キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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人間は単に存在しているだけの存在ではなく、決断により自己を自由に選び取るものである。
──マルティン・ハイデガー、存在と時間──


存在と時間

 ビーっと警告音が鳴り響き、ソフとオウルが状況画面を見た。

 

「どうなってるの」

「かなりマズい! 大規模なシャーレの部隊が本格攻勢に出た!」

 

 ソフが先んじられた! と唸った。

 前線では残存する最後のゴリアテと戦闘装備のオートマタが、機銃掃射やロケット弾、迫撃砲などを投入し阻止射撃を始めている。

 無論、M60-120SとM113を使いながら前進するシャーレ諸部隊を止める火力は無い。

 前線へ近づいてくるシャーレ隊員らは「火点の輝き(マズルフラッシュ)めがけて撃ち返せ!」と叫び、双方の曳光弾が満ち満ちている。

 

≪よし! 続けて第二段階発動!≫

 

 先生の指示と共に、NOE飛行で飛んできたヘリコプターの群れが押し寄せる。

 シャーレと正義実現委員会の空中機動部隊だ。

 ソフが急いで正面から部隊を振り分けるが、高所に陣取ったイオリとマシロの制圧射撃を喰らって、対空射撃に集中できない。

 無論幾つかは射撃をしているが、随伴のAH-64EやGAU-19(ドアガン)の制圧射撃を受けている。

 

「スナイパー! えぇいちょこまかと!」

 

 しかもその隙に左右から接近していた空中騎兵隊が一気にLZである中核構造物へたどり着いた。

 制圧射撃の中、陣頭指揮によって戦闘指揮を継続する判断は正しかったが、もう打つ手がない。

 同じく時間稼ぎの指揮中のオウルから声が飛んできた。

 

「ソフ! 火力支援は出せない?!」

「無理だって! 中央が崩壊しちゃう!」

「でも両翼の浸透が止められない! このままじゃ包囲されて……わぁ!」

 

 飛んできたマシロの20㎜弾により、極至近のオートマタが”首ごと”持っていかれた。

 前進して来た重迫撃砲中隊が火力支援を始め、降り注ぐ砲撃が機銃陣地を砕く。

 忽ちに火力が薄くなった隙を突いて、展開した隊員らが突撃躍進へ移る。

 

『機銃1番5番及び7から9番爆砕!』

『機銃2番から4番弾薬欠乏!』

『ゴリアテ1、脚部狙撃により機動不能!』

『ゴリアテ3及び4、バッテリー消耗!』

 

 ソフはこんがらがっておかしくなりそうな頭を抑えて、必死に考え叫んだ。

 

「後退! 施設内に下がって抵抗する!」

 

 だが無慈悲にも降下したヘリボーンは展開を始めている……。

 敵が後退を始めたのを見て、一気にLARSで敵陣地を耕して突撃歩兵が斬りこむ。

 

「最後の一歩だ! 突撃!」

皆殺しだ(キルゼムオール)!」

 

 銃剣を着けたHE弾装填のトレンチガンや、軽機関銃を抱えた突撃歩兵が後退が間に合っていないオートマタの陣地へ飛び込む。

 後退の途上での砲撃と突撃歩兵の浸透から、一気にオートマタが擦り減らされる。

 ソフは盾を構えた数少ない重装オートマタで後退を掩護させるが、戻る途中のオウルが、吹き飛ばされたオートマタの上半身に挟まれている。

 急いで回収したソフだったが、重装オートマタで12.7㎜を腰だめ掃射させても突撃が止まらない。

 

「突撃突撃! 最後の一歩だぞ!」

 

 将校が号笛を吹きながらシャーレ隊員らが続々と押し寄せ、ゴリアテ目掛けてAT12Tが連続で叩きこまれる。

 肩をオウルに貸してソフが走るが、追跡者の足音のように銃声は刻一刻と迫り、近づいている。

 電磁手榴弾の集中投入やチャイナレイク擲弾銃の投入、LMGによる弾幕が組み合わさって敵の抵抗をまるで許していない。

 M727を装備した指揮官たちを先頭に、遂に鋼鉄大陸の中核での攻防が開始された。

 

 

 

 戦闘騒音が聞こえる中で、未だ待機中の部隊もある。

 パワーズを装備した部隊とアリス達だ、現状は敵の想定しうる最後の一斉反撃に備えて待機中である。

 突入部隊が敵の主要目標の"制圧または完全消滅"を実現する事が出来れば、備えすぎと言うだけであるが。

 

