キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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6章開幕です。
これ最終回じゃないんですよ。


6章
兵達が夢のあと


連邦捜査部や先生の活躍が記憶に残るが、身近だった日々が過ぎた頃……。

 

 

アリウス本館の白い壁も、かつてのように塗りたての真白い幻想的姿から風雨と年月の経過、再塗装の連続でやや白みが薄れた時代。

かつてあった毒々しい灰色の空は、今はもう無い。

本館入り口から始まりトレウ通りの真っ直ぐなメインストリート、"凱旋門"からポルタパシス広場などへ繋がる放射状に伸びた道路は、のんびりとした郊外特有の案外多い交通量だ。

行き交う車両も種類が多い。何故かと言えば、アリウスの幾つか繋がっているトンネルを任意に動かす術が発見され、アリウスは大規模な交通ハブステーションとして経済的にそこそこ発達した。

そんな今のアリウスの、町役場染みた--事実人口の規模ではどうあがいても全体で80万程度の総人口がせいぜい--のアリウスの会議室では、なんとも面倒くさいと言った雰囲気が満ち満ちていた。

今の生徒会長は秤という昔からの名家で、今の時代の生徒会長になった理由が選挙戦で生徒達が「そろそろリバイバルしても良いだろう」と決めたからである。

要するに何かこう変化が欲しいが急激じゃないという事である、それくらいは秤も理解していた。

それはそれとして金が無い、融資は論外で投資されるモンも無い以上、何かもう少し多角的に金を稼がねばならない。

ロイヤルブラッドという呼び方に歴史的表現しか残ってないとはいえ、200年だか前の初代生徒会長の明確な方針「自活しろ」は流石にそろそろまずいと考えだしてきた。

+-を考えるとこれから先どうなる?と思えてくるし、ちょっと現実逃避をしたくなる。

豊かになったが人口増大で食わせる飯の量を考えねばならないわけだ、無理もなかった、平和とは取り分と食い扶持を考えねばならない時間だからだ。

 

「はぁ、しかしなにぶん、なんにもありませんから」

「うんうん」

 

生徒会長室に呼び出した2人の生徒会役員が呼び出されて恐々としていたが、ようやく口を開いた。

槌永ヒイロとかいう肉体的栄養がやや過度に出ているアホと、戒野マリとかいう肉体的栄養があまり出てないアホ、すなわちこのアリウス生徒会長たる秤サエの忠実……恐らく忠実な部下である。

生徒会長直属、というと凄く聞こえはいいが、要するに自由使いできる無任所人員である、昔から何故かそういう人間を「スクアッド」というが、理由は知らない。

アテになるアホではあるのだがいまいち真面目さが足りんアホで、秤としては困りものである、期待して目を掛けているが、いまいち仕事にブレがあるアホだ。

昔の先祖の言い方で言う、頭の良い怠け者の類いだ。

そうであるが故に、明快な返答は「ひっくり返しても出やしないよ」である。 

 

「知ってるよ、うちに温泉がなんでかあるけどあれだって歴史的名湯と呼ぶにはまずいし、旅館なんぞ作っても誰がここまで飯食いにくるのかってことくらい」

 

ため息をついて秤が言い、コップのコーヒーをぐいっと飲んだ。

昔は代用コーヒーやキノコ茶が飲まれたらしいが、それも随分と昔で、本館のカフェくらいでしか見た事ない。

前に一度飲んだがただの麦茶の味がした。

それを思い出して尚更考えるのに嫌気がさした彼女は、ため息ついて膝を机に置いて呟いた。

 

「この世が楽園じゃないからとしても諦めるわけにもいかないから悪あがきするしかないってだけだよ、はい仕事にかかれ。」

 

なんとも嫌気が差したような顔で、空を拝むように秤生徒会長が青薔薇の校章と、ずっと以前から伝わる変な絵、いまだに名前が調べても出てこないマキなる作家の解放戦争期の作品を見上げた。

