キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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一言で言えば、どうして都市の人間は、これほどの哲学と、人間愛と、礼儀と、崇高な格言に囲まれながら、自分が誰であるかをみずからに問う事なく、他人に問うようになったのだろうか。
──ルソー、人間不平等起源論──


戸惑いの生へ向けて

 ケテルとケセドが崩れ、ビナーは消えた。

 安定した戦線は一気に敵を締め上げようとしているが、幾つか戦線を立て直して進出準備中だ。

 投入が間に合ったAH-64Eの直協の空中支援と、ハボックによる遠距離からのアターカ対戦車ミサイルによる攻撃は継続している。

 ホドの野郎は地中に隠れて安全と考えているが、普通に電力系を調べて絞れる、ホンモノは何処に隠れてるか分からねえのに……。

 ケテルの排除で相手の大規模反攻が当分は無い、従い、敵が明確に戦線を立て直すか、反転攻勢に出るまではまだ時間がかかる。

 次なるハンティング対象はコクマーだが、コクマーとゲブラが移動を始めている。

 今更兵力配置の再編を図るのは手遅れだ、最初から犠牲を覚悟で全面後退するならどれかを遅滞戦闘するだけで済んだのに。*1

 

FO(観測)と連絡が繋がりました」

オデュッセイア(セーラー)たちは準備できてるか」

「完了してます」

 

 輸送船内部で統計を見つつ、スズたちの報告を確認した。

 鋼鉄大陸の拡張が停止したため洋上から火力投射が可能になり出した。元より海は鋼鉄に出来ないから──海は有機物が多すぎる──一番効率が良いのは艦砲射撃だ。

 俺の時代じゃ艦砲射撃はあんまり状況が発生しづらいから使われにくかったが、時代の進化で双方の射程が伸びたせいだな。

 

≪全艦右砲戦! CIC管制発射に備えェ≫

≪旗艦諸元連動、弾種APHE以降も同じ≫

≪合戦準備よろし≫

≪砲打小隊各艦、射撃準備よーし≫

 

 ”危険水域”の範囲を示せるお陰で、支援が可能になり始めた洋上部隊の砲打撃小隊3隻が接近し、準備を終えた。

 恨むんならお前を最外縁に配置した奴を恨め、コクマーよ。

 

「射撃開始。繰り返す。射撃開始」

≪撃ちィーかたぁーはじめェー!≫

≪てェ―っ≫

 

 タンブルホームのデザインをした三胴艦<ケートー>以下3隻の砲打撃小隊は、AGS 155mm砲三基を向け、断続ブザー音の警告後、散水し射撃を始めた。

 砲打撃小隊は右へ砲身を向けながら、危険水域を横目に通る様に機動するので、数分で離脱する。

 これに関しては臆病や怯懦ではなく、安全性を加味しつつ最大火力を出すという事である。

 

≪初弾弾着5秒≫

≪だんちゃーく、いまっ!≫

 

 コクマーが降り注ぐ飛翔体に気付いて当て舵で回避を試みる。

 だがバウ・スラスターやあらゆる手段を用いても、結果が変わる事はあり得ない。

 何故なら俺は”一度で良いから使ってみたかった玩具”を用意させたのだ。

 そう、155㎜誘導砲弾だ。

 この為に態々データリンクシステムとか輸送船の中で準備して勉強した。エデンの時の同時弾着(TOT)はあれは古典的な数学の計算から実現したが、天才でなくても秀才で命中させられるとはすばらしい。

 

≪FOから指揮所。直撃弾多数、敵艦は行き足止まりつつある≫

 

 数分間の全力射撃はコクマーの船体をズタボロにした。

 無論コクマーのミサイルなどが撃ち出されたが、SeaRAMやCIWSにVLSのSAMによる迎撃喰らって落とされてる。

 これまでの戦闘でコクマーは砲撃戦が不十分で、火炎放射と熱線砲は準備動作がデカい。

 左舷に大きく傾斜したコクマーは炎上し、行き足が止まった。

 フェーズ2へ移行し、予定通りの手順を始める。

 

「昔なぁ、俺、船乗りか海軍軍人になろうか迷ったんだよなぁ」

「へぇ、海軍軍人(セーラー)にですか」

 

 スズがコーヒーを淹れながら呟いた。

 

「金無かったからな、当時。

 今にして思えば、あり得たら中々面白い世界だったように思う」

 

