キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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デカグラマトン編後半はは3月から!


D-ガールズ

 

 現在、連邦捜査部には3種類の人々がいる。

 まず一つが庶務を担当する人々、つまり会計書類を書き、消費される燃料から食料や生理用品まで記録し申請する人々だ。

 二つめは似ているが専門性がより高い人々、法学や医療に優れた技能を持ち、庶務担当に申請をする立場の人々で、心理戦部隊から警務隊──基本的に後述する戦闘要員は恒常的な警察権を有さない──までがこれにあたる。

 三つめはある意味一番目立っている人々、実戦を戦う部隊である。

 この3者は基本的にだがSRTと大して構成が変わってない大別だ、無論SRTである以上はオールライフルマン、即ち自衛戦闘は出来る。

 

 その為、シャーレの仕事は「庶務担当者らが燃料を管理し」「法務担当が根拠を用意し」「戦闘要員は備えよ、そして待て」「先生が全てを動かす」という4段階で動くことである。

 無論順序は場合によりけりとなる、状況は書類より無秩序である。

 そして一度動いた流れは一度動くと誰も止めれない。

 シャーレとは当初小隊指揮官に過ぎない人が、数ヶ月で大隊規模戦隊指揮官へのしあげてしまう程度に「滅茶苦茶」なのだ。

 この組織がなぜ今だ運用されているかと言えば、単に先生個人の極めて強引な統括能力の強烈さと、止めるか支援するべき連邦生徒会の無能力が問題なのである。

 

 だが先生が全知全能じゃない事がある。

 特殊部隊構想についての事だ。

 それも、強制執行部隊A分隊(アリウス)ではなく、なんというか、要人護衛分隊の方なんだ。

 

 

【D-ガールズ】

 

 ベリーショートの茶髪を揺らし、PROTECヘルメットにAN/PVS-7をつけ、バラクラバにHRMベストを着用している自分、というのに随分と馴染んで3年になる。

 ライトを内蔵したハンドガードのMP5、やや汗で湿気たM81アーバンウォーリアー迷彩の戦闘服、全てなんら変わり様も無い。

 久留木シイナ、デルタの、即ち要人護衛分隊の分隊長はそんな事を思った。

 SRTの3年生という彼女は、有り体に言えば思想の無い武器で、それ故に彼女は考課表の毀誉褒貶をなんとか誤魔化せている。

 

「ハナ、レイカ」

 

 薄暗いキルハウスに、T字路の左右に展開した二人の分隊員を見る。

 2人がこちらを見ると、即座にハンドサインをした。

 

 ”こっちで飛び込む、囲んでフクロ”

 

 2人が頷く。

 M1014を構えたショットガンナーのポイントマンである左京ハナと、擲弾筒付きM727を構える白嶺レイカが身構えた。

 閃光手榴弾を取り出し、ピンを抜き、一拍置いて投げる。

 軽やかというより、ぶん投げた小さな缶コーラの空き缶に似て跳ねたそれは、数回目のバウンド中に炸裂した。

 

 ”GO! ”

 

 キンッ! と耳障りな高音の炸裂音、独特の白い閃光が煌めく。

 中腰で構えながらレイカのM727と自身のMP5が、適時射撃しながら前進を始める。

 撃ちながら進むのは特殊部隊らしくないと思うのならそれは素人だ、火力を張りながら前進するのが一番全員が幸せになれる。

 通路には幾つか身を隠せそうな障害物があるが、防弾性はあまり期待できない。

 段ボール箱じゃ拳銃弾も防げない。

 

「ぐえっ」

 

 相手の一人が倒れた。

 すかさず、確認にハナが撃ち込んで動けなくしたのを見て、脅威目標を奥へ見据える。

 横向きへ飛び出す様に相手が出てきて、散弾銃を撃って来た。

 散弾はベストを貫き通すほどじゃなかったが、手と銃器を撃って衝撃力と痛みでMP5を物理法則に従い”持っていった”。

 幾らかの痛みと、主兵装が無くなった事に焦りはしたが、無傷の右腕で即座に拳銃を抜く。

 シンプルなグロックの45口径仕様が構えられ、手で持つのではなく左腕で支えるような拳銃射法で構える。

 

「げっ」

 

