キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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未だ生を知らず、焉んぞ死を知らんや。 ──孔子、論語


「エウダイモニア」

 

「整理しましょう。」

 

マルクトがふむと呟き、観測データを展開していく。

まず確定している事、それは此方の探知手段に妨害(スクランブラージャマー)をかけている存在が居る。

と、いう事は概ね認知しうる限り技術の差はあまり開いていない、という事だ。

逆に言えば相手はそれを露見しうるのも気にしていない、という事だ。

マルクトには奇妙に思えた。

 

「観測データを」

「こちらで全部です。」

 

オウルが資料を渡した。

今までの人類使用周波数、公開記録、放送などから同時演算分析を開始する。

数秒の識別から、マルクトは投入されている作戦部隊の顔識別をある程度終えた。

そして、奇妙に引っ掛かった。

 

「彼女たちは……シャーレ隊員ではない?」

 

分析画面にモモイやユズ、そしてミドリの顔写真が映し出される。

所属分析資料、ミレニアムゲーム開発部。

マルクトの疑問が増える、明らかに非戦闘員と推測される。

そしてミレニアムEXPOの公開情報を参照した際に、マルクトは当たりを見つけた。

 

「AL-1S」

「え?」

 

デカグラマトンの三人のエンジニアたちは唖然とした顔で資料を見る。

公開記録の写真には堂々たるドヤ顔で記念撮影するアリスが映し出されている。

 

「自律駆動していると聞きましたが……、なるほど」

 

なぜゲーム開発部がシャーレの戦闘服を着ているのか?それはともかくとして何故逆探知と反撃が出来たかようやく理解できた。

これではAL-1Sからすれば見え見えの電波源へ標定射撃するくらい簡単に撃てるだろう。

 

「で、でも王女は操作手段を有してると思えない、どうやって?」

「わずかに重力変動反応が観測された記録と、エーテル波が揺らいだ痕跡があります。物質変成やそれに類するものを使用したと推測できます。恐らく彼らは鍵を復元したのでしょう」

 

マルクトが判明している事実だけで論理をくみ上げ、正解へたどり着いた。

そうなると事態は更に分かりやすくなる、あの大人はAL-1Sの増援を呼びこんだ、という事は当然ああした力は任意に運用できるわけだ。

なるほど、ジャミングをかければ奇襲に奇襲で返せる、戦術、なるほど。

 

「という事は我々はやるべき事は簡単です、偵察機を増やし、ティファレトで遅滞防御戦をしましょう。」

「撃破じゃないんですか?」

 

アインが尋ねる。

 

「最終的にそれが出来るなら望ましくあります。しかし、現状の目的は勝つことではなく、鋼鉄大陸の完成です。

 いくらか妨害要素を受けていますが、我々はそれの完成こそを目的としている、従い勝つには時間を稼げばよいのです。」

 

にこりとマルクトは明快かつ端的な目標を示した。

理論理屈としては極めて兵理に適格と言える。

……問題は、いつだって人間は不確定という事だ。

 

 

 

 

夜空を粉砕されたドローンが大気摩擦で流星になっていくのが見える。

アロナから『全データリンク回復』と通知が入り、作戦計画を更に進める。

敵の資源輸送先への移動はスムーズだ、洋上からも支援部隊を機動させつつ目標へ向かっている。

 

「イカサマを正面から叩き割るのは気分が良いなぁ!アレより上も撃てるのか?」

「重力レンズを展開するか、更なる機材が必要になりますよ、今ではありません」

「物理法則は曲げらんねえか」

 

高笑いしながらレールをなぞる、あの報告が来ればさらに最高なんだが。

霧が濃いのも良い、悪い事がしやすい。

プラナが連絡を告げた。

 

「先生ハイランダーからです」

 

電文を受け取り、ヒマリとスズとリオへ図面を見せる。

レッドウィンターの資料と付き合わせたが、やはりこの線路は普通ではない。

ハイランダーの公開資料には記載されていないという事で機密資料から漁る。ハイランダーの偉い人にはこれを断ることも出来ないし、そもそも困る事じゃないから二つ返事だ。

 

「この辺りの路線図自体、資料の数も少ないから見つかると思ってなかったが……案外あるもんだ」

「こんな地域に線路引く奴いないでしょうからね」

「だからこそ機密なんだろうしな」

 