 画面ではシー・アパッチたちが装備したハープーン対艦ミサイル二発を発射してコクマーの喫水線を打ち砕いていた。

 オデュッセイアではなく防衛室預かりの機体だ、ワカモボート事件以来続発する水上通商路襲撃に対しての答えである。

 これに関しては腐敗と不正が入り込めなかった、関係者が全員、海賊行為で損をしているからだ。

 誰もがカイザーやインペラトールと契約を結べる企業じゃない以上、こうした仕事が回ってくる。

 

「でもどうせ、なんかの間違いで半魚人(マリーン)になってた気がするが……」

 

 大きく大角度傾斜を起こしたコクマーは、自重に耐えれなくなった事でキールが切断され、V字状に折れ曲がって、最後に鋼鉄の嘶きを遺して海中へ没し去った。

 敵艦艇の撃沈を確認した後、ケイがコアを回収し、コクマーのキルを確認する。

 大きく3部分に割れてバラバラになった哀れな姿になったそうだ。

 迂闊に動くからこうなるんだよ……。

 そう思いながら、戻ってきたモモイ達が製作した食事……と言ってもレトルトを温めただけだが、それを口に含む。

 さて、コクマーが片付く間に準備が出来た、ホドにプレゼントだ。

 

「ヒマリ、準備は」

「出来てます」

「開始」

 

 ヒマリが送信ボタンを押した。

 愛するホド君へ、ミレニアムから脱走した君にプレゼントです、喰らえテイルズ・サガ・クロニクル難易度UZqueenをクリアできるまで増大するランサムウェア! 

 多重起動でスタックするクソみたいな群れをテメェ経由で流し込んでやる! 

 

「……私さ、初めて見たの、ゲームが兵器化されるの」

「普通は見ないと思う」

 

 モモイとミドリの呆れたような声が聞こえたが、これは無視する。

 すると、数分しない内にホドが異常発光し始めた。

 ホドの回線が赤色と青色に煌めき、満艦飾の戦艦よろしく煌めいて、やがてホドがのたうちながら出て来た。

 やがてのたうち回っていたホドは、自身のケーブル群を引きちぎる様に転がり始め、気色の悪いヤドカリのような走り方で穴から出て来た。*2

 

「予定通りだ、やれ」

 

 並走してM60-120Sの戦車小隊が行進間射撃を──デカいから当てれる──開始し、側面からの砲撃にホドが揺らぐが、続けて直上からやってくる敵に接近された。

 カマキリのような鋭角と丸みを多用したデザインのパワーズ、つまり量産型アビ・エシュフだ。

 まるで重機動メカ モフングルのビグ・ジャンネに特攻するGファイターの様に接近したパワーズたちが、大型レールガン光の槍を撃つ。

 極至近からの接射をあちこち喰らったホドが苦しむ様に悶え、ケーブルを暴れさせる。

 

「スナイパー、用意」

 

 端末を確認し、予定通りの地点で待機するカスタム型を確認する。

 大型発電機に冷却材を有線で供給された光学兵器(ビームライフル)搭載型である、

 暴れ狂うホドはケーブルを振り回し、狂乱状態と化している、慌てて戦車は後退し、周辺構造物を無視して鞭のように振り回し、正に発狂モードだ。

 だが駄々っ子のようなこの動きも、少し離れれば届かない。

 待機したスナイパーは、予定通りホドのコアがある中核を狙う。

 

≪スナイパー射撃開始≫

≪冷却材を絶やすなァ!≫

 

 さほど太くない青白い光線が伸び、温度の差異で火線と砲身周辺が真っ白に蒸気に包まれる。

 ホドはコア周辺に直撃を受け、まず殆ど喪われていた装甲外殻部が融解し、続けて内部配線が蒸発、内殻コアユニットが融解し始めた! 

 必死に射線から逃げようとするホドを、光学兵器は逃がす隙を与えない。

 射線を遮る溶解した構造物を熱した飴細工のように溶かした事で、ホドは自身が助からない事を最後に理解した。

 断末魔のような巨大な閃光を明滅させて、ホドはぐったりとし、動かなくなった。

 

≪目標の沈黙を確認≫

≪電気反応急速に低下、電源喪失と認む≫

「了解。ケイ、回収に行ってくれ。アリスとエイミは随行して護衛に回れ、偽装の可能性もある」

 

