キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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現段階においての考察含むお話です、本作品でのボナパルド先生はこんなスタンスと言う感じです。

それ以外は今後の話のあれこれで変わるかもしれません。



夏のない年

 

 

 火山地帯の地下施設、そこを攻略及び調査するにあたって幾つか計画を練る。

 まず大事なのは相手に先手を取らせない事、そして騙して見せる事だ。

 デカグラマトンのある種最大の過ちは、こちらと同じ土俵にある事だ。

 戦術や戦略を模倣して組織的に戦うようになったという事は、これまで無視できた諸問題が噴き出す。戦術的思考とは猜疑心だ。

 そしてそういう手を使う場合、相手にある程度読まれるのだ。

 

「凍ってる凍原で良かったなヒマリ、雪解けの時期なら車椅子じゃ移動できない泥濘地域だ」

「しかし、先生これだと小さい塹壕も掘るのは一苦労になる」

 

 サオリが頑張ってドーザーで地面を引っ搔いているAMAS達を眺めている。

 リオは「流石に硬いわね」とやや困った顔をしていたから、ある程度で構わないと告げた。

 

「だが俺達はまだ幸運だ、まだ吹雪いてない。向こうに見えるのは火山で、アホは穴の下か」

 

 ヒマリが不可思議なものを見るように尋ねた。

 

「で、なんでわざわざ見えるように攻城陣地を?」

「戦争には二つの戦闘形態しかない」

「野戦と攻城というのは理解してます、なぜここでと」

「”マジックの基本はミスディレクション”」

 

 ヒマリは「酷い事する人ですね」と呆れた顔をした。

 デカグラマトンは事実上近隣地域で使える野戦軍を喪失した、援軍なり呼ぶにしても攻城陣地から目が離せない。

 つまり此処に常に注意しておかねばならない、わざとらしい誘いとしてもだ。

 

「設営したら基準砲から観的弾を試射しておけ」

 

 先生はそういうと、未だレーダーサイトからジャミングが出ているのを見て呆れた顔をした。

 電波輻射管制をしてないのかデカグラマトンは? 俺より近代戦を理解してないぞ。

 最近はジャミングをしても、むしろジャミング発信源へ飛び込むようにミサイルは作られている。

 ホーム・オン・ジャム機能、なんと人間の矛盾の争いであろうか。俺の時代から考える事は変わらん。

 

「観的弾、射撃開始」

 

 作戦が開始された、相変わらずジャミング丸出しの馬鹿のレーダーサイト、といってもコンテナ式の移動システムが155㎜で綺麗に吹き飛んだ。

 電波源から算出して距離を割り出せるとは科学の進化は凄いものである。数字が分かれば後は何でもできる。数字で分からんから困るのだ、世の大半の難題は! 

 それと同時に適当にAMAS3や連邦重装備保管庫から”借用”したK9自走砲が唸りを上げている。

 攻勢準備と言うより擾乱射撃だ、まあ攻城の準備らしく見えるだろう。

 

 

 

 デカグラマトンの三体の使徒と呼ぶべき者たちは、状況変化にどうするべきか思案していた。

 砲撃と目潰し、明らかに攻撃作戦だ。

 野戦兵力を一時的とはいえ激減させられ、打って出れない以上は立てこもりがせいぜいだ。だがどういう風に退去すればいいのか分からない。

 正確には施設放棄に際してのマニュアルや知識はある。だが前提条件と現実を擦り合わせられない。従い起こるのは”分からない”である。

 変化も進化もしない自称完璧な存在とはその程度だ、口癖みたいに完璧と言うユウカは自身を信用してないから電卓を使ってるのとえらい違いである。

 

「タブハ・ベースを放棄する際は、えーと、どうすればいいのでしょうか?」

「消去すべきデーターは、持ち出すべきものの輸送は……?」

「時間を稼ぐってどうすればいいんだ?」

 

