。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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