キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
父と義父はファシストと戦うためにベルギーに降りた50年後、私はそのベルギー人から見捨てられた。
許しがたい事だった、ジェノサイドを見捨てたのだ。
──ロメオ・アントニウス・ダレール中将、ルワンダにおけるPKOの撤退に際し指揮下のカナダ隊と共に残留した際の発言──*1
夢と希望の落差は概ね物理衝撃力の計算と同じ方法で解けてしまう。
落差が大きいならそれは衝撃力となるし、加速度的に上げればその分比例して衝撃は増える物だ。
スバルが見たのは正しく、それだった。
空間の裂傷と地下生活者らが弄んだ空間の穴、そこから垣間見えた”ありえた”世界。
放置されたアリウス、介入されないままのアリウス、どのように詭弁を弄しても「見捨てられた」ことには変わらないアリウス。
なるほど、子供を信じたから、では子供を信じて何らの調査もしなかった保護者は無謬なるや?
残念ながら保護責任というものが言葉としてある以上、擁護は難しいと言える。
「あ……ああ……」
それは確かに”ありえた”世界だったのだ。
スバルは今のアリウスが好きだ、くだらない事に一喜一憂する後輩が好きだ。
例えその平和と未来がアリウスの自主権を一時的に連邦に預けて維持されている物としてもである、平和は平和、秩序は秩序だ。
子供の笑顔を守れぬ自由に対し笑顔を維持できるなら独裁の方が支持されるは必然である。
ただしその約束をたがえた瞬間に終わるが。
「大丈夫ですか?」
マイアがスバルへ近づく。
だが目が怪しかった。
妖しく何かがぎらつき、不安定に揺れている。
「先輩?」
がりっ。
何かが砕けそうになる音がした。
「離れろ!」
即座にサオリが首を掴んで離した。
空間が歪み始める、ミメシスの実体化へのフェーズと同じだ。
黒いもやが広がり始め、プラナとアロナが『次元震度計が震え出してる!』と警告する、急激に実体化しつつある。
スバルを取り巻くように黒いもやが辺りを覆い隠そうとするが、即座に先生が手を掴んだ。
「よし! 掴んだ!」
スバルが何かにすがろうと視線を向けた瞬間、全ては暗闇に覆われた。
例え、真実と救いと言うものが虚構だとして、それは何のためになるのだろうか。
嘘には二種類の嘘があるという事を、一部の人々は理解している。
先生のある授業はそれを教えた。
一つはマダムやゲマトリアが教えたような嘘、人々に虚構と嘘を信じ込ませた嘘。
もう一つは先生らが、あらゆる下士官と士官が、導くべき人々に対して励ますための嘘。
「大丈夫、なんとかなる」
イタリアの山岳でそうしたように、マルヌの湖畔でそうしたように、ダンケルクの浜辺で言われたように、ディエン・ビエン・フーの塹壕で言われたように。
小隊長たちが部下の怯える姿を解決させ、少しでも長く生き残れるようにするための優しい嘘。ついた方も本当にしようと努力する嘘。
それはスバルもついた嘘だ。
そしてかつて先生もそうした嘘だった。
その嘘を真実とするべく自分で砲を操作しながら作戦指揮までした。*1*2
「でも本当にそうなるのでしょうか」
その不安は根幹からくるものだ。
真実が時に人を不幸にしかしない場合、人はどうしたらいいのだろうか。
誰もが生きる事は知る事だとし、目覚めよと唱えた稀人にはなれないのだから。
人は何時だって未知が恐い、
「ではあのアリウスは」
想像と記憶の境界線はあんまりない。
そう大人は言った。
単に呼び方が違うだけである。
「お前の現実はどっちだ!」
瞬間、聞き慣れた大人の声と、マイアの顔が頭に浮かんだ。
「戻った!」