 3人が了解し、ふぅと一息を付いた。

 通信じゃアリスが≪モフングルの2828小隊編に出て来たスナイパーみたいです≫とか話していた、やめろ縁起が悪い、あれ指揮所とスナイパー吹き飛んだじゃん。

 すると、リオが「増援の第二波が来たわ」と報告を告げた。

 

「おう、予定より早かったな」

「正義実現委員会の特殊空中機動部隊(元パテル)、機動力重視で出て来たゲヘナ風紀委員会の自動車化部隊みたいね」

 

 輸送機のハッチが開き、ルクス偵察装甲車やFOX装甲車が展開を始める。

 軽装備で取り敢えず人員を優先して展開し、重装備抜きで強行したのだ、大分思い切りが良い、実に素晴らしい。

 見慣れた制服ではなくトレンチコートを羽織ったヒナとミカが降りて来た、ヒナは略帽を、ミカはベレー帽を着けている。

 双方ともに戦闘装備(バトル・ドレス)で、ヒナのコートには銀色の袖章が、ミカのコートは金の刺繡で「義務と忠誠」と書かれた襟章がある。

 

「よぉ、大分強行軍したなァ」

「「その方が喜ぶと思ったから」」

「畜生俺のことをよく理解してやがる。ようこそ最前線へ!」

 

 笑ってそう言うと、全権を委任され、認証し各部隊をデータリンクする。

 まだアリウス自治警察部隊及びレッドウィンター連邦保安部隊は来ていないが、重装備輸送の関係であるからこれはしょうがない。

 また兵站の流れを管轄してるから今回は百花繚乱は混乱の統制と、指揮統制の円滑化で支援している、ユウカとイロハも同じだ。

 血流を詰まらせず輸送すると言うのは一大事だ。

 現状の前線部隊は以下のようになる。

 

 

 連邦捜査部 臨時集成戦闘集団(タスクフォース)「北伐」

 

スズ戦闘団(バトルグループ・スズ)> 

(戦闘による減耗はあれど完全編成に近い)

 

<正義実現委員会戦闘団> 軽装で到着、重装備輸送途上

(ただし重装備と機甲戦力は後続諸部隊の為、現在軽装)

 

<ゲヘナ風紀委員会自動車化部隊> 完全編成で到着

(2個大隊を基幹とした戦闘団)

 

<アリウス自治警察予備隊混成団> 未到着

(事実上の諸兵科大隊)

 

<レッドウィンター連邦学園保安委員会> 一部(親衛空挺の一部は現着)未到着

(暫時各所から部隊を機動中、重装備の多さから足が鈍い)

 

 

 作戦指揮所に向かって歩き、取り敢えず面を制圧する駒を増やしたことで安心できる。

 警戒線は数的な都合及び経験からゲヘナ風紀委員会に委任し、数の面から即応予備として正義実現委員会を投入する。

 これで一番面倒な主攻勢部隊はスズ戦闘団で自己完結できる、戦争機械が動き始めた。

 

「そういやツルギやナギサたちは元気か」

「あーそれがねえ、政治的な事情で代打でハスミちゃんが本校に残留したの」

「またなんぞややこしいことになったんだな」

「まあ何と言うか、色々あるみたいで……」

 

 兵権の委任はマズいと言うアレコレあったんだろうなとは察した。

 逆に言えばそれでもハスミかツルギは来るという事だ、大分進化した方である。

 ただミカは、やや呆れた様に呟いた。

 

「まさかゲヘナやアリウスと共同戦線になるなんてねぇ」

「この場合は連邦が先導するまで起こらなかったことを恥じるべきかもね」

「……貴女もしかして大分リベラル?」

 

 ヒナにやや面を喰らったような顔をしたミカは、まあそれも良いだろうと思い、微笑んだ。

 指揮所の警衛が敬礼し、それに答礼して二人が中に入る。

 戻ってきたアリスがとても嬉しそうに笑った。

 

「わぁ!」

「……ちょっと見ない間に随分おめかししてるねえ」

「大分変ったのは成長期と言う訳じゃないわよね?」

 

 話しと違うくないか? とやや困惑するヒナに「そんなもんだよ」とミカが頷いた。

「わーい」とアリスが抱っこされ、ゲーム開発部が群がっている。

 些か呆れた様子のリオと、微笑ましくて結構とヒマリが端末を起動すると、不明な信号が出て来た。

 

「不明信号?」

「どうせ敵だろ」

「心が折れましたかね」

「そんな可愛い相手じゃあるまい」

 