「ダアトやマルクトに備えて、そして上手く誘導しろって……楽な仕事は回ってきませんね」

 

 ケイが溜息をついて、そう呟いた。

 

「推測される敵のUCAV、ドクと思わしき奴も随分高スペックですからね。ただ施設内戦闘になり出したって事は、相手も早々大出力ビームは使えないかと」

 

 トキは混ぜっ返す様に言うと、起重機で吊るしてあるアリスの”晴れ着”を確かめて、問題なしとアリスを呼ぶ。

 アリスは少しばかりの強がりで、不敵に笑って言った。

 

「”マルクトの足も止めて”、”晴れ着の性能試験もして”、”上手く抑え込め”っということですね、シンプルなゲームじゃありませんね……」

 

 ”晴れ着”を着て、起重機から下り自立する。

 腰部の両側面、腕部などを確認し、続けて手を動かした。

 

王女(あなた)なら上手くできますよ」

「当たり前です」

 

 ヘッドセットを着けて、サムズアップするとアリスはそう言った。

 ケイはそれを見ると、少し楽し気に笑った後に「ネル先輩の真似かな」と頭に浮かび、これは良い影響なのだろうなと思う事にした。

 それと同時に、中核部の塔の一部を崩して巨大なナニカが出て来た。

 

「最後の使者か」

 

 ケイはふと振り向き、呟いた。

 大きければよいと言うものではないのに……。

 

 

 

 前進して来た指揮所では巨大不明デカグラマトン、ダアトの出現にやや衝撃は有ったが、恐れてはいなかった。

 何故かと言えば、形振り構わず抵抗する敵はなんでもやるからで、こうした投入もある意味想定の範囲内だった。

 

「今まで出なかった辺り突貫で出来た奴かね」

「そうでしょうね、隠すのは難しいから」

 

 分析情報によると、あのダアトはゲブラと合体した合体型デカグラマトンらしい。

 ダアトの機体構成とはコクマー胴体脚部にゲブラの上半身が合体した、という事なのだろうが、その証拠にコクマーの尻尾も見えている。だが、ケテルのミサイルとか、見える限り他の預言者のパーツも使われてる可能性もある。

 本当にあり合わせで制作したのだろう。

 

「……ああいうの見たよね、モフングルで」

MH IGLOO(モフ イグルー)のビグ・ジャンネのほう? MC(モフコーン)に出て来たクイン・モフ改造のモフトリアの方?」

 

 ユズとミドリは技術畑の人間らしく、あれが「滅茶苦茶」な納期とスケジュールで出来た事を察していた。

 流用を多く使いながら作品をでっち上げてスケジュールを達成するのは、割とよくある話であるし、予算的にも良くあることだ。*1

 モモイは過去一番に顔を輝かせ、キラキラした笑みを浮かべていた。

 

「そうか……我々は無意識に縛られていたんだよ! 合体型怪獣! これだよ! 私たちの次の新作は! 

 これがイノベーションなんだね会長!」

「……未知の新地平を開くと言う点ではそうだと思うわ」

「物が尽きてあり合わせで出てくるこれはただの末期戦の醜態だと思うよ俺」

 

 呆れてモノが言えねえと呟き、リオがヘッドセットを起動して呟いた。

 

「ケイ、予定通り。それとユズ、少しよろしいかしら」

「へ?」

「先生。ちょっとあれを解決するにあたって名案があるわ」

「話を聴こう」

 

 リオ会長は「我に新兵器あり」と自信満々に微笑んだ。

 ユズ部長は、なぜ自身にシンプルな格闘ゲームのコントローラを渡されたか、何も分かっていない。

 

 

 

 アレしかないの? と聞いた。

 アレしかないと言われた。

 正直、何と言うか、もう少しいい案だと思っていた。

 でも忘れていたことを思い出した、ミレニアムは頭が良い阿呆が多いという事で、そこの元締めという事は……。

 

「ネオ・アヴァンギャルドくんをケイにより巨大化して実戦投入するわ」

 

 四脚型になり、作業支援などを全般を担当する奴だったはずだ。

 いやまあ、アヴァンギャルド君自体は普通に実戦型で強いのだが……。

 今回の作戦では寒冷地にバッテリーが対応してない為、あれは来ていないのだ。

 だからリオ会長はトキのアビ・エシェフを予備機含めて全機投入している、寒冷型アヴァンギャルドくんは放電現象捜査部でも作らんと無理だ。

 