意識が覚醒する。
アツコが即座にランヤードでマーセナリーやスクワッドらで掴んで引き摺り出す。
彼の手ははっきりスバルを掴んでいた。
だが既に黒いもやは、主を持たずとも実体化し始めている。
「げっほ! げほっ!」
スバルが瘴気に咳込みながら、急いでガスマスクを着ける。
単純に実体化のモヤは息苦しい上に体調不良を起こしやすい。
ゆっくりと息を吸って、吐きだし、対化学戦訓練を思い出して安定化させていく。
シャーレと共同訓練する事が多いのでアリウス自治警察予備隊は対化学戦対応ができる組織ではある。
「大丈夫か」
「先生こそ……」
スバルはやや不敵に笑ってそう言った。
「俺はまあ、カラ元気があるしな」
「馬鹿な事言わずに装面してよ」
ミサキに呆れたように言われ、いそいそとM40ガスマスクを着ける。
黒いもやが、ポルタパシスの天井を切り取って上昇を始めた。
「主人を不要とした……いや、あれは……別の主人を見つけたのかな」
アツコが見上げて首を傾げた。
漠然とした全員の不安をエサにしていた、というのがあのラッパ共の正体に近いらしい。
なるほど、それなら確かに大体が理解できる。
まずシャーレ隊員らの攻撃を受け付けなかったのは「人道支援がなし崩し的に泥沼になる恐怖」を不安としていたからだ。これはある意味正当な視点である。
そして自分自身への不安が、「自分たちだけになる恐怖」がアリウス生徒らの攻撃を無効にした。
だがその明白なる宿り木とされたスバルはこうして戻ってきた、ではどうしてアレは消えないのか。
そしてなぜおれが撃った奴は消えたのだ?
「多分、ここの生徒全員から”貴方なら出来る”という信頼があるから……」
「悪魔祓いとかはしたこと無いんだけどな俺、エセ預言者に大砲撃ち込んだりしたことはあるが」*3
それと同時に、アリウス駐屯地の指揮所から無線が入る。
『先生! 西部山岳地帯から大量にミメシスが溢れてます!』
「クソが! 実体化しやがったな! 直ちにバシリカなどに人員を収容しろ! こちらから処置に入る!」
とはいっても、難しくなってきた。
俺はなんとかしてアリウスの生徒たちに「我に続け」と指揮回復せないかんわけだ。
ポルタパシスの頭上で黒い光を纏いながら、顕現と具象化しつつあるクソ天使もどきを見上げているが、あんまり手が浮かばん。
というのもあのなんかヘンテコのせいで、いまアリウスとシャーレの部隊は動きが出来ない。
「畜生、対空ミサイルでもありゃ落としてやるが……」
「ぼくをお探し?」
壁の穴からオリバが顔を出してきた。
何してんだと言いかけたが理由はすぐにわかった。出て来たミメシスが地下水道跡にまで入ってきて合流しに来たのだ。
「アテでもあんのか、テメエの武器もうないだろ」
「ふふん、僕が全部管理してたわけじゃないけどあるんですよアテ」
「じゃあ早く出せ」
「問題はそれ、
ボケ―っ! と胸倉を掴んでぐらんぐらん揺らし、無いのと同じじゃねえかバカ! と怒鳴る。
オリバも流石に悪いと思ってるのか「本当にそれくらいしか浮かびませんよォ!」とは言っているが、何も進んでいない。
だが、マイアが「あっ」と思い出した。
「……マギ先輩から話を通せませんか?」
「「居たわ、レムナント」」
はっとした顔で、アツコが書類を確認した。
「先生、急がないとまずい」
「まだなんかあったか?」
「……救護騎士団の派遣部隊はその西部山岳地帯に今いるよ」
「なんでこうホットゾーンになるかなクソ!」
だがやるべき事は全て明白だ、全力を挙げてマギを回収し”アリウス”の総力を挙げて奴を鎮圧する。
時間との勝負、尻に火が付いたチキンラン、なに、まだまだやれるさ。
