ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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深海棲艦との戦争が始まり、多くの海運産業は壊滅的打撃を受けた。

そしてあっという間に世界中に広がった戦火は、世界中の沿岸部を焼け野原にした。

 

その最初の被害に遭った日本は、一時は全土に亘って攻撃がなされ、甚大な被害の復旧が早急に行われる必要があった。

戦争が始まり、国防の名の下に行われた軍事費拡大は、社会保障費すら圧迫せざるを得ないほどであった。

 

ベッドの上で何本ものチューブに繋がれた老人を国は見捨てる方針をとったのだ。

目下、市街地で老若男女問わずに甚大な死傷者が出ている中でベッドで寝たきりの病人を救える余裕などこの国にはなかった。

 

そして崩壊した秩序を取り戻すために断行された一斉検挙により、多くの犯罪者は刑務作業という名の国家の無償奉仕を余儀なくされた。

 

崩壊した国内の復興、国土防衛のための軍事増強。

国民の財産を守るために投じられる多額の税金は瞬く間に水に溶かした綿飴のように一瞬で消えていく。

 

戦争はとにかく金がかかるものだと言うのは、この近代史以降の戦争がわかりやすい教科書として教えてくれるだろう。

 

現在、人類は深海棲艦という細菌やウイルスとも違う、人類を直接滅亡させかねない脅威に晒されていた。

人を強制的に殺傷する目に見えてわかる脅威は世界に破壊をもたらしていた。

そしてその破壊から立ち直るために無限に近い資金が投入されていた。

 

しかし無い袖振れないという諺がある通り、無から有を生み出すことはできない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、首相官邸のオフィスで総理大臣は複数の軍人や専門家のレクチャーを受けていた。

 

「現状ですと、今後十年で戦争が終結する可能性は三%という試算です」

 

軍服を纏った士官が冷徹な声色で告げる。

首相官邸の一室で語られたその内容は、聞いていた面々の顔色を十分に悪くさせていた。

 

「戦争終結の兆しは見えない…ということか」

 

渋い表情をして答えるのは総理大臣だ。

 

「ここ十年で取り返せたのは東シナ海や南シナ海、それに日本近海だ」

「まだ太平洋に本格的に進出していないんだ、当然だろう」

 

このレクチャーに参加していた内務大臣と防衛大臣がそれぞれ口にすると、聞いていた財務大臣が言う。

深海棲艦との戦争が始まって以降、彼らは愛国の元、国を作り変えた面々が集っていた。

すでにいくつかの太平洋の小国が滅ぼされて以降、国家存亡の危機を感じた国民は自己防衛を訴えて止まない。

 

「現状、我が国の財源は赤字寸前の状態です。おまけに、国債市場の値下がりは続いたままです」

「なぜ国債の値段が下がっているんだ?」

「長年の戦争による疲弊。ならびに先の欧州での大攻勢による損失が主な原因として見られております」

 

そこで資料を眺めていって官僚が伝えた。

現在、欧州で起こった深海棲艦による大攻勢による損耗を移民や難民で補っていることは日本も知っていた。

この事態に対し、一部で謳われている民族浄化に関する懸念も無論知っていたが、少し前まで在日米軍を外国人部隊として運用していた経験のあったこの国では大きな渦となることはなかった。むしろ欧州でのこの動きに対し、我が国でも導入するべきではないかといった意見も出るほどであった。

 

「世界的に見ましても、長年の戦争による疲弊の兆候が見られています。また戦時国債の売却状況も目減りする状況が続いております」

「ふむ…この状況を打開する方法を聞きたい。財務官」

 

そこで総理大臣は質問をすると、財務省の役人が出てくる。

 

「はっ、現状ですと戦時国債は大きな戦果…とりわけ、此度の駐留米軍帰還作戦が成功した場合、価格は上昇すると予想されております」

 

そう答え、戦時国債の販売状況に予測を立てた。

 

「では戦時国債の問題は軍部に任せよう。作戦を成功させたのち、完遂させたまえ」

 

総理はそう告げ、防衛大臣を見ると、視線を受けた側は沈黙をする。

 

「次に北陸地方の復興についてです」

「財源に問題はないと聞いているが?」

「はい…復興財源についての目処はつきました」

 

そこで資料を確認しながら一人の官僚が言う。

 

「しかし国防費が社会保障費を圧迫し、これ以降戦争を続けるとなりますと…」

「…円の増刷は?」

「これ以上の増刷は悪性のインフレを招く可能性があります」

 

経済学者からも勧告を受け、総理大臣は顔を顰めて考える。

 

「しかしこれは最終手段にも等しいぞ」

「現在、我が国は奪還した海域に残存する東南アジア諸国と安全保障条約を締結しております。締結国に対し戦費の全額負担をさせているとはいえ、これ以上の戦争継続となりますと…」

「また深海棲艦との終戦に向けた交渉は絶望的と言わざるを得ないでしょう」

 

そもそもがまともな外交ルートも何も持っていない全く持って未知の存在である深海棲艦である。もはや動く災害のような存在として想定されている彼女らに対し、外務省もお手上げ状態であった。

この攻撃により海上輸送に関しては必ず艦娘による護衛は必要となり、物流網は戦前と比べ大幅に減じたことですでに数十年分の経済的後退がされているという試算すらあった。

 

