キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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主無きプレゼント

 

 シャーレ本庁舎2階、コンビニ”エンジェル24”は中々忙しい。

 他店舗と違い官公庁の内部と言うのもそうだが、単純に来る客層が幅広いのだ。

 当初はやる事無いときは携帯でも弄れば良いかと考えていたソラだが、そうもいかない状況である。

 まず客が一人目……青線の白ズボンに略帽、警衛隊員ですね。

 

「コーヒー3点と肉まん2点、680円です」

「現金で、袋は良いっスわ」

 

 そのままポケットに突っ込んで走っていく、正門前警衛隊員だなあ。

 続いて来たのは白い制服だけど上着は軽く羽織っただけの人、夜勤明けの幕僚あたりかな。

 

「乾麺1点と烏龍茶で490円になりまーす」

「あー、クーポンで」

「はーい」

 

 仕事明けに乾麵食べて寝る感じかな……。

 続けてきたのは……。

 

「ああイロハさん」

「やっほー」

「あれ、今日はイブキちゃんも」

 

 もふっ! と厚手の仕立ての良いコートからイブキちゃんが出て来た。

 生地の色合いがパンデモニウム制服とわずかに違う、自費で仕立てた高級生地辺りだろう。

 

「メロンパン2点と緑茶、麦茶で750円になります」

「カードで」

 

 会計を済ませて歩いていった。

 ……子連れのペンギンみたいだった。

 

 

 このコンビニに配属命令が出たのが3月の末ごろ、シャーレが組織として動き始めた時と概ねほぼ同じでした。

 先生は適当にやれと会計のユウカさんに投げ、エンジェル24が選ばれ、適当なバイトを送ればいいかと決まったようです。

 無理もありません、カイザー26はどうも長続きしなさそうなこの組織は気にしなかったですし、私自身適当に何とかなると考えていたわけです。

 

「これが基地内コンビニ? ふーん……」

「コンビニ知らないとかどんな田舎ですか……」

「まぁいい、この書類にサインしてくれるか? 安全保障上の都合だ、すまないね」

 

 渡されたのは数種類の書類で機密漏洩系、その他の商品の取り扱い、その他……緊急時の徴発まで書かれてました。

 これ合法なのかと思いましたが、”第103条2項で第73条の要件を満たした場合可能なのだ”と言われた、何が何か全く分からない、今も分からない。

 一応署名しておきましたが、内心良いのかなと思いつつ勤務し始めていきました。

 その後元SRTの生徒さんなどが増え始めた、お客さんは増えて段々と組織らしくなりました。

 まあ概ねそんなもの、と考えていたらにわかに慌ただしくなり始めました。

 

「出動ですか?」

「らしい、物資支援らしいよ」

 

 やがて2日経ち、4日経ちと首を傾げていると、また慌ただしくなり出した。

 先生達がアビドスで戦闘を繰り広げてきたと思ったら、しまいにゃテレビの中まで進出してくる始末。

 休憩中にテレビ見てたらクロノスの生中継に映ってんだ先生たちが。

 

「ソラちゃんTV見てみなよ、凄えことになってら!」

「あーあもう……」

≪こちらアビドスカイザーPMSC基地前から中継しています、戦闘は既に開始され≫

 

 画面の中では伏せたカメラマンの視界に、戦闘の最中が映し出されていた。

 ただの戦闘じゃなかった、白布を識別用に左腕と右脚に巻いたヘルメット団や日雇い傭兵が隊員と共に戦っていた。

 燃え盛る廃車の影に前進し『軽機この位置!』と指示し、M1919が三脚をつけたまま運ばれ、集中射撃される。

 カイザーの駐屯地の施設が白煙を舞い上げて掃射を受け、白いシャツを片手にPMCのオートマタや生徒が何人も歩いてくる。

 

『撃ち方止めェーっ! 武装解除しろ』

 

 映画見たいな光景を作り出してるのが、あの時の方々や先生だと思うとスケールの大きさが分からなくなる。

 

≪見えますでしょうか! 現在シャーレは遂に正門を超えて突入を開始しました!≫

 

 銃撃戦の最中を歩き慣れた様に進むのに、帰って来た時先生が最初に言ったのは何だと思います? 