俺にはそれが出来る。あの時と同じ事をもう一度やるだけだ。
アリウス市街地に居を構えているシャーレの駐屯地、そこは各所から湧きだしたミメシスが地下水道から浸透したため乱戦状況になっていた。
駐屯地の正義実現委員会のUH-34などが駐機してある格納庫などは慌てて退避する整備員と、L1小銃を構えて必死の自衛戦闘中の整備員たち、慌てて逃げる整備員らを追い回すミメシスらで入り乱れている。
駐屯地各所からパンパン!と拳銃の音から、ズダン!という散弾銃や7㎜ライフル弾の音まで響いており、駐屯地外周ではM1117装甲警備車が小銃班を連れて慌てて走り回っている。
連発される自動小銃や、各所のバンカーのM240Bなどが唸る音と、非常サイレンに放送の音が聞こえている。
『現在全てのゲートは封鎖されています。許可なく基地施設に立ち入らないでください。
許可のない立ち入りはアリウスの校則に基づき罰せられます。』*4
自動放送の感情の無いボイスが、乗員の放棄した給油中のUH-34が爆発した音と衝撃でノイズを巻き散らしてぶつりと切断される。
ドォンと爆発特有の腹を大きくつかんで内臓ごと揺さぶる衝撃波が響く。
「こりゃ相当数入ってるな」
基地施設の一部屋、資料集めと確認で駆り出されたマギは上を見上げて呟いた。
シミコとウイとサクラコが選別して「多分役に立つ」の蔵書リストを、現地で時間が無いから確認させる。
その為に現地に詳しい情報専門家のマギ、あとちゃんと文字も文章も分かる手伝いを連れて来た。
先生にとって予想外だったのは、それが元防衛室長とFOX小隊を「彼女らが良い」と指名してマギが連れて来た事だが、時間が無いからゴーサインを出してしまった。
「呑気ですねぇ、私たちに武器なんか無いんですよ」
「どうせ逃げれんから監視も看守も居ないからな、一巻の終わりだろうな」
カヤとユキノがどこか投げやりな感想を述べる。
手錠無し、看守無し、武器無し、どのみちアリウスからは逃げれないし、逃げる奴とは思われていない。
するとドアの向こうからガタタタッ!と何か荷物やらが崩れる音がした。
「あ、まず」
マギが静かに呟き、ユキノが即座に身構えると同時に残りのメンバーも警戒する。
それとほぼ同時にドアをぶち破ってミメシスが部屋に入り、ドアの開き具合から影になりマギに気付かなかったミメシスが、ニコへ飛び掛かる。
「うわっ!」
取っ組み合いが始まり、もう一体来たのをクルミとマギで無理矢理に壁に押さえつける。
その後ろではオトギとユキノがニコから引き剥がそうと、無理矢理に引っ張る。
だがバカみたいな力で中々引き剥がれない。
「オトギちょっと退け!」
ユキノがはっとして叫び、オトギがずれ、カヤが部屋の隅の物を掴んでミメシスの頭部にぶちかます。
消火器の底をもろにフルスイングされ、バッティングラム直撃がごとくミメシスがのけぞる。
のけぞったミメシスを即座にオトギは蹴り上げ、倒れたところを首へユキノが踏みつけた。
活動不能になったミメシスが消え、ユキノはマギに近くにあった鉛筆を投げる。
それを受け取るとマギは躊躇うことなく耳の穴へ狙いすまして突き刺し、握りこぶしで強引に殴って奥へ叩き込む。
力なく崩れそうになるミメシスへ首に向かい蹴りをいれ、えいっと頸椎を回転させた。
「うわ、えぐっ」
クルミがやや「引くわー」とばかしに呟く。
それはそれとして、部屋の出入り口から辺りを見てみる。
先ほどの崩れた音は運んでたMREのカートにミメシスがぶつかった音らしく、辺りに巻き散らされていた。
通路を見たカヤが、窓へ近づく。
「流れ弾当たりますよ」
「いやあれ」
