キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
出来る限り暈してますが少々重めです。
アウステルリッツと戴冠記念日の特別編です。
この世の何処か、空間の隙間の部屋。
円卓を囲んで、カードが配られ、ケイ、自称先輩、タイユラン、そして”先生”がカードを手に取る。
何処からか流れて来たシャーレのカードだ、ハートのキングでカイザーのプレジデントが書かれている。
「”彼はホシノに自分が忘れられない限り奴らも永遠だって言っていたよね”」
続いてカードを確認し、クイーンのニヤニヤ教授を手札に含む。
「言っていたね、誰かが覚えていてその誰かの物語に紐がついて居ればその通り」
ポーカーをなんとなく始めながら、彼は呟いた。
「”だから改めて聞いて欲しんだ”」
「”私の生徒達と世界の事を”」
「我々の評価は辛辣だよ?」
「”それでも誰かに覚えてて欲しいんだ、この世界の何処か、記憶の片隅に”」
断章【
ドーンという爆轟の音が遠雷の様に響く。
D.U.から立ち上がる煙は幾本も立ち並び、まるで森林がごとき有様だ。
その中で数少ないまだ灯りが灯るシャーレ本庁舎は、以前と異なり酷く頼りなげな姿をしている。
再び爆発音がした、地対地ロケット砲の発射音がしている。
『ゲヘナとトリニティの武力衝突の仲介と停戦交渉は決裂し、我々の学園間の総力戦という恐怖はついに事実上確かな未来になり始めています。
未だアリウスを自称する勢力は古聖堂半径80キロを制圧しており、トリニティ・ゲヘナは三正面戦争に入ると有力筋は予想しています』
”先生”はテレビのニュースを聞きながら顔を顰めた。
続く天気予報の枠では遂にシノンが『もう出来ない、来週があるか分からないのに天気予報なんてやってどうする』と嘆くように弱音を吐いていた。
いまキヴォトスは最悪な状態にある、それでも”先生”はここにいる、そして生徒もまだいる。
だがキヴォトスの社会は完全に死につつある、”先生”の記憶が、脇に置いていた新聞が、いやな記憶を呼び起こさせた。
【
一面に踊る文言が全てを語っていた、そうなった原因の一つは”先生”自身にもある。
彼はそのくたくたになった白いワイシャツを着替え、静かに背広を着た。
エデン条約が、いや、対応する間もなかったミレニアム崩壊が、それともアビドスか? 原因はいくつもあり、そのどれもこれもが致命的であった。
しかし全ての災厄の始発点は、彼にははっきりと理解している。
セリカが死んだ時だ。
始めてアビドスへ行ったあの日、迷子で日干しになりかけてシロコに拾われた。
その当時の対策委員会は弾薬不足に悩んでいた。まだその当時はその程度で済んでいた、しかしそうもいかなくなる日は早かった。
ネフティスが経営を素早く立て直し、あの黒服とかいう奴がネフティスへ入れ知恵を差し込んで、アビドスを舞台に企業間戦争を誘発させた。
無論なんとかしようとした、なんとかしようと悪足掻きをした、しかしここでアビドス生徒の全員のボタンは掛け違われた。
ヘルメット団の黒幕がカイザーで、ネフティスがアビドスへ帰ってきたのは何が狙いかをセリカは調べようとした。
その中で起こった不意の遭遇戦、深部偵察中のカイザーのSOFと単独で会敵し、セリカは永遠に帰ってこなかった。
辛うじて生きていたのをアビドスの砂嵐が永遠に連れ去ってしまった、ここから全て狂った。
アヤネとセリカはようするに全員の未来であった。
”やがて良くなる”を誰かに託せるのなら、それが無ければ誰も希望をもたない。
セリカは明るく賑やかで良い子だった、それがゆえに致命となる。
柴大将が最初に折れた、アヤネが何もかもに絶望した、ノノミは自己をネフティスへ戻し本格的な企業戦争へ突撃した、ホシノは報復へ傾倒した。
やがてアビドスに平和などなくなった、かつての校舎はシロコを遺して誰もいない。
今のアビドスには誰も、居ない。
企業戦争を止めようとした、救おうとした、全てが手遅れだと知ったのは双方の大企業が列車砲とMIRVの乱打戦を始め、双方の主要施設が軒並み壊滅した時だ。
