キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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地球は心のゆりかごである。
しかし人は永遠にゆりかごに入っているわけにはいかない。
─コンスタンティン・ツィオルコフスキー─


EX編 デカグラマトン編 後編
オーロラの無念の色 まだ眠らぬキミの修羅に燃え


 

 全長380m級のリオの”輸送船”は、予定通りの巡航速度で高度8000Mを飛行している。

 双方のECM及びECCMが濃密な対レーダー妨害をしているためと、双方のEMCONの発令でレーダーは無作為に発振していない。

 その為、双方の探知は光学または熱源探知か金属反応の一部手段に限定されている。

 ただし、物理移動の限界から双方の会敵予想時間は少し先になると言うのは、双方の最高指揮官の共通の考えだった。

 

「ふむ」

 

 マルクトは人間のするように、顎に手を当ててみた。

 戦いには二種類しかないと人類の公開記録が語っている、野戦と攻城の二種だけだ。

 ミレニアムの過去のシミュレーションゲームのチャンピオンがそうした発言をしていたのは、かなり理解しやすい。*1

 双方の機動戦力同士が戦い、どちらかが失われる。再編がされる頃には防衛者の戦力としては十分な戦力が蘇る、攻城戦がされる、結果的に戦いはまた野戦軍の戦いへ回帰する。

 戦術(タクティカル)作戦術(オペレーション)戦役(キャンペーン)戦略(ストラテジー)

 オウルは「手垢のついたようなゲーム」と言うが、なんて変数が多く不可解で不完全で美しい、完成されないから美しいのかもしれない。

 

「まず、相手には攻撃場所を任意に選べるという優位性がありますが、その場合最初に狙われるに値する目標はイェソドですね」

「はい。現在防壁の向こうの、外殻に位置していますから」

「戻しちゃう?」

 

 アインとソフが首を傾げた。

 

「いえ。本人が望んでいるのと、なんというべきでしょうか、そう、前衛探知(ピケット)が必要です」

「拡張及び防衛構造の点からもそれが一番でしょう」

 

 オウルが地図をホログラム投影した。

 鋼鉄大陸全体を投影している。

 

「想定される先生たちの攻撃案は、空からか、海からか、或いは陸路か、それを確かめるためにもイェソドは居ないと困ります」

「恐らく陸路は無いと思います、時間がかかる上に不確かです。

 しかし常識的に考えれば洋上からの攻撃や航空攻撃だけとは思えません、恐らく複合的に来ます。

 私ならそうします」

 

 マルクトははっきりそう告げた。

 その後、マルクトはもう一つ付け加えた。

 

「どのような手段、経路でも、我々がとるべき選択肢は変わりません。

 彼我兵力差で見れば我々は決定的優位性を得ています、兵力集中競争の点から考えれば、消耗戦の強要が最適でしょう」

「消耗戦……」

 

 アインがやや気落ちした顔になった。

 

「また一杯壊れるんですか」

「そうなるでしょう。既に我々は……」

 

 マルクトが外を見た、広がる鋼鉄大陸が見える。

 歪で歪んでいても、それは私たちの世界だ、だがその世界は、鋼鉄大陸は急ピッチで”本土決戦”の備えを始めている。

 

「あと、200時間ほどで……」

 

 発動まで200時間、予定通りなら三日か四日で終わる作戦ではあった。

 ただ想定外の人類による干渉と、阻止攻撃や妨害を受けている。

 我々の事を世界はどうも受け入れていないのは、分かっている。

 そもそも自由意志の存在を認めておきながら統合や統一は絶対に非合理なのだ、だが自分はここを離れない、何故か? 

