キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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これは君のせいではない。
君は、君たちは背負わなくていい責任を背負わされてきた。
むしろ、これは全て私たちがするべき事だったんだ。
こんな形でしか君たちの役に立てなくて、本当に申し訳ない。
─ぼくらの第8巻、義4号作戦発令に際し─


能事畢れり(のうじおわれり)

各所で掃討戦が始まり、バシリカ付近の広場にシャーレの分隊やIFORのPKF隊員らが展開を始める。

避難が間に合わない人員は自宅の地下室(ベースメント)に静かに隠れている者が多かった、以前からそう言う規定が有るのもあるが、大半の住民が一応念のためと自身でそうしていた。

小さな幼子が走って家から出て来た、窓ガラスの割れる音と揉み合う音が家から響いている。

即座にイオリが子供に二人ばかし護衛に付け、MRAPに載せる。

 

「ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!」

 

Fort-221を構えたアリウスの自治警察予備隊の隊員と、HK33A2を構えたゲヘナ風紀委員が突入し、玄関から激しい銃撃音を轟かせる。

後衛のシャーレ隊員がM249を腰だめに掃射しながら援護し、近隣の家々の屋根裏などをブチ破ってミメシスが現れる。

あちこちからの奇襲攻撃に倒れる者も居るが、それでも戦局は完全にこちらの側へ傾いていた。

揺るぎようのない事実が、彼女らを完全に結び付けて来た。

 

正義は我にあり。

 

 

 

 

 

 

ベアトリーチェのあとしまつ

能事畢れり(のうじおわれり)

 

 

 

 

 

ハイランダーの特別な装甲列車が停車し、手慣れた動作で増援部隊を下ろす。

警備局の機動大隊一個とシャーレからの戦闘団増強部隊などが主軸である。

西部山岳地帯から先生らを回収し、空中指揮官機仕様のカスタムCH-53Eの機内へ先生が戻った。

3機作ったが1機はカイザーのシャーレ本庁舎攻撃に際して格納庫ごと吹き飛ばされたし、2号機はアビドス砂漠でシェマタ爆発に際して壊された。

お陰でアリウス配備の3号機しか動けなくなったのだ。

 

『自治警第三中隊は担当区画の掃討を完了』

『警備局機動大隊が避難所周辺に展開しました』

『捜索騎兵進発!掃討作戦に入る』

『現在まで市街地の南部を除いて、市街地は掃討中。南部は完全に敵を殲滅(アニヒレート)しました』

 

空中指揮官機の無線交信が幾つも飛び交い、タブレットに繋がった液晶画面にアリウス地域の大半から赤色のエリアが消えていく。

後方警備をヴァルキューレ警備局の第四機動大隊──ヴァルキューレ警備局は管区第四中隊を選出して機動大隊を編成し遠征する──に委託し、代わりに地元の自治警から案内役を随行させて中央の指揮下にあるPKFが掃討する。

これが結構面白いが大変だ、地元の人間がいなくては信頼を勝ち取れないし、中央がリーダーシップを取らなきゃ傀儡軍扱いになるわけだ。

 

「大丈夫だ、慌てず区画ごと包囲して誘い出せ。

 キルゾーンに誘い出したらアンブロジウスだろうがなんだろうがぶっ殺せる」

 

先生がタブレットから部隊をタップして移動させ、自治警第14中隊、つまりアリウスの戦車中隊を待機させる。

シャーレが運用する偵察隊のLAV-25がアンブロジウスをブッシュマスターで攻撃し、ピューと逃げた。

アンブロジウスがその巨体を揺らしてのそのそと追いかけるが、手慣れたドライバーが操る装輪装甲車は市街地ということも相まって視界から逃げ果せる。

当然、巨体ゆえに背筋を伸ばして辺りを確かめようとした。

 

「後方ヨシ」

「てぇっ」

 

屋上に待機していたカールグスタフを構える正義実現委員会の委員が頭部をクロスファイアし、続けて隠れていたアリウス戦車中隊のオリファントMk1Bが飛び出す。

 

「目標対榴、小隊集中射ァーッ、撃てッ!」

 

紛れもない105mm砲の轟音が轟き、戦車小隊4両の滅多撃ちを受けてアンブロジウスが慌てて退がる。

だが後退りするアンブロジウスが、今度は左右から戦車砲を撃たれた。

別の戦車小隊が左右を展開していたのだ。

12両のオリファントMk1Bに滅多うちにされたアンブロジウスは、力無く倒れて霧のように消えていった。

優秀な将校と優秀な兵員が揃い、連絡が整った相手には勝つ手段はあんまり無い。

 

「アンブロジウス4号、活動を停止!」

 

AH-1Gが旋回しながら報告し、次のミメシスを捜し求める。

別の場所に侵攻したアンブロジウスは、96式多目的誘導弾を積んだ高機動車に突進をかまそうとしたが、移動中だった105mm榴弾砲の砲兵に直射されて撃破された。

各所でミメシスが分断されて撃滅されていき、散発的に反撃を仕掛けてくるミメシスを滅多撃ちだ、七面鳥狩り(ターキーシュート)の様に狩られていく。

先生は軽く湯煎されたレトルト食品のシチューにパンを浸けて、片手で食べながら作戦を指揮を続けている。*1

 

『あ、AMASが』

 

無線で驚いたような呟きが聞こえ、画面を見ると遠隔操作されたヒビキの操る2足歩行型作業用AMAS3がアームクローでアンブジウスの腹部をぶち抜き、相手を吹き飛ばした。精密作業用のOSを近接格闘用に仕立て直したらしい。