皮肉にも校舎を撃つことは誰もしなかった、何ら戦略的価値が無いから。
セトが顕現し、ホシノは完全に精神の平衡を失い、アヤネは最終的に民族主義的武力組織を結成すると全ての権力と大人への報復戦争を始めた。
ノノミとネフティスは列車砲と共にセトを吹き飛ばし、ともに消えたが何もかもが滅茶苦茶で、砂嵐は完全に拡大し、流砂は深刻化し、ゲヘナなどの近隣地域を呑み込んだ。
住民は完全にアビドスを放棄し、遅まきながら連邦生徒会はアビドスを禁域とし、難民は一挙に過激化した。
シロコをただ一人遺して、アビドスは消えた。
少女たちは自分の命と勇気の価値と値段も知らない年齢だったのに。
最悪なのは全てが破局してる真っ只中で、ミレニアムが崩壊した。
外郭の地域から生じた異変はリオやヒマリ諸共の自爆で封じ込めたが、その衝撃波は凄まじく、セミナーから流出した情報が流れて混乱に拍車をかけて暴走する。
三極体制が瓦解し辺境の混乱は遂に中央へ波及してより破壊は拡大される。
「では、私はエリドゥ辺りでリオやヒマリと王女巻き込んで心中しただけ?」
「ケイちゃんあの預言者みたいな事したんだ」
「飛んできた看板にぶつけられてそのまま日干しの貴女が言えたことですか*1、正確に稼働する前に重大妨害要素二名が介入すればまあそうもなるでしょう」
ケイがつまらなさげに呟く、何が起こったかはまあ分かる、ケイは人間を侮る事はしない。
タレイランがコーヒーを一口飲んで一拍置ぅ。
「まぁ一杯飲んで、お茶菓子でも食べて一息入れよう。二人はどうする? ここからさらに暗く重くなる」
「終わりの見え無さそうな大内戦の時間でしょうからねぇ。誰が最高権力を奪うかの戦いなら、予想も付けれましょうが」
警察長官が付け加え彼もコーヒーを啜る。
「私の所は消滅しちゃったので、結末だけでも」
「私も同じく、気になるので」
ミレニアム崩壊で事実上エデン条約など形骸化していた、その最中に起こる暗殺と政治テロル、幾つかの事件を過ぎて行き着いたエデン条約への攻撃、自身への殺意、生還。
起きたころには全てが崩れていた、あのいけ好かないゲマトリアのマダムだかは生け贄にしようとしたサオリに道連れにされ、死んだ。
だが誰もアリウスへ停戦も終戦も伝えれるものはいない。ヒナは死んだ、自分を守ろうと瓦礫に覆われて死んだ。ミカも死んだ、ナギサは精神だけを置き去りにしている。マコトはただただ人々を維持する為に無理矢理な再編に乗り出して破綻した。
そしてゲヘナとトリニティは急進的過激派勢力が全てを差配した、難民は拡大し食糧問題は溢れ、犯罪は更に急増し、流通と交通は破綻し、何もかもが滅茶苦茶になった。
エデン条約の失敗から完全に民衆に見放された連邦生徒会は解散させられ、ヴァルキューレとSRTは完全に正当性を失ったばかりか軍閥化へ突き進んだ。
全てに決裂を入れたのはDUへの難民集中による食料と治安・衛生問題からヴァルキューレが実力排除が命じられた。しかし当時の公安局長はそれを拒否した、市民を虐げるのが仕事じゃないと拒否し、解任され、遂にSRTが介入する。
やがて難民狩りへ変わると一挙にヴァルキューレ警察学校が難民側についてしまった。
『解散しろ暴徒共!』
銃撃戦の音が”先生”を蝕む災厄から別の災厄へ眼を向けさせた。
また食糧暴動だ、いまやSRTはただ装備の良い強盗やゴロツキが精々だ。
強い装備をしているから奪う、それだけである。
司法の正当性も消えて久しく、強大な力は一人歩きしている、体の良い集団リンチの言い訳でしか無くなった正義だ。
暴力の行使をゲーム感覚でしかやっていない。
世界は最悪へ突き進んでいる。
「主は告げられた。その人々を殺さぬよう、その者たちを5か月間苦しめられるように、死のうと欲しても死が彼らから逃げるだろう」*2
アリウスの宣伝放送が何処かから響いている。
「第一の災いは終わった。見よ! こののち、更なる二つの災い来る!」