 ヒマリはサブ端末を起動した。

 有線で繋がっている別の地点の端末を使い、逆探知できなくするためだ、ホドのコアの転用である。

 そうして起動した端末に居たのはいつもの三姉妹だった、相も変わらず似たり寄ったりで変化が無い。

 明日とか傲慢とか何を言っているんだコイツらは……。

 

「生きてりゃいつか死ぬのは生命の本質だろうが。

 死を否定した存在は変化が無いから滅びるだけだぞ、新陳代謝ってご存知?」

『マルクトお姉様に手も足も出なかった癖に』

「じゃあ出せばいいのでは……? 切り札だったんだろ、アレ。

 しかもこれ以外ないような切り札、ここまで戦局が急変したのに出せないのは……”未完成だから”か?」

 

 三姉妹が突如、顔色を変えた。

 見えたぞ、コイツらの弱み。

 

「ああそうか、お前たちはアレが本当に”最後の頼みの綱”だったんだなぁ! 

 そうか分かってしまったぞ、お前たちは妬ましいのか! 自分に無い何もかもを有する全てが! 

 所詮貴様らの言う”完璧な自分とは、不完全な自分を隠す為の攻撃的な防衛なのだな”ァ!」

 

 その直後、回線が切れた。

 図星を付いたらキレて切るんじゃないよ、そう言うとこが不完全なんだよ。

 そんなクソガキに人類託したくなるとかよほど馬鹿だよ、アリスとかモモイの方がまともに統治するよ、あいつら馬鹿だけど完璧じゃないのは知ってるから貪欲だし。

 

「本当のことを言ったら馬に乗る用意をしろって至言だよな」

「言われて怒らない人は居ないわよ」

「ねー」

 

 ヒナとミカに指を指されて言われるのは癪だが、これで分かった。

 連中は本気で打つ手が無いんだ。

 

「発令。13時までに再編を完了、以て攻勢を再開する。

 融解したイェソドのコア摘出作業は継続するため、これよりアリスたちは現地で待機し作業支援」

「はーい!」

 

 ゲーム開発部の連中で溶けたイェソドのコアを探す仕事を任せる、メカに関しては連中が今一番マシだ。

 

「攻勢目標は一挙に敵中枢への道を確保し、ティファレト複製の阻止とゲブラの捜索撃滅、中核への道を確保する」

 

 1時間ほどの再編で再攻撃を開始する。

 だいぶ速度重視だが、マルクトがまた出てくるまでに戦線を取り返しがつかないレベルにしてやる。

 

 

 

 

 連邦生徒会の臨時庁舎、その天井の高いマッキントッシュな執務室では、壁面に投影された衛星画像を見ながらリン代行が職務を続けていた。

 執務室の卓上では、静かに紅茶が湯気を立てている。

 良く響く足音が近づき、カンナ公安局長が扉を開け、アユムへ書類を手渡した。

 衛星画像では、地上部などに再び幾つもの閃光が煌めいている。

 

「戦闘が再開されましたか」

「はい。3時間前に40メガトン級爆発を観測して以降、戦闘が拡大しています」

 

 アユムが頷いて、書類を手渡す。

 ワインルージュ色の机に置き、リンは多少手間のかかる仕事に対して、やや拗ねたような顔をし、紅茶をゆっくりと飲んだ。

 

「しかし、デカグラマトンがキヴォトス全体を消し去ろうとしているのが真実とは、脅威は尽きないものですね」

「何処から来て何処へ行くかも分からない人間の模倣者ゆえ、でしょう」

 

 アユムの皮肉を聞いて、やや気が和らいだリンは椅子にもたれかかり、呟く。

 

「残りは鋼鉄大陸の残骸と後始末ですが……」

「シャーレに任せますか?」

「いえ、封鎖という事にしておきましょう。ミレニアム旧市街(ぜんかい)と同じく、ね」

「公報はどうしますか」

「全てが終わってから伝えます、どのみち明日明後日には終わるでしょうから。

 引き続き先生たちからの報告を待ちましょう」

 

 

 

 MAN社のトラックに発射機を積んだLARS-2が数両、連続発射し、幾条も白線が降り注ぐ。

 ヒナが多連装ロケットを連れて来たのは助かった、SRTの装備からガメた220㎜16連装ロケットはティファレト戦で射耗したからだ。

 ドドーンと幾つも爆発が煌めき、唸りを挙げる猛獣に近い音が響く。

 鋼鉄大陸の中心部が吹き飛び、粉砕され、崩れて行く。

 