民生作業を前提としてダウンスペックされた歩行重機ではあるが、質量があるのをバーニアを強引に吹かして速度を足せばそうもなる。

なまじミレニアムの製品故そう言う事が出来てしまうのは考え物だなと思いながら、市街外縁に増援を回し包囲の環を縮める。

M113やKAFV40/50に随伴が伴いながら慌てず、チキンを切り分けるように、分割して食べやすくすればどうとでもなる。

 

これ以降、アリウスで大規模にミメシスが出現する事は、止んだ。

 

 

 

 

 

二日して、連邦生徒会の建設室長と財務室長、それにアユムが被害確認にやってきた。

どの程度の損傷があり、どの程度の補正予算が必要かという点での意見や評価を確認しなくてはならないからだ。

室長クラスが三人も来たというのは、逆に言えばそれくらいの立場がしっかりあり、しっかりと意見する正当性を遅滞なく澱みなく話せる人間だからだ。

先生はトリニティのバカな臨時代表が支援金を報告書を整えてガメようとした件について、ハッキリ記憶して侮蔑していた。

最もその件で一番キレていたのはナギサで、僅差2位はミカだった、おかげで第一次聴聞会に際してはっきりと「貴女たちみたいなお馬鹿さんが勝手働した挙げ句ポッケに収めるような門閥体制に価値があるとか考えてる?」と述べてしまい、騒擾になった。

その後に先生まで参加して第二回が始まると更に荒れたが。

 

「案外報告より見た目は悪くないわね」

「ですね、地下の状況を確認しない限りあまりはっきり言えませんが」

 

二人の室長が書類を見ながら、公用のハンヴィーで各地を確認する。

レムナントの武装解除が完了し、ミメシスも鎮静化され皮肉なことにアリウスは銃声が消えて久しくなったのだ。

おかげで4代前の連邦生徒会の会長が「流石にもう無理」と言ったハンヴィーでも走り回れる、ペラ紙の装甲しかないからシャーレは一両も採用していない。

 

「おや?」

 

建設室長が首を傾げた。

先生がおたまを持って飯をよそっている、アリウスの生徒らがトレーを持って並んでいた。

 

「……何やってんだあの人」

 

建設室長の困惑した声がし、運転手のシャーレ隊員が笑いながら「ミメシスの野郎が食糧庫の冷凍室電源ぶっ壊したから、ダメになる前にみんなで食べようって事です」と告げた。

アオイは屈託の無い、純粋無垢な笑い声を高らかにあげた。

 

「実に良い」

 

お見事、お見事ね先生。

貴方は本当に此処を生徒の笑顔の守れる場所にして見せたワケ。

アオイは楽しげにお茶の入ったペットボトルを飲み、そしてペットボトルをそっと高く掲げた。

どうなるかは分からないが、この純粋無垢な子供たちに救いあれ。

 

ただし、お小遣いの範疇で。

 

 

 

シャーレ本庁舎一階にはカフェがある、試験勉強をするものや次の講習会までの待ち時間を過ごしたりするものもいる。あるいは単に熱さ寒さから逃れる為だったり。

別の者もいる、カフェでバイトをする者も居るのだ。

そんなカフェでは、黒いサングラスを着けたモモイとミドリが、ぶどうジュースのグラスを揺らしていた。

 

「ほら、笑顔が硬いよ、もっと笑って笑って」

「寄せて寄せて」

「ど、どうしてこんな事に……」

 

スバルの眼に弱気な輝きが灯る。

彼女はクラシカルなフレンチメイドの装いに包まれていた。

気晴らしも兼ねて、と言われて仕事が来たのが運の尽きであった。

マイアも同じくクラシカルなメイド服に身を包み、メイド服姿のアリスと写真を撮っている。

 

「笑顔が堅いよスバルちゃ〜ん」

「笑顔笑顔」

 

悪徳プロデューサーがごときゲーム開発部が此処に居るのは偶々である。

決して「私だけメイド服着せられたのを根に持ってるとかじゃない」と申していたミサキの陰謀では無いし、「今度こそバニーでばにばにバニタス!」と企んでいるトキの協力でもない、決して、である。

モモイの何とも締まりのないだらしない抑揚から発せられる中年男性めいた発言と、姉と対して変わらないが物凄い速さでノートに立ち絵を描き上げているミドリが、ハッとした顔をした。

 

「「まずいユウカ警報だ!」」

「なんですかそれ……」

「圧迫財政の予感!」

「はぁ?」

 

スバルが困惑するのを横目に、ユウカがモモイとミドリを締め上げた。

ユウカにずるずると引き摺られていくのを見て、スバルは少しばかりこの世にはべらんめえな生き方をする人々も居る事に気付いた。

ピアノの音が聞こえ始め、シャーレ隊員や白銀の狼の様な生徒と、アリウス系の生徒が歌声を上げている。

確か色彩後のキヴォトスで流行り始めた歌だが、トリニティ製だった。

 

「バカなカイザーが、超人になろうと夢を見た

 表じゃ連邦と握手して裏ではコッソリ戦争準備、自分で結んだ契約を忘れてる

 アビドスで陰謀のシチューを作った癖に、自分がそれを飲まされた

 カイザーの部隊は打って出た、なるほど確かに壮観だ、でも先生が睨んだら帰っちゃった

 声高に最初の目標はアビドスって言ったのに、そこに辿り着けやしなかった」

 

歌がサビへと入ると、周りの生徒らも歌い始めた。

 

「アビドスでカイザーはとっちめられた、キヴォトス全体で殴られてる

 会社の椅子に座れないくらいに叩かれて、尻も株価も顔も真っ赤!もうプレジデントじゃいられない

 いたずら小僧はもうおしまい、兵隊ごっこは止める時間さ」

 

クスッとスバルは微笑んだ。

なにせ、歌詞の二番は「調子に乗った勘違い女が、先生にとって代わろうと思いついた」で始まるからだ。

 

「調子に乗った勘違い女が、先生(ETO)にとって代わろうと思いついた

 慌ててアイツは地理を学ぶ、シャーレの仲間は何処だっけ?

 トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム、百鬼夜行に山海経、連邦生徒会は小さくて見落とした?

 でも甘く見たのはいけなかった、狂犬に「ワン」と咆えられて竦んじゃった

 けど奴は先生を分かっていなかったから、それを罪には問いてやらないでやれ

 先生にターキー・トロットを躍らされたしね」

 

再びサビに入り、コーラスが大きくなる。

 

「アリウスでゲマトリアもとっちめられた、シャーレは全力で殴り合う

 僭称者として座れないくらいに叩かれて、赤いお顔は真っ蒼に!もう崇高とは誰も思わない

 お姫様気取りはもうおしまい、女王ごっこは止める時間さ」

 

かたやそんな歌声とは真反対な、別の歌声も聞こえてくる。

シャーレの中庭にこの『アリウス完全掃討記念』を好機とみて、出店を出してくる逞しい生徒もいるのだ。

お陰でシズコがサービスで配る甘酒に一杯機嫌で顔を赤くする奴も出ているし、セリカの屋台のラーメンの湯気や、或いはスイーツ部のクレープ屋台手伝いに、何とは無しの安いマフラーなどを売るものも居る。

 

「ひとつとせ~!ひとぉーのいやがるぐーんたいにぃー、志願ではぁーいる馬鹿もいるぅ~!」

「そいつぁ剛毅だねぇ~」

 

これはシャーレ隊員。

 

「将校はパイとケーキを貰える、私らが貰えたのは腹痛、Inky Pinky Parlez Vous!」

「将校は機械化したって思ってる、なんでか私らは歩かされる、Inky Pinky Parlez Vous!」

 

あれは正義実現委員会。

 

「「進め庶民の兵らよ、恐れることなく。我らが自慢げな指揮官は安全な後方で威張り散らすけど」」

「「朝から晩までギャーギャー騒ぎ、自分は勇敢と信じてる。アーメン」」

 

こっちはアリウス生徒……。

 

「戦場には出たくない、DUの地下鉄ぶらついてトリニティの淑女のヒモが良い」

「楽しい楽しいゲヘナで、愉快に楽して暮らしたい」

 

……そっちはゲヘナ風紀委員会。

歌の内容にしろ歌ってる連中の様子にしろ中々酷いものだと言うのは事実だが、こうしたガス抜きも認めない組織は爆発するともうダメだ。

制御されない爆発は必然的に連鎖し大規模な戦争犯罪へ連鎖する。

そしてこういうのを厳しくする将校は絶対に後ろから撃たれる、全てはバランスである。*2

 

「いやぁ変わらんな。どいつもこいつも」

「気は緩める時には緩めなきゃだからね」

 

アツコが先生に振り向いて言った。

横目にアズサが甘酒で顔を赤くしてヒフミを抱っこし、コハルが甘えてくるハナコに爆笑しながら甘やかしているのが見えた。

ダメだこりゃ、完全に出来上がってる。

 

「……こりゃ緩み過ぎだな」

 

素人が見れば「だらしのない」と言う様子だが、ヒナやツルギやミカなどが見ればはっきりと分かることがあった。

これは要するに「これからもお前らに厳しく接するので覚悟する様に」と言う予告で、今は好きに緩んでいろと言うことである。犬の散歩は犬の事情ではなく飼い主の事情と言うわけだ。

であるから、スズをはじめとしたシャーレ隊員一同はこれを「執行猶予」と笑うのである。

 

「先生、居られますか」

 

連邦生徒会のアユムが先生を見つけて声をかける。

アユムから見たこの生徒たちの浮かれ騒ぎには別の意見を持っている、彼女は「これでこそ良いのだ」と信じている、誠に平時の役人の最良の美点である平和主義がよく出ていた。

彼女を含めた連邦生徒会の役員の少なからぬ数がシャーレを警戒している理由は、間違いなくエデン条約締結記念に強行された式典が原因である。

観閲式で行われた堂々たる隊員たちと兵器類の行進、そしてアリウスで再編された風紀組織である自治警察予備隊の行進、連邦生徒会は否応にも自分たちが御しきれない権力と武力のサイズをまざまざと見せつけられた。

当初はパラミリタリーを含んだ連邦の非常事態対応部門でしかなかった組織は完璧に"国軍"になりつつあるのだ。

しかもそれの影響力は三大学校全てに及び始めている、ETOに参加していないが存在を快く思ってると"非公式な声明"を出したリオ会長は、事実上三大学校全てがシャーレを承認したと言えるのだ、ETOを管理しているのはシャーレなのだから。

 

「おう、どうかしたか」

 

ぽや〜っと擬音が出そうな程に野原で伸びているスズに、イブキと二人で頬を突っつきながら振り向く。

 

「はい、以前の復興計画で計上された予算が通ったのと、こちらの書類が」

 

アユムがカバンからフォルダーを渡した。

一瞥して先生が「あっ」と呟く。

そういや総合試験の季節だった、リン行政官から「え、自作なさるんですか?」と驚かれたが、提出が今回のトラブルで遅れていたらしい。

 

 

 

ロココ様式の空間では、アヤメが呆れた顔で唸り声をあげているスーツの男性を見ていた。

 

”あああああ!僕もメイドさんコスのスバルが見たかったなぁぁぁ!”