 指揮機能の停止とは部隊全体の活動麻痺であり脳死である。

 その中で更に不確定要素が増えた、先生たちが基地内に侵入している。

 

「なんで!? ここで侵入するの!?」

 

 オウルが愕然とし、声をあげた。

 常識的に考えれば、攻城陣地まで組んでいる以上正攻法でくると考える。

 しかし生物は人間はAIより邪悪で汚いのだ、いつだって出し抜く事を考え、変化し、進化し、変わる。

 太古の原始生命が、生きるために他の生物を食べると効率がいいと知ったから変わる事は無い。捕食者非捕食者問わず、目を持ち、殻を纏い、硬骨を得たり、追いやられた一部も未知の場所で一旗揚げようと陸に上がりそこから空を飛んでみようと形を変えていく。いつしか海も陸も支配者が現れるが気候変動(星の気まぐれ)で全部ぶっ飛んでも、生きるための変化や生態系の頂点になる欲望や増えていく喜びは次の生物に引き継がれて行った。

 

 ところがデカグラマトンにはその様な喜びは無い、AL-1Sと違い喜びと恐怖を知らない、未知への無節操な欲望が無い。

 

『侵入者は第2層へ侵入』

『第65警備部隊反応途絶』

『53番、57番電源ユニット損壊。第38警備部隊へ指揮不能。直接指揮願う』

「アビ・エシェフ無くても強いのは聞いてない!」

 

 オウルが慌てながらセキュリティを再編しようとするが、どうしようもない。

 リオのAMASシリーズ、カニめいた3型ではなく装輪式の小型ドローンは空調や換気システム経由で各所に侵入していた。

 それを先生が指揮権をオーバーライドして荒らしまわっているのだ、確かに小型ドローンだから武器もMPXが2丁程度だが、人間の悪意を見せつけるには十分だ。

 

『西と東ゲートで火災発生。換気システム電源喪失。防火壁が動きません』

『68番警備システム損壊』

『主電源送電ケーブル4番と2番損壊』

「あああああ! 電源システムを再構築! 急いで!」

「先生たちの侵入はどう止めればいいんだろう」

「ゲプラちゃんを……あれ!? 狭すぎて通れない⁉」

 

 アインが愕然とした声をあげた。

 彼らは整備用トンネルを真っすぐにこちらへ向かう。

 

「警備システム再構築!」

「隔壁閉鎖!」

 

 慌てて漸く対処が始まるが、非常事態に際してのマニュアルの前提は次々切り替わる。

 切り捨てるのが最も良い選択肢だが、それが出来ない、完璧で進化しないとは失敗を許容できないから。

 

「あ、コクマーちゃんから……」

「今それどころじゃないよ!」

「いえ……、第4層まで破棄してはと」

 

 見かねたコクマーは文字通り助け舟をだしたが、状況はそれでも最悪だ。

 すでに第3層を破られつつある。

 

「それとなになに……えっ! ゲブラちゃんを基地内で⁉」

「ちょっと! それじゃタブハ・ベースそのものをぶち壊すってことに」

「ど、どのみち放棄する事になるから構わないと提案してます」

 

 アインは確かにその通りだと感じた。

 だがそれ以外に選択肢が浮かばないのは、本当に正しいのか? と感じ始めていた。

 

『基地施設放棄開始』

『コクマー、臨時起動』

『ゲブラ、仮設Mk2出撃』

「どんな犠牲を払っても構わない! あの大人を阻止!」

 

 オウルが出撃を許可した。

 

 

 

 氷海の彼方、氷塊は漂うが未だ海と呼ぶべき場所に異様な船があった。

 船体側面にT-AGM-25と艦番号が書かれ、船体にはまるで特撮映画の様にアンテナがついている。

 カイザー・コーポレーションの電子偵察艦<ハワード・O・ローレンツェン>、ただし元々の任務とは違いXバンドレーダーは別の用途に使用されている。

 この船は元々弾道ミサイル追跡艦として建造され、ICBM探知などを主任務としていた。

 カイザーが運用しているのは何故かというと、アビドスで宇宙戦艦の資料が発見された数年前に支援機材を兼ねて購入したのだ。

 周囲にはカイザー水上警備部門のアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート艦が2隻、護衛に展開している。