生徒会長室の窓辺の鉢植えは今日も元気スクスクと花を咲かせている。昔からの伝統らしい。

 

「なんとかなんないかねえ」

 

そんなこと言われてもなあと、2人が一礼して生徒会会議室から退室する。

通路からはのんびりとした太陽光が差し込んでいたが、少し外が騒がしかった。

窓の外から改変されて久しきFBASI、つまり連邦(Federal)介入及び捜査局(BureauAndSearch Intervation)──大半のアリウス住民はいまだに捜査部やシャーレと呼んでる──と防衛室それにアリウスの役員が、AVRE工兵戦車に乗り込んでいた。

60年ぶりに野戦砲弾の不発弾が見つかったという話だった、弾頭炸薬の抜かれた水銀弾頭らしく、連邦捜査部が資料掘り起こして分析にかかっていた。

 

 

 

 

アリウスは地方の控えめに言って田舎である。一部の道路沿い以外は20時には飯屋の大半が閉まる。一部のところも1時30分で閉まる。

そう言う場所であるから立場がある人間が形式通りの態度、スタイルで仕事をしてなくても許される事もしばしばあるがここもその通り。

つまり何にも良い案が浮かばないので企画会議と称して茶店で駄弁ろうが誰も怒らない、問題と認識されない。

本館の四階生徒会長室のある階層から、地下一階へ降りた2人はどうしようもない以上クダを巻く事にした。

かなり昔から食堂に使われていたらしいこの場所は、昔の大戦争──今日日、解放戦争や"永遠の自由作戦"とキッチリ呼ぶ人間は多くない──での後だいぶ改装されたらしい。

しかしつい25年前に「人が多くて夏場はむさ苦しいんだよ!」と耐えかねた生徒がデモして、遂に別所に大食堂移設がされた。

 

「おまえらなぁ」

 

茶店、正式には生徒会食堂のカフェでカップを磨きながら錠前というクラス委員が呆れた顔をした。

深い青色の髪、キリッとした眼は代々家系の特徴として深く残っているのだが、最近暑いのでショートカットにしている。

堅物で生真面目なクラス委員で、姉貴分たる錠前は良く此処でマスターとして色々相談に乗ってくれる。

秤も度々来ているし、戒野自体もケーキ制作などで度々手伝っている。

 

「と言ってもうちに何があるのよ(あね)さん。」

 

戒野がメモ帳に鉛筆でデッサンを描きながらつぶやいた。

槌永はモンブランを既に頼んでいる。

呆れた様子で紅茶を──これは無料サービス──淹れて、テーブルへ置く。

こうした気立ての良さがあったが、生徒会長に選ばれなかったのは単純に「何でもやらせたら倒れかねん」と考えられたからだ。

それにこうした人間は助言役の方が全体の利益になるという事もある程度理解していた。

 

「うーん、歴史的遺産か?博物館とかあるだろう」

 

ぼそっと返されたそれに、二人が頭を悩ませた。

博物館があるのも知っている、何がそんな楽しいのか知らないが、度々熱狂的な変わり者がチーフテンの動態保存を見に来る。

ワイルドハントの生徒も度々、保存されているかつて生徒会長が来ていた制服類を見に来るケースもある。

 

「修学旅行じゃないんだよ、だいたい、どれもこれも出自がいまいちはっきりしないじゃないの」

 

しかしそれくらいしか無いじゃないか、錠前は無言で返した。

それくらいは理解している、理解してるから何かこう、地域振興政策無いかと秤生徒会長は投げてきたのだ。

無論そうした人間はきているが、来てもライター分の燃料でM1A2動かすくらい無茶だ。

 

「んあ、でもアビドスと同じくあの大人の伝説はあるじゃないですか」

 

槌永がモンブランからおかわりにロールケーキを注文しながら言った。

百鬼夜行の方から売り込みで来たものだ。

 

「誰?」

「"先生"ですよ」

「それは知ってるよ、でもそれ何年前よ」

 

