キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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命を安く売りなせそ なるべき程は高く売れ

 ずっと悩んできた。

 何も出来ない自分に、ずっと悩んできた。

 

 自分はナグサの様に誰かに頼る術を知らない。

 

 自分はレンゲの様に誰かに頼られない。

 

 自分はキキョウの様に面倒を見てやれない。

 

 自分じゃユカリを上手く受け入れてあげれない。

 

 自分は

 

 自分は

 

 

 自分は。

 

 

 別にそれでも良いんじゃないのか? 

 

 あの大人は言う。

 

 種まくに時があって、刈り取るに時があるんだから、別段誰かが誰かの代わりという訳でもない。

 

 別に狙撃が上手い奴がいたり、砲撃が上手い奴がいたり、計算が専門だったり、それでいいじゃないか。

 

 何が得意で何が出来るかは焦るには早いんじゃないの。

 

 無論それが正論なのは分かる。

 百花繚乱の幹部にそこまで理解できない奴は居ない、ただ納得が出来ないだけだ。

 当たり前だろう、と先生が言った。

 俺の人生の半分も生きてないのに納得できるわけないよと。

 

 どこかぶっきらぼうで、同じくらいの年齢の時はやること無くて暇してたと言いながら……。*1

 悩みに真摯なのは良い事だと言い、ゆっくりと待てば解決する類だと。

 

 だがまあ、納得はしないと分かっていた。

 それはそうだ、こればかしは、実際若者が若者であるが故の情動から動かされているのだ。

 したがい、ならばやる事は一つしかない。

 

 満足行くまで喧嘩させればいい。

 

 

 

 これは怪談ではない、ただの、些末で普通で有り触れて下らない話だ。

 青春と若さでぶつかり合うだけの話(ブルーアーカイブ)だ。

 もちろん、どこぞの愚か者が言う破局だの何とかが至高と言う話ではない。ガキが一丁前に悩んで苦しんで破滅する話とか、単純に大人が馬鹿という一言で論じるに値しない。サド侯爵の作品の方が面白いに決まってる。*2

 

「それじゃあまあ、本人たちに好きに拳ぶつけ合わせれば良かろう」

「公権力の言うコトなのそれ」

 

 キキョウが呆れた顔をした。

 

「継承戦だったか、あれと同じさ、その本質は……戦場でやり合ってみてこいつを信じれるか? と試す事なんじゃねえかな」

 

 クズノハを見て、アヤメが使えないのを見て、寺院へ入れたのを見て、疑問があった。

 資格がただ単純に委員長が使える程度なら継承戦というものは要らない、限定選挙して選任すれば良い。

 だが現実いまこの瞬間にも継承戦が存在している。最初は無能力化した上層部を排除する為かと考えた。恐らくそれもあったと思う。

 だが本質は恐らく、コイツに信じて任せて良いのか? という自問自答させる為だったんだろう。

 要するにこれは、自他共に第3者の視点で自分たちを俯瞰しろと言う、そうした話以上のものでは無いのだろう。

 言いたい事はなんとなく分かる、隣にいて欲しい奴、後ろにいて欲しい奴、居ない方がマシな奴、両翼に展開していて欲しい奴、そうした奴を識別出来るわけだ。

 

 そうして段々時が流れて二つとも意味が希釈されて、こうなったのだろう。

 

 ナグサが口上を述べ、アヤメはそれを受け入れた。

 ナグサの銃は不可思議と暖かい光を放っている、心なしか包帯で覆われたナグサの腕自体も光っていた。

 

「形式に則り、連邦捜査部は規定に基づき第3者として厳正に監視する」

 

 規定通り、銃を俺とサオリが改めた。

 ボルトを引く、チェンバーに弾薬無し、ボルトを戻す。

 ストックを確認し、機関部を確認し、続いてバンとストックを叩いてくるりとライフルを回転、銃身を確認する。*3

 2人とも装填されていない、確認して頷き、2人へ渡す。

 

「「確認良しッ」」

 