最も紅いサングラスを着けたパテルの戒厳軍が「お前どういうトリニティだ?」とにこやかにC7小銃を向けて語るような時点で終わっていたとすら言えるが……。
「政治テロルや失策による破局ねぇ。此処の面子は覚えがあるが、雑に分けると新体制か旧体制かに分かれ、その中で攪拌されて両極端2つと中間が居る訳だが……。
それすら起きず終末論が飛び交うとは」
警察長官が呆れたように呟いた。
自称先輩はカードの都合がよくないからか、顔を青くしながら尋ねた。
「師はそうなった時どうしたんです?」
「丁度使節として送られたときに極端に振れ過ぎたので別大陸まで亡命してたよ」
「ええー、かっこ悪い……」
「何かイカサマ仕込んでたのかと思いましたが、運の良い……」
「そこの素知らぬ顔してる彼の方が詳しいし大暴れしていたがね」
警察長官がやれやれと言う様に首を振る。
何もしてませんよと言うツラをしながら事もなさげに「金持ちと坊主を壁に立たせた程度ですよォ」と呟いている。
”先生”は呆れたように「”熱狂的なだけのテロルですからね”」と呟いた。
「しかしは君はベネヴェント公と違い、とことん間が悪いね。会場に行ったら試合が終わってるか、負け試合を見届けた後に何かしろと言われるんだから」
「”あなた達が居たらどうしてるのかな? ”」
タレイランと警察長官が顔を見合わせる。
「「とりあえず君を元首にする」」
「”題目のための傀儡かい”」
「「だが全員の為になる、無秩序は自由じゃない」」
そのまま二人の悪い大人は軍閥の対処と、流通の回復の方法であーだこーだと言い始め、新しい飲み物がテーブルに乗って、ようやく話が続けられた。
【死すべき時は今なるぞ】
彼が地下壕を出たのは、もうその時にはそこに導くべき生徒が居なくなったからだ。
シャーレ本庁舎ではない、DU郊外のバンカーで、浸水し汚らしいが数少ない居住空間だった。
この頃には本庁舎の爆発で重傷だった自分を運んでくれたのは誰かも知れなかった、多分ハナエだと思う、殆どの医療従事者は喪われていた。
銃弾に耐えれても外に出れば容易く生きる気も無くす。重力変動で浮かび上がり塵芥の様に漂うかつての繁栄の残滓、噴煙を吐き上げる火山、荒れ狂い地面を滅多打ちにする巨大な雷撃、爆轟。
もう人の世界ではない、ましてや学園都市の事など今では信じるはずもない、地下壕ですら水で洗いながら布で赤黒い色の液体を流して拭いていたからだ、それでも彼はただ歩き始めた。
絶望だけは絶対にしない、諦めてたまるか、生き抜いてやる、先に生きる者として、世界はあんなにも美しいものだと教える者として。
貴族の苦労も貧乏人の不幸も知らない中流階級の意地か、教師の誇りか、執念、いや狂気が彼を歩ませた。
何もかもが壊れた世界で彼は歩き続けた、無縁塚の様に遺された白いM4を通り、黒いボディーバッグと白いヘルメットが二つ並んだ公園を通り、砕けて割れたゲーム機にも気を留めず、ただ歩いた。
「先生……?」
やがて砂塵の中で彼女がいた、彼が25日ぶりに見た話せる人間であった。
あの地下壕で最後まで遺った長いピンク髪の少女は、新種の疾病に苦しみながら小さな蝸牛のストラップを握りしめて最後まで生き抜こうとしていた。
彼が最後に出来たのは、ただ手を握って最後まで共に居る事だけだった。
シロコは、その髪を長く伸ばし、衣服はかぎ裂けも多く、頬や肌はかすれて汚れて割れてもいたが、そこに居た。
彼女と共にかつてのアビドス校舎へ戻る、シロコはアヤネの眠っている部屋へ扉を開けた。
「アヤネ……」
かすれて歪んだ文字で書かれた弱弱しい”ありがとう”を見た時、死の神は完全な覚醒を迎えた。
空が砕け、雲は弾け飛び、空間が歪む。
光は曲げられて曲折し、狼の唸り声の様な轟音は激烈に拡大し、黒い光も逃さない球体はあちこちに生まれ落ちた。
それと同時に今度は闇も残さない白い球体が生まれ、何もかもを塩へ溶かして変えていく。
伸びきったゴムの、小さな切れ目は完全に崩壊した。
無名の司祭達が顕現し、彼が死の淵へ経った瞬間、浮かんだのはただ一つ。
───驕るな? 断る!
