キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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便利屋災難記録3

 

ケース4 実のところ、連邦捜査部の銃器の大半はSRT時代の備蓄された官品が大半を占めている。

 失踪している連邦生徒会会長殿は、ヴァルキューレに大規模投資と査察を入れる事より拙速なSRT創設という"超人的思考過ぎて凡俗の自分如きには全く理解出来ない"選択肢をしたので、武器弾薬類は潤沢してると言える。

 無論その大半はリンとアオイに管理されている。残念ながら、非常に悲しい事だが備蓄されているHIMARSとかK9自走砲とかそういうステキな物は早々引っ張り出せない。

 ただ小火器類はこちらの任意に持ち出せている、お陰でシャーレ隊員の大半はMk18やM4、M16を持ち、法務要員などの非戦闘要員も有事にはM16などを担げるわけである。

 

「やっぱり小火器の生産設備は小規模でも欲しいんだよなぁ」

「気持ちは理解できるんですけど、余計色んなとこに目を付けられる気がしますし、自前の整備機材類等を考えるに難しいんじゃ無いですかね」

 

 ユウカがゆっくりと紅茶を飲みながら言った、ミカがナギサから貰ったと茶葉を分けて回っている。

 自前の整備に関しては最初の頃から強請って脅して何でもしてでも手に入れる、と確保した。初期人員で間違いなく2番目に多いのは整備要員だ。

 かけた労力に見合ったか? それ以上。銃器損傷にトラブルに車両問題、整備要員は期待に応えた。

 

「整備拠点あるだけましと思うべきだな。オヤツ代わりに何か食べて帰るか」

「帰ったら寝て良いですか?」

 

 ヴァルキューレ警備局の演習校閲と作戦指揮に関しての授業を終えた帰り道、ユウカと先生の視界に見慣れた面子が見える。

 便利屋のご一行が店の前で立ち尽くしていた、なんというか酷くしょぼくれている。

 

「あっ、先生!仕事の帰り?」

「そうだぞ、どうしたんだお前らの社長。背中が煤けてるぞ」

 

 聞いて見ると修理に出した愛銃が転売されて、店は計画倒産で逃げやがったと言うことらしい。

 普通にキヴォトスで下着泥棒するより命の危険を感じると思うのだが、銃器なんて誰かの武器名じゃないがアイデンティティそのもんだろ。

 さほど気にしてないのマジでアリウス連中くらいだぞ、連中は何盗まれても相手を殺しかねない。

 

「何でそんな悪い事するのよ……」

 

 アル社長がもはや全身からカリスマと威厳を吐き出して悲しんでいる、他人のためになるタイプのアホは存在しているべきだが、害になるなら排除するしかない。

 というかここで止めないとそういう考えなしの馬鹿はヤバい奴に手を突っ込んで死ぬぞ! キヴォトス人は頑丈でもコンクリートで埋めたり深海に沈めたり毒を煽れば死ねるのだ、ぶっちゃけ幾らでも簡単に殺せる、意思さえあるなら。

 

「まずいなそりゃ、取り返さんと奴さんが先にあの世に高跳びさせられかねん」

「……そうだね」

 

 カヨコが困り果てた顔でそう呟いた。

 

「というか今のやつ、アルちゃんのシャーレカスタム入ってるから他の理由で狙いそうだよね」

 

 ムツキがふと思い出した。

 そう言えば家で修理を礼でしたなぁ。こっそり消耗パーツは新造品に変えてフルカスタムにして返したが、完成した一品は家の狙撃狂いが「一回! 一回だけでも撃たせて! ネネッ! アル社長! 良いだろう? 一回こっきりで私は満足するんだから!」とよだれを垂らして叫び、警衛隊員4人がかりで連行されていった。 

 カヨコとムツキが真実何も出ない絶句をしていた。無理もない、シャーレ隊員といっても変人はいるのだ。*1

 

「あの事件の後、社長すっごい喜んでたんだよ」

 

 やっぱり、バレたかと思いちょっとユウカに聞いて見る。

 

「あのカスタム相場いくらするんだ?」

「原型のPSG-1が元々高級品ですからねぇ、えーとまあ、数千万くらい……」

「改めて見ると家のガンスミス張り切ったなぁ」

 

 あれ実は俺の小遣いなんだよな、人の金でフルカスタムして楽しかったんだろう。

 でも俺、予備マガジン4個分のスプリングまで豪華にして仕上げたのは納得してねえぞ、マガジンも本体と言い張るなよお前ら。

 