 まるで完璧な祭司が、神事の動作を済ませた様に告げる。

 2人ともしっかりとクリップから弾を押し込め、ボルトを戻して、クリップが空を舞った。

 観て見比べてみると二人とも癖が良く分かる、アヤメは早いが銃器の摩耗を気にしないタイプだ、ナグサは動作に堅さがあるが丁寧に扱っている。

 

「では、始め」

 

 初弾はアヤメが早かった、というよりナグサは早打ち勝負なんぞする気が無かった、得意分野で挑む。

 斜め前への前転から一気に斬りこむのを見て、アヤメがやや驚愕した。

 前なら初弾でほぼ決まっていた、そうでなくても動きが鈍っていた。

 切れ味が違う、何かが違う。

 そのままナグサは一気に近接白兵戦へ持ち込む、白刃交えて近接戦闘出来る人間はそう多くない。

 気迫に押されたアヤメがやや後退り、アヤメ自身がそれに驚愕した。

 臆している、ナグサに、自分が? 

 弱っちくてひょろくて頼りなさげで、物静かで戦闘より書類や政治関連が向いてて、それでいて何処か可愛げがあったあのナグサに。

 

 認められるかそんなこと! 

 

 アヤメが自身の小銃のストックを振って、二連撃を腹と顔へぶちかます。

 近接格闘戦が出来るのはナグサだけではない、アヤメにだってできる。

 ただナグサにはあまり効いていなかった、アヤメの打撃は以前よりキレが無かった。

 

 認められるかそんなこと! 

 

 アヤメが蹴り飛ばす様にボルトを足で操作して再装填した。

 続いて銃を蹴りあげて構えなおし、即座に射撃する。

 甲高い金属音! かち合い弾! アヤメの驚愕が、一瞬の停止となった。

 無論見逃さずナグサが再装填する。

 咄嗟の射撃で、今度はナグサの射撃をアヤメが射撃して弾をぶつけて射線を逸らした。

 

「無法地帯だなこりゃ……」

 

 レンゲが呟いた。

 ユカリも真実その通りだと頷いた、頷かざるを得ないのは当然であった。

 究極的個人芸の技能者が死合うとどうなるかと言うと、舞って見えるのである。

 それはシャーレの隊員の個人戦技と全く違う物であり、SRTでもなく、アリウスでも無かった。

 研ぎ澄まされた流麗な舞なのである。

 そして、幾ら美辞麗句を用いようとそれは剥き出しにされた殺人的戦闘技能の嵐なのである。

 なにせ、この嵐の渦中にぽつんと転がって残されていた鉄帽は、もう覆っている薄青のカバーも、それどころか本体すら穴だらけなのである。

 

 しかしそれに卑しさも見苦しさも一片も無いのである、探し出すは無粋と皆が理解していた。

 

 サオリなどの舞を見る眼は、幼児がヒーローを見る日曜朝8時のそれと、概ね同じような目をしている。

 無論無理もない、ただただ強くあれと力を認知されず育てられた鬼子の様に作られたアリウス生徒、そしてその力を認められなかったSRT生徒らなどからすれば、究極的には他者の奉仕の為だけで、ここまで戦技と練兵が出来ているなどとは、当然理解の外である。

 それであるが故に美しく感じたのである。

 

 

 

 アヤメは焦っていた、無理はなかった、自身の知るナグサでは無かったのだ。

 段々と不安と恐怖が帰って来ていても、それを歯を食いしばって耐えている。

 奥歯が割れんばかりに。

 思えばいつもそうして来た。

 誰かの理解を得れないとき、悩んでいたとき、いつもいつもそうしていた。

 そうして食いしばって耐えている姿を、傍から見るとどうなるか。

 

 笑っているのである。

 

 アヤメの銃の手元がブレた、激情の一定値を超えて、彼女の戦技と実力で抑え込めると自負して来たダムが崩れる。

 ナグサの眼は、やはり依然として大して変わっていない。

 そこにあるのは冷徹なまでの意志力だ! 