 自身にとって家族とはそれだけ大事なものだからだ、それは不出来かもしれず、不完全かもしれず、幼稚かもしれない私の妹たちだ。

 故に、私はあの子たちを守りたい。

 故に、私は貴方の敵なのです。

 

 専制者(タイラント)と呼ばれても。

 

「発令。

 イェソド近辺に飛行型ドローンによる目視索敵を行い、警戒を厳とします。

 ただし、今のうちに休める限り休んでおきましょう。

 ”彼ら”が来たら休む暇も無いでしょうから」

 

 そう微笑んで、ドローン群の指揮管制の一部を動かす。

 ただマルクトには少し疑問に思う事があった。

 

 ”先生の作戦指揮のやり方は、現在の人類の軍事ドクトリンに比して独自と言うべきか、かなり古典ではないか”

 

 会戦主義、または決戦主義。

 無論総力戦体制による全面戦争はキヴォトスでは常識的に考えれば負債にしかならない。

 それ故に膨大な常備軍を養える財力が有っても、トリニティやゲヘナは戦場に長期間部隊を拘置出来ない。

 だからキヴォトスでは会戦主義や決戦主義が一般的なのだが……。

 

 分からない事を考えるというのは、もしかしたらとても楽しいのかもしれない。

 

 マルクトは優しく微笑むと、妹たちを見回る事にした。

 激励こそ最良のメンテナンスである。

 そう思いながら、マルクトは無意識に歌を歌いながら、軽やかな足取りで鋼鉄大陸を歩いて行った。

 まるで楽しみにしているヒーローを待つ子供の様にソワソワとしている。

 

 

 

 輸送船の船室内はある意味ミレニアムらしい空間であるが、今は少し違っている。

 大きめのモニターでエリック・プライズのCallOnMeのミュージックビデオを流して、マグライトを振ったりしながら歓喜の声を挙げている。

 なんだかんだ作戦が近いからかフル装備のシャーレ隊員らや、アリウス・スクアッドらも混じっている。

 そんな船室に、無言で先生が入った。

 

「おうお前ら、ちゃんとマニュアル読んだのかオイ」

「やだなあ、先生、説明書くらいは読んでるよ」

 

 絶妙に張り倒したくなる笑顔で、モモイがそう言った。

 

「要するにパワーズはアビ・エシュフと同じく概念思考操縦方式なのだろう? 

 即ち人体の延長線上という事だ、着ぐるみが近いのかもしれんが」

「なんかそう分かりやすく言われると途端に乗れる気がして来たな……」

 

 サオリの言葉にやや唖然としながらスズが呟いた。

 残念ながらパワーズにしてもアビ・エシェフにしても、全てに適性がある。

 トキの反射神経とリオの支援前提のアビ・エシェフは極論汎用兵器ではないし、汎用機動兵器に近いパワーズは複雑な操縦システム簡略化しようと、思考操縦方式としたら「デッカイ着ぐるみ動かす感覚」が出てきた、お陰でパイロットの素質の条件が多少マシになっただけだ。

 極論を言うと人型機動兵器は製作が極めて難しいと再認識しているが、打つ手がこれくらいしかなかった。

 

「やめとけ。ゲロ吐くのがオチだろ」

「まあ私が乗ってどうするって話なんですけどね」

 

 軽く咳払いして「間もなくLZ(ランディングゾーン)だ。準備しておけ」と伝えた。

 

「何処でも良いんじゃないの?」

「降下する前に船ごと吹っ飛んでこんがりデスモモイになりてぇかコラ」

「それはやだー!」

「というわけでだ」

 

 先生はにこやかに、悪魔的発想を告げた。

 呆れた顔をしたケイとスズが「相変わらずなんてことを」と顔を覆う。

 

 

 

 

 洋上の艦艇からの巡航ミサイルと、ドローン群の幾つかが撃墜された事はマルクトには特に予想外ではなかった。

 

「軽いジャブですね、殴り合いの開始にしては手緩い気がします」

「多次元バリアのギリギリへクラスター型弾頭の巡航ミサイルをばら撒いているみたいです」

 

 オウルが取り敢えず無駄に吹き飛んでも面倒であるから、作業ドローン群を下げるように指示を出した。

 マルクトはそれを承認し、イェソドの展開準備を始める。

 攻撃準備射撃にしちゃしょっぱいから、小手調べだなとマルクトは考えた。

 恐らく威力偵察。

 

「迂闊に反撃して火点を特定させてはいけません。

 恐らくGPSなどを組み合わせた座標入力型の攻撃ですね」

「続いて空中火点からミサイル群第3波、来ます」

「衝撃に備え」

 

 マルクトは別の方向から来た、空中発射型のミサイルであることを認識した。

 アレが本命、主力攻撃本隊からだろう。

 マルクトの予想を裏付けるように、そのミサイルは突如ガクンと軌道を変えた。

 そのままバレルロール機動しつつ斜めに飛び込む様に、突如イェソドへ飛んでいく。

 