戒野の問いに槌永は「初代お姫ちんの時代ですから二百だかそんくらいじゃ無いですか?」と返した。

残る2人がため息をつく。

そんなアバウトな時代にどう助力を願うんだ、まさかランプの魔神よろしく棺の下から出てくるわけあるまいし。

 

「伝説に縋っちゃ終わりだよなあ」

「そうだよねえ、"先生最中"とか出して売ってどうすんのよ」

 

実は過去にそれをやったレッドウィンターの馬鹿がいると知らない2人が呟く。

カフェで管を巻いてる2人に、別の生徒会役員が「おーい、最新号入荷したぞ」と知らせた。

現実から逃避するべく、2人がものすごい速さで本屋へ逃げ去っていく。

錠前はカバーをちゃんと拭いて、自身の先祖がむかし先生から貰ったというLégion d'honneurと書かれた勲章を壁にかけた。

意味も経緯も良く知らないけど、小さい頃からかっこよかった。

こうした物は大半が博物館へ収蔵されているのがしばしばだ、そうでないものはシャーレ本庁舎があった場所の近くの連邦美術館へ送られた物も多い。

今じゃ殆どがK21などに更新されて見る事が無いM113ACAVなどもそこにあるし、当時の塗装再現がされたAH-64Aなどがある。

 

 

本館から外へ出て、市電の駅からモボ301形路面電車へ乗り込む。

アリウス中心市街の発達から整備され出した路面電車だが、官庁舎が多い本館周辺は概ねこれで上手く回っている。

無論ハイランダーの高速鉄道などがある市街は流石にそうもいかない、地下鉄が2線ほど整備されてようやく渋滞が解決された。

 

『駐屯地前へェ~。駐屯地前へェ~。』

 

路面電車の窓からかつてシャーレと共同で使われていた駐屯地が見える。

今や殆ど返還され、連絡事務所や幾つかの機関と小部隊が居るくらいだ、既にアリウスPKOが終わりIFOR(停戦監視軍)は撤収されて幾星霜、トリニティなどの支援部隊も殆ど覚えていない、相手はもう覚えてる人間が居るかすら怪しい。

統合話がシャーレ主催でサミットされたが、そのころにはお互い性急な統合の熱が消えて、「別に今更しなくても」となった。

結果的に「今じゃ無くて良いか」は「やらんくていいや」になり「なんだっけそれ」へ変化したのである、憎悪を時間が呑み込んだ。

 

『ポルタパシス広場前へェ~。ポルタパシス広場前へェ~。』

 

つり革で揺られていた二人はICカードで払い、信号に待たされながら歩く。

電器屋のショーウィンドウからは訳知り顔に何か騒ぎ立ててる何処かのデモ隊が流れていた、何がなんだかよく知らないし、知りたくもない。

 

『つまりですね、本質的に連邦捜査部などという組織がこうして秘密戦特殊部隊を保有していたというのは由々しきシビリアンコントロールの無視であり当時の体制や政権の著しい混乱に漬け込んだ拡大政策で』

『そりゃ詭弁だよキミィ、第一に社会秩序の混乱は事実止まったのだからそれで良いではないかね』

『良いわけないでしょう。こうした悪しき前例があるからこそ我々はしっかり権力に対する批判を』

『誰が見張りを見張るんだ』

 

テレビから殴り合う音が聞こえるのを無視して、本屋へ向かった2人は文芸コーナーに珍しく人が多いなと首を傾げた。

レジ台近くで官営の競馬の記事を読んでいる店長に尋ねる。

人は居るには居るが人間性が消えるほど多くない地域の地元民らしく、思い出した様に新聞を下げる。

 

「なんかあったの」

「あ、戒野さん。入荷したその、歴史小説?でしたかが売れ行き良くって」

 