驕り高ぶりと言われようとも俺は認めない、私は私だ、弱くて小さい存在であろうとも、諦めてなんかやるものか。
俺は人の子として諦めを拒否する、それが人間の原罪だ、それが大人の責任と義務だ!
神秘ではなく虚妄でもなく私が私である為の、そして選択と決断と言う崇高の為の絶対条件だ!
たとえ人生は神の手の双六であっても、私の物は私の物だ! シロコの、生徒の人生は生徒のものだ!
「去れ虚妄の道化! 元の荒れ野へ消え失せよ──────!」
「貴様何を言っている」
「色彩は崇高であり神秘だ。死の神は貴様に隷属するはずもない」
「何故? 何故?」
シロコを取り込もうとした色彩は、パンと球体を弾けさせ、シロコに触れることなく砕け散る。
それがために憧憬と屍の道を歩み続けるとも、それが自身のレクイエムでも。
その瞬間に色彩は彼を選んだ。
「理解出来ぬ」
「理解出来ぬ」
「理解出来ぬ」
「消えろ、消えろ、束の間の灯火よ!
人生は歩く影法師。哀れな役者だ」
色彩は再び球体化し、輝き始めるが、色彩が選んだのはシロコでは無かった。
歴史を繰り返すとも、悲劇が有ろうとも、キヴォトスの神秘ではなくただの人の子を、色彩はそれを選んだ。
「先生……」
シロコは初めて恐怖した、檻から出るのを怖がる子犬の様に。
いつの間にか司祭たちはその姿を消えていた。
彼は神の手からサイコロを取り返した。
人生は歩き回る影法師に過ぎないかも知れない、短い短い蝋燭かも知れない、それでも回って火がついてるならまだ終わらない!
俺の何もかもをくれてやり、あの子の何もかもを遺してやる……。
『プログラムA.R.O.N.A.再起動。無名の司祭の権限デリート。オーバライド実行。リアリティーアンカー抜錨。全ヒューム値変動』
「行こう」
青白い光が発し、半円状に拡大して大地を掘削していく。
アビドスの市街が、校舎が、ゲヘナが、トリニティが、何もかもが分解され希釈され、溶けて混ざって一つへ変容していく。
どこか知らない場所では、カイザーの会長が恍惚とした笑みで画面に映るそれを見ていた。
画面の手前には絵が砕かれ、割れて倒れたフランシスが転がっている。
ゲマトリアの最期の隠れ家に蛮族びっくりショーを仕掛けて家主を黄昏にぶち込んでやったのが数日前、以来終焉と結末がどうなるか見ている。
「そうだ……これが見たかったのだ! 素晴らしい!」
会長のヘイローが輝きを増し、後ろではジェネラルが無言で携帯端末を操作した。
白いSOFオートマタがキルスイッチを押されて糸の切れた
「嬉しそうですね」
「当たり前だ! これこそ、これこそ”俺が”見たかったものだ! 狙うべき者だ!
なんと不完全で哀れで脆くて気高く美しい! 神秘でも崇高でもない輝きだ!
