戦え! トレセン学園史上最強のウマ娘   作:ミドヴィエチ

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第1話 「最強の称号」

 

第1話「最強の称号」

 

***6月某日 中央トレセン学園 旧学科棟***

 

 ザアザアと雨が降っていた。

 

「たのもー! タキオンさん、いませんかー!?」

 

 ここは日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。

 府中にある広大な学園の敷地。その中のコンクリートでできた立方体の建物に向かって、青い雨合羽を着込んだ少女が叫んでいた。

 建物の周囲は数歩先も見通せないほど深く茂った林。正面に辛うじて管理されているようなダートのコースがあることで、ようやくここがトレセン学園の敷地内であることが認識できるような有り様だった。

 

「アグネスタキオンさん! お願いがあってきました!」

 

 雨合羽の少女はウマ娘だった。

 ところどころ白と黒がマダラになった不自然で不健康な毛色に頭の頂点からぴょっこりと2本縦長の耳が生えている。

 尻尾は――確認できない。なぜなら彼女は車椅子に座っていた。

 

 少女はかれこれ20分以上、建物へ向かって叫んでいるが一向に住人が現れる気配がない。

 大雨の中、それも人気のない林の中というのは非常に心細く感じるものだが、彼女は決して諦めなかった。

 叫び続けて30分が過ぎ40分も経とうかといった所、ようやく待ち人は来た。

 

「やれやれ、こうも湿気が酷くては観察実験もできないよ。……おや、お客様かい? すまなかったね、ここは完全防音なものだから」

 

「あ、あなたがアグネスタキオンさん…。 タキオンさん! アタシ、トレセン学園中等部の生徒です。お願いします、話を聞いてください!」

 

「ふぅん……ウチの生徒、ね。雨の中は辛かっただろう。中においで」

 

 そう言うとアグネスタキオンと呼ばれたウマ娘は、車椅子の少女の前から消えた――いや、目で捕らえられない程の速さで後ろに回りいつの間にか車椅子のレバーを握っていたのだ。

 

「えっ!? み、見えなかった!? いくらG1ウマ娘でもそんなことって……」

 

「ふふっ、G1か。懐かしいな」

 

 微笑むアグネスタキオンに車椅子を押してもらいながら、室内に入った少女は雨合羽を脱がされ暖かい部屋に通された。

 事前に噂を聞いていた少女は、この建物の内装をフラスコや薬品が取り巻くマッドサイエンティストの研究室のように予想していたが、実際には広いスペースに畳が敷かれサンドバッグが等間隔で設置されており、その様子はまるで格闘技の道場のようだった。

 

「君も知っての通り私は春の皐月賞後に屈腱炎を患った。その後リハビリの甲斐あってか屈腱炎自体は直す事ができたが、ガラスの脚と呼ばれる程に脆い体と判明して結局トゥインクルシリーズに復帰することができなかった」

 

(畳に巻き藁…サンドバッグ?)

 

「私は再びターフを走るためにあらゆる手段を求めた。医術、薬学、化学……そしてその果てに古代中国に源流を持つとある拳法にたどり着いたのさ。さっきの動きはその拳法の賜物だ」

 

「古代中国のケンポー? えっ……中国拳法!? 格闘技ですか!?」

 

 医術、薬学、化学ときて、まさか中国拳法へ行くと誰が想像できようか。

 てっきり薬や化学物質を扱う研究肌の人物であると想像していただけに少女は目に見えて狼狽した。

 

「……アタシ、1か月前に交通事故に遭ったんです。車と衝突した時に背骨が砕けて下半身が動かなくなりました。今日はタキオンさんに体を治してもらおうと来たんですが、この体じゃあ格闘技なんてとても」

 

「だろうね。まあひとまず君のカルテを見せてくれないか? 持ってきているのだろう?」

 

 頷いた少女は鞄から分厚い封筒を取り出してアグネスタキオンへと差し出した。

 日本語はもちろん、難解なドイツ語の専門用語も含まれたソレをアグネスタキオンはスムーズに読み進めていく。

 

