キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
D.U.の静かな雰囲気が漂う喫茶店に、1人のオートマタが入る。
店内は高級店である事もあり、客席の大半は渋い顔をしながらクロスワードを解いていたり、新聞を広げて自身の問題にだけ注意を払ってる。
生徒の姿も見るが、大半はスーツ姿で、ミレニアムのジャケットを羽織った生徒が色合い的にやや目立っていたが、その生徒は黙々とノートPCを開いている。
入ってきたオートマタは、ロングコートの似合う立ち姿で、店内の少し奥を見た。
最奥の席で、小説を読みながら1人座っている生徒がいる。
「失礼。待たせたね」
「大丈夫よ、殆ど待ってない」
生徒は連邦生徒会の礼服を着用しており、物静かな顔をしていた。
その生徒の事をオートマタは知っていた、連邦生徒会防衛室事務次官、つまり幹部の1人である。
黒髪を丸く束ねた姿はタイピストとしては極々自然な姿であり、実際勤務態度も優秀である。
最も、1年ほど前に歓楽街である生徒との"ひどく個人的で私的な会合"を当時カイザーのSOF隊員だったスオウに抑えられ、中央の情報を流している。
こうしたトラップの貼り方に関して、汚い手管の使い方は老獪で執念深いものだった。
「それがアセットかい」
「えぇ」
生徒は頷いて、USBをそっと渡した。
カイザーの情報工作員は、無言でアタッシュケースを机の下に置く。
防衛室のタイピストである彼女は、当然だが防衛室長がアセットであることを知らない、対照実験群であるからだ。
AとBを用意して、二つとも同じことを言うならそれは嘘では無いと言うことである、ガセネタを流す奴や誤解から流す奴もいるのだ、情報精査は難しい。
生徒は「では、失礼」と言い、カイザーの情報工作員は店員へケーキを一つ頼んだ。
入ってすぐ出ても目立つ以上、別れて出るのである。
「それじゃ」
「あぁ」
店を出て、タイピストは無言で近くの駅へ向かう。
待合室では、黙々とクロスワードを解いている生徒がいた。
「ご苦労様」
「用件は済んだよ」
「確認してる。記録はデリートされた」
生徒はそういうと、生徒手帳を渡した。
「新しい身分です」
「はぁ、事務次官の椅子もこれでおさらばか」
「企業の犬よか楽しいですよ、百鬼夜行もね」
汚点と過去の記録を削除するのと引き換えに、シャーレに情報を流した彼女は司法取引で証人保護された。
その事実は彼女には深く重くのしかかったが、それも悪くないだろうと考えを改める事にした。
静かな場所で誰かとゆっくり過ごすのは悪いことでは無いのだ。
アビドスに近いゲヘナの砂漠地帯に、装甲車の車列が走る。
灯火管制はされているが、熱源で夜間でもかなりクッキリと見えている。
走る装甲車の車列はM113やハンヴィーを中心としており、概ね車両化された歩兵が2ないし3個小隊だと推察できた。
暗視装置付き双眼鏡でそれを認識したカイザーSOFの隊員らは、すぐにハンドサインで指示を出す。
オートマタではあるが電波管制無しの特殊部隊など法執行部隊だけである。
『ATGMスタンバイ』
直ちにメティス-Mが構えられ、自動擲弾銃が狙いを定める。
概ね火力計画自体に狂いも逸脱もなく、予定地点まで待って一斉射撃するのが計画だ。
ヴァルキューレ公安局とシャーレの部隊が荒漠地帯の旧SRT駐屯地を監査すると言うリークされた情報に基づき、機材や関与を確認されては困る勢力が居る、だからこうして作戦を行い、時間を稼いで別の点で逃げ道を作る。
良くあるプロセスの一つだ。
『撃て』
キルポイントに入った敵へ、一斉に爆発が襲う。
さほどの時間もかからず、外した弾も殆どなく、車列の大半は炎上している。
『撃ち方止め。ボディカウントして情報を確認する』
サッと片腕を動かしたSOFの隊長が、2個分隊に前進を命じた。