「タチ悪いなぁ……」

 

 ソフが補修工事を管制しながら呟いた、アインはダアトの準備を進めている。

 オウルは先ほどまでホド経由で送り込まれたランサムウェアのせいで、データリンクがぐちゃぐちゃにされていたのを修復し終えた直後だ。

 前哨を航空攻撃と砲迫で制圧され、容易く機械化部隊が主抵抗線を切り裂いている。

 そして、やはり容易くティファレト内部へ突入された。

 爆破し迂回し浸透する、単純な平押しが今や一番最悪の手である。

 ズルズルと捕捉されたまま後退してコテンパンに追撃されているせいだ。

 

「……ティファレトの防衛は断念、各部隊を後退させて」

 

 ソフは何が正しいか分からない気分だった。

 何となく、ソフはティファレトの内部で通信ホログラムを灯した。

 目の前に青い眼光のヘッドマウントディスプレイに、都市型迷彩服を着用したシャーレの隊員達が見える。

 先頭を進んでいた隊員が片手をあげて射撃を止めさせる。

 

「その、これ以上はもうやめない?」

 

 そして、隊員は無言で片手を振り下ろした。

 乾いた炸裂音が響き、通信が打ち切られる。

 隊員達は、ソフの通信に何も感じないまま前進を再開した。

 

 30分もしない内に、ティファレトのコアは失陥した。

 

 先生たちは戦線の前進に伴い、作戦指揮所を前進させ、陣頭へ立ち始めた。

 既に60パーセント以上は活動不能または制圧下に於かれている鋼鉄大陸の、中核部へ王手が掛けられようとしている。

 

 敗北。

 

 実感のない単語が近づいている。

 

 それと同時に、揺れが中核部へ及び始めた。

 警報が鳴り響き、アインとオウルが慌ててしゃがむ。

 

「艦砲射撃だ」

 

 ネツァクの拡張が衰退しているから、砲打撃小隊の3隻以外も近づき始めた。

 203㎜艦砲搭載型の何隻かが、擾乱射撃を始めているのだ。

 しかも残る二つのコアといっても、出涸らしのゲブラともう死んでるようなイェソドだけだ、戦力と呼ぶのも烏滸がましい。

 製作途上のダアトは未完成である。

 

「……致し方ありません、ゲブラとダアトを統合し、我の再投入までの時間稼ぎをしましょう」

 

 マルクトは打つ手がない中で、必死に手繰り寄せて考えた。

 無論だが勝ち目と言うのはどんどん失われている、そもそも攻勢を一回止めたところで巻き返す力が無いのだ。

 それと同時に、警報音が鳴り響いた。

 融解していたイェソドが、遂にコアを発掘されて処分されたのだ。

 これでいよいよ最後の希望は限られている。

 

「アイン。もはや猶予はありません。お願いします」

「ほ、本当に良いのでしょうか」

「遺された預言者がたったの一体で、ほかにどんな手が取れると言うのです。ありはしませんよ……」*3

 

 ひとつのヒーローユニットで巻き返しが利くようなゲームは、そうは多くない。

 まして、無機質な戦略は特にである。

 

 

 

 戦線を押し上げて包囲隊形を整え、野戦電話を使ってクロコが「準備よし」と報告を送った。

 前線では散発的な銃撃戦が展開されている、抵抗線の強弱を確かめるために小競り合いが始まっているのだ。

 前進して来た指揮所で、連絡を受けたスズは攻勢前の概略を述べた。

 

「蝕接の結果、敵は武器弾薬及び戦力は再編できておらず、行動予測から見て作戦予備兵力をほぼ使い果たしている模様です。

 偵察行動中の戦闘記録では敵の応射は急激に減っています」

「大変結構」

 

 外を見て、先生はそろそろ夕焼けが近いなと思った。

 預言者共はあっさり片が付いたが残敵掃討で少し手間取った、幸い敵が合流する事は出来ていない。

 マシロとイオリ達が続けて間に合ったおかげで、マークスマン達で常に敵を狙撃して圧迫をかけ続けている。

 

「では、そろそろ全てを終わらせよう。

 これより対デカグラマトン最終攻勢<パラダイス・ロスト>を発動する」

 

 終りが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

*1
シャーレの現有兵力は有限だから全部は無理

*2
ビオランテみてぇだ

*3
末期の連合艦隊染みて来た




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