カヤが分かってはいるが、と言うようにこちらへ近づく人影を指さした。
数秒して、マギも、ユキノたちも目が点となった。
「先生ですよね?」
「何してんだあの人……」
ユキノがやや困惑した顔で呟く、放置もマズかろうとマギとニコが窓を開けて手招きした。
さっと飛び込むと、スバルやマイア、サオリ達を見てカヤたちはやはり不可思議気にした。
「なにしてるんです?」
「所用で西部山岳地帯へ行かなきゃいかんのとマギ、お前の回収も兼ねて来た」
「はぁ?」
困惑するマギの横でオトギが「いいなー、デートか」と言い、ユキノに拳骨される。
辺りの乱闘の痕と、手ぶらの姿に先生はやむを得ないかと息を吐いた。
「お前ら武器なら選り好みしないよな」
「私は元とはいえ室長なのですよ……?」
「良いからやれ」
カヤの必死のシビリアンアピールを黙殺し、少し歩いて警備隊向けの小型ガンロッカーを開ける。
官品の
「懐かしい、グリスの匂いがする官品じゃん」
オトギが懐かし気に、自身の得意分野に近いDMRのMk14EBRを手に取る。
ニコはシンプルにM1014を確保し、ユキノは基地施設の状況を加味してM16A4を選んだ。
クルミは単純に一番扱いなれているUMPが無かったので、MPXの10㎜弾仕様にした。
マギは警備隊向けと言うより、バードストライク対策で保管されていたトリニティのM14を選ぶ。
「Mk14はまだあるよ?」
オトギが不可思議気に尋ねる。
「殴っても折れない木製フルストックじゃないと嫌だ、銃剣も付かん、サイトはゼロインが殴るとズレる」
これだよ、とオトギは目を丸くはしたが、言いたい事はすべて理解した。
短期決戦ならマギもそうしただろうが、乱戦下ならこれが正解だ。
サイドアームにP228を迷わず選び、各自がスライドを引いて確認する。
先生はリボルバーだが、普通のリボルバーじゃなかった。
「じゃあ、行くか」
偶々近くに居たからという理由で徴集されたパイロット二人、偶然と言う理由でドアガンナーにされたマイア、そして離陸援護のFOX小隊。
全くそうなる筈もなかった人々は、今こうしてここに居る。
ついでに最早天命に委ねて諦めているカヤも居る、彼女は自分が射撃が下手なのを理解してるので、反動を制御しやすいL1小銃にした。
「走れ!」
戦の庭と化した駐屯地内の敷地を、一挙に走る。
先生を中心軸にスバルとアリウススクアッドが囲み、後衛にFOX小隊らがついている。
ゲート前で慌てて展開した警備隊がバンカーからM240Bを撃ち、M1117が機関銃を射撃しながらミメシスを蹴りだしにかかる。
ミメシスのRPGがM1117装甲車を吹き飛ばし、別のミメシスがドラグノフ狙撃銃を構える。
「左!スナイパー!」
「
先生ははっきりとそう指示し、ユキノの口角が僅かに上がった。
そこからは全くと言っていいほど一方的なまでの射撃戦だった、伊達に最高練度の特殊部隊ではなく、任務は明確で、何をするのかがはっきりとしていた。
正義を守る事だ。
今まで散々に「待て」をされていた
彼女らは目の前の大量の”ごちそう”へ飛びついた。
「なんだ、あいつら、やっぱりやればできるんじゃないか……!」
心底楽し気にニヤリと笑い、先生はUH-60へ飛び乗る。
操縦士らが「プリフライトチェック一部省略!」と緊急離陸手順を始め、その間にFOX小隊とカヤが臨時で防御円陣を組む。
カヤは未だにこれに納得してないが、昔の記憶を思い起こして
思ったより案外当たっているのは、カヤ自体が「やばくなったらうまく逃げる」と心がそれなりには凪いでいるからだ、先生よりは怖くない。
「離陸準備よし」
ゆっくりとヘリのローターが回転を速め、マギが思い出したようにユキノへ渡す。