敵がどの部隊、どう言う意図で前進してきたか、資料から判ることは多い。
極論言えば実戦部隊の装備などからでもどう言う情報で装備を選定してたかなどで分かるケースもあるし、私的情報が無くてもそれはそれである。
特殊部隊の奇襲とはあっという間に終わるものだ、数分あれば数百人程度簡単に殲滅出来てしまう。*1
だがいきなりの静寂を破って、爆発がSOF隊員らに襲いかかった。
奇襲は全て待機していたMANPADS隊員らと、メティス-M陣地を吹き飛ばす。
『敵襲! 伏せろ!』
隊長が指示し、無線機を背負った隊員が隊長の真横で伏せた。
急いで無線機の受話器を握って、隊長が叫ぶ。
『HQ! HQ! こちらタスクフォース・シルバーバヨネット! 敵の奇襲を受けている! 遠距離攻撃だ!』
その直後に、飛んできたM230 30mm機関砲の直撃を喰らって無線機が粉砕される。
周囲を瞬く間に蹂躙したUH-60DAPは、旋回しながら周囲を確認していく。
一機のUH-60からG11とHK416を装備した
周囲を旋回しているUH-60DAP三機が、フレアを展開して周辺を照らし出すがもはや動いている人影を見かけない。
「おいおい全滅だよ」
そう呆れたような声を上げるのは、空中指揮所たるスーパースタリオンの機内から映像を見ているマコトだ。
ゲヘナの自治区である以上、スジを通しておかねばならない。
連邦生徒会会長の直轄でも自治権や自治区へ無分別に手を突っ込んでは大問題で、そういうカードを切るのはここ1番に抑えねばならない。
そしてこう言う政治的案件はヒナが関わるべきではない事である、何故か? 軍人が政治に関わると碌な事にならない、風紀委員会にそんな権限無いからだ。
エデン条約もヒナの強引なゴリ押しと噂がされたが、マコトからすれば「今日日学園間紛争を真面目にやりたい馬鹿いるかよ」と最初から無意味な話と考えてたから何も言わなかっただけである。
『全員動かないでくださいね』
上空を旋回している雨雲号無人機仕様が空中から威圧した。
要するにアビドスとゲヘナのお互いによるショー、戦力プレゼンスの実演会が公然目的と言える、ゲヘナはパンデモニウムがちゃんと風紀委員会とは比類ならない戦力を有しているし、アビドスは空中機動力の高さという強大な打撃力を提示した。
こうしてお互い油断ならないねとして満足満足という事だ、真の友誼とは実力の伯仲を要求する。
「そりゃ何もさせないためにわざわざ無人車両使って吹っ飛ばさせたんだからな」
先生がボソリと呟いた、アロナに接続したラジコン操作の装甲車、用廃の再生品を突っ込ませて随分それらしく振舞って見せたものだ。
どうもアビドス以来あるもので創意工夫するのもウチの個性らしい。
まあ大した金額も掛かってないし、これで相手の特殊部隊を潰せたのなら億くらい普通にかけてもいい、楽に勝てるとはそれだけ価値がある。
「それじゃ、ま。こっちもぼちぼちとやるか」
「何の話だ?」
マコトが首を傾げた。
「デートの話さ」
「はぁ?」
イタズラっぽく笑う先生に、マコトは本気で理解できなさげに困惑した。
カイザーのアビドス駐屯地、地下作戦指揮所では「しくじったな」というジェネラルの声が静かに響いた。
オペレーターが「シエラ4-1? 聞こえるか?」と呼び掛けているが、ジェネラルは「無駄だ、連中完全に制圧したよ」と指示を出す。
静止軌道の光学衛星が15分前の画像を映し出している、ヘリから歩兵が展開して確認作業をしているのが見えた、完全に手遅れだ。
それよりも問題はシャーレが狙っているものである。
恐らく狙ってる物に関しての資料は真実なのだろうと、ジェネラルには感じられた、真実味を感じる嘘をつくには一点以外は嘘を入れない事である。
「やむを得ん。彼らを出そう」
「ですが彼らは……」
副官のコロネルが静かに耳打ちした。
特殊作戦執行部最上級特殊部隊、オペレーション・ダブルアップなどに活躍した最精鋭の事だと分からない彼ではない。