仮に運良く出世したエリート様なら運を信じても良いと思ったが、工事記録が発見されるとはな……。

さぁこの路線図の先で隠し事が出来そうな場所……。

……そういえば以前、ミノリの大先輩たちが凄いの作ったという話を聞いたな。

なんだっけ、エデン後の討論会の時にアイツが尊敬してる先輩が居たとかそういう話だ。

 

「アロナ、この地域での記録を洗え。」

 

『AI使いが荒い―!』と言いつつアロナが情報を根こそぎ掘り出している。

しかし情報は意外な所から出て来た、プラナがアロナにある資料を見せている。

 

『先輩。恐らくですが、意図して空白地帯があります』

『……ほんとだ、という事は』

 

”意図的に地図から消された場所”。当たりだ。

 

「また、LRPか?」

 

サオリが首を傾げた。

しかしリオとヒマリがUAVのデータを確認し始めると事態は変わりだしている様だ。

 

「ケテル改造の大型歩行兵器が展開し始めてるわね。」

「気付いたようですね相手も」

 

正解だと告げてるような気がするがいいんだろうか?とは思いつつ、ともあれ敵がやる気なら潰しておこう。

 

 

 

 

レッドウィンター種子貯蔵庫、いまやそこで咲き乱れているのは戦火の爆発の華であった。

曇天の極地の空を、連邦生徒会防衛室からふんだくられた無人航空機が飛ぶ。

見た目はレトロなF-9Fクーガーに似たデザインだ。

撃ち出されるAIM-120Cが、ティファレトの拠点たる種子貯蔵庫上空に雲霞の様に群れ成す飛行ドローン群へ飛び込む。

これらの飛行ドローンは作業用でしかないから、ネイルガンやアームで掴んで諸共海へ飛び込むくらいしかできない。

それでも小回りが利くのもあり、損害は出しながらもUCAVと空戦を継続している。

曇天の鈍い鼠色の空へ、幾本も黒い煙が垂れていくインクの様に増えていく。

 

『合戦ヨーイ』

『合戦よぉーい!』

『トラックナンバー9972から射撃開始!』

 

洋上から接近した防衛室の艦隊が、二列縦隊で戦場へ入る。

ダンブルホームのシルエットをした艦艇たちの殆どはこれが初陣だが、潮気には慣熟した乗員たちが操作している。

艦砲射撃が開始されると同時に、更にUCAVの増援が上空を飛んでいく。

この無人戦闘機も本来は防衛室の、というか連邦生徒会の秘蔵っ子である。

なにせ基本的に回転翼機や飛行船が精々であるキヴォトスでは、ラムジェット巡航ミサイルなどが出るはずもない、しかしデカグラマトンのビナーや、失踪した連邦生徒会会長の管理下にあったAL-1Sなど危機的存在を認知していたのもあり、重要機密として保管されていたものだ。

特にこうした無人兵器群の一部は2年前に会長が増強した兵器群であり、存在はアオイとリンしか知らされていない。

そうして主人無きまま死蔵されていた異端児たちは、今再び空を駆けている。

流れるように突き上げながらAIM-9Xで数機のドローンを撃墜、続けて20㎜機関砲で3機を撃破していく。

しかし真横から特攻したドローンで爆砕され、続けて別のUCAVが次なる獲物を追い求める。

弱肉強食、乱戦が空を満たしている。

 

「第33航空小隊全滅。」

「27から31までのフリップ消失。」

「敵航空戦力とのキルレシオは1:4」

 

指揮所を兼ねたリオの輸送船の中で、泥沼の制空戦闘を観測しながら先生はタブレット端末を軽くなぞった。

輸送船の外で待機していたアビエシュフMK2改が起動、無人戦車AMAS3の砲撃援護の下移動を始める。

 

「制空権は予定通り取れます。」

 

空に更に増援として駆けていくUCAVが飛行機雲を引いている。

続けてその飛行機雲は幾本に増え始めた、ホーク対空ミサイル改造の空対空ミサイルだ。

空対空ミサイルとして巨大すぎるが、数で群れる小物には効果覿面である。

巨大な爆発がいくつも発生し、ドローン群が落ちていく。

無人機はすぐに空力を乱されると操作が出来ないで落ちていく欠点は解決できない、こればかしは有人機でしか無理だ。

 

『データ入力』

斉射ァ(サルヴォ―)!』

 