 相手はややぎょっとしたか、目を見開いて応射の拳銃弾をもろに食らいかけ、慌てて身をのけぞって避ける。

 奥から別の敵が、射撃するのを見て、レイカに「ぶちかませ」と叫んだ。

 ポンッ! と音を立てて、40㎜榴弾が炸裂する。

 もう一発必要と判断したレイカは、第二弾を込めた。

 キヴォトス人は榴弾、それも擲弾でビビるか? と素人は思う、答えは簡単、「そいつが明確に害意を有してりゃなんでも怖い」のだ。

 しかも音と光と衝撃力がセットと来たもんだから、こいつは特にキくのだ。

 その隙にハナがクアッドリロードで、チューブにショットガンシェルを込める。

 

 だが、この短く激しい銃撃戦は無機質な『状況終了』の声で打ち切られた。

 

「あらっ」

 

 誰もが上を見上げる、光量が回復し、空調ダクトが全力稼働して硝煙を外へ吐き出す。

 室内射撃場は火災リスクより鉛中毒のが恐ろしい、金が無いなら屋外射撃場が一番いい。

 

『現状を見るに制圧と判断する』

 

 結末は決まり切ってるので、講評に入るとさっぱりとした評価にシイナは「あっさりしてんなぁ」と感じた。

 物陰から床に落としたショットシェルを慌てて拾い集めてる生徒が、一礼した。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

 宇沢とかいう自警団の生徒らしいが、シイナには良く分からない。

 ぶっ飛んだMP5を拾って、レシーバーを確かめてからマガジンを抜いて、チャンバーを確認する。

 

「飛び出す判断は良かった、タイミングとちったのはマズかったねえ」

「ですねぇ」

 

 困ったと言う抑揚でレイサと話し、目を揉んでいるスズミという生徒とも挨拶しておく。

 こうした所作はシイナの官僚的と言うより、ある種の保身であったが、真面目な連中にある程度良い恰好がしたいと言う欲もある。

 今回の演習で仮想敵部隊として呼ばれたのがちょうどいた自分たち、という事に疑問を持つことはない、単純に「丁度良くお客さんをもてなせる」からだろう。

 

「こうなるとはねえ」

 

 シイナは戦闘装備類を脱衣所で外しながら、ふと椅子に座った。

 SRTの3年生というのは、すなわちそれなりの熱意で志願したという事を意味する。

 無論、シイナにも熱意は有った、具体的に言うと中学生2年生の辺りは。

 輝かしい連邦生徒会の会長直属特殊部隊とは実に素晴らしく、さぞ立派と胸躍らせ──弾むほど無い──、6日目には「だいぶ怪しいな」となった。

 まず第一に、責任意識の不明瞭さがあった。

 SRTの失敗やトラブルとは何か? 連邦生徒会会長の失態という事になる、つまり、その失敗または高リスクに対して責任回避のみに全力を傾倒する指揮官が増えたのである。

 第二に、警察力や各校に連携と言う道を絶たせたという事があった。

 SRTの存在そのものが自分たちへの侮辱とするヴァルキューレ──要するに無能の役立たず扱いだ──は無論、自治権介入や強権を有しながらも当事者意識や責任意識の薄いSRTの協力は良い顔をされない。

 つまり最初から長持ちしない組織だったのだ。

 こうして正義感は死に、言われた事だけやればいいやになるのである。

 

「はあ、要人警護」

 

 そうした中でシイナは閉所戦闘の技能から要人警護を講習させられ始めた。

 この時期、連邦生徒会会長はカイザーにサンクトゥムタワーを襲われたことにより、要人テロの脅威からと命令したのだ。

 無論、試験的なこの分隊は名前も付かなかった。

 突入と強襲を専門とするF小隊(フォックス)などとはそうした点で違っていたが、羨ましいと言う奴はあまり居なかった、実際問題、自分たちですら大分怪しいもんだ。

 連邦生徒会会長は名前も無い単にデルタと呼ばれていた分隊を、リン行政官につけようとしたのである。

 自身の護衛などは試験部隊のテストが済んで勘案する、という事だった。

 政治的にも軍事的にも半端だった、

 言わば会長は「あまり失いたくない自身の手ごまの安心感」と「分かりやすいデモンストレーション効果」が欲しいだけで、これは優柔不断といえる。

 

「SRT第三号の寮監やってたネネカです。よろしく」

「ということは、副官になるわけだね、よろしく」

 

