キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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すべての生物は自然界の経済秩序の中での居場所を求めて闘争しているという言い方ができるわけだが、競争相手との関係でそれ相応の変化や向上ができない種は、たちまち滅んでしまうだろう

―チャールズ・ダーウィン―


滅びし獣たちの海

 

 

 特異現象捜査部からお呼びがかかるのはもう慣れたが、緊急回線で要件デカグラマトンと出た時は驚いた。

 必要最低限の装備と強制執行作戦部隊ことA分隊に緊急事態コールで呼び出しをかけて、直ぐに出せる一番足の速いヘリで無線封鎖を掛けて出撃した。

 だが今度からは、空路ではなく陸路での高速移動手段も考えた方が良いかも知れん。

 無論無理な話だ、陸上移動するにしても想定環境・想定状況の問題がある。

 直ちに到着したヘリパッドで、セミナー役員に案内された。

 

「状況はどうなってる、またデカグラマトン総進撃でも始まったか!?」

 

 扉を開けて飛び込むと、特異現象捜査部の空気が凄いことになって居る。

 徹夜したスズが発注書類のミスをした時のような雰囲気だ。とりあえず心当たり一号に声をかける。

 

「確かにデカグラマトンの預言者は発見されたんだけど、その……」

「想定より遥かに早く到着されて素晴らしいのですが」

 

 リオとヒマリが目線でお前が先に言えよと言い合って居る。

 

「要するにだ、見つかったのは本当だけど、トキがテスト感覚で緊急招集のスイッチを作動させたと」

「そう言う事になりますね」

「部下を甘やかしすぎだろ……スタンドアローンと抱え込み過ぎが生んだ弊害か」

「ヴェリタスばかりが問題児と言う訳じゃないのですよ」

「でも部長、今度ピンポンハックの件で呼び出しされて青い顔したよね」

 

 こういう時、目へのダメージ軽減も兼ねて戦闘指揮時に掛けてるグラサンのお陰で少し感情を隠せる。

 トキの頭にごりごりと拳骨をねじ込みたい気分ではあるが、やるとサオリとアツコに止められそうだ、今度にしてやる。

 暇人の次は暇AIの相手とは嫌になる、新型か? それとも確認できてる連中の完全破壊か? あるいはクソのようになったケセドが出て来たか? 

 

「デカグラマトンの預言者の信号はここ、氷海」

「また変な所に出たな?」

「出たというより落ちて来たんです、アリスちゃんが撃墜して海流に流されたのでしょう」

 

 <星1号作戦>(宇宙戦艦)の時アリスを狙って突っ込んできたが、まとめてぶち抜かれて圧壊撃墜されたゲブラが落ちた場所から、海流で極地へ流されたらしい。

 成層圏ギリギリで体面積の6割強を抉られて撃墜された挙句、海中に没して転がり続けた機体の反応が活性化されつつある。

 確かに緊急事態だ。補給整備をしている者が居ると言う事なのだから。

 

「だが、信号そのものが我々を呼ぶ釣り餌の可能性も大きい、その場合非常に厄介なケースだ」

「ふむ? 何でしょうか、この手の専門家はキヴォトスに少ないのでぜひ伺いたいのですが」

「軍事作戦を作れる能力があると言う事だ」

 

 全員の眼が変わる。

 軍事作戦を可能とする思考力とは、要するに他者を理解することだ、戦争とは究極的言語の形態と表現し得る。

 これまでデカグラマトンどもは形式的で教本的で、ケセドやビナーなどは基本的に軍事行動を理解していない。

 ケテルにしてもマニュアルとプログラミングだけでまるで独自性がない。

 それが”独自に行動計画を組み立てて作戦活動を始めた”のだ。

 

「言わずと理解できるだろうが、永遠に学習進化する場合この星の支配者のパラダイムシフトの可能性となりうる」

「しかし極限環境下では勝率は低くなるというのが通説です、装備の制限も出るでしょう?」

 

 計算論だけで判断することが多いミレニアム生の悪癖だ。勝率の%は多種多様な数式と同じで僅かな変化で大きく変わる。

 戦闘は数式と同じ計算の連続ではあるが、全て現在進行形で変わる数式だ。

 従い計算式を解くのは他人に押し付け、数式を書く側に回るしかない。それが俺のやり方だ。……だから俺が先生になっちまったのか? 