「私のサイドアームだ、後で返せ」
「ああ、約束するさ」
離陸しようとするUH-60にミメシスが群がろうとするが、射撃の数々が狙いすまされており、ミメシスの攻撃が切れ味を欠いていく。
それでも数的優勢がミメシスを近づけるが、即座にユキノがサイドアームの拳銃を構え、
そのわずかな隙を縫って、UH-60は遂に空へ舞い上がる。
「
「任せる」
UH-60は、遠くへと飛び去って行く。
ユキノがそれを見届けると、ハンドサインし、即時撤収を始めた。
取り敢えず誰が何発撃ったか確認して弾を再補給して、あとは各所で分断されてる奴を掩護だな……。
ここまで来てしまったんだ、好きにやろう、どうせちょっとばかし余罪が増えても問題ないしな。
少し吹っ切れた様に、ユキノは微笑んだ。
アリウス西部山岳地帯、そこはかつてニコメディアと呼ばれた時代に、寺院が多くつくられた場所だった。
悔恨の中で隠遁して暮らすレムナントの穏健派が集まるのは、そうした土地でただ伏して神に祈るくらいしか自分に向き合えないからだった。
無論、シャーレはあらゆる形で情宣と宣撫をして、緩やかでも戻そうとしている。
そうした中で救護騎士団などが活動するのはある種、当然のことと言えた。
そうした活動拠点として間借りしていたかつての寺院に、いま救護騎士団と、護衛のシャーレとアリウスの部隊に、レムナントは立てこもっている。
「本部聞こえるか! 現在大隊規模のミメシスの猛攻を受けている! ただちに
『ファイアベース・オメガから作戦部隊へ、現在火力支援基地は多数のミメシスによる交戦にあり!』
「ガッデム!」
野戦通信機を担いでいたシャーレ隊員が受話器を握って叫んだ。
非戦闘員は二階にあげているが一階は各所で交戦中だ、手あたり次第に遮蔽物にしている。
ミメシスは腐ってもかつてのユスティナの遺産だ。凡百の生徒なんぞよりよほど強い。
「着けェー剣!」
たまたま同地の医療支援の進捗確認で来ていたミネ団長が叫ぶ。
そろそろバリケードが崩れる。
「総員白兵用意ィ!」
アリウスの自治警察予備隊の隊員が叫んだ。
「
救護騎士団のまだ戦技がある面子と、随行の正義実現委員会の数名も着剣する。
畜生こうなりゃ白兵だ、どうしてこうなったんだ!
誰かが漏れ出す様に呟いたが、もう逃げようも無いので誰も逃げ出さない。
先ほどからドンと突いていた音が止んだ、来る。
同時に青い煌めきが灯り、爆発する。
「撃てェ!」
射撃が始まり、突入したミメシスの小銃兵が数名ばたばたと倒れた。
だがすぐにその後ろから大型の防弾盾を構え、後列に軽機関銃を腰だめに構えたミメシスの戦列部隊が現れる。
トリニティで以前から行われてきたテストゥード隊形の応用だ。
応射の飛び交う弾丸に忽ちに燭台は弾け飛び、神を称える十字架は抉れ跳び、錆びた聖杯が砕け飛ぶ。
「特攻だァ!」
斧を構え、ショートノズルの散弾銃を構えたミメシスが跳躍した。
戦列戦が出来るという事は、散兵も出来るという事だ。
これまで殆どミメシスでも観測されなかった突撃部隊である。
即座にシャーレ隊員が銃剣で突き刺して床に叩きつけ、サイドアームのグロックで滅多打ちにする。
だが即座に横から別のミメシスの散弾銃が撃ち抜いた。
突入して来たミメシスにナイフを抜いたアリウス自治警察予備隊の隊員が胸へ突き刺そうとするが、ナイフを掴んだ腕を跳ね上げられ、蹴りのあとに顔面へ散弾銃を撃ち込まれる。
まずいぞ、ミネはそう確信した。
圧倒的に優勢な敵に対して白兵戦で1:1交換を強要されてはならない、絶対確実に負けるからだ。
ではどうするか?
「誇りと信念を胸に刻み、救護ォ!」
此方から殴り込め!
