キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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番犬(ウォッチドッグ)

 

 連邦生徒会会長失踪の4週間ほど前……。

 SRT学園の地味な連絡室から、一人の生徒が出てきた。

 制服をぴっちりと着こなし、黒の特戦(SRT)ベレー帽に漆黒のベルトとサスペンダー、襟元に近接格闘戦記章が輝き胸元に空挺とレンジャー記章、まごう事なき立派な経歴の証だ。

 反比例するように彼女全体は小柄で身長も低く、幼く見えるが、制服や勲章が輝かしく見せている。

 だが彼女、永子(ながね)ノナカにはつい数分前に役にも立たない玩具に成り下がった。

 

「厳正なる審議の結果、君に非はない。

 おめでとうノナカくん。

 じゃ」

 

 そう腐った本校の官僚化した役人は紙を渡した、経歴書が更新されたからだ。

 

 

 連邦生徒会会長の名に於いて貴官に再召集無期限未定の待命を仰せつける。

 

 

 彼女は言葉を失った。

 SRT特殊学園、その予備役という枠には種別がある、病気や怪我を理由とするものが大半だが、例外がコレである。

 

 無期限の待命。

 

 要するにコレは「君明日から来なくていいよ」と翻訳するのが至当である、しかも放校・退学ではないと言うのが官僚主義的クソさが出ている。

 無謬なる連邦生徒会会長の直属、であるから問題がある生徒が居たら最高指導者の責任になるので、見なかった事にすると言う事である。

 ちなみに給料は半額の半給である、そしてSRTは副業禁止である、上手く追い出す様に出来ている制度なのである。

 

「ふざけんなあのクソ法務(やくにん)クソ上層部(ちょうじん)!」

 

 数日しない間に彼女は窓から飲み切った350mlの缶コーラをぶん投げるくらいには荒れた。

 幹部教育を履修、近接戦技を優秀な成績で合格した。

 それくらいには忠誠を尽くしたが、結果はこうして捨て犬である。

 小豆色の丸いお下げ髪を掻きむしりながら、漸く風呂上がりである事を思い出した。

 PXの安い女っけのないパンツと首にかけたバスタオルだけだった、SRT3年生と言うにはあまりにも色気が無さすぎる姿だ。

 

「やっぱ私も交換教育に便乗すりゃあ良かったかなあ……」

 

 スポーツブラを着けてシャツを着る、どれも売店で買ったものだ。

 交換教育とは、ヴァルキューレが事実上勝利した政治闘争の勝利宣言で、ヴァルキューレ警察学校側から「ウチの手順学んだら」と誘いをかけたのだ、彼女らは「SRTにはあなた達へ査察する権利も有しています」とイきり散らした部外者への復讐を果たしたのである。

 例外も居た、頭に浮かぶは後輩の白河の姿、交換教育に際してしれっとヴァルキューレにコネを作りに行った、今なら「私も」と言うだろうが、当時は「上に目をつけられても知らねえぞ」としか思えなかった。

 あの傲慢というか、我儘というか、あのアホがなんで公安局に志願したかは親しくないから知らない。

 ぼふんと寝台に横たわる、大きもない胸だから殆ど揺れない。

 

「というかマジありえん本校の連中……」

 

 どうしてこうなったか、というと理由は簡単だった。

 ブラックマーケットで"所用"があるから歩いていたら、襲ってきたヘルメット団を半殺しにした。

 そうしたら拳銃の隠匿携帯(コンシールドキャリー)だと"遠巻きにしてたヴァルキューレの警官"が彼女を連行したのだ。

 身分証で得点稼ぎにしようとした対象がSRTと分かった瞬間、警官は更に嫌そうな顔をした。

 あとは役所特有の抗議だ何だが文書で応酬され、連邦生徒会防衛室は知らんぷり、会長も何も言わなかった、案外本当に何にも知らないのかもしれない。

 面倒が嫌で適当にあいつが悪かったとスケープゴートにして、SRTは見なかった事にしたわけである。

 

「鞍替えしようかなあ」

 