 

「軍事は0.1%の油断にすら付け込めるし付け込まれる。確率論に見えて人が持つ全ての感情や要素がそこで強烈に渦巻き、そして計画は動かすごとに崩れる。

 というわけで作戦開始、まずは偵察機を用意しよう」

「リオ、貴女が確か先週手に入れたRQ-4でしたか、あれを使うのが良いでしょう」

 

 リオ会長がこくりと頷いた。

 財源どうやったんだ? とヒマリに聞いたが「アビドス株で大儲けしたそうですよ」と返され、顔を覆う羽目になったが。

 貨物列車も手配してある、移動手段は確保しておいた。

 

 

 グローバルホークによる光学偵察映像によると、どうやらデカグラマトンの眷属と呼ばれる特殊オートマタが引き揚げ作業中の様だった。

 光学映像見て驚いたのはなんとあいつら、”転用”の概念を持ち出した、ケテルの予備部品やゴリアテの機体を作業車両に転用している。

 デカグラマトンは急速に群体として育ち出した、明らかに脅威である。

 無言でアロナに行政官級回線は繋げられるようにしておかせる。最悪防衛室だろうが無視して区画熱滅却だ。

 

「……しかし引き揚げて、修復するということはコア、あるいはAIは無事なのでしょうね」

「かもしれないが、また沈めてしまえばそれでいい」

 

 防寒装備を整え、対重装甲と対水中目標用の装備を整え氷海に展開した。

 幾らかの準備はしてある、試験型の対艦ミサイル搭載可能の改装をしたシーアパッチだの、AIM-9の代わりに対レーダーミサイルを担がせたAH-1だの用意してある。

 ついでに電子戦対応機が欲しいと強請ると、カイザーの放棄装備品を再生・改装したEH-60Aを貸してくれた、リオ会長は話が早い。

 簡易拠点を作り、本命は来るのだが、人力での設営には慣れている。

 

「ほぉー、海が凍るほどの場所に来るのは生まれて初めてだ」

「先生何探してるの? デカグラマトンは海中だよ」

「白熊とペンギンとアザラシ、写真撮ってホシノに自慢する、白熊見つけたら毛皮も欲しいな」

 

 エイミが氷海に浮かびながらペンギンならあそこに見えない? と指をさしてる。

 代わりにヒマリは鼻水凍らせて震えている。

 

「相変わらず楽しそうですね、先生寒くないんですか?」

「これ位なら平気だ! 吹雪いて夜間なら流石に備えが欲しいが別に一月単位で行動するわけでもないだろ?」

「ここなら、私は1年でも構わないよ」

「この程度で、こんな厚着してんじゃないぞ。子供は風の子だろ、昔似たような時にアホの伍長に凍り付いた湖に叩き落されたが、生きてるぞ。流石に寒かったが」

「よく生きてましたね!」

「毎朝凍り付いた湖泳いで起床ラッパ代わりに鶏の真似してた爺も居たんだしな」

 

 イカレテんじゃねえかとヒマリが顔を顰めている。

 裏で工兵隊が鉄板を敷いて、上に砂を軽くかけて砲兵陣地を形成している。

 ユウカがちゃんと脅威予測に同意してくれたから、防衛室からSRT装備品や連邦重装備保管庫から幾つか確保して来た。

 具体的には未だ言わない。

 

「先生、”ベリリュンヌの帽子は火のハリネズミを見た”と暗号が」

「よくやった、流石スクワッドだ。アロナ、傍受はされてるか?」

「大丈夫です。デカグラマトンは電波輻射管制中ですね」

「リオに”病気の娘に青い鳥をワンダース”と送っておいてくれ」

「了解です」

 

 それでは作戦開始だ。

 

 

 氷塊の影に隠れたサオリが、双眼鏡を覗きながら有線通信機を繋ぐ。

 

「縮尺が分かりづらいからなあ、何キロかな」

「恐らく1.5キロですかね?」

 

 ヒヨリがスコープを覗きながら呟き、ミサキは「多分そうじゃない」と同意した。

 アツコの「なんだって良いから早く報告しなよ」と言い、サオリは「じゃあ1.4くらいとするか」と報告を開始した。

 

『FOB・シーザー。射撃開始』

 