 

やや遠巻きにアヤメが困惑しながら、これ大丈夫なのか?とタイユランを見やる。

タイユランは「女中(メイド)の何が特別だと言うんだね」と呆れたように呟き、びたんびたんと拗ねて跳ねている”先生”に呆れた視線を向けている。

 

「女中の一人や二人くらいどうしたと言うんだね」

”分かってない、分かって無いんだぁ~”

「分かる訳無いでしょうが……」

 

対応出来そうな警察大臣は今ここに居ないし、古参近衛も流石に対応の範囲外である。

幾ら戦場では無敵の近衛軍団陸軍第三師団(古参近衛隊)でも、出来ない事は幾つかあるのだ。

 

「なんとかならない?」

「私に聞きますソレ?」

 

タイユランの問いかけにアヤメが「無理言うなよ」と返した。

そもそもアヤメも女中(メイド)の何が良いかなど、いまいちよく分からない。

名家の出ではあるアヤメはそれなりに使用人、女中、家令、丁稚などを見知っているし、番台なども知ってる、

見知った世界には幻想は抱けないので、アヤメにも理解できないわけだ。

 

「何してるんです」

”駄々”

 

ハッキリ言ってのけたなコイツ、と入室して来た赤毛の元帥が唖然として呟いた。

人間素直なのは良い事だが、素直過ぎるのも考え物かと思ってる。

 

「で、どうかしたの」

 

タイユランが尋ねると、どんと紙束が置かれた。

 

「皇帝が作ってた総合試験の原本をコピーしたんだ、やりませんか」

 

ひょこっと、それまでの事を忘れた様に”先生”が立ち上がった。

 

”お、気になる”

 

こいつさっきまで自分が何を言ってたのか忘れたのか?!と驚愕するアヤメを差し置いて、ひょいっと彼は紙を手に取った。

暫くした後、”先生”はぼそりと呟いた。

 

”どうして地理の問題がイタリアやドイツ平原が参考にされてるんだい?”

「馴染み深いから使いまわしたんじゃないですかね?彼勤勉ですけど想像力を創作には使えませんから」

 

タイユランの発言に赤毛の元帥が「あれは作家でも書けないような人生だからな」と呟く。

 

 

 

 

ミメシスの掃討が終了し、復興もひと段落つき、総合試験が始まった。

ちなみに外勤、出稼ぎ生徒はオンラインで問題集を受け取るか、最寄りの連邦施設を借りるなどをして行う事が可能である。

総合試験に際してはアリウス生徒らの中には「何の意味があるのか」と訝しむ者も多く居たが、「でもこの問題は先生が作ったそうだけど」と言われると、そうした生徒らも「ちょっと気になる」と言い始めた。

かくして生徒たちは望む望まずを問わず、各種様々な思いの下でバシリカへ集まった。

そしてそこで待っていたのは、同じく紙を積まれている先生の姿だった。

 

「……何ですかアレ」

 

スバルが唖然として尋ねた。

 

「”俺が”受けるテストだよ、ミレニアムの奴」

「先生も受けるんですか?」

「そうだよ?そもそもテストとはどれくらい出来るかのバロメーターだからな、俺も大分また勉強しなきゃなぁ」

 

生徒らの反応は二種に分かれた。

「先生だ大人だと言っても大変なんだな」という素直な奴と、「やりたいからしてんじゃないか?」というある意味鋭い奴だ。

実際この二つは事実でありコインの裏表、或いは物事の大半がそうであるようにダイスの面の違いでしかない。

ちなみに少なくない理由は「今の数学はどうなったのかな」という趣味である。

それはそれとして、生徒たちは席に着いた。

 

「では、開始。

 やり切って見せる事が肝要だぞ、鉛筆転がして神頼みはすんなよ~?」

 

何人かの生徒がびくっとした。

 

「……お前らなぁ」

 

逞しいと言うべきか、どうしようもない奴らと言うべきか……。

 

 

 

矯正局の中庭で、ぼおっと日差しを見上げて座るマギの隣にユキノが座る。

特殊作戦活動経験者同士が座って何かを話しているのは、それなりの警戒感を持たれるもので、看守はそれとなく警戒の目を向けていた。

……最もその気になったら「どうしようもあるまい」とも思っているのか、遠巻きではある。

それ以外の収容者はあまり近くに居ない、最近新しく収容された奴にはトリニティからぶち込まれた連中が数人居たが、流石にカヤですら鼻白んだ。

困窮した奴から救援金中抜きを計画は流石にカヤ室長も苦笑したし、相手がアリウスなのもあって「バカですかそいつら」と呆れ返った。お前そのことがバレた日にゃ殺されかねんと思い付けないのかマヌケと思ってる。

数日しないうちに"石鹸の入ったタオルでボコられて"発見された、看守も収容者たちもみんな「知らねえなあ」としらばっくれて、病院送りになったらしい。

 

「……なんで断ったんです?」

 

そんな事件の推定時刻に「きっとたまたま偶然」ゴム手袋とレインコートを処分してる姿がカヤに見られたマギは、ユキノの問いに思い出したかの様に悩んだ。

この世は恐怖なしに秩序が維持できる様な社会でも無く、人間とはそこまで倫理が優れても無いと信じる偵察総局の元局長は、あまり話した事のない相手ではあるが、ある種同類であるユキノに不可思議な好感を感じている。

こんな一途で愛らしい存在たち(カヤとユキノ達)をどうして連邦生徒会会長(飼い主)は捨てたのか、本気で理解できない。

 

「もう少し見ていたい他人だったから、かな」

 