 

「パンとコーヒーある?」

 

 これだ、遅刻しそうな学生のお客さんが買うようなもの買って、TVであの作戦指揮してた大人とは思えませんよね。

 デザートストームの事を聞いても「勝つべくして勝った、君がここでバイトしているのと同じだよ」とかぬかすんだから。

 コンビニバイトと常識を覆す行為が同じって要するに”当たり前”ってことなんですよ。

 しばらくした後エデン条約でも炎上する古聖堂とか、中継見てるだけでも生きてるのか不安になるときも、けろっと生きて帰ってきて。

 

「缶詰になるから、定期的に買いに送るからお使いが来たら宜しく」

 

 そう言ってお金を置いて戻って行くんですから。

 その後アリウスの子たちが、臨時のバイトになってくれたりして大分助かって、その後ここだと廃棄弁当と言うんですけど、本当は仕入れが多いので衛生に引っかからないぐらいで大幅割引してさらに棚に残った物を、商品交換の前に無料配布してるんですよね。

 給料前の人や先生がまとめ買いしていくんですよ。

 まあ、其処までなら他人事。

 そしたらある日突然にこんなこと言われた。

 

「ここはもうすぐ戦場になります、非戦闘員ですから退去してください」

 

 テッパチにベストに規定の吊れ銃じゃなくて、通常規定じゃ許可されない営内弾倉装填までした警衛隊員がそう告げに来た。

 後ろじゃMICH2000ヘルメットにCAGE Armor Chassis GEN1のベストを着用したサオリさんが見えた。

 内心「初めて戦闘装備のあの人見たなァ」と思いつつ、浮かぶのは店の疑問。

 

「え、じゃあ店は?」

「さァ? 多分残ると思いますけど……いやどうだろ」

「えーっ、生活があるんですよお……」

 

 その後に会計のユウカさんが現れて、んじゃ使用物品記録を手伝ってと言われた。

 こうして徴用されて、臨時会計科一丁上がりとなるわけだ、正規の会計科もいま銃撃戦してるんだから。

 

『状況ガス! 催涙弾だ!』

『着けェー剣! 奴らを通すな!』

 

 段ボール箱運んでたりしてたら常に下からドン! という爆発や、ひっきりなしに銃声が響くし、正直後悔した。

 防爆防弾シャッター降ろしてたのに、店舗ぐしゃぐしゃ、なんなら一部燃えて黒焦げ。

 ひょっこり帰ってきた先生が意外げな顔してみていた。

 

「なぜ逃げなかった? 退去勧告もしておいたはずだろ」

「これが仕事です、そのまあ、持ち場ですし」

「交代も何もないが、何が君をそうさせる?」

「一応欲しい物があるので……」

「そうか、頑張れよ、気を付けてな」

 

 後日善行章と金一封くれてびっくりしました。

 弾道弾で狙われたり、上層階が吹き飛んだりしましたが、年末が見えて来ました、クリスマスなどで皆さん予約が多いんですよね。

 

「どいつもこいつも浮かれきりやがって、クリスマスは家族と静かに過ごすもんだろ」

「そこらへん先生は保守派(コンサバ)なんですね……先生は何も買いませんか?」

 

 こっちは売り時なんだから売り上げが下がりそうな事言われても困る。

 まああの時以来、少なくとも敬意を払われるようになった。

 

「そういう時に限って臨時の仕事だ、予約余りで何かあったらよろしくな」

 

 そんな、私のある日の、お話。

 

「はい、今月の”アリウスに生きる”よろしくね」

「”週刊万魔殿”とりあえず持って来ました」

「家は特に何も無いかな?」

「陰陽部の変な物ならあるけど?」

 

 今週も大忙しだ、マガジンだか雑誌だかで派遣参謀たちのあれこれが聞こえる。

 中学生なのに関わる人間の面子がだいたい不相応に高い気がする。

 普通は会う事も無く過ごすはずだ、パテルのレガタスにしても、パンデモの高官も、百花繚乱作戦参謀も、ましてアリウスの姫も。

 だいたい何かがおかしいのだ、どう考えてもこんな人が集まる所じゃ無い筈だ。

 

「よお、コンビニ24で酒の取り扱いはやっぱり無理そうか? だめ?」

「はあ、本社が許可手続きの申請中としかいいません」

「そっかあ」

 

 些かしょんぼりとして先生は帰っていった。

 先生は大人なのでお酒が飲める、キヴォトスじゃ基本アルコール・薬品は厳重規制対象品だ。

 そのためアルコール・タバコ取り締まり部局がヴァルキューレの公安局の仕事の範疇なんだ、と前にスズさんが言っていた、元公安だそうだ。

 シャンベルタンなんていう名前の奴が欲しいらしい、どういうものかは良く分からない。

 なんでも好きなお酒らしい。

 その後も客はまた次々と来る、保安講習に来たマーセナリーとか、現場作業における解体手順の説明に来たミノリ部長とか、連絡で来たアユムさんとか。

 