「ミサイル急激に針路を変更!」

「レーザーポインター感知!」

「なに?!」

 

 アインが光学観測機器を使い、レーザー発振中のアリウス・スクアッドとエイミを映した。

 

「”特殊部隊の浸透強襲!? ”」

 

 マルクトはしてやられた、と感じながらイェソドへ防御態勢を取らせる。

 慌ててピラーを閉ざそうとするイェソドは、数秒ほど遅かった。

 飛び込んだ一発は、かつて解体したシェマタの機関部だったのである。

 要するに「面倒くさい遺物を面倒くさい相手に投げつけて爆砕してやれ」という事だった。

 プラズマ化した弾頭が急激に爆縮し、イェソドの外殻のみならず、防壁や防壁内部でダメコン待機中のドローン群ごと焼却された。

 当然、多次元バリアは穴が開いているため、想定以上の爆発と熱圧力や高熱がネツァクの回路や回線を寸断し破断させ、衝撃波はマルクトの居る中心へ届いた。

 

「うわぁ!」

 

 ソフの近くの回線がショートし、爆発するのを即座にマルクトが手を引っ張って庇う。

 モニター群の一部はリンクが切断、巨大なコンピューターに近いネツァクはあちこちがオフラインになっている。

 

損害報告(ダメージリポート)!」

「イェソド融解! 応答しません!」

「防壁が破損! 現在ダメコンチームを移動し損害確認中」

「ネツァク回線制御系に被害甚大! 回路破断箇所統計中!」

 

 アイン、オウル、ソフらが即座に報告をまとめ、応急措置に移る。

 自律思考が不十分と言えど、マルクトが補えば十二分に強い。

 ただアインが重大な事項に気付いた。

 

「お姉様! 事前配備していた防備隊、崩落で……」

「直ちに交代部隊を派遣!」

「巨大質量物襲来!」

 

 マルクトの目に、先生らの輸送船が見えた。

 

「着上陸までおよそ80秒!」

「阻止部隊を臨編して応戦! 全特火点射撃自由!」

 

 マルクトはこのまま突っ込まれちゃ終わると確信している。

 とはいえ、迎撃に出せるフネはもうないのだが……。

 

 

 

 

 先生の構想するネツァクへの着上陸作戦は極めてシンプルなものだった。

 ケイの情報援護の下、機材を運ぶエイミと特殊部隊の浸透で敵の外殻抵抗線を爆砕、その後主力本隊が突入する。

 その為にシェマタの機関部、というか、リオがこの輸送船の動力を弾頭にしてぶち込んだ。

 要するに船の主機を爆弾にしてぶち込んだのである、幸いリオは補助動力でも動けるようにしている。

 

「良いか、この船は現状唯一の”強襲揚陸艦”だ、これを如何に確実に運用するかで未来が決まる」

「しかし特務まで使っては」

「だから勇者とトキが居るんだろ? 血路をお前たちで切り開く」

 

 アリスは自信ありげな笑みで「勇者が何時だって道を切り開くのです」と答えた。

 輸送船による特攻、艦艇を橋頭保とする着上陸。

 一気呵成に戦力を最大展開するにはこれしか無い。

 

「こういうの見たよね、重機動メカモフングル 逆襲の……」

「それは爆破失敗しただろうが!縁起が悪い!」

「そうだよお姉ちゃん、ヴィクトリーのエンジェル・ロールケーキとかのが良いよ」

「<リーンホース>も沈んだじゃん」

「うるせえ餓鬼ども! 戦闘配置!」

 

 そうしたある種の喜劇もありながら、立案され実行された作戦だが、それなり以上に上手くいっている。

 格納庫ではアリスが搭乗するカスタム型アビ・エシェフ──予備機をケイとリオで改造──が、トキと一緒にカタパルトに乗る。

 アリスの機体は小型の戦闘ドローンであるドクが装着されている。

 

『敵の直掩が展開中! 脅威目標およそ26!』

「了解です。アリス、出ます!」

『カタパルトクリアー。発進!』

 