今次戦闘による仮釈放の話をマギ達は断った、と言う事の真相を彼女は述べた。

元々、アリウス生徒の大半のエデンに於けるテロ容疑は免罪されている。

理由は「望んでも無いのに強制された軍役の中での作戦参加への強要はそもそも法的請求の正当性が無い」からである。

従い、先生は真実悪そのものであるゲマトリアと教官達「全員一致の悪人、悪の枢軸」を突き出した。

だがここで話がややこしくなってくるのがレムナント、そうした訳でレムナントは「情状酌量の余地を加味してやれ」と言う事になるが、マギの場合は少しややこしい。

彼女は間違いなくぶっ壊れていて、それでいて計画性を有して自らの意思でそれを引き起こした。

と言う訳で、彼女は自分から矯正局に入ったのである。

 

「もう少し見ていたかった?」

「あぁ」

 

ユキノは「分かんないなこの人も」と感じた。

もう少し見ていたかった、と言うのはある意味では人の欲である。

マギは照れ臭げに、頭を掻いた。

 

「……犬は、良い犬とハンドラーを識別するには人と犬の子供と遊ばせるのが大事なんだそうです。

持ってこい遊び(リトリープ)の中で、犬が子供と遊ぶ中で良く言う事を聞く犬を見分ける。でも犬達は従う事についてこう考える。

"この遊びはとっても楽しいが、ボクが咥えている枝を、この人に渡して平気かな?"と、故に、犬は飼い主の手前で枝を落とす。

だから人間がそれを続けたいのなら、人間が修正案を受け入れなくてはならない。*3

 

ユキノがふーんと頷き、空を見上げて尋ねた。

 

「……因みに、どっちの視点(がわから)で言ったんだ?」

「乙女の秘密を詮索するもんじゃないよ」

 

看守が歩いてきて、マギたちに「先生から、試験問題が届いたぞ」と告げる。

 

「私たちにもか?」

「これも運命だ、諦めたまえ」

 

マギは愉快愉快と笑いながら、ユキノと、極めて納得してないカヤの首根っこを掴んだ。

人には理解出来ないが側にいる第三者が必要だ。

 

 

 

夕闇がアリウスの市街を覆い、バシリカ周辺のガス灯の光がぽっと灯り始める。

バシリカの執務室ではたっぷりと積まれた生徒の答案を見て、彼は満足気な笑みを浮かべた。

外では【全学年一致歩調の復興電撃戦で進んでいこう!】と書かれたアジ看板が光っている、相変わらずレッドウインター工務部が作ったものだ。

もう少し何とかならんかと言ったらアレが出てきた、もう諦めている。

天然ボケには勝てん。

 

「大変そうだね」

 

アツコが静かに扉をノックして開けた。

普段の制服でもシャーレ礼服のコートを羽織ってもいない、普通の寝巻き姿だ。

アツコの寝室はスクアッドと同じくバシリカ内部にあるから、基本シャーレ本庁舎にいない時はここだ。

外から帰営と夜間警衛の交代ラッパが聞こえる、無線を使うより簡単で手っ取り早いのでこうした手段は今でも使われるし、儀式的な面もある。

 

「こればっかしは俺がやらにゃいかん、生徒に任せられないからな」

 

アツコは手慣れた様子で、小さな冷蔵庫からチョコの入った缶を取り出す。

先生が夜勤をする際は濃いめのコーヒーより、チョコを取り出す事が多いからだった。*4

おかげで、シャーレの人間には「先生とチョコを食べる」が「夜勤をする」というスラングで使われているし、夜勤者の事を"甘党"と呼ぶある種の兵隊言葉も生まれた。

そっと机の上に置くと、「おう、ありがとう」と頷き、書類とまた向き合う。

 

「……今回で取り敢えず終わったのかな」

「終わった、というより始まったのが近いだろうな」

 

戦後。

何とも実感が湧かない二文字だ、当事者からすれば大概そうなのだろうが。

だがそれでも良い事もある。

 

「立木、入ります。よろしいですか」

 

ノックがまたされた。

 

「どうぞ」

 

なんだかんだあり、生徒会庶務手伝い……つまり実質的にアリウス生徒会本部の配置にされたマイアが入る。

一年の下っ端の下っ端で本部配属というのは、すなわちアレコレと用務を言い渡されてやらされるという事で、苦労をするという事である。

ただし、それを任される程度に「こいつはやれる奴」と認識されたという事も意味するから、あまり悲観的になる必要もない、無能に仕事を任せる奴など居ない。

少なくとも、マイアは今回の一件で「コイツはやり抜ける奴」と思われたという事だ。

 

「ハイランダーから荷物が届いてます、公安局のマーク入りの」

「あぁ、来たか、そこに置いておいてくれ。ありがとう」

 

抱えたクーラーボックスをよいしょと置き、マイアが退室する。

コーヒーにミルクを幾らか注ぎ、アツコはこれは何か?と尋ねた。

 

「俺の仕事終わりの楽しみさ、勝利の味の具現化だよ」

「?」

 

アツコは不可思議そうにしたが、楽しみにした顔でいうので、ふーんと頷く。

何かは分からないが、色々これからも知れる。

正直なところ、彼女は自身の血の縛りにはあまり良い思いをしなかった。

それを利用しようとする人々は多かったが、それ以外でアツコを見る人は居なかった。

だけど、そうじゃない人も居た。

サオリが居た、ミサキが居た、アズサにヒヨリも居た、彼女らはアツコをアツコとして扱ったのだ。

 

「……いまだから言えるけど、あの時、結構不安だった」

 

アツコは静かにそう言った。

 