「ふぅん、酷い怪我だが随分と手厚い治療を受けているじゃないか。万能細胞による再生治療に自己治癒能力の活性化、リハビリの処置も正しい――いやはや、間違いなく最先端の医療だよこれは! この分なら数か月で脚の感覚が戻るだろうし、リハビリを頑張れば歩けるようにもなる。医者にもそう言われただろう?」

 

「言われました。歩けるようにもなるし、きっといつかは走ることもできるって……でも、それじゃダメなんです!!」

 

少女の必死の様子に何かを察したアグネスタキオンは棚からポットを取り出して紅茶を注ぐ。

紅茶の湯気の向こうで、項垂れたままの少女が呟くように言った。

 

「アタシ、もう”本格化”が始まってるんです……」

 

「本格化。なるほど君はトゥインクルシリーズを走りたいんだな」

 

 通常ウマ娘の体は本格化によって急激に身体能力が向上し、2~4年で成長が止まる。トゥインクルシリーズはその間の時期にしか登録ができないものだ。

 アグネスタキオンのように実績があるウマ娘なら1年や2年の休養を経て復帰することもできるが、クラシック期の秋までにレースで勝利できなかったウマ娘は中央での登録が抹消される。

 

「はい…! 無茶は承知の上でお願いします。この体を治す方法があれば教えてください。アタシはどうしてもレースで勝ちたいんです!」

 

「さきほど言った通り、君が受けているのは最先端の治療で間違いはない。これ以上となれば、もはや治すよりも死ぬ確率の方が高い無謀な挑戦になるよ。……君にその覚悟はあるかい?」

 

「――ッ! はいっ!」

 

「いいだろう」

 

 アグネスタキオンの問いに、強い意志を視線で返して頷いた少女。

 その決意を確認したアグネスタキオンは鍵付きの薬品棚から親指ほどの小さなビンを取り出すと、注意深く手元の試験管へと注ぎ、空気に触れて化学反応を起こしボンヤリと赤く光り始めたソレを少女に差し出した。

 

「君がすべきことは2つ。これを飲み干して、そして何かに掴まってでもいいから立ち上がることだ。それを成し遂げたなら君を私の弟子にしてトゥインクルシリーズでの勝利を与えよう」

 

「…………っ!」

 

 ソレは少女の目には地獄のマグマのように見えた。あるいは未来で得られる勝利(ウイニングライブ)栄光(サイリウム)か。

 意を決して試験管を受け取ると、味を感じる暇もないほど勢いよく中身を飲み込む。

 

「これでアタシもトゥインクルシリーズに…!」

 

 怪しい薬品を飲み干しても体調に影響がない事を確認した少女はもう一つの条件――どうにか立ち上がろうと車椅子に手をかけて両腕の力で上体を起こしたところで、急速に体中から力が抜けた。ドタン、と身体が車椅子から転げ落ちる。

 

「――――ッ!? えぁ…?」

 

 指先からビクビクと震え、瞳孔が開ききった少女の様子を感情の無い眼で見下ろしながらアグネスタキオンは口を開いた。

 

「君に投与したのは我が流派で使用される技を私が薬で再現した物だ。服用すれば五体投地し、徐々に呼吸は絶え、心臓は止まる。詰まる所は毒薬だが、この薬の本当の効果はそんな物じゃない」

 

 ゴォンゴォンと空調がうるさい。先ほどまでは気にならなかった些細なモーター音までもが鼓膜に痛みを与えるほどの轟音に聞こえる。

 蛍光灯の明かりがレーザービームのように眼球に刺さり、脳を茹で上げていく。

 顔の半分に触れている絨毯の毛足一本一本が肌の神経を直接撫でるような強烈な痛みをもたらす。

 

―― いったい何が。私の体、どうなってるの……!?