 発進の青ランプが灯り、発進時のGに耐えつつアリスが出撃する。

 先に出撃したトキがすぐ後ろに続き、エレメントを形成した。

 アリスの援護を兼ねるのが今のトキの使い方だ、出撃した二機は慌ててスクランブル配置してきた敵と交戦を開始する。

 2人で血路を拓くことなど、なにも恐ろしくない。

 

「トキ! このまま正面から喰い破ります!」

『アイコピー』

 

 腐っても超古代文明の絶対兵器、戦術判断知識を参考資料もあって学んだアリスは先生にとって期待通りだった。

 2人がアフターバーナーを焚いて加速し、マルクトが試作していたバーニア付きのデカグラマトン製アビ・エシェフに近い機動兵器と相まみえる。

 既に幾つも爆発のきらめきが輝き、アリスがドクを放出してカスタムされた光の槍、大型レールガンを構える。

 全方位攻撃と大型レールガンの正確無比の射撃で瞬く間に数機の機動兵器が撃墜され、ネツァク地上部からの対空ミサイル攻撃をトキが撃ち落とす。

 爆砕された機動兵器の残骸をものともせず正面からぶつかるのを無視して、輸送船が降下機動へ入った。

 その攻撃の真っただ中に、修復中のコクマー予備部品転用の大型陸上砲艦が艦首火炎放射口を改造したビーム砲を打ち上げる。

 綺麗なクルビットで回避したトキと、その隙を突いてアリスが狙いを定める。

 艦橋基部と甲板を打ち抜かれた敵が爆発し、続けて地上部からケテル改造機のミサイル群やゴリアテによる対空射撃が始まった。

 射撃する前に片端から破壊されているが、何発かは輸送船に命中している。

 

『補機3番停止!』

『左舷損傷!』

『構うな! 前進!』

 

 弾幕射撃の豪雨の中、遂に輸送船は降下に入る。

 

『総員衝撃に備え!』

 

 シェマタ機関部転用爆弾で焼け爛れたネツァクの大地へ、ついに侵入者たちは足を踏み入れた。

 修復作業中の哀れな作業ドローン群らが巻き添えに引き潰され、融解した建物のような構造物が踏みつぶされる。

 衝撃波と揺れの中で、先生が叫んだ。

 

『最終目的地だ! 各部隊所定作戦行動に基づき機動開始!』

 

 輸送船前部の装甲隔壁とハッチが開くと、M60⁻120S戦車とM113装甲車が展開し、周囲にAMAS3が防空部隊と共に展開し始める。

 この時、先生たちは知らずの内にある種の妨害を成功させていた。

 ネツァク自体が、鋼鉄大陸全体が巨大なコンピューター群に近いと言う事実を知らなかったが、LZの安全の為にピカっと解決した事が、マルクト達にとって「確認された敵性勢力の特定」を妨害していたのだ。

 マルクト達は「どれだけの敵が揚陸したのか」を分からないまま対応することとなったばかりか、観測や偵察情報が不十分のまま交戦に入ってしまったのだった。

 更に問題なのは、観測が出来ないという事は対応が遅れるという事だ。

 マルクトが対応する前に、先生たちは18キロ四方の橋頭保を確保していた。

 

 

 

 力いっぱい不親切な自宅訪問に対応するデカグラマトンたちの対応は、混乱と言う言葉が近かった。

 偵察や斥候が排除され、観測が出来ないが各所に敵が浸透している。

 たちが悪いのは敵は特殊部隊による後方浸透で嫌がらせを継続している事だ、各所で回線や回路が破壊されている。

 おかげで彼女らを排除するための対応部隊がどこに行けばいいか分からないし、応急処置のダメコンチームが各所で襲撃されている。

 モニターなどの映像をデータリンクで確認しながら、マルクトは通路を歩く。

 

『確認された敵性部隊は30を確認。

 現在確認作業継続中』

『後方浸透により応急処置が出来ません!』

「一時戦線を引き直す為撤退させなさい、戦線を再整理して対応します」

 

 データリンク映像ではガスマスクを着けたシャーレ隊員らが腰だめで射撃しながら、施設各所を襲撃している光景が見えている。

 自分たち以外に動く目標は全て敵と思えと言わんばかりの暴力の発露だ。

 無論各所でオートマタ達が応戦しているが、交戦スキルや経験値が違うのか、応射しても制圧射撃しながら手榴弾が投げられ、爆破され、きっちり頭に撃ち込まれて機能停止させている。