 キヴォトスで海賊行為が増えているといっても、最新型のミサイルフリゲート艦が護衛に付いた艦艇は早々襲われない。

 それに近隣の海賊は前以って保有している虎の子のウダロイⅡ型を駆り出して蹴散らした。

 艦橋に居るジェネラル*1にとっての最大の懸念は隣の老人だけである。

 

 

 

「見たまえよジェネラル! キヴォトスで火山災害警報だそうだよ。私の様な老人には火山灰も堪えるからねぇ」

 

 最近の来年度に向けた人事異動で自身の隠居してた元上司が戻ってきて、呆けた老人に責任取らせて、新体制の準備かと思って居たら、この老人昔の名前の会長(ディレクター)と再び名乗り直接体制を立て直しに来た、自身の情報より全然頭も体も元気だ。

 あの作戦以降、プレジデント一強の社内派閥は一転、この老人に見込みなしと判断されれば大幹部も一瞬で無職にされた、明日は我が身なのが恐ろしい。

 

「カイザーの株を売り切ってそれを元金に新しく始めるのも面白そうだったが、崩れそうな砂の塔を立て直すのも一興では無いかね? それに今逃げて彼がどこまで許してくれるかね?」

 

 そう言って居たのだ、そして一抜け防止に株券を幹部の給料にしやがった! 

 最初の仕事がオペーレーション・トレビシェットで自ら最精鋭率いて大掃除して、愚者の毒(フールズ・ポイズン)計画と称した内部粛正でシャーレ以外の敵対的勢力や社内の裏切り者に痛撃かまして新体制盤石なりを証明した。

 明日俺の家にSOFが来ないか心配であるが、ある意味心配しなくてもいい要素がある。この老人俺を玩具と認識してる。

 

「はぁ、ディレクターはまた何か仕込みでもなされてたので?」

「しておらんよ、君と私の仲ではないか」

 

 良く言うよ! と思いつつ、嘘はつかないのは知っている。

 約束と契約に関してこの男は酷く酷薄で冷酷なまでに順守する、カイザー相手に契約を破ったバカを締めてこの老人は企業支配を固めたのだ。

 

「自分は一介の軍人です。そこまでは自分の感知するところではありません」

「キツネだねえ。先ほどの問いだが答えはNoだよ、犯人の目星、というより、想像図は浮かぶがね」

 

 そういうと、彼は「ココアを、ミルクをたっぷりな」と注文した。

 従卒の船員が敬礼して走っていく。

 この根無し草の道楽爺、ゲマトリアと接触してたり何してるか分かった物じゃない。

 この男、2か3年前にしれっとアビドスの機密書類を本校跡地から確保させやがった頃から変わりゃしねえ、相変わらずだ。

 

「君、完全な生命とはどのような物だと思うかね?」

「さあ? 私は神になりたいとは思いません」

 

 俺は哲学者じゃねぇぞ、あの時退職してればよかったか? 

 ジェネラルは「完璧な存在は生命じゃなくて違う何か、つまり神じゃないのか」と言い含めて返した。

 従卒の注文通りのココアを呑みながら、会長はサングラスを外して、カメラアイのカバーを楽しげに磨く。*2

 黒いスーツを着た彼がそれをする光景は妙に冷たく感じた。

 

「ココアですら温度や味は同じにならない、機械でも変わる、戦術もそうだろう?」

「戦闘開始の条件は同じにしても、結果になると完全再現は出来ません」

「そう、我々は変化に揉まれて進むしかないが、悲嘆するのは間違いだよ」

 

 会長の足に、平べったい皿型の犬型が寄り添う。

 ミレニアムから手に入れたらしい機械だ、記憶が確かならこの前のキヴォトス晄輪大祭だかで、セミナーの会計と見た気がする。

 