これこそ、永劫の中で見たかったものだ! なんと美しい……、神の子たるにふさわしい人のきらめきだ……」
「んじゃあ、もう悔いはないでしょう」
「あらっ」
言葉と同時に、ジェネラルは美麗とすら言えるスムーズさで会長の頭部へ拳銃弾を撃ち込んだ。
「知ってりゃもっと面白く出来たのに……」と呟いて会長がぱたんと倒れ、ジェネラルは荘厳に制帽を脱いだ。
「あーあ、退職金は出ないよなぁ」
念入りに1発以外全弾会長へ撃ち込んで、最後にジェネラルは自分へ向けて撃ち込んだ。
間を置かず、白色の光が空間を呑み込み、塩となって散っていった。
【 Darkest Hour A Hearts of Iron 】
そして二人は営々と準備を始めた、膨大な、膨大な多次元世界の観測。
自身の最期の願いを叶えれるものへの長い長いディアスボラ、
しかし、最初に膨大な多次元世界を観測して得た結果は凄惨なるものであった。
大半はアビドスで砂になった、そうじゃなくてもエデンで倒れた、殆どは夏で終焉している。
しかし終焉していなくてもそれが素晴らしい世界かは別の問題だ、行政能力に酷く難があり子供を任せるに不適当な場所もある、不慣れなりに努力している場所も多いが、自身の全てを賭ける根拠が欲しい。
その中で一つ見つけた。
執念深く根に持つタイプの大人、下らん結末など何度でも覆す。
気に食わない盤面は蹴り飛ばしてしまえ。
なんとも酷い先生だ、短気で粗暴で粗野でべらんめえで、しかしそれ故に彼はその条件を達成していた。
彼の本質と神秘、
媒介者であり統合者であり専制者であり擁護者である。
マダムだとか言うゲマトリアの何も理解してない連中はそのことを何も認識できていないとしても、彼は正しく彼だった。
”強いなァ、存外で埒外なまでに強いなぁ……、いいじゃないか”
エデン条約を乗り越え、彼のシャーレはますますその神秘を有し始めていた。
生徒を、そして神秘を動員、兵装、構築、編成、兵站、嚮導、運用、指揮する。
素晴らしい、あの男自分がどんなことに手を染めているか全く認識していないぞ、あの男は嵐の中心へ全てを道連れに歩いている。
カイザーコーポレーションもアビドス学園もゲマトリアもミレニアムもトリニティも連邦生徒会もゲヘナもアリウスもSRTもヴァルキューレも、全てを特異点がかき回す。
手札は配られた、カイザーは再び円卓へレイズを宣言した、彼の手にあるは
『本当によろしいのですか』
アロナは最後に尋ねた、失敗すればこの素晴らしき別世界が破局するかもしれない。
だが構うものか、見込んだ通りなら必ずやるだろう。
アロナに、そしてシロコに告げる。
”第一次攻撃目標はゲマトリア構成員、覗き魔にはお仕置きしなきゃいけない”
シロコは静かにうなずいて消えた。
続けて、アロナへ彼は告げた。
”初撃第一波はD.U.及び周辺学区、
第二次攻撃目標。連邦生徒会公邸群、ヴァルキューレ警察学校本館庁舎、トリニティ中央政務院議事堂、
第三次攻撃目標、主要交通ハブステーション及びインフラ管制施設群! ”
彼の端末には眼下で完全に壊乱と崩壊へひた走り瓦解するカイザーの軍勢が見えた。
宣戦布告代わりだ、のろしとなって頂く。
”第一次攻撃開始! ”
最期の聖戦が始まった、死ぬためだけに。
戦火と戦禍は広がり、キヴォトスが燃える!
