キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
置いて行かないで皇帝陛下。キンドルは7月1日です
装甲化されたウラル系トラックが車列を止め、木箱が開けられて小銃や弾薬類が配給される。
マガジンが振り分けられ、ヘルメット団やスケ番が関係なしに列を組む。
「整列次第点呼ォ!」
「弾薬を配布する!」
配給火器が押収火器類を中心にしたもので編成している。
MGも押収火器のM1918A4やM1919系で、これは曳光弾を多めに籠めたトリニティの連中から弾薬類を手配した。
本当はもっと砲火力やミサイルも欲しいんだが、無いからしょうがない。
強請ると装甲部隊や航空支援まで欲しくなるからダメだ。
「全部隊初期配置終わりました!」
アヤネが確認を終えた。
ユウカに頭下げてミレニアムのエンジニアに依頼したガスボンベ砲も、ドローンスウォームも一応用意している。
もっともドローンはアテにしてない、ECMがきつすぎるから飛ばせないだろう。
カイザーのアビドス駐屯地では、最終確認とメンテナンスが行われていた。
既に外周の小哨陣地は後退、抵抗線を駐屯地から半径15キロの円へ絞り、要点は南部としている。
其処が正門である、次は主力衝突の攻城戦と全員が覚悟している。
「既に自動車化部隊が多数ここを包囲中、構成要員はヘルメット団や不良生徒を糾合したと思われます」
「あの男、ワカモも驚きの人たらしか? 装備は」
「うちの押収火器!」
匙を投げるように需品将校が笑うように言った。
「有効活用されてやがんなあオイ」
「コマーシャルにはなるんじゃないすか?幸い対戦車火器類は余り多くはありません」
「だが困ったな、選抜射手隊が厄介だ。」
「ゴリアテで対狙撃戦計画を用意してはあります」
ふうむと理事は残された戦力をしみじみ感慨深そうに見た。
対デカグラマトン大隊の一部を回してかき集めて、基地残存要員を武装化させて用意した戦力だが、まともな兵隊は100から200程度、装甲歩行車両類も20台程度だ。
敵対戦力は概ね1対3、質を加味してもまだ戦えるはずだ。
旧アビドス砂漠大オアシス、そこを囲う15キロほどの距離にある砂丘の裏側で、全部隊の初期配置が終わった事をアロナが告げた。
オフライン環境下だろうと地図と部隊配置と記号と距離が分かるなら無理は言わん、測量データも修正が必要では無いのも助かる。
タブレットに移るのは6個の部隊記号、最後列がアビドス組だ。
「作戦発動だ!全キヴォトスが我々を見ている、伝説を作るぞ!」
まず攻撃を前面から開始する。
正面攻撃はヘルメット団、そして傭兵だ。
彼女らは敵に圧力を掛け続ける見せ札である、無視すれば浸透される。
数は多いがあてになるか怪しい、それでも銃口の数が多いと圧力になる。
「チャージ!」
ヘルメット団の幹部が信号拳銃を打ち上げた。
前線ではカイザーの主抵抗線に正面突撃隊が会敵した。
理事は何か企んでるなと確信しつつ交戦を許可、正面戦闘は一気に激烈化する。
タレット、機関銃、ダッグインした豆戦車が火点となり、最前列の突入阻止バリケードの陰に取り付くまでに何人かが倒れていく、それでも突撃は止まらない。
廃車やレールで組み合わせたバリケードに飛び込む様に、M16やBARを担いだヘルメット団や傭兵がとりついた。
「遮蔽に飛び込め!」
「ちくしょう滅茶苦茶撃たれてる!」
単発射撃モードしかないヘルメット団のM16で応射しながら、隣の傭兵が撃たれたのを見て、慌ててそいつを引きずる。
全て想定内だとあの大人は言うが本当なんだろうな、信じてるぞ、もうやめられないところに来てんだからな!
装填する際にヘルメットでこんこん叩いて、再装填して更に応射するヘルメット団の横でシャーレ隊員が後方へ連絡する。
「第一部隊は前線に取り付きました」
野戦電話の言葉に「第二段階」と次の命令が発令された。
右側面の便利屋68*1、そして左側面のシャーレ車両隊が交戦を開始する。
陣地左翼の兵員が削られ、高所で火点を構えた便利屋68が弾薬補給部隊を狙撃して補給を阻害する。
やはりな、理事は即座に正面制圧中の豆戦車を左翼へ、そして予備の最後の遊撃戦力を投入する。
「右翼へ対デカグラマトン部隊を出せ! 左翼には豆戦車のC中隊だ」
カイザーが柔軟に兵力機動し、左右の敵に制圧攻撃を加える。
陣地左右でも射撃戦が展開された、敵の狙いは飽和攻撃? なら手を打てる。
理事の最後の切り札が右翼前面に展開、まずワークローダーがミニガン掃射し便利屋68に制圧射撃して補給線を狙撃させないようにした。
続けて背部ブースターを煌めかせて改造ワークローダー小隊がジャンプし飛行した!