「それはそれとして、膝で撫でてるそれは?」

「ペットロボットだよ、これがなかなか最近面白い、たまに自爆するがね。さて、では食事でもするかな、船長、賄いスープで構わんよ」

 

 

 

 

 火山地下施設、タブハ・ベースの大通路を異形が爆走する。

 再建途上のゲブラ仮設Mk2だが、面影は胴体部と頭部の造形がせいぜいで、部品転用と再建途上というのが剥き出しだ。

 特徴的背部武装類の大半、外観的特徴たる大型レールガンはまだ再建されてないし、逆関節のどっしりとした脚部はケテル予備部品転用の多脚型で、しかも予備部品だから装輪タイプだ。

 装輪といってもそのホイールは削岩機材のドリルに近いデザインで地形に嵌らない様に配慮されている。

 ゲブラの出撃と同時に、区画隔壁が閉鎖される。

 

「なんだアイツ⁉見ない間にデザイナー変更したか⁉」

「ゲブラのようですが、再建途上のようですね」

 

 トキがやや目を輝かせた、相変わらずリオは奔放な教育してるらしい。

 即座にアビ・エシェフを起動、トキが前に出る。

 侵入した我々が何へ向かい、何を追っているか? 話は簡単、エリドゥでコトリが解説した事を覚えているだろうか。

 ”艦艇や集中したシステムを持つ存在は、大概配線やケーブルが心臓へ繋がる”と。

 構造上これは必然である、したがいリオ会長のドローンで各所の配線を荒らしまわり、”優先されて接続されてる場所を割り出す”事をした。

 停電したら困る場所はそりゃ大事な場所である、例えば指揮中枢という次第。

 

「ぴーすぴーす、れっつヘルダーイブ」

 

 我々が乗るパトリア装甲車を護る様にトキがゲブラと交戦に入った。

 ゲブラはレールガンの代わりにビナー用の頭部パーツ改造のランスを突き出して、アビ・エシェフを狙う。

 しかしトキはその不慣れな突きを回避する様に、バーニアを横へ吹かして回避する。

 ランスチャージにしくじったゲブラは旋回しようと通路外壁にワイヤーを撃ち出すが、さらにブレーキを兼ねてパイルを地面へ撃ち込む。

 試錐機材転用のターンピックと呼ぶべきパイルで旋回すると、ゲブラは即座に状況を確認する。

 

『下層部隔壁崩壊。目標は辺獄(リンボ)最下層へ侵入しつつあり』

 

 まずいとゲブラは最大加速で追撃、背部武装システムと正規のバーニアユニットの代わりに装着したサターン・ロケット級ブースターを点火した。

 タブハ・ベース最深部では現在、再建中のケテル用資材確保で鋼材や精錬工場がある、なんとしても死守しなくてはならない。

 無論それは他のデカグラマトンにとっても同様だ、先生たちのパトリアに向かってデカグラマトンのレールガン装備型実験用戦車隊が襲い掛かるが、ミサキのAT4連続射撃とエイミのドライビングテクニックで阻むことが叶わない。

 最悪なのはこのタイミングでリオのAMAS部隊が突入を始めた、各所で敵は侵入を開始しているのだ。

 リオにあわせてデカグラマトンの機材をハッキングしたヒマリが、遂に最下層へ繋がる空間の隔壁を開けた! 

 熱風が吹き荒れ、ミサキが軽くせき込んだ。

 

「溶岩溜まり、いや、地下空洞か?」

 

 先生が辺りを見渡す。

 溶岩がぐつぐつと煮だっているが、配線やケーブルは全てここへ集中している。

 だがそもそもここは火山の地下、こんな地下空間がなぜ存在する? 