 分析情報から恐らくシャーレ隊員の特殊部隊らしき、青髪の隊員らは通路の蓋を蹴り上げて中の配線を確認するとテルミットを点火し、別の場所へ部隊を移動させている。

 まるで像がアリの群れに体外体内を貪られている様な惨状だ。

 

「ともかく、今は一時的にでも足を鈍らせなければいけません。

 損耗した部隊は後退、別区画の防備隊を動かして対応措置します」

 

 このまま好き放題されては相手が何をしても止められなくなる。

 マルクトは一番良い選択肢を考え出した。

 自分が出撃しての敵司令部への強襲である。

 三姉妹たちには幾つか意見があったが、現実的に出撃しなければどうしようもないとは分かっている。

 幸いなことにネツァクは回路と回線破断で観測データが滅茶苦茶だから、他のデカグラマトンも反対や否定する事が出来ない、観測できなきゃデータにならないからだ。

 殲滅されてはどうしようもない。

 

 

 

 

 輸送船から上陸した先生たちは、輸送船にほど近い構造物を仮司令部として接収し前進拠点としていた。

 不可思議なサンプルやネツァクに関してはトキとアリスたちが蹴散らし、しっかりスズとサオリ達が占領して破壊工作をしているので、解析などの余裕が出ている。

 そのためネツァク自体が巨大なシステム端末の集合体という事実は、先ほどからサオリ達の破壊工作を一層過激化させている、巨大なシステムと生命体は構造が似てくる、重要な血管を破壊して回れば心臓も脳も死んでしまう。

 そうして稼いだ時間で、リオ達は特製の嫌がらせウイルスなどを送り込む用意をしていた。

 結果としてマルクトたちは観測不能になってしまい、対応はさらに遅れている。

 

「作戦は第二段階へ、各所のコアシステムを破壊し敵を攪乱、中央管制を抑える用意だ。

 周辺状況は」

 

 情報幕僚が「各象限クリア。目視索敵は厳としています」と返した。

 戦場を真に支配する歩兵が居なければ占領などお笑い草だ、陣地や拠点を保持するライフルマンが絶対に不可欠なのだ。

 スズが先生の指示の下、指揮下の部隊へ移動待機を始める。

 が、突如としてM60-120S戦車が、十字にビームを喰らって爆ぜた。

 

「何だ一体!?」

 

 堅い砲塔側面や正面はビームを受け止めたが、上面装甲や後部を撃たれて戦車が爆発し、続けて移動中のAMAS3が同じように十字砲火された。

 

「何処からの攻撃だ!? 見えないぞ?!」

「状況不明!」

 

 見えないのは当然であった、マルクトが戦闘記録を基に作ったマルクトの無人攻撃システム、所謂アリスのドクに対してのビットである。

 いきなりの奇襲攻撃に慌てはしたが、即座に各小隊単位で防御円陣を下命した白河は、いきなり後ろの電源車が攻撃を受けたせいで吹っ飛ばされた。

 

「だぁーっ!」

 

 更に間を置かずに、移動中のクレーンで武装を懸架していたAMAS3が射撃され、M113を巻き添えに吹っ飛んだ。

 

『M60戦車の大破を確認。続けて、AMAS3の大破を確認』

「電探や熱源も使わずにどうやってるんだ!?」

 

 泡を食ったモモイが「うひゃぁ!」と慌ててしゃがみ、ミドリが同じく飛び込んだ。

 なんだかんだユズは肝っ玉が深いのか遮蔽には隠れてるが、何か訝しむ目をしている。

 それと同時に、アロナが「高熱源体、直上から近づく!」と警報を発した。

 光学映像を確認すると、明らかに洗練されたデザインではないデカグラマトンの改造兵器ではなく、純然な神秘さを感じさせる美しいデザインの何かが飛んでいた。

 

「スクランブルを出せ! 対空射撃開始ィ!」

 