 彼女の戦技全てが語りかけていた、どうしてそこまでしがみ付くと。

 主導権はここまで全てナグサに握られている、当然だ、何をどうしたいかなんて彼女が分かってないのだから。

 そして、彼女の心境は最悪である。

 先生には「新人将校のよくなる病気の一種だ」と明快に言われ、ヴァルキューレ警備局員らには怪異の波を押し返され、シャーレ隊員らの捨て身の果敢さを受けた。

 全て本来は彼女が有していたものが消えて行っていた。

 

 油断、慢心、怯懦、虚偽、欺瞞、あらゆる宿痾がアヤメの足に絡んでまとわりついている。

 

 無論それと直面する勇気はない、無いから逃げ出してこうなっている。

 それを言えていれば変わったのかもしれないが、過去は変わらない。

 

 余りにまぶしかった。

 

 生きる事を決意した人間の目と言うのは。

 

 ただ漫然と生きているから生きている、と言う者とは。

 

 虎口前(げきせんち)でありながらそうした点が見えているのは、皮肉なまでの才の高さか。

 

 無論才が高ければ幸せではない、アヤメが好例である。

 アヤメはほぼ無自覚に、魔のものを暴走させた。

 肩に羽織った布が変容しているが、誰も止めない。

 なにせ実のところ継承戦はほぼ何でもありなのだ、魔の物に対する規定はない。

 

 だが、ある意味それが自滅を誘った。

 

 魔の物を呼び出したとして、ナグサの握っている小銃は、その魔の物に対するアンチ・メタなのである。

 呼び出した魔の物が”ぎょっ”として、そのアヤメの注意力を塞いだ瞬間、全てが終わった。

 ナグサの放った38式の小銃弾は、綺麗にアヤメの正中線上、即ち額へ直撃させたのである。

 

 全ては一瞬のうちにケリがついた。

 

 眩しすぎたのだ、ただ継承戦を規定により観測していた先生は、そう呟いた。

 自分の目まで眩ませ、他人の目も眩ませてしまった。

 それ以外に言うべき事は無かった。

 

 

 

 事態の収拾が始まり、統計が出た。

 損害自体はシュロの時より些末で軽微なものであった、人的被害の大半はアヤメに対する遅滞戦の為に出たが、これはまあやむを得ない。

 時間を稼ぐのならそれくらいの出血は必然であるし、敵の計画は潰せたのであるから、まあ良しとする。

 ニヤ部長から「監視を付けるのなら言ってくれればよかったんやけどなぁ」と抗議が来たが、これについては相手が相手なので黙殺する。言ったら意味無いので致し方ない。

 また、怪談に関してはやはりSNSなどで噂になることもなく、チセの新曲で揉み消されたようである。

 いやぁ、アロナとプラナで怪談がらみのアカウントは根こそぎにアカウント削除したが、電子情報は楽で良いな! 

 

「良いんですか?公共電波の検閲権は我々は有していなかったと思いますけど……」

「犯罪情報の削除は権限に含んでるんだ、ヴァルキューレも認めてる、だろ?」

「ひでぇ」

 

 スズが呆れた顔をして、昼飯のどんぶりを食べている。

 なにせ連邦生徒会合同庁舎群(サンクトゥムタワー)がぶっ飛んで以来、電子管制出来るのはシャーレ地下4階クラフトチェンバーだけである。

 というわけで真実はアロナとプラナしか知らないわけだ、いつか後任の先生が来るかもしれないが、そん時まで秘密だ。

 

「作家には一番効くだろうよ、反響が聞こえてこないんだから」

「なんか実感がこもってますね」

「うるせぇ」

 

 そうは言いつつも、ニヤ部長ら陰陽部の連中はよくやってくれた。

 一番予想外なのはシズコたちだった、経済屋が宣伝攻勢で一気にチセと共に売り出しにかかり、話題の波を掻っ攫ったのである。

 機を見るに敏、まさにお祭り運営委員会の委員長として必要な行動であった。

 