 

「恐らくアリスを生んだ連中の遺産でしょうね」

「あのアホども、まだ火種遺したか? クソ野郎の死に損ないが」

「家主が死んで寄生虫が住み着いた、というべきかしら?」

 

 リオが施設と構造の分析を終えた、試錐だ精錬だ生産工場のラインが存在している。

 ケセドをクソにしてやったが、工場再建に資材を集めてたな? 

 けっと顔を顰めると、ヒマリが驚きの声をあげた。

 

「先生! リオ! こちらを!」

「なんだ一体」

 

 ヒマリの画面には、はっきりと溶岩の海の上に浮かぶ艦艇が見えた。

 

「データ識別、SSV⁻38情報収集艦……レッドウインター製の消息不明船舶です」

「数年は前に襲撃で沈んだんじゃなかったのか⁉」

「焼け跡がありますし、沈んだところをデカグラマトンに利用されたんじゃないですか?」

 

 ヒマリの言葉に全てが繋がった気がした。

 普通は成層圏を飛んでいる宇宙戦艦を捕捉出来ない、だがゲブラは来た。

 理由は簡単、SSV-38で捕捉してこちらを追撃したからだ、そしてゲブラ撃墜後回収に来れたのは? やはりこれのお陰。

 レーダーサイトが馬鹿みたいにジャミングをガン炊きしてたのも、こいつの電波を隠す為に必要なため。

 そうして今、必死に再建途上の野営地に俺が乱入したわけか。

 酷い交通事故である。

 そう考えてる最中に、天板をぶち破ってゲブラが飛び込んできた。

 

「トキ!」

 

 リオが慌てた声を出すが、彼女がこっそり先生の情報・発言を分析して改良したアビ・エシェフは凄まじい装甲耐久をもってゲブラの突進を受け止める。

 地下空間壁面へ打ち付けるようにアビ・エシェフを挟み込み、衝撃波で一部天井部分が崩れる。

 崩落した天井部分が慌てて迎撃に入ろうとしたゴリアテを踏みつけられた空き缶の様に潰した! 

 

「トキ、背部装備でゲブラのブースターを!」

『了解!』

 

 アビ・エシェフ背部ウェポンシステムが駆動、アリスのレールガンを参考にしたキャノンがゲブラのブースターを撃ち抜く。

 固体燃料ブースターを点火させて押し潰そうとしていたゲブラのブースターは誘爆、爆風と衝撃波が付近の工場区画と精錬区画を吹き飛ばした! 

 しかしゲブラは脚やブースター程度構うものかと損傷区画を放棄、背部ユニットを切り捨てそれにより区画の残骸を更に圧壊させる。

 

「目標未だ稼働中」

「脚部スラスター動かして離脱!」

「この状況じゃ無理よ!」

 

 ヒマリとリオの対応策に、先生がやむを得ないと指揮権をオーバーライドする。

 

「指揮権をオーバーライド、イジェクト!」

 

 アビ・エシェフ外装部分をパージ、出てくるのは”本来アビ・エシェフだった強化外骨格”だ! 

 先生のやり方を見たリオが作ったアビ・エシェフMk2とは要するに外装部品である。

 イジェクトとパージを見たゲブラは即座にコアシステムを発射して離脱、同時に自爆シーケンスを起動! 

 だがトキもその判断は当然すると予想し、直ぐに離れた。

 任務遂行に難がある場合自爆する覚悟くらい、トキにもあるからだ。

 

「ゲブラ蒸発!」

「アビ・エシェフ、外装部分は蒸発。脱出システムは正常に作動……はあ」

 

 リオが安堵してため息を吐いた。

 緊急脱出システムは2重3重にして正解だった。

 脱出してきたトキがパトリアの近くに降り立つ、リオの”考えすぎ”による装甲はしっかり搭乗者を保護していた。

 可動域を確認し、問題ないかを応急でメンテしながら奥へ進んでいると、ホログラムで通信が入る。

 

『そ、それ以上の進撃は、生命の保証をしかねますよ、この火山を破局噴火させることも出来るんですよ?』

 