指差した方向では各校の制服が入り混じっていた。

歴史小説ねえ、槌永が最近凝ってる機械系の雑誌を買うのを横目に、戒野も模型関連雑誌を手に取った。

繊細なタッチの技術が高く、自己の表現の術をあまり知らない彼女は何か形を残そうと躍起になって、模型や絵に凝っている。

いっそ個展でもやってみるか?と彼女が考えながら、立ち読みしているピンク髪の生徒の本が見えた。

背が小さく、彼女の本の内容を読み取れた。

思わず思考が止まる、そのトリニティの生徒に向かって戒野は声をかけた。

 

「失礼、アリウス生徒会なんですが」

 

小柄で頭に羽の生えたトリニティの生徒は、ピンクの髪をふわふわ揺らしていた。

 

 

 

深いため息を吐き出して秤生徒会長は、これしか無かったのか?と二人に視線を向けた。

おおご先祖よ、貴女たちのスクアッドは今やこんなことを言い出しましたよ!と嘆きかけている、まるでバカな皇帝の下で苦労した古代の半蛮族のそしりを受けた無敗の将軍がごとくに嘆きかけている。

茶菓子を喰ってる片割れはともかく、お前がそういうのを言い出したかと驚いてもいる。

お陰で彼女もやけ食いに近い雰囲気を出している。

 

「ハイランダーに確認したら、夏休み辺りの増便も出来るし、編成も増やせると言ってますね」

 

槌永がそっと相方を援護した。

要するにリエナクト、歴史再現イベントだ。

2人の様子に紅茶を配りながら錠前が困った様な顔をした。

 

「好きな事になると偏った詳しさをしてるのはまだ良いがな、お前ら、あれはどうなんだ」

 

先日カフェに来たトリニティの生徒に関してだった。

最近、トリニティの生徒では歴史小説……に名を借りたナニカ?が流行していた、元々古書館で”浦和”とかいう著者の蔵書が大量発掘されたせいで、”めくるめくピンクな歴史”が大量放出されたのだ。

そうなると箱庭的お嬢様達には文字通りバカ受けする、”知らない歴史がある”と信じる、もう滅茶苦茶。

過去に下江コハルという当時正義実現委員会で野営長官(プラエフェクトゥス・カストロルム)、つまり副司令官へ出世した者の手記や、レッドウインター連邦学園の幾らかの書籍、ヴァルキューレ公文書からかなり史実に近いと判明しているのもあり、なおさら知的探求の別側面の様相を呈しているのだ。

そしてそうなった結果、いまキヴォトスは空前のルネサンスを迎えてるわけである。

いまや書店のあちこちにそうした歴史ものが書かれているわけだ、そうなると事実はどうでもよくされがちだが、各校生徒が反発していた。

ただでさえ出てくる表現で解釈違いだなんだを騒がれる中で超えてはならない線はあった、先生の見た目が二転三転し鬼・人食い・普通の青年・悪魔・散弾巻き散らして興奮する悪魔ともはや収拾がつかないのは許されてもだ。

 

「あの本とかを信じる限り、こちらもあちらもエスがいっぱいという滅茶苦茶になるじゃないか」

 

また古風な言い方するなあと秤が呆れた、女学校的表現だがそれ何世紀前だよ。

片手で錠前に抑えてと命じつつ、リエナクトにしてもどうするのかと尋ねた。

再現イベントというのなら売りが無ければならない。

 

「えーとまあ、要するにですね、参謀旅行してる連邦の人以外にカタコンベあたりの空き地の無駄飯食いが役に立つんじゃないかなと」

 

古戦場を売り物にするのか?と秤は気付き、そしてどうするべきか考えた。

確かにあそこら辺の旧市街などを見て回るのも、今じゃ連邦防衛室などの現地作戦術の修学旅行くらいしか居ない。

要するに地図じゃない現地であれこれ考えろという体験学習で、アビドスなどでも行われている。

なるほど理屈は通る、確かにそうではある、で。

 

「やったとして、そう言う人たち本当に来るの?」

 

純粋な疑問だった。

戒野が頷いて、茶を呑んでから言う。

 

「人間は自己の空想や妄想を解放するか整理するために現地へ赴くものですよ」

 