空を色彩化したMGM-1Cが幾本も駆け抜け、鉄道線、レーダーサイト、通信施設を吹き飛ばしていく。
各所で20㎜VADSやマークスマン対空砲が唸りをあげて火線を立ち上らせ、色彩化したKa-52やロイファルク戦闘ヘリがまるでバッタの群れが如く襲い来る。
畑を山を食い尽くすような群れは一目散へ空を襲い、続けて降下した色彩化ミメシスやオートマタは地上へ着地した。
”さて、あちらさんは”
『サンクトゥムタワー跡地は依然炎上中、通信量解析では未だ混乱状態です。13名の連邦生徒会主要閣僚全員行方不明ですから』
”まあ議事最中にカイザーが踏み込めばそうもなる、それじゃあシャーレへご挨拶しよう。リンちゃんたちがグダグダしてるのはともかく、彼らには我々が敵であることを理解してもらわないと困るからね”
アロナに静かにそれを告げた。
【Symphony No. 7 in C Major, Op. 60 "Leningrad"】
戦闘は完全に相手のターンへ移った、レコードが奏でる交響曲が終焉へと向かう事を彼に静かに告げている。
全く、あの大人やはり滅茶苦茶だ。完全にキヴォトスを指揮下に編入した、誰もが納得する形で。
鉄火場の中で一番頼りになると信じて託されている、権力とは信じて託されて初めて意味を持つ。
さあ前菜とスープに
『目標
”おおっ! ”
『……楽しそうですね』
”まあ、悪の指導者になるのも悪い経験じゃ無いからね”
アロナは何か言おうとしたが、言うのは止めた。
直後に雲を突き破ってゲブラが現れる。
”
ゲブラが巻き付くが、直後に迸る青い閃光が真っすぐ此方へ伸びる。
『敵弾真っすぐ本拠へ飛び込む‼』
アリスにより撃ち出された55口径51サンチ
多次元バリアーがガラスの様に割れて砕け、続けて敵艦は真っすぐ飛び込む!
轟音! 衝撃! 断裂音!
『敵艦突入。侵入部隊を外郭第4区で確認。現在確認作業続行中』
”あーあ手荒いんだからもう”
『侵入部隊は現在外郭区画を突破。外郭第二配線抗損壊。三か所の次元エンジンへ侵攻中』
アロナの端末に4個部隊が分進合撃を開始しているのが見える。
面倒なコトしやがる! 最先頭を突き進んでいるのはアビドス学園の生徒たちだ。
『内郭第5区画全滅。外郭第3区画応答なし。先生の直接指揮願います』
”内郭第3区までを放棄。全隔壁閉鎖! アビドス部隊はメインホールまでの通路を使い分断する。該当区画部隊は放棄”
『実行。第501から303隔壁を緊急閉鎖』
”残存部隊再集結。敵艦へ電子攻撃開始。残存降下部隊全面攻撃へ。”
『実行。敵艦、自爆シークエンス捜索実行。……先生、こちらを』
アロナが示した映像では、あの大人が生徒と共に走っている。
これでいい、全てが終わりに導こうとしている。
その大団円で、輝く舞台で万雷の拍手を受けるだろう、それでいい。
輝けるスポットライトを受ける生徒たちが居るならそれでいい。
『隔壁を閉鎖。隊列を分断。敵部隊速度を緩めず、真っすぐ本区画へ侵攻!』
”いよいよフィナーレだね、アロナ、ありがとう。”
『……本当にそれでよろしいのでしょうか』
アロナは少し不安げに彼を見上げた。
外からはMP5KとM249の銃声が数を急速に減らしている。
やがてホシノの「
”これが、私の責任と義務だよ。”
部屋の扉が開いた。
よろしい、ツケを払う時が来た。
突入してきた先端が爪のような長槍を背負い丈の少し長めの赤いコートを着たシロコ。そして彼。全てがツケの支払いに来ていた。これでいい、全てこれで良い。
でもね、いきなり発砲は良くないと思う、話くらい聞けェこのォ! 先生怒るぞ。
さあ最後の戦いだ、負けて終わるといえども手を抜かない。
それがあの結果だったのだ、最後まで彼に勝利する心算でないと。
シロコのミサイルドローンが唸りを上げた。
【
小手調べの様な双方のシロコの戦いがいったん終わると、向こうのアロナの電子攻勢が強まる、あのコンビ雑言と痛言を言い合ってる癖にこの手の行動は阿吽の呼吸だ、お互いそのくらいできて当然だと言うような信頼? がある。
なんだあのコンビ?