「ところで聞いて良いですか」

「なんでぇい」

「お祭りが祭儀ってあれホントなんです?」

「さぁな、そう誰かが願いを籠めればそういう風になるんじゃないかね、人の意思とはそんなもんじゃないの」

 

 そうなのかね本当に、とは思いつつもスズは深くは聞かなかった。

 官僚軍人としての彼女はここから深く聞く気は無い、そう言う風になるのならそう言う風な未来を守る仕事だ。

 スズが入ってきたレポートを確認し、首を傾げた。

 

「報告入りました」

「なんじゃこれ」

 

 入ってきた報告書はシャーレの特捜隊員と公安局がエビス分校にガサを入れたが、まず活動実態がどうやら存在しなかった。

 業務が回っていた辺りコクリコが回して見せて、公然組織と非公然組織の運営をしていたと思われる。

 ペーパーカンパニーではなく実態ある存在だったわけだ、流石にびっくりと言わざるを得ない。

 今までの大人ですらないカスの集団ゲマトリアや、普通に企業倫理がカスのカイザーと違い、異色の敵というわけか。

 そう考えていたが、コノカからの日誌の報告書を見て思わず目を見開いた。

 20年前の巫女がコクリコ当人という事だと、活動拠点の屋敷自体がもともと離れであること。

 流石にこれは予想していなかった、確かに戦技自体は百花繚乱のそれであったが、それでも面を喰らった。

 

「どうしたもんかなこりゃ……」

 

 そうは思いながらもやる事は決まっている、資料請求して捜査する、それだけだ。

 民衆不安の種は徹底的に調べて刈り取る。公的にはアヤメは幻影や模造品の何かが暴れた事になった。実際分裂したりした瞬間もカメラに収めていたからみんな納得した。

 ボディーカメラも役に立つもんである。

 そして一番説得力があったのは、当のアヤメが眠ったままなのだ。

 矯正局から連れて来たカイと、サヤの見立てでは、恐らく精神がまだ帰ってきていないというのが見解である。

 医療で嘘をつく二人とも思えないから、専門家の意見として信用した。

 

「さりとて戻すっていっても呼んでくるわけにもいかず……だよなぁ」

 

 待つしかあるまい、結局時間が解決するのだろうか。

 まあ少なくともそれも良かろう、体制の最強の武器は時間だ、じっくりと待とうじゃないか。

 良いワインと同じくじっくりと。

 

 

 

 百鬼夜行、某所の部屋に新聞が広がる音が響く。

 新聞の一面には【和楽祭り 収益多数】の文字が躍っていた。

 コクリコはむべなるかな、と言いたげに記事を読み、片隅の記事で【花鳥風月部、公然資産押収】と書かれているのを見て、手が早い大人だとふっと笑った。

 今回の失敗の原因はある程度分かっている、ナグサの事を見誤った、読み違えた。

 極論、先生の介入前に誤っていたのだ。

 

「まぁ、事後報告はざっとこないなもんか」

 

 そう言うと、新聞をとじて横に目を向けた。

 アザミが汗を流して正座している。

 

「古来から敗ける奴には理由が色々ある、読み違え、内応、調略、色々あるが……中々そろえたな今回?」

「私の不徳の結果です……」

「戯け。語り手が戦してどうする。ありゃ凡百じゃ勝てんわ」

 

 コクリコが茶碗の茶を、ゆっくり飲んだ。

 

「あくまで話紡ぐんが花鳥風月部のやる事や、ただ荒らすんやったら魑魅一座でも出来るわ。

 ま、今回はそもそも目的そのものが誤っていたんやがな……」

「……いっそ別で仕掛けてみますか?」

「一度失敗した手段に拘泥すると何もかも失うわ阿呆。それに怪異は人の影響を受けやすいからなぁ」

 