「貴方のお気に入りの155mm砲に比べれば安いんですけどね」

 

 アワアワしてるのを見てるのは可愛いが、そろそろ助け船を出してやるべきだ。

 ぶっちゃけ詐欺師とかペテン師がどうなろうと知らん、フランス公安委員会に渡せれるなら引き渡したい。

 

「仮に売却されても購入者さえ見つけられれば返却義務はあったよな」

「その辺のヴァルキューレの会計課が半分パンクしているから、購入者まで探すのが遅れるんですよね」

 

 キリノ達は真面目なのだがやるべき事が多過ぎて中々手が回らない、こればっかしは本当にすぐに解決がつかん。

 それでも明日を待つとかなんとか適当言える訳もない。手段を尽くして明日を待つならともかく寝て起きたら事態が良くならねえかな、がそうなったケースは無い。悪くなるケースはいっぱいある。

 

「ちゃんと探してくれるんだ……」

「厄介なのはちゃんとしたコレクターなら保存状態も良いだろうが返却に際して困るし、資金洗浄とかの方になるとそれはそれで雑で困るし……」

「個人的にはテロなどに使われた場合も本来の所有者に擦り付けるくらいありますよね」

「ただ暴騰しそうだからなあ……買う奴いるか?」

 

 ユウカが「そんなのを買いそうな人……あ」と声を出した。

 

「居ますね、そういう人」

「誰だっけ」

「北野オリバ、武器売人辞めたのを知ってる人まだ少ない筈ですよ」

「あっ」

 

 それと同時に、本庁舎のキキョウから電話が入った。

 

 

 

 元アリウス兵站部門所属、北野オリバ。*2

 彼女は戦闘のどさくさで散逸した兵器関連資料をもとに、武器商人として財を築き、そして司法取引により足を洗った。

 だがそのことを知っている人はそう多くない、ヴァルキューレの幹部たち、シャーレ隊員の指揮官たち、そうした法執行官たちだけだ。

 オリバは完全に合法ビジネスに転換していた、自動車を改造しやすくして売る、お陰で最近は不良達ですら自動車化されだした。

 

「ボス」

 

 オリバの契約しているマーセナリーが携帯を渡した。

 地元の人間ゆえ契約は続けているし、金払いは止まっていない。

 

「もしもし」

『良い武器があるんだ、買わないか?』

 

 オリバは途端に渋い顔になった。

 阿呆な木端め、最近は平文で話すとシャーレやヴァルキューレに勘付かれる。

 前に買収したヴァルキューレの監察官にそう言う忠告をされた。

 

「間違い電話だ、バカヤロー」

 

 そういうと、オリバは携帯を切った。

 

『あっ、ちょっと──』

 

 

 

 DUの片隅の小さな部屋に、ドンと机を叩く音が響く。

 幾つか持ち逃げした武器を売りつけようとしたオートマタだ、自身で武器を売るという行為はいくつかしてきたが、最近では下請けで安全に稼いでいる。

 しかし、安く見られるどころか、断られるのは考えていなかった。

 無論その原因が自身のせいだと考える事ができるなら、こんな犯罪に手を染めていない、おおむねカイザーが手を染めてない犯罪は割に合わないからである、それには理由がある。

 その銃器が誰の物で、その者が誰に連なるかの推理ゲームを常にするなどなんて割に合わないのだ。

 

「クソが!! 売る先なんて幾らでもあるんだ、吠え面かくなよ!」

 

 クソ田舎のアリウス生まれが舐めやがって! 

 彼は即座に安易な選択肢を選んだ、オークションサイトである、そういう安易な選択肢をずっと続けてきて、カヤの様に度胸とハッタリとそれなり以上の心積りも有りはしない間抜けの選択肢だった。

 

 

 

 物は試し、ぐーすかのアロナはアホなのでプラナに頼んでオークションサイトに繋げてみると、暴騰している商品が出ていた。

 複数サイトにも出ている、どう考えても商品送らないで金だけがめるつもりだ、初手で銀行を襲おうとするシロコはやはりアウトローなのだと感心する。

 正直なところこんなクソ野郎なら死んでも良いかなと思える、俺が100万フラン出すと言ってるのに30万フランの略奪が楽しいから嫌だと断るバカくらい自分を通して欲しい。

 