だが彼ら自体は中央役員会の特殊作戦執行部だ、当然だ、SRTは過去五回にわたる連邦生徒会の意地をかけて報復作戦を行い、暗闘の嵐に"面倒くさがった"プレジデントが、上手く引ける様表向きは引責で左遷したと言う事になっている。
メガコーポと血みどろの暗闘をするだけの人的物的資金的余裕がない連邦生徒会は、断固反対する連邦生徒会会長をリンの「名誉ある和平」案で通し、有耶無耶にした。
無理もなかった、SRTの存在そのものが厄ネタだとするのはそれらしく最もらしい論理的な言い分が感じさせられたし、実際問題それは客観的に見れば事実なのだ。
賢しらな妥協案でなあなあの停戦合意にプレジデントは歓喜して、あとは情報工作員のマンパワーで個々人の「尻の毛まで抜いてしまえるくらいに揃えてこい」と根掘り葉掘り調べていったのである、自分が清廉潔白だと言える人間はほぼ居ないからこれは良く効いた。
「どのみち、連中に生半可なライフルマンなど送っても意味はなかろうよ」
「……上にはどう言います?」
「事態解決後、俺から言う」
「直ちに」
コロネルは一礼して退室し、通信室の特別回線から出撃を命じた。
数分もしないうちにステルスホークが数機、夜の闇へ飛んでいく。
旧SRTの作戦基地が何故狙われたのか、それ自体は簡単な理由だった。
ヴァルキューレの本館を巡る暗闘の後、隊員のヘルメットカメラとボディーカムから武装構成を特定し、それが調達しやすい場所を機密資料から総浚いして、立入検査や封印措置がされてるか別ルートで洗い出すのである。
具体的にはどうするかと言うと、賄賂から脅迫まで多様かつ柔軟に用いるのである、賄賂用の資金はというと汚職役人や腐敗警官やらが蓄えたものを循環させるわけである、資金洗浄の一手間も要らず大声で抗議出来ない素敵な資金源だ。
これに関しては生徒を先生は関与させず、自分でやっている、無論何人かの目敏い人間は勘づいているが、口にはしない。
「あった、例の特殊部隊が使っていたカスタムだな」
基地施設内の制圧は極めて迅速に済んでいた、何を警備しているかも知らない連中だ。
ちゃんとバレない様に三日前から夜間行軍昼間隠蔽で、歩いて侵入してきていたのは誰にとっても予想外であったから無理もない。
逆探知も流石にできるはずがなかった、サーマルが使える訳ないし、音も人間の歩行音なんか聞こえるわけない、ビナーが爆音を撒き散らしてる影響もある。
サオリが記録に収めるべく、ケースを何枚か写真で撮影する。
旧式のフィルム型カメラだが、偽造できないからこういう方が証拠能力を持ちやすいし、改竄や画像を盗まれたり消される心配も薄い。
ついでに安い。
「SOPMODカスタムのM4、チタン仕様M82バレット、どれも連中が使ってたな」
「記録終わったよ」
ミサキがそう言うと、サオリはアツコに「どれくらいだ」と聞いた。
支援要員と地下施設を埋め立てるべく爆薬を展開しているアツコが、もうすぐ終わると言うと、サオリは頷いた。
信管は遠隔では無く有線式にして、コードを確認して地下階から出る。
しかし、サオリの首筋に何かチリつく感覚がした。
一瞬、歩くのが止まった瞬間に一斉射撃が始まる。
全員が左右へ飛んで遮蔽に飛び込むが、支援要員と信管を運んでいたアツコが背中を撃たれた。
ごとんと信管が落ち、即座にミサキがアツコを引きずって遮蔽へ隠す。
「
「面倒なのが出たな、ミサキ!」
はいはいと、ミサキがM72LAWを受け取り、サオリと合わせて構える。
生半可な交戦は全く無意味なのがSOFだ、それくらいはシャーレ隊員なら誰でも知っている。
双方サイレンサーを装着してないため、屋内通路は銃声が満ち溢れているが、双方装備はしっかりと固めており派手な割に有効打が出ない。