艦体前部VLSの蓋が開き、ブースターの噴き出す炎を突き破って数本のミサイルが飛び出す。

旧SRTなどで保有されていた大型飛行爆弾だ。

一定高度に上がるとブースターを投棄して、突入ブースターへ点火しながら滑空翼を展開していく。

無論デカグラマトンもそれを検知している、ケテル改造の胴体に大型のシールドジェネレーターを積んだシールドベアラーを展開、横隊陣形で展開されたシールドが15キロトン級燃料気化弾頭数発を受け止める。

通常弾頭とFAEB弾頭を混ぜていたのは迎撃前提だからだ。

 

『今だ!敵の陣地が火力を展開できなくなったぞ!』

 

先生のゴーサインと共にトキの首輪が解き放たれた。

随行の簡易量産型アヴァンギャルド君数機を供回りに、援護射撃の中突入が始まる。

直協のAPCやM60-120Sなども前進を始め、スズが砲撃を延伸させる。

 

「おっかねェ!」

「あわわわわ」

「ろ、ロッカーみたいで車内は良いけど音が」

 

M113の中でモモイ達は震えるしかできない。

外では射撃しつつ前進していたトキが突撃躍進へ入った。

シールドベアラーのシールドに左腕のクローを展開、高速で地面を滑走して助走をつけて、一気に跳躍して飛び込む。

先生や色彩襲来時に実戦経験を積んだ結果、こうした作戦機動に適応しているのだ。

トキの全力のクローが電熱から赤く光り、シールドベアラーの防壁を喰い破る。

デカグラマトンのゴリアテが狙いを定めるが、コンバットマニューバが左右へ揺れ動く陽炎の様に動くため狙う隙が無い。

あっという間にゴリアテが接近され、右腕の機関砲で滅多打ちにされて爆ぜ飛ぶ。

その爆炎を貫いたアビエシュフが、ついにシールドベアラーを射程に捕らえた。

背部マウントシステムから放たれた96MPMSが自身を守るシールドを展開する余裕のないシールドベアラーへ飛び込み、次々爆ぜ飛ぶ。

 

『城門が落ちたぞ、前進』

 

シャーレが更に攻撃の火勢を強め始めた。

飛行爆弾第二次攻撃が弾着し、火山噴火めいた轟音が轟く。

近くのM113からゲーム開発部一同のビビる声が聞こえるが、そのM113の真上ではアリスがレールガンで遠距離砲撃をぶちかましている。

ケイが観測手として支援しているので、誤射も大外れも起こしていない。

 

 

 

事実上敵の抵抗線は崩壊している、しかしこれまでと抵抗の仕方がかなり異なる。

敵は損傷機を後方予備機と交代させようと機動させ、シールドベアラーで遠距離火力を封じようとし、幾つかの小集団に分割して作戦機動し、航空優勢確保の努力をしている。

 

「腑に落ちん、相手からの意志を感じにくいのに動きがまるで違う。素人が教本を読みながら物事を進めているように見えて感情が見えん」

「確かに、敵の動きは自我が見えますが何か欠けています」

 

ヒマリとリオが、少し思案してその疑問を明確なものにした。

 

「「あれには欲が足りない」」

「そう、そうなんだ、欲望が足りない、手探りの様な萌芽を感じるがまだ薄い」

 

まあ、それならそれで幾らでもやりようがある。

同じ土俵で戦ってくれると言うのなら、喜んでそうしてやる。

 

「思考ロジックの進化の可能性は危険では?」

 

スズが分析データを見ながら呟く。

 

「奴らは完全な物として作られたと自称していたのに、このような行動に移ると言う事はコンセプトの破綻だよ。

 自らは完全ではないと宣言しているようなものだ」

 

エイミが遮るように、分析画像を見せる。

 

「なんだこれ」

「恐らくマスドライバー」

「なに?」

 

エイミの見せた画像には、レールの様なものが乗った白い作り立てのローマ水道橋に似たデザインの施設が見える。

なんでも遠距離へ物を送り飛ばせる磁気で撃ち出すカタパルトだそうだ。

スズが分析データを見て、地図を見て納得した顔をした。

 

「あ、我々が撃墜していた飛翔体ってこれですか!」

「多分な」

 

初期加速が十分じゃないからハンヴィー搭載のアムラームで輸送コンテナを撃墜していたが、なるほどそういう仕組みか。

全て納得がいった、いまいちハッキリしない敵の防御戦闘、それはあれの撃ち出しの為の時間稼ぎか。

そうなると事態は簡単だ。

 

「洋上艦隊へ艦砲射撃の支援を願え。カタパルトを撃ち出せない様に5か6発くらいミサイルを撃ち込め」

「了解。」

 