 逃げではなかった、事実その通りなのだ。

 何度か試したが、ミレニアムやゲヘナやトリニティではあまり上手く行かなかったのだ。

 ミレニアムでは新型銃器が手製で作られて負けたし、ゲヘナでは散弾銃の猛射で怪異は殺せると本気で信じてるから効果が薄く、トリニティではシスターフッドに除霊されてしまった。

 山海経でもやはり効果は薄かった、あそこは怪異を調略される。

 それに仮に上手く行っても、コクリコは移るという気は無かった。

 自分の正体に気付いただろう瞬間に、自身が百花繚乱である事も理解された瞬間、ここ以外で本気の行動をしないと理解されただろう。

 戦術指揮官としては当時随一であり、優れた作戦将校として防衛室からのオブザーバーの誘いを受けた事があるコクリコには、妙に素直な気分だった。

 自分が考えている事を相手も理解している、戦意と敵意と言う名の架け橋で。

 

「……ちょい待て、シュロの奴はどないした」

「小遣い握って携帯の充電器買いに行きました」

「阿呆やなアイツ」

 

 手配されてる自覚がなんか薄いんだからアイツは……。

 そうは思いつつ、コクリコはまあいいと考えた。

 あれもなかなかうまく仕上がっている、喜劇だろうが人を上手く動かせればそれはそれなのだ、作家としては上出来だろう。

 まあ、シュロには思いもよらない思い付きが好評なのは受け入れたくはないだろうが……。

 

「はぁー、欲しかったな、あの逸材」

 

 場を掻きまわすナグサの判断力、あれは中々魅力的だった。

 あんなタイプの人材が居ても良いだろうと思ってはいるが、絶対にないだろう。

 そうであるが故に、あの銃に信任され、自身の腕の怪異すら祓われたのだ。

 ま、あれは怪談の題材にゃあ眩しすぎる。

 

 しいていえば、青春の物語の方が似合っている。

 

 

 

 怪談より怖いのは各方面のあれこれに詫び入れたりすることなんだよなあ。

 カホは電話を方々にかけて回っている先生を見て、そんな感想を抱いた。

 連邦矯正局には囚人駆り出した件について礼を言わねばならないし、ヴァルキューレには公安局と警備局借りた礼があるし、忍術研究部は伝令でこき使ったし。

 展望台がぶっ壊れた件に関してシズコに詫びを言わなきゃならないし、それはもう色々と関係各所へ言わねばならない事があるのだ。

 

「やっぱさぁ、祭りって準備期間が一番楽しいんちゃうかな」

「バカな事言ってないでやる事あるでしょホラ!」

 

 そう言われて、ミレニアムの生徒にヘリへ押し込まれて先生たちは帰っていった。

 

 

 

 

 ぼおっと、アヤメの視界が開く。

 ロココ様式の、美麗な天井画、静かな草原でブランコを漕ぐ少女の絵が見えた。

 近くから、静かで力強いピアノが聞こえて来ると、アヤメはふとこれがあの世か何かか? と思い至るが、そうではないと気づいた。

 

「……知らない場所だ」

 

 百花繚乱では殆ど使われないコーヒーの匂いが、鼻腔をくすぐった。

 縁が無くても、品質の良い物だと分かるぐらいにはいい香りがする。

 音の方向を見てみると、鼠色のスーツを着た若い男性……恐らくヘイローが無い外の男性がピアノを弾いている。

 物憂いと言うべきか、儚げと言うべきか、或いは頼りなげか、どうも表現に困る顔だちをしている。

 そんな男性がOne Last Kissを弾いているのは、妙に面白かった。

 少し向こうのテーブルでは、ヘイローの無い大人と、ヘイローのある何処かの生徒が、カードゲームの準備をしているのは見える。

 何故あの緑髪の生徒はバニーでコーヒーを煎れてるのだろうか? 

