キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
定期的に行われるシスターフッドとの会議が終わり、帰る前に飯でも食おうかとふと歩く。
トリニティの地域ではあまりフィンガーフードと言うもんが多くない、というかコンビニも若干少ない。
ゲ―テッドコミュニティのあんま良くない点だよなぁとは思うが、すぐには変わらん。
「ねむーいなぁ」
なんでシスターフッドらと会議してたかと言うと、簡単に言えばアリウスのバシリカなどの宗教施設の塗装や色合いの整合性確認である。
まず資料を探し、適切にあてはめて……本来ならばベアトリーチェのバカがやるべき事だが、あのバカじゃあ無理だ。
そんな訳でお供もたまたま空いてたD分隊の分隊長の久留木シイナしかいない。
ガリと眼鏡とスケベと狙撃狂の4馬鹿集団だが、分隊長はガリガリなだけの官僚軍人のSRT3年生だった奴だ。
「自分が、でありますか?」
シイナがちらりとヒヨリを見たが「政治的事情」というと「なるほど」と頷いてついて来た。
アホがなんかもめても俺には良いんだがあっちが困るだろと言う訳である。
分隊長を連れて来た理由はうるさい狙撃手、ハナコ並みにスケベの擲弾手、アヤネの眼鏡について熱弁する下士官しか他に居ないからだ。
能力重視でスカウトした結果がこれだよ!
「作った最初の特殊部隊が別の意味でイロモノになるとはなぁ」
「自分は違いますよ」
「お前からはスズの同類の匂いがするんだよ」
「女子高生が悪いにおいするわけないでしょうが*1」
これでもちゃんと仕事ができる奴らなんだがなぁ……。
そう思いながら歩いていると、ふと聞き慣れた戦闘騒音がした。
どっかのバカがなんかしたかな。
シイナに行くぞとハンドサインすると、スズミの奴が戦闘している。
「スケ番か、小突いて脅かしてやれ」
「簡単に言ってくれますね……」
そうは言いつつも、Protec Fullcutを深く被って、ACR自動小銃の6.8㎜弾仕様を構えなおす。
スズやシイナはACRを愛用しているが、他の隊員と違いシイナは弾薬が6.8㎜で火力重視だ。
規格違いは面倒だがヘビーなオートマタ相手では6.8㎜も見直しで採用され出した。
ガリではあるがこいつはこいつで火力キチなのだ、サイドアームがデザートイーグル50AE弾仕様だからなぁ。
「
スケ番が”ぎょっ”として真横を見る。
SDU-5Eが後ろについたProtec Fullcutに、Nomexの手袋、Point Blank ボディアーマーの上からALICE モジュラーベストを着ている奴がいきなりACRのライトで照らすのだ。
ベルトもびっちりとBHIのドロップレッグにピストルマガジンポーチやランヤード、LBTメディックポーチやらが並んでる。
どう考えてもあまりキヴォトスでも見ない装備類だ。
「なんだお前ら!」
そう叫んで慌てて立ち上がった不良がスズミに側面から撃ち抜かれる。
喧嘩は出来ても戦闘が出来ない不良らしい敗け方である。
もう片方の不良はビビって逃げ出そうとしたが、スズミが足を撃ち抜いた。
「……お前よくこんな夜中で撃ち抜けるなぁ」
思わず拍手した、暗い中で当てれるのは中々珍しい。
「あ、先生」
「ちょいと帰り道の途中だったんだが……」
「お疲れ様です」
スズミが自分とシイナに一礼し、正義実現委員会ではなくヴァルキューレが駆け付けて来た。
そういやここら辺は境界線近くか、そんな事を考えていると不良が這って逃げようとしていたので、一応護身用のファイブセブン拳銃を抜いて連射する。
無論まるで当たらない、俺の近代以降の銃器相性は良くないらしい。
前にサオリとかと試したがてんで駄目だった。
「公権力が市民に過剰暴力加えて良いのかよ!」
「市民以下の犯罪者に何言われても響かねーよ、バーカ! 今暴れたし逃亡しようとしたから加点だ! 公務執行妨害追加だな、48時間仲良くしような」
「血も涙もねえのかよ!」
「願うだけ無駄だよ」
偶に頭の良さそうな言葉を使えば助かると思ってるバカが居る。
俺に何か言って逃げようとするが、舐めたこと言ったやつを分からせてきたが、まだ分からん馬鹿が多いようだ。