「人は変容する生き物。そして組織とは簡単に言う事を変えれるから」

 

アリウスへのPKO。

簡単に聞こえるかもしれないそれの意味、平和維持活動を独力で維持出来るならそもそもそれは発生しない。

従い、それは血を吐き続けるマラソンを続ける事を意味する。

「やれば良い、可哀想な人達がいるんだから」と始まった打算なき支援は、容易く「割りに合わないからやめてしまえ」に変容する、だが「平和維持をやめます」なんて言ったらそれこそ役人たちはクビが飛ぶ。

簡単な解決策はただ一つ。

現地で大きな騒乱を「自分から起こす事により、内外から批判されたので撤収する」という選択肢。

古来から伝わるたった一つの冴えたやり方。

 

「だから、私は貴方に、貴方たちに実感を湧かせ、当事者にさせる事にした。卑怯な手段なのは分かってた」

 

それが残された弱者の選択肢だった。

冷徹なロジックだ、辺境に住む人間が緩やかなどというのは都市住民の偏見でしか無い。

そして「ただの善意で始まった有志の支援活動」は古来から「状況を良く変えないが、悪化させることにかけては天才的」になる、見知らぬ異邦人がいる事自体がそれとなく嫌われる事すら考慮も思慮も含んでいない善人たちであるからだ。

「こんな良い事をしようとしてるのに、何でこの人たちは受け入れない」から先に考えを進めれない人々は実在する。

 

「ひどいよね、ユウカさんも、スズさんも、ミカさんも、イロハさんも利用してたんだから」

 

何も言わず、そっと席を移し、隣に座る。

人には縋れる誰かが必要だ。子供の場合、それは大人がするべき事だ。

そうでなくては、ならないのだ。

人の親になった時、自身の父が頭に思い出された。

父は「世界は広い、鳥の様になれ」と語った、母は「芯を通せ」と言い、二人とも俺を応援してくれた。

人には誰か心から信頼と縋っても良いと思える相手が絶対に必要なのだ。

許す、許さないではない、俺がなりたいのは。

 

与えるもの、受け入れる者なのだ。

 

静かに身体を寄せる者を受け入れ、いつの間にか彼女は安心して寝息を立てていた。

寝室に運んでやろうかと考えたが、安心し寝息を立てるアツコを起こす危険性と、仮に起こした場合に起こり得る「一緒に寝てくれなきゃ駄々こねる」と言われる危険性が頭に浮かぶ。

そうなると多分、夜勤が終わらない。

 

戦場じゃ決断の早いアンタでも考えが鈍る時があんだな

 

ふと頭に誰かの声が聞こえた、うるせえよ馬鹿野郎!

ミュラか?!ランヌか?!さてはベルナドットか!いや、もしかしたらネイ辺りか……?フーシェやもしれん。

現実と必要性について、彼らしく無い逡巡をしたものの結論は、取り敢えず自身の大外套をかけてやる事を決めた。

たかがこれだけの事だが随分と悩ませてくれる、戦闘指揮のがしっくり来る。

その後の夜勤は、彼にとって思いの外に素早く済んだ。

自身に安心して寝息を立てる少女というのは、仕事を促進させる効果でもあるのかねと一人笑い、クーラーボックスを開ける。

中身はついに届いたシャンベルタン、ああ懐かしやあの赤ワイン。

ヴィン・デ・コンスの様な南アフリカのワインも良かった、俺の最後に呑んだワインだった。酢を飲むようになった惨めさはもう無い。

連邦指定物の厳重な封緘により、丁寧に包装されたシャンベルタンが、グラスにゆっくりと注がれる。

芳しき香りがした、きっちりと10年以上熟成された赤ワインだ。

月夜に反射し、薄っすらと月光で赤く光るシャンベルタンを見ながら、グラスを掲げた。

 

"俺なりにやってみせたぜ、親父"

 

水と一対一で半分に割って、彼はシャンベルタンを楽しげに味わった。

テストの採点を終え、シャンベルタンを味わい、そして、満足げにアリウス第五次復興計画概算案のフォルダーを見る。

全てが動いている、報告書を見て、記憶し、動き全てを組み立て、立案し、概案を示して進行する。

これほど楽しいことは早々無い、男児たる者一度は味わい、感じるべきだ。

やはり幸福とは、その人間の希望と才能にかなった仕事のある状態だと確信する。

 

 

 

 

 

そうして、アリウスにとって本当の意味での戦後が始まった。

後々の時代において「騒乱期」と呼ばれ、シャーレによる政治統制の時代は自治権の段階的返還が開始され、「復興期」へと移る事になった。

無論、連邦生徒会の無能力などを警戒するアリウスの住民感情も大きくこの先関わることになる。

実際問題、資材援助などによる"間接的に管制と統制"する方策はされていたし、シャーレにしてもアリウス自治警察予備隊の訓練や運用システムに関与していた。

すなわち、政軍共に、アリウスは一応連邦による管制を受けている訳ではあった。

が、それも長く無いことはある意味、明白だった。

 

【スバル・レポート】

 

そう大人しい名前で印字された計画書は既に書かれていたからだ。

それはアリウスの自治警察予備隊の将来的改組案であり、運用システムの未来的な自立であり、すなわち政軍共に管制から自立に至る際に「強行案から穏健案まで」しっかり書かれたものだった。

ただ、誰もが想像していなかった事態が発生した。

それはたまたまシスター・ヒナタが復興手伝い中に掘り出したカタコンベのコントロールだった。

 

この世は真面目な信念と思想だけで回っていない、実のところ無関係な善意の第三者が時代を動かす事もまあしばしばある。

 