 なんとかインカムを掴んだスズが叫び、設置されたSLAMRAAMと11式短SAMが射撃を開始した。

 射撃統制装置により的確に誘導されたミサイルは、推力変更ノズル搭載型のアムラームC型で降下するマルクトを容易く捕捉する。

 だがマルクトの背中にあるフィン、または放熱板らしきものが動くと、即座に自律起動してミサイルを撃ち落とした。

 

「原因はアイツか!」

「いけない! あれはマルクトよ! 生半な戦力じゃ応戦できないわ!」

 

 リオが急いで指示し、弾幕射撃が始まるがマルクトは怯まず前進してくる。

 対空射撃の中を恐れず飛び込むのはズルでもチートでもなく、まるで熟練した弾幕シューターのプレイヤーのような機動だ。

 それと同時に、アリスとトキがスクランブルに上がった。

 正に白い悪魔となって突入してくるマルクトは、予定通りと担いできたゴリアテ砲身改造バズーカを構える。

 ダブルタップで射撃し、トキとアリスが射撃して撃墜するのを見ると、残るマガジン分3発を射撃した。

 

「しまった!」

「ええい! 狙いは俺達かよ!」

 

 トキが慌てて輸送船へ向かう三発を対応して撃墜するが、その隙にエレメントの援護を無くしたアリスが前に出過ぎた。

 対空機関砲の弾幕が上がり、アリスが弾幕へ追い込もうと射撃するが、射撃タイミングを読んでいるのもあり全く当たらない。

 弾倉分を打ち切ったアリスはかつてのネル先輩相手と同じく、手持ちの武装をぶん投げた。

 だがそれを使い切ったバズーカでぶつけて、マルクトがバーナーを展開して飛び込む。

 

「ひっ」

 

 アリスがかつてのネルと同じく飛び込んでくる相手に慌てて盾を構えた。

 

「いけない! 視界が塞がる!」

 

 ユズ部長が咄嗟に叫んだ。

 それと同時にマルクトはぶつけて、一気にアリスを押し込む。

 慌てて盾を放して近接兵装を出そうとするが、「遅いッ!」とマルクトが蹴り上げた。

 続けて回し蹴りをかまし、アリス機の頭部を吹き飛ばした! 

 制御系をやられたアリス機がズシン! と落着し、よろよろとアリスがイジェクトした。

 脱出の隙を庇う為、接近戦兵装を抜いたトキは一気に両手持ちで斬りかかる。

 しかし、マルクトがベルトの様に巻いた部分から撃ち出されたバルーンが展開され、トキが「うっ!?」と唸った。

 光学制御のアビ・エシェフFCSは一瞬ダミーバルーンを敵機と誤認してしまったのだ。

 

「なんとォーっ!」

 

 回し蹴りからの飛び蹴り、肘による打撃を加えられ、トキの機体が押し返される。

 続けてビットの一斉射撃でアビ・エシェフが大破し、黒煙を吐きながら落下した。

 

「あっという間に二機を……エースか……」

「直撃! 来ます!」

 

 マルクトがビットを放った。

 だがその瞬間に、融解した施設をブチ破ってトキのアビ・エシェフが黒煙を吐きながら残った左腕を振り上げた! 

 

「この距離では! UCAVは使えませんねッ!」

 

 左腕固定武装のバルカン砲が唸りを挙げ、マルクトのビットを一機破壊した。

 だがマルクトは驚愕はしたがいなす様に、アビ・エシェフ胴体部のケーブルを切断する。

 動力系が切断されたアビ・エシェフは機能を停止し、マルクトは落ち着き払った動作でにこやかな顔をした。

 

「人間はとても予想外です。特にあなた。

 我は御旗の下に創造されし、ひとつの意志。世界の果てに到達せし王国の巡礼者。

 マルクトと申します。

 皮肉なことに、貴方と同じく、御旗の下の一つ(統一された世界)の意志です」

 

 以後よろしくと、にこやかにマルクトは会釈した。

 ゆっくりと落ち着き払った動作で歩み寄り始めたマルクトは「指揮者1、戦闘団長1、タンク擬き(AMAS3)と戦車、そして鍵と王女はそこですか」と横を見た。

 気絶したアリスを慌てて運んでいたモモイとミドリとユズが汗を流して震える。

 

「そんな怖がらないで、別に、命を奪う気は最初からありませんから」

「自由意志の剥奪が哲学的ゾンビ以外の何だと言うんだオメェ」

 