こちらも驚きはあったが不思議ではなかった。
未使用のカード。
彼が叫び、懐からそれを抜いた。
「そうだ! 奇跡に祈った事はない! だが今は、勝利が欲しい」
彼は誰を呼ぶのだろうか? 貴方の物語の輝きを見せてみろ。
一瞬眩い閃光が起こる、空気が揺れ、双方のシロコが目を見開いた。
戦いと血に慣れた狼なら耳と、あまりに濃く匂い立つ戦の匂いで分かる。
『先生これは……100人以上を確認』
輝きの中から統率の取れた足音の後に声が聞こえる。
「皇帝陛下に表敬!」
「
「「「我ら皇帝の為に!!」」」
彼が彼らに檄を飛ばす、概念として観測していても対面すると圧が強い、もはや機能してなはずなのに背中と頬に汗が垂れる。
仰々しい装束と仮面に今だけは感謝した。
『装備で油断しないでください、彼らは』
私のアロナが言うより早く戦端が開かれた!
短銃片手に斧を構えて突撃する戦闘工兵! 蹴りとドローンで対処するが、続けてライフルマスケットを構えた狙撃兵がいつの間にか後方からシロコを狙う。
直ちにドローンを狙撃兵排除へ回し、前衛の敵戦列へミニガン掃射を行う。
凄いぞ、まーるで効いてる感じがしねえや。ただのミニガンじゃない。FMJ弾だぞ、それを強装で掃射する色彩化イカサマミニガンだ。
弾幕にビビらず戦闘工兵もまだ来る。
『ターゲット。照準補正』
アロナが支援し、飛び込んでくる次の戦闘工兵をホシノの散弾銃が撃ち抜く。
12ゲージHE弾数発だ、流石に効果絶大である。
「次」
その声と同時に甲高い砲声が轟く、長砲身前装砲が唸りをあげマスケット弾のシャワーを横殴りの豪雨として叩き込む。
跳躍して回避したのを見て相手の兵から「すっげえ」と声が聞こえた。
「!?」
しかし着地した瞬間に陰から赤と白の旗を纏う槍騎兵が突入してくる。
穂先を撫でるように逸らしながら、シロコが騎馬突撃を受け流した。
「やるッ!」
ベアトリーチェの偽りと虚しさで作ったごっこ遊びと違う、本物の国軍だ。
その最精鋭の一片、それを彼らを彼が率いる。
何がズルいだ、こっちのセリフだ。うちのシロコじゃ無きゃ何回か負けてるぞオイ、私は素人だ!ビギナーズラックくらい寄越してもらうぞ!
弾幕を緩めれば一瞬で殺される。そうだこれは大人の意地を、誇りを掛けた戦いだ。
彼らはシロコを大人と認め、全力で戦っている、それこそが彼ら唯一の共通の礼儀だ。
【
爆音が続く。私が設置したタレットが全部破壊されて久しい、何かしようとするとすぐ砲か騎兵が突っ込んで来る。負傷部位は見たくない。
戦闘の中でシロコ本来の装備以外は無力化された。
可能性、IF、それがある種未来を表すという事を良く理解している。
しかし大人として伝えてやりたかった事があった、世界はこんなにも美しいと。
大人の仕事とは最大限単純化すればそれだ、夢と希望と明日を信じさせてみせる事だ。
一度、ゲマトリアがそれを「詐欺や嘘の類だ」と述べた、しかし、一つ奴らは忘れている。
嘘と詐欺、銃と弾薬、火と火種、それらは全て使い方の違いでどのようにもなるのだ。
『地上部隊第33から28部隊消滅。最後の次元間侵攻機材に敵襲。上陸部隊の37パーセント損耗』
これでいい、全ては奴が勝とうとしている、それでいい。
何でかトキが人型機動兵器乗ってたり、無人歩行戦車が暴れてたり、ちょっとそれは気になるけど、何をしたんだお前はと尋ねてみたくなるが、それでもかまわない。
なァんのことがあるもんか、ここはキヴォトスだ、それくらいべらんめえなのがちょうどいい。
下らない結末をちゃぶ台もろともひっくり返して見せろ、全部背負って這いずり廻ろうが何をしようが救って見せろ!