 そうなってくると本当に魅力的な選択肢が浮かんでくる、カイザーあたりにでも行ってしまおうか。

 SOFとは言わないがPMSCのレンジャーの将校待遇くらいなら狙えるだろう、それなりに現実性の高い選択肢が浮かんでくる。

 無論そうは思ってもリスクが高い、連邦生徒会はその気になれば裏切り者の一人二人くらい「いなかった事」に出来る程度には強大で、痕跡も無くなる。

 そして得てしてだが、組織間の暗闘では濡れ仕事は殆ど行われない、際限なく拡大するからだ。

 例外は裏切り者相手の場合だ、報復に対する報復はされない。

 

「……ご飯は、食堂で食えば良いか。どうしようなあ」

 

 ノナカはぼおっと天井を見上げた。

 

 

 

 時は流れ、ひと月する頃には別の意味で事態が急変した。

 SRT取り潰し決定がいよいよ本格路線になったと言う知らせと、連邦生徒会会長がどっか消えた。

 後者については「うっせ知るかばーか」と思ってるが、前者は一大事だ、金も飯も出なくなる。

 統合するはずのヴァルキューレは便乗して暴動とテロとサボタージュと略奪と事故から、完全に機能不全を起こして麻痺している。

 そういう組織が自分の事を調べ上げて転入させれると到底思えない、言っては何だがヴァルキューレの総監連中もSRTと大差ない官僚主義だ、じゃなきゃ嫌がらせのために自分に関して大騒ぎしなかった。

 

『DUに於ける暴動は三日目を迎えました。

 すでにATMなどのパニックによる払い戻しと取り付け騒ぎは各所に波及しており、それによる騒乱や略奪が発生、ミレニアムとトリニティーは治安がまだ保たれていますが、停電も多発し、ゲヘナでは風紀委員会による治安出動が万魔殿から下命されており』

 

 黙々と背広に袖を通す、正直な所、ノナカには主義や主張という事にあまり関心が無かった。

 SRTに何故入った、というと単純に「自分を試したかった」のだ。

 結果は上々である、彼女は自身1人で何もかも選び行動する事となった、全て連邦生徒会のお陰である、本当に。

 学んだこともある、正義の味方なんて言うのは虚言と虚栄でしかない、そうした言葉を弄んだ連中が何をしたかが自身の姿だ。

 失踪した連邦生徒会会長だが、失踪していなきゃ自分がドタマ撃ち抜く気が出ていただろう、今では害意より、「見下げ果てた奴」としか思えない。

 

『一部消息筋ではカイザーは更に増援として武装人員を増強し……』

 

 ため息が出る、警察が役立たないからってPMC社員が言われる前から「アテにならんから自社資産守るわ」と言い出している。

 警察が対応出来てない理由は簡単だ、彼女の知ってる通りサンクトゥムタワーの連中が仕事してないのだ。

 俺じゃない、あいつがやった、知らない、済んだこと、オアシスは砂漠以外の場所にもあるのだなぁ。

 

「メシ買いに行こう……」

 

 少なくともまだ口座はある、あるうちに引き落とすか。

 

 

 

 そう考えたノナカの考えは些か以上に甘かった。

 彼女は口座凍結までに金を下ろす事すらしてないラビット小隊よりは頭は良かったかも知れないが、もっと大事な事を忘れていた。

 ATMは金の補充がされてなければ箱に過ぎず、いまほぼすべての銀行は業務停止中と言う事実と、集金車や補充担当の車両が相次いで襲撃されている事である。

 皮肉なことにカイザーの車両が一番目立つが、一番撃退できている、何故かと言えばカイザーの護衛が付いてるからだし、緊急対応部隊(QRF)が待機してるからだ。

 お陰で子ウサギ公園にカイザーのZ-20が待機している、警察は知らん顔だ、恐らく情報が錯綜して兵力展開がグダグダなのだろう。

 

「えーっ、銀行業務やってないのォ!?」

「御覧の通りなんですよ、はい」

 

 そんな訳で、シラトリ区のカイザー・バンクでPMSCのオートマタはノナカに申し訳なさげに告げた。

 若干オートマタが「見ればわかるだろ」と言いたげなのは無視した、オートマタが心底疲れた顔をしているのが見えた。

 銀行前のMRAPを見れば分かる、幾つかは真新しい銃撃戦の痕や、空薬莢が転がっている。

 

