キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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Lazarus sign(ラザロ徴候)

 

同刻、ミレニアム学園、某所。

ゲーム開発部の部室は大概の日がそうである様に、だらけた雰囲気をしていた。

テストで制作したゲームがアリス満面の笑みで「クソゲーですね」と唐竹割りされたが、改善案も浮かばないのでモモイはだらけている。

ミドリはミカとキキョウから以前渡された資料の本を読みながら、次の創作の種を考えているし、アリスとユズは次の部費申請用の書類と格闘中だ。

 

「んがー!なんも浮かばん!」

 

ごろんごろん寝転がりながらモモイが嘆く、しかしすぐに飽きて、嘆くより何が駄目か考えなおす。

こうした勝手に士気が回復するのはミレニアム学生の良くある手段である、大概また何かやりだす。

なんか出来ねえかなあ、気分転換、想像の外からの一撃。

モモイは口を阿呆の様に開けて視線を天井へ向ける。

真実阿呆そのものと化してないかとやや不安にかられたミドリは、肩を叩いて意識を呼び戻した。

 

「そうか先生だ」

「へ?」

「気分転換、意識の外、ユウカ達や先生を見ればなんか変わるかもしれない」

「カフェいくの?」

 

ミドリは確かに悪い提案じゃないなと考えた。

しかし、ユズが困った顔をして述べる。

 

「先生たち数日居ないって聞いたよ?」

「へ?なんでェ」

「極地SLOC(海上交通路)の安全作戦だって」

「極地ぃ?……ペンギンや白熊見物?」

「それ南北で真反対だよ」

 

ミドリに突っ込まれて「そうだっけ」とモモイは頭を抱えた。

ユウカ達が居ないとなると想像の翼を広げるのは苦労する。

常に何かを生み出すには他者からの認識が無くてはそれは完成しない、製品は特にそうだ。

そうこう考えていると、モモイの携帯が鳴る。

 

「はいもしもし、才羽です」

『モモイちゃん、いま皆さん居ますか?』

「あ、ノア先輩。へい、なんのごようで」

『えー、先生からの伝言です。”ただちに暖かい極地用の服へ着替えて待機せよ、迎えは急行中。”だそうです』

 

モモイの汗がだらだらと流れる。

 

「エッ、私ら何かしましたっけ……」

『さァ……?私はこれから連邦生徒会審議部に申請書届けるので……』

 

電話が切れると同時に、建物の前に高機動車が停車する。

キキョウとラビット小隊の隊員が即座に入室、書類を突き付けて車内へ投げ込んでいく。

 

「なんでェ……」

 

困惑したユズへ鼻拭き紙とシャーレ隊員向けの冬用装具と制服を支給し、キキョウがそのまま車内で着替えさせていく。

着替え終わった頃には飛行場であり、そのままゲーム開発部はUH-60へ載せられ、途中からOV-10に乗り換え、極地へ飛ばされていった。

 

「なんでェェ……」

 

モモイの困惑は、極地の空へと消えていく。

眼下の海では、航海灯を灯しながら進むダンブルホーム船型の三胴艦と輸送船も見えている。

 

 

 

 

バタバタとローター音を轟かせて、UH-60が着陸する。

 

『特別部隊現地対策本部到着!』

「ごくろう」

 

仮設のブロック式木製兵舎で、状況を確認する。

砕氷艦2隻をオデュッセイアから徴発したおかげで、根拠地が設営できた。

おかげで重装備の補充も無事届いた、アクレ攻略の時みたく攻城砲が輸送船もろともやられたりせず済んだのは良い事である。

トキの頑張りで潜水能力を持つゲブラを火山で粉砕したからだ、通商破壊ができる連中を火山で使ってくれて、なおかつ撃破できたのは非常に助かった。

他が居たとしても逐次投入だ。真剣さが足りん。

包囲計画は進んでいるが、現状は擾乱砲撃程度で止めている。

多次元バリアが有ろうが定期的に砲弾はくれてやる、常にお前達を見ているぞと言う証明と案外内部が揺れたり、エネルギーをアレの構築に使わせ続ける。

たびたび輸送機が近づいているので、SAMをぶち込んで撃墜して嫌がらせ攻撃してるが、なに運んでるんだろうか。

 

「報告。ゲーム開発部一行到着」

 

トキが扉を開けて告げた。

もこもこの冬用野戦服、にしては随分袖やらを縮めてサイズをむりくり仕立て合わせた姿で出て来た。

靴の部分は古新聞辺りか?キキョウとラビット小隊を投げつけてぶち込んで正解か。

 

「よぉ待ってたぜ。モモイさんご一行」

「あんのォ……、急にシャーレの人たちに連れて来られて重装備と補給物資と一緒に担ぎ込まれたんだけど……」

 

流石にモモイも思わずびっくりしている、人の頭にゲーム投げてきた貸しを返して頂く。

しつこい?恨みがましい?された事は忘れないだけだぞ!