「やっほ、手伝いに来たよ」

「あれ、今日はアツコさんなんですか」

「ヒヨリは今日はトリニティ地域で狙撃講習だね」

「あー、だから朝から居ないと」

 

 昼から2時間ほどたまに手伝ってくれる人が来る。

 そこそこの確率でヒヨリさんが来る、そうじゃないときはミサキさんが来る。

 手伝ってくれるのは先生も知っている、荷下ろしなどで大変だろうし、職場体験みたいなものと言われた。

 つまり先輩と言われて内心すごくドキドキした、ワクワクもしている。

 

「あれ」

「どうかしました?」

「あの小さなプレゼントボックス、どこの商品棚のやつ?」

 

 商品が落ちたかと確認をするが、ウチの商品ではない。

 

「落とし物でしょうか?」

「かもね」

 

 アツコさんが軽くポケットから検査機を取り出した。

 少し離れて見守る、レムナントが解体されたとはいえ別口の犯罪者が狙う理由は余りに多い。

 カイザーが「賢そうな妥協の選択」で根負けしただけまだいい方だ。

 

「金属反応は無いし、重量は軽い、保護ケース使うね。あとで上にツケといて」

「はーい」

 

 保護ケースにいれると、気密を確認したのちバケツへ水を張りそこへアツコが沈めた。

 えっと思わず困惑するが、アツコさんは「軽くて金属じゃないなら残るは化学物質だね」と説明してくれた。

 

「良いんでしょうか」

「誰かの落とし物なら謝るだけですむし、現状どこも壊れてない」

「は、はあ……それじゃ落とし物の通知を……」

 

 ソラはやや動きを鈍くした、頭に仮説が浮かぶ。

 プレゼント、先生宛、つまり政治工作な? ……ソラは訝しんだ。

 いやもしかしたら禁断の関係、秘密の陰謀……? 

 

「どしたの?」

「これもしかして誰かの告白とかだったりしませんかね」

「んんん??」

 

 アツコが面白げな顔をした。

 ソラの眼は何か怪しく爛々と輝き、発狂マニアックめいてデコが光る! 

 電子UNIXシーライフや何故かキヴォトスにもあるタマ・リバーとかにも悪影響だ! 

 

「抜け駆け告白……クリスマスにチキンが冷めたりして売り上げにも悪影響な……?」

「クリスマス告白なんかするロマンチストがシャーレ本庁舎に居ると思えない」

「ダマラッシェー! ともかくキヴォトスの安全保障問題、実際有事」

「ん? ん~っ?」

 

 斯くして、ソラのひみつさくせん! は開始された。

 

 

 

 

 翌日、ソラは確かな決意で店頭に立っている。

 店から流れるラジオのToo Many Nightsも耳に入らない、彼女は今発狂マニアックめいた妄想が憑りついている。

 中学生特有の自身を221B Baker Street(名探偵)と思い込む特有の時期である。

 朝も早くから立つソラの脳裏は危険なナマモノ同人探偵である。

 最初に来たのはサオリ、ごくっとソラは唾を呑んだ。

 このプレゼントは恐らく誰かの告白と信じているソラからすると、可能性が高いのは高級官僚・将校だ。

 表向きサオリはCIDG(民間非正規グループ)の将校であるから、想定される条件と合致する。

 ちなみにソラはサオリがスクアッドである事もA分隊の事も知らない。

 

「あ、サオリさん」

「ん? どうかしたか?」

「あの、えーとクリスマスのご予定とか……ありますか」

 

 サオリはしばし考えて、「ああ、降誕節か」と思い出した顔をした。

 カルチャーショックである、そもそも論だがアリウスではシスターフッドよりやや旧態依然な慣習のままだ。

 もっともシスターフッドがユスティナへの反発集団(プロテスタント)であるからしょうがないのだが。

 

「特に何事も無ければ夕の礼拝と公現祭を略式ではあるが体育館でやる予定だ」

「どういうものなんです?」

「正確に言えば24日日没から1月5日まで主の生誕を報せる三人の博士来訪までの期間を祝うんだ」

 

 ソラは純粋に面白いなあと「へえ」と返した。

 

「しかし……どうしてまた?」

「い、いえ、その、サオリさんは美人ですし……誰かと過ごされるのかな、と」

 

 真実だけを脚色して言うのが上手い嘘である、酷い詭弁は天性の才か。

 

「んー、予定通りなら姫はトリニティの方との合同祭だからな、ヒヨリが護衛でそちらに着く。私はこっちで主任司祭代行だからここにいるが」

「なるほど」

 