カイザーSOFが採用しているSCARのヘビーや、シャーレの強制執行部隊が運用しているBCM 16インチ自動小銃はどちらも銃声自体は大きいが、イヤーマフや最新の音響センサーを備えた特殊部隊同士では中々制圧やスタンは難しい。
故に火力を叩きつける。
「てぇつ!」
2人がLAWを射撃し、爆発音が広がるがその隙に支援要員がM249を腰だめで制圧射撃しながら前進。
援護に紛れてサオリと体勢を立て直したアツコが逆襲するが、点火器が無い。
カイザーのSOFも馬鹿では無いから二人わざと囮にして点火器を確保、介入の口実たる爆発を起こさせないようにしたのだ。
してやられた、多少の損害覚悟で前進されては困る。
負傷者を引きずって後退させ、即座にSOFは後退機動へ移る。
連中ただのプロじゃないな、サオリ達は唾を呑んで気を引き締めた。
「まずいな、
現状相手が先手を打って来た、という事は相手の予備兵力が想像以上か、裏を読んだかだ、無理をする局面ではない。
サオリは中止を決めた、無理に交戦を継続すると確実にまずい。
後退を始めたサオリ達だが、窓の影から見えた機影に全員が渋い顔をした。
MH-60ステルスホーク、最新型のステルス輸送ヘリコプターで、SRTでも予算がつかない上に、運用の難点が多く採用されなかった。
カイザーもダブルアップ以来特殊戦航空団向けに買ってはいるが、保有数は多くないはずだ、同じ理由で相棒のRAH-66コマンチもほぼ使用されない。
片割れのMH-60が来ているだけでも大騒ぎである。
「面倒なのが来たな」
サオリが静かに独り言ちた。
ステルスホークは当然MANPADS対策がされているし、熱源自体も小さいだろう、かなりマズい。
≪退路を確保、主力後退を掩護する。≫
待機していた支援班が、M240Gで火線を展開して退路確保を始めた。
基本的にこうした事態の為に展開しているのが特務の支援要員だ、過酷と言う点では概ね同じである。
しかし、後退援護中のLMGへ単発射撃が及び始めた。
敵のスナイパーが後退阻止に動いている、恐らく自動小銃持ちも随行して迂回しながら近づいているのだろう。
「アツコは負傷者連れて後退、ヒヨリ援護よろしく、ミサキは上空警戒頼んだ」
現状では自分が援護しに行くのが一番いい、統制の取れた後退の為にはアツコを回す、自己犠牲では無く単純な利害計算式である。
待機していたヒヨリがいつも通り猛ダッシュで陣地転換して、別の火点を据えた。
即座にAPを装填して、敵の射撃の中で狙いが優秀な奴を選ぶ。
数秒以内に見つけて照準したヒヨリは、一拍置いて射撃した。
バリッ! と金属音を轟かせて敵の選抜射手が倒れるが、敵の中に擲弾手がいたらしく即座に大まかな位置へグレネードを飛ばしてきた。
「うわわっ!」
慌ててヒヨリが下がり、側面から銃撃を受ける。
延翼してきた小銃班が、ヒヨリと同じ場所を狙って進んできていたのだ。
不意遭遇ではあったが、双方の射撃スキルが高いせいで互いに掠っていた。
サオリはヒヨリに煙幕手りゅう弾を投擲させ、自身も後退機動へ移る。
無論であるが後退した主力とは今は合流できない、敵が貼ってる火線へどうもこんにちはなんかしたら、間違いなく全滅する。
よって、主力とは別ルートで作戦地域を離脱するのがベターとせざるを得ない。
地下作戦指揮所ではジェネラルが静かに安どのため息をついていた、取り敢えず、今は勝ってる。
だが気がかりは二手に分かれている事だ、追撃は許したが、少数の方に注力している。
とはいえ、まだチェス盤では大きな動きはない。
追撃中のチーム4とチーム5は精鋭だし、奴らがプロならやる事は読める。
チーム6は展開想定地域で先んじて待機中だ。
ジェネラルに静かにコロネルが耳打ちした。
「シャーレの連中は静かですがゲヘナの無線交信が急に増えました」
「幹線道路に遅滞要員置いておけ」
「はい」
ジェネラルはゲヘナ風紀委員会の事を脅威と見るのは些かややこしく見過ぎているという感情があった。