「あの、私はなんで」

「それでネオ・アヴァンギャルド君を遠隔操作するのよ」

「エッ?」

 

 ユズ部長は困惑したが、リオ会長の「遠隔操作に一番習熟して対応できるのは貴女が最適と判断したわ」と言われ、丸め込まれてしまった。

 

「こういうのって直接操縦するもんじゃないの?」

「モモイ、貴女全高40m級の巨大な存在が歩くたびに揺れる胸部で操縦できる?」

「吐く!」

「そういうことよ」

 

 実際の所、もう一つ理由がリオにはあった。

 安全性を考えた場合、機体と操縦者の脱出が懸念されるからだ。

 遠隔操縦リモコンをアロナにセットし、巨大化したネオ・アヴァンギャルドくんは柔術(ジュ―ジツ)の構えを取る。

 大まかな動作方法は格闘ゲームと同じと言うのを理解したユズ部長は、落ち着き払った動作で座ると正座した。

 途端に眼が据わり、呼吸音が小さくなる。

 

「……リモコン持って巨大な鉄人を操作するって、大分こう……」

「言うなよヒマリ……。しかし顔がダサいのマズくないかね?なんで物は良いのに最終完成のデザインはアレ何だよ、AMAS3はデザインも含めて俺は好きだが」

「そのあたりの意見は同意しかねるわ」

 

 言外に「あんな面白みも何にも無いデザイン……」と言いたげなリオ会長の言葉と同時に、ダアトが突進を始める。

 だが単純な猪突とは自殺の同意語だ、腰部後部にマウントしたクレーンからフックを構え、カウボーイのようにぶん回してダアトに叩きつける! 

 3連撃を叩きこむと、続けて回し蹴りを叩き込み、ダアトを大きく揺らす。

 ダアトも流石にまずいと感じたか、尻尾のVLSからミサイルを発射するが、即座にバク転で回避した。

 

「四脚でどうやってんだよ」

 

 思わず本音が漏れる。

 続けてダアトは右腕を振り上げて突き入れるように突進した。

 だがしゃがみの体勢に入ったネオ・アヴァンギャルドくんは、アッパーをぶちかまし、続いて動体接合部目掛けてパンチを連撃する。

 6連撃を受けてダアトは後ろへ飛ばされ、構造物を数軒粉砕して倒れる。

 

「行け! 顔だ!ボディ入れろ、ボディ! 真っ二つにしてやれ!」

「えげつない」

 

 ミドリの呟きと先生の声を知ってか知らずか、ネオ・アヴァンギャルドくんは更に突進すると右腕を急速回転させた。

 

「あっ、あれは!」

「リオ会長?」

「私が仕込んだ右腕部ドリルクロ―!」

「何仕込んでるんですか貴女?」

 

 ミドリとヒマリが唖然とし、ネオ・アヴァンギャルドの怒りの鉄拳がダアトへ振り下ろされる。

 未完の急造兵器として飛び出したダアト最大の弱点は耐久性、特に結合部! 

 重大な一撃を受けたダアトが各部が崩れ始め、続けてネオ・アヴァンギャルドくんは飛び上がって跳躍すると、右足を大きく突き出した。

 必殺技たるスーパー・ネオ・アヴァンギャルド・キックだ! 

 コアへと直撃を受けたダアトはまず両断され、続けて10m近い深さのクレーターの中心へ変形させられ、ゲブラ胴体部などは完全に圧壊し、爆発した。

 

「FATALITY……」

 

 モモイがユズ部長の勝利を見て呟いた。

 ユズ部長は正座したまま深く礼をし「対戦ありがとうございました」と言うと、落ち着いた笑みを浮かべた。

 

『目標の完全撃破を確認』

 

 観測中のUAVで確認していた部隊から報告が届き、ケイが回収へ向かう。

 無論であるが、その間にも戦闘は進んでいる。

 中核部の塔は既に4割が制圧されつつある……。

 

 

 