なお後で呆れた合歓垣の奴に「……逃亡中の射撃マズくない? 警職法7条的に」とは言われた。
威嚇射撃だと言い張る事ですっとぼけた、外してて良かったわ、うん。
翌日、エデン条約機構の活用でお話が来たと思ったら、内容は魔法少女である。
とうとう自分の頭が可笑しくなったかと眩暈がした。
ゲヘナ・トリニティの境界線に居座る遊園地とかまず、誰だ建設許可したのは! と叫びたいが、それを差し置いてもなんで魔法少女なのだ。
「魔法少女だってよ、ミサキあたりにやらせるか」
「え、え? ……本気で言ってる?」
ミサキが正気かと言いたげな目で見て来た。
本気じゃないよ、おとなの現実逃避って奴だ。
「スズあたりをお供の魔法妖精にでもして」
「スタナグちゃんいつもボコられてんすけど……」
「そうなんだ……」
スズ曰く「昔見た記憶だと3話に一回くらいのペースで轢かれるか拉致されるか撃たれてる」らしい。
なんでも3期だと4話連続でスタナグちゃんが無傷という快挙が起こり、一番”長持ち”したと祝祭まで開かれたという。
ちなみにその後マジカル・AGM-130で吹き飛んだらしい、塹壕戦くらい消耗ペースが速いなオイ。
ネットの紹介サイトを見ながら、思わず顔を顰める。
「なぁユウカ、テルミット反応って何色だったかなぁ?」
「オレンジ色です」
「ピンクや白は?」
「燐でしょうね……」
テルミットってカラフルだっけ……? と聞いたがやはり俺のが正しいらしい。
困惑した法務将校が「ここのオフィスに居るのは魔法少女の対義語の人間しか居ませんよ」と呟いている。
「おめーの頭の上でテルミット反応実験するぞ、おい」
「前ミキサー車でテルミット大量に作ろうとしたこと忘れてませんからね」
「科学の実験でもトンクラスでテルミット使いませんからね?」
ユウカと法務将校に呆れられたが、それ以外でも使うのだ!
「だって色々試したかったし、ほらドローン投下式テルミット爆弾とか便利じゃん」
「カルテルじゃないんですから……過剰暴力になるんで止めて下さいよ」
しかし、シャーレや正義実現委員会が表立って介入するにはマズいからと言って、魔法少女をやろうと言い出したの誰だよ!
今のサブカル何て俺に期待されても困る、最近映像作品も見始めたが移動や仕事の横で流し見してるぐらいだ。
そう言っていると良く響く声で「宇沢レイサ入りまぁす!」と声がしてドアが開いた。
「あ、自警団とこのか、打ち合わせか」
「はい!」
そう言うと同時に、宇沢がリュックから何かを取り出した。
「あとこれ! ヘヴィキャリバー小説版です!」*2
「あるんだ……」
「はい! 全3巻外伝2巻です!」
これなら確かに俺でもすぐ分かるな! ……しまった「俺は詳しくないから」という逃げ道が潰されたぞ!
更に整備部から「被服調達準備完了しました!」と報告が入ってきた、クソッ! 趣味人共が!
「スズミさんがテルミットホワイトで、私がピンクです、先生たちにも用意してますよ?」
「用意? 待て、たちってなんだ!」
「だって護衛の人もいますよね? 擬装も必要かと」
そうやって持ち込まれたのは、妙にワインレッドのカラーのフォーマルな制服にフードと仮面だ。
明らかに善人ではないよな? と宇沢に顔を向けた。
「先生に用意したのは劇場版及び4期から登場する悪の大幹部! そうグランドマーシャルです!
非常に知略に優れた悪役で仮面のミステリアスさと、声だけで感情を表現するという作画に優しく想像力は働かせることもできる塩梅で、正に4期以降以前問わず濃い悪役で、出て来たシーズン・エピソードは少ないながらも深いキャラクター性で極めて人気が高いキャラクターなのです!
この中で先生がもっとも適役で活かせるキャラクターです!
あ、小説3巻冒頭から実はこの人の過去が
以下、中略。
というわけで先生が着て下さい」
仕方なく着替えてみた。
黒いフード、白い仮面、紅いスーツに黄色のネクタイと黒いシャツだ。
そのまま左手を背中へ回し、右手を僅かに挙げてみる。
「”見よ! しもべたちが自らの義務を忘れた結果がこの荒れ野である!
