ゆりの手帳   作:Aa_おにぎり

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その日、世界は三度目の『10月の悪夢』を見た。

 

始まりは長年の深海棲艦との戦争に戦費が圧迫された日本政府が行った海外資産の償却。

これにより世界中の国々は『あれほど艦娘を運用せしめた海洋大国がギリギリなのか?』と推察をしたことにより、多くの国で国債などの債権の投げ売りが行われた。

急速な円高や抗えない時差という問題を前にニューヨーク証券取引所は開場せざるを得ず、その日に国債・通貨の信用低下による暴落が起こった。

 

戦争による世界貿易の急ブレーキ、そこに金融危機がトドメとして刺されたことにより、金融市場の不安定化が重なったことで瞬く間に不況が世界中に押し寄せた。

 

「米国債、並びに欧州各国の国債価格は暴落を続けている模様」

「株価下落にようやく収まりが見えてきました」

 

安堵した様子で財務官僚が口にするのは、東京証券取引所の価格チャートだ。

混乱した国債市場は銀行や投資ファンドにまで影響を及ぼした。しかし多くの国々が混乱する中で日本の国債価格は安定を見せていた。

 

「我々に協力してくれる同盟国のおかげだ」

「ああ、彼らには感謝しかない」

 

混乱した国債市場において、日本の戦時国債を購入したのは東南アジアやオセアニアなどの国々であった。

安全保障条約や防衛協定を結んだそれらの国々は、日本の保有する艦娘や鎮守府制度を頼らなければ忽ち自分たちの確保した海上輸送網が深海棲艦の攻撃で干上がってしまう。

 

故に日本が財政難で艦娘が派遣できなくなることは国家の緩やかな死を意味していた。

東南アジアやオセアニアの国々から石油やゴムなどの天然資源を輸入し、日本は代わりに安全を売っている。それが今の西太平洋であった。

 

今は護衛船団をいくつも編成して太平洋やシナ海を航行しており、この世界的な混乱の中でも日本は異例なほど安定した経済状況を作り出せていた。

 

「我々が始めたというのに、最も被害が小さいとは…」

「周辺の国々…ひいては神尾元帥に感謝するしかないな」

 

彼らはそう言いながら今回の諸外国が国債購入を行ってくれた源のシステムを作り上げた一人の男を内心で崇めていた。

 

「しかしどうする、これでは報復関税を受ける可能性があるぞ」

「構わんさ、どうせ太平洋は深海棲艦によって塞がれて久しい。そもそも米国との貿易は閉ざされて久しいんだ。意味がない」

「ああ、それに米本土にあった我々の投資も全て接収の上に米国企業に持っていかれたんだ。これくらい我慢してもらおう」

 

官僚である彼らは他の場所で話し合う政治家と同様『実に良い気分』であることを認識しながら、一夜にして地獄を見た米国市場に高みの見物をして見下ろしていた。

 

「それより、経産省と外務省が持ち出してきた話題についてどうする」

「ああ、樺太と台湾の話だな?」

 

そこで彼らは内閣府に集い、これから行われる国会答弁で政治家が使う資料作りを行っていた。

 

「樺太はエネルギーパイプの建設、台湾は日本との併合を求める声ときた」

「やれやれ、このまま進んだら百年前の第二次世界大戦以前に逆戻りだ」

 

呆れたように資料を持って首相官邸を走る内閣府の官僚はぼやいた。

 

「あと韓国もな、彼らは多額の融資を求めている」

「いや融資じゃないって話だ」

「は?それどこから聞いた」

 

内閣府に集った各省庁の官僚達は話し合う。

 

「韓国大使が外務大臣に求めたそうだ。『我々に無利子で金を寄越せ』とな」

「嘘だろう?」

 

話を聞いて愕然とした様子で内務省から派遣された官僚。

 

「しかも慰安婦やらそういう問題を引き合いに出そうとしたとかという話だ」

「いまさら百年近く前の問題を掘り起こすのかよ…」

「竹島も早々に全滅したというのにか?」

 

そう言い、彼らは開戦初頭に島に補給が届かずに兵士が全滅したとある部隊のことを思い出していた。

その後も何度か韓国は竹島に関する主張を行ったが、日本海が奪還される前の話であったのでどうしようもできなかった。

そして話を聞いた財務省の官僚が真っ先に反応した。

 

「ダメだダメだ、投資以外は無理だ。我々も自転車操業に近いんだぞ」

「おそらく売った海外資産を狙ったのだろう」

「お気楽なことだ…」

 

話を聞いた官僚達はそんな愚痴をこぼしていた。

 

「おまけに旧北朝鮮領を接収したから、今じゃあ韓国も核保有国の一員だ」

「アメリカとロシアが共同で核兵器の廃棄の指示を出すほどだ、相当焦っているぞ」

 

その出来事を前に農水省の官僚が頷く。

 

「当然だ、その核兵器を使って日本を脅されては敵わんぞ」

「いや、奴らならやりかねないぞ」

「正気か?韓国人とてそこまで阿呆でもないだろう」

 

開戦後、一切が音信不通となった北朝鮮に対し、韓国は日本海と黄海が日本の艦娘による奪還作戦による海域の安全を確保した後に軍事境界線を超えた。そしてその先ですでに国家として崩壊した地獄絵図を見た。

 

「軍閥の討伐を終えたのがついこの前だ」

「早いな、まだ韓国に編入されたばかりだろう?」

「ああ、だからこそ併合した旧北朝鮮領や、自国の深海棲艦によって破壊された都市の復興のための財源を確保するためにこっちに来たんだ」

「深海棲艦は日本の産んだ生物兵器であると言って規定もいるらしい」

「何を馬鹿な…」

 