 風を切る音がして、ドン! と爆発音がして作業中のオートマタの左約600Mに落ちた。

 

「修正射撃要請。左に600ずれてる。東へ修正されたし」

『修正射撃開始します』

 

 じっと見ていたヒヨリが、顔を大きく顰めた。

 

「変ですね、動きませんよ。ルーチンワークです」

 

 修正射撃が作業場中心から右100へ弾着、ゴリアテがひっくり返る。

 サオリはそのまま「効力射撃に移られたし」と告げた。

 降り注ぐ砲弾が作業場を爆砕しにかかる。

 

 

 

 探索したら出てくる出てくる、メイドインデカグラマトンども。

 制御AIのケセドは流してやったが随分貯めてたか? 再起動したのかもしれない、やはり来てよかった。

 と、喜んでいたいが明らかに異常だ。

 

「罠だな!」

「罠ですね」

「罠よね」

 

 戦闘は専門外ではあるが、機械工学や電子頭脳の専門家などであるからすぐにわかる。

 誘いをかけている、おいでおいでと招いている。

 ”そもそも観測射撃という古典極まる手段に反応がない”と言う時点で胡散臭い、観測射撃で無反応じゃ駄目だ。

 ある程度の知性があるなら「撃たれてる!」と気付いたら反応は基本的に一つ、一時離脱だ。

 不利な状況下で観測射撃されてる場合とは、概ね銃を構えた錠前サオリが背後に立つのと同じくらい、出来る手段は限られている。

 

「対砲迫レーダーに感!」

「やっぱりな!」

 

 ゴリアテのものと思わしき砲弾が降り注ぐ。

 しかし残念ながらもう砲兵陣地はそこに無い。撃ち終えたら直ちに陣地変換するに決まってるだろバーカ! 大砲屋何年やってると思ってるんだよ。

 即座にリオに「やれ!」と命じる。

 撃ち出された旧SRTの16連装220mmロケットランチャー*1は、ゴリアテ部隊が陣地変換する前に吹き飛ばした。

 弾薬誘爆の炎が遠くの地平線に昇っている、敵の陣地が燃える黒煙はいつ見ても素晴らしい。

 

「ナイスショット」

「敵が急速に活性化してます」

「しびれ切らしたか」

 

 相手から救難信号が出ているが、民間救難周波数や規定周波数ではない。

 敵部隊が急速に活性化して全域から移動を開始している。

 

「どうします?」

「想定3号状況、偽装退却」

「了解。想定3号!」

 

 大規模に敵が出てくるが、追撃戦で大事なことを奴らは理解していないのか?

 相手が下がれば追えばいいと言う、子供のサッカーなどとは違うのだが。

 鬼さん此方手の鳴る方へだったか? それはさておき、見せてもらおうか。対上位存在用AIの性能とやらを! 

 

 

 

 追撃と言うのは大事な行為である、戦果の大半は追撃から生まれるとは先生の言であるが、デカグラマトンもそれに従った。

 アイン、ソフ、オウルの三体の自律個体は追撃における最大の問題点を無視していた。

 

「過大評価のようでしたね。拍子抜けです。泡を食って逃げていきます」

「ゲブラーちゃんMK2の性能試験にもなりませんね」

 

 オウルがにやりと笑みを浮かべるが、ソフが展開図に頭を抱える。

 

「隊列が伸び切りすぎてない?」

「え? 確かにまあ、伸びているけど……」

 

 アインが言外に「追撃戦はそういうものではないのですか?」と返した。

 追撃戦にありがちな問題とは、要するに隊列が伸び切り急進撃により弱体化していくことである。

 さらに兵士も兵器も行軍は負担がかかる以上、隊列は時間と共に弱体化してしまう。

 無論強行軍して追撃しなくては敵に打撃を与えられないのだが、下手をすると追撃中の敵より弱くなりそうという難点まである。

 

「見ての通り敵は後退しているのよ?」

「んんん、なにか、なにか違う感じが」

 

 ソフはある意味真実に近づいていたが、理解に至る情報と、知性が足りなかった。

 恐らくこれが、カイザーのジェネラルなら疑問に対する答えが見つかっただろう。

 ”敗走する兵隊は小銃などかなぐり捨てて逃げるのだ”。

 考えれば当然である。勝てないから逃げてるのだ。勝てない、戦えないなら銃なんか持たない。そうなると全てが軍隊でなくなる。

 銃を棄てて制服も脱いでしまう。背嚢も放棄するし、隊列も維持しない。行き着く先は野盗化で、組織崩壊である。

 