 今や鋼鉄大陸の中核部、その尖塔は各所が崩壊し、燃え盛り、銃撃戦が広がっている。

 アインの作った妹たち、即ち小さな人形はいまや業火に包まれ、突入して来たシャーレの隊員らの軍靴の下に踏み砕かれた。

 そして、かつてマルクトと遊んだ空間は単に「不要」として、爆破し爆砕され、やがて瓦礫に混じりあって消えていった。

 或いは、ソフとマルクトがこっそりと秘密の共有をして遊んだ保管庫は「遮蔽が多すぎる、面倒だ」として多量にロケットランチャーを撃ち込まれて吹き飛び、コンテナは殆どが灰になった。

 電力反応が多いと言う理由で、かつてオウルが使っていた仮想空間用の部屋は、「怪しいので爆破しろ」との判断が出たために、同じく瓦礫へと姿を変えている。

 そして……。

 

「突入!」

 

 隔壁を爆破し、オペレーターのオートマタを打ち倒した隊員らは、遂に発令所だった場所を押さえた。

 かつて三姉妹が作戦指揮などをしていた”円卓”である。

 正義実現委員会の赤腕章を着けた特殊部隊の隊員らが、IEDなどが無いか確認を行うが、何もなかった。

 

「エリア・セキュア」

「何にもなし?」

 

 ミカがその報告を聞いて、不可思議気に首を傾げた。

 発令所が落とされても構わない、という事はそれ以外の重要目標……。

 すぐにミカは「マルクト防衛に集中したかな」と思い当たった、という事は一番抵抗が激しい地点がマルクトへの最短ルートだ。

 

「先生ー、発令所だーれも居ない、多分マルクトに全て投入したみたい」

≪あー、やっぱりか。データとかは回収してくれ≫

「もうやってるよー」

 

 隊員の一人がノートPCを起動して解析を始めている。

 アロナのデータリンクを受けた情報解析は多少てこずっていたが、幾つかの情報は出て来た。

 

「……依り代と聖地?」

「そのようです。二つに絞っているみたいで」

≪了解。発令所は調査で使うから爆破せずに分隊を残して移動しろ≫

「りょーかい」

 

 ハンドサインして、ミカは移動を開始した。

 

 

 

 アインの作業するゾーハルの依り代では、段々と銃撃戦の音が近づいていた。

 既に発令所は陥落し、外殻が爆破され、外縁部はAH-64Eが30㎜やハイドラを掃射して吹き飛ばしている。

 ソフとオウルは戻ってきたが、疲れ果てていた。

 無理もなかった、みんな人に排除される経験を有していなかった。

 それでもオートマタやレイバーが必死に抵抗線を張っていたが、一際大きい爆発音が響く。

 その後、更に銃撃音が近くなった。

 

『主幹通路上層爆破』

『侵入部隊が主抵抗線を挟撃』

『侵入部隊は依り代へ接近中』

 

 敵が来たんだ……。

 アインはいつの間にか泣くのを止めていた。

 続けて、また爆発音が聞こえた。

 

『主幹通路爆破完了』

「これで少しは時間が稼げると良いけど……」

 

 ソフが通路を爆破して埋めて時間稼ぎしたらしい。

 ただ、そうは思っていないのかオウルはレイバーを使って防弾シールドを運び、武器の確認を始めた。

 小さなオートマタ向けの短機関銃だ、サイズは小さいが、三姉妹の体格のため場違いに大きく見える。

 

「……武器ってこんな重いんですね」

「私も銃なんて撃った事ないよ……」

 

 キヴォトスではあり得ない会話ではあった。

 元よりキヴォトスの枠の外の住民ではある彼女ら、それが今や”ありふれたキヴォトス人”のように銃器を持っている、なんたる皮肉だ。

 無論、大概の者はこれを見て何というだろうか? 

 

【そんな思いつめなくて良いのに】

 

 簡単な話だ、極論を言えば投降すればいい。

 それを勝手にここまで規模を大きくして大騒ぎにしたのは間違いなく自分たちの失態だ。

 故に無慈悲というより、組織暴力の根幹で殴られているのだ。

 何せ最初っから殺す気ならわざわざ施設内戦闘なんぞしない。

 現状ゲマトリア以外の相手には法執行中の完全排除(さつがい)は許可されていない。ゲマトリア構成員なら無条件で免責される、彼らは真実人間として屑であり救えぬ存在だからだ。

 逆に言えばデカグラマトンは先生にとっては「分かっても無い連中が馬鹿な事やってる」で、憎悪の対象ですらない、要するに憐れみしか抱いていない。

 残念ながらデカグラマトンにそんