キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
ケース3 DUで興行が有り、便利屋に護衛が依頼されたと聞いたので確認に行く。
最近は家に挨拶に賄賂持参で来て、そのままムショへ行くアホが多い、賄賂のやり方がヘタッピなんだよ!
サオリを連れてこちらから挨拶に行こう。
アルちゃんは見栄を張っているが、あえて指摘しない、それくらいの慈悲は有る。
依頼人が思いついたような顔? をした後に便利屋を褒めちぎり、無理な依頼をごり押ししようとするので丸わかりだ。
こんなんじゃ、ミュラも騙せないぞ。アイツ馬鹿だけど嘘ついてる奴に勘付く確率は高いからな。
今、警告を与えるべきはアルちゃんではない。
「ところで貴方、DUの時間当たりの最低労働賃金は勿論ご存じですよね? 法学的に勘違いかもしれませんが、24時間ですと休憩時間は支払い区分ではありませんかな? まして契約書との違いから、追加注文ならそれ相応に払うのが責任では?」
「いやあの、それ自体は契約者本人との……」
「いや別に? わたくし一応顧問なんですよ、金払われてない名誉顧問なんですけどね」
ジョーク交じりに笑ってお話合いをし、休憩時間は給与支払い適応、かつ飯代は俺が出してやった。
金をカヨコに渡し、カヨコに「なーんか、胡散臭いというか、起こりそうな気がする」と告げ、依頼金も渡す。
「それ徴発や動員っていうんじゃないの」
「まあな、給与は払うよ」
「やれやれ……連邦生徒会会長も変な人を選んだものだね」
俺なんか契約書も見せてもらってないんだぜ、と笑いつつもサオリを手招きして、ムツキとハルカに少しばかり知恵を貸してやってくれと告げた。
「なになに? 何か起こるワケ?」
「起こす側だろおみゃーら……」
どうせなんかあるぞと、地図を見せる。
基本的に入り口は3か所、正面エントランス、裏口搬入路、従業員入り口。
したがいやるべきはこの3か所を警戒する事だ。
「監視カメラである程度外は見れるが、スクランブラーがかまされてループする危険を考えるとアル社長を近隣建物で待機させるのが良いだろう」
「場所はどうする?」
「恐らく機材などを狙うなら集団で攻撃する筈だ、車両搬入が狙いだろうから裏と表だな」
サオリが地図を見ながら常識的な攻撃論を述べている。
一番価値があるのは機材だろう、それ以外は攻撃しても割に合わない。
無論人間の価値と言うのもあるが、残念ながらあの依頼人は高価値目標と思えぬ。
「二正面に確実に来ると思う?」
「ああ、数的優勢があるなら私ならやる、どっちかは成功するだろう」
「上からはないよね、入り口無いし」
「野球ドームみたいに開くのならともかく、それは無いだろうなあ……」
入り口があるなら悪くない構想である、上から進入して相手の後方を扼し、主力の部隊を掩護できる。
しかしそれをする力も窓もドアも無い、ヘリ投入は割に合わない。
「じゃ正面エントランスはある程度棄てる前提でやるか」
「だねえ」
カヨコとムツキが頷き、サオリも「そうだな」と頷いた。
明らかに集団の利を簡単に活かせて、車両援護が行いやすい、棄てる前提は正しい。
よって決戦地はホールだ、という便利屋の防御構想は、概ねサオリの目からしてもかなり高い評点だ。
むしろサオリの目からすれば、こうした集団が広い視野を有する点にやや感銘を受けている。
恐らくこうした作戦を円滑にやれるシビリアンは補習授業部くらいだろう。
手馴れた罠の配置と、射点確保が行われ、ムツキが罠の地点を書き留めた。
「火線と動線から見てここら辺かな」
「やや横にもう一つ入れて確実にしよう」
「サッチェルは此処で良いでしょうか」
「良いぞ、クレイモアの方向も問題ない」
ハルカとムツキの罠の配置を確認し、カヨコとアルが後退時の動線を確認し、位置を確認して回る。
実際、作戦活動としては驚くべき程度に真面目なものだ、ミヤコ等ラビット小隊が見ても納得するだろう。
事実、段階的縮小と言う防御構想と遅滞戦術はかなり練れている。
「よし、便利屋の戦技を考えても、まあ大半の不良学生程度じゃ機械も拝めんだろうな」
「案外高評価……」
ムツキとハルカが「ねー」とカヨコの言葉に頷いた。
「そうか? 君たちのスキルと地形をよく見る力は高い、まあシャーレの軽歩兵小隊ならホールあたりで力尽きるな」
私見ではあるが根拠がないわけではない、元々便利屋は死に物狂いになれば大体無茶が通る程度に強い。
地形をよく見て練って準備すればそれくらいの戦力にはなる。
不安要素の最大の点は依頼人だ。
「まあそんな状況になったら逃げるけどね」