「敵は急速に後退……これは!?」

「MLRS⁉」

 

 デカグラマトンの画面が赤い非常警報へ変わる。

 隊列中部で混交状態の主力隊列に降り注ぐ鋼鉄の雨! 更に起動されるリオのAMAS3部隊と合流した途端、シャーレは偽装退却を放棄した。

 強行軍で伸びた隊列、突如湧きだした機械化兵団、更にトドメが刺されようとしていた。

 よりにもよって指揮統制用の無線通信車両が破壊されたことにより事態把握に支障をきたし始めたのだ。

 

「後続と前衛が分断され始めてる!? なんで!? 数分前は勝ってたじゃん!?」

「敵の部隊が急激に圧力を増加! 主力がこのままじゃ崩壊します!」

「なんで!? どうして!?」

 

 デカグラマトンの最大の問題とはある意味中途半端なことであった。

 完全に割り切って全と個に割り切り、完全統制に走るのでもなく。

 あるいは個体に自律思考を授けて有機的に機能させるでもなく。

 半端な自律思考と大して統制もされない木偶人形の寄せ集めでは軍隊として活動するに適さない、そして最大の問題はこうした問題を改善・提案する機能を有さない程度の自律性しか与えていないのだ。

 完全なAIを自称するがゆえの無能である。

 そしてなにより最大の問題は、指揮を執るべき彼女ら三体は、”なんら有効な次の命令を出せていない”。

 

 

 

 奴らは罠にかかった、相手がデカグラマトンなら人ではないのだ、死ぬがよい! 

 だいたい数があるのに変な手管を弄しているのが駄目だ、数的優勢と疲れを知らず無機の兵隊が居るならやるべきは消耗戦である。

 痛みに耐えて戦う消耗戦を行うだけの知性と意志力があるなら、それならば交渉も出来ただろうが所詮自販機の出来損ないの手下か。

 

「最初からその大兵力で消耗戦をする覚悟が必要だったんだよ……」

「敵の攻撃が崩壊! 戦列が崩壊します!」

「敵を揉み潰すぞ、氷海に追い落とせ!」

 

 大きなロケット発射機を搭載したAMAS3砲撃型が現れ、小型AMASとシャーレの部隊が一気にデカグラマトンの眷属を崩壊させていく。

 指令を出すべき三体のデカグラマトンの使徒と呼ぶべき存在達はその不完全さ故に、なんら有効な指揮統率が追い付いていない。

 眷属の単能さゆえに士気崩壊が起きていないとしても、まるで連携が出来てなければ意味は無い。

 漸く出された命令は戦線再編、しかし再編成への計算は、この場合最悪の手段であった。

 何故ならば優れた指揮官は概ね敵が再配置しようとした先の防御すべき何かの見当がつくのだ。

 その結果は必然的に、本拠地の露見。

 

「敵部隊の行動予測出ました、恐らく根拠地はあの火山と思われます」

「敵部隊の大半が崩壊」

 

 割れた氷海へゴリアテやオートマタ達が沈んでいく。

 大半は凍り付いて再び浮かび上がる事も無く崩壊するだろう。

 そのような些末な事気にもならぬと言いたげに、先生は辛うじて逃げ出す一部の敵が向かう火山地帯のデータを確認し始めた。

 

「休火山か?」

「いえ、活火山だそうです。恐らく基地熱源をカモフラージュするための地下施設があると思われます」

 

 ヒマリが端末を叩いてデータを映した。

 追跡中のアリスクが観測情報を送っているが、確かに擬装されてはいるが洞窟に近いものが見えている。

 

「……山ごと爆破して地下施設そのものを圧壊させれるかな?」

「どうでしょうね、火力を輸送するまでの時間を考えますとあまり良い気はしません」

「一応ミレニアムの要請に基づく作戦だから言い訳は出来るでしょうけど、多分後々困ると思うわ」

 

