その日、早朝から皇居の二重橋を通って複数のトラックが出入りを繰り返していく。
「えー、今朝より始まりました皇居移転作業ですが…」
その様子をカメラを抱えた報道機関が放送を行なっていく。
現在行われているのは皇居の移転作業であった。
先の東京襲撃を受け、国会で採択されたことで宮内庁を中心に皇族を安全な地域まで疎開させることが決定。明治以降、近代日本の首都の象徴であった皇居は京都に移動することとなった。
この動きに京都では御帰宅されるなどといった表現がなされ、話題を呼んでいた。
「ようやく始められるか」
「玉体の安全確保は十分にしておけよ」
警備を行う警視庁や各都道府県警察はその車列を見ながらそう話す。
皇居にあり、皇族の伝統を象徴する重要な物品を優先して運び出しており、そのトラックの車列は長く続いて交通規制の張られた高速道路を走っていく。
「交通規制は丸二日だ」
「全ての荷物を京都に?」
「ああ、暫く東京には戻ってこない想定なんだろう」
「厳しいな…」
そこで警備を担当していた警察官はパトカーで道路封鎖をしながら不審者の接近を許していなかった。その手には20式小銃を握り、撮影を試みた市民にも警戒のために銃口を向けて追い払っていた。
「不用意に近づくな!」
警察の持っていた小銃を前に、日本の文化としてある銃を恐れる感情によって市民は大人しくその場を退散していく。
「まったく、皇居すら危ないとは世も末だな…」
「二度目の東京襲撃を受けても問題ないようにするリスク分散だ。いずれ軍部も司令部を市ヶ谷から移す計画らしい」
「だろうな…市ヶ谷も砲撃で建物が半壊したからな」
そこで今だに破壊された施設の瓦礫を積載したトラックが走っていたことを思い出す。
「この前、警察官が軍に引き抜かれたのに仕事は減らねえのかよ…」
「文句を零すな」
警察官は疲労困憊した様子で新たな警察官がやって来るまで仕事の山に忙殺されながら宮内庁からの要請による警護を行なっていた。
その頃、百里航空基地では一機の航空機が離陸を始めていた。
「なんとかなったか…」
格納庫から出されたその機体を見て整備兵達は安堵した様子で見届ける。
「ライセンス生産で製造できるとは思ってみませんでしたが…」
そこで彼らは離陸を行う早期警戒管制機を見る。
その機体は、元は民間機であり国内で多数運用がされていたB737を早期警戒管制機に改造したE-7である。機内に電子戦装備やレーダーを装備し、太平洋側で深海棲艦による監視を行うための装備であった。
現在、ライセンス生産により国内で徴用したB737に対して同様の改修が行われており、撃墜などの損耗で不足気味とさえ言われた早期警戒管制機の補充を行なっていた。
「これで軍用輸送機やら空中給油機以外の使い方ができる」
「正直、改修だけで使えるとは予想外ですが…」
「使える部分は使ってきたんだ、まあ予算が潤沢に出てありがたいがな」
そこで試験飛行を行うE-7を見送ると、彼らは新しい機体の整備を始める。
また別所では軽い悲鳴が起こっていた。
「…」
その場所では艦娘である香取が教鞭を振るっており、その教室には多くの士官服を纏う軍人が集まっていた。
「この場合の対応は?」
「
彼らは渡された分厚い教科書をいくつも広げながら話し合っていた。
「(この状況下では撤退をしなければ全部隊が危険になる…から)」
戦況図を前に黒岩は思考しながらノートに書き加えていく。
現在、昇進試験に合格した彼女は提督として艦娘を運用するための鎮守府制度を学んでいた。まさか艤装技師以外にも資格を取らされるとは思ってもいなかったので、この数ヶ月はヒィヒィ悲鳴を上げる日々を送っていた。
そしてこの鎮守府のシステムを効率的に教えるために艦娘の香取と鹿島が配属されているが、鹿島が士官からの人気が凄まじいことになっていた。
一部では『有明の女王』などと言われているそうだが、何故そうなったかは未だに発覚していない。
「黒岩大尉?」
「ひゅっ!?」
講義が終わり、寮に戻る最中に話しかけられたことで彼女は驚愕しなら振り返る。
「あ、えっと…」
「どうも、摩耶さんの時以来です」
話しかけたのは裕翔だった。彼は鎮守府制度の教育を行う施設に彼女がいたことに少し意外な様子だった。
「お、お久しぶりです。四宮少佐」
「久しぶりです。覚えていてくれてありがたいです」
そこでなんとか今までの記憶とつなぎ合わせて思い出すと、途端に彼女は頭を下げた。一度しか会っていなかったのに覚えていてくれたことに少し嬉しくなると、彼女がここにいる理由を聞く。
「ここにいると言うことはひょっとして?」
「はい…山郷中将に言われて昇進試験を受けにきたんです…」
「やっぱり…」
事情を聞いて裕翔は納得した容姿で頷く。大方、艤装技師になれたんだから提督業もいけるだろう?という父親の無茶振りがあったのだろう。容易にその時の光景が脳裏をよぎった。
「大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまでさほど苦労することはありませんし…」
黒岩はそう言った上で裕翔に質問をした。
「四宮少佐はどうしてこちらに?」
「ああ、少し仕事の書類確認の為にね」
そこで彼女の纏っている士官服の右胸に付けられる徽章を見ていく。
流石に技術士官であるので持っている技術は高く、その中でも艤装技師の徽章を持っている事は多少なりとも注目を集めるはずだ。