ムツキが笑いながらそう言った。
戦術原則の基本たる指揮官の柔軟さはこれが恐いんだよなぁ、サオリは内心そう思った。
頭いい奴は押す退くが早いから……。
そうこうして準備が行われ、公演前日になった。
準備の最期にサオリは「やるなら公演前日」と告げていた、理由は一番確実に機械があるからだからだ。
前日早朝、アルのスコープにはやってくる人影が見える。
即座にアルは『来たわよ』と告げた。
『ウニモグ一台からぞろぞろとヘルメット団が降りてるわ、裏口、数は20』
トラック使ってその数か? とアルは疑問を持ちつつ偵察情報を報告する。
最近はヘルメット団もある程度は腕やら質が良くなり、扉の左右に展開して突入準備に入る。
FNCやMPLを構えたヘルメット団が、突入を始める。
無論プロからみればある程度質が伴ってるが杜撰だ。射線管理がだらしなく、動線と警戒と視線がぶれぶれである。
「ぽちっとな」
全員が入室した瞬間、ムツキが点火した。
フラッシュバンの遠隔起爆型、ムツキお手製である。
いきなり音圧と閃光で耳目が奪われたヘルメット団は慌てて腰だめで射撃し、ふらついてる中そんな事をしたものだから友軍が倒れる。
「いったん下がれ!」
「下がれって!」
慌てて隊列を乱し後退するが、待ち構えていたムツキが軽機関銃で掃射した。
MG5の掃射に無警戒な側面を晒したため、10名近くを瞬く間に失う。
当然罠より軽機関銃に目が行くヘルメット団だが、振り向いてみればそこには駆け付けて来たハルカとカヨコだ。
特に外す事もなく全弾命中させ、残る半数は殲滅された。
「
『カヨコ、ちょっとトラックの中見てくれないかしら』
「いいよ」
カヨコがトラックの荷台へ上がり、アルは『靴跡、何人分かわかるかしら』と尋ねる。
足跡を見ながら、ヘルメット団のFNC小銃で歩幅を見て、座席の使用具合を見るが、どう考えてもウニモグの大型トラックにしてはここにいる人数と合わない数が乗ってるはずだ。
アルは『やっぱりそいつら陽動よ』と確信して、表口へ警戒する。
サオリが「言わずとも分かるか」と安堵したが、アルが判明した理由はサオリの想像とは全く無縁のものである。
何故なら陸八魔なら、人数と合わず荷物のせいで乗れない仲間を作る訳無いだろうという良識からこれを言わせたのだから。
陽動兼支援部隊が思ったより早くやられたが、ヘルメット団の幹部たるラヴには揺るぎはない。
何となくうまくいくと信じている、残念ながら危険を想像する頭が無い。悲しいかな、学力不足だ!
無論予定通りにした理由は他にもある、いまさら別案でやろうとか言って上手く行くならこいつらはヘルメット団なんかしていないのだ! そんな練度がある訳無いのだ!
ちなみに当初計画案では裏口で時間を稼いで本隊を突っ込ませるという、簡単ながらそこそこシンプルな案である、効果も素人連中にはあるだろう。
既に輸送用の車両は待機中だ。
「ホール行くわよ」
「うす」
本隊の連中には多少素人くさくない程度に訓練された動きがあった。
それもそのはず、本隊の主力はカイザーの脱走兵の学生だ、最低限訓練されている。
そうであるが故にK1CやM16A1を構える姿や、一部の罠に気付いてそっと避ける姿は真剣みがある。
無論完ぺきではない。
ムツキとサオリがハルカに仕組ませたトラップの神髄は、むしろわざと見せて注意を限定させるように作っていたのだ。
足元を見過ぎたラヴ達は、真横から散弾をもろに喰らった。
びたん! と先頭の4人が壁に打ち付けられるように叩きつけられた。
「な、なんだよ」
「散弾? クレイモアか?」
「レーザー検知器とか無いよ、NVGだ、赤外線パッシブ使おう」
何人かのヘルメット団が赤外線暗視装置を使う、民生品のものである。
無論屋内で暗がりな開演してないホールだから、なんとか使用に耐えている。
視界が良いわけもないが、びっちり伸びてるレーザー光が見える。
「よし、まだあった、これをこうして」
クレイモアに安全装置のピンを通そうとしたのを見て、サオリは別のクレイモアのスイッチを二回押した。
天井に張り付けられた別のクレイモアが、有線起爆で点火され散弾を天頂からぶちまける。
「ぎゃ!!」
「ぐえっ!」
今度は後方が食われ、後衛の6人ばかしがやられた。
後衛がやられたのを見て、トラップ解除の手をミスした先頭の一人も吹っ飛ぶ。
迂闊に不審物に手を出すからである。
「待ち構えられてんじゃないの!」
「い、いったん下がろう!」
無論そうもいかない、ムツキがカメラで見ながらボタンを押した。
防火シャッターが遠隔で下ろされ、退路を遮断する。
当然そんな事が起きた場合、訓練を受けていれば敵が襲来すると分かる。
そうであるが故に、ヘルメット団の残りのメンバーは隊列を整えた。
小銃が構えられ、何人かが息を呑む。
戦闘特有の緊張感が張りつめ、のどが渇いて舌がしびれてくる。
「どこからくる、どこからだ……」
「来ないなら今のうちに逃げようよ」
「莫迦、罠だらけだぞ、誰が行くんだよ」
やがて、ヘルメット団はゆっくり退却へ移る。
だがもう手遅れだ、ヘルメット団は貴重な便利屋が急行するまでの時間を空費した。
一番正しい方法はなりふり構わずシャッターを破って、負傷者確保して全力逃亡である。
極めて貴重な3分を空費してしまった。
ゴム弾をばら撒くスティンガーグレネードとハルカの突入に、一気にヘルメット団は壊乱する。
これは極めて悪くない選択だ、なりふり構わず数に任せて弾幕を越えて逃げるのは最終手段だが止めれる術はない。
ちゃんと指揮できてる場合大軍に区々たる兵法は不要とはナポレオンの発言にもある、無論彼は大軍握るより3万ばかしの兵を指揮してる方がなんか強かったから例外はある。
「あっくそっ!」
「追撃しちゃう?」
ムツキがアルㇸ尋ねた。
『無理に追って連中が死に物狂いになってもつまらないわよ、追撃は不要』
死兵になると相手は恐いんだよなあ、アルはデザートストーム作戦でよーく理解していた。
サオリはそんなアルの言葉に『お見事、勝利の熱に浮かされない良い指揮だ』と悪くないなと笑みを浮かべた。
「なんか勘違いしてない?」
「誰も不幸にしてないから良いんだよ」
カヨコはムツキの言葉に、笑って返した。
人間は夢と幻想を見るのだ、人を不幸にしないのならファンタジーは存在していいのだから。
幻想が人をいつも幸せにするとは限らない、それは歴史が常に証明している事である。
今回のラヴに関してもやはりそうである、ヘルメット団内部での影響力増大、そして家の奪還にはデカい力が居るのだ。
ラヴに依頼をもちかけた依頼人は、要するに便利屋の依頼人だ。
しかるに最初からマッチポンプだったわけであるが、当然であるが保険金詐欺である。
「ちょっと! あの警備は何よ、小賢しくてちょこまかとちょこざいに罠貼ってるとか聞いてないんだけど!」
ラヴの言葉に、依頼人も困り果てた顔で『シャーレの人間がいま一人居て、口出ししてるみたいで……』と苦しげに語っている。
シャーレの人間かァ……、ラヴが返答に詰まった。
こ、こうなればバックレるか? ラヴの頭に選択肢が浮かぶ、しかし浮かぶのは自分の仲間だ。
まあ少なくともシャーレに投降したのならマシだろうが、おいていくのは違う、明確に。
「でも勝てるか怪しいし……ええいたった一人相手に……! むきーっ!」
ラヴの脳裏に電流が走った。
「……一人?」
そっか、一人か。
ラヴの脳裏に計算が行われ、前提も何もかもあやふやな数式の結論が出た。
明日に出来るだけ仲間集めてシャーレにぎゃふんと言わせてしまえばいいのでは?
もはや当初の保険金詐欺では割に合わない事をラヴは忘れていた。
翌日、ヘルメット団の別部隊からオートマタまで借りて来た*1ラヴ達は再攻撃に打って出た。
要するに正面からの大兵力の平押しである、まさか採算ガン無視で総攻撃とはアルの想定外だ。
なにがシャーレだ! と正面から力押しという犠牲を省みない攻撃で罠を正面突破するのはサオリにとっても「確かにそれもありだが実際やるかそれ」というものだ。
無論損害は甚大だ、戦線がホールにつくまでに大半は落伍した。
「どうするよ、あんたごとやってしまおうって腹つもりかもしれんが」
依頼人を叩きつつ、ステージへ立たせる。
迂闊に暗号も使わず平文で話すから、容易くアロナに雑な分析でバレた。
最近はハイランダーなどですら暗号内暗号で荷物輸送連絡してるのにこのザマだ。
「お前らこんなの相手に割に合わないと思うがいいのか?」
後ろからカヨコに銃を向けられ、枕のカバーで頭を覆われて縛られた”元”依頼人殿はアルに「優柔不断のダメ人間!」と痛罵されている。当然の報いである。
しかしやや目的を見失って血が頭に上っているラヴにその様な理性的な意見は通じない。
「じゃかあしい! 其処のチビと! ショットガンと! そして何よりそこのシャーレっぽい奴ぶちのめすのよ!」
ラヴが最後に向けた指先は、スーツに身を包んだサオリ……ではなく、バニーガール装備のアル社長だった。
「え、わ、私?」
便利屋全体で「違うんだけど言わなくてええか」と棚上げされ、ハルカは「まあ民間義勇協力者は事実だからそうですね」と純粋に考えている。
サオリに関しては「あ、情報関連業務でもしてんのか」となまじ特務故に納得した!