 ソラは内心でシロか、と安心した。

 続く来訪者はこれまたソラの推定リストの枠にギリギリ収まる白河スズ、確かに高級将校だ。

 しかしながらソラの内心にまさかな、と考えが過る。

 頭の中に浮かぶピンクアーカイブのレポート的に言うなら、こうした枠は有るとも無いとも言い難い。

 ソラの膨大な経験──恋愛ゲーム──では、こうした相棒枠が異性である場合かなり人気が生まれやすい、世の大半のゲームでは下手な攻略対象より人気がある事もしばしばだ。

 

「アイスが1点とシュークリーム2つ、コーヒーが1点ですね」

「ICカードで」

「そ、そう言えばスズさんはクリスマスどうされるんです?」

 

 きょとんとした顔でスズが首を傾げた。

 

「どしたの」

「いえ、ちゃんとその、休めているかなあと……クリスマスですし、何か予定があるとかなら、品も考えなきゃですから」

「あー……」

 

 スズが頷き、そしてしばらく唸りをあげた。

 

「多分勤務かねえ、私もやる事ないしなァ……」

「あ……お疲れ様です」

 

 チキショウと小さく何かへ呟いていたのを、聞かない事くらいソラにも出来た。

 

 午前が終わり午後へ入る。

 シフトが変わり、警備の交代で人がラッシュのように押し寄せた。

 無論大概慣れたものだ、ソラの弁当も終わり、一息休憩となる。

 

「あのー」

 

 声がかかり、びくっと震わせて振り向く。

 いつの間にかラビット小隊の小隊長が居た、ソラは慌ててエプロンを着なおすがミヤコは「あ、会計とかじゃなくてですね」といい、小包を渡す。

 

「なんでしょうか?」

「実は便利屋68の人たちと先ほどミカンをもらいまして、御裾分けに」

「あ、それはどうも」

 

 ミヤコの頬に絆創膏があるのに気付いたソラは「戦闘ですか?」と尋ねる。

 

「ええまあ、既存の犯罪勢力がやられた分半グレ化した連中が出てまして」

「ああ……」

 

 キヴォトスの社会情勢の変化か、とソラも納得して頷いた。

 裏社会でのカイザー・シャーレの不気味な冷戦状況で安定化しつつあるとはいえ、最近は犯罪コンサルタントとかいうこの世の終りみたいな連中が出てきている。

 双方一時的な正規戦争染みた対立を棚上げして内政再編という話だと、クロノスの社会面はラジオで話していた。

 真実か何処まで正しいかはよく知らない、ソラにはまだ分からない。

 

「それと数日、アビドスへ行くので今週は些か申し訳ありませんが受け取れません」

「アビドスですか?」

「奥空さんからちょっとした闇市調査を頼まれまして」

「あー、お疲れ様です」

 

 この人もシロか、ソラはますます誰だ? と首を傾げた。

 聖園ミカなども疑える余地には含めるかもしれないが、作戦参謀のキキョウ含めてあの二人はクリスマス関係なく渡しそうだし、ここに落とすと思えない。

 前者はそもそもそんなに此処に来ない、後者は百鬼夜行にそうした風習は薄い。

 しかしそうなると誰なのだ、ソラの疑問は実態を持った疑念へ姿を変える。

 すると、慌てた様子の警衛隊員とアツコと先生がやってきた。

 

「な、なんです一体」

「ごめんちょっと失礼!」

 

 アツコが警衛隊員とバケツを返し、保護ケースを確認する。

 保護ケースが適切に密封されており、アツコが安心した顔をした。

 

「なんです一体」

 

 レジカウンターの影に隠れたソラが顔を出す。

 

「いやそれが、俺が渡す予定のお前へのクリスマス祝いを勘違いさせたようでな……」

「へ?」

 

 ソラが首を傾げた。

 保護ケースを開け、包を開いてみる。

 かなり新しいモデルのスマートフォンがそこに入っていた。

 

「これは?」

「日頃の貢献に対する客としての労い兼、大人からの見栄っ張り」

 

 見栄っ張りって言っちゃうんだ……。

 ソラはなんとも馬鹿馬鹿しくなり、大きな声で久々に笑った。

 もとより新しい携帯のために始めたバイトだったが、こうして願いが叶うのは予定外だ。

 うん、面白い、人生は何があるか全く予想が出来ないな。

 

 ソラは一風変わったクリスマスプレゼントを、満足気に、愉快気に受け取った。

 

 END

 




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