「なぁ、他の商品も怪しいのがちらほら見えるんだが、中古でも戦車まであるのか」

「あっ、見つけましたよ」

「私専用に最高のカスタムをさらにチューンアップしてるから、皆欲しがるかもしれないけど技量が無いとね」

 

 フフン! とアル社長がメンタルを持ち直し始めた、こういう復活の速さは指揮官として優秀と言える。

 ただユウカが「あー」と呟いた瞬間、威勢は虚勢となり、その虚勢が崩れ始めた。

 

「不味いですよ、私の予想より大分せり上がりが早いですよ」

「何でぇ!?」

「銃なんてだいたい同じもんじゃないのか」

「「違いますよぉ!」」

 

 えー……と困惑する間もなく、桁が跳ねていく。

 

 

 

 アルの狙撃銃、ワインレッド・アドマイアーを狙う者たちは幾つか居た。

 まず、ミレニアムカスタム銃器同好会。所謂カスタム銃器に個人性と神秘学的解釈を図る奇人変人、以前から公式に「シャーレカスタムが見たい」とねだる変人たちだ。内部機構などの可動域や使い込みに興奮するタイプである。

 続いて出てくるはパテル系の狙撃銃マニア、所謂好きな事には早口になるタイプのどうしようもない貴族の道楽的な生徒だ、しかも素人くさいアルの銃器の様なのが好きと言うから最早変態だ。

 そして特に関係無い租税対策の企業家である。

 いわば全く無関係な所で、特に必死な理由もなく、しょうもないバトルがされているのだ。

 

「どうしてそんな面子が出てくるのよぉ……」

 

 はたき起こしたアロナで逆探して身元を洗ったが、何故か全員クリーンで、特に異常がない。

 

「趣味と性癖と……経済だろうなあ」

「金持ちの租税対策はなんだか気に入らないわね……」

「まあ、仮に渡っても悪用はされんと思うから安心ではあるが……」

 

 無論その間もバンバン値段が進んでいく、安定した拠点で多少は収支が低空飛行とはいえ安定してるので、多少は渡り合えたがすぐにアルの貯金は尽きた。

 有無を言わさずムツキが自身の金を渡す、何というか圧が強くて「俺が出そうか」と言えない感じがある。

 流石に金の余裕がないか、ミレニアム生は脱落した、大概のミレニアム生徒はだいたい金欠だ、科学者や研究者に銭の計算はだいたい出来ない。

 

「一人脱落、後は二人か?」

「でも予算が!」

 

 同時に入金音が鳴り響いた、ハルカが真っすぐなまなざしを向けている。

 

「ハルカぁ……」

 

 陸八魔アルにも罪悪感は有る、いまそれを認識した。

 まあ流石に、というべきか経済的理由で立ち行かないのもあり遂にパテル系の生徒も観念した。

 無論まだ一人居る。

 最早租税対策と言うことを忘れてなかろうかと言う金額へ値段は行きつつある、まあ大方調子乗ってるんだろう。

 

「社長、これ隠し口座の奴」

 

 カヨコの言葉に、アルは涙ながらに頷いた。

 

「負けてらんないのよぉぉぉ! あんたなんかにぃぃぃ!」

 

 アルは決意を籠めて、額の桁を上げた! 

 なおその直前から金額暴騰は止まった、恐らく「租税対策にかこつけてなにしとんねん」と怒られたのだろう。

 まあヒートアップしたらそうもなる。

 

「取れたわ!」

「お疲れさーん。……あれっ」

 

 プラナがひょこっとメールを持って来た。

 

『送信者、白河スズ。件名、アビドスからのレポート』

 

 何だと思い、中を見た。

 書いていたのは『セリカの銃器を転売しようとしたアホを捕まえた』と言う話だった。

 

「……なあ、アルちゃん。これもしかして」

「……どうしてこう世の中って狭いのかしらね」

 

 ホシノへ電話をかけてみると、やはりと言うべきかアルの狙撃銃があった。

 

『うへぇ~それじゃあ身元確認はそっちに任せるねぇ』

「良いけどホシはどうすんのさ」

砂漠で神明裁判(ディズニーランディア)だねえ、ウェイストランドジャスティスってわけ』

「哀れな奴だなそりゃ」

 

 古来アビドスから伝わる雅なる尋問術だ、具体的に生存は保証するだけの状態にして砂漠で3日日干しにする。

 仮にくたばったら神様が怒った、生きてるなら神様はまだお慈悲を向けるべきと言う簡単な神明裁判である。

 

「……あそこもあそこでアウトローよね」

『大丈夫大丈夫、オートマタなら4日か5日は耐えれるはずだから!』

 

 俺は聞かなかったんだ、何も聞かなかった、アロナとプラナにそう告げて、知らないふりの為に通信記録は削除した。

 

 

 

 事件が終わり3日後

 アルちゃんが電話を入れてきた。

 

「先生、最近の電子化と、その需要思い知ったわ! 