結局のところあれはヒナを抜いたら何者でもない連中だ、ヒナが出ても別にそれは解決しないし、一々ヒナが出張る必要があるなら組織の問題である。
そしてそういう点で一番脅威視してるのがシャーレなのだ、単純に平均レベルが高い機動部隊の集合体だから嫌なのだ、しかも指揮官は右へ左へうろつくからランダムエンカウントする、クソゲーどころじゃない。
まだシャーレが静か、という事はアイツは何か企んでいる。
だから企んでるうちに終わらせたい、実行される前に。
「遅滞で数件破壊に温泉開発部をけしかけておけ」
「はい」
さぁて、これで現地勢力の手は少しはばらける。
ゲヘナ自治区のブラックマーケットを縫うように走るサオリ達数名の影は、ほぼ無人の朝ぼらけであるのもあって人に見られていない。
だが、サオリらの展開しようとした通りに長い車体の特徴がある装甲車が出て来た。
OtokarのArma6輪装甲車だ、デジタル迷彩がされた車体の上に、ÜÇOK無人砲塔システムが搭載されている。
パンパンパンと音を立てて、40㎜擲弾が射撃され、サオリ達は慌てて横の建物へ飛び込む。
流石に40㎜擲弾銃付き装甲車は大半の生身で勝てるラインを越えている、勝っても割に合わない時間とそれ以外のロスも起こり得る、追撃されてる以上足が鈍るのは論外だ。
自動擲弾銃が射撃しているのを聞きながら、無線兵を随行させたSOFの隊長が状況を確認し始める。
心なしか、彼の口調にはワクワクとした声を感じさせる。
「来たな、シャーレの特殊部隊だ。規模は!」
「およそ6名、現在施設を経由して迂回突破を図ってます」
「突破は阻止しろ! 施設内戦闘は避けて封じ込めるんだよ」
全く以て正しい判断だった、無理に突入せず追撃部隊が到着するまで封じ込めてから突入する気なのだ。
以前サンクトゥムタワーにテルミット手りゅう弾をぶち込んだのは彼だが、あの頃から敵は侮らない主義で通している。
お陰で未だにこのチームを指揮している。
無論幾つか欲はある、出来れば捕虜が欲しい、背後関係は? この作戦の規模は? そうした資料が何一つ出てこないのだ。
お陰で必死にシャーレに監視して必死に資料探しているのだが、連中賄賂が通じないし資料請求しても開示をしやがらない。
なにせ所属人員資料すら連邦生徒会に「あ、会長の許可が必要でして」だけでしらばっくれてやがる、お陰でAH-64なんか保有してしまった。
一際大きい爆発音がした。
「なんだ」
「装甲車が1両大破、ランチャーです」
「くそっ、重火器がまだあったか」
普通は退却時に捨てるケースが多い、些か物持ちが良いかお行儀が良いか、或いは頭が回るのか。
まあいい、狩りの主役はお前だ、犬なりに仕事しなければ主人が怒るんだ。
この隊長は、スリルと危険と波乱を保証するという会長のリクルートを受けた過去があった。
サオリは敵装甲車の爆発で2か3体巻き添えを受けて吹き飛んだのを見て、よしと深い安堵感を得た。
かなりそれらしくうまく刺さったじゃないか、ミサキのぶち込んだ無反動砲がクリーンヒットしたのは僥倖である。
僥倖、僥倖か。
あの自分が馬鹿げた事を浮かべる物だ、そうサオリは馬鹿馬鹿しくなって笑った。
「スモーク!」
そう言って煙幕を手りゅう弾で展張させ、軽く射撃を加える。
予想通り、敵が予備兵力を動かしだした気配がした。
意地でも逃がさないという意思をはっきりと感じている、なんとも叶わぬ恋慕の様な熱い想いだコト。
すぐに思考が切り替わり、敵が狙ってるのは此処から出さない事だと確信を持つ。
ならどうするべきか、目立たず逃げるしかない、問題は相手は逃がさないつもり。
自分が敵ならどうするか、恐らく周囲の建物には監視の配置はしない、ドローンが居るだけで足りる、直ぐに移動できない地点に置いたらそれは遊兵だ。
したがい、四隅に配置して広く囲む方針だろう。
そしていま敵装甲車を破壊した我々が”もっともプロとして選びそうなのは一転突破”!
