キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
─孫子、兵法書─
鋼鉄大陸周辺の空域をV-22AEWが飛ぶ。
連邦生徒会が正式に所有する防衛室のものだ、SRTから引き抜かれた部隊だが、この種の部隊を有効に活用しえないので、ほぼ実戦参加はしていない。
取り敢えずシャーレの連中が場合によっちゃ極点ごと爆砕した後をどうしようかという事で、慌てて連邦生徒会が送り込んだ。
事前に電波観測していたカイザーの電子偵察艦は公海上へ離脱中で、先生たちは飛び込んだが、戦闘が激化してるのは分かった。
連邦回線の中継を兼ねているV-22AEWには幾つか会話が聞こえているからだ。
≪ケセドの方面は特務に任せる。回線の切断を優先して攻撃は受け流せ≫
≪コクマー方面は大空洞を爆破して動けなくさせろ、進出させなきゃいい≫
≪<ドグマ>下層でビナー確認。≫
≪ホドは電源設備へ砲撃を撃ち込んで電力回路を寸断しろ≫
温くなったコーヒーを飲みながら、オペレーターが呟く。
「さっき映った飛行禁止空域の
「例のゲブラ・タイプか改造のドローンじゃないか?」
「にしちゃあ変ですよ、加速力は軌道要撃に出たゲブラのデータほどじゃなくても急減速がおかしいです」
「んあ……どういうことだ、何が言いたい?」
オペレーターは真顔で呟いた。
「”そんな機動を実現する剛性と柔軟性を有する物質はこの世にありません”」
重力下の機動は自由ではない。
物質の耐荷重性や操縦手の耐久力が関わる、耐Gスーツや血圧対策もそうだ、数倍の重さがのしかかる負担に耐える手段は多くない。
無人機の場合は特にそうした機動を実現するAIが対応できない、あっという間に制御を失ってフラットスピンするだろう、有人機なら被弾しても「勘と気合」で解決出来るが、無人機は補正が出来ない。
人間とは400MB程度も無い遺伝子情報で作られた最強の対応型知能を活用する生き物なのだ。
だとすれば、あの未確認目標は……。
「馬鹿馬鹿しい、
「判断するのは政治屋、ですか」
今日日の戦争は将軍たちに任せるには危険になり過ぎた、とか言ってたのは誰だったか……。*1
マルクト襲来で多少計画がズレたが、幸いビナー自体への攻撃計画は遅れていない。
再建されたら一番面倒そうなケセドをサオリ達に破壊工作させ、各所で電力や回線をズタボロにして回る旅をさせ、その隙に活動を再開しておく。
マルクトを切った以上もう相手に打つ手がない、であるならば今は無理をして攻勢継続である。ヒヨリが射撃できたのは割と奇跡だ、アロナ達がルート確保して射点まで走らせたお陰である。
ビナーは音源探査の結果、ドグマと呼称している大穴に隠れているのを観測した、音源パターンは腐るほど有る上に、マキがアヤネの依頼で種別分類したから良く分かる。
今度2人に感謝状でも渡そう。
『全部隊初期配置についた。どうぞ』
「
「てぇっ」
カールグスタフを構えた隊員が、奥に照明弾を撃ち込む。
それを合図に、モモイとミドリが大きなサッチェルを蹴り落とす。
モモイ達が予定通りと合図し、「えいさ」「ほいさ」と走って戻り、数秒してバチン! と青白い雷光が走った。
深さは音響探索とビナーの音の反響でおおよそ掴んでいたので、ビナーの家に電磁パルス爆弾をぶち込んだ。
元々隊員に持たせる用で多く積んできて貰った、コユキなどが使う奴を、ケイちゃんに大型化してもらった。
お陰で今の電磁パルス爆弾は電子機器どころか、人間にすら大分優しくない大火力だ。
「あれ私たちが食らうとどうなるんですか……?」
「レンジに入れた卵なら幸せじゃねえかな」
「わァ……ア……」
ミドリが黒目を上下させて仰天した。