 そうしてまず北崎ネネカが来た、後輩の面倒見るのが好きな類いの奴だと言うタイプだ。

 こいつは最初にシャーレに引き抜かれて、校舎防衛戦などで奮戦したのでシャーレ勤務歴が一番長い奴となる。

 そしてポイントマンの左京ハナ、スケベ人間のピンク野郎で、そのためにブラックマーケットまで行ったバカだ。

 まず基幹要員の3人がこうして生まれた、翌年には擲弾手であるレイカに、教育隊の問題児であったエミが来た。

 前者は「全ては火力で解決が着く、大砲が世界を平和に出来る」と言い、後者は「超遠距離から風を読んで狙い通りに飛ばすために弾道を計算してる時が人生を感じる」と申した。

 きっとこいつらが来たのは陰謀だと思う、左京はこの時期、パトロール中職務質問した浦和と意気投合していた。

 

 だが何もかもがあっという間におかしくなった。

 

 まず同じく要人警護の目的で編成される予定のエコーは中止された。

 より攻撃的で積極的な対テロ、対犯罪作戦の為にエコー・スコードロンという部隊へ改組すると言い、そして連邦生徒会会長は閣議の反対により中止させた。

 この時期は特にヴァルキューレ警察学校から突き上げを喰らって、SRT自体は急速に「事なかれの官僚主義」へ毒されていった。

 ヴァルキューレが、ブラックマーケットで自衛権を行使したSRTの生徒を犯罪者ごとしょっ引いた事件すらあるが、その件でSRTの幹部が何をしたかと言えば「無期限待命」、つまり日干しにしたのだ。

 

「身内も守らねえとか何のための連中なんだか」

「あんなののメンツのために身体張るのかよ」

 

 そんな訳で生徒たちは不平不満を募らせていた、よりにもよってSRTの看板自体に名誉を見いだせなくなった。

 挙げ句の果てに目立って連邦生徒会会長は庇いたてもせず、飽きた様に何もしなくなった。

 やがてヴァルキューレ警察学校に吸収合併されると言われても、大半の生徒は「じゃあ何で作ったんだよバカが」と冷笑主義的に嘲笑いこそすれ、存続の価値はないと見放していた。

 極論を言えば既にSRTは死んでいたのである。*1

 

「白河の奴はどうしたの、最近食堂でも見ないけど」

「あいつ姉貴が公安に居るから交換交流名目で先に行っちまったぞ」

「気が早いねェ~そりゃ」

 

 当時の食堂での会話はこんなモンだった。

 いまや何故か戦闘団(BCT)の指揮官までなってしまった白河の事を聞いたのは、確かその時期だ。

 上をどう説得したのか、と言うのは考えなくても頭に浮かんだ。

 ”先の無いSRTのメンツより公安局のやり手の官僚に睨まれたくない”というのが正直な意見だ、実際「姉妹で治安を守ってます」と宣伝の足しにした方が良いと言える。

 この時期になるとD分隊は待機命令が続いてやることも無く、ネネカなどは後輩の面倒を見ていた。

 長く続く暗闘から再編成されたF小隊(フォックス)連中も同様で後輩の面倒をみている、

 

「それがあいつの姉貴じゃなくて、局長や副局長の方が誘ったらしい」

「なんでまた」

「公安局や警備局が自前の特殊部隊が欲しいからじゃないかな」

 

 脳みそがスケベ人間じゃない時のハナはインテリなので、真面目なときは参考になる。

 ショットガン担いでポイントマンしてる時は良いんだが……。

 輝かしき後輩と言えばレイカはボンバー! な性格が治らないし、エミの奴は狙撃狂いだし、副官は眼鏡の出来る女に何故か目が無い、ポイントマンもスケベ人間だし。

 無論シイナの人格や人間性が良い、とは自身でも思えない、少なくともそんなものは無いと思えている。

 はっきりと言ってしまえば、SRTの正義なんて言うのは「体制の正義」であり、更に言えば「連邦生徒会会長の主観」であることを理解している、独裁の尖兵以外の何だと言うのか。

 

「ま、SRTの役割は治安戦である以上、警察移管は避けれんわな」

 

 ぐびっとコーヒーを煽るように飲みながら呟く。

 後輩の教育中であるミヤコは何か言いたげだが、何も言わなかった。

 

 

 

 とかなんとか言ってたらSRT無くなっちゃったんだからこりゃ参った。

 無論実行に移すのは少し先だがどうしようと思ったら分隊副官のネネカの奴、シャーレとかいう怪しい組織が持って行っちゃった。

 そうこうしてたら砂漠で戦争始めんだから困るんだよなぁ、あの先生。

 お陰で私ら引っこ抜かれて、「前職と同じく警護任務よろしく」とか言うんだ、エデン条約だとか言うけどどうなってんだ。

 少なくとも職場にはまあ理解はしたが、納得はそんなにしていない。

 そしてそれは遂に起きた、あの熱い初夏の五月に。

 