整理したい人からすれば、カタコンベを歩くだけであの”先生”が進んでいた戦闘の数々や、革命戦争の息吹を感じれるわけだ。

解放した人からすれば、幻想を肯定してくれるものを、ただそこにあるという物を見て、静かにしたいわけだ。

本質的には騒ぎにならず、揉めもしない、現地でそんな暇はないからだ。

お互いに自己の脳内が忙しい。

 

「立地は?」

「そこら辺はほら、宿舎を宿泊所にしてしまえば都会と違う許容可能な空気感になる。苦痛になるほどでもないし」

「そ、それとアリウス駐屯地の方とも話を通していただければ……。あと資料のため収蔵品確認も……。」

 

槌永がえへへと頼んだ、秤は額を抑えつつ分かったと返した。

秤は穏健保守派ではあったのだが、そういう数寄者がどういうものかはよくよく理解している。

実のところ真実や事実にはあまり興味が無いのだ、彼女らが求めているのは”先生”とかつて存在した連邦捜査部シャーレに関しての現実の関係や暮らしと言うより、神話や想像をたくましく幅広げれる心の自由である。

無論正確にはそれだけではない、例えば殆ど出てこなかった生塩とかいうミレニアムの書記官などはっきりしないのに偏愛している作家までいる。

挙げ句、ろくな資料が無いから、白河とかいう奴が稀代の怪人扱い風見鶏と二転三転するのも常である。

 

 

 

シグナルフレアが打ち上げられ、とうに退役し倉庫から消え去ったはずのM81都市型迷彩の制服を着た小部隊が、同じくとうに退役したはずの60式自走無反動砲に乗って現れる。

カモフラージュネットを被った60式には小銃隊員が数名、跨乗歩兵(デサント)として乗り込んでいたり、増強装備として追加されたM1919軽機関銃を構えている。

前進する部隊の先ではポーンと煙が上がっている、色付きの煙、前進観測班が標定したという事だ。

 

『FOよりFOB。WP弾着。効力射へ入れ!』

『ハンマーヘッド了解。これより効力射に入る。』

 

どこから掘り出したか怪しいM113なども動いている、空を見ればミレニアムの技術で作られたAH-64の再現模型機が飛んでいる。

見掛けだけみると確かにシャーレだ、いや無論であるが、事実は違う。

ここにホンモノは無い、トリニティの何処かから引っ張り出された大砲にしても、イブキ政権で統合されたゲヘナ風紀委員の制服にしてもだが。

つまりまあ、コスプレである。

しかも各校の諸勢力から集まった政治云々抜きの……。

金と趣味と情熱のヒーローショーが始まる、そうだ、結局そうなのだ。

だって史実じゃ夜戦だったらしいし……。

今回の主演の隊列が入ると共に声が響く。

 

『いまアリウスで行われている暴虐に対する実力行使に対し、モラルを問う声があります、交渉で解決できると言う者もいます。

 私の答えをいまはっきり言いましょう、”平和的な解決を図る外交努力は無意味だ”と。

 独裁者に報酬を与えてはなりません、我々は歴史の分岐路に居ます。』*1

 

錠前がドリンクを配りながら歩きつつ、演説の声に「あれあったかなぁ」と思わず首を傾げる。

無論そんな訳ない、昔シャーレが制作したコメディ映画のテープが記録映像と誤認されてるだけだ。

やるにあたってあまりに多い資料映像やら睨めっこしたのだ、お陰で連邦生徒会文書保管庫も総ざらいだ。

トリニティの兎集家が旧カイザーのコピー文書まで出してくれたからまだ良いものだが、肝心かなめの敵役が”記録抹消(ダムナティオ・メモリアエ)”で名前も姿も良く分からないので、取り敢えず残ったあれこれで見繕う有様だった。

 

「あの将校さん、だれかしら?サオリ様かな」

「きっとスズ1等捜査士ですよ」

 

ゲヘナとトリニティの生徒が会話していたのを聞きながら、”あれは本部部隊の直接指揮ですから先生の部隊ですよ”と内心一人呟く。

それにその階級の呼び方が決まるのは捜査部シャーレの再編がされてからですから、エデン条約戦役の47年は後の奴ですよ?