 

「どうだい、とてつもない情報の暴力だろう? 我々哺乳類の脳には副交感神経によって形作られたもう一人の自分がいる。もう一人の自分は生体電流とホルモンによって脳機能を司り、情報の取捨選択を、肺の拡張を、心臓の鼓動を、全身の筋肉の動作を代行している。君が普段、手足の動かし方や五感の情報整理など意識せずとも生きていられるのはこいつが安全装置として働いているおかげなんだよ。しかし今薬によってもう一人の君はその働きを著しく減退させられた――まあ、なんだ。例えるならば今の君は飛行中のジャンボジェットで突然操縦を任された乗客のようなものだな。このままいけば再びターフを走るどころか、指一本も動かせないまま心停止と酸欠で一巻の終わりといった所さ」

 

 助けを求める心とは裏腹に暴走する感覚は時間を追うごとに強力になっていった。

 暑い、寒い、痛い、痒い、うるさい。眩しいのに暗くて何も見えない。助けを叫ぶこともできない。

 

――体が動かない! タキオンさん……誰か、助けて!

 

「生き残るには減退した身体操作機能を君自身が掌握し、体の機能を復旧させることだ。本来であれば格闘家が何十年も修行をして手に入れる“気”の技術の神髄を、君はたった数分で獲得しなければいけない」

 

 徐々に弱くなっていく自分の心音と呼吸。脳すらも機能が緩やかに低下しており、何かを考える事さえ億劫になっていく。

 

「強く願いたまえ。思い出すんだ。君が何故、命を賭けてまでトゥインクルシリーズで走ろうとしているのかを。それこそが君の脚を蘇らせる鍵になる」

 

――アタシの……走る、理由……

 

 顔を寄せたアグネスタキオンの紅い瞳に見つめられながら、少女の意識は暗く遠のいていった。

 

 

******

 

 

”いいですか、私達ウマ娘はたくさんの人の応援や夢を乗せて走ります。だからどんなレースも最後まで決して諦めてはいけません。”

 

――うん! アタシも大きくなったら、トレセン学園に入って、お姉ちゃんや叔母さんみたいな立派なウマ娘になってたくさんレースに勝つんだ!

 

 それはアタシがまだ小学生になったばかりの頃の記憶。

 海外で働く両親は家をよく空けるので、アタシは小さいころから叔母さんの家にいる事の方が多かった。

 穏やかで物静かな叔母は、そんな性格とは裏腹に現役時代は中央のG1で勝利した偉大なウマ娘だったらしい。

 叔母さんの娘――従姉のお姉ちゃんもその血を引いているらしく、周囲の期待を一心に受けて中央トレセン学園に入学していた。

 

 叔母の家で過ごす日々は幸せだったが、それは長くは続かなかった。

 満を持したメイクデビューでシンボリルドルフというウマ娘にハナ差で負けたお姉ちゃんは、それ以降実力を発揮することができない状態――いわゆる走法スランプに陥ってしまった。

 それから4戦0勝。クラシック期に入ってもスランプから回復することはなく、お姉ちゃんは中央レースを引退。

 期待から一転、周囲からの冷たい視線に晒されることになった叔母家族はいたたまれなくなり、遠くレース場の無い田舎まで引っ越すことになった。

 

――お姉ちゃん!

 

”ごめん。ごめんね、不甲斐ないお姉ちゃんで。あなたは……きっと私の分までレースを勝ってね”

 

 悲しそうに俯くお姉ちゃんに声をかけることもできず、二人が乗った車を見送る事しかできなかった。

 

******

 

”サトノダイヤモンドです。よろしくお願いしますね”

 

 叔母さん達が引っ越した後、次にアタシの面倒を見てくれることになったのはなんと両親の知り合いだという大企業の社長夫妻だった。

 といっても社長夫妻が直接面倒を見てくれるわけじゃなくて、とても広いお屋敷の一室に住まわせてもらい、お手伝いさんに囲まれる生活だ。

 

 その代わり、と言ってはなんだけどアタシは社長の一人娘である彼女の付き人のようなポジションになった。

 社長からは娘の友達になってあげて欲しいと言われたけど、その頃のアタシはお姉ちゃんのように中央トレセンに入るためのトレーニングで忙しかったし、ダイヤちゃんも学校で仲の良い黒鹿毛のウマ娘といることが多かった。二人はいつも一緒に行動していて、よくレースを観戦に行っていた。アタシはいつもレース場で応援する二人を少し離れた場所で見ていた。

 

”マックイーンさんのようになりたいんです!”