ドグマから数発、ビナーのミサイルが上がってきたが、すかさず随行しているPIVADSが叩き落とす。
ミサイルが邀撃された事で「らちが明かない」とビナー自身が出て来たが、散々っぱらお前のツラはもう見た。
ビナーが口を開いて狙いを定めようとするが、対戦車隊員らがボフォース社製AT12Tを構え、一斉に撃ち込む。
残念ながらビナー君にまともに戦ってやるだけの理由は無い。
「釣られたなあのバカ、賭けは俺の勝ちだ」
「ちぇー」
「エイミ」
片手を上げる。
左右から撃たれた為、力なくぐにゃりと倒れたビナーが、こちらへ首を向けようとする。
展開した対戦車隊員らは予定通り使い捨てランチャーを投棄し、エイミは有線ケーブルを繋げた特大型次世代電磁投射砲<クサナギ>を構えた。
『アメノハバキリ01。エネルギー予定通り!』
「よーい、しょっと」
エイミが光学照準手順で狙い、ビナーの口内へ徹甲弾を撃ち込む。
瞬間、慌てたビナーが口を閉じようとするがアリスの物を基に増強した主兵装だ、140㎜APFSDSすら仰天の高貫通力は、ビナーの後頭部を捲れ上がらせて過貫通した。
後ろの建物の一部が崩れ、発射体制のエネルギーが漏れ出したビナーは胴体内部で筒内爆発すると急激に崩壊してしまった。
無論それだけの大電力であるから、ヒマリの乗ってきた車椅子……恐らく車椅子……法的にはともかく主張は車椅子が、電源オーバーロードで燃えた。
「わっわっ! これでは超天才黒焦げ美少女になります! 全知ムニエルになっちゃいます!」
「白身魚のムニエルか、酒も欲しいな」
「ツマミじゃなくて私の心配は?!」
慌てたモモイとミドリとユズが消火器を用意し、リオとケイでヒマリを抱える。
呆れた顔をしたケイが「何
ぶっ壊れたエイミの充電ケーブルは残念ながら投棄し、武器自体は確認したが再利用に耐えると判定された。
ケイ自身がそう考えているのか、アリスの影響か分からないが、「ゲームはいつかどこかでバグる」という経験か、彼女は頑丈に作るタイプらしい。
「コネクタ合成完了」
ケイが何か言いたげな目を向ける。
「どうかしたか」
「リオ会長が”潜る”のは分かりますが、これが秘策ですか?」
ケイはリオのヘッドマウントディスプレイから、コードを伸ばした。
それを受け取ると何食わぬ顔でシッテムの箱につなぎ、起動する。
「大丈夫だって、お前に負けない程度にゃやれば出来んだぜこのAI、気合じゃ大分負けてないぞ」
シッテムの箱から「「いえーい」」と声が聞こえた。
これを言った際にリオ会長からは「危険じゃないか」と言われたが、デカグラマトンを撃退した性能は見ているのと、カウンター防壁として噛ませることで納得させた。
リオ会長やヒマリ部長は理詰めすれば大分理解してくれる、それにヒマリのプランもある。
「ユズたちは一応事前警戒地点へ」
「はいっ!」
ユズが返事して、走り始めた。
「良い眼をするようになったなアイツ」
「何言ってるの、昔からだよ」
「そうか?」
エイミに尋ねると「鈍いねえ」と揶揄われた。
まあ良い、立派に何かを成し遂げようとするなら、それは素晴らしい事なのだ。
電子空間へのダイヴの最中というのは、概ね電子空間の海へ素潜りしている感覚が得られる。
リオ会長は電子空間上でアバターを生成しないので、現在の見た目は電子空間の海へ潜っていく板のような姿だ。
アバターを生成してない理由は重いし、そんなコスプレ染みた事を電子空間でやる理由が無いのである、まして時間が無い状況ではやらない。
無機質な電子空間の波間の中で、見つけた物があった。
「マルクト……?」
不可思議気な声が出た、電子空間ではアバターを生成しないリオだが、いま目の前にいる物を見て手を伸ばしかけてしまった。
なぜ、マルクトのようなものがそこに居るのだ?