「深海棲艦に対する研究はどうなっている?」

「はっ、そもそもが意思疎通が難しいと言わざるを得ないでしょう」

「理研でも同様に会話を試みてはおりますが、彼女らには明確な指揮系統があるのかも曖昧といわざると得ません」

 

深海棲艦との戦争が始まり、人類の生存闘争ともなりつつある現状。日本という国家が全力をあげてこの戦争に対処をしていたが、十年という長い期間の戦争は近代史において稀有な例でもあり、ましてやこのような世界大戦級の戦争ともなれば人類はいまだに経験したことのない規模の戦争であった。

 

「深海棲艦は組織というよりも、動物の群れのような存在であり、全てを統括する組織がまず分かりません」

「戦争の落とし所も見つからないか…」

 

総理大臣は絶望的なまでの現状を前に顔に手を当てて嘆きたくなった。

 

「前にすすんでも後ろにすすんでも地獄が待っているな…全く」

「総理、ここは腹を括らねばならない事態かと」

「…しかし」

 

財務大臣に詰め寄られ、総理大臣は大きくため息を吐く。

 

「総理…ここは苦しい状況かと思われますが、国民の生活がかかっております」

「…分かった」

 

そして自分の行う今後数十年に亘る影響と数年後までの国の存亡を天秤にかけた末に決断をした。

 

「ただし、駐留米軍が帰還する際まで公表は控えるように」

 

せめてもの抵抗と言わんばかりに彼はそれだけを告げると、他の閣僚たちは総理大臣の決断に納得し、自分たちのなす仕事を行うために関係省庁を走り回る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして最後の駐留米軍が帰還することとなったこの日、財務大臣による記者会見が唐突にセッティングされた。

 

「今日の二〇時に記者会見?」

「おいおい、今何時だと思ってやがる?」

 

そこで時計を見て驚愕する記者。十八時に発表されたために彼らは驚愕した様子で用意された記者会見のために移動する。

 

「おい、北の駐留米軍部隊はどうするんだ?」

「別の奴に行かせておけ。それよりも財務省の方だ」

 

今日は日本や韓国に駐留していたすべての駐留米軍が撤退するため、その記事を書こうと報道機関は考えていたが、財務省が緊急でセッティングした会見にすっかり記者は意識が向いていた。そして東京の霞ヶ関で彼らは財務省に少しあわてて移動を行う。

 

「緊急の記者会見なんて珍しい」

「しかも二時間前だぞ?普通あり得ねえだろう」

 

急いで記者たちは駆けつけたことにより、いつもよりも少し少ない人数しか時間までに集まれなかった。

十分な報道機関が集まれているとはいえなかったが、それでも主要な報道機関はテレビカメラも持ち込めていた。

 

「これより樋口財務大臣による記者会見を始めます」

 

そこで財務官が告げると、部屋に入ってきた財務大臣を見て座った記者の背筋が伸びる。

そして財務大臣は席に座ると、手元に持ち込んだ原稿を眼鏡をかけて見つめる。

 

「えー、これより記者会見を始めさせていただきます」

 

原稿を片手に財務大臣は淡々と語っていく。

 

「現在、我が国における戦争は日々拡大の一途を辿っております」

 

そう言い、ここ十年で激変した世界情勢を話す。

 

「これ以上の国民の皆様への負担は国内経済への非活性化に繋がり、今後も戦争の長期継続の可能性も示唆されている情勢であります」

 

そこで一拍置いてから少しばかり声が強張って告げる。

 

「今後も国民の財産を守るための戦争を行うために、日本国民の経済活動を維持する上で、日本政府は只今より、現在保有している海外資産の償却を行うことを閣議決定いたしました」

 

その瞬間、聞いていた記者たちは驚愕した様子で思わず顔を上げてしまった。

 

「では、これより償却作業のため、これにて記者会見を終了させていただきます」

 

財務大臣はそう締め括って会見を後にしようとした。

 

「大臣!?」

「大臣!質問を一つさせてください!」

「大臣!!」

 

しかしこぞって集っていた記者は挙手をして質問を行おうとしたが、財務大臣は何も答えることなく部屋を後にしてしまった。

彼らは今から財務省、いや政府がとんでもないことをしでかそうとしているのだと瞬時に理解した。

 

開戦から十年が経過し、世界中で長年の戦争に耐えかねて崩壊することさえある今の世界において、経済というものは目に見えない時限爆弾とも化していた。今後も戦争を行う上で、すでに多くの海外資本を保有する企業は資産の引き上げを行なっていた。

そして海によって隔たれたアメリカに関しては、戦時下となった際に日系企業の工場が接収され、アメリカ企業のものとなったことからも心象は極めて悪いものとなっていた。

 

「海外資産の償却だと!?」

「嘘だろ…」

「海外資産の償却?」

「おい!明日の一面変えるぞ!」

「くそっ、こんな情報どうやって隠しやがったんだよ…!!」

 

すぐに記者たちは阿鼻叫喚しながら明日の一面の書き換えを行なっていく。

この日本政府による外貨償却の情報は瞬く間に世界を駆け巡っていった。

 

それは駐留米軍最後の部隊が撤退を行うといった情報などがまるまる吹き飛ぶほどの勢いであった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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