「飛ぶのは聞いてない!」
先ほどまでアルがいた場所を踏みつぶし、アルは転がり落ちながら遮蔽に飛び込む。
流石の便利屋68でもろくな対装甲火器無しでは相手が悪い、忽ちに制圧射撃を受けて混戦になった。
この報告を受けても先生は顔をゆがめなかった、実は言ってないが右翼が一番敵予備戦力を釣れそうであるから便利屋を配置したのだ。
バイタリティーとサバイバル能力、しぶとさが高く評価されるとそれはそれで不幸である好例であろう。*2
予備戦力投入ににやりと笑い、主力本隊の突入を彼は決断した。
トリニティのりゅう弾砲が火を噴き、陣地を制圧するのではなく、双方の銃弾が飛び交う無人地帯へ発煙弾を撃ち込む。
発煙弾が煙幕を張り出したことに、カイザーの全兵士が一気に身を引き締めた。
この状況下で煙幕を展張して始まるのはただ一つ!
「こちらヒナ、スタンバイ」
『了解。全ユニットへ』
ヘルメット団の増援と共に現れたヒナ委員長をみて、第一次正面突撃隊は息を吞む。
伝説の女がそこにいる、風紀の鬼が、味方として!
あの大人の下に!
『総攻撃開始!』
アビドス生徒とヒナ風紀委員長が突撃躍進を開始した。
前衛のタレット群が新しい敵性勢力を検知し、射撃する前にこの突撃歩兵は躍進する。
熊手と拳銃を持ち、ライフルは背中につるした白兵戦スタイルのシロコがロケットタレットをへし折り、拳銃を撃ち込んでとどめを刺す。
アビドス生徒は今回盾役のホシノが居ないので、全員即製のトレンチアーマーを着ているため9㎜を腕の装甲で弾いている。
忽ちに前哨陣地が突撃歩兵に蹂躙されたが、主抵抗線の火力が指向する。
シロコたちを庇うようにヒナが前進、曳光弾が多めの機関銃で撃ち返して火点を示す。
「よーし当てて行けよ。火点1つごとにケーキだ!」
シャーレ選抜射手隊がヒナが示した火点へ狙撃を開始し、火力集中が無くなり一気にライフルマン達ヘルメット団と傭兵が大挙躍進する。
そしてこれにより生まれた混乱を便利屋68は見逃さなかった、ムツキとカヨコの援護の下ハルカがアルの真反対へ展開する。
猛烈な掃射が後を追い、ハルカのド根性が必要な時間を肉弾で稼ぐ、ハルカはこの行為による結果を確信した。
「よくやったわハルカ……!」
背中を向けたワークローダー、無防備な背部がそこにある。
ムツキのバッグを台にして、短く息を吸いアルが速射する。
まず背部機関系、続けて関節!
想定外にワークローダーの動きが混乱する。
主抵抗線ではゴリアテが前に出ているが陣地、そして直掩歩兵が次々狙撃されてすり減らされている。
しかも戦列が崩れたせいで主抵抗線に浸透されだした!
「行け! 行け! 行けェ! 私らなら出来る!」
「飛び込めェ!」
ヘルメット団幹部のラブが一気に仲間を鼓舞して前進させ、各所で敵戦列が崩壊していく。
既に抵抗線は崩壊しつつある。
『ワークローダー隊は戻れないのか』
『背部狙撃により飛べません! 孤立しました』
『くそっ、奴の手の中か。残存装甲戦力を前に出せ!』
前面に残るワークローダー、そしてゴリアテを前に出す。
突撃の最初の波をなんとか彼らは受け止めたが、ラッシュが止まらない。
あの傭兵とヘルメット団が「押せ押せ!」と果敢に突入している、勝利へのあと一歩を確信している、自分達なら届く一歩と確信している。
ゴリアテが突撃躍進中のヘルメット団やスケ番を何人か吹き飛ばしても、完全に盤面が移った為止まらない!