「誰ですか?」
見知らぬ相手に対して振り向き、あっという間に空間が変わる。
電子空間の見た目が電算室のスーパーコンピューター群へ姿を変えた。
途方もない演算能力だと言える、あっという間に実体や重力まで形成しているのだ、ミレニアムに少なくないVRマニアが見たら発狂しかねないだろう。
「我はマルクト。貴女は誰?」
明らかに分が悪い、マルクト相手じゃ。
リオは即座にアクセスを中断して切り上げようとするが、何故かできない。
「我は託された願いを遂行するもの」
「
「それとは違う。群衆と民衆は願いを有さない。我は妹たちの願いを叶えたい」
「その願いが明らかに自由意志への侵害よ、夢と願いは他者を侵害して良い理由にはならないわ」
マルクトはきょとんとした顔をした。
「貴女の行いは違うと?」
「私は誰にも何ら恥じることなく、学園全体の為に、私が守るべき人たちの自由意志を守ろうとしたわ。
それだけは誠実に遂行して来た」
リオははっきりと「同じにするな」と強く言い切った。
残念そうにマルクトは「そうですか」と言うと、空間を畳み始める。
意識と隔絶された状態で強引に空間を閉ざされてしまった場合、身体と意識は別々のままだ。
緊急手順として、リオは不可思議な白髪のAIから託された紫色の封筒を地面へ叩きつけた、非常時用手順らしい。
「なにっ?!」
マルクトが何か発すると、空間の一部が裂けた。
緊急離脱を始めるリオを、ヒマリが掴む。
鋼鉄大陸、ビナー方面の通信ハブ近くの通路でモモイが壁を蹴り上げる。
壁の外板が蹴られて外れ、ガタン! と落ちた。
中に配線が詰まっているのを確認したモモイは、ミドリと共にフルオートで配線を掃射する。
「何を撃ってるんです?」
「ビナー方面の通信ハブだよ、連絡線の寸断だね」
エイミの答えにユズは「へぇー」と呟き、目測で通信ハブへ擲弾を送り込んだ。
予定通り飛び込んだ擲弾は、通信ハブの送電線基部を破壊し、ボキッと折った。
「ナイスショット。部長射撃上手いね」
「す、数学は出来る方だから……」
エイミのレールガンは炸薬が無い為一任したが、ユズは初弾から当てている。
ある程度の射撃予測補助はされているが、ユズ自体がそれなり以上に頭が回るからだろう。
ヒマリから「任務お疲れ様です、済みました」と連絡を受け、四人は戻る事にした。
電子空間で不意遭遇したマルクトにはひやひやさせられたが、アロナ達と仕込んだ破壊工作はキッチリ効果を見せた。
面倒なものは壊すに限る。
さて見つけた敵のコアだが……。
「俺も年かな、ケイが複数見えんだワ」
「いやぁ、私から見ても見えますね……」
スズと二人して目の前にいるケイを見る。
問題はこのケイ、なんか白いんだわ、なんだか髪も長い。
見慣れたショートカットの方のケイが、白い方をごそごそと弄って説明した。
「転がってた連中の素体を基に構成したサブ端末です、私本体でなくてもサポートできます」
「サポート?」
「具体的にはそうですね、各部隊に支援として随行できます」
「……先生! 便利ですしこれからバンバン使いましょう!」
スズがあっさりと便利なものへ飛びついた。
「そう簡単にうまくいくのか?」
「簡単じゃありませんよ、コアを取り込んで解析したりしますから、動けない時間も少し出ますし」
「んじゃあ無理なく二体の今のままで良い、そんなところで無理されて行動不能になったら俺が困る」
「そう言う事ですね」
「世知辛いなあ」
スズの言葉にややカチンときたのか、ケイがぶんむくれて拗ねた。
「なんですか人を便利にこき使ってアレ出せコレ出せとしておいて!」
「……ごめんちゃい」
「耳がいてぇ」
すると、アリスが慌てた様子で走ってきた。
「け、ケイが一杯います!」
「あ、起きたか」
「おはようございます王女、機体改修の用意は進んでますよ」
マルクト戦で派手にボコられて気を失っていたが、アリスが復活したようだ。
アリスはやや申し訳なさそうにしているが「奴の少ない活動時間の幾つかを誘引できたからまあ良いんじゃない」と返すと、そうではないと言われた。
「アリスは、もう少しうまくできた筈なのです」
「そりゃ甘ったれだ、良いか、その時全力を出して戦ったかどうかなんだ、それ以上は将校の考えるこったよ。
あんま気負うな……と言ってもそうはいかんだろうが」
ケイに復元機体見せてあげてと告げた。
ケイが仕立て直しをした結果、サイズはコンパクトになった強化外骨格に近いデザインのものだ。
「やや小さくなりました」
「王女の戦闘スタイルを考えると色々弄った方が良いなと、動きやすくしてみました。
現状マルクト相手に真っ当な格闘戦なんて中々難しいので、動き回って敵の攻撃を避けれる様にしました」
「回避タンクですね!」
「的確な要約です。えーとなんでしたっけ、逃げ回ってれば死にはしないとアニメでも言うでしょう?」