連邦生徒会が爆撃機でも有していればMOP(地下施設破壊爆弾)をぶち込んでジエンド出来たが、流石にアロナに『そんなもん無いですよ!』と言われた。

さすがに陸上からの対地下施設徹甲弾砲撃は効率が良くないから、表面のトンネルを土砂で埋めるくらいにしておく。

 

「そいじゃ、突入と行くか」

 

相変わらずコーヒー飲みに行くような感じで行くよなアイツ……。

ヒマリやスズは呆れたような顔をした。

 

 

 

 

 

『表層での戦闘終了!種子貯蔵庫地表部占拠されました。』

『カタパルトに土砂多数。現在排除作業を続行中。』

『敵部隊は爆破で突入口を開き、第1層に侵入。』

 

ティファレトの主抵抗線は破綻した、マルクトは報告に対し特に顔色を変えなかった。

シールドベアラーを突き破った正体不明の機動兵器、恐らくゲブラ諸共自爆した機体の予備機は想定以上と言うのが判明したし、概ね相手の持ち駒も見えた。

 

「もう少し時間を稼ぎたかったですね。」

 

マルクトはどうするべきか考えながら、頭を掻いてみた。

人間のマネではあるが、案外人間式のログ整理の様なものなのだろうか。

 

「あ、あの、どうします?」

「致し方ありません。ティファレトのコアを転送。そののち施設を自爆させます」

「え?」

「敵に情報が渡る危険があります。」

 

すっぱりとした言い方であった。

マルクトの明確な、そして単純な理屈は常に兵理としては正解である。

遅滞戦闘である以上これ以上資源が打ち上げれないなら戦闘に意味はない、リソースの無駄な消費だ。

しかしマルクトの理解と思考は共有するにはデカグラマトンのシステムが矛盾に満ちていた。

 

「ティファレトちゃんが、施設維持または種子打ち上げを要請しているけど……」

 

マルクトの思考に「何故?」が過る。

主目標は?鋼鉄大陸の完成、であるなら施設放棄は何らその問題とならない。

確かに兵理や戦略じゃそうである、しかしデカグラマトンのロジックではティファレトの意見は無視できない。

 

「……。」

 

何故?勝つために、目的にそれが必要なのか?

しかしロジックは、創造主の命題はそれに従うべきと言っている。

マルクトは論理の迷宮に落ちかけたが、即座に別案へ移った。

 

「では情報部分だけにしましょう。種子打ち上げは、やりたいようにやらせましょうか」

 

それと、とマルクトが告げた。

 

「直ちにネツァク及びここでの防御戦計画を練りましょうか。多次元バリアをカット出来るよう準備もしないといけませんね」

「え?」

 

ソフが不可思議気に尋ねた。

 

「彼らは飛翔体の進路から概ね当りを付けるでしょう。そうなった場合多次元バリアを張っても破壊される可能性が高いですからね。」

 

ふと、マルクトの脳裏に恐ろしい単語が過った。

もしやして、全て私がするしかないのだろうか?

余りに恐ろしい孤独への恐怖であった。

 

 

 

ティファレト、すなわち種子貯蔵庫の中に突入したシャーレの部隊は微弱な抵抗を撥ね除けながら、第1層を越えた。

LMGタレットやオートマタが展開していたが、どういうわけか軽火器類だけだ。

一番抵抗が激しい場所もあったが、ミサキがグスタフM4ぶち込んだら慌てて後退していく。

 

「種子貯蔵庫発令所らしき地点確保。」

「……ここを守ってたのか?こいつら」

 

制圧した場所は、膨大な、あまりに膨大な貯蔵庫。

確かに重要ではあるが……、いまここで、どうして?

殆ど敵は無反動砲や砲を使っていなかった、とすると、こいつらは本気でこの施設の種子を守っていたのか?

思わず笑いがこみ上げる。無論馬鹿馬鹿しいという理由だ。そんならここで資源組み立てや打ち上げなんかしてんじゃねえよ!

大人しく今までの仕事やらせてりゃもう1世紀は誰も来ねえって!

 

「なんだよこれ馬鹿馬鹿しい、種もみ守って討ち死にするくらいなら他所でやれよ」

 

自分から戦場にして何やってんだ!?