その間に、最後の切り札が届いた。
「例の物が届きました」
「よし、総仕上げだ」
夕方までには終わらせるぞ。
確信は確実な未来へ変わった。
さあ、捕まえた!
二人がかりで木箱から取り出されたその筒は全長1,346mm、口径90㎜の無反動砲、M67無反動砲である。
特別予算をアオイとリンから捻出し、ミレニアムの予備武器庫の中から調達し、新設したシャーレ火力支援班の新兵装だ!
「371A1HEAT弾装填確認、後方ヨシ! 射線よし! OK!」
「てえ!」
バスッと少し不甲斐ない音がした直後にカーンというクルップ式の音が聞こえる。
飛んで行った砲弾は綺麗にワークローダーの胴体を吹き飛ばした。
火力支援班9名、その5門のM67の速射の弾幕射撃が敵装甲部隊を吹き飛ばす。
各所で無反動砲の攻撃に動揺し、火力に吹き飛ばされるワークローダーが相次ぐ。
直掩歩兵の無い機甲戦力が辿る末路は悲惨である、後退しようにも狙撃で関節への被弾が多く機動が難しくなっている。
ついに駐屯地の門は喰い破られた。
「突入!」
正門のMGバンカーがM240Bで銃撃して抵抗していたが、アヤネの特製ガスボンベ迫撃砲が駐屯地への全力射撃に移り、壁もろとも吹き飛んだ。
敵が戦力を保持したまま駐屯地へ退却させないために温存した砲火力だ。
もう敵は機動戦力を喪失した、動けなくなったら火力で頭ごと叩いてつぶす。
『105㎜榴弾砲、射撃開始!効力射要請』
クロノスから借りてきた宣伝用のカメラマン・マイが手持ちカメラでシノンを撮影してる。
「見えますでしょうか! 現在シャーレは遂に正門を超えて突入を開始しました!」
兵営がある区画がガスボンベ迫撃砲ではじけ飛んだ。
弾薬庫に火が回ったらしく、誘爆で照明弾やフレアが舞いあがる。
ハイラックスに装甲版を張り付けた軽装甲車が12.7㎜DashKを連射しながら金網を喰い破り、シャーレ隊員とヘルメット団や不良生徒たちが突入を開始する。
「うわァ、マジで戦争してんじゃん……」
シノンが思わずそう呟いた。
既にカイザー指揮所にまで銃声と爆発音が響いていた。
兵器庫が炎上、正門から敵車両が侵入、砲撃は止みつつあるが大挙敵が侵入している。
既に通信センターが制圧されつつあると報告があった、以降爆発音とともに応答がない。
『左翼兵営群制圧されつつあり』
『中央棟入り口に敵が近づいてます』
『発掘調査拠点応答なし』
階下から大きな爆発音が聞こえる、敵が侵入したらしい。
「夢は終わり、幕は閉じたか」
指揮所が真っ赤な非常灯へ切り替わる。
電源が落とされた、非常ロックが外れ、ホシノも部屋から出てきた。
「流石だ! 我が黄金の荒鷲よ、完膚無きまでに負けたよ……」
「理事、シャーレの部隊が部屋の外まで来ています」
銃声と爆発音が近くなる。
9バンガーの断続閃光、M870の銃声。
「そろそろ、開放してくれないかな? 流石に私も乱戦に巻き込まれるのは嫌だなぁ」
装具品を回収しながら、ホシノが笑う。
理事は葉巻に火をつけ、呆れたように言った。
「一人で抱え込んで、周りの気持ちは無視してすぐ自己犠牲に走り、先輩の愛したアビドスを守るための方法を理解してない愚かなホシノよ。
最後に大人から忠告してやろう、どれほど強くても視野が狭ければ直ぐにまた今回のようになるだろうよ、とっとと消えちまえ。先生によろしくな」
「うへぇ、身に染みるねぇ……先生に厄介ファンが出来たって伝えとくよ」
ホシノが指令室から出ていくのを見送る。
いそいそとライフルを取り出したオペレーターたちが理事に尋ねた。
「理事も脱出を! 別の退避路があります」
「全部隊に戦闘中止を発令しろ。今回は俺たちのゲームオーバーだ」
「短けェ夢だったなあ……」
頭を搔いて、シャツで白旗を作る。
戦闘終了が発令され、各所で銃撃が止んでいく。
「まあ、生きてりゃもう一回出来るかもしれんさ」
理事は葉巻を咥え、入室して来たシャーレの生徒たちに手を挙げた。
彼女達には何故理事たちがこんなにも満足したようなツラをしているのか、まるで分からなかった。
銃声が止み、戦闘が終わる。
太陽がゆっくりと地平線へ下っていく中で、ヴァルキューレの輸送警備車へ検挙者を運んでいく光景が始まる。
全ては終わったのだ、無論やるべきことがたくさんある、弾薬使用量統計、UXD処理、消火、証拠品リスト。
破壊の跡から建て直さねばならないのだ、築くべき秩序も、守るべき治安もある。
そして怒らなきゃいけないこともある。
「恥ずかしながら、戻って来たよ~」
「うるせぇ! バカホシノォ!」
掴んで遠心力に任せぶん回す。*3
「痛いなぁ、暴力反対だよ」
「お前ら、もっと言ってやれ、またやるぞこいつ!」
しまいにゃ逆さにして砂漠に埋めたるぞコイツ!