無茶苦茶も良い具合な様子で難癖をつけて金を強請る韓国に対し、官僚達は冷ややかな視線を送っていた。

 

「外務省は?」

「当然叩き返したさ、全ての問題は事実無根で、すでに問題は解決したからな」

 

そこで毅然とした対応をとったことに下手な情を動かされていなかったことに安堵しながら官僚達は国会答弁の資料作成を行う。

 

「すでに中国本土は内戦状態だ」

「せっかく共産党が倒れたのにこれかよ…」

 

彼らは呆れた様子でため息をこぼし、つい数ヶ月前に発生した中国内戦を振り返る。

深海棲艦との戦争によって沿岸部の悉くが破壊された中国では、長年の圧政や回復しない経済状況を前に革命が勃発し、その暁に誕生した新政府に台湾は当初参列していた。

 

「だから台湾は我々に庇護を求めてきたんだろう?」

 

そして多くのかつての中華民国を形作った首脳部がいなくなった台湾は、この勃発した内戦を前に日本に対して庇護という名の併合を求める声が上がった。

 

「安全保障ではなく併合か…」

「いささか飛躍していないか?」

 

そこで台湾の併合を求める声に対して一部の官僚が懸念を抱いていた。

 

「向こうの政府が日本政府に打診した事案です。今回の国会答弁で議論されますよ」

「はぁ、これじゃあ中国が怒るだろうな…」

「アメリカが後ろ建てになるでしょう」

「それはどうだ?さっきの国債暴落で我々は恨みを買ったぞ?」

 

官僚達はそんな答弁をしながら資料作成を行なっていく。その間も防衛省から派遣された士官に対しても質疑応答が行われる。

 

「今回の船団はどうなっている?」

「いつも通りだ。各物資輸送船は予定通りにマニラ含め各港から出港予定だ」

「船団の護衛は?」

「途中までフィリピン海軍がついて、台湾沖で我々と交代する」

 

派遣された海軍士官は官僚達に答え、新たに編成される船団護衛の予定表を国交省や経産省の官僚と詰めていた。

 

「現在、国交省に頼み込んで空のコンテナをかき集めている」

「物資は?」

「現地政府が用意してくれているが、いささか物資が不足気味と前線から連絡を受けている」

 

そして内閣府では防衛省関係者の間でも話し合いが行われていた。

 

「欧州派遣部隊は?」

「しばらく帰ってこないぞ、何せこの大混乱だからな」

「つながった話では、派遣された艦隊は帰還する燃料を自前で補給しなければならない可能性もあるそうだ」

「冗談だろう?」

 

予想以上に悪い知らせを聞き、別の省庁の官僚が唖然としていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この大混乱はある場所にも届いていた。

 

「やれやれ、市場は大混乱だな…」

 

タブレットで新聞を読んでいた裕翔はそう呟くと隣で秘書艦である漣が頷いた。

 

「ちょっと、新聞読む前にこちらの決済済ませてください?」

「おお、悪いな」

 

新設された東京泊地の提督に就任することとなった彼は、就任した際に派遣された漣によってせっ突かれて新しい書類にサインを行う。

そしてサインを終えると漣は裕翔が読んでいた新聞のコラムを見る。

 

「私たちは大和さんがいるんですから、まだまだやることはあるんですよ?」

「ああ、わかってはいるんだがな…」

 

新設された東京泊地の提督に就任した彼は、その指揮下に大和を配置するという最初から首都防衛を意識した組織であった。

最初から大和を横須賀配置にする案もあったが、深海棲艦による砲撃で横須賀港に被害が出たことから分散させる案が通っていた。

 

「近々、首都機能を移転させるとか言ってたよな」

「そうなんですか?」

 

漣は話を聞いて驚いた様子だった。

 

「ああ、松代にかつて作られかけていた大本営跡地に司令部を設置する法案だ」

 

裕翔は政府が先の東京襲撃を受けて施工が本格的に始められている軍司令部の移転作業の話をする。

 

「今回の外貨償却で得た資金で松代に司令部を設置し、玉体は京都に移動する。それが当面の国内の動きといったところかな」

「玉体も移動するんですね〜」

「ああ、特にこんな不安定な時代だ。陛下の存在は以前にも増して国民の心の拠り所となっている今、仕方あるまい」

 

そんな話をしていると執務室に用意された内線電話が鳴る。

 

『司令、お客様です』

「通してくれ」

 

そして入り口を管理し、この泊地所属となった旗風が連絡を入れるとすぐに執務室に二人の男女がやってくる。

 

「よう、ご挨拶に来たぜ」

「ああ、ご苦労さん」

 

執務室には西洲と東屋が訪れた。

 

「此度は就任おめでとうございます」

「ああ、お陰様で出世コースだ」

 

そこで曲がりなりにも提督として指揮することとなる裕翔に対し、西洲は軽く鼻で笑いながら執務室の席に座る。

 

「しかしあれだな、もっとこう泊地っていうから頑丈な施設かと思っていたんだが…」

 

彼は執務室という名のプレハブの部屋を見ながらそんな感想を漏らした。

 

「ここな新設されたばかりだ。工廠だって明石学校から借りてきたで手一杯なんだよ」

「本当に急造ですね」

 

お世辞なしの意見を聞いて裕翔は苦笑するしかなかった。

今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。

  • ハッピーエンド
  • 微ハッピーエンド
  • モヤモヤエンド(?)
  • 全部書け。
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