”テイオーさんのようになりたいんです!”

 

******

 

 努力の甲斐があって中央トレセン学園に入学することができた。

 

 入学するまでの私の得意距離は叔母さんやお姉ちゃんと同じ短距離。教官から本格化で適性が変わることもあると聞いてからは、マイルや中距離のトレーニングも欠かさなかった。

 アタシたちの一つ上の世代にはBNWという3人のウマ娘がしのぎを削っていて、クラシック3冠を目指して走っているらしい。

 中央トレセン学園は強いウマ娘ばかりだったけれど、その中でも優秀な叔母の血を継いだアタシは期待のエースなんて呼ばれて持てはやされていた。

 

 このままトレーニングを続ければ、きっとG1でも勝てる。

 

 そんな風に傲慢な事を考えていたからだろうか。

 ますますトレーニングに熱を入れるようになっていたある日、学園の外でアタシは歩道の縁石に乗り上げながら加速し続ける危険な車を見かけた。

 塀や街路樹にぶつかりながら暴走するその車の行き先に気づいたアタシは咄嗟に――

 

 

 

 

 

”ここは…病院? えっ、脚の感覚が――”

”落ち着いて聞いてください。あなたの体は事故によって――”

 

*******

 

――アタシの中でたくさんのアタシが悲鳴を上げている。

 

 叔母さんがG1ウマ娘だったせいで、周囲の期待で息苦しい思いをしながら生きてこなければいけなかった。

 勝てなかったくせに、遠くに逃げたくせに、自分の夢を押し付けたお姉ちゃん。

 お金持ちで、可愛くて、才能が有って、優しくて。絶対に対等になんてなれないのに友達の距離でいようとするお嬢様。

 運転中に脳梗塞を起こして、アタシを巻き添えに死んだドライバーの男の人。

 外国の平和を守る仕事をしているせいで、娘が大ケガをしたのにほんの短い時間しか側にいてくれなかった両親。

 脚を治すどころか、こんな恐ろしい毒薬を飲ませて人が死ぬのを見ているだけのアグネスタキオンさん。

 

 フツフツと怒りが湧いてくる。

 あたしはただ走れるだけで楽しかったのに。みんなみんな、アタシを苦しめるだけだった!

 

 もういっそこのまま全部を諦めて死んでしまえばいい。

 

 そうすれば、楽になれる。

 

 死んでしまえば、今度はアタシがこの人たちを苦しめる側になれる――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんなのウソだっ!!

 

 

 

 

 

 その瞬間、自分の胸の奥の奥の奥の奥の奥――心の中のとてつもなく深い部分で、とっくの昔に捨て去ったはずの小さくて/臆病で/ワガママで/無力で/それでも走ることだけは諦められない幼いアタシが、涙と鼻水をグシャグシャに流しながら悲しい声を上げた。

 

 

――叔母さんに憧れたのはアタシだ! 勝負服を泥だらけにしながらライバルに勝って、大舞台のセンターに立つ姿を目標にしようと思ったのはアタシだ!

 

――お姉ちゃんはずっと諦めなかった! スランプで苦しんで、それでも勝つためにクラシックの夏になっても真夜中までずっと練習し続けた姿は格好よかった!

 

――あの子はアタシの家族になろうとしてくれた! 誕生日もクリスマスも、お父さんとお母さんがいなくて寂しくなるといつも一緒にいてくれた!

 

――事故を起こして死んだドライバーだって悪い人じゃなかった! 脳梗塞で体がほとんど動かなかったのに、死ぬまで車を止めようとしていた!

 

――お父さんもお母さんも海外にいたのに、すぐに飛んで帰ってきて少しだけど一生懸命時間を作ってくれた! タキオンさんは今でも隣でアタシを見守ってくれている!