お笑い芸人なら満点だよお前。

それと同時に、前衛で展開しているサオリのブザーが鳴り響いた。

 

「状況ガス!」

「ガス!」

「直ちに装面!状況ガス!」

 

即座にふともものM40ガスマスクバッグを開いて装面する。

ゲーム開発部はフード型のM40ガスマスクをすぐにアツコが被せた。

CBRN戦想定がされてないわけもなく、そして構成要員の大半がSRTやアリウスというのもあって被害は殆ど無い。

 

「吸い込んだ奴は後送させとけ」

「了解」

 

プラナの化学分析では神経性のガスだが組成からみて致死性ではないらしい。

また、呼吸器系型ということから化学剤系ではないようだ。

BC兵器と言っても色々有ると言う。シャワーのようにばぁっと巻き散らして数滴触れたらもうダメとか怖い話だ。俺の時代は石灰で済んでただけマシなんだな。

というか、カイのお陰でガス戦状況の経験はしっかりある。何が功を奏するか分かんねえな。

 

「呼吸器かららしいからお前らマスクはしっかりしとけよ」

「相変わらずやる事が早い」

 

ケイが呆れた様に呟く。

アリスとケイも一応装面している、機械交じりとはいえバグっても困る。

それと同時に、再び通信が灯る。

 

『こ、こんにちは?』

 

またデカグラマトンかよ……。

ため息をつき、3バカを見据える。

 

「何じゃいお前ら」

『ゲッ、ガス撒いてもすぐ対応してる。』

「3回目だよバカヤロー!てか何しに来たんだよ、俺今忙しいんだ、人類の敵を絶滅させるアルバイトしてんだよ」

『なっ……』

 

そのままタブレット端末の端子と種子貯蔵庫の端子を繋げる、端子先が一部おかしいからケイに手伝ってもらった。

 

「AI使いが荒い……」

『あ、鍵』

「あ、ようやく認知できたのですね、おめでとうございます。進化に嬉しく思いますよ」

 

ケイがにこやかに相手に宣戦布告した。

アリスが「あわわわ」とケイを見ている。

 

『まったく、王女に鍵まで連れて戦争ごっこですか?』

「こいつら引きこもるから外に連れ出さないとカビるんだよ」

『真面目に返答してくださいよ人間!』

「本気で言ってんだけどな」

 

ちらっとモモイ達を見る。

特に関係なくモモイがミドリに「あいむゆあしすたー……」と映画のマネをして遊んでいた、なんだこの緊張感の無さは!

 

『やれやれ、王女が役目も意識も忘れて生命体のフリですか、嘆かわしいですね。』

 

阿呆の三馬鹿が、生命は呪いだと言い出した。

ただ言っている内容が辛いとか苦しいとか、なんか飯を集る時のヒヨリみたいな言い方だ。

無論違う事がいくつもある、ヒヨリは「どうせ最後はあの世行き、じゃあもう少しねだってみよう」でその実ばにたすとは真逆だ。

 

「ヒヨリの劣化版みたいだなお前」

「ええっ!?わたしあんなのみたいに思われてたんですか!?」

 

目を見開いてヒヨリが「それは許せない!」と猛烈に抗議している。

デカグラマトンのバカ一行は征服ではないとか、生命を脅かすとかじゃないとか言っているが、ばかばかしい。

 

「失政と競争が人間の本質だろ、そんなもの人間とは言わん。欲がない空虚ながらんどうだろ」

『だから人々は争う、誰かより上へ!誰かを下へ!妬み恨み嫉み奪い奪われ、その連鎖をいつまでも続ける』

『立場が変われば正義も変わる。そうしてまた歴史は繰り返して恨みつらみばかり増やす。』

『あなた達全員が原罪を背負ってる、呪われた存在として』

『『『故に我々は貴方達に支配者である事より良い生活を与えれる。真に豊かな存在が、幸福を生み出す美徳と知恵に富んだものがである』』』*1

「そうだよ、それが人間の原罪だ。聖書くらいは読むんだな、感心したよ」

 

鼻で笑って、呆れた者たちに告げた。

 

「生まれても無い水子が生者を語るとは滑稽だ、苦しいから呼吸の喜びが有るんだよ。

 生きる事は変わる事だ、万物は流転する、苦難を乗り越え幸福を手に入れようとだ。

 だがお前らは違う、変われない、死を否定し組み込まれた予定しか無いからな!」

『それは虚無です!あなた達生命体は本質的に求めている、導く存在(オーバーロード)を!』

「下僕侍らせて巨大な構造物おっ立てるのが神様気取りして、あげく上帝(オーバーロード)を自称する浅ましさが駄目なんだよバカ!