ミネ団長には戦術が分からぬ、ただし、患者を守る事に関しては人一倍熱心だった。
あえて、逆撃という選択にミメシスが一瞬立ち止まる。
その隙を見逃すシャーレとアリウスではない。
「擲弾!」
アンダーバレルにつけた40㎜が唸りを挙げ、ミメシスにぶちかまされた。
前衛の盾を構えたミメシスが吹き飛ぶと同時に、後列の軽機関銃を構えたミメシスにミネ団長が振りかぶる。
前衛と後衛が突き崩されて再び火力戦は再開される。
無論ミメシスはただ正面突撃するだけの無能ではない。
カイザー、色彩、あらゆる強敵と戦い続けたシャーレ隊員らと戦闘を成立させているだけはある。
即座にハンドサインのあと、手榴弾を投げ入れて煙幕を展張する。
さらに、一際サイズの大きいミメシスが出て来た、バルバラ級……。
「ファッキン
他と明らかに射撃音が違うドダダダ! という銃声が満ち、壁やバリケードを容易く貫通する。
ミネがハンドサインし、隊員らが頷くとミネが一気に突出して自身の散弾銃を撃ち込む。
バルバラがミネの重防弾盾を砕かんと狙いを変えるが、アリウス自治警察予備隊の隊員がM72 LAWランチャーを構えた。
カチッと押された発射スイッチは、正常に撃ち出された70㎜ほどの弾頭をバルバラの頭部へ叩き込んだ。
バルバラ頭部が爆発し、ズンと音を立てて倒れる。
だがこれではじり貧だ。
「ん?」
ミネ団長が上を見上げる。
ヘリの音が聞こえ始めた。
「空中援護かEVACでしょうか」
「もう遅い。いまさらあの数での空中援護がなんになる」
リアリズムが故の冷静な評価が出る。
なにせのっそのっそとアンブロジウスが歩いてきている、ミメシスの中では
しかし、現れたヘリはブラックホーク一機程度だ、チヌークかシーナイトが無ければ脱出は難しい。
すると、機体から何か光るものが降ってきた。
『システム、戦闘モード起動』
エンジニア部製作、復興支援用多脚メカ、ワニロボくんMk-2である。*6
そして、それと同時に白い制服と青い装具を着込んだ数名がラぺリングで降下して来た。
「先生だ!」
慣れないラぺリングにややよろけたが、即座に立ち上がる。
「”臨時編成アリウス・スクワッド”、前へ! 戦局をひっくり返すぞ!」
同時に降りて来た生徒たちを見て、全員が一瞬背筋を凍らせた。
サオリ達だけではない、レムナントだったマギや、スバルまで再編して編入し構成されていた。
本気の”特殊作戦部隊”の編成だった。
再び別のバルバラ級が現れ、重機関銃掃射と共にミメシスらを前進させるが、直ちに手近な遮蔽へカバーし、ハンドサインも無しに射撃を始めた。
フルオートではない7.62㎜特有のズダン! という銃声と、ベオウルフの重たい銃声が響き、単発射撃が忽ちに胸と頭へダブルタップされてミメシスを打ち倒す。
そして取り巻きを全て排除した瞬間、アツコが躍り出てSMGで掃射し制圧した瞬間を見逃さず、ミサキとヒヨリがそれぞれの大火力を撃ち込み、バルバラが消滅する。
「あ、あれがシャーレの特殊部隊……」
救護騎士団の団員が驚愕した声をあげた。
バラクラバに暗視ゴーグル、MICH2000ヘルメット、防弾着などを着込み、青い光を発する暗視ゴーグルの光だけが灯された特殊部隊。
闇の中の戦争を戦い抜いて来た飛び切りの精鋭の姿だ。
瞬く間にバルバラが討ち取られた事でミメシスも生半な手段じゃ勝てないと後退し、攻撃発起点近くへ後退する。
ミメシスはバカじゃないから、こうする事までしっかり読み通りだ、素人が判断して攻撃続行する方が恐い。
「損害は!」
「現状負傷7! 戦闘員16名!」
ミネ団長が即答する、しっかり頭の中で計算は出来ている。
「結構!」
先生がM14を持った隊員を呼び出す。
「対空火力を確保してくれ」
「了解、確か此処の下です!」
その生徒は二階に上がると「ちょっと手伝ってくれ」と、バラクラバを外して話していた。
良いのだろうか、身元の事情もあると思うのだが……。
ミネがややそんな、若干呑気な不安と疑問を抱いたが、先生が落ち着いた様子で言った。
「地元だから良いんだよ」
「はぁ……」
そんなもんなのかな?ミネは世の中は案外ざっくばらんなんだなと思う事にした。
先生は「ヒヨリ! 鐘楼で射点確保! オリバとマイアは観測機材持って上がれ! *7」と指示していた。