「よく目立ちませんね、艤装技師の徽章持ちなんて珍しいのに」
「あっ、それは大丈夫だと思います」
「どうして?」
黒岩の様子を見て首を傾げると、彼女は教えてくれた。
「別の人ですけど、艤装技師の資格を持った軍人さんが他にいまして…」
「へぇ…」
二人は話していると黒岩は視線を動かし、促されてその方を見た。
「あ、あの人です」
「へえ、あの人か」
そこで小麦色に焼けた肌に金髪の容姿の男性を見た。確かに雰囲気からして彼の方が注目が集まっているように見えた。
「この前の北海道の作戦でご一緒したんですけれど…」
「まあ、あの雰囲気では大尉は苦手でしょうな…」
その雰囲気からしてまったく合わないだろうと想像できてしまい、思わず裕翔も苦笑してしまう。確かにあれだけ表に明るさを出している人間というのは軍内でもそうそういない。
「優秀な技官ではあるんでしょうね」
「実際、宇野少尉の艤装は良く調整されていました」
そこで人の良さげな雰囲気を振りまいている彼を見る。
二人はそんな話をしつつ、彼と関わりがあったという事は、見つかったら絡みに来るだろうと予想できたのでその場から離れるように裕翔は誘導すると、黒岩もそれに続いて講義室を去っていく。
「四宮中将が中央の作戦参謀に就任されたとお聞きしました」
「ええ、お陰で私の所に大和を派遣して、今は東京で提督をさせられましたよ」
そして彼女に配慮して人気の少ない場所に移動し、そこにあったベンチに座って久しぶりに彼女と花を咲かせていた。
「大和さんはお元気ですか?」
「ええ、もうピンピンしてますよ」
提督として仕事をしているのかと自分と同じ歳の目の前の軍人に少し驚いて敬意を持つと、年齢の割に早い出世に自分もそうかと思ってしまった。
「しかし鎮守府システムの教育を受けるという事は、大尉は艤装技師と提督業をこなせる稀有な例になりますね」
「正直、提督の試験を受けられる事が意外で…」
「いやいや、大尉なら行けますって」
同い年ということもあってか二人の会話は弾んだ。
「元々、提督業を行える人材の確保は急務ですからね、官民問わずに試験を受けていますよ」
裕翔はそう言い、他に海軍士官が歩いているのを見つめる。
「特に最近は神尾学校の出身だった重鎮が次々引退しています。主要ポストを巡って争奪戦が始まっていますからね」
「神尾学校?」
そこで裕翔が話した言葉に黒岩は反応して首を傾げた。
「ええ、この鎮守府制度を作った立役者が作った教育機関です。山郷提督や親父もその学校で、確か一番最後に教えを受けたのが後場大佐だったのかな?」
「あ、そ、そうなんですね…」
突然の情報量の塊と意外な人物が出てきたことに思わず困惑してしまうが、話を遮らないようにする為に聞き続ける。
「まあそこら辺の歴史授業はしませんし、神尾さん自身もいらないと思ったのか自分の名前を消していますからね」
「へえ…」
黒岩は裕翔の話を聞いて何度も頷いていると、そこで一人が立って話しかけた。
「おや、黒岩大尉?」
「っ!」
「おや、君は?」
そこで裕翔が顔を上げると、彼は敬礼をした。
「はっ、宇野寛治少尉であります」
「初めまして、四宮裕翔少佐だ」
敬礼を返して裕翔は立つと、宇野と挨拶をした。
「君が噂の艤装技師だね?」
「はい」
宇野はそこで裕翔が背に隠してしまった黒岩との関係が気になる様子だった。
「ああ、彼女とは以前からの知り合いでね」
「左様でしたか…」
宇野は納得した様子で、少し意外な顔をした。
「失礼ながら、黒岩大尉とご兄妹なのかと思ってしまいました」
「え…?」「そうか?」
その言葉に小声で黒岩は驚き、裕翔もまた意外なことを話しかけられたと思った。
「いえ、遠目からですが親しげに話されておりましたので、これは失礼しました」
宇野は話を遮ってしまったと察してすぐに退散をしていくと、残った二人はお互いに顔を合わせた後に裕翔は腕時計を見た後に黒岩に話しかける。
「おっと、もう行かないと。すみません大尉」
「いえいえ、此方こそ申し訳ありません」
黒岩はそこで軽く首を横に振って裕翔に返すと、その後に二人は施設で別れた。
その後に帰宅する事となった裕翔であるが、彼はその車内で思わず考え込んでしまう。
「兄妹ね…」
あの時、宇野に言われた言葉が妙に引っかかっていた。なんとなく言われて嬉しいと思ってしまう自分が何処かにあり、それが単なる自分の欲求によるものなのかはまだ分からなかった。
「恋…か?」
いや、そんなわけないと即座に彼は頭を振って否定をする。それにしては随分とときめいている自分がいないからだ。
「なんだろうな…」
後で漣にでも相談してみるかと思ったが、絶対茶化される未来が見えたので無理だなと察した。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
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ハッピーエンド
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微ハッピーエンド
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モヤモヤエンド(?)
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全部書け。