 てめぇら要するに自己の幸福追求のみを至上命題で、唯一の勝利者になろうとしてる時点でデカグラマトンはベアトリーチェやゲマトリアの屑と同じじゃねえか!」

 

呆れた連中だと思っていたが思ってた以上だ!この世は広い!俺の想像以上にバカが居る!

ケイがなんともつまらなさそうに言った。

 

「あのですね、人間、いえ、生命体全体は極めて予測不可能であり、奇怪な行動でそれまで積み上げたものをぶち壊すのは事実ですよ。

 でも鶏卵前後論争のように自身の誕生が生命体無しでは生まれないという事実を無視している時点でロジックエラーですよね」

 

そういうとケイはモモイのポーチからおやつの干し梅を口に含んだ。

 

「だいたい、個の自我、すなわち現状におけるティファレトと作戦状況に置いて必要な手段が今矛盾してる事実は、あなた方の不完全性の有力な証拠ではありませんか?」

『我々は合理で動いている』

「非合理的ですよ、打ち上げになんで秘匿性が肝心のここを使うんです?ワンタイムパッドの様に地点を切り替える事が秘匿性の肝要……と、シャーレ砲兵陣地変換マニュアルに書いてありますね。

そもそも合理、を誰が判別するんです?私ですか?あなたの主観?あるいは先生?少なくともこの全ては不正解ですね、客観になりません。

進化が不確定かつ想定不可能であるというのはなるほど事実その通りです、リオ会長のコマーシャル通り、文明とコーンはよく似ています。

ネズミを理想的環境にいれて育てたら何故か絶滅しますし」

『だから、我々が必要なんです!』

 

ケイがごくりと干し梅を食べ終え、モモイに空の袋を返した。

モモイは白目剝いている。

 

「お気付きですか?皮肉ですよ。マウス・ユートピアみたいに破滅するのが関の山です」

 

良い性格してんなぁコイツ……、タイユランの奴に似て来てねぇか……。

 

「”感じる力がなければ、いかなる対象もわれわれに与えられはしないだろうし、解釈する力がなければ、いかなる対象も思考されはしないだろう。

 内容を欠く思考は空虚であるし、概念を欠く直観は盲目的である。”」

「ケイ、いつの間に純粋理性批判まで読んだんです?」

「輸送船の中で暇でしたから読み込んだんですよ」

 

アリスが「はえー」と呆れた顔をし、ユズが「個体が創りあげた物もまた、その個体同様に遺伝子の表現系だ。っていうもんね」と頷いた。*2

ヒマリも頷き「その思念の総計はいかに多きかな。我これを数えんとすれどもその数は砂よりも多し。」と呟く。*3

 

『お前たちからは光に対する敵意を感じる……』

「キミらが光なら闇で良い、身勝手な連中ならとくに。」

 

ケイが冷たく呟いた。

それと同時に、先生がハンドサインしたのをケイたちは見逃さなかった。

 

「さて、ティファレト!取引しようぜ!情報出さなきゃ俺は種子貯蔵庫へ純粋融合弾頭搭載巡航ミサイルをぶち込んで山ごと埋めようと思う」

『えっ!?』

 

ミサキに指示し、用意させたグスタフM4のHEATを取り敢えず1発撃ち込んだ。

多層式隔壁のお陰で流石に一撃と行かなかったが、3枚くらいは吹き飛んでいる。

 

「玉ねぎの皮みたいだな、リオ―!だいたい何枚だと思うよ」

「え?恐らく38層だと思うけど……私ならそうする」

「よし、じゃあ俺は40に賭ける」

 

玉ねぎの歌を歌いつつ、ミサキに次弾装填を命じる。

すると、流石にティファレトが赤色非常灯を点灯させた。

 

「な、賢い選択しようぜ!お前自体は有害じゃないしさ、貯蔵庫吹き飛ぶより幸せだろ!行先だけ教えてくれよォ」

『最低!AI脅迫するなんて貴方それでも大人ですか!』

「人とも思ってないから心は痛まないけど……」

『それでも教職ですか!?』

「新人教師だから笑って許せ」

 

後ろでモモイが「ノア先輩の時も騙してなかったっけ」と話してたので石をぶん投げた。

アロナが小声で『あのぉ、バイナリデータが来ましたけど』と告げ、にこやかな笑みで受け取る。

ティファレトは抵抗を断念した。

 

「賢い選択だ、大人しくしとけよ?全て済んだらちゃんと種子貯蔵庫として生活していけるようにしてやる」

 

完勝だ、気分が良い。

ガスも停止され、ティファレトが「もう早く帰って」と言いたげに非常通路を開けた。

素晴らしい、これが勝利の味だ。

しかし、その瞬間にヌゥ―ッ!と携帯が鳴る。

 

「マズい!ユウカ警報だ!」

 

モモイが天才的直感力で叫んだ!