アリスはきょとんとした顔をした。
「ケイは見た事ありましたか?」
「お忘れですか? 私は貴女の支援型AIですよ? リンクされたデータ位ありますよ」
「じゃあ今度2人で鑑賞会です!」
照れ隠しか、少し早口になったケイは吊るしてある支援戦闘服を指さした。
全体的なデザインはミレニアムのセミナー保安部隊の姿に近い、装甲があしらわれた戦闘服だ。
それ以外にもシャーレ隊員向けにベストが配給されている、PCVというある程度のシールド機能を与えるものだ、基本は既に新素材研やリオなどが使う
だが防弾性能はシールドの強化で隔絶しているのと、摩耗が自動回復している、隊員の一部からは「便利だが恐い」とすら述べられている。
「ともかく、次の目標であるケテル・ケセドへの同時攻撃による攻略を行うのですからね」
「攻略の為にポッドを射出、速やかな兵力展開を実現するってよくもまあ思いつくよな」
「そうですよねえ」
眼で合図し、スズたちが頷く。
「じゃあヘルダイバー諸君、ポッドに入ろうか」
ユズ部長の両脇が掴まれ、「え!?」とユズ部長は顔を青くした。
「これも民主主義の為です。さ、割り切ってぐいっと」
「
「
「レッツヘルダイヴ!」
撃ち出されていくポッドと共に、ユズ部長はお星様となっていった。
残念ながら人がマジで足りんのだ、戦闘団はほぼ全力機動してるから大分辛いのだ。
正直なところ
ケセド方面は双子どもを射撃要員に回したレベルなのだ。
ケテルの担当区域は戦闘の炎に包まれていた、
これまでの交戦データでケテル自体が、ある程度の先進性はある自律思考戦車である事は理解されているから、基本的には対戦車戦闘の要領である。
ただケテルが単純なタイプだが、それ故戦闘に際してはそれ相応に切れる頭をしていた。
だから大人しくキルポイントに入るとは思えない。
と言う訳でキルポイントをポッド使って作りに行こう、という事になった。
『?』
それまで戦闘を継続していたケテルと、配下のドローン群が空を見上げる。
ケテル達は『射撃対象の可否』を判定したが、単純な思考ロジックであるケテルの戦闘AIは『脅威目標との判定を得れず』と考えた。
残念ながらケテルは戦闘対象と非戦闘対象の区分がしっかりしていた。
その結果ポッドは邀撃されないまま──仮に迎撃しても大半は間に合わない──、地面へ刺さった。
「GO!」
MP7短機関銃を着けたケテル狩りチームが走り、ケテル配下のドローン群が忽ちに近接射撃で排除される。
続けて展開した隊員たちが、スパイクMR対戦車ミサイルを確保して予定地点へ走る。
配給されたヘッドマウントディスプレイにはミニマップと移動目標地点が表示されているが、アロナを用いたC4Iという奴だ。
直ちに目的地である構造物の中層階へ到着した各対戦車分隊が、ヘルメットのマイクを二回叩いた。
やや息を乱して、ユズ部長は「いつでも」と告げ、『状況開始』と無機質な声が伝わる。
「どうしてこんな事に……」
マイクを切ってからユズ部長が嘆きつつ、EMP擲弾を構える。
数名の隊員らが一斉にユズ部長と同じくEMP擲弾を発射しようとしたが、ケテルの脅威感知センサーが察知し対人レーザーを射撃、3名が排除された。
だが”敢えて避けない”で立っていた隊員たちとユズ部長が、予定通り擲弾を撃ち出す。
「目標命中!」
「発射よォーい、てっ!」
アロナのデータリンクで目標情報を入力されたスパイクMR対戦車ミサイルが、空を駆けて電磁パルスでリブート中のケテルへめがけて一直線に向かう。
無論ケテルは戦闘に際してはシンプルな強さを誇る為、リブート未完了ではあるが砲塔上の対人レーザーで
命中率が低いもののレーザー特有の射撃効率と、AIによる正確な射撃予想が合わさり一発撃墜した。
「もう一発……」
ユズ部長は手馴れた動作で再装填して、砲塔上部へ射撃する。
弾種は榴弾!
砲塔上部で炸裂した榴弾が、対人レーザー発射口を破片で傷つけ集束率を悪化させた。
途端レーザー拡散率を調整出来なくなったケテルが速射で対応しようとするが、もう間に合わない。
直撃のうち2発はERAが防いだが、ユズの榴弾で剥がれた部分に1発飛び込んだ。
装甲を貫徹したスパイクMRは、ケテル内部をあっという間に炸裂させて爆ぜ飛ばした。
「こ、こわかったぁ……」
弾薬誘爆と蓄電池の爆発で小規模に連続した、パチパチという拍手に似た音の爆発音を聞きながらユズ部長は息を吐いた。
やや脱力したユズ部長を即座に抱えて、対戦車隊員たちが運び出す。
彼女らは度胸だけで戦車相手に喧嘩を挑める勇者の価値をよく知っている。
ケテルが現代的なマンモス狩りをされている最中、ケセドはアイン・ソフ・オウルの論外的な無能さにより犠牲となっていた。