「だから潜るぞ」
カイザー側に誤断があったとすれば、全軍データリンクの実現でアロナとコネクトしているシャーレ隊員は公然地図と資料検索機能が使えるという点だった。
全ての隊員のボディーカムやPDAがアロナ、つまり先生とリンクしているのである。
ふざけた性能であると言わざるを得ない、なにせ一人だけFPSの様に丸分かりなのだ。
無論直ぐに相手も勘づく、馬鹿ばかりならとっくに追い出せてるし、極論アビドスが乗っ取られかけてないのだ。
恥も外聞もなく暗渠を全力ダッシュしてるのは、やはり当然すぐにバレる。
が、何処に出たか分からない。
なにせカイザーもデータリンクはちゃんとしてるが、C4ISRで暴論暴挙の域のアロナに勝てるわけはないのだ。
報告を聞いてSOFの隊長は思わず高笑いした。
「暗渠走って逃げてるだァ!?」
「はい。音源探知で複数方向へ移動音が響いています」
「夜逃げや怪盗じゃあるまいに……」
恥も外聞も無いのかと笑う気は彼は無かった、痛快で愉快でなんとも素敵じゃないか、勝つためには何でもする、気に入るしかない。
そしてそれ故に彼は即座に追撃を命じる、偽装音源を撒くのは気付くと予見してるから、さあ神経衰弱と鬼ごっこだ!
偽装音源含めて移動先は5か所、ゲヘナ中央駅方面、ゲヘナ第二校舎方面、まずこの二つは除外、外野を巻き込む、あいつらはプロフェッショナルだ。
ではアビドス砂漠方面? 恐らく違う、多分釣られて来たところを別部隊で待ち伏せる腹だ、行ったらピンク髪の散弾銃がお出迎えとかそう言うサプライズだな。
残る二つ、DUへの鉄道貨物線近くと、何もないゲヘナ廃墟地域。
「……廃墟地域だ!」
「理由はあるんです?」
無線兵がにやりと尋ねた。
「”俺が奴なら鉄道を巻き込むリスクを嫌がる”」
それだけで全員が納得した。
サオリはやはり振り切れなんだか! と悪態はついたが、スリリングな追撃戦には中々高揚していた。
だが確信は持っていた、どっちみちこれで終わりだ。
無論この徹夜で行われた追撃戦には飽き飽きとはしている。
もっともそんな贅沢を言ってる状況ではない、なにせ追いついて来たカイザーSOF3個チームが総がかりだ。
LMGの制圧射撃でヒヨリが撃つ暇もない。
「ランチャーは?」
「尽きた!」
ミサキが切羽詰まった声でそう返した。
装甲車潰したのは正解だったな、とサオリは返事に頷いて返した。
火力が無い軽歩兵は揉み潰されると確定で終わる。
この場合相手は自動車化歩兵であるが、装甲車は弾を弾くだけで脅威なのだ、少し昔じゃ
「西! 敵歩兵! 突撃に移った!」
ヒヨリが護身用に持っているMP9を取り出す。
アンダーバレルグレネードランチャーで制圧して、カイザーのSOFチーム6が施設内突入へ移る。
始まるのが原始人の石投げと同じ手りゅう弾の投げ合いだ、どっちみち民間人が居ないなら建物ごとが一番いいのだ。
「あいつら手強いね」
「そりゃ秘蔵っ子だもんな」
サオリがミサキへベオウルフで支援しながら呟いた。
制圧射撃とブラインドファイア、手りゅう弾の大量投擲は傍から見れば美しくない。
だが所詮CQBやCQC、タクティカルなどはファンタジーの親戚だ、敵がいるならバンバン吹っ飛ばした方が一番確実だ。
施設内に突入したカイザーSOFはあちこちを爆破しながら、LMGで制圧しつつじりじりと前進している。
プロフェッショナル特有の手堅いやり方だ。
「いやな手で来る」
「そりゃ勝ちたいからそうだと思いますけど」
ヒヨリがサオリにそう返し、時計を確認する。
時間だ。
施設内戦闘であるが、SOFの隊長は敵がしぶとい事に深い充足感を得ていた。
「連中しぶとい」
「そりゃあ、アリウスですし」
応射が未だになされているが、規模が少しずつ弱ってきた。
出来れば投降をそろそろ誘いたいが、美人にゃアプローチもタイミングだ。