唯一真実を知ってる依頼人は周りが見えないので分からない!
「やっちまえーっ!」
なけなしの盾持ちオートマタが三体、前進を始める。
撃つのではなく、取り囲むような動きだ。
が、真ん中の一体がすぽっと落ちた。
「あれーっ!」
「そりゃそんなゴテゴテに重い盾持ちオートマタなんか用意して舞台上がったらそうなるわよ……」
アルが無理もないと呟く。
「うるさーい! 正論ばかり言うんじゃないわよ!」
ええいデカいのは役に立たん!
ラヴが憤慨する声を聴いて、依頼人がこっそりとリモコンを起動する。
ミレニアムのエンジニア部が先生の防弾ベストを作る際にヒビキと試作した防弾繊維服が、凝固して一気に固まる。
分子密度を調整して実現した夢の超技術だがユウカに「武人の蛮用に耐えれないなら要らない」とカットされた悲しみの技術だ!
足が自由なハルカがびたんびたん跳ねてヘルメット団の団員を困惑させ、二人ほど顔面を蹴り飛ばした。
「はっはっは! 良いザマ……あれ?」
ラヴが首を傾げる。
「貴女は固まらないの?」
「着用してないからな」
「なんで?」
「シャーレから警備支援で手伝ってやれと言われたからだな」
数秒ラヴが固まる。
シャーレが二人? あれ? 予定となんか違うくない?
いやでも、この数で1人でしょ、何とかなる、なるかな、なるはずだ。
「え、えっと……こ、攻撃! 相手はたった一人なんだ! やっちまえ!」
それと同時に、盾を構えたオートマタが盾を貫通された。
頭部外装パーツが割れ、内殻へぷすぷすと火花が出ている。
「待ち伏せ?」
『お、お邪魔してます。よく来てくれましたね、辛そうですね……』
ヒヨリの声とボルトにひかれて排莢し、地面へ落ちる薬莢の音が響く。
「敵襲! 側面上階に敵!」
慌ててヘルメット団の団員が射撃を始めるが、ヒヨリの陣地転換に追いつく筈もない。
次々と射撃が行われ、慌てて盾持ちオートマタへ隠れようとしたヘルメット団の団員3人を、盾をぶち抜いた20㎜高速徹甲弾が一撃で蹂躙する。
自身に隠れていた生徒があっと言う間にぶち抜かれて持っていかれた事に動揺した盾持ちオートマタが、前を向き直るとバイザー部分へHEAT弾が撃ち込まれた。
カーン! と金属音を立てて、オートマタの増強外装部品が巻き散らされて倒れる。
「くそっくそっ! AMR! 遮蔽に隠れろ!」
「待ち伏せだ! まだいたのかよ!」
「敵は複数!」
「適当言うなよ! 一人だ! 多分!」
奇襲攻撃に統制が崩れ、続いてホールのドアが開かれる。
薄青のPASGTヘルメットにベスト、白を基調としたM81都市型迷彩を着たシャーレ隊員が現れる。
素早く展開し、包囲隊形を敷いた隊員達に続き、スズが現れ「お前ら動くなぁ。動くとエラい目に遭うぞお」と拡声器で告げた。
数的、質的優勢を失ったヘルメット団の残された選択肢は
全てが終わったのを見届けて、ニヤニヤ教授は「ほむ、やっぱりこうなりますか」と呟いた。
意志薄弱なアホの大人を唆して便利屋を雇わせ、首都での騒ぎでどういう風に対応するかと見たが、案外便利屋が常識的であった。
想像通りなら大騒ぎになってシャーレ展開までのリトマス試験紙になるはずだったが、便利屋が意外と強い。
ちょっとばかし読み違えたが、案外これも有益なデータだ。
ま、次へ活かせるデータであるからよしとしよう。
ニヤニヤ教授は「次はカイザーあたりとけしかけてテストするのも良いか?」と呟きつつ、介添えのマーセナリーを連れて人混みへ消えていった。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
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長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
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ブルーアーカイブだけは知ってます
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どっちも知ってます。