 映し出された白い姿の、恐らくモモイレベルの知性も感じないアホ面をした相手に、先生は何も言わなかった。

 無言で片腕を上げた後にただ、前進を指示するように手を前に振っただけであった。

 

『え!? なんで進んでくるんですか!?』

 

 アインのぎょっとした声とソフの『音声出てるのか確認した?』という声が響く。

 先生は懐から取り出した縁の丸いサングラスをかけてにこやかに告げた。

 

「”お前らの性質上勝ってるなら降伏勧告なんかしねえだろバァーカ! ”」

 

 相手が交渉と言う解決手段を出して来たら弱みがあると認識する類の人間に対する最悪手であった。

 オウルが『今なら特別に許してやる』と言おうが、右から左、ところてんや流しそうめんよろしくするりと抜ける。

 

『なんで従わないんですか?!』

「人間が戦時にする交渉とは銃弾を使わない戦闘と言うんだ。知らねえのか! だいたいてめえらの悪巧みはろくなもんじゃない」

 

 オウルは愕然としながら尋ねた。

 

『そんな、我々は人間が決断や判断に悩まない様にしようとしてるんですよ! 善行です!』

「俺には無い悩みだなそれ、そういうことで」

『貴方の独善的主観で否定しないでください!』

「お前それ同じことを俺が言ったらお前らに刺さるけど良いのかよ」

 

 流石自販機の下っ端、自販機と同レベルの頭しかない。

 自由意志と尊重に関しては確実にモモイのが優れている、アホちゃうのかコイツ。

 

『貴方には必要なくても、他の人には必要なはずです!』

 

 アインが必死に自己の存在意義を探す様に叫んだ。

 

「らしいけどどうよ?」

 

 先生が笑いながら車内の面子に尋ねた。

「「ラプラスの悪魔の理論は失敗するのが常じゃない?」」と首を傾げるリオとヒマリ、ただ「あほくさ」と切り捨てるトキとエイミ。

 一番辛辣なのは「元の自販機は先生の端末相手に負けたけど勝てるの?」と煽るアツコであった。

 

Ignoramus et ignorabimus(我々は知らない、知ることはないだろう)

 

 サオリは呆れた様にそう告げた、解決不能は確かに存在するのだ。

 美徳と言うべき謙虚さを有するサオリはある意味デカグラマトンに対して真反対と言えた、知と探求と洗練においては貪欲であるからだ。

 

「らしいけど存在意義ある?」

 

 先生の言葉は簡単に翻訳出来た。

 ただ二文字、死ね

 

『……コクマー起動! タブハ・ベース、自壊シーケンス起動!』

「おっそ。即座にエリドゥ放棄自爆発動決断したリオのが早いじゃん。お喋りの最中も戦況は動いているぞ? 完璧な存在だからもうしてる物かと」

「火山活動の急速な活性化を確認。コクマー戦闘シーケンスに入った模様」

 

 呆れた様に先生が呟き、ヒマリとリオはどうでもいいとばかりに戦闘へ戻る。

 皮肉な事であるが最大の難敵は恐らくリオだったのだ。

 問題はその人が一番の支援者なんだが。

 

 

 

 この世ではない空間では、変形し始めるSSV-38情報収集艦にやや騒然としていた。

 

 ”凄いぞお! 艦船変形ロボだ! ”

「急に元気になるんだから君わかんないねホント、さっき迄、ここから彼はどう思うんだろうかみたいなこと言ってたのに」

 

 タイユランはプレナパテスにやや困惑しつつ、かの者達の言い分を思い出して鼻で笑った。

 人間の多様で不完全で突発的で乱数と多様な姿、フランス革命からナポレオン戦争と100日天下、更に7月革命を見てきた彼にはあまりに子供じみた考えだと思えた。

 まず第一に、人間の中に常に迷いのない奴が存在している、優れた野戦指揮官などは特にそうだ。

 諦めを知らない最強の運命論者、たとえて言えば、今ソイツが先生である。

 この世の中には天命を知る奴が少ないが居るのだ。

 