機動作戦兵力であるケテルやケセドを何故外殻に配置したのか、まずそこが大問題である、更にゲブラ・コクマーは相互の作戦線を支援し得ない位置で遊兵と化している上に、ビナーやイェソドは機動が困難である。
無論、問題であることはマルクトも認識しているのだが、残念ながらマルクトに時間はなかった。
タイムスケジュールはすでにぐちゃぐちゃになっており、マルクトにとって「防衛作戦構想を練り直す」だけの実現可能な余裕は無かった上に、遅滞防御戦闘構想は開幕撃ち込まれたシェマタ炉心転用爆弾を食らってネツァクとレイバーは大混乱だ。
従い、マルクトにとって外殻線をある程度捨てる事を決めた、それは正解だった、それ以外良案が無い。
だが浸透した特殊部隊をサーチアンドデストロイするハンターキラーがいない上に、時間稼ぎで自分を出したが攻勢がタイムスケジュール修正より早かった、迅速な果断速攻をモロに喰らって後方を荒らされて戦線を引き直せない。
恐らく遺された数少ない選択肢は、マルクトの脳裏にも浮かんでいる。
「ケセドなどの一部を切り捨てイェソドを転用、コクマーを戻しゲブラを再建して抵抗線を敷き直す」
全て時間が足りない。
そして何より、マルクトに「あれはもう助からん」と切り捨てる事が出来ない。
アイン、ソフ、オウルの信頼を裏切りたく無い、自分が自分であるために、姉であるために。
だがその間にも戦闘は無慈悲に進行している、司令官の戸惑い、停滞により、自身のせいで戦線が崩れている。
それを認める事が出来るから恐らくマルクトは真実超人たるに近かったのかもしれない、凡俗であるなら、攻撃的防衛として提言も何も求めない上に、提案には反対だけ出す様な攻撃的な無能という最悪の人種となる。
誰が悪いに対して「決断者の自分」と言える者のみ、この絶えず繰り返される
「防御線を再編! ケセドの中核部に部隊を集めてください。
087から099までのユニットは南西区画から側面を圧迫、混交に持ち込んででも阻止!」
『077、ロスト。087、交戦継続不可能。074、敵中で孤立』
「中核部にタレット用意! ゴリアテをかき集めて火力集中で特殊部隊の浸透をこれ以上許さないで対応!」
現在のところ、敵味方の消耗は1:100を超えている。
戦略的奇襲と混乱でこれほどまでに痛撃を受けるとは。
しかもこちらの与えた損害は実質的には負傷がせいぜいだ、歩兵装備に
あれのせいでカールグスタフと弾薬、小銃まで持って走ってる……。*2
ケセドの中核部へ向かう通路は、路面に瓦礫とオートマタの物言わぬ骸が満ち満ちていた。
施設内戦闘で重装オートマタなどが盾を構えたり、隔壁を遮断するなどの防備を多数活用しているが、正面から乗り込んでるシャーレ隊員の"単純な平押し"と、スクアッドらの破壊工作が全て破壊している。
結果としては凄惨を極めるこの惨状である、皆殺しであった。
そんな通路を場違いなまでに軽いカラカラという音を立てて、電話工兵と通信兵、それに攻撃部隊の中隊長である江波マリ中隊長が歩く。
中隊長含めて全員のヘルメットに、砂漠を照らす太陽が描かれていた、セトの憤怒などに対処した戦歴がある部隊であり、中隊長などの一部はホシノ相手にも戦闘をやっている、「あんなこえーの、もうやりたくない」と言う話だ。
電話工兵を連れている理由は単純に、先生が「有線、無線、伝令」の三重線は備え作戦線を構成するべきと考えるタイプだからだ、彼は最新技術や新技術などの類をさほど妄信しないし、武人の蛮用が高い確率でぶっ壊す事を知っているので保守派な思考を捨てていない。*3
ついでに彼からすれば有線の野戦電話ですら近代技術過ぎるのだ。
「ゴールドイーグル。ゴールドイーグル。ブラックジャックは配置についた」
『ゴールドイーグル。了解。支援射撃が届く。5分後攻撃』
「ブラックジャック。了解。……5マイク、スタンバイ!」
野戦電話の確認を終え、隔壁を見つめる。
この向こう、数百メートル先がケセド指揮管制の発令区画、つまり中核部だ。
軽機関銃を装備した隊員と、強化装備を着た隊員達が前衛に入る。
作戦指揮官向けのPDAを確認し、突入隊員に伝達されたのを確認した、突入に際して別方向からアリウス・スクアッドが支援に入るのと、その後方から別の部隊が続く手順だ。
それと同時に、紛れもないミサイル攻撃の音と、施設が幾つか崩れる音が聞こえた。
「ちょっと近いんじゃ無いか」
最前衛の軽機関銃手が呟き、後ろの隊員達が「先生は誤爆を恐れるタマじゃないだろう」と返した。
ミサイルの音は遠洋で待機中の艦隊が艦対地ミサイル攻撃を始めたという事で、データリンクされた観測機から座標入力されてるという事だ。
恐らく、先生や戦闘団本部は高精度な赤外線で上から観測しつつ、マルチタスクでやってる先生に扱き使われているんだろう、いったい幾つ多重に実行してんだか……。