 

「悪いがマーシャルローだ、人類の危機だ。機械の大悪魔どもが攻めてくるんでな」

「そう言うのもっと得意な人居るでしょ。ミカさんとかイロハさんとか」

 

ぽかんとしながらモモイのまともな言葉に頷く。

 

「あいつらはユウカと動員準備だ、場合によってはオーバロード(色彩への大反攻)以来の大作戦だ」

「なおさら私らの……」

 

モモイのかすかな記憶の中に、エリドゥ攻防が蘇る。

 

「え、またアリスちゃんがらみ?」

「おめえ頭良くなったな」

 

素で驚いた様な先生の言葉を聞いて、モモイは隣を見た。

アリスはきょとんとした顔をしている。

 

「で……、トキ、お前の主は」

 

トキが隅の机を指さす。

リオが机の下に隠れていた、ヒマリが何してんのと頭を抱えている。

 

「……おめえまーだ恥ずかしがって」

 

呆れたと呟くと同時に、アリスがリオの方へ走って抱きつきに行った。

いいなあ、とトキが呟く。

 

 

 

リン首席行政官は極めて重い気分にされた。

シャーレが遂に連邦生徒会会長の禁域に手を突っ込んだという事、しかもその使用が”至当と認む”という案件。

妥当でも正当でもなく至当だ、意味が大きく変わる。

 

「というわけで既に3大校の同意を得ました。無論その他学園の最高階級者のある程度の確認も得ています。」

 

どんとユウカが書類を置く。

マコトとナギサ、更にリオにチェリノにニヤ、アヤネにアツコまで同意させたという事だ、なにしたかは理解できる。

”まあまあ、これまでのあれこれに免じて今回だけ名前貸して”、という事だ。

誰が断れるだろうか?大権は民意の承認を得て初めて実力を得れる、決して手紙一枚や役職名や大人だからではない。

頭は上の時に下げて最大火力を発揮できる、必要な手段である限りプライドは傷つかない。

 

「しかし、私はあくまで代行ですが」

「はい。防衛室長と連邦生徒会会長が存在してないのは当方の感知し得る部分ではありませんから」

 

ユウカは詰めを完了させた。

翻訳すれば「Noという権利は無いのでただ承認・追認してください」である。

完全にヤクザのやり口だが代理の選挙や防衛室の清廉さを維持できなかった政権首脳部の話であり、外局の介入や感知しうる点では本来ない。

胃が痛いとリンは顔を覆い、ため息をついて判子を押した。

ただちに連絡を受けて、オデュッセイア学園の艦艇が規定コードを受け取り、ロックを解除する。

 

 

 

リオがようやく机から出て来たので、アリスとゲーム開発部を集めて説明会を行う。

ラザロ計画、実のところアリスの中に居たケイは消えたわけではない。

アリスの陽電子頭脳とマイクロマシンの中で、スーパーソレノイド理論の核で動く体内に各所のキャッシュログの集合体としてケイの”魂”は恐らく存在する。

それが再分析時の記録から推測された情報だった。

 

「つまり、私の中にまだいるのですか?」

「エリドゥ戦時に”あなたはあなたである”と定義した。その結果事実上脳内に……別のSSDでケイというプログラムが走っているようになったわ」

 

リオが図を浮かび上がらせて、説明を続ける。

何言ってるか良く分からないが、予定通りならケイは溶けて消えるはずがアリスの行動から同居人になった。

そして、そのケイとアリスを狙いデカグラマトンは奪おうと画策し、宇宙船まで追いかけて来た。

だがここで問題が起こる、対抗手段を起動したはいいが宇宙戦艦もアリスも想定外な稼働をしていた。

宇宙戦艦は”戦時国債”、すなわち人の意思と奇跡を起こす力で糧を得ていて、対抗手段はいくら探しても「箱舟の王女」を殺そうにも見つけられなかった。

だからこそ、ケイは箱舟の起動承認者としてシステムを破壊されかけたが……、ところがどっこいバグって稼働してたせいで予定は滅茶苦茶、キャッシュがあちこちに散らばっていた。