先生はその”対空機材”に渋い顔をした。
「これが?」
「こんなのしかないです」
先生の渋い顔に、マギは何をいまさら! と返した。
木箱のRF.268という文字が書かれた蓋を開けてみると、中に鎮座ましますはブローパイプ。
第一世代型の地対空ミサイルで、目視線指令誘導方式の第一世代と言う時点で一部有識者なら察するだろう、そう、ジョイスティック誘導である。
難しく考えないで説明するならラジコン操作のノリでミサイルを操作する訳だ。*8
「なんでこんなのがあるんだよ」
「こんなのだからトリニティから横流しされたんですよ」
熱源が無いからミサキにスティンガーを使わせられないのはしょうがないけど、もうこれなら
まあそれが無いからここに来たわけだが。
「当てれるんだよな本当に」
「お祈りしておいてください」
「当ててくれりゃ、欲しい物くれてやる」
マギが笑ってそう言い、先生は天を仰いだ。
まさか古すぎて扱い方知ってる奴がマギしか居ないのかよ……、そうだよな、ミサキはスティンガーだもんな、使ったこと無いよな。
それと同時に、ミメシスの迫撃砲が撃ち出された。
それは、ある意味において最後に取り残された人々の救いだった。
レムナント。
自分が悪いんじゃないと、そう思えるのなら良かったがそうも思えなかった者たち。
形なき憎悪以外ない事に気付いてしまった人々。
そうであるが故に、彼女らは山へ籠って静かに消えようとした。
ミメシスが溢れた時、これで終わりか、と考える者は多かった。
だが、それはそうではなかった。
かつてのレムナントを導いた人は、自分を一番許せない者たちに静かに暮らす場所を与えた人が来た。
アリウスを、救うために協力して欲しいと。
これが侵略と言う脅威から立ち上がる最後のチャンスなのだと。
今ここで、皆が立ち上がらねば真の未来は来ないのだと。
「死人のつもりか!立ち上がれ!勝ち戦だぞ!」
あの時と明確に違う事がある。
それは。
信じても良い大人は、今自分たちの為に、自分たちを救うために戦っているのだ。
ミメシスの突入が始まる。
無論数に任せた力押しではなく、探りを入れながら進撃だ。
メカワニくんが背負ってきた地雷除去用爆導鎖は、まだ使わない。
やがて、ミメシスたちは正面入口へ近づく。
「
レ・マット・リボルバーを確認し呟く。
普段の紙薬莢式ではなく、前装式リボルバーだが、散弾が使えると言う点は気に入っている。
今回は俺も射撃して火力を付け足す為にこれにした、何故か俺は自動小銃に嫌われている、てんで当たらん*9、習った射撃姿勢違うし……。
銃列をしき各自自由な射撃姿勢で待機させながら、先生がまだと呟く。
やがて、ミメシスが一気に扉を蹴破った。
「
腰から吊るしたサーベルを下ろし、引き金を引く。
統制射撃は最初の一回以上は不可能だ。
「
フルオート射撃だけではどうしようもない。
あっという間にもみくちゃにされて弾薬が欠乏する。
バン! バン! と単発射撃の銃声が響き、そのたびにミメシスが倒れる。
バーストで撃つものもあまりいない、弾薬を使い切るよりは単発射撃でケチりながら撃つのだ。
不思議と言うべきか、救護騎士団の団員ですら驚くほど当てているのにミネは気付いた。
「結構当たるようになった」
「先生たちが来て気持ちが落ち着いたかな」
逆にミメシスの射撃に落ち着きがない、射撃が制圧狙いだがややブレている。
「奴ら、負けだしたぞ。焦り始めてる」
先生がにやりと笑った。
それに連中も迂闊に突撃出来んから攻めあぐねてるな……。
その時だった、階段からごそごそと音がし始める。
「なにしてんの」
ラムロッドで火薬を突き固めながら、カフェでくつろいでるような抑揚で先生が尋ねた。
火薬の匂い、包囲下、持久戦と言う単語に懐かしき感覚を見出しているのもある。
おかげで、ずいぶんと状況に似合わない優し気な声だった。
「えっと……手伝いに……」
か細い声で、そのレムナントはそう告げた。
土汚れの酷いボロ衣みたいな姿だが、先生は侮蔑しなかった。
最後に心意気が、それがあるならばボロ衣だろうが何とでも戦わせて勝利を与えてやる。
俺にはその経験がある。
「我らがクラブにようこそ」
歓迎の意味を込めて、リボルバーをミメシスへぶち込んだ。