 リオがヒマリの意見に賛同した。

 体制の泣き所である、連邦生徒会外局が「人類の敵を焼き尽くせ!」などしては非常に外聞が悪いのだ。

 残念ながら連邦重装備保管庫から14キロトン級燃料気化型弾頭ミサイルを駆り出すのもダメである。*2

 

「まあそうだよなあ、結局正義の味方(対処療法担当)だしな」

「本気で言ってますかソレ?」

 

 ヒマリがやや呆れた顔で、エイミが煎れたココアを呑みながら言った。

 トキですら「なにいってんだこいつ」と言いたげな顔をしている。

 

 

 

 あの世でもこの世でもない空間、静謐なるロココ様式の部屋は新たに名乗りを挙げたデカグラマトンの存在に、大半が冷ややかな目線を向けていた。

 極論言ってしまえば自己矛盾に気付かない傲慢さと、自己矛盾に気付けない愚かさがまったく改善されていないからだ。

 ある意味この部屋で一番デカグラマトンの存在を軽蔑しているのはケイであった、自己の存在意義たる王女を狙っている時点で度し難いが、それがこのような低俗な存在では許しようがない。

 意味不明だが有機生命体の、哀れで小さくも涙ぐましい世界は侮るべきものでは無いし、ケイは少なくとも自身の王女は愚か者ではないと良く知っている。

 

「変化は進化、進化とは変化、究極的な進化に行き着いた生命はその実生命活動の終焉しか先が無いのです」

 

 ケイは呆れたように、マンモスの牙を磨く。横では例の伍長がオオツノシカの角を磨くのを手伝わされている。

 機械が饒舌に生命と進化を語るのは面白いなと思いながら、タイユランはケイへ尋ねた。

 

「キミはどうしてその結論へと至った?」

「この空間を、つまり時空検閲官説に基づく多次元解釈空間そのものから観測される僅かな世界線相違。そして歴史が証明しています」

「ふむ、聴こう」

 

 ケイは言った。

 

「”進化する必要がないのか、頭打ちか(答えは未来から見ないと分からないのに)、どうして違いが分かるんです? ”」

 

 それを聞くと、タイユランは楽し気に笑い声をあげ、「痛快だ、君も随分他者を理解するようになったね」と述べた。

 名もなき神の王女として、神の模造として作られたアリスの半身は生命の本質を理解していたからだ。

 細胞が更新されないのは死体とどう違う? 組み込まれた予定しかない存在、変われない存在でしかないのだ。

 

 ”哀れだ、生命の似姿をしてるのに、生きてすらいないんだ”

「そう。哀れな存在だ。デカグラマトンは超越者になれないからこうしているのに、完璧な存在と信じている」

 

 ケイはマンモスの牙を磨き終えると、静かな知性ある瞳を世界の様子へ向けて呟いた。

 

「……自分がマンモスの牙と同様でしかないと知るのは、耐えられないでしょうね」

 ”無用の長物、か”

 

 ”先生”は静かに天井を見上げて、なにかを憐れむ様に呟いた。

 

 ”彼女たちは自分の意思を持てるのだろうか”

「どうでしょうね、彼女たちは……マルクトが完成すれば解決と信じていますが、でも」

 

 真に完璧な存在ならば、この虚妄の超越者に従う筈も無かろう。

 かつて王女が、その実色彩も崇拝もろくに理解出来ていなかったろくでなしの司祭たちの計画を否定したように。

 思索を寸断する様に、何か物音が響いた。

 

「なにやってるんだい君は、美術品の目録作りを手伝ってたはずだろう?」

 

 

 自称先輩がまた書類の山を崩して埋まったらしい。

 か細く「ひいん、たすけてえ」と声がし、ケイはしょうがないなもうと立ち上がった。

 とりあえず引き摺り出して、無駄にデカい胸をペチペチ叩いて起こす。

 基本的にこの空間ではケイのが上である。

 

「あひん! ほ、ホシノちゃんにもぶたれたこと無いのに!」

「ぶたれた方が後腐れなかったと思いますが……」

「に、二度もぶった……」

 

 人間は分からない……。

 別の場所を映す画面ではDe La SoulのSay No Goをグラサンかけて歌っているアリスが見えた。

 ゲーム作りなさいよ。貴女は貴女で……。

*1
BM-27「ウラガーン」

*2
原作のモエが調書時に言っていた大型ミサイルの事




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