何故か?大きな原因はアリスの心象世界が広く豊かに育ち、結果として「キミは君だ」という概念が根付き過ぎたことである。

 

「んあー。つまりケイが眠ってるのを再構築する感じですか?」

「概ねそういう認識で構わないわね」

 

アリスは、少し考えを纏めたいと告げた。

外に出て、アリスは立ち尽くす。

 

「スズ戦闘団揚陸作業完了!」

「機械化部隊の上陸進捗予定通り」

「艦隊に予備弾搬入!」

「<ケートー>、データリンク。UCAVのスタンバイ」

 

各所で戦闘準備を整える声が響いている。

瞬間、風が吹いた。

軽く風にあおられ、強い光が照らし、アリスは空を見上げる。

綺麗で、どこまでも吸い込まれそうな青い空だ。

アリスの考えがまとまる。

 

「リオ先輩」

「なにかしら?」

「……もしケイが蘇らせれるなら、空がきれいだって、見せてあげれますか?」

 

彼女は決意した。

 

 

 

 

どこか静謐なる空間では、満足気なケイの顔が潤んだ顔になっている。

 

「王女はあんな優しく良い子に育って……!それでこそ王女なのです……‼」

 

仕えるべき主人が優秀であるなら、何を迷う事があろうか。

ましてケイには個人的怒りもあった、人の技術の猿真似に劣化版商法、モンキーモデルなど断じて許さない。

その力は王女の物だ!……まあトキとかは王女が許すなら許してやらん事もない、リオもまあ良い。

だがあんな佞悪醜穢極まった存在に王女を、アリスを騙るなど断じて許さない、神を自称し完璧を名乗ってその実コピー商品とはなんて野郎だ!

何もかもが間違っている。私は好き好んで王女に仕えているのだ、低俗な勧誘を許さない。

 

「行っておいでケイちゃん」

「陰謀練るような奴はオリジナリティ無いとダメだからね。ぶちかましてやれ」

「頑張ってねー」

”好きなように、なりたいようになればいいさ”

 

ケイがぎゅっと鉢巻を巻いた。

 

「行ってやっつけてきます、師よ。パテント料は取り立ててきます。返却は受け付けません。向こうに蝋燭があれば良いのですが」

 

がたんと扉が閉まる。

途中、黒い犬とM16を担いだ男とすれ違いながら、ケイはあの懐かしき主人へ駆けていった。

 

 

 

アリスを寝かせていた寝台から、装置が計測値を増大させる。

 

「パウダー粒子に揺らぎが生まれました!」

 

ヒマリが再生用のチェンバーを確認しながら、リオへ告げる。

コンソールのデータにはタキオン粒子と局所的な重力波変動、そしてクレフシン発光の肉眼確認。

危険環境保護スーツ(HEVスーツ)を着用しているとはいえ、リオやエイミにトキもやや後ずさる。

チェンバーの中とアリスの背中から、かすかに光輪が浮かび上がり、空間の一部が変容する。

 

「光を曲げて光輪を背負うとはこれなのね……」

「そんな事言ってる場合じゃないですよ、下がりなさいリオ!」

「大丈夫よ。最悪ここの区画が吹き飛ぶだけで済む」

「良くないでしょ!」

 

リオのタイピングが始まり、魂と呼ぶべき何かを定着させ始める。

内心自身の関わって来た事がこれほどとはという気持ちもある。古代記録の「光を帯びて空を覆い死を運ぶ、巨いなる兵の神」とは。AL-1Sの力の一端とは何かを見ているのだ。

チャンバーが幾ら”外”の技術を取り入れて作り上げた東亜工廠とかいう、何もわからないが最適なので運用している機材であるとしても、未知を既知へ変えたくもある。

しかし今は蘇生と再生と定着が最重要課題だ、今までの頑張りを無にしてはならない。

ごとん、という音がした。

 

「……再生術式、成功のようね」

 

リオは深く息を吐き、チェンバーの中を見た。

ほとんどアリスと変わらない、しいて言えば、髪がショートなだけの”ケイ”がそこにいた。

 

「……ボディーを形成した?どういうことかしら」

「おそらく、キャッシュログと長くいたため体組織情報を取り込んだと推測してますが……」

 