数分しない内に、エンフィールドのボルトアクションの銃声が交響曲の音色へ加わる事になった。
アリウスの再建された市街の上を、Mi-28とAH-64Eが飛ぶ。
先ほどから地上に居るスズ戦闘団長と交信しているからだ。
『だーかーらー! うだうだ言わずにロケット弾ぶちかませ!』
「良いのかい?そんな楽しい事しちゃって」
ハボックのパイロットは、呆れたように言った。
地域限定で先生が戒厳を発令した際に、周辺部隊を呼び出したからここにいるのだが偉い騒ぎになっていた。
『先生は朝臣として連邦生徒会会長から権限を付託されてる、つまりまあ神の声と同じってワケだ、な!』
「私は知りませんよ全く……。デンジャークロースに注意!」
あの大人の近くに居過ぎて滅茶苦茶言い出すようになったんだべ、ハボックのパイロットはそう思いながら機体を傾ける。
即応で間に合った対戦車ヘリと攻撃ヘリの援護は、アリウス市街地でのミメシスの反撃をぐしゃぐしゃにした。
アリウス駐屯地の正義実現委員会装甲輸送隊から装甲車何台か借りて、先生らを無理矢理離陸させた。
だがその後の方が大問題だ。
駐屯地はあちこちでミメシスが墓場でもないのに運動会してるし、野戦砲兵は装具類を放棄して再編中の状況である。
「畜生!あの大人困ったときは私に押し付ける!」
やってらんねえよ! とは言いながら、スズは即座に色彩戦の先生を思い出した。
全てを守ろうとする奴は全て失う、将校とは決断する者とは領導者とは、何を守り捨てるか決断する事だ。
だからこそ先生が臨時で委託する前の指揮命令は順守した、要点にシビリアンを集め、全力でそこ以外には無視した。
アリウス駐屯地の侵入してきた敵は、大胆な手段で解決される事となった。
なんと、正義実現委員会の委員が独断で戦列時代の躍進射撃法を採用して敢えての単発射撃で集中し、戦列戦で押し返したのである。
「駐屯地内から敵を一掃しつつあり!」
「迫撃砲奪回!」
「火力支援基地から敵は後退しつつあり!」
思ったより敵の攻撃が鈍いな、それにこちらの立ち直りが早い。
答えはすぐに浮かんだ、将校、将校の数だ。
ミメシスを有効に使える統率者が居ないのと、こちらには単純にゲヘナ・アリウス・トリニティ、そしてシャーレの部隊がある。
そうした部隊で
全て以前にやった事がある。
まあ借り物の手札で勝てるなら安かろう、スズは安堵した顔で「砲兵中隊と対地ヘリを選出して、先生に直掩につけさせておけ」と告げた。
通信兵が「下手すりゃ誤爆しますよ」と述べたが、「先生は誤爆を気にするタマじゃないでしょうが」と返され、それもそうだと頷く。
「なんとしても民間人被害は出すなよ! これでも、正義の味方なんだからな」
良い響きだよな、自分がやるんじゃ無けりゃ特にさ……。
手慣れた兵が扱うボルトアクションは、機関銃の様に射撃ができる。
レムナントまで銃火の渦に加えた先生らの火制下に於かれた寺院は、ミメシスの突撃を幾度も破砕している。
無論損害は多数出している、撃たれる奴もいる、銃火の数は半数になった。
それでも光輝く太陽の下、軍旗の下粛々と、銃列は維持されている。
不動の如く指揮し、軽く屈んで、サーベルとリボルバーを供に立つ大人が居るからだ。
「準備完了!」
全ての準備が整えられた。
撃ち出されたブローパイプが、白煙を描いて目標へ飛んでいく。
謎のポルタパシスの上空に浮かぶ天使もどきは、何かを念じるようにしてブローパイプの軌道を逸らしたが、再びブローパイプの軌道は目標へ突進する!
”ぎょっ”としたような身動きをして、天使もどきが爆発する。
「命中!」
「すげぇ、当てちゃったよ」
先生が双眼鏡で覗きながら呆れて呟いた。
天使がずしんと落着し、やがてジタバタと震え、形態が崩壊していく。
元より頼り気の無い宿り木とあやふやな状態が故の強みが、実体化により失われたのだ。
それと同時に、ミメシスたちが突然おろおろと戸惑い始めた。
指揮系統が切断されたな。
先生は無言でサーベルを抜いて、煌めく切っ先で目標を示した。
「臨時集成連邦捜査部、前へ! 敵軍を撃滅する!」
「逆襲―っ! 前へぇ―っ!」
新たなる時代が、始まった。
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