 

「少し待ってね、これ届けた後貴女の分も入れるからね」

 

 そう言って向こうに運んで行ったが、零さないか横から見て不安になる。

 

「君はどうして弾薬やコーヒーは完璧なのに、銃器だけはああも駄目なんだい……? 僕も長い事生きて来たけどマスケット銃を5連続で不発とは君は……。

 おっと、起きたのかい彼女」

「ひぃん……、唯一使えるベレッタもホシノちゃんが預かってるから返してなんて言えませんし……」

 

 髪の長い老人は、こちらを見てそう言った。

 恐らく緑髪の生徒は多分立場が弱いんだろうなと思えた、昔のナグサの方が気合がありそうだもの。

 

「どこです此処」

「あの世に決まってんだろマヌケ」

 

 三人目の大人が笑って言った。

 

「彼岸にしちゃ自由が過ぎるんじゃないの? 饅頭くらいは出る?」

「すまないねぇ、和菓子は殆ど無いんだ、我々食べたこと無いからね」

 

 髪の長い大人、タイユランという大人はそう告げた、目や声色に知性の輝きが見える。

 もう片方の如何にも悪趣味という雰囲気をしているが、目に何か悍ましい冷徹さがある大人は自称警察大臣というらしい。

 ピアノを弾き終わって大分満足している大人は、”先生”というらしい。

 

「私が見たのとだいぶ違うくない?」

「そりゃ他人だからね」

「これでも名誉軍団国家勲章大十字位(レジオンドヌール・グランドクロス)だ、人は見かけによらんね」

 

 警察大臣が笑って”先生”に指さした。

 彼の胸元に赤いリボンのある青と白で整えられた物が見える。

 最高位勲章なのだろうな、とアヤメは何と無く分かった。

 これでも百花繚乱委員長として百鬼夜行の名誉勲章である大桜花章などを貰ってもいる、授与された時から正直良い気分では無かったから、箪笥に仕舞い込んだ。

 それに、この良く分からない”先生”が授与されたのも分かる、眼の奥に余りにもドギツイまでの炎が焼き尽いていた、隕鉄で作った名刀に近い輝きがある。

 

 ”賞なんか貰ったの小学生以来だよ”

「多芸だなあんたも……」

 

 黒髪の別の大人が、焼き立てのパンをテーブルへ配る。

 妙にローリングピンに彫り物がされた何かを持っていたが、パンは良い香りがした。

 

「若さの特権とは言え軽挙妄動は高くついたねぇ」

「雪山で半遭難して助かってるんだから、運が良かったね」

「普通に砂漠より危険ですからね」

 

 自称警察大臣とタイユラン、それに自称先輩がそう言った。

 冥府にしても良く分からないな、と思いながら呼ばれるままに椅子へ座った。

 

「心置きなく喧嘩して仲直りできそうなら良いじゃないか」

 

 パンを配り終えた別の大人がそう言った。

 

 ”無責任と言うか何と言うか”

「子供なんてそんなものだよ、知らない間に勝手に気球に乗ってたりするからなぁ」

「俺今でもあの件恨んでっからな」

「俺が悪いんじゃないぞ」

 

 自称警察大臣と言い合いながら、その大人は「別のパン焼いてくる」と退室した。

 ドアを開け、手近な別の大人を捕まえ、「ビクトル手伝えよ」と何処かへ歩いて行った。

 アヤメには妙にこの空間が不可思議であるが、なじみがあるような気がした、全く見当がつかない。

 ふと、窓を見ると小さな白髪の少女が見えた。

 

「外から誰か見てますが……」

「プラナちゃんだ、偶にああして心配性で見に来る」

「はぁ、そうですか」

 

 アヤメにはやはり何が何だか分からなかった。

 

 

 

 プラナはそっと、自身の手帳に文章を書き記す。

 

 対象者:七稜アヤメ

 状態:静養中

 問題徴候:現状確認出来ず

 

 そう書き記すと、やや”先生”に名残惜し気な顔をし、それでも顔を引っ込めてあるべき場所へ還る事にした。

 

*1
砲兵将校として軍へ任官された頃

*2
路傍で子供が普通に飢え死んでる時代の住民

*3
韓国海兵式で銃器点検




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