四宮から色々と話を受けた山郷はそのまま羽田に戻ると、そのまま帰りの航空機に乗って宿毛湾に向かう。
その途中、山郷はこの前派遣されてきた新人の技術大尉の顔が思い浮かぶ。
『彼女を保護すると言う意味合いでも、最も安全な転勤先だと思わないかい?』
「……はっ、俺のところはシェルターじゃないってんだよ」
山郷は四宮から言われた言葉を思い出すと思わず苦笑する。装備庁で働いていたとは言え、まさかの前歴に山郷達は複雑な心境を抱かざるを得なかった。
「驚きです。まさか大尉がそんな物を開発していたとは……」
「まぁ、見た目に反して優秀なのは前々から感じてはいたが……」
不知火の一件があって以降、何となく優秀だとは思っていたが。まさか飛び級が出来るほどの能力があったのは驚きではあった。
「優秀な薬学者に加えて、艤装技師としても優秀とはな……」
「確かに、その点では我々も十分優秀です。しかし……」
そこで口に出かけた言葉を山郷は静止させる。
「大淀、四宮も言っていただろう?『開発者の彼女は反対していた』と」
「しかし……」
「いつの時代だって、開発者の思惑とは外れた使い方をされた例は多くある。それが良かれ悪かれな……」
彼はそう言うと、そこで落ち着いた様子で言う。
「悪いのは使う側の人間さ。有名な人物の言葉を借りるなら『武器が悪いのではない、人間が悪いのだ』と言うべきだろう」
人類史上、最も多くの人を殺した武器と言われた銃を開発した人物の言葉を借りて彼は大淀を諭すと、彼女もそれ以上言うことはなかった。
「はぁ…いつの時代も碌でなしは居るものさ。開発者の意向を無視して大惨事になった例はいくらでもある」
「それを考えると、怖いです」
「ああ、そうだな……」
山郷自身もその事を噛み締めていた。
そして二人を乗せた航空機は日付が変わる頃に宿毛湾泊地に帰還した。
「帰ったぞ」
「お帰りなさい。提督」
「大淀もね。何か向こうで変なことされなかった?」
そう言い出迎えた羽黒と足柄はそれぞれ話しかけていた。大淀と仲の良い足柄はそのまま大淀を寮に案内し、山郷はそこで軽く辺りを見回した後に羽黒に聞いた。
「黒岩はどこにいる?」
「あっ、えっと……」
そこで一瞬彼女は言いにくそうにした後に山郷に彼女の居場所を伝えた。
「大尉は今、泊地の神社に篭っていると思います」
「は?何で?」
「提督がいない間に深海棲艦が来ないように神頼みするために……」
「……」
山郷は彼女の行動にまあ分からんでもないかと思わず出てきそうになった言葉をグッと抑え込んでそのまま彼女のいる泊地の神社に向かって行った。
そして山郷は帰った事を伝える為に泊地にある神社に向かうと、そこで見た景色に絶句してしまった。
「何してんだ?黒岩」
「あっ!山郷少将!」
そこで彼女はどこから持ってきたのか写経をしており、山郷が帰ってきたのを見てぱあっと顔を明るくしていた。
「よかった!少将が帰ってきた!!」
「あ、ああ……帰ってきたぞ」
その前に色々と突っ込みたい。
「何で神社で写経しているんだ?」
「え?なんか写経ってご利益ありそうですし、とにかく深海棲艦が来ないように必死にお願いしたくて……」
彼女はそう自信満々に答えると、山郷は呆れてしまった。
「あのなあ、神道で仏教をするなよ」
「何ですかその一言矛盾?」
「お前じゃい」
頓珍漢な彼女に思わず山郷はツッコミをかけてしまうと、そこで彼は写経の片づけを妖精さんに頼んで、そのまま黒岩を連れてそのまま司令官室に向かった。
「どうされましたか?」
「今日、俺が東京に呼ばれた理由だ」
そう言うと、山郷は四宮から受け取ったあの命令書の入った封筒を黒岩に手渡す。
「南部方面艦隊参謀の四宮幸三からの命令書だ」
「えっ?!四宮中将閣下からですか!?」
そこで彼女は四宮の名を聞いて驚いた様子を見せた。
「知っているのか?」
「はい」
山郷の問いに黒岩はそう答えると、その訳を山郷に言う。
「私が前の部署にいた時に、ここを斡旋してくれた人ですので」
「……それは、ヤオビクニの一件か?」
「っ!!」
そこで山郷の言葉に黒岩は心底驚いた目を見せた。
「俺と四宮は同期でな。悪いが事情は聞いている」
「そう…ですか……」
そこで彼女はやや怯えた様子を見せると、山郷は窓の外の景色を見ながら一言彼女に言った。
「作った物に文句はあるが、君には敢えて何も言わない」
「……」
「命令書はここで開くよう言われている」
「はい……」
そこで彼女は糊付けされた封筒を開けて中身の命令書を読むと、そこで軽く首を傾げた後に山郷に言う。
「少将、これを……」
「?」
そこれ彼女は封筒の中に入っていた更に小さな茶色の封筒を手渡す。封筒には『山郷中将へ』と書かれていた。字的に四宮が書いた物だと瞬時に理解できた。
「……」
どう言う事だと首を傾げながら彼も同様に封筒を開けると、そこには直筆の手紙が記されていた。
『勲少将』
この文の始まり方から確実に表沙汰にはできない内容であると今までの付き合いで嫌な予感を感じた。
『この命令文は極秘とし、他言無用である』