「業務再開はやっぱ」

「未定ですね、というか、行員と金庫の金も来てないんで」

「ないモンは出ねえか」

「はい」

 

 ため息をついて顔を覆う。

 ノナカは「他に開いてるとこ無いよね」と聞いたが、答えは予想より悪かった。

 

「郊外とか一部はあるんすけど、客が集中したり標的にされやすいっスよ」

「あー……」

 

 ある程度オートマタも配慮してるらしく、小声でそう告げた。

 このオートマタにせよ、理不尽な仕事に懲り懲りなのだろう。

 無理もなかった、また銃声が聞こえ、爆発音がした、咄嗟に書類カバンのヤティマティック短機関銃に手を伸ばしかけたが、対応する道理もなかった。

 彼女は正義感だけで行動した。真実たしかに善行だったことで何をされたか、忘れていなかった。

 通りの向こうでネフティスのマークがされた車両が爆発しているのを見て、カイザーのオートマタが「へっ」と笑う、社用車が燃え始め、下手人はスーツを着たオートマタの身包み剥いで逃げ去った。

 

「おっさんの身包み剥いでどうすんだ……?」

「さぁ……」

 

 MRAPの銃手席に居た別のオートマタが、不可思議気に呟いた。

 

 

 

 ノナカの家路は寂しい歩調だった。

 途端に金無し先無しの恐怖が襲ってきただけではなく、現実的脅威も見えたわけだった。

 要するに、金が無いままでは剥ぐか剥がれるかである。

 浮かんだ感想は「どれも嫌だな」で、対抗手段は先があるとは言えない自身の肉体、訓練された自分は強いが、その自分は装備補充やらが駄目な訳だ、金が無いのだから。

 剥ぐ側ならどうか? 実入りが安定しないのは改善していない、下っ端は常に空きっ腹にさせて、あちこち走らせて、”ガラ”躱していくために根拠地は動き回る? 簡単じゃあ、ない。

 

「あ?」

 

 ふと目の前を見ると、似つかわしくないアロハシャツを着た生徒が居た。

 全体的にだらしの無い感じをさせた生徒は、きょとんとした顔でこちらを見た。

 ただ、ノナカの眼には少しばかり違って見えていた、やさぐれていたのもあり、気楽でだらしの無い気楽な存在に見えたのだ。

 気に食わねえな、と感じた次の瞬間、彼女の視界の端から何かが飛んできた。

 Mk2手榴弾……、ピンは外れていた。

 

「ざけんなオイ!」

 

 即座に角度を計算し、タイヤが持ち逃げされている駐車車両の影に飛び込む。

 アロハの生徒も同じように行動したか、影に飛び込んでいた。

 即座に駐車車両からミラーを引きはがし、外を伺がう。

 6発銃声がして、最後の射撃と同時にミラーが撃たれて飛んでいった。

 

「6発撃って命中1、撃ちまくって外してる、ド下手が」

 

 相手はプロじゃないのは確信した。

 SRT訓練時代の経験は即座に対狙撃、襲撃想定で頭を動かさせている。

 ヤティマティック短機関銃を鞄から出し、マガジンを整える、複雑な短機関銃ではあるが、ノナカはコレが一番馴染んだ。

 いそいそとアロハの生徒も散弾銃を取り出し始めたのを見てノナカは「素人が何するって言うんだ」と思いはしたが、考え直した、この生徒の程よくはだけたアロハが妙に蠱惑的だったのである。

 その為、ノナカの頭に浮かんだ感想が「この女やったらなんかエロイな」に変わった、結果的に口をついて出たのは「大丈夫?」だった。

 

「んあー、一応大丈夫っすね、怪我はしてないっす」

「そりゃ安心」

 

 ノナカは「流石に戦闘時に何考えてんの自分!」と思考を正した、全ては後だ、この事態の後に……いや、そうだ! 「送っていこう、物騒だから」と言えば家も分かるし最高じゃないか! 