急いて性急な男と笑われては男としてちょいと見栄えが良くない、大人は紳士にタイミングよく行かねばならない。
「グレネードランチャーの予備弾、箱もう一個あるか」
「難しいですね、装甲車に積んでた奴が燃えましたから」
無線兵の返事にやれやれと思いながら、こちらの手持ちが寂しいのはいかんともしがたいと顔を渋くさせた。
デートに散財し過ぎた、長く楽しい夜もあっという間で朝日に照らし出された自身の姿は素寒貧。
そう考えるとなんとも馬鹿らしい気がするがそれが仕事だ、まあこういう瞬間だけ人は心の底から反戦家になるのは古今変わらない。
その様に考えながら、LMGガンナーを戻して突入準備を計画し始める。
だがその最中に、ジェネラルが一報を入れた。
≪全部隊へ、作戦中止。後退機動へ移れ。≫
「了解、あと20分あれば揉み潰せそうですが」
≪残念だが今日じゃない、シャーレが君たちを包囲する機動を見せている。≫
「あー……了解」
時間をかけ過ぎたな、彼はそう確信した。
ジェネラルの後退の判断は出来得る限り迅速であった。
敵は安易な追撃部隊支援では無く、むしろ釣りだして包囲を企図していたのだ。
そしてこれを妨害する駒とカードは、いまジェネラルの手には無い。
ならばやるべき事は? スズ戦闘団の空中機動部隊が展開して退路が絶たれる前にSOFを後退させることだ。
「くそっ、あいつ正気か。自身の精鋭をエサにしたのかよ」
ジェネラルの憤慨自体はかなり正当ではあったが、生憎彼は残念ながらやや正気の向こうへ半身浴している。
そして、ジェネラルの内心でもこの行動は理解と納得が出来た、かなり割が良い取引ではあるのだ。
なにせ成功させてしまえばたとえ捕虜になってもすぐ奪回出来る、というか取引材料としてバーターするしかないから何も出来ない。
だからと言ってマジでやるのか、とは思う。
「……最初から罠だったんでしょうか」
副官のコロネルが呟く。
「いや、恐らく偶発的な状況だ。……だからってよくやるよ」
詰め切れなかったな、とジェネラルは深く息を吐いて、帽子を脱いだ。
翌朝、ゲヘナの本校舎で先生が呟いた。
「いやはや、ちょいと派手になったが活動を許してくれて助かる」
マコト、そしてヒナとアコはぬけぬけと言うよなぁと呆れた顔をした。
ポーカーをしながらでも軽く話そう、それがきっかけだった。
使っているのはシャーレの製作したトランプカードだ、関係組織や犯罪者が分かりやすく覚えれるよう製作されている。
「で、何処までが筋書きだったの」
「夜が明けるまでは実際は俺の手からやや離れていた、敵がどう動くかと、回収計画の方が懸念事項だからな」
先生は笑いながらそう言うが、三人は全員「信じらんねえ」とじとっとした眼をしている。
そんなに驚く事でも無かろうに、とは思いながらカードを見る。
思わず笑いが出た。
「まあ、世の中には良くあるんだよ」
そういって提示した先生のカードは五枚。
端から10のカイザー理事、JのカイザーSOF、クイーンのカイザーPMSC、キングのカイザープレジデント、そしてエースのジェネラルが描かれている。
ロイヤルストレートフラッシュだ。
「やっぱいかさまですよこれ」
「珍しく貴女の言い分がもっともらしく聞こえるわアコ」
「本当にな」
「運はあんまり味方しないんだがな俺」
運が味方ならもうちょい勝てた筈だ、まあ運が敵でもやれるだけはやったつもりだが。
ただ、明らかに普通じゃない部隊が出て来た、連中はどうしてそこまで反応したのだ。
別段、過剰反応にしちゃ規模がおかしかったが。
遠くない内に、彼はカイザーの暴挙たるイーグルクローを見て納得することになる。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。