我らはこの荒れ果てた世界に、秩序と安寧をもたらさねばならないのだ。
諸君! あと一歩、あと一歩の献身が諸君らにかかっているのである! ”」
「凄いです先生! これです! これこそです!」
宇沢は大興奮しながらスマホで撮影しまくっている、俺としては止めて欲しい!柄じゃない。
ユウカは唖然とし、アリスクは困惑し、スズたちは腹抱えて笑い転げている。
「なんかの機会が有ったらスタナグちゃんの中の人をジェネラルにやらせようかな」
そう思いながら計画を練りつつ、残りの着替えを見る。
「これは?」
「あ、そうでした! これは護衛の人に向けてのものです」
「そうか、白河! お前詳しいだろ、来い」
「へ?」
着替えて来た白河の恰好は黒いベレーに白線の書かれた黒い仮面、紅いスカーフに黒いスーツの姿だった。
「これグランドマーシャルのところの黒十字団じゃないですか!」
「でも一緒に居てもおかしくないですよね?」
「……」
宇沢の完璧な反論でスズは黙りこんでしまった。
なんでも作画の浮いた余裕を新しい敵を出して見栄えを変えるのに使ったらしい。
設定資料を見ていたプラナがカンペでそんな事を書いている。
取り敢えず、小説版読むか……。
ヘルメット団の団長、ラブは信じられないものを見た。
ある種の副業を始めているわけだが、ラブの視界に映るものは依頼とか、そんなレベルじゃないものである。
「……あれ多分先生だよね」
自身の眼がおかしくなったか? とラブは目を擦った。
無論たしかにそこにあるものは真実その通りそこにある。
「先生ですよね」
「だよなぁ」
「っすねー」
仲間のヘルメット団も確かにそうだと頷いた。
やがてどうするべきかと言う考えが過り、まさかと思って近づいてみる。
「……先生、だよね? また何かしてるの?」
違うのか、違うんだったら少なくとも世界には3人そっくりさんがいるという事になるが。
無論ラブの予想は外れた、ちゃんと先生だった。
結果として先生が何故かコスプレしてて、待機部屋に近い場所で小説版ヘヴィキャリバーを読んでる事になる、これはこれで別の問題がある。
「気にせんでいいよ、そろそろ仲間と一緒にヘルメット団廃業したらどうだ?」
「えー、でも私らなんかいまいち、組織になじめなくて……」
「そう言いつつお前らだいたい俺の講義には来てるよな? 週3回はいるだろ」
「えっ?」
ラブはややギョッとした。
確かにシャーレ本庁舎などで復員計画も兼ねて行われている授業には、ラブはそこそこ出ている。
ちなみに録画版はシャーレ食堂の食券付きで格安販売されているから、遠方でも見れる。
「数名眠そうなのとか居るが寝て無いのは褒めてやる」
「全員覚えてるの?」
「ったりめーだろ、俺の指揮下で働いた奴が自分の講義に来てるんだからな、どれの話が好きだ?」
「……先月突然クレープの美味しい焼き方について話して作った家庭科授業」*3
「あー! あれか! あれは楽しかったなぁ」
ラブは若干動揺したが、どうしてそんな恰好をしているか尋ねた。
先生はやや困った顔で「仕事さ」と短く言うと、ラブは「つまりどう言う事よ……」と困惑の色を深めた。
「先生、準備終わったそうです」
テルミットホワイトの恰好をした変な女……確か自警団だったか? が出て来た。
「あの、これも仕事なんスか?」
仲間も困惑し、尋ねる。
「まあ、うん」
「……シャーレってよくわかんねえなぁ」
「スズミの好きな音楽にもあるだろ、
「先生、それジャズです」
相変わらずワケわっかんねえなとラブ達は困惑が更に深まったが、先生がふと尋ねた。
「というかお前ら万年金欠が良く来れたな、どうかしたのか」
「先生じゃないけどこれも仕事よ」
「へぇ、具体的には?」
「ある人を捕まえて来いって小鳥遊ホシノから依頼されたのよ、正確には捜索または捕獲で」
先生は「深く聞きたいな」と告げた。
ラブが思ったより口の軽い、というかシンプルな思考をしていて助かった。
シミコが聴いた話と組み合わせて考えてみると、全て辻褄が合う。
まずホシノがセリカに安物売りつけた奴にキレて、以前からコネがあったラブにヘルメット団として調査を依頼し、ラブ達は何も知らず俺達が待機してたここへ襲来してしまった。
……こいつら無実なんかい!
「あたしらだってそれなりに危なくない橋を渡るに決まってるじゃん」
「ポリに勝てねえし」
「なまじ下手なトコ襲う馬鹿が居るとねェ」
ヘルメット団団員たちがこちらを見ながら呟いている。
やるならやるだけの覚悟を見せて頂きたい、と言うだけだ。
覚悟も度胸もないくせに、権利意識とかそう言うのは高く声高に叫んだりするのは得意とは一体全体何考えてんだ?
無論そんな奴は嫌いなのでブチギレるのである。*4
「組織暴力だからな、弱肉強食の時代って仮に成立しても長続きはしねえんだよ、乱世は短く終わるもんだ」
リコリス*5を味付けに入れた水をグイッと飲む。
実のところお粗末と言えるヘルメット団ではあるが、これでも不良やスケ番の更にお粗末な連中よりは組織化されてる方である。
マジで組織化されないと最低限の土俵に上がれない事は存在するが、戦闘はその最たる例である。シャーレが近接戦を相手に強要するのは確実に敵をモラルブレイクさせるためだ。
無論一定以上の敵は火力戦である、鉄量が全てを解決する。
「組織化、ですか。
……自警団もそうするべきなのでしょうか」
「いや無理じゃねえかな、往々にしてこういう民兵は組織化するより合併される方が良いし、組織化されない方がいい事もあるぞ?」
スズミが「え?」と首を傾げた。
「組織化っていうのはぶっちゃけ、大義名分や努力目標が必要になるんだ。
だが民兵に努力目標や大義名分を構成させる共通理念って漠然とし過ぎてるんだよ。
曖昧模糊な事の幸せさ、とでも言えば良いかな、民兵の曖昧な理念は案外過激化への抑止にもなるんだ。
……それはそれとして腕章かなんかで分かりやすくすると良いぞ」
「腕章?」
「白い布や、黄色のスカーフ巻いたりするんだよ、敵味方の誤認も減るしスズミもたびたび他の自警団と協力作戦してるだろ? *6
案外緩い民兵ゆえの悩みだけど、それ故に良い事もあるし、お前らちゃんと正義実現委員会や我々とも協力してるからこれはこれで人の為になってると思うがな」*7
自力救済の必然的な決着点だよなぁ、民兵はよ。
そう考えていると、スズミがぼそっと「私は組織に向かないタイプですから」と静かに独り言ちる。
「そうか? 技量が有って良いと思うが」
「……私は集団には上手くなじめなくて」
「分かる分かる、俺も昔学校馴染めなかったんだよなぁ」
ラブとスズミがギョッとした顔をした。
「……そんな意外か?」
「いやまあ、確かに先生どこか壁を作るようなそういう所は有るよなぁって」
「確かに言われて見たら納得はしますが……」
「二人してなんて言いようだ、お前らもそう思うよな」
ヘルメット団団員らを見るが1人は視線を逸らし、一人は狸寝入りしている、ヘイローついてんの分かるぞコラ。
呆れた連中だと言いつつ、スズミへ視線を戻す。
「まあ密集しがちな兵隊生活が苦手な奴もいるよな、考えすぎだと言うのは容易いけど、すぐに馴染めるモンでもないし……。
それでもちゃんと自分なりに正義を見つけてそれに順じて奉仕してるなら、別にそれは正義なんじゃねえの?
少なくとも、俺はお前にあげた二つの勲章はそう信じて授けたぜ」
スズミはやや照れ臭げに顔を逸らした。
これでもスズミは首都暴動鎮圧時の協力で民間協力章を、色彩襲来時に防衛記念章を授けている。
ちなみにラブちゃんはアビドス参戦勇者のアビドス作戦章と防衛記念章、宇沢の奴も防衛記念章とヴァルキューレから協力の感状を授与されている。
なんでもこいつが合歓垣に初動の事を気付いて話したせいでヴァルキューレの一部分署が即応できたかららしい、ずいぶんお手柄である。
「そういやお前らアビドスにコネが出来たんだな」
「先生たちがワカモに取られたお家吹き飛ばしたじゃん!」
「過去のことは過去のことだと思うの俺」
「ひでーや!」
ヘルメット団団員からも抗議の声が上がるが、そもそもあのホバークラフト重武装過ぎたろ。
「で、その事をラーメン柴関でヤケラーメンしながら話してたら、バイトの子が世話焼いてくれてね……」
「はえー、優しい奴が居るもんだ」
「だから最近はアビドスの子達や、子ウサギ公園の子達や便利屋と賞金首狩りを」
「うーん暴力の収斂進化だなぁ……」
こうして組織になじめない無頼の輩は淘汰されるわけだ。
「まあ、こうしてローンウルフな悪党は廃絶されていくわけだが、善意の第三者は消える事はねえ。市民の自衛権は否定されてねえんだし、別に個人的にしてても良いんじゃねえの?」
「……そう、思いますか?」
「何も無かったら”無くて良かった飯が美味い! ”以上でもないんだし、誰も困らんなら別に全員幸せで結構なことだろ」
すると、スタッフから「そろそろお願いしまーす!」と声がかかった。
急なイベントではあるが、正規スタッフが何故か来れなくなった。ハイランダーでスケ番にキレてレンチを振り回して暴れる整備員が戦闘してるらしい。
心当たりがないではないが、俺の責任じゃないと思う。
取り敢えずラブちゃんに軽く協力を願うと「焼き肉奢って」と言われたので「デザートとドリンクまでつけてやる」と返した。
吾妻ミライはやや困惑した、舞台にどっかで見たような雰囲気の人たちがいる。
しかもなんか、普段の様子と違う。
ミライ部長の脳裏に「あれ先生だろ」と「いやあんな格好しねえだろ」と「いやでも先生だろ」という思考がオーバーフローしている。
なんで先生が悪役の恰好をしているんだ。
舞台がボン! と爆炎が上がり、そのわざとらしい特撮火薬の爆発の煙と同時に黒づくめの連中が出て来た。
確かそう、この先生の恰好に仕えてる奴だったはずだ。
『久しぶりだね、魔法少女の諸君。
あいも変わらずマジカル・ナショナルガードなどという秩序も無い組織を続けているのかね?』
堂々たる立ち姿で現れる姿と妙にそれらしい台詞に、背景でG線上のアリアを流しているのは果たして誰の策謀か。
テルミットホワイト・ピンクが現れ、スポットライトで照らされる。
「フィードランプよりチャンバーへ……6条右回りの魔法よ! 揺ぎ無き力を!」
「モンローノイマン・マジカルジェット! 6条右回りの魔法よ! 正義に力を!」
2人の掛け声と共に、決めポーズと炸裂する閃光弾が光を照らす。
「「貴方の野望は必ず止めます!」」
『ほう? だがそうやって抵抗するのは織り込み済みでね。
一つ対策を用意したよ』
パチンっと指を鳴らし、スポットライトはもう一人を照らす。
なにやら日曜朝には相応しいかやや疑問符が浮かぶデザインをした女幹部のエラが出て来た。
「オーッホッホッホ! 悪の騎士団幹部のエラが仕方なく協力してあげるわ!」
『甲高い小雀は良く鳴くがそれも世の習わしかな』
やれやれと辟易したような姿は素なのかという事を思いながら、舞台では悪の騎士団幹部のエラが出てきた。
ミライの脳裏に昔に見た劇場版の記憶がふと思い出される。
確か劇場版魔法少女ヘヴィキャリバー<マジカル☆ガネフ! 煌めけナイトホーク>、6作目の映画で出てきたよなこう言うシーン。
そう、先生の演じてるグランドマーシャルが「アライド・フォースという訳だ、普段より数が増えたわけだね」と余裕綽々で語って……あれ? そういやあの作品冒頭初っ端からシルバープレートから吐き出せと物を持っていかなかったか?
『では行こう。スーパーキャッチ作戦開始!』
やっべ、小説版仕様だ。
そうミライが認識した瞬間、黒づくめに仮面と黒ベレー帽の者たちが現れる。
『それでは悪徳資本家にはきっちり吐き出して貰おうか。これも仕事でね、恨んでくれるな』
スタッと妙に様になる舞台の降り方をし、いつの間にか二列の縦隊から歩きながら横隊へ変わっていく。
黒十字団員特有の無機質な集団的暴力の凄さだが、銀幕の向こうでは無く実体験はしたく無い。
慌ててミライは支援要請を行った。
無論集まって来るのは擬似科学部の部員だけである、この案件はニヤニヤ教授とかは特に関係なく活動資金確保の為である。
境界線であるならエデン条約が締結されてETOの統合指揮運用されているといえど、どちらかが主導権なりを握らねばならず活動が遅れる、コレは連合作戦の宿痾であるから組織の良い悪いではなくて風邪と同じく避けられないものだ。
気をつけていようと起きる問題だから、適切にその場その場で対応するしか無い事である。
『やりたまえ』
黒十字団員らが電磁警棒を抜き、疑似科学部員達を忽ちに排除する!
元よりミレニアム生徒のモヤシでは肉弾戦は不可能であるし、銃器があると言えど反動制御や火線構築も駄目な場合では、直ぐに近接戦で揉み潰されてしまう。
しかもCQCなどの専門教育と集団戦教育がこの場合非常にまずかった。背負い投げられ、拳が飛び、時々PepperBall TRPから撃ち出されるペッパー弾をもろに喰らっている。
数秒の間に前列が崩され、瞬く間にミライの逃げる背中を追う黒十字団員らが迫りくる。
走って何とかなる段階ではないのである。
『シルバープレートくん、無駄な抵抗は止めたまえ。
君は人質にもなるのだからね』
「くっ! 例え悪と言えど人質は迂闊には!」
「なんて卑怯な!」
『卑怯も辣韭もあるものか。どだい最後は勝てば全てだよ。
勝利は全てを肯定する』
ミライ部長は内心「魔法少女でも光の巨人でも良いから助けてくれないかなぁ!」と嘆いている。
「ほーっほっほ! こうなればあなた達も形無しね!」
エラの高笑いの中、観客席から「ヘヴィキャリバー! かんばれー!」と言う声と、光が輝く。
なにかヘルメット団団員らが子供らに配って……ライト? いや、あれは。
「みんなもマジカル・ストロボを振って、ヘヴィキャリバーを応援しよう!」
子供たちが振っているのは、魔法少女ヘヴィキャリバー劇場版第一作で出て来たマジカル・ストロボ!
ちなみにこれを振る事でマジカルナショナルガードは進化してマジカル・マリーンズにパワーアップするのである。*8
それと同時に、テルミットホワイト・ピンクの衣装が光り出した!
LEDを仕込んで作ったシャーレ整備班の遊び心だ! 予算は各員の持ち出しであるから会計もご安心である。
『馬鹿な! 規律ある民兵など分権論者の生む幻想にすぎぬ!』
「正義を願う心が有れば!」
「立ち向かう意思があれば!」
「「愛と正義は絶対勝ちます!」」
飛び出したテルミットホワイトとテルミットピンクは迫りくる黒十字団に敢然と立った。
迫りくる敵に裏拳! 背負い投げ! 蹴り落とし! 怒りの拳を叩きこむ!
無論実際には手順通りのスタントである、格闘訓練などの経験からこういう感じと日頃の組手の延長線で行っているのだ。
あっという間に黒十字団を蹴散らした魔法少女は、2人でそのマジカル・ステッキを振り上げた。
「煌めけ魔法の力!」
「爆ぜよ全ての願いを込めて!」
「「マジカル・ブロークンアロー!」」
ステッキ……無論実体はRPG-2改造のステッキが撃ち出した弾頭は、ミライ部長の腹部へストレートに入ると彼女ごと空中へ跳ね上げて、バンと炸裂した。
全てが終わり、一日が過ぎた。
ラブは正式に焼き肉を奢って貰って──明らかに焼き肉代以上の金が渡されたが、申し訳ないからちゃんと代金分だけ受け取った──満足した。
自警団と図書委員会は……正式には何か言われることはなかったが、暫くの間、小さな子供の相手が照れ臭くなった。
ミライ部長らはその後、シャーレ隊員らとゲヘナ風紀委員らで追撃作戦を行っていたが、地下水道で異常繁殖したパンちゃんの巣に突入。
その後ジュリ氏の仲介でパンちゃんらを説得したが、ミライ部長がシラトリ湾へ流されたため捜索を断念した。
連邦生徒会は遅まきながら、誇大広告などに対する商品表示取り締まりを取り敢えず条例案を上程し、鳩首談合している。
無論シャーレでは面倒なので詐欺罪の応用で殴ってしまえばええんちゃうかと言う、楽しい法学解釈を始めているが……。
カイザー社内、携帯の通知にジェネラルが顔を顰めた。
会長から届いたモモトークの通知があまりに嫌だったからである。
俺が、何したって言うんだよ……。
残念ながら大企業には愛も魔法も無いのだ。
大人になるという事の悲しい事実である。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。
原作のどっちを見たり知ってます?
-
長谷川ナポレオンシリーズは知ってる
-
ブルーアーカイブだけは知ってます
-
どっちも知ってます。