 ノナカの脳裏で戦闘に勝利するが最高優先度で採択された。

 

「さて相手さんは……」

 

 ちらりと見る限り、相手は素人以上セミプロ以下と言う連中だ、社会人野球くらいの腕前が近い。

 数人は露骨に素人らしいそわそわした動きで、後ろに数人セミプロ手前の連中が続いている。

 それに加え、近隣のビルから見ている奴が居た。

 武装はイサカや安い自動小銃だが、一部はM16を慣れた手つきで持っている。

 

「数は……15以上、ざっと2個小銃班くらいかな、野盗にしちゃなんか変だけど……」

 

 そう言ったあと、ふと自分の経歴を思い出した。

 もしかして自分狙いか? 

 

「何かの案件で恨まれたかな……」

「おー、そう言う感じっすか~?」

「多分そうかも、PMCや何かに恨まれた謂れは有るし」

 

 すると、そのアロハの生徒は「”それだったらなんであいつらはもっと軽機関銃を使わないんすかね”」と返した。

 狙いは生け捕りか! そして絶妙に手際が悪い事に納得がいった。

 連中の運用がいまいち定まってない、要するに必要なら排除に移る条件を明確にしてない、ROEやブリーフィングがグダグダならそうなる。

 なら相手はいま「どうすれば良いか悩んでるのか」と考えがまとまった。

 

「飛び出す、援護頼んだ」

「威勢が良いっスねぇ」

 

 彼女はそう言うと相手へ射撃を始める。

 瞬間、ノナカは撃ち出された銃弾の様に走った。

 相手の不良生徒たちが困惑し、狼狽するのを見てノナカは躊躇いなく点射で頭へ射撃する。

 6発の銃声で6人が倒れた、倒れたのを数発追い打ちすると、即座に同じく動揺するまだマシなセミプロへ射撃を始めた。

 

「話が違う!」

 

 カスタムされた自動小銃が唸りをあげ、横合いから散弾銃が援護射撃として一人倒す。

 まぐれでも有難い気分だった、動揺した相手の視線がブレた。

 ノナカが腰だめにしてヤティマティック短機関銃をフルオートでばら撒き、一人を除いて倒した。

 残る一人は腰が抜けたか座り込んでおり、引きちぎる様に自動小銃を奪うとマガジンを抜いて弾を排莢させ、武装解除する。

 訓練通り数秒もかけなかった、利用価値がある武器とは思わない、民生弾薬ならまだいい方で安いチープアモだろう。

 

「クリア!」

 

 無意識の癖で叫び、リロードに入る。

 だがアロハの生徒が「まだ一人居るっすよー」と射撃すると、ビルから見ていた奴が走り出した。

 それを見てノナカは、襲撃犯のMk2手榴弾を握るとビルから逃げようとする犯人へ投げつけた。

 逃げ道へ投げられた手榴弾に咄嗟にそいつが伏せるのを見ると、ノナカの口元がニヤリと歪む。

 何故かと言えば、ピンは外れていないからである。

 

「公衆の面前で手榴弾投げちゃいけませんって、おかーさんから教わんないかテメェ!」

 

 ノナカは怒号しながら目標の足首を踏みつけた。

 しょっぱい犬みたいな見た目をした市民風の姿だったが、しっかり上着の下に拳銃をぶら下げている。

 呆れた奴らだと思いながら「テメェ! 堅気の人間巻き込んで何考えてんだ! アーッ! エーッ!」と胸倉を掴んで叫ぶと、その男は「”お前が”堅気なワケねえだろ!」と泣き叫んだ。

 

「は?」

 

 ノナカが一瞬思考を止めた。

 

「じゃあ誰狙ってたんだ、目ん玉ガラス玉か」

「其処の奴だよ!」

「なーに言ってんだ、お前、どう見ても堅気だろ」

 

 そう振り返ると、思い出した様にアロハの生徒はごそごそと何かを首にかけた。

 ヴァルキューレ警察学校の手帳であった。

 

「いやー、忘れてたっす、姐御から常に口ずっぱく言われてるんすけどねぇ~。

 あ、自分、ヴァルキューレ警察学校公安局の副局長コノカっすよ、よろしく」

 