「繰り返すようだが」

 

 先生は展開中の部隊へそう告げた。

 

「確実に、何か起こる。

 各自警戒を強めておけ」

 

 そんな至極当然のことを、繰り返す様にはっきり言った。

 普通なら指揮官の無能を疑われてしかるべきことだ、事前に発令した内容を繰り返すとは信用していないという事である。だがその初歩を理解している人が、”あえて”そうする事で意味は変わる。

 ちょうど部隊指揮官である白河は移動中、先生は散発的に小競り合いが起きる事に首を傾げてはいたが、条約締結は強行してでもやらせる気だ。

 それ故に、巡航ミサイルは必然だった。

 

会敵(コンタクト)! 敵歩兵(インファントリー)!」

 

 銃撃戦と言う奴はいつもだいたい「そろそろ参りますね」という挨拶はしてくれない。

 何時だって敵とは力いっぱい不親切、力いっぱいに事情を無視してくれる、敵と言うのはそう言う点では常に誠実。

 巡航ミサイルがすぐに炸裂するのではなく、エアブレーキを開いて最終突入した直後の毒々しい煙の玉を見た時は何か察しはついた。

 お陰で即座に他の分隊員と手近な遮蔽に先生を押し込めた、側溝程度ではあったが、ずいぶんダメージは軽くなったはずだ。

 幸い、先生のタブレット端末による防護能力もしっかり機能した。

 だが攻撃直後の敵襲は、先生は余り驚いていなかった。

 後々聞いたが、先生は「戦略攻撃」の概念に明るくなかった、つまり、この人には「出来得る限り最大の火力を用いた攻撃準備射撃」と認識したわけだった。

 

「戦闘可能な負傷者は各自実包装填!」

 

 声の通る大人はそう叫んで、何人か呆けた生徒の方を叩いて指示を飛ばしている。

 しかしあの大人、燃え盛る戦地に居ると突然艶やかになるんだから分かんねえな。

 そんな事を思いながらMP5を撃っているのを、不思議となんとも思わなかった、考えるのは後でイイやと思えたからだ。

 

「ヘリだ」

「ウチでもトリニティのでもないぞ」*2

 

 やってきたMi-8は青い腕章と灰色の髑髏章を付けたマーキングがされていた。

 それが何かはすぐに分かった、事前情報で見た詳細不明の武装勢力、アリウス。

 ビル屋上へラぺリング降下を始めるのを見て、先生は「交戦開始」と下命した。

 

「レイカ! 擲弾!」

「よっしゃきた任せろ!」

 

 擲弾手のレイカに、擲弾射撃命令を出す。

 腐ってもSRT、距離感は一目で的確につかみ、相棒のコルト・コマンドーとM203の癖は良く知っている。

 銃器とは進化しても個体差が有る、ご機嫌を損ねたり拗ねたりへそ曲がりな奴に素直な奴が色々ある、個体差を知り尽くした銃手は正に一心同体だ。

 彼女は綺麗に擲弾をメインローターの基部へ飛び込ませた。

 途端にヘリは安定を欠いて降下中の兵員を振り落として、ビルへ突っ込んでしまった。

 

「よっしゃ!」

「対地ヘリ!」

 

 叫び声と同時に30㎜弾特有の炸裂音が響き渡る。

 Mi-28ハボック、悪人面した凶悪なシルエットのヘリコプターが道路上を掃射していく。

 先生を取り敢えず近くのダイナーへ入れて、遮蔽に入る。

 

「連中変だ」

「何がだよ!」

 

 副官のネネカが不可思議気に呟いた。

 

「だって変でしょう、”敵前でラぺリングやハボックまで使ってやることがガンラン”なんて」

 

 ネネカの脳裏にはアビドス校舎に殴り込んできたカイザーのレンジャー達が浮かんでいた。

 連中は強かった、20秒間のアパッチによる制圧の隙を突いての強襲とヘリボーン、そしてその後のアパッチによる校庭への制圧、流れが全てスムーズに行われていた。

 だが今見える敵の動きは、何かキレがないのだ。

 シイナは試しに街路から攻撃に来てる敵を観察してみた。

 街路から進もうとしてきた敵は、待ち伏せていた正義実現委員のFN MAG機関銃で制圧射撃を受けて慌てて後退し、煙幕手りゅう弾を投げている。

 