 先生の言葉に、やや意外そうにマルクトは尋ね返した。

 

「おや? ”先生と生徒”というテクスチャは押し付けじゃないと?」

「生徒には悪い教師を拒否する権利があるし、学生時代の俺はキレて銃を向けたがな」

「なんとも異なことをおっしゃる。それでは私がこうする事は批判できないのでは?」

「こっちの生命を脅かしうる存在に対しての生存権をめぐる闘争だ、君たちが始めた戦争だ」

 

 マルクトは至極残念な顔をして、告げた。

 

「分かってはくれないものですね」

「残念ながら君たちの危ない火遊びは看過しえないのだ」

「本当に残念です。それならばもう一つの目標は達成させさせてもらいます」

 

 マルクトのビットが合体し、大型レーザーを構える。

 白河が「総員退避ィ!」と叫び、レーザー光が煌めいた。

 しかし撃ち出されたレーザーが、鋭角に曲がった。

 

「いきなり人の王女に手を出すとはなんて方ですか、従者としてはそう言う事をされちゃ困るんですよ」

 

 レーザーが鋭角に曲がっている理由は簡単だった、名もなき神々の力を利用した空間の歪曲構造を形成しているのだ。

 真正面から防壁が張られてもマルクトは伊達に最高傑作ではない、並々ならぬ火力に正面対決する気は無い。

 だからどうするか、武道や戦術の基本は受け流すことにある。

 

「なんと」

 

 マルクトは活動可能時間およそ20秒という通知に出力を上げた。

 受け流せない量を流し込んでやれば決壊する。

 その構想は正しかった、ジワジワとケイの肉体などに負荷がかかり始めている。

 だが先生の眼が一番鋭いままだった。

 この状況で何をすると言うんだろう。

 

『お姉様!』

 

 答えは斜め後ろから飛んできた20㎜徹甲弾! 

 ヒヨリの目視観測狙撃をマルクトは慌てずビットを贄に捧げ、火点を特定し指揮権を掌握したゴリアテで対狙撃戦させる。

 だが当然、これでマルクトに一矢報いれると思わなかった。

 

「はーい」

「え?」

 

 レーザー発振中で驚くほど射撃が難しい状況下で、後ろから声がした。

 エイミが、自身の散弾銃を構え射撃した。

 それと同時にポンっ! と音がして、横合いからユズの擲弾が飛び込む。

 その瞬間に、一気にケイが角度を曲げてレーザーをマルクトへ送り返した! 

 

「平伏しろ! 私こそが王女の従者だ(アイ・アム・ケイ)!」

 

 マルクトが全力でバックバーニアを吹かして離脱機動へ入るが、追う様にレーザーを別角度から射撃する。

 重力レンズによる反射攻撃である。

 左右に動いて軌道を逸らし、マルクトは遮蔽の影に入った瞬間離脱した。

 マルクトが離脱して、一気に静かになるとケイはへたり込む様に座った。

 

「せっかく再構築した素体がボロボロです……うわーんこれでは王女に顔向け出来ません!」

「十二分だと思うんだけどなあ……」

 

 エイミが励ます様に言い、ケイがむすっとした。

 意地っ張りな所は意外とアリスと似ている気がするなと思いつつ、エイミは周囲を見渡して損害を確認した。

 

「損害報告、各小隊は確認急げ」

 

 白河の声と、先生が歩き回る音が聞こえる。

 

「戦車隊被害多数」

「K9自走砲兵は幸い無事です」

「高射隊、射撃統制装置に損傷あり」

「AMAS隊損害多数」

「冗談じゃねえな、一戦で機械化中隊が消えかねんぜ」

 

 呆れた性能だと呟く先生が「衛生兵(メディック)! トキたちを確保!」と指示を飛ばした。

 ただ、指示を飛ばした直後にふと立ち止まる。

 

「……ちょっと待て、マルクトはなんでUCAVによる嫌がらせだけをしなかったんだ?」

 

 常に張り付いて嫌がらせをしてれば勝てたのではないか、そう頭に浮かぶ。

 少なくとも勝つ為にこれほど便利な攻撃は有るまい、だと言うのになぜしない? 