無論それは言わない、無粋であるからだ、尋ねられない限り口は挟まない。

現地で「あれは誰なのかな」とか「あれはどこの部隊か」と話すのも楽しみである訳であるから、そういうのも楽しみとする。

少なくとも過去の先祖が何かしたようだが、自分には良く分からない話でもある、それに資料が正しいならシャーレ編入はこれの後じゃないか?

わァと突撃躍進の声が響く、パンパンと響く空砲の音、爆煙は色をぬった消費期限切れ小麦粉。

わざとらしくゆっくりと、サーベルを片手に抜いてシャーレの側から声が響く。

 

≪連邦捜査部前進!≫

 

大きな声で反響した、拡声器を使ってちゃんと計算して敷設したから当然だが……。

先生のホログラム映像を作るにはかなり苦労した、週刊パンデモニウムまで探して各所で写真を探す羽目になった。

幸い幾らか本人と確証がある写真があるおかげで、整合が取れた。

上空をブゥーンとAH-64の模型が飛んでいく、ハイドラ枠のプロップガンが唸る。

同時にドーンドーンと爆発の炎、続けて今回の目玉、Mi-28Nが実機で飛んでくる。

機首の砲塔が照準し、30㎜弾を浴びて模型機が撃墜される。

 

『空襲―ッ!』

『対空戦闘ォ~!』

 

模擬弾頭のFIM-92Cが構えられ、撃ち出されるがフレアー連続放出で回避していく。

このシーンのための努力もえらくしたもんだ。レッドウインター連邦学園の倉庫に実物があったのを再生したのだ。

もはやガワしかないとすら言える。

無論安全は配慮している、あのヘリのパイロットはちゃんと捜査部の人間を防衛室へ頼んで連れて来た正規兵だ。

二つ返事で同意して、模擬弾頭のスティンガーまで出してきた。

 

 

その年、数日間だけで普段の1年の稼ぎの6割をアリウスは稼いだ。

 

 

 

 

 

秤生徒会長は何ともいうべきか迷っていた。

利益が出たし名前も売れた、連邦からしてかつてほどシャーレや先生をアレルゲン反応してないから文句も無い。

ただ一番分からないのは、みんなイベントやると言うと交通費とか自腹で集まるのだ。

これに関しては生徒もそれ以外も関係なかった、イベント会場ではカイザーPMSCのコスプレまでいた、いつの時代だ!いつの!今日日行政より強大なる企業とか過去の言葉だ!

無論そうした者も対象に含んで商売すると言われた、理解はした、納得はしてないだけだ。

 

彼女は人生にある程度満足していた、それ故に分からない。

どうしてこう、なんでもう、あの人たちはああも過去のあやふやとすら言える時代に熱狂できるのだ?

彼女もあちこち方々へ挨拶したり、またはリエナクト終了後にワァワァ押し寄せてくる記念撮影の依頼を受けたりとかなり疲れた。

終わる頃には大半のアリウス生徒らがぐったり寝込んでいたくらいだ。

 

そう考えながら本館の部屋に帰って、ふと答えが浮かんだ。

馬鹿馬鹿しくなった。

みんな心の中で誰かと争い戦い勝ち抜き、栄光へ導いてくれる誰かを求めているからさ。

そしてそれが自分自身じゃない事をよーく知ってるのさ。

なにもかもふざけている。

彼女は布団へ入ると、すぐに目を閉じた。

 

夢の中でピンクの長い髪した生徒が「まだまだ休めないね先生」と笑ってたのは疲労から見た悪夢に違いない。

 

*1
元ネタ「湾岸戦争開戦演説(ブッシュ大統領)」及びクウェート侵攻に際するジェームズ国務長官国連会議での発言





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