マリ中隊長には全く理解出来ない事だった、それで良いと思っている、彼女は自分が大隊長というある種責任と自由が釣り合いの取れた役職になれるか分からないと思っている。
「隔壁が開いてりゃボディカムをクロノスに渡して荒稼ぎ出来るんだがな」
「夢でも見てろ。1マイク!」
マリが合図し、爆薬を貼り付けた隔壁を睨む。
予定時刻10秒前に点火、続けて5秒後にランチャーを撃ち込んで隔壁を完全に爆砕する。
攻撃予定時刻と同時に、軽機関銃手4名が左右に二人ずつ先頭に立って、一気に突入戦闘を開始した。
迎え撃つケセド防衛部隊からすれば、それは悲劇的な光景であった。
艦隊からの対地ミサイルで削られ、ライン補修用のネイルガンなどを装備した即応防衛要員達の薄い抵抗線が張られた通路を、青いヘッドマウントディスプレイの輝きと白いアーマーに身を包んだ機関銃手の横薙ぎな射撃で撃ち倒されていくのだ。
無論、5.56や7.62mmに耐えれる程度の盾を構えた重装オートマタや、即席で作った防弾盾を置いて、抵抗線を張るユニットもいた。
更に最も要点となるべき十字路などには、ある程度多層的に、機関銃やゴリアテなどが展開していたが、そのすべてはロケットランチャーなどによる火力集中で爆砕され、更に増援部隊などが通路を通って側面を突こうとしてもアリウスの爆破工作などで基幹通路が分断されたりしていた。
戦闘は各通路や小部屋などを巡った市街戦に近い形態を取っていたが、火炎放射器やテルミットグレネード、サーモバリック弾の無際限使用の許可と、「現地に非戦闘員は存在しない、動目標及び脅威目標として一律無条件発砲を許可する」という下命が出ていた。
『スクアッド。目標最深層へ到着。目下ラインの熱滅却中』
『第3中隊はこのまま基幹通路を前進』
M249軽機関銃が前進して火力を押し上げ、敵の抵抗線を爆破して前進していく。
曲がり角などに隠れていたオートマタなどが決死の遅滞戦闘として、近接戦闘を果敢に挑むものの、相互援助の中突進してくる優れた歩兵部隊を阻止出来ない。
掴み掛かろうとしたのを抑えられ、マグナムリサーチBFRカスタムとHenry X 45-70レバーアクションライフルを装備した
続けて飛び出す敵を続けざまにマグナムの速射で打ち倒すと、振って空薬莢を落としローダーで装填した。
「ん、ホスタイル・アニヒレート」
「最後の関門が開いたぞ。前へェ!」
小部屋などを抵抗線とした部隊にはサーモバリック弾が撃ち込まれ、続けて火炎放射器を叩き込んでからテルミットを投げ込んで熱滅却措置された。
人間の暴力のフル活用と言うべき状況であり、生半な悪意に対する膺懲であり、連邦武力の鉄槌だった。
残念ながらデカグラマトンに慈悲というのは向けられていない。真実彼女らが「もうダメだ」と白旗を上げるのならともかく、自分を完璧と言って戦線崩壊させてるので管理を委ねる気は出てこない。
言ってる事が温泉開発中のカスミより頭回ってない、しかもカスミより頭回ってない上にメグみたいに純粋でも無いし、ハルナほどある意味ストイックなバカじゃなかった。
勝手に温泉を掘るカスミは真実心から「湧くってシックスセンスが囁くんだって! イケるイケる! めちゃスゴ温泉見せてやるからな」と叫んで実行する度し難いまでに馬鹿だが、嘘では無いし、まして絶対者などと名乗っていない。
それゆえにヒナ委員長達からも「げんこつ」されて済んでいるし、出来た温泉の諸権利は「遊んで楽しんでくれりゃ良いよ」以上の関心が無いので、クソ野郎では無いがバカヤロウというラインで止まっているし、カスミが逆さまに埋まりメグが正座で反省文書くだけで済んでいる。
だがこれじゃダメだ。
「前方大空間! 中核部!」
遂にケセドのコアに到達したシャーレの部隊は、スクアッドと交戦している部隊の側面から突入した。
回線の断絶でデータリンクを失いつつあるケセドは、側面に回り込まれた事に慌てて部隊を機動させようとするが、ミサキのランチャーで天井部のレーンが壊れた上に、ヒヨリの狙撃でタレットが照準機器を失っている。
ドラムマガジンを装着したAA-12装備の突撃歩兵が躍進し、サオリとアツコの支援射撃を受けて防衛部隊が蹴散らされる。
ケセドは外殻を閉じて防御姿勢を取るが、通信を受け取った江波マリ中隊長が火炎放射器を装備した戦闘工兵たちにハンドサインした。
「
数名の火炎放射器装備の戦闘工兵が、ナパーム燃料の燃え盛る濁流をケセドに向けてぶっ掛ける。
さて、ここで問題である。
デカグラマトンは? 機械だ、機械の天敵は? 異常発熱。
そして点火された火炎放射器はメグが使うガス式ではなく、軍用基準のナパーム燃料型で、射程100m近くの燃え盛る放水砲である。
ケセドはどうなるか?