ヒマリがやや唖然とした顔で、取り敢えずエイミに服を手配させた。

 

 

 

再生したら身体が生えたってナニ?わけわかんねえんだけど……。

ヒマリもリオも「わかんない」と匙をはるか彼方に投げ飛ばしている、アリスの身体はなんもわからんというのが今までの結論だった。

無論それはある意味当然だ、何故かアリスには味覚があり、ファンシーなものを喜んだり、ひたむきに未知へ貪欲で、エネルギー補充を食物で摂るし、不要物排泄機能まである、明らかに訳が分からない。

そもそもアリスが何で動いてるのかすらろくすっぽわかりゃしない。

 

「うわーんなんにもわかりません」

 

ヒマリが匙を投げて呟いた。

各種検査ではアリスもケイも体積は何も変わっていない、変わったのは?

再生用区画の僅かな体積。

すなわちアリスは周囲の微細な一部を再生成してケイの素体を組んだのだ、滅茶苦茶だ!空中の微細物質まで書き換えれるのか!そらリオが抹殺を考えるよ!

 

「しかしまあ、正常なんだよな?よくわかんねえが」

「一応」

 

リオは肩を竦めた。

元々今の状況が異常なのだ。

外の様子を見てみる、身体の稼働実験ですとアリスがケイを連れ出して、雪合戦をしている。

 

「……嬉しそうだな」

「この世でただ一人の、自分の同胞、いえ、家族だもの」

「……喜びと悲しみ、寂しさを知るなら安心だな」

 

帽子を被り、外へ出る。

スズ戦闘団の予備被服から融通して、シャーレ隊員用の制服を貸し出しているが、傍目から見たら誰も分かるまい。

とりあえずアリスクの予備の徽章を適用して着けてある。

 

「あ、先生だ」

 

モモイ達が振り向く。

 

「お前がGバイブルか」

「わざと言ってますよね?あなた人を勝手に自分の呼び方に変えるの好きって聞いてますよ。と言うかエリドゥで会いましたよね」

「何の事だか?」

「クソデータ読み込みさせたりしてくれたり」

「人を騙して走らせるのが悪い」

 

アリスがあわあわとしている、中々面白い。

お姉ちゃんらしくあるのも大変なんだよアリス、とモモイがドヤ顔していたので、ケイと二人で雪玉をぶん投げた。

 

「なんでえええ!」

「「なんかムカつく」」

「なんでえええ!!」

 

アリスが「うわーん悪い大人の悪影響でグレてます!」と嘆き、どきっとした顔でケイが停止した。

図星といいたいのか貴様は!

身体の調子を聞いてみると、「五体……正確には2万5800パーツ満足です」と言われ、思わず面を喰らった。

 

「正確にはこれは本体ではありません。」

「そうなの?」

「長いですから省略しますが、実のところ私の魂自体はアリスと不可分です。ですから、極論を言えば私は王女ある限り”いつでもそこに居ます”」

 

ケイが渋い顔をしながら横目にゲーム開発部を見る。

 

「そうあなた達がデスマーチしたり掃除さぼったり偏った食生活したりDJごっこしたり、あげくメイドの姿で変なことしてる時もですよ」

「「ギク」」

 

……まるでちっちゃなユウカだ。

とはいえ心配はある意味、解消された。

ケイは少なくとも”同じルールの戦闘が出来る”、何故かは分からないがアリスと同じとするなら、この感情的な姿は素であるからだ。

敵対者としてそれが分かれば問題は無い、同じ価値観を有する場合、和平も結べるのだ。

有してない場合はどうしようもない、絶滅戦争だ。

生きるか死ぬかの生存競争開幕である。

 

 

 

風邪引くぞと偵察・測量から帰還してきたサオリに言われて、ゲーム開発部は素直に臨時宿舎に帰っていく。

ケイまでサオリの言う事を素直に聞くのかよ!なんでだよ!納得いかねえと思いながら自分も戻る。

 

「お、紅茶淹れたけど飲む?」

「飲む―!」

 

スズがゲーム開発部とサオリ達に紅茶を配給していた。

ミサキやアツコが「またなんか増えてる」とケイを見て首を傾げており、ヒヨリは「双子だったんですか?!」と驚愕していた。

当然ながらサオリ達には説明しなくてはならない、スズにもだ。

説明を聞いて全員が「なんでそうなる?」と首を傾げさせているが、取り敢えず受け入れてはいる。

すると、ヒマリのコンソールが警告音を出した。

 