 だからこの度私達も対応してみようとモモトークからURL送ったわ! シャーレもSNS作ってたでしょ! 

 便利屋のアカウント作ってみたの、依頼は今度からこっちからでも良いわよ!」

 

 普通にヤバくないか、それ? と思っていたが、やはり便利屋だ。

 後日ちょっとした騒ぎになるとはだれも思って居なかった。

 

 

 

 ケース5

 

 本庁舎の中でイロハがイブキと茶を飲んでいる、無論仕事はちゃんとした。

 具体的には広報誌の今月の表紙用に四角帽を着けてAH-64Eの前で写真を撮影したのだ。お陰で良い感じに仕上がった。

 

「便利屋もSNS作る時代ですか、自分達が一応危険団体扱いなの忘れてるんですかね?」

 

 アホちゃうのアイツらとスズがロールケーキを切り分ける。

 キキョウが百夜堂の試験メニューを用意して評価試験を頼まれたからである。

 シズコの野郎、生徒の幅が広いからってシャーレを試験紙にしてやがる、あんの商売上手。

 

「多分風紀委員に襲われない本拠地手に入れて一応所属忘れてないだけなのか、そうじゃないのか……」

 

 ため息を付きながらイロハが便利屋のアカウントを見ていたが、お目目が真ん丸になって来たので気になって覗いてみる。

 イブキが「なんか雰囲気ちがうー」ときょとんとしている、肝っ玉というかなんというか。

 

「昨日の猫探しましたの後の活動報告凄いことになってません?」

「ヘッダーまでオシャレにしちゃってまぁ」

 

 周りの連中まで集まってきて騒ぎになって来た。

 現在進行形で依頼が増えてるが、雰囲気やら何やらが違う。

 というかなんか依頼の構成人数がおかしくねえか、便利屋は何時から大規模組織になった。

 

「とりあえず電話するか……」

 

 事務所じゃない方の番号を掛けると向こうから慌てた声が聞こえてくる。

 まあ理由については察している。

 

『あっ、あら先生、どうしたのかしら?』

「アルちゃぁん、内乱ほう助系の依頼何時から受けてるよ」

『えっーと、あの、アウトロー的手違いとハードボイルドなトラブルがその、ね!』

 

 ね! じゃないがな。

 途中からカヨコが『ごめん、簡単に説明するね』と説明したが、あっさりと公式アカウントはスパムにリンク踏まされて乗っ取られたらしい。

 アカウントを乗っ取られ成り済まされて何か企んでいるらしい。だがアルにも面子は有ろう、今はそっと待ってやる。

 泣きつくなり良いトコまで行くなりすればそれはそれだ。

 

「おーい、SNS詳しい奴呼んでくれ」

 

 ユウカは2時間ほど前に仮眠を取りに行った、ここで起こすのは少し気が引ける。

 書類をペラペラとめくって、スズが「おっ」と誰か見つけた。

 

「チヒロさんがネットリテラシー講習で来てましたよ、会計殿に差し入れ渡してて思い出しました」

「グレイト。アルちゃんあてに対応リスト送信させておきなさい、いいな」

「介入はせんので?」

「こういう小賢しいくせにバカみたいな事する連中が便利屋に振り回されるまで待つがな」

「ひでえ」

 

 スズが呆れた顔をして内線電話を手に取った。

 

 

 

 カイザー本社、ジェネラルの私室にため息が漏れる。

 なにしてんだろうな、俺と言う無情なサラリーマンのため息だ。

 そんなジェネラルは今ボトルシップと向き合っている、サンティシマ……なんとかとかいう木造船、デカい奴という事しか分からない。

 悲しいかな彼は船舶や軍事オタクではない。

 

「ジェネラル、異常事態です」

 

 私室へコロネルがノックも特にせず入った。

 