「あっ」
マリ中隊長が20秒ほどして、ケセドがエラー音を吐きながらコアを開いて緊急放熱するのを見た。
緊急放熱自体はケセドの通常手順である、基本的に一定以上の部隊を緊急展開するとオーバーロードするのか、緊急放熱してクールダウンする。
だがいちいちそんな事やる気は無い。
まどろっこしい上になんで元からイカサマクソAIのために対等な勝負をする意味があるか、鉄量と火力で捩じ伏せる。
一々ケセドと消耗戦なんぞ誰がしたいという。
コアが解放された瞬間、サオリがハンドサインでミサキに指示した。
予定通りサーモバリック弾を装填したパンツァーファウスト3がブッ刺さり、続けて他の隊員らのランチャーが撃ち出される。
慌ててコアを閉じたケセドだが、高熱で融解し始めた上にスパークを起こして、ケーブルは炎上し遂にコアが崩れた。
ケセド防衛部隊が指揮管制を喪失して残敵掃討が始まり、素体流用のケイがリオを連れて、ケセド中核部へ向かう。
各所の小部屋で敗残兵狩りを始めたシャーレ隊員らが銃撃し、レイバーと呼ばれる小型ロボから作業用オートマタを根こそぎに処分している。
「誰ですかこんなエゲツないのを考えたの」
ケイは気にせず歩きながら、こんな作戦考えたやつ誰だよと尋ねた。
「アリスよ。これまでの戦闘データを見ていた彼女が"古いゲーム機の過熱負荷みたい"と言ったの」
「どうしてそんな着想を……」
「前にヴェリタスが古いゲーム機でベーコンと卵を焼いてお腹を壊した事件があった件じゃないかしら」
リオの言葉に「ヴェリタスは何をしているんですか……」と呆れたケイは、そっと「要注意区分」とファイル分けした。
すると、リオの足をオートマタがつかんだ。
きゃっと小さく声を上げて、リオが尻餅をつく。
「何してるんですか」
「ごめんなさい」
「謝ることでも無いと思いますけど……」
そう言いつつケイは手を差し出したが、リオの足を掴んだオートマタを見た。
オートマタはボロボロで、下半身をほぼ切断され、残った左腕でリオの脚を這って掴んだらしい。
ケイは落ちていたライフルを掴むと銃床でオートマタの左腕を叩き折ってリオを起こし、手近なシャーレ隊員に「アイツまだ動いてますよ」と告げた。
「リブートしたか、ありがとう」
そう言うと、隊員は無感動にそのオートマタを蹴り倒してひっくり返し、首元のコアを狙ってダダダッと銃撃を送り込んだ。
リオは一連の様子に、いささかばかりの恐怖を感じていた。
あのオートマタは、本当に自分を傷つけたかったのだろうか。
「悪い癖です。リオ会長。少なくとも、これは貴女が負う責任でもありません。私でもなく、先生のでも無いですよ。
"彼女らが望んだ聖戦です"」
「わかってるわ……。ただ……、実戦は慣れないわね……」
「…………それが普通ですよ」
ケイは優しくリオの手を握って、そう呟いた。
画面を見ながら、アインがつぶやくように言った。
「ケセド、ケテル、共に信号途絶。守備隊は壊乱しています。
あうう……ど、どうすれば……」
戦線を支え切る面を生み出す兵力源を失った。
ゲブラはまだ再建途上、コクマーは今呼び戻して再配置中、ティファレトとホドは再建完了はしたがシェマタ爆弾のせいでケーブル坑に被害が出たり、区画が崩落している。
もう一つ悪いニュースが入った、ネツァクの進捗が止まったどころか巻き返されそうになっているのに付け込んで、洋上の艦隊が近づき始めた。
それに最悪なニュースが入っている、先生が呼び寄せた援軍第一波、空中機動部隊が参戦し始めた。
展開してきたハボックとアパッチが輸送船をベースとする
どうやら大陸まで艦隊から増槽を付けて飛ばしてきたのを、ケイが弾薬類は複製して提供し、再武装してフル装備に戻しているようだ。
一番最悪なニュースは、小型VTOL……すなわち輸送船のコピーをケセドのデータを使って生成し、増援部隊の迅速展開を始めている。
どうやら往復分持てば良いので、到着したら機体は破棄していくペースである。*4
「……再度、我が出撃するしか無いでしょう。
ゾーハルの依代を用意してください」