 公安局?! この顔で!? 嘘だろ大分エッロイこいつが!? マジかよ狂犬滅茶苦茶スケベじゃん……。

 そう驚きながら、ノナカに「でもポリかぁ」と嫌な気分がしたが、「いやしかしでも」と気分が揺らぐ。

 沈黙を何かのチャンスと感じたか、捕まえた男が口を開いた。

 

「お、お前がうち等のビジネスを潰そうとするからだ!」

「なんかしたの」

「何言ってんすか、勘違いオトコの言う事っすよ? ナンパのがバリエーションがあるっすよ」

「話くらい聞けェ!」

 

 そう叫んだ男に、呆れた顔で二人が見つめる。

 

「こんなガキが居るなんて聞いてねえぞ!」

「善意の善き市民っすよ、ね」

「コノカさんお時間ありますか、ちょっと茶店で市民正義とかそう言うものについて深く話し合いたいなって……」

「あるぇ~?」

 

 コノカがやや半笑いになり、男へ静かに告げた。

 

「で、目的はなんだ」

「お、お前が潰そうとしてる密輸計画阻止案だよ!」

「あぁ~」

 

 コノカが頷き、ノナカに「下ろしてあげて」と告げた。

 声は低く冷たい声で、ノナカは「キリッとしてると味が変わるなあ」と感じている。

 

「あれ嘘っス、残念でした外れ!」

「は?」

「だからそれ釣りだしの餌っす、頭いいっスよね、着色水で水漏れ点検するってワケっすよ」

 

 ありがちな罠だなぁと思いながら、ノナカはうんうんと頷いた。

 幾つか種別別に情報を流して相手の観測と動きから特定する、軍事的にもある事だ。

 素人ならば特に効果がある。

 

「じゃあこいつも」

「その人はマジで無関係なんすけどね、マジで、というか誰なんすか」

 

 コノカが引き攣った笑みをした。

 はっと思い出したノナカは、即座に背広の胸ポケットからIDを見せた。

 そして思い出した様に、やや早口になりながらしゃべる。

 

「あっ、自分は、えーっと、永子ノナカって言います、いちおう今の身分はSRT特殊学園のRAT(ラット)小隊で小隊長……でした。

 いま礼服とかじゃないから見せれませんけど共同警備や近接格闘や空挺記章持ちです」

「へぇーっ……」

 

 深く品定めするような目つきをした後、コノカは「まあ良いか!」と言って告げた。

 

ノナカ小隊長(ルテナント・ノナカ)! 契約しないっすか! 契約付きヴァルキューレ請負捜査官(コントラクター)、所謂賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)っす。

 このご時世、綺麗ごとや書類を待ってちゃ解決しない案件もあるが動きの鈍い防衛室は令状を出さない、法執行官(エンフォーサー)は点数稼ぎ以外やりたがらない、SRTはなにもしない、つまりっす、貴女の適職で合法で一番冴えたやり方はこれが近いっスよ」

 

 ノナカは降って湧いたこの幸運に、どうしたものか判断を迷っていた。

 彼女の視界には、今のノナカは極めて輝いて見えているのである。

 要するに「一生一緒エンゲージリング」くらいに見えているのである、まさにエルデンリングか。

 まあの中からすれば顔のいい女が「私の犬になれ」と言っているのである、大分意訳が過ぎるとか、曲解と言うべき認識だが、恋は盲目と先人の言う通りである。

 そんな様子を隙と勘違いした男は、即座に拳銃を拾い上げて構えた。

 

「あっ」

 

 コノカが一瞬、声をあげた。

 だが、男は即座に自身の行為を、何をしたかを理解した。

 ノナカは即座に男の拳銃のスライドを掴んだ後、拳銃に噛みついてマガジン排出ボタンを押させ、スライドを引いた。

 

「コイツ!?」

 

 男が誤算だったのは、初期型のM1911(ガバメント)だったことだ。

 初期型のガバメントはスライドが動かないと作動を停止するという点がある。

 そして、なによりノナカが予想外だった。

 彼女は何食わぬ顔でインナーベルトに挟んでおいたサイドアームを抜いた。

 

「あっ」

 