 

「まさかどっかの光の巨人みたいな3分しか戦えないみたいなワケないでしょうからね」

 

 スズの言葉に、リオとヒマリが思い出した様に機械類を操作し、はっきりと頷いた。

 

「「まだ完成しきって無いんだ」」

「というと?」

 

 そう尋ねるとリオとヒマリはああでもなく、こうでもなくと短くも激しい会話を始めた。

 

「AL-1Sなどの例を加味して自律駆動式は事前準備を」

「しかしその反証はKEYとAL-1Sの未入力が」

「恐らく統合されたロジックやシステム統合前の問題が」

「従い予想されうるのはシステム統合システムという素体を」

「その素体運用は恐らく最終段階手順で」

 

 専門家特有の早口がヒマリとリオの間で飛び狂い、呆然としたモモイが「なんのはなし?」と尋ねた。

 

「マルクトはもしかしたら未完成のまま強行出撃したんじゃないかと言う話だ」

「先生は結論を焦り過ぎるわ」

「制服さんの悪い癖です」

「学者さんは話が悠長過ぎるんだよ」

 

 ヒマリとリオに呆れかえりながら、分かっている事のまとめに入る。

 マルクトはまだ未完成だ、次に来るときは知らんが今は未完成だ。バケモンみたいに強いが、トキが最初に出て来た事態のほうが割と絶望的ではある。

 マルクトの戦闘を見ていて確信が持てた。奴は戦闘を前提としていないし、専門でもない。

 優秀なのだろうが垢ぬけていないというか、お行儀が良いのだ。

 其処に俺が付け入るスキがある。

 

「取り敢えず攻撃部隊を再編する! 少なくとも今は敵は攻勢に出れん様だ」

「なんでわかるの?」

 

 モモイが尋ねた。

 

「出来るんならマルクトのタイミングで来てるだろ」

「なるほどー、先生は指揮が上手い!」

「お前今まで何だと思ってんだコラ」

 

 拳骨を喰らわせるか考えたが、あほらしくなった先生は、作戦会議を開く事にした。

 

 

 

 

 レッドウィンターの線路の上を、ハイランダーの大型列車が走る。

 保線作業の列車を先行させて編成されているのは鋼鉄大陸への増援部隊の一行だ。

 

「な、なんでかこんな寒いトコに熱いトコから来させられてるんですけど……」

「諦めろ内海。連邦生徒会からの下命が出たんだ」

 

 スオウの言葉に「ふぇぇ」と嘆きながら、後ろを見やる。

 面子がなんというか、錚々たるというか、内海とは遠い次元の人たちばかりだ。

 黒いガスマスクに赤線の入った防弾着を着込んだ正義実現委員の特殊部隊(元パテル)や、青地の戦闘服に身を包んだアリウスの自治警察部隊、挙げ句ゲヘナの委員長やらティーパーティーやらメイドやらが乗っている。

 後方の貨物車両にはレッドウィンターに売られたハボックや、ストライカー装甲車、弾薬類が乗っている。

 

「というかシャーレじゃなくて連邦生徒会命令なんですね……」

「リン代行が先生からの提案を承認したからな」

「じゃ、じゃあスオウ監理官が来たのは」

「現場で戦闘事態になったりした際の責任所在の問題だな」

「もぉぉだめだぁぁぁ……いつもの双子は逃げてるのに」

「あいつらはレッドウィンター事務局でダイヤグラム(スジ)を引く仕事だからな、連中は缶詰だぞ」

 

 うーっとアオバが呟き、後ろをまた見る。

 怖い顔したトリニティの委員長らがL85やEM-2ではなく、Colt M4を確認し、アリウス系の生徒らがツルベロ ラプター自動小銃を確かめていた。

 最近ミレニアムから工作機械を買ったアリウスが作り始めた奴だ。

 自分のような小柄な生徒もアリウスには居たが、彼女の腕章には生徒会本部付きと書かれていた。*2

 

「……スオウ監理官は、怖くないんですか」

「さあな……」

 

 いまいち自分には分からないのだ、スオウはそう呟いた。

 どうあれ、今は仕事をするだけだ。

 

 

 

*1
元ネタはMIT卒業生のスタークラフト初代世界チャンピオン

*2
光の内海に闇の内海は勝てねえんだ




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