そう書かれた直筆の命令文にはこう書かれていた。
『この手紙を読んでいると言うことは、黒岩百合大尉も私の命令書を読んでいる。彼女にはヤオビクニの無害化の特効薬の開発を命じた。そしてその為であれば設備に糸目は付けないとも。そしておそらく、ヤオビクニの特効薬の開発は軍艦派の面々にもいずれは気づかれる。
そこで君にはヤオビクニの特効薬開発を妨害する軍艦派の連中から彼女を守れ』
『守ってほしい』ではなく『守れ』と強く書いている辺り、本気だと山郷は理解した。逆に言うと、それだけヤオビクニの問題は重大であると改めて認識せざるを得ないと言う話だが……そりゃそうか、原材料は人類の敵である深海棲艦の血液だ。もし問題があった時に真っ先に責任は開発者に行く。軍艦派の強行に彼女が巻き込まれるのは事情を知った身からすれば虫唾が走る話だ。
「はぁ……面倒な事を」
「どうかされましたか?」
黒岩は命令文を読んだ山郷に少し緊張した様子で聞いた。
「……いや、何でもない」
そこで彼は正直に書かれた命令分の話をしようと思ったが、彼女にその事を言わなかった。
彼女はああ見えて周りの事がよく見える人間だ。狙われている事を知れば、何をしでかすか分からない。
それを見抜いていたからこそ、山郷は自分に与えられた任務を言うことはなかった。彼女には特効薬を是非とも開発してもらう必要があるから……。
「ただの近況報告だ。ここの人員を増やそうかと言う提案だな」
「なるほど、そうですか」
そこで彼女は納得した後に悩んだ顔を浮かべながら司令官室を出ようとした。その時、山郷は一言。
「ここでは何もかもが自由だ。自分が正しいと思う事をしろ」
「……はっ!」
少し助言をし、黒岩は敬礼をした後に覚悟を決めた様子で司令官室を後にした。
これで彼女も察してしまったかも知れないが、最悪強制的に命令で特効薬開発に集中させれば良いかなどと考えていた。
翌日、いつも通り工廠に出勤した黒岩はそこで加賀の艤装を妖精さんと共に確認していた。
「今日も哨戒でしたね……」
「はい!もうすぐかがさんたちもとうちゃくするはずです!」
妖精さんがそう言った矢先、工廠に声が聞こえ始め。加賀達が入ってきた。
「あっ、来た来た」
そこで彼女は加賀達を見ると、そこで彼女達は自分たちの分身である艤装を見た後に加賀が聞いた。
「調子は?」
「はい、機関の諸調整は終えました。いつでも出撃は可能です」
「そう……ありがとう」
そう答えると、彼女達はそのまま艤装を装備して大海原に出る。
「行ってらっしゃい」
そこで黒岩も岸壁に出て彼女達を見送る。ここ最近、出撃する際の当たり前の光景に加賀達もいつも通り軽く答えた後に出撃していく。
「あの大尉は生真面目なのか何なのか……」
大海原を進む足柄がそう溢す。すると秋月や涼月も同様に頷く。
「大尉は真面目だけど、ちょっとどこか抜けているというか……」
「人とずれているんですよ。少しだけ」
「そうそう、神社で写経したりとかね」
そう言い、山郷が東京に呼び出しを受けている間に泊地にある神社に籠って写経をしだすと言う謎行動に爆笑して朝の朝食の場で散々弄っていたのは良い思い出だ。
「面白い人ですよね」
「ええ、だからこそ弄りがいがあるわ」
足柄はどこか楽しげにそう話すと、次に色々と手を加えられた艤装を軽く触る。
黒岩が宿毛湾に着任しておよそ二週間、あっという間に過ぎて行った日々。しかし何処かそそっかしい技術士官に加賀達は新鮮味を感じていた。
「典型的な変人?」
「違うと思う」
「あら、不知火が口を挟むなんて珍しいじゃないの」
普段から軍人気質で、あまり多くは語らない。特にこう言う任務中はよく無駄話をしている事の多い足柄達に小言をいう事もある不知火の反応に足柄達は驚いていた。すると不知火は今まで見てきて思った彼女の性格を口にする。
「……あの人は変人ではなく、やる事が極端なんですよ」
「ああ、なるほどね」
「確かに、やる事はとことんやり続ける印象がありますね」
その意見に秋月と羽黒が納得すると、そこで加賀が軽く耳に手を当てると、それを聞いて叫んだ。
「敵発見!」
それを聞き、彼女達の意識は即座に切り替わる。
「場所は?」
「二時方向、距離一万」
「数はどれくらいですか?」
涼月が聞くと、加賀は少しだけ顔を渋くして呟いた。
「これは少しまずいかも知れないわね」
そう溢すと、加賀はその編成を口にする。
「戦艦二、軽巡三、駆逐艦四、それに軽空母一」
『『『……』』』
編成を聞き、あからさまに顔色が悪くなる艦隊。
「これは、救援を入れた方がいいわね」
思わず足柄がそう溢す。そりゃそうだ、向こうには戦艦がいる。今の自分たちの戦力では手に余ることは火を見るより明らかだった。
「提督に連絡。それと、救援要請を出して」
「はいっ!」
そう言い、彼女達は泊地に連絡を入れるとともに。彼女達が常に持っているあの赤いボタンを押して信号を出していた。
今後の展開、読んだらどれかに投票してほしいです。
-
ハッピーエンド
-
微ハッピーエンド
-
モヤモヤエンド(?)
-
全部書け。