アリウスは、これにより物流網のハブ拠点としてハイランダーや高速道路網の発達が開始されることとなった。

「復興騒乱期」、人々は熱心に大地を緑化し、荒野を開拓し、廃墟を作り直し始めた。

結局のところ、誰の想像からも外れて、アリウスはある意味で真の自立を始め出したのである。

まあ最も、シスター・ヒナタは何で自分がそんな事になったか、全く分からなかったのだが……。

結局のところ宝物を見つけるのは、特に関係の無い無欲な奴と言う寓話の通りだったと言うことである。

 

 

トリニティは復興支援に関して、そして政治動乱期に際しての反応はある種簡単なものだった。

茶会というこじれ切った旧体制の穏健的な安楽死、そう呼称するのが一番正しい手段が行われた。

すなわち、民部の会議が始まり、猟官制だけでなく、資格任用による学園運用も開始される。

無論この世は楽園ではない、当然ながら色々なトラブルも出た。

だが、少なくとも良くなってきていると思う。

人々は一部の政治業者などに委ねっぱなしにすると、復興資金を中抜き横領するレベルでバカがのさばる事がハッキリとしたのだから。

因みにキッチリと余罪追求と矯正局送りになった、中抜きと横領の時点でギルティだったが虚偽報告までしたのでスリーアウト、バッター人生アウト!だった、三振ストライクは誰も庇いきれないし、流石に庇われない、困窮する人間から奪いましたは人間として大事な物を自分から棄ててる様なものである。

 

 

連邦生徒会にとって、これは複雑な味と側面があった。

間違いなく復興支援をしてみせたのは連邦であったが、連邦捜査部にその実権を握られていたのも事実で、その原因は自分が言い出しっぺのくせに逃げたからだった。

結果としては……シャーレは拡大し、アリウスは事実上の管制下で、政治情勢は更にややこしくなった。

結局のところ、誰もが手に負えなくなっていた。

教訓があるとするならば、「仕事をするのは何故やらなかったか言い訳するよりは簡単なことである」と言うことだ。

ただ苦いだけでは無かった、アツコはカタコンベに関して「連邦交通室」の関与を認め、管制権の立ち入りを許可した。

これは即ち「カタコンベの功績と実績に関して交通室に一枚噛ませる」事であり、連邦生徒会にも花を持たせたのである、将来の禍根で恨みを買うより同罪を背負わせて口をつぐませる方が簡単だ。

それに大きな効果もあった。

交通と流通の活発化が急速な物資の移動を呼び起こし、財布の紐は緩み、経済的に好調となった。

漸くのDU地域の復興安定化やアビドスやレッドウィンターや山海経、百鬼夜行の交通を活発化させ、複数の学園に良い影響を与えたのである。

民衆が生活に苦慮してない間は政治にあまり関心は生まれない、従い、連邦生徒会は会長失踪後の混乱から目を背けさせる事ができた。

パンとサーカスはいつも民心を宥める。

 

「初めて来たときは日が差さなかった、ここでも最近は晴れが続くな」

 

何て柄にもない事を思って居たら、見慣れた連中がこちらに来る。

スズが戦勝報告を持ってくるように走り、サオリが少し恥ずかし気に追いかけ微笑ましそうに後続が来る。

なんだなんだとスズの持ってきた書類を見る。

 

「先生!サオリが満点取った!!先生の意地の悪い仕込み問題まで解いてた!」

「知ってるよ!後な、意地が悪いんじゃなくてな、頭の良い怠け者への薬兼わからせ棒だよ!」

 

一夜漬けで通じると思ってる連中への落とし穴、ノートとかしっかりとってる奴へのご褒美、こっちもそんな問題作るのは苦労したんだ。

それくらい無いと面白くなかろうが、ついでに言えば見知った顔と名前の点数は覚えているぞ

帽子を外して頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

 

「ミサキ国語がよろしく無かったがどうしてだ?」

「著者の伝えたい事を察しろとか言われても、必要なの?」

「そいつが何を求めてるか、報告書を読むときに使うんだなコレが。

 訓令戦術や委託戦術だと欠かせないんだよな、こういうの……」

「むぅ……」

 

やや拗ねたようなミサキの言葉に微笑みながら、それはそれとして点が取れてない理由は考えられないというより、考えすぎだろう。

ミサキの優しさというか、そうした点で考えすぎるタイプかな……。

ミカやイロハはやはりというか90点近くを確保していた、ユウカがギリギリ文系問題で点を下げたため89点、キキョウが86点ほどである。

前提となる授業、つまり俺の奴をあんまり聞いてないのでこれだけ取れるなら十二分である。

 

「そういや預かりがあるんだよ」

 

「わたしより点数良いのかよ……」と涙を浮かべるスズを脇へずらす。

 

「サオリとスバルの連携を見てマギが喜んでいたよ、大分昔の頃ヤバかったんだな」

「ああ、あの頃の天然系クソ真面目の堅物のサオリですか……」

「やっぱお前から見てもそんなに酷かったのか?」

「いやもうずいぶん……」

 

スバルの匙を投げたような顔と、サオリの「恥ずかしいから秘密で」と言う顔を笑いながら頷く。

誰しもそう言う事があるものだ、ふと空を見上げると鳥が一羽飛んでいた。

 

「この空の続く下は俺の行きたい場所や会いたい奴も居るのかねぇ」

 

でも良いか、今、俺は寂しくない。

 

 

 

 

ロココ様式の空間では、アリウスの事態が解決したのを見てそれなりの満足感と、試験問題と言う新しい玩具の到来が話題を産んでいた。

答案が完成したので採点も終わった訳である。

 