「電波と特異信号感知。デカグラマトン警報です」

「新型か?」

 

ヒマリとリオがコンソールを叩き、直ちに分析に入る。

同時にコンソールを叩きながら、ケイとアリスが画面へ何かを映す。

 

「どうした」

「分析情報です。王女は優しいですね。私もムカつくのでお代はタダです」

「うわーんなんかダシにされてます!」

 

アリスが嘆きながら端末を操作し、通信回線に反応が入る。

ケイが画面を見た瞬間、端末を叩いた。

 

「王女。こちらに。」

「へ?」

 

ケイがアリスとゲーム開発部を奥へ下げ、先生に「サウンドオンリーです」と告げた。

なるほど、アリスを埋伏の毒とするため情報管制か。

おうと頷いて奥へ下げさせる。

再びデカグラマトンのしもべが出て来たが、今度はキヴォトスを鋼鉄大陸へ変えるとかのたまいだした。

 

『あんたたちに、宣戦布告をしに来たの!今度こそ震えあがると良いわ』

 

ヒマリが嫌な予感とちらりと先生を見た。

先生は、丸いサングラスを着けてあのろくでもない事を考えている笑顔を見せつける。

 

「今更宣戦布告だぁ?舐めてんのか、でかまくらふとんさんよお」

『あの方の名前を愚弄するな!』

「うちのあほのタブレット浸食できずに自殺したアホが偉いわけないだろ。過去から学んだこと無いのか?」

『神聖な10文字を愚弄するに足りず、あなたという人は』

「神聖な10文字か、今度早口言葉にして流行らせておいてやるよ……いや流行りそうもない、つまらんし」

 

相手を軽く小突いたら感情的になりすぎている。

カイザーの方がまだ何するか分からんぞ、たまに偉い奇想天外に吹っ飛ぶケースもあるし。

あんな感情を容易く剥き出しにするという事は、今度はこちらから「やーいお前の神様ロリコンAI」と音声宣伝でもしてみるか?

 

「人のふんどしで勝手に相撲して悦入ってバカみたいな集団ですね」

「酷い事言うねキミ」

「だって、ネツァクの力はあれは王女の力の劣化コピーですよ」

 

ケイの言葉にアリスが仰天した。

 

「そうなのですか?」

「はい。説明する前に其処の大人が滅茶苦茶したから言えてませんでした」

 

俺のせいじゃねえよとしらばっくれつつ、ケイの解説を聞く。

ケイの話では「見るべき、警戒すべき点は規模が大きいだけで、それ以外は児戯も同然、昆虫と同程度」と辛らつな評価だ。

ただ無理矢理戦えなくさせる手法は面倒だ。

 

「それもこれもパクリです、さんざん王女に関わって二回も痛い目を見て、まだ足りないようですね」

「まあ懲りないから自称完璧なんだろ」

「ろくでもない……」

 

辟易した様子のケイが、少し考える様子をしていた。

何を考えているか聞くと、「連中の眼や手管を騙す算段」と返され、思わず笑う。

ケイはむっとして、アリスへ尋ねた。

 

「王女、あなたは、危なくなったらどうしますか?」

「危なくなったらですか?……リオ先輩を見習って、最後に下がってアリスも安全な場所へ逃げます」

 

堂々たる満面の笑みでアリスが宣言し、ケイが微笑む。

 

「生き意地汚い!結構!立派!それくらい図太いのが一番いい!」

 

横からスズが笑ってそう言い、サオリも「間違いない」と微笑む。

ケイには分かっていた、アリスの言う勇気と先生の言う勇気はほぼ同一のものだ。

ただ味方の10歩先を行く、ただそれだけ、それがあまりに危険でも。

王女はまさに王女であった。

 

 

 

 

夕闇の中、シャーレのスズ戦闘団とミレニアムの無人兵団が前進を開始する。

対デカグラマトン用の人造された機械の天使、パワーズも作戦部隊に配備された18機が投入される。

どうやらネツァク内部でケテルのレーンを再現したか、ケテルの転用品らしいものも投入されだしている。

本隊と先行してゲーム開発部と無人兵団が進むが、デカグラマトンのしもべたちは対応を決めかねていた。

恐るべきことに、ここに来て明確な上司であるマルクトへ報告を怠るという信じがたい愚挙を晒している。

 