「なんだ? これ下手に遅れたらお前もボトルで殴られてくれるのか?」

 

 会長のダブって購入したボトルシップ組み立てをやらされているジェネラルが、コロネルの方を見る。

 報告が送信されたタブレット端末を見ながら、コロネルが報告を読み上げた。

 

「わが社のDU支社の幹部が襲撃を受けました、敵対勢力は制圧」

「下手人の身元は? アナキストかなんかか」

「便利屋68に雇われた連中だそうで……」

「お前にも休暇が必要か? 何言ってんだおめぇ」

 

 寝言言ってんのか嘘ついてるのか、おおむねどっちかだろそりゃ。

 仮に事実なら投降はしないはずだ、連中は逃げるからな……。

 

「ちなみに真実だったらどうするんです」

「狙いか裏でも暴いてさっさと処理済事項にしとけ、変に停戦破りの口実にされても困る」

 

 まこと保身としては正解であった。

 

 

 

 シャーレ本庁舎前には敷地、すなわち中庭や駐車場スペースと、それらを囲う壁が立っている。

 そして本庁舎敷地を囲う壁には裏門と表門がある。裏は食堂類などの搬入から機材類搬入、表口は当然本庁舎に入る用がある人々向けだ。

 正門警衛詰所はラジオから流れるLouisiana Woman, Mississippi Manにちょうど気分が乗っていた、LBVベストにM249ショートバレルモデルの軽機を抱える警衛隊員は、ちょうど配置転換でアリウスから本庁舎へ交代されてきた頃だった。

 詰所前に立ってる彼女以外の警衛隊員たちは、ちょうどやって来たイブキの出迎えのヒナ委員長の確認中だ。

 たとえ連邦生徒会会長だろうが既定の手順である。

 

「あん?」

 

 後ろでヒナ委員長がイロハと話しながら、イブキの手を握るのを見ていた警衛隊員が走ってくる生徒に気付いた。

 やれやれとアンダーバレルグリップを握り、M249を構えなおす。

 明らかに近づいてくる生徒3名は普通と言う様子ではない、戦闘時、しかも民兵のそれだ。

 まともな作戦参加中と言う雰囲気じゃなかった。

 多分自爆テロやアホかアナキストかゲマトリアかなんかかもしれないな、彼女はそう思いながら一応「4S」 のルールに則った対応を開始した。

 立って、叫んで、見せつけ、それでも駄目なら撃て! というものだ。*3

 

「おい! なにやってる!」

 

 立って、叫んで、見せつけた。

 近づいてくる連中は明らかに敵性(ホスタイル)だが、まだ構えていない。

 しかし、正門へある程度近づいた瞬間、跳躍して武器を構えようとした。

 あ、駄目だ話が通じてねえやと警衛隊員は諦め、無言でM249を構えて撃ち込んだ。

 ドドドッと少し重い銃声が響き、無機質な官僚的手順で正確に撃ち込まれた5.56㎜弾は、近づく3名を容易くノックアウトした。

 ただ単に喧嘩が強いとか、そういう惰弱なあれこれではない暴力だった。

 

「お、なんだ自爆テロか」

「またスペックオプスか?」

「誰だよレムナント解体したって言ったのは」

 

 数秒しない内にぞろぞろとM4やモスバーグ 590のマガジン付きを構えた警衛隊員が正門前に展開する。

 警衛隊員のうち4人ほどが周囲を警戒し、2人がイブキたちを本庁舎へ射線を遮りながら移動させる。

 

「クリア!」

「こちら警衛司令、不審者3名制圧。危害意図有りとして実力排除、後送する。以上、報告終り」

 

 まっこと、理不尽なまでの組織的暴力のシームレスさだった。

 奥からMICH2000ヘルメットにOTVベストを着込んで、戦闘装備仕様のシャーレ本庁舎警備隊員が現れ、警衛隊員が制圧した3名を引き渡す。

 意識がまだ戻って無いので、隊員たちはずるずると引き摺って行った。

 

 

 

 自身が追いかけていた相手が逃げ足早く、シャーレ本庁舎へ突っ込んでいった。

 その時点で陸八魔には「先生に迷惑かけちゃう」というある種、心得違いと言うべき感情が膨れ上がっていた。

 なにせその大人は女性に関しては保守派な言動が多いが、自由奔放で男を振り回す女房を許しこそ男の甲斐性というたちで、要するに気にしない類なのだが、些か今日の陸八魔はアウトローではない。