 

――卑怯なのは、嘘つきなのはアタシだ! 全部、自分で選んだことなのに、諦める理由を他の人に押し付けようとしてる!

 

 

「うるさい、うるさいっ!! じゃあ、どうすればいいのよ! 他人事みたいに言って。アタシだって走りたいよ。手術だって受けた、薬だってたくさん飲んだ! でも…でもでも! リハビリも、レースも、脚が動かなければどうしようもないじゃない…!」

 

ワンワンと泣きじゃくる小さなアタシにつられて、アタシもついに涙を我慢できなくなった。

怪我の影響で毎日起こる発熱、飲むと眩暈がして気分が悪くなる薬、もう二度と元のように走れないのだという不安、眠れない夜が続いて、自慢だった艶やかな髪は色が抜けて白黒マダラの気味の悪い毛色へ。

しかしそんな辛い事ばかりを乗り越えてもアタシに希望は訪れなかった。

 

諦めたくない、まだ走っていたい。そう思って藁にもすがる思いでタキオンさんを尋ねたのに、結局このままじゃあ何もかも変えられない。

 

――こんなのやだよぅ。アタシまだ全然走れてない…お姉ちゃんとの約束だってまだ叶えられてない。

 

「負けたくない、怪我にも、無責任にわめくだけの自分にも…!」

 

――負けたくない! 夢を諦めて前に進めなくなった自分なんかに!

 

 

 

「「諦めるもんか! 負けてたまるか! アタシは、アタシたちはーー勝ちたいんだっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 薬液を飲んで倒れこんだ少女の体をアグネスタキオンは自室のソファまで運んで寝かせていた。

 倒れてからすでに5分以上経つが、不具の少女は目も口も開いたまま閉じることはない。

 当初こそ短く引きつるような呼吸を続けてはいたが薬の成分は徐々に脳全体に回りつつあるため、呼吸は止まりがちになり急速に顔色を青くしていた。

 

「ふーむ。やはり無理かな? 気の流れる道――経絡(けいらく)にはどうしても天性の物がある。

通っていない者はここまでしても気は扱えない。ましてや砕けた背骨の神経を別の神経にバイパスさせるほどのレベルとなれば千人や万人に一人なんて言葉じゃとても表せないほど稀だろう。

この辺りがこの子の限界か。そろそろ解毒剤を――ん?」

 

 アグネスタキオンが懐からさらなる試験管を取り出したその時、少女の体内を廻る気の変化に気づいた。

 

「これは……気の兆しが……? ――ッ!?」

 

「――がっ! ゲホッゲホゲホッ!! ダギオ"ン"ザン」

 

「うわっ」

 

 それまで呼吸すらおぼつかなった少女がカッと目を見開いたかと思うと突如動き出し、信じられないほど強い力でアグネスタキオンの腕を掴んだ。

 引きずり倒されないようにアグネスタキオンが力を入れると、少女は全身をガクガクと震わせながら、しかし少しづつ引っ張る力を強めていく。

 徐々に起き上がる少女の上体。そしてついに一歩、動かないはずの足がソファから踏み出したのを見てアグネスタキオンの心に戦慄が走る。

 

「――ッ! フ、フフフハハハハっ! すごいぞ! ハハハ、なんて精神力だ! やはりウマ娘は最高だ! この私の想像を絶するよ!」

 

 少女はプルプルと震えながら、非常にゆっくりとだが2本の足で自分の体を支えながら立ち上がる。 

 そして目線がアグネスタキオンと並ぶと、相変わらず真っ青な顔色のままニッと口角を釣り上げた。

 

「…タキオンさん…見てください。アタシ立てました!」

 

「ああ見えているとも。いいだろう、約束通り君を弟子と認めてトゥインクルシリーズでの勝利を与えてみせる。さあ、我が弟子よ。改めて君の名を教えておくれ!」

 

 少女は再び強く頷くと、目の奥で赤く燃えあがる強い決意を宣言をした。

 

「アタシは、カズサベルクトです! 絶対になってみせる、最強の称号、G1ウマ娘に!」

 

 

 

 




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