『次元間エンジン、最終抵抗線瓦解。次元エンジン損傷。大破。再試行。エラー』
彼が持ってた懐中時計を見て笑っている、本命はあっちか。突入以来の大爆発。
揺れと共に煙から出てきた槍騎兵がシロコの最後の装備であったドローンに必殺の一突きを流れるように当ててきた、そのまま向こうのシロコが肉薄決着だ。
読み違えた。アイツはそもそも次元エンジンの破壊が主目的でそれを妨害する我々への妨害と拘束だ。魔改造チーフテンを持ち込んでた理由はこれか。
次元間侵攻機材と私の接続点は遂に絶たれた、事実上これで侵攻軍は機能不全、全て破局である。
よろしい、本懐だ。
瞬間、視界が僅かに砂嵐に襲われる。
『お疲れ様でした』
空色の青い髪、桜色のインナーカラー、あの懐かしい白い制服。
そうか、この世界じゃ
『なにか、言い残したい事はありますか?』
”ああ、彼に、話しておかなきゃいけない事がある”
視界と世界が交わる。私が知ってる外やキヴォトスと縁が遠いとても死が身近にある世界。
バスティーユの炎上、ツーロンの攻防、イタリア・エジプト戦役、アウステルリッツの栄光、終焉の始まりロシアからの退却戦、百日の天下。
絶海の孤島でも逆転を諦めていない最後の仕込み、そうか。
あの時のあなたも、最後に負けて勝ったわけか、なるほど。真逆のような人生だが、凡人なりに足掻いて最後に出した結論は同じか。
草原の中、砲煙とマスケット銃の轟音、カノンの轟き。
あんた、最後まで、その瞬間まで
「……結局、お前の目的は一つだったんじゃないか? やろうと思えば不意打ち出来た、だがしなかった」
勇壮たる戦列歩兵の隊列の前で、彼は尋ねた。
最後の仕事だ、この偽りの仮面はもう、要らない。
”生徒たちをよろしくお願いいたします”
「人を見る眼がないな、そっちも俺の過去を見ただろう?」
”あなたが勝ったんだ、責任と面倒が生まれたんですよ”
それを言うと、彼はまるで幼い子供の様に愉快気に笑い声をあげた。
「それ言われると弱るな! 目的も理由も分かった、おまえ男だな!」
どん、と木彫りの勲章が胸に押し付けられた。
「じゃあな、見知らぬ先生さんよ! あの世で俺に一本取って貰った勲章だと誇ってやれ」
負け続け、勝負の土俵にも立たされなかったが、最後に満足できた。
そうが、勝利と言うのは、こんなにも、甘美なんだな……。
それも自分の中で最高で、最大の勝利だ。
「
”日本語は赤点ですね”
全ての仕事にケリをつける。
欲を言えば、勝ちたかったなあ。
”プログラムA.R.O.N.A.全権限を委譲。全ての作業を終了します”
『お疲れ様でした』
じゃあね、私の愛しい子供たち。
願わくばその可能性の果てを、見てみたかった。
爆発と衝撃波、身体が浮く。
青い星が見えた、ああ、そうか、こういう事だったのか。
コスモノート達が何故、地球は青かったと述べたのか。
あんなにも美しいものを、そう呼ぶしかないくらい、美麗だったからだ。
”キヴォトスか、何もかもがみな、懐かしい”
静謐なる世界、あの世とこの世のどこか、ノウアスフィアの合間の世界。
ロココ様式の部屋に、レコードが奏でる音楽が流れる。
管弦楽組曲第3番 アリア、ヴァイオリンの嫋やかな、しかし力のある音と、濃いめに淹れられたコーヒーが静かに存在している。
机の前に、静かに腰掛けているプレナパテス、いや、”先生”は、前へと向いた。
「師よ! いましたー! なんか倒れてます―!」
「だから君には許してないと何度言えば分かるんだね」
「ビクトル! 運ぶから手伝え!」
先生と言う仕事は往々にして退職した後もそう呼ばれるものである。
たとえ退職しても、である。
”ここは? ”
「ようこそ、私はタイユラン、ここのホストのような物かな? 皇帝、ああ君には先生と言った方が良いかね?」
すべて肉なるものは草に等しく、人の世の栄光は草の花のごとし。
何となれば、草は枯れ、花は散るものなれば。
されど主の言葉はとこしえに変わることなし。
神が常に人を見ているのなら、大人も常に見守っている。
【END】
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。