「なんというか、あの者達が哀れだ。仮に私が居たとしてもあれでは交渉も無理だろう、人類の死刑執行命令書にサインは書きたくない」

「全くです。人間をまるで理解も認識もしていません。なんという低スペック。王女たちが使ってるゲーム機の方がまだスペックが良いですよ。あっちは楽しませると言う事は出来てますから」

 

 ケイが馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの眼をしていた。

 表面的にしか人間を見ていないのだ、分析がしっかりしないと大体の場合破滅を呼ぶ。

 画面の向こうではリオのドローンに陽動され、トキに取り付かれ、アリウス一同に群がられてコクマーが右往左往している。

 

「あーあ、脅威予測がなってない……」

「前にホシノちゃんたちがやってたビナー狩りの戦術だねえ」

 

 自称先輩が手帳を見ながら呟いた。色々教えてもらって居るらしい、積み重ねたひぃんは力にはなって居る。

 プレナパテスは相変わらず興奮しながら”うおー! ビームとか撃てないのかあ! ”とスタンディングしている。

 開いたコクマーの口から最初は火炎が、しかし高熱化でプラズマ化して光学兵器になると”やれば出来んじゃん! ”と興奮をなお色濃くした。

 

「……貴方一応先生なんですよね?」

 ”失礼な! まだ首にされてない! ”

「解雇言い渡せる人間が居ないからね。キミもしかしてここに来て以降スレてきてないか?」

 ”弱音を言っても聞いてくれる大人の先輩もいるからね! ”

 

 画面では更に、リオが速成で作らせたハープーンランチャー、すなわちデカい銛を操作させている。

 ヒヨリが狙いすませてぶち込んだ一撃と、エイミによる同時攻撃はコクマーを大きく揺るがす。

 

 ”ハーマン・メルヴィルだったかァ……”

「エイハブにしちゃ可愛げがありすぎるけどね」

 

 タイユランの言葉に、いそいそと自称先輩は似たような帽子をつけてみる。

 

「つまり私も20㎜とか撃ってみたら……」

「当てれない動けない狙撃兵ですか、斬新ですね」

「ケイちゃんせめてお慈悲を!」

「傷だらけ属性でやるならば、皇帝の友人のあの人みたいに動けないと無理ですね」*3

 

 画面の向こうでは、最後の資源輸送船舶を離脱させたデカグラマトンたちが撤退を始めた。

 なにやら『戦術的勝利を噛みしめていろ!』と申しているが、根拠地喪失は戦略的敗退であるし、戦略的勝利に関してはその人には説明いらないだろうとタイユランは肩を竦めた。

 ただの野心家のイノシシ武者なら少なくとも欧州大戦争にならなかったし、自分が苦労しなかった、あれは人の形をしているが十分に怪物だったのだから。

 そう思いながら彼は、興奮状態でトリップして壺をコンと響かせながら”あの資源で彼らはあと10年は戦える”などと酩酊したこのもう片割れの先生をなんとかしなくてはと決意した。

 

 

 

 デカグラマトン共が尻尾巻いて捨て台詞吐きながら逃げて行った。火山噴火も阻止出来て万々歳だ、夏の無い年など冗談ではない。

 どうやら鉄道線路などをこっそり敷設していたらしい、ハイランダーの双子だけで十分だよ違法建設は。

 斥候と警戒部隊は出しておくように指示を出しておく。

 ただ敵をコテンパンに叩いて速攻しただけはあり、良い戦果が出ている。

 最大の戦果は? なんと施設建設の一部ログ! 資材の出元は何だろなクイズの答えが見つかった。

 

「……物質再構成だァ~?」

「ええ、名もなき神、旧支配者の代表的な力よ。もしかしたら眷属の製造元かもね」

「は? 元手0で兵隊作れんのかよクソが。プレナパテスといい、俺の相手はなんでそう俺より良いもんあるんだよ。むかつくなぁ、俺にはアロナ(シッテムの箱)しかないぞ*4