「落ち着きのない連中ですね……」

 

アイン、ソフ、オウルは完全に創造主のそもそもの無能さによりロジックエラーを起こしていた。

自分は正しいから正しい、などという前提が間違ってるが、間違いを認識出来てない。

これまでキヴォトスで彼が戦い続けた相手は、先生が動いたという知らせを聞いて出るのは「相も変わらず動きが早い」であり、対応を練る事よりも即断する。

理事は主導権を握り続けようとした。リオは誤解から実験とした。ベアトリーチェは無理押しの火力集中を。カヤはヤケクソに弾道弾を。シュロは空間から隔離して連携を絶とうとした。

いずれも主導権を渡さない様に即断して、追い詰められてると自覚しながらも動き出している。

敗北の恐怖を知るがゆえに。

 

「目標はグリッドポイントへ近づいてるみたい」

「迎撃する?」

「無理に迎撃して玄関口を割られても迷惑だと思う」

 

なんたる消極主義的かつ退嬰的思考であるか。

もっとも正しい手段は、マルクトへ即座に上告する事だと言うのに。*1

しかし、この全く理解と思考と思案も無いAIのキャッシュログ蓄積会話はすぐに打ち切られた。

 

「何かあれば報告と言いましたよね」

「「「あっ」」」

 

マルクトの介入である。

会話ログ情報から異常を感知したマルクトはただちに事態を理解した。

未だ確たる自我を有さない、成長の段階を過ぎ去ってないが、マルクトは判明している情報で筋道を組み立てた。

極論言えば勝つ必要は無いのだ。時間を稼げればそれでいい。

従い、無理に戦闘するより封じ込めれればそれでいい。

全くもってマニュアル的だが、妥当と言える筋道だ、敵に選択させない事が肝要であるからである。

しかしマルクトに不幸があったとすれば、自身の妹たちが創造主の怠慢から軍事的無能であるという事である。

 

驚くべき事に、彼女らは事前偵察情報のマルクトへの共有をしていない。

 

マルクトはそれに気づかないまま、多次元バリアによる封じ込めを行った。

途中の数式が間違えている事に気づきもしないまま……。

 

 

 

突然、機械が停止した。

それはまあ良いとして、多次元バリア内部と言うのは困る。

機械が停止してもぶっちゃけサオリ達が居るから位置と方位が分かるので、歩いた歩数から逆算できる。

 

「んじゃあとりあえず伝令を用意するか」

「はーい」

「……相変わらずこういう時の先生、即断即決というか」

 

ユズが困惑した顔をしている。

エリドゥの時に垣間見た、自身を囮にするのも至極当然とした同情も無い恐怖の体現者にもなるこの大人。

相変わらずヤバいときに一番アテになる。

普段のゲーム開発部の時は「納期守れやと何度言わせんだアーン?」とヤクザめいているのに。

 

 

 

アリスの量子空間接続と陽電子頭脳が、一瞬にして見た目を書き換える。

 

「ケイ?」

「大丈夫ですよ、ここにいます。」

 

隣に立っているケイに、アリスは空を指さす。

オーロラの様な何かが空に輝いており、綺麗ですねと喜びを表すが、すぐに気づいた。

ミレニアムで習った気象・天体学では”今日この瞬間にオーロラは生まれない”。

 

「あれはなんですか」

「早く気付いてくれましたね、あれは……そうですね、アリスと私が辛うじて認知できる、あなたの力の線とでも呼びましょうか」

「マジックポイントや補給線ですね!アリスもゲームで良く見ました!」

「まあそういう認識で良いです。何でもありの空間です。」

 

ケイは指を鳴らして、風景をエリドゥへ変えた。

 

「こういう感じに何でもありです。」

「魔法のマッチみたいですね!」

「つまるところ、この光の可能性で貴女を閉じ込めようと、利用しようとしている者がいるのです。」

 

ケイは更に風景を変えた。

多次元観測と量子のもつれから、別の空間が見える。

 

「わァ!師よ!窓からケイちゃんたちが!」

「何を言ってるんだね君は?あら本当だ」

 

タイユランと自称先輩が聞こえ、慌ててケイが画面を変えた。

 

「……今のは?」

「空間のちょっとしたミスです」

 

ケイは咳払いして、アリスへ告げた。

 

「ともかく、王女には、アリスには、神にも悪魔にもなれる力があります。」

 

画面が切り替わる。

どこかの草原、唸りをあげる前装式火砲、黒色火薬の銃声、戦列歩兵。

そして先生。

 

”勝つぞ、ラス・カーズ!”