 まあその感情も警告後はM249の射撃を躊躇わない警衛隊員を見てやや落ち着いたが、代わりに申し訳なさが湧いた。あまり他人に迷惑をかけるのは耐えられない。

 しかし陸八魔には退けない理由があった。

 

「ここまで、ここまでされて先生に泣きつくなんて、そんなザマじゃ駄目じゃない!」

 

 それは便利屋全員が理解していた。

 だが思い込みや気概がどうあれ事態がまるで進まない、無論であるがそうやすやすと出来てたらそうはならない。

 

「これ以上みっともない所なんか、見せてられないのよッ!」

「いやぁ、困った時には頼ってもいいと思うんですけどね、えへへ……」

「……ギャーッ!」

 

 陸八魔アル作戦会議モードが、突如しれっと闖入者として入ってきたヒヨリに打ち切られる。

 流石に便利屋全員からしても、何食わぬ顔で現れるヒヨリには驚愕し、身体を震わせた。

 基本的には無害で特に恐いわけではないが、それはそれとしてこの一見無害な人々はどういう力を行使を出来るかはよく知っている。

 

「あ、お邪魔してます……」

「あー……びっくりした……、肝が冷えたわ」

「えっとその……先生からです」

 

 終わったァ! 陸八魔アルの脳裏に浮かぶは廃業通告! ブッダ! 株主の期待を裏切った企業の運命は一つだ! 

 放心して口から飛び出す陸八魔アルのなにかを押し込みなおし、ハルカとムツキが再起動させた。

 

「シャーレ本庁舎にカチコミするようなバカは俺も鬼ごっこ参加するから、どっちが早く捕まえれるか競争……だそうです」

 

 ヒヨリが、そっとメモを置いた。

 過去の経験から恐らく先生たちを警戒して、海だろうと書いていた。

 

「まあ、先生たちはまずは下から叩くそうなので……えへへ……失礼しますね」

 

 ヒヨリはそれとなく、拘束された面々の通信ログとIPの位置も”何かの間違いで書き記した”が、ヒヨリは何も言わなかった。

 いやきっとうん、何かの間違いであるから、後で怒られるだろう。

 もっともその事は特に恐いと思わなかった、これがいま自分がしたい事なのだ。

 

 

 

 ヒヨリの”ミス”から、先生より先んじて船舶へ向かった便利屋が目にしたものは中型ではあるが客船であった。

 なにせそれもそのはずだった、ブラックマーケットで黒亀組大崩壊の後をのし上がった新興のチンピラの頭目だからだ。

 ただの金持ちと言う訳ではなかった、それは分かる、普段なら通報だけで済ませた。

 だが、この日の陸八魔アルは、今日この瞬間、最高にアウトローな、アウトレイジな気分だった。

 

「たかだかチンピラに舐められっぱなしであたしらアウトローって名乗れないのよ!」

 

 だと思った、と笑って自身の社員が武器を確認するのを見て、アルは深い充足感を感じた。

 

「カヨコは昇降口爆破、ムツキとハルカで船内通路を破断、私が最上部から甲板を制圧する。

 誰一人として逃がさないで袋にしてやるわよ!」

 

 今日の社長、一段とアウトローだなあと思いながらも社員たちはやるべき事を始めた。

 戦闘に関しては、ある意味一方的なまでのものであった。

 計画された奇襲、カヨコの情報処理能力とムツキ・ハルカの爆破による攪乱、更に混乱を追いうちするアルの狙撃の攪乱。

 孫子に曰く、勝ち易きに勝つと言うが正に今の便利屋の勝率は限りなく高かった。

 単純に頭が回る指揮官が技量優秀な面々をサポートして早々敗ける事はない、アビドスで先生に負けたのは指揮官の経験量と基礎的構成員の質が足りないからだ。

 ある意味理事の選定眼は正しかった。

 

「ん?」

 

 甲板から出ようという敵をあらかた排除したが、アルの視界へ嫌なものが見える。

 前部甲板から出て来たものはカイザーのPMCパワーローダーの改造品だ、片腕がGAU-19なのは変わらないが、肩部武装が赤外線投光器とミニガンへ変更されている。

 

「パワーローダー!?」

 