やれやれと呆れながらしばらく肉体言語を交えていると、照れ臭げにホシノがほほ笑んだ。
「ありがとう、みんな」
「まったくだ、関係各所に感謝の行脚してこい!」
「どんくらい巻き込んだのさ」
「手あたり次第」
うへえと鳴き声を挙げるホシノに、尻を蹴飛ばして指揮車両に押し込んだ。
子供の時間はおしまいだ! 終わり! 帰って寝ろ。
こうしてアビドス砂漠の奇妙な戦いは幕を閉じた、ある意味この世界でも最初の激戦と栄光の道を彼は砂漠に刻んだのである。
戦闘から10日、あれからアビドスは多少平和になった。
連邦生徒会の遅まきながらの復興援助金が段階的に入った事で、ゆるやかに住民が定着し始めたのだ。
それはある意味、亡き先輩が望んだ奇跡そのものであった。
アビドス砂漠はかつてほど繁栄をすることはなかったが、人の優しさが息づいている。
アビドス廃校対策委員会はシャーレの承認により正式に生徒会となった。
再建されたアビドスは未だ借金が残るが、誰もそれを不安と感じていなかった。
何故なら恐らく今後5年以内に返済できると公式な予想がされたからだ、いずれにせよ遠い話だが、あり得ない話ではなかった。
ホシノは今日もブルーシートが増えた風通しが良すぎる校舎で眠っている。
連邦捜査部シャーレはその後も捜査活動を続けた。
各地での事件を解決していくうちにシャーレは望まない拡大を続ける羽目になった。
後々、アビドス砂漠でシャーレはまた事件に巻き込まれるが、その時にはもうこの頃の事を経験した隊員は各所に散っていた。
それでも、元シャーレの隊員だった子達は卒業後アビドス砂漠で集まる事が多いという。
カイザーPMCアビドス方面隊は事実上壊滅した。
指揮官を失った部隊はアビドス砂漠を離れ、本隊と合流するか、あるいは無許可離脱して独立独歩に移った。
大半の兵士が独立する事を選んだという。
カイザー本社は現地支社の独断としらを切り、駐屯地返還を要求した。
しかし回収されたジェネラルの手を逃れた機密資料の入ったサーバーが、ミレニアムで解析中と報告が入り交渉は不利になった。
結局カイザーは今後12ヶ月以内の退却を確約したが、予想に反してこれは早期に実現された。
しかしこれについてはのちの話になる。
ヘルメット団アビドス砂漠支部は事実上消滅したと言って良かった。
臨時雇用が終わると団員たちはそれぞれの道を歩んだという。
あるものはアビドス砂漠復興事業のバイト、あるものは他の支部へ、またある者たちはバイトで稼いで南国に家を作ると息巻いている。
彼女たちは少なくとも大人に操られる搾取される存在ではなくなった。
傭兵たちは契約が終わると殆どがアビドス砂漠から去っていった。
戦闘の気配がないところでは稼げない以上当たり前であった。
大半の傭兵が砂漠から消えたが、一部の傭兵はアビドスへ帰ってきた人々の為に雇用され、今日も砂嵐に苦戦している。
柴大将は良いクライアントだという評判だがマスクの準備がぬけていたのだ。
便利屋68のその後はあまり確かなものではない。
ゲヘナのスラム公園でキャンプしていたがヒナ委員長の襲撃を受けたとか、事務所候補がカスで爆破したとかの荒唐無稽な話が多い。
すくなくとも夏の終わり頃、エデン条約締結後には何らかの活動をしていると言うが。
ゲヘナ風紀委員はその後もシャーレとの協力関係を続けた。
ヒナ委員長の負担が減る事について概ね誰もが歓迎したが、アコと先生がふざけた理由で変な事件を起こすので、あんまり前と変わらないと言う者もいる。
ただそれでも、給食委員やイロハは最近ヒナが笑う姿が増えたというが。
ヒフミのその後は波乱に満ちていた。
多くの事件とトラブルに巻き込まれ、一部は引き起こした。
シャーレやアビドスとの関係も深いままだが、本人にややシャーレに苦手意識があるのか来庁は少ない。