「……本当だ、連中なんか鈍い」

「どっちにしろ敵でしょうが! サファリ開始ィ!」

 

 エミが楽し気に狙撃銃を抱えて屋上へ走る。

 少しして、M5自動機銃(セントリーガン)の特有の回転する銃身音と、暴風の様な銃声が聞こえた。

 ただそれで制圧できていたのもすぐに終わる、相手さんは普通にサーモバリック弾頭仕様のロケット弾を撃ち込んできた。

 ただのファミレスに近いデザインのダイナーが、外側に面した部分を吹き飛ばされる。

 

「ロケット弾だァ!」

 

 飛び散るガラス片や机や椅子の残骸、砕け散る外壁、その時漸く深く理解できた。

 自分は戦場にいるという事をだ。

 階級の貴賎なく、血の区別なく、最高と最低の二種しか無い。

 その瞬間急に「まあこんなもんか」と言う感想が出て来た、思ったより盛り上がらず、盛り下がらず、ありのまま「そういうもん」と感じただけだった。

 そうなると突然だいたいのことが見えてくる、まず自分の射撃は命中してるって事と、効いてるかは怪しいという事、9㎜パラベラムじゃやっぱ防弾着は駄目だわ。

 頭の中でフォックス小隊が昔に「もうM14でも持ち出した方がいい」とかやったな、と頭に浮かんだ、アイツら何してんだろうと言うのも浮かんだ。

 ただそれでも当てて行けば相手は斃れる。

 

「敵が突撃強襲へ移ろうとしてるぞ、気合入れろ!」

 

 先生が後ろから歩いて来た。

 一際デカい銃声がして、セントリーガンの射撃音が止まり、エミが慌てて屋上から降りて来た。

 

「ファッキンなAMRがキューティクルなセントリーガンぶっ壊しやがった!」

 

 エミは外のMi-8を指さした。

 

「カウンターしてこい!」

「ッデーム!」

 

 先生には呆気なく「やり返してこい」と言われて、店外から狙いを変えに行く。

 狙撃手の陣地変換は今は痛い、敵の大型銃も困る、セントリーガンが屋上から消えて制圧の効率も下がった。

 敵は機関銃による制圧射撃を試みるが、煙幕展張はタイミングがずれて味方の射撃も塞いでいる。

 無論、それでも彼我兵力差が拡大している以上、ある程度の制圧効果は齎す。

 

「お前ら擲弾は持ったか、合図でぶん投げろ」

 

 先生が箱を開けて投げ渡す。

 ただのM67破片手榴弾だが、煙幕を抜けようとしてきた敵に一斉に投げつけると、敵は慌てて散開したり、伏せたりした。

 

「敵の足が止まった、撃ちまくれ」

 

 後は混乱した相手への的撃ちだった。

 無論相手はバカじゃない、力いっぱい不親切が敵の特徴だ。

 相手はミニガンや擲弾銃を担いだ生徒らを出し始めた、空挺じゃなくて敵の地上部隊だという事だ。

 これは非常にまずい、火力でも負け始めてる。

 ただ状況全体が悪いものでもなくなり始めた、伝令が生きてる回線周波数を持ち込んできた、現状最高階級者になってる白河スズは事態に関して各部隊の指揮系統を強引に伝令で繋ぎ直してる。

 ただその中で、先生が一応熨斗を付けたパンデモニウムが、中継用ドローンを一時貸与で連絡線を回復し始めた。

 

「ゲヘナのところの増援は敵の増援部隊の遮断へ割け! こっちじゃない!」

 

 片耳を塞いでタブレット端末へ先生が叫んでいる。

 ミニガン掃射の音に立ちっぱなしの先生を押し倒して「危なっかしいんだから」と思いつつ、適時反撃をする。

 なんだかんだ、D分隊自体はその本意を果たせた。

 ただ戦闘なんかよりよっぽど面倒な問題が出て来た。

 そう、この後に私らを穴だらけにした錠前サオリらである。

 いやうん、その件はもう良いとして、上も下も大騒ぎだもん。

 

「……え、えーっと」

 

 どうすっかなぁ、というのが最初の感想だった。

 だって考えてみてよ、あんたつい先週撃ち合いしたでしょって相手と何話せばいいんだ? どうすんのよ。

 恨みとかそう言うのはぶっちゃけあんまり無いし……だって勝ったし。

 