「ガッデム!!」

 

アヤメがキレていた。

ケイに負けるなら当然としても、先輩より赤が3つ少ないは(百花繚乱)では自慢にならない。

流石に好きでなった訳じゃない委員長とはいえ、自分自身のプライドがある。

 

「君がこうなるとはねぇ……軽挙妄動の代償とすれば安上がりかなぁ?」

「行動に対する責任の一つでしょう」

「そりゃ、頭が良くてもほぼ半年以上あんなことしてればなー」

 

自称警察大臣が帰ってきて、タイユランたちと話す。

 

”つっ次があるから……”

「目が覚めてからやらされずに済んで良かったじゃないか」

 

タイユランが杖の上に乗せた両手の上に顎を乗せながら、ため息を付く。

逆に先輩が「今までで一番いい成績だぁ!ありがとう!」ときゃっきゃっと歓喜している。

 

「貴女を上手く教えれないと王女に分かりやすく教える事は出来なさそうですからね」

 

下を見ると「惜しかったねアリスちゃん」などと言ってるゲーム開発部や、「アヤメなら満点だったよ、早く目が覚めると良いね」などと言ってるナグサなどが見える。

アヤメが何処か恨めし気な顔で「怪異やミネシスを超える闇の力が今だけは欲しい……」と呟いている。

 

「安易に便利な力に流れるのも世の常かね」

「人は懲りないよなぁ」

「なぁー」

 

むきーっと憤懣やる方なしと抗議するアヤメを無視して話すタイユランと、自称警察大臣に呆れかえりながらケイは「懲りないからこそ進むこともありますがね」とも呟いた。

人は乗り越える生き物だ、諦めず進み続ける事で別の道へ進むことができる。

それが愚行の繰り返しとなるか、ならぬかはこれから次第でしかない。

無論そうならない保証もないが、そうなる保証もないのだ。

ケイは少しばかり安堵した顔で、下を見た。

手慣れた動作でアリウス生徒が青薔薇の描かれたアリウスの校旗を掲揚する。

周囲ではシャーレ軍楽小隊がアリウス校歌の演奏を始める。

 

「校歌斉唱ォ」

 

緩やかに掲揚され、風にはためく。

青いバラの中の星が五つ、青と白と赤に書かれている。

正式な”新政権”の成立、晴れて社会に一つの学園として復帰したことを意味するのだ。

それは恐らく苦難の多い道である、一筋縄にはいかない、だが「それでも」と人民の願いさえあれば其処へと辿り着く事は可能なのだ。

 

「生徒会長、及び先生へ、頭ァーみぎぃ!」

 

校歌斉唱が終わり、最後にアツコへ正式な書面を渡す。

 

「ともあれ、これからはお前なりに好きにやってみてみろ。

 案外うまくやるかもな」

「うん。ともあれ、これからは一つの学園だからね。」

 

まあとはいえ、慣れない事はあるし、アツコは、アリウスはこれからもいくらか誰かの手を借りるのだろう。

それも悪くあるまい、過ちは直面して振り返って反省されない場合過ちとされる。

これからの時代を作るのは若い力だ、旧態依然の老いた巨人でもないし、絡まり過ぎた密室議会でもない。

動けなくなった連中が幾ら図体がでかかろうと、石を以て容易くひっくり返せるのなら、誰が力を疑うものか。

それくらいでなければ張り合いが無いだろう。

最後に式典の演説を頼まれたので、軽く訓示を述べる。

 

「私にとって、宗教とは受肉などに語られる神秘ではなく、社会秩序の神秘だった。

それは神の名の下の平等と言う概念で理念を結び、富める者が貧しき者に殺されないように守り、逆もしかりだった。

宗教とは社会の予防接種やワクチンであり、神秘への愛を満たし、偽医者や詐欺師から守るように出来ていた、時に優れた司祭は夢想家より優秀だった。

そうした中で、かつてあったように神の名を私のままにして、いたずらに暴虐する者もあらわれたが、最後は自己が弄んだ宗教によりとどめを刺された。

これから導き出される事はある、人々を最後に突き動かすのは人々の意思である、それを止める手段はない、あらゆる古今の試みは意思に飲み込まれた。

諸君らの求めた自由を、こうして今ここに在る事を小官はJ.Ù.N.P.FORTH(アリウス停戦監視任務)参加諸部隊の全員と、協力してくれた全員に感謝する。

残念ながら諸君ら全員を抱擁する時間がない為、代表として、この学園の未来へ思いを込めて、校旗にキスを送る。」

 

静かに校旗へ口づけし、三角帽を被る。

 

「おめでとう諸君、そしてようこそ諸君。

 まだ見ぬ青春(ブルーアーカイブ)が待っているぞ」

 

急速な復興はどうなるのか、そうした不安はあるが、もはやスバルもマイアも不安だけではなかった。

なに、今度は自分たちだけで上手くやって見せるさ。

なるようになる、諦めなければ。

 

【オラトリオ fin】

 

 

 

*1
史実で作戦指揮しながらこうやって飯を食ってたそうである。

*2
軍自身がそうした代償行動を認めないと軍規が崩壊する

*3
引用「人が動物が話すには?」

*4
史実のナポレオンは夜勤開始時にそうした




三つのことを決して忘れるな――部隊を結束させ、常に活動的であり、兵士の死を覚悟せよ。
この三つの大原則こそが、我が全ての作戦において勝利をもたらした。
死など取るに足らぬ。
だが敗北と不名誉のうちに生きることは、日々死んでいるに等しい。
──1804年12月12日、ナポレオンの陸海指揮官への手紙──
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