 そう、パワーローダーとはキヴォトスにおける人型歩行車両である。

 この全体的に箱型であるパワーローダーは正確には人型機械であり、高所作業の重量物などを輸送し、港湾荷役などで用いられ、民生品として使われる。

 しかしうまく使えば軽トラでも軍用兵器へ大変身する今日この頃、パワーローダーも改造され、兵器になった。

 オレンジ色の機体カラーをそのままにミニガンや有線誘導弾、ロケット弾を片腕に積んでテクニカルとして用いられるケースもままある。

 ではなぜ、軍用パワーローダーがシャーレの装備では見ないかと言うと簡単だ。

 ……夢がない事を言えば、結局軍用化して武装化して装甲付けたが、ただの軽装甲車以下にはイきれる程度でしか無かったのだ。

 ただし、対戦車火器もないとか、非大規模組織にはめっぽう強かった、たとえば今の便利屋である。

 

「大きなお世話よ!」

 

 軍用パワーローダーがGAU-19を12.7㎜を乱射し、忽ちにアルの周囲が砕け飛ぶ。

 走り転がり壁にぶつかりながらも、応戦はするがアルのPSG-1はまるで弾かれている。

 用廃と言う名目で流された軍用パワーローダーは、正面12.7㎜への防弾に対応しているからだ。

 これを言うと強いように思えるが、逆に言えばちゃんとした機械化部隊が来た瞬間、詰みである。

 なにせBTR80Aの足が生えた版でしかないからだ。

 

「ええい、あんな奴らが出るなんて聞いてないわよ」

 

 アルはそう言いながらも、サイドアームの擲弾拳銃を撃ちこむ。

 以前のホテルの戦いからサイドアームを持ってみた。しっくりきたカンプピストルである。

 しかしアルの放ったカンプピストルの擲弾は、正面の傾斜部に飛び込んだはいいが逸らされて空中で爆発した。

 

「なんでそうなるのよおお!」

 

 GAU-19が弾切れし、装填しながら肩のミニガンを掃射する。

 50口径の弾雨は今は止んだが、どだいすぐに再装填されるは必定だ。

 

 

 

 そんな甲板の死闘を、遠巻きに眺める者たちが居た。

 その者たちはオートマタだったが、客船のオートマタとは明らかに雰囲気も姿も違う者たちだ。

 肩にははっきりとカイザーPMCではなくカイザーコーポレーションのマークが描かれている、カイザーのSOFだが、現状は監視任務中だ。

 

「オイ、あの狙撃手の姉ちゃんも流石に負けてるぞ」

「AT火器無しじゃきついからなあ」

 

 何処か他人事なのは、取り調べの結果と、シャーレの交信頻度の急増から無関係な奴が仕掛けたことが分かったからである。

 そうでなければさっさと帰っている、面倒な治安業務なぞ我々のする事ではない。

 DU支部の派遣チームである彼らは、要するに人の軒先でクソしたバカ犬の飼い主が知りたいだけだ。

 

「どうするよ、なんかするか?」

 

 観測任務中ではあるが、SOF隊員らにはそれなりの意見があった。

 代わりにクソ野郎をボコボコにするのなら、まあそれもまたよかろう。

 

「だがあいつらあれで、うちのストライクチームを撥ね退けてるんだろう? 交戦データの方が欲しいと思うがな」

 

 チームリーダーが自身のバイザーを調整した。

 視界にさっきからデータリンク時のノイズが入りだしている、ハンドサインで即座にリンクをカットした、シャーレの特務も動いてきているという事だ。

 

「お、麗しき人魚」

「フロッグマンどもか」

 

 スポッターが水面を指さす。

 水中から突入に備えだしたシャーレの連中が微かに見えた。

 

「……ま、俺が怒られればいいか」

 

 狙撃手へチームリーダーがハンドサインした。

 M110A1を構えたスナイパーが、APHEを装填し、パワーローダーへ狙いを定める。

 消音器から飛び出した弾丸は、完璧にミニガンのガンベルトを撃ち抜き、ぼんっと発火させた。

 

「おみごと」

 

 要するに儀式なのだ、この狙いすました一撃を我々は未だに容易に行使できる。

 まあ、後は子供たち次第だ。

 

 

 

 ミニガンの突如の射撃中断は、陸八魔アルにはすぐに異変を気付かせる。

 パワーローダーも突然射撃が停止したので、装填動作はほぼ終わったが動きに混乱が見える。

 瞬間、アルの脳裏に活路が見えた。

 動線にしたがい、アルは走り出す。

 

「いまっ!」

 

 まずは標的に斜めに走ってGAU-19で制圧をさせ辛く、そして甲板の手すりから跳ぶ! 