勝利の味がしなくなる。

 

『先生!何やったんですか!さっき防衛室の役人が本庁に”無人機保有なんて聞いてない”って言いだしたんですよ!

 あんた何してるんですか!』

「ヤバいマジでキレてる……」

 

とはいえ直ぐにマインドセットは終える。

 

「それに関しては失踪した会長の遺産だ、俺の責任じゃないぞ。

 それと連邦生徒会には予定通り局所的な非常事態宣言で立ち入り禁止命令としておけ。」

『既に発令しています。鋼鉄大陸の展開はこちらでもある程度観測していますから。

 あ、それとですね。沿岸に展開していたカイザーの観測船から、未知の存在の探知報告が来てます』

「未知?」

『どっから聞きつけたか多次元バリア解除中の可能性とか書いてます。』

 

けーっ、欲深い連中だ、恩義を売ろうと観測データだけ関与しやがった。

まあ存在感を出すには悪くない選択だ、それに着いた陣営を明白にするには良い手ではある。

面倒なことしやがって……。

 

『それじゃ、ちゃんと終わった後に公聴会用の資料用意してお待ちしていますよ』

「はいよ。」

 

携帯を閉じ、やれやれと空を仰ぐ。

 

「で、触れるもの皆鉄にする奴どうすんの」

「ああ、それ自体ならある程度なんとかなります」

 

ケイがタブレット端末に必要な図面を書く。

 

「基本としては私と同じようにジャミングをかける、と認識してくれれば結構です。

 生命体固有振動数と波動で共鳴させて打ち消す、とまあそう言う物ですから」

「どゆこと?」

「ネツァクには分からないようコードを隠す感じですよモモイ」

「ああ隠し要素みたいなもの」

 

モモイがなるほどと理解した。

リオの大型輸送船のお陰で兵員輸送や機材輸送は順調だ、アビエシュフやエリドゥ強化に際してのあれこれが今は俺を助けている、良く分からん話だな……。

 

「うわすっごい!ロボットだ!」

 

モモイが格納庫を見て驚愕している。

量産型アビエシュフ、パワーズがリボルバー式に格納されている。

 

「トキさんのです?」

 

ミドリがやや驚いた顔をしている。

トキのアビ・エシュフはずっしりとした重装甲型であるが、パワーズはシュッとしたカマキリの様な雰囲気を宿している。

これは限定的な飛行能力を前提とした結果だ、即応の都合である。

 

「いや、量産型アビ・エシュフのパワーズだ。」

「量産型……遂にされるんですねえ」

 

ミレニアム生らしく、試作段階が終わった事に全員が感銘を受けている。

他じゃ量産型じゃ弱そうと思うが、ミレニアム生の場合は別だ。

廉価版と量産型はかなり差があるという前提を理解している。

実際、パワーズはヤバい技術を使わない代わりに操縦可能な者を増やしたものだ、居ないツノ付きより居るゴーグル族とか言ってる奴もいた。

 

「実はアリスのデータも参照されてる」

「そうなのですか?」

「お前の光の剣を基に拡大発展した光の槍、つまりレールキャノンだからな」

「槍なのはなんでです?」

 

そういやこいつらはそうか……。

 

「剣は扱うのが難しく、槍は誰でも使えるからさ」

 

アリスはなるほどと少し誇らしげに格納庫を見た。

さて、やるべき事をしておこう。

 

「お前らも今のうちに寝て置け、数時間後には休む暇がないぞ」

「「「はーい!」」」

 

……緊張感がないよなコイツら本当。

 

 

洋上を進んでいたウダロイ級と衛星観測船が、ゆっくりと回頭を始める。

カイザーの艦艇は退避機動へ移りだした。

 

「連邦艦船から退避命令です。」

「大人しく下がるぞ、公海へ出る。針路変更!」

「ヨーソロー!」

 

電子偵察艦<ハワード・O・ローレンツェン>の艦橋は慌ただしく針路変更を開始しているが、艦内の船室の老人にはまるで無関係だ。

ジェネラルがやれやれと扉を開け、船室へ入る。

クリームシチューに目玉焼き、軽く炙られたサーモン、白パンを優雅に食べているカイザーの会長がこちらを見据えた。

白ワインをあけて、俺が仕事してる間も元気にディナータイムしてやがる……。

 