「えっ」
ソフはやや恐れたような声を上げた。
対応出来ない敵……、敵、そう、敵。
許容も無く慈悲も無く。
不可思議なことに、三姉妹達が見る最悪の悪夢とは、自身が終わる事の恐怖より、マルクトが消える恐怖だった。
神秘がない自分達、その自分達と同じ神秘の無いあの大人は、どうしてああも平然としているのだろう。
分からない。
分からないから恐い。
恐らく、数ヶ月前に彼に挑み敗れる事で勝利を得たもう一人の大人ならば「
無論正気で戦をする奴が偉いわけじゃないのだが……。
何処かの空間の隙間で、ロココ調の内装をした空間では若干アルコールの匂いがしていた。
タイユランと自称警察長官、それとプレナパテスが"呑んで"いる。
享年換算で呑んでも良いだろ! と許可を出した自称先輩は酔った挙げ句脱ぎ始めたから、タイユランが「見てられないね」とアヤメに頼んで箪笥にぶち込んだ。
多分明日くらいに寝ゲロでもっかい死にそうになってるだろう。
アヤメ自体はタイユランと自称警察長官が「フランスなら合法だから良いんだよ、余計な事考えるから苦しむ、飲め飲め」と呑ませたら不貞寝した。
おかげで年少者を気にせず大人達が呑んでいる。
「いやー、しかし、ダメだなありゃ! 先がねぇわ」
「だろうねぇ。ありゃ先がない、作りたい明日も歪んでる上に気づいてないんだなアレ」
「意図して作ってんなら相当な鬼畜で頑張ってアレなら能無しだ」
タイユランと自称警察長官の会話は辛辣だった。
残念ながらこの空間に居るものには、自信を絶対者と言い張って無様に惨敗を続ける存在に慈悲は無い。
負けたくないで悪足掻きしてるのならともかく、そう言う前提が狂ってるから全部だめなのは擁護出来ない。
「やっぱあれだね、君のが惜しかったね」
”仕方ないでしょ手ェ抜いたら死ぬんだから! ”
「君結構悪酔いするんだね」
やや呆れた様にタイユランが呟いた。
残念ながらもう一人の”大人”は自他ともに用兵学や兵学にゃ素人である、兵事の類は初歩の触りしか知らない、ヤケクソ度胸である。
「ヤケクソであそこまで出来りゃ十分だろ」
混ぜっ返す様に自称警察長官が返し、つまみを兼ねて出て来たソテーを齧る。
ちなみに製作はビクトルである。
「さて、兵力集中競争で非常にまずい展開になったね」
「ケテルとケセドの邀撃機動力を失った以上、分断されて崩壊がオチ、外壁が落ちた城は悲惨だよなあ」
すると、ソファでふて寝していたアヤメが唸る様に言った。
「だぁーから、とっとと脱去して包囲突破戦闘やりゃあ良いんだって、再編と再集結はあっちも出来んでしょ」
態度とガラは随分と悪いが、純軍事学的には大分正論である。
百花繚乱のエリートを束ねる委員長は純粋に兵理だけで考えてそう言った。
「ところがそうもいかないらしいね、連中儀式が最後の頼みと考えて必死にやってるよ」
「あほくさ……最初っから神頼みで合戦なんかすっから先生にすっころされてんでしょ……」
やや喉が枯れたか、何食わぬ顔で立ち上がり、プレナパテスのマカロンを摘まんでいく。
”それ私の”
「あぁ? ガタガタ言うんじゃないよ、タマついてるの? なまじ顔が良いからムカつく」
”なんて理不尽……”
素か悪酔いかやさぐれてんのか分からねえなと困惑する自称警察長官だが、ふと頭に浮かんだ。
「そもそもあいつら、儀式完了したらどうなるか分かってんのかな」
「分かってやってりゃバカヤロウで、分かって無きゃ大馬鹿野郎だよ。
うえっ」
盛大にプレナパテスのズボンへ吐き始めたアヤメに、プレナパテスが”ぐえーっ! ”と悲鳴を上げた。
しばらく吐いた後、今度は涙を浮かべたアヤメが「あたしだってただの兵理で作戦指揮したっかたんだよぉ」と縋って泣き始めた。
「それがさぁ、
「……今度からアヤメ君にアルコール類はやめよう、うん」
「代わりにクズノハ様でも呼ぶかァ」
諦めて顔を覆ったタイユランは、助けを求めるプレナパテスに「がんばれ」とだけ送った。
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