 

戦列の数歩前へ歩き出る。

 

「かつて貴女は言いました、”この世界が好きだ”と。あなたの好きなゲームから引用しました」

「はい」

「辛くて苦しいかもしれません、理解されないかもしれません、それでもこの世界は、美しいですか?」

 

アリスは満面の自信の籠った笑みで言う。

 

「それでも少しずつ誰かの笑顔を増やす事が出来ます!先生がアリスたちにそうしたように!」

 

風景が瞬く間に切り替わる。

人が帰り始めたアビドス砂漠、トロフィー輝くゲーム開発部の部室、再建されたアリウス、小さな交番でドーナツを齧るヴァルキューレの警官、カステラを買って帰る百花繚乱の人々。

祈り通じて導いた結果だ。

セリカの作るラーメンを啜るシャーレのライフルマン、マキとウタハ部長で悪巧みした事、しっぽと耳を揺らして走るセイア、また何か言い出したミヤコ、分解整備した小銃を抱いて寝ているユカリ、全て小さな日常から奇跡を見つけた結果だ。

 

「……ありがとうございます。私の、大切なアリスよ!」

 

ケイの手のひらが、アリスの両頬を包んだ。

 

「あなたはわたし。」

「わたしはあなた。」

「「二つの心を合わせて」」

 

小さな火は炎となる。

アリスとケイが目覚め、一瞬アリスのレールガンが結晶に覆われる。

 

「全部見えます!凄いですね!」

「どうしたアリス」

「えーと、先生の分かりやすいように言うと、デンジャークロースです!」

 

サオリとヒヨリが即座に先生を担ぐ。

唸りをあげるアリスのレールガンは、今や事象崩壊砲やタキオンランスの同類と化して、周囲のエネルギーを吸い込む。

 

「次元フライホイール回転。縮退連鎖開始。エーテル波大乱流」

 

ケイがそっとアリスの手に手を重ねた。

肉体直接接続からアリスとケイが完全なデータリンクを繋ぎ、狙うべき要点を定め、それを確かめたアリスは堂々たる笑みを浮かべた。

彼女のレールガンには、輝かしいキルマークが描かれている。

 

「測的よーし。射線方向よーし。撃ちィ方ァ始めェ!」

Te(テェッ)!」

 

次元爆縮が開始し、陽電子の衝撃が一路宇宙(ソラ)へ駆けていく。

青白い雷光が天へ突き立てられていく!全ての自分を縛る可能性を邪魔だと粉砕し、何が何だろうが私が私だと言う証拠を押し通す。

やがて高高度へ立ち上った青白い閃光は、満開の花が咲くように幾本も伸びて力場を操るドローンを1ミクロン単位も残さず消失させた。

 

「空間を歪め天を裂くとはこれなのね」

 

リオが唖然としながら呟いた。

 

 

 

 

「力場維持ドローン群3番、18番、24番消失」

「なっ……あッ……なんだあれ……。」

 

ソフの絶句とアインの泣き声が木霊する。

”空間を裂いた”?なんだそれは、そんな事が許されて、そんな無法が、滅茶苦茶が許されるのか?

無論自分たちがネツァクで力を無断借用してる事なんぞ都合よく忘れている、自分は良いけど他人は駄目と言う他責な創造主のせいである。

 

「凄い……。」

 

マルクトだけが、事態を好奇の目で見ていた。

 

「あれも、大人の力?」

「そんなはずは……変数にも考慮対象にもならないのに……」

 

マルクトが即座に電子、光学、熱源で情報を洗いなおす。

意図的にジャミングがかけられている。居る。間違いなく自分たちを認知してる存在が。

それは今、完全に奇襲として我々の頬を思い切りぶっ叩いた。

なんという判断力、経験値の差であるのか?マルクトは初めて、生まれなおして最初に「楽しい」という感情を手に入れた。

なにをしても、「分からない」だった。

姉妹たちに本を読んでも、計画を確認しても、「貴女は玉座に」と言われ続ける。

 

「グリッドポイントに野戦部隊を。作戦を私が指揮します」

 

デカグラマトンの誤算が拡大し始めた。

 

 

 

*1
上司に何かあれば報告と言われたのに言わないAI





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