「連邦から正式に退去命令が出ました。本艦は公海へ離脱機動を取ります。」

「結構。もう一つの方は」

「正式にシャーレ本庁へ送付済です。今頃は前線部隊に通知がされてるでしょう。」

「重畳、重畳。」

 

炙られたサーモンを切り分けながら、会長が頷いた。

のんびりとディナーを楽しんでる上司に思う所が無いではないが、これも給与の為である。

清々しいまでのろくでもなさであるが、こと思想や信条に純粋なら善人で居られるなんてわけじゃないので、ジェネラル本人にはもうどうでも良い事である。

彼の内心にあるのは「なんとか理由つけて俺早退出来ねえかな」である。

 

「まあ君も食べたまえ、なかなか気難しい味がするぞ?」

「は?はぁ、頂きます」

 

会長が顎をしゃくり、従卒が白ワインを注ぐ。

グリュナーフェルトリナー種の準高級というべき種のものだ。

 

「……よろしかったので?」

「何がかな」

「こちらの観測データを提供しましたが」

「なぁに、問題にならんよ。利益も出るしな」

 

事実であった。要するに情報がどれほどの伝達速度で届くかの貴重なリトマス試験紙だ。

これだけでもそこそこの値打ちになるし、使いようによってはもっと価値が出るだろう。

 

「で、本音は?」

 

ジェネラルがグラスの香りをかいだ。

二ーダーエスターライヒを産地とする柑橘類の特有の匂いがした、勤務中じゃなけりゃあもっと美味いだろうな、と思いつつしかし出されたのだから飲まねば無礼!と有難く呑んだ。

ワイン類を然程嗜まないジェネラルは「あんまり飲んだこと無いがスッキリとした白ワインも結構美味いな」と思いながら、グラスを置く。

彼自身は夕食時は黒ビールと合わせて肉類をガッツリと食べたり、休暇時にはマティーニ類を嗜む程度だ、酔いつぶれるほど呑まない類である。

目の前の会長はいつものようにニタリとして、切り分けたサーモンを呑み込んだ。

 

「図太くなったねキミ」

「恐縮です。浅学なので未だあなたほどでは」

 

本音である。

 

「まあ良い。」

 

白パンをちぎって口に含み、呑み込んで会長は語った。

 

「どうも連中が気に食わん。」

「デカグラマトンが?」

「あぁ」

 

そんなこったろうと思ったよ……。

ジェネラルが呆れた様にサラダをフォークとナイフで挟んで食べた、鮮度の良い野菜類が気分を多少マシにした。

 

「あと、個人的に見たいのだ。

 ああいう”無謬と信じている存在が実際はそうじゃないと気づく瞬間”が」

「はぁ」

「驕り高ぶった増上慢が破滅する姿が見たいのだよ、だからこそ脚本に期待している。」

 

そりゃ見方によっては貴方にも刺さるんじゃないの?

ジェネラルがそう思いながらスプーンでシチューを食べた、濃厚なクリームの味がする。

気分転換にシャトームーン・ロスチャイルド辺りが飲みたい、ジェネラルが気に入っているワインであり、特殊作戦執行部の幹部就任以来気に入ってるワインだ。

気に入ってる理由は幾つかあるが、最大の理由はシャトーの長い歴史で唯一2級から1級へ昇格したワインだからである、願掛けだ。

 

そして嫌な事を思い出した、俺が会長に目をかけられた理由が懇親会でこの事話したのがきっかけだった。

 

完璧な生命がいるのかは知らないが、人間が求めているのは”止めたい”と”やり直したい”であって、完璧にしたいではないのだろうなともふと脳裏に過る。

 

「ま、今回はのんびりと桟敷席(ロージェ)から劇を見物しようではないかね」

「シャンパンを片手に、クラッカーをつまんで、ですか」

「その通り。面が曲がってるのに鏡を責める連中の喜劇だからね。」*4

 

俺も将来こんな風になるのか?ジェネラルは背筋を冷やした。

そんな事はありえない、おそらくそうなったら俺は間違いなくこの老人に粛清されるだろうからだ。

 

 

*1
プラトン「国家」

*2
リチャード・ドーキンス 「延長された表現型」

*3
「旧約聖書詩編第139節」

*4
ニコライ・ゴーゴリ「検察官」





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