「で、分隊どうなるんです」

「どうしよう」

 

 どうしようじゃ無いんだよ大人でしょうが! とは思っても、原因と理由の大半この人のせいじゃねえしなあ……というのも分かる。

 だってこれまで連邦は「いや、防衛室が管制してるから」とシャーレを牽制してたが、「その防衛室は何してたのお前」という実例が出て来た。扱いきれないSRTは解体したけど「指揮運用がお前らじゃ駄目だ」と言われちゃ世話ないわけで、そうなると本当にややこしくなるんだなコレが。

 

「そもそも良いのか? 非公然特殊部隊はマズい気がすると思うんだが」

「あんたがそれの隊長なんでしょうが」

「そうなんだが……」

 

 いまいちサオリは分かんない、今も分かんない。

 後々になってから、だいぶ天然ボケなんだと気づいた。

 ただこの特殊部隊問題がややこしくなった原因は、一部はアツコ生徒会長の売り込みと言うのもあったと聞いて、事態はそりゃややこしくなるわなと思った。

 ”強引な方法を用いてでも”中央とコネを持っておかねばならない、というのは確かに分かる。

 実際、あの時期のトリニティの騒乱を見てると真実そう思える。

 中抜きの記録隠しで証拠保管庫を焼こうとすんじゃないよ、茶会だろうが関係なしで先生が制圧行動に出るのは別にそれは良い、中央権力と言う奴を行使してるだけだし。

 

「どうしてこうなっちゃったかなあ」

 

 頭の中にユキノたちの顔が浮かぶ。

 連中を最初から引き抜けてりゃ恐らく苦労はなかったのである、最初から引っこ抜けてりゃ、最初からある枠に押し込んで全て終い。

 問題は当然と言えば当然だが最初から引き抜けない点だ、当たり前だ、どうやって引き抜くのだ、カヤは手放さないし、信用の問題もある。

 ただ一つ言えることがある、少なくとも全てややこしくしたのは連邦生徒会会長殿だ、指導者が不在な事で全ての指揮系統が崩壊するというのは、階級構造がある組織では基本起こらない。

 例えば企業で社長や重役が事故死したら大混乱だが、軍事組織とは行動により混乱が起きた際、どう利益を最大化させるかの組織だ、最高階級が消えても次席指揮官が、残存する最高階級者が引き継ぐ。

 逆に言おう、その行動がとれない時点でSRTは理屈斃れでしかない。

 しかも途中で放り出したのだ、あの連邦生徒会会長殿は。

 

「あーあ、いつになるか知らないけど、早めに帰らないと悪評しか残らないんじゃないかねえ」

 

 ……だが一つ思う事がある、あの人は本当に”望んで先生を選んだのか”という事だ。

 もしかしたら、本当すこぶるなにか神の見えざる偶然で選ばれたのではなかろうか。

 だとすれば、我々は案外見えない綱渡りをしている事になるのだが……。

 

「……制御不能なのは変わりないだろうけど」

 

 結局、連邦生徒会会長殿のいうSRTというのは命題がおかしい組織だった。

 揺るぎのない正義と、連邦の為、この二つは絶対対立しないなんて前提が狂っているのだ。

 なぜか? 連邦とは人の組織だ、連邦生徒会会長殿も人だ、そして彼女が真実「誰の為にもならない」なら、SRTは「誰に銃口を向ければいい?」のだ。

 そう言う点では連邦捜査部は真実簡単な至上命題がある、社会全体生徒全体へ奉仕してるという事になる。

 つまるところ、これに明確な妨害となる場合、先生も排除できるのだ。

 そして連邦捜査部を支えている支持層と言うのはプチブル中流階級であり、極論では先生は中道思想だ、何じゃこの訳分からん組織。

 

「ん?」

 

 運動場から音が聞こえた。

 何故かガスマスクを着けたミサキが完全装具でランニングしている。

 

「なんですあれ」

「花粉症への怒りの発散」

 

 ……拝啓、連邦生徒会会長殿。

 貴女の失政の落とし子は上手くやっておりますよ。

 

 

 

 

 

 

*1
周辺諸機関との連携も考慮も無い中央政府の特殊部隊とは、ティターンズや特捜第十三課(マハ)以下である。

*2
ゲヘナ風紀委員会はヘリを有さない




 もし破滅が我々の運命であるとするならば、我々自身がその運命を作り上げたに違いない。
 ─エイブラハム・リンカーン─


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