 パンパン! と二発銃声がして、胸と頭にグロック26で撃ち込んで、解決したのである。

 完璧なバイタルパートへのダブルタップである。

 コノカは唖然としながら「隠匿携帯(コンシールドキャリー)って服務規程的にアウトじゃないすか?」と呟いた。

 

「……無いと不安で」

 

 コノカは無関心層に尋ねた。

 

「バイタルパートへのダブルタップは?」

「無いと不安で」

「サイドアームは?」

「無いと不安で」

 

 少し沈黙した後、コノカは「うーん、まぁヨシ!」とにこりと笑った。

 それと同時に、公安局の輸送警備車が二台停車する。

 バイザーを付けたPASGTに特殊防弾衣を着けたヴァルキューレ警察学校の生徒が、大楯とMP5を構えている。

 コノカが慌てて「大丈夫っす! 問題解決済みっす!」と言うと、相手側から「あれーっ」と声が上がった。

 いそいそと輸送警備車の上で、射撃準備していたヴァルキューレ警察学校の生徒の声だ。

 

「ノナカ先輩、なんでいるんですか」

「あっ白河!」

 

 唖然として、ノナカがその隊員をよく見た。

 見た事あるツラ、白河スズである。

 何とも言えない呆けた様なツラで、89式自動小銃を吊るしている。

 

「お前なんで」

「いやだって、私の職場公安局……」

 

 嘘だよねとコノカを見た。

 コノカはやって来た連中を親し気にヘルメットを叩いて「いやあ、要件済んじゃったっす」と、楽しげに話していた。

 後輩に寝取られたーっ! とノナカが唖然としていると、やってきたパトカーから長い白銀の髪をした制服警官と、金色の髪をした警官が降りて来た。

 

「状況は……済んじゃった? えーっ、そんなぁ」

「お姉ちゃんなんか前職の先輩居たー」

「まだ前職じゃ無いでしょうが……。あ、妹がご迷惑かけてます」

 

 こいつが例のスズの姉貴か、とノナカは理解した。

 名前や素性などは聴く気は無かった、気の強そうな巨乳美人警官と言うのは何か刺さらなかった。

 

「で、なにをやらかした副局長」

「えーっ、違うっすよー、其処のアホが因縁着けて餌に食いついたんすよ」

「あー……」

 

 呆れた顔で相手の、公安局長が困った顔をしている。

 コノカの説明に困った顔をして、そして呆れた顔をしてコノカをどついた。

 その瞬間、ノナカは全てを理解した。

 見れば分かった、銀髪のスズやヴァルキューレ警察学校の生徒たち、白銀の長髪のスズの姉とコノカ副局長、そう全て分かった。

 

 公安局はカンナ局長の楽しいハーレム(わんわんパラダイス)……! *1

 

 ノナカの淡い(もうそう)は水泡と消えた。

 

 

 

 

 

 

 数か月後、KVハイウェイ道路上……。

 数台の車列が、物々しい車両の群れが進む。

 装甲を強化したハンヴィーがM2ブローニングを引っ下げ、バンを囲うようにしていた。

 だが車列が速度を緩め始めた。

 

「こちらは公機31、速度を落とすな」

 

 コノカはそう言うと同時に、バンの後ろへサインした。

 ノイズ交じりの管区警察(ステートポリス)無線──ヴァルキューレ警察学校の小規模学校自治区への部署のこと──が声を挙げた。

 

『管区44から公機31。あー、前方に道路障害物』

 

 それと同時に、ハンヴィーの銃座が回る。

 

「買収されてやがる!」

 

 見た目は一般的なバンだが、装甲強化に防弾ガラスがされているため、しっかり耐えている。

 ただエンジンは貫通弾によりお釈迦になった。

 即座に停車したバンへ、管区警察(ステートポリス)の部隊が降車し、M16A2やワルサーMPを構えて射撃する。

 

「ノナカ! GO!」

「わんわーん」

 

 横のスライドドアを開けて、ヤティマティック短機関銃を腰だめで撃ちながら飛び出す。

 そう、未だに、ノナカは契約請負のままなのである。

 何故かと言うと答えは簡単だった。

 彼女は無期限待命、日干しにして自主都合退学をさせるつもりのSRTには、ほぼ失われた人員扱いだったのだ、つまり当然SRTは公的書類に記録していない。

 結果はシャーレの選定に漏れているのだ、そうでなければ良くてスズ戦闘団の空中機動中隊(殴り込み部隊)あたりの指揮官、悪くても本庁舎の警衛責任や訓練管理(ドリルインストラクター)である。