 GAU-19は左腕に固定装備されている以上、右から跳ぶアルを撃つには胴体ごと動かすしかない。

 しかし残念ながら胴体ごと動かせば、左腕の照準のブレは大きくなる。

 

「これでぇぇぇ!」

 

 突入するアルの気迫に、一瞬パワーローダーが怯んだ。

 アルはその瞬間、無意識ににやりと笑った。

 ”お前、いま、臆したな? ”

 全てを見透かすような悪魔的な顔だ。

 一瞬生まれた射撃の隙から飛び込んできたアルに、瞬間的に躊躇った事でパワーローダーへアルが飛び乗った。

 狙撃銃をもっとも薄い天盤へ連射し、チタン製のバレルから飛び出すとっておきの強装弾は弾片防御限定の効果しかない装甲を撃ち抜いた! 

 動力や基盤類を胴体へ貫通させて破壊した事から、パワーローダーがガクッと崩れて膝をついた。

 

「アル様~!」

 

 ハルカを先頭に、便利屋の全員が合流する。

 流石にパワーローダーが出てくるとは思わなかったか、カヨコ達もやや驚いている。

 

「おぉ、こりゃまた……」

 

 ムツキが「呆れた戦果だねぇ」と笑いながら言った。

 シューっと音を立てながら、煙と炎が噴き出て来たので離れようとすると、コクピットからパイロットらしきオートマタが拳銃を構えようとした。

 だが、パイロットが撃つより、便利屋が撃つ方が当然早かった。

 打ち倒されたパイロットがボトリと落ち、仕上げとばかしにカヨコが手りゅう弾を投げ入れる。

 ドン! と爆発したパワーローダーの破片は、ハルカが当たらないように社長を庇った。

 

「共同戦果1つね!」

 

 Vと恐らく支援先の火点へ、陸八魔アルはハンドサインを送った。

 

「ファック! あのガキ俺達の火点掴んでるぜ!」

 

 チームリーダーは「舐めてかかるとヤバいもんだ!」とさっさとチームを撤収させた。

 無論そんな事を全く知らない陸八魔は、達成感に満ちた笑顔であったが。

 

 

 

 シャーレの本庁舎で、先生は事後報告書を読んで困惑した。

 今回のチンピラが騙りにアカウントを乗っ取り、カイザーの人間などを襲撃して、再びシャーレとカイザーが争うように仕組んだ……とまあ稚拙で杜撰な計画が真相だ。

 大方、俺が一方と戦う間は片方をある程度放置すると考えたのだろう。

 ヴァルキューレ警察学校を再編したのは安定化作戦もあるが、お前らみたいなクズどもをカンナたちで潰せるようにするためだよバカ! 

 

「しかしまあ、大物喰いだなアルちゃんは」

「不思議ですよねえ、あのパワーローダーどうやったんでしょう」

 

 ヒヨリは俺の冷蔵庫のアイスを齧っている、良いけどさ、許可したけど、美味そうに食べるよなおまえ。

 今回ヒヨリはちょいとした不注意で始末書という事になる、まあそう言う事だ。

 

「ミニガン壊したのお前じゃねえの」

「私そんな器用じゃ無いんですけどね……えへへ」

 

 ……ミニガンが捥げるよなお前のそれだと。

 うーむ、訳が分からんから陸八魔アルが空間でもねじったとしておくか、うん。

 

 

 

 ようやく完成したボトルシップを上納して、ジェネラルは部下からの報告に首を傾げた。

 

『つまりですね、あの便利屋は我々の火点に最初から気付いてたんじゃないかと。

 つまりこうです、便利屋は実質シャーレ特務』

「ラリッてんじゃねえぞバカ!」

 

 そんなことあったら世も末だバカヤロー! 

 悪魔はもう十分間に合ってんだ、増やすな馬鹿! 

 ジェネラルは付き合ってらんねえよと、また退職金の計算と言う現実逃避へ帰っていった。

 

*1
その首魁がなんか言うとるで

*2
元ネタが知りたければ武器を売るニコラスケイジの映画

*3
元ネタは米軍の占領地での交戦規定




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誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。

原作のどっちを見たり知ってます?

  • 長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
  • ブルーアーカイブだけは知ってます
  • どっちも知ってます。
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