トリニティとシャーレの関係は概ねこの後平行線であったが、エデン条約締結までに深刻な事態が起こり、シャーレが介入する事態となったという。
その後はトリニティ内部での内部対立安定化や、治安維持に協力を続けた。
少なくとも正義実現委員会は指揮・協力円滑化を続けている。
ユウカは予想外の事態に襲われた、リオ会長から業務を上手く調整するからシャーレにより協力する様に言われたのだ。
彼女は事実上の解雇通知と冷や汗をかいたが、すぐに理解した。
リオが暴走ロボ対応の予算を上手くケチる為にリエゾンとして送り込んだのだと。
最近の悩みはコユキの「先輩今所属どこになるんです」という言葉をどうするかである、自身のアイデンティティーにこの様に悩むのはあまりに計算外だった。
ミレニアムはシャーレとあまり親密な関係を表面化させなかった。
リオはゲヘナとトリニティの冷戦構造を崩す気は無かったし、お互いビジネスライクな付き合いでいた。
ただそれも余り長くなかった、横領と債権乱発の大事件がシャーレに発見され、監視対象になったのである。
ある意味誰もがそれに納得したので、強い結びつきがある事を誰も危険視しなかった。
マコトにすら「そりゃ監査入るだろ」とコメントされたのだから。
SRT閉鎖が本腰を入れて決定されたのはこの事件から少し後であった。
アユムが人事書類に忙殺されたが、シャーレはこの頃から展開能力拡充計画を公表した。
再編で次々と人間を引き抜くシャーレに、多種多様な理由から生徒たちが集まるのはまだ少し先の話である。
カイザー理事逮捕に映る元同僚について思うことがある生徒たちも、のちの話である。
連邦生徒会はこの1件についてかなり紛糾した。
捜査資料にはカイザーに協力し不法行為を働いている役員がいる事が示唆されたのである。
アビドス支援計画を語り得意げに事後承諾じみた事をするシャーレに、余りにも自由にさせ過ぎると意見が出わしたがなんらかの手段に出るのは難しかった。
既にシャーレは大衆に権力組織として認識されていたし、もう市民には英雄だった。
そして朝令暮改で取り潰すにはあまりに権力と関係の根が張られ過ぎていた、下手に手を入れると何処で起爆するか分からない不発弾と化したのだ。
この弱みが以後連邦生徒会から介入する余地をなくしていき、シャーレの急速な拡大を許すこととなる。
最近連邦生徒会が気前良くなった。
車両保有数が増えたし、人員も増やせる。
遠征を中隊規模に増やせるようにするために、現在訓練が進んでいる。
近い将来に控えたエデン条約の合同警備計画も作らねばならない。
連邦生徒会の連中、反対派が五月蠅いからほとぼり冷ますためにエデン条約を押し付けやがったな、まあ代わりに要人護衛に専門のD分隊を編成したし、装甲車もM113ACAVとかも保有できるようになった。
だがまずやるべきことがある。
カイザーのサーバーラックの暗号解読だ。
理事から「あれ、それまだ破棄してなかったんだ」と言われた貴重な生き残りである、損傷修復と解読ならミレニアムに専門家がいると来たのが1時間前。
久々に気兼ねなく自由だ。
ウタハの連中やユウカの職場になんか手伝いでもしてやろうかな、それくらい貸しがあるんだ。
幸せな頭上にゲーム機が飛んでくるなんて、誰も思わなかった。
【次回予告】
言うなれば運命共同体!
互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。
部長が部員のために、部員が部長のために。
だからこそ部活として生きられる。
嘘を言うな!
猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑う
お前も、お前も、お前も、俺のために納期を守れ!
次回「 員数外の人員、員数外の部活動 」
こいつらは、どのツラして集められたのか……。