 

「ガッデム!」

 

 管区警察(ステートポリス)が応射するが、すぐにガンナーが撃たれてダウンする。

 その動揺を突く様に、手榴弾を投げ連射しながら前進する。

 爆発と銃撃で怯んだ管区警察(ステートポリス)は、慌てて銃撃しようとするが、制圧射撃が止んだことで続いて降車した公安局隊員らが狙撃していく。

 HK416の射撃と、側面へ回ったノナカの射撃で攪乱され、管区警察(ステートポリス)が慌てて後退し、M72LAWを発射した。

 

「おわーっ!」

 

 爆発と共にハイウェイの路面が剥がれ、車が中破した。

 パラパラと破片が振るが、応戦が始まると管区警察(ステートポリス)は遂に耐えかねたが逃げ始める。

 当然だが逃げる背中ほど撃ちやすいものはない、

 数分しない内に全て終わりをつげ、ため息をつくと「クリア」と告げる。

 

「あーひどい、全部やっちゃったっすね」

「わんっ」

 

 ノナカが笑って犬の声真似をした。

 コノカが無線機でため息をついて、制圧したハンヴィーから倒れた操縦手を下ろす。

 周辺をしっかりと公安局機動部隊が警戒している。

 辺境部の管区警察(ステートポリス)が度々犯罪組織とある程度繋がってるのは良くある話だ、何故かと言うと失政である、弾薬補充の金も来ないのにSRTを作るような政治家の原因である。

 そして再編もあり、手入れが始まっただけである。

 しかしノナカはというと……。

 

 未だにコノカのイヌなのである。

 

 旧RAT小隊の隊員らはシャーレ支援の下創設された公安局実働班になったが、小隊指揮官はこうした契約請負のままなのである。

 悲しいかなコレも仕事である。

 シャーレにとっても公安局にとっても、ノナカは首輪で縛って「待て」させるより、ある程度自由に歩かせてみる方が良かったのだ。

 

 

 永子(ながね)ノナカ、未だ木鶏足り得ず。

 

 

 

 

【SRT特殊学園 人事ファイル】特定機密

 

 永子(ながね)ノナカ

 学年三年生

 RAT(偵察攻撃戦術)小隊 小隊長

 

 戦術強襲前衛隊員として養成を受講。

 優れた成績を発揮し、短機関銃及び自動小銃、近接格闘技と銃剣格闘で学年対抗6位。

 対集団戦闘を前提としたRAT小隊へ配置、実習。

 同年、公安局との合同作戦として、地下上水道で暴動を煽るためにブラックマーケットから密輸されてきた武器摘発に参加。

 完全に敵性勢力を制圧、非戦闘員の偽装をした容疑者を偽装投降として射撃し制圧した件に際して警察側は抗議。

 

 小隊長に2年生にして任命、幹部育成課程を合格。

 対組織犯罪作戦に参加、組織犯罪の事務所を強襲。

 小隊突入20分で17名の容疑者を制圧。

 

 その後、ゲマトリアの下部組織(アリウス偵察総局の現地委託調査だった事がのちに判明)を強襲。

 トリニティ郊外の地下施設を強襲し[ 機密指定 ]を排除。

 [ 機密指定 ]との交戦は連邦生徒会長の命令により重要特定機密指定とされる。

 RAT小隊は一時任務から外す事が決まる。

 

 三年生の直後。

 その後、何故かブラックマーケットで喧嘩に巻き込まれた(本人自己申告)際に警察に拘束される。

 無期限待命。

 

 授与紀章類

 特別功労章

 一級近接格闘記章

 空挺記章

 レンジャー記章

 負傷記章(二つ)

 

 近接戦闘及び短機関銃による制圧戦、及び自動小銃による射撃戦に優良な成績。

 全学年射撃戦技評価に際し、記録16位保持。

 

*1
そんな訳無いだろバカ! 




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