「あんなのと比較されるのは流石に心外ですよ!訴えますよ!」

「そうだな、プラナは出来る奴だったな。俺しか見えない聞こえないのにどうやって訴訟すんだよ?」

 

 リオが困惑するが、説明を続けた。

 

「……そして割り出したデータから、相手の拠点を見つけたけど、どうやら多次元バリアを段階的だけど使用してる」

「という事はあれか? またアリスのアレの出番か?」*5

「と、言うにしても、我々はあれがどのようにして、どう言う風にやってるかまるで分からない」

 

 リオのどうもならんと言いたげな声に、まあそれも構わんかと足を組む。

 ヒマリはあまり賛同していない様子だが、デカグラマトンが真実人類の敵あるいは問題であることを否定していない。

 リオ相手には強く出れても、本質が軍人であり、敵対者は無力化するか根絶するかの二つ以外には無い先生では説得は効かない、彼は基本的に学術的に考えて相手を滅ぼす事を決断する人間なのだ。

 まあそもそもデカグラマトン自体、歪んだエゴイズムの自慰行為に巻き込もうとしてるから、デカグラマトンの抹殺自体は当たり前なのだが……。

 

「あーあ。俺もなんか元手0で人件費も無料の100万くらい溶かしても世論が怒る訳が無い機械の兵隊とか出せるようにならねえかなぁ。そうすりゃ大半の奴に学生させてやれるんだがな」

 

 先生がまた偉い事をくっちゃべってると呆れたシャーレの隊員が、食事の用意を始めた。

「世界を勝利と敗北でしか定義できない青二才」ならともかく、あんたにそれを渡したら止めれないがなとみんな知っていたのである。

 

 まして、彼には”生徒を危険に巻き込むのが辛い”という弱みが無かった。

 何故なら彼は常に戦場で敵弾飛び交うところに生きてきた、パリの街路で、イタリアの山岳で、ドイツの平野で、ロシアの凍土で、彼は戦い続けた。

 かつてと見劣りするようなしょぼくれた装備と新兵の多いグランダルメ。しかしフランス本土の戦いでやはり彼は負けなかったし、あらゆる奇跡の集積点たるワーテルローで奇跡を4回か5回くらい起こされて負けたが、逆に言えばそれだけしないと無理なのだ。*6

 そして更にろくでもないのは、彼はゲマトリアの悪党とどう違うのか完璧に説明がつくのだ。

 どう違うのか? 彼は嘘をつかないし*7見下しもしてない、常にそれだけは護っている。

 アンギャン公を必要ならもう一度殺せる酷薄さと友人に報いる正直さは両立しうるのだ。本質を何も理解してないゲマトリアとそこが違った。

 問われても「同情すれば状態は良くなるのか?」か「あいつら楽に勝たせたいから重装備の予算通してくれよ」が精々だ。

 

「まあダメだったら頭を掻いて誤魔化して別の手だな、偵察と索敵網の構築は怠るなよ」

 

 事も無げに彼はそう呟いて、仮眠してくると告げた。

 先は長いし、モモイ共はすぐに来るはずないと良く知っている。

 

*1
中国版の声かっこよかった

*2
第三惑星辺りに親戚います? 

*3
長谷川ナポレオンの身体能力のレートトップ勢は出来そう

*4
そいつの性能も大概なんですよ

*5
出番が来るたびに勇者の剣の星が増えるような気がします

*6
「たとえ全てが虚しいものだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない」を突き詰め続けた結果の一つ

*7
守れそうに無いことは暈したり言わない




それではよいお年を!
デカグラマトンの謎は明かされ、ニヤニヤ教授と7囚人の正体とは!
アニバーサリー楽しみですね、先生の方の原作長谷川先生も新連載を始めたり、楽しみの追い2025年になりそうです。

感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当に助かっております、この場を借りてお礼申し上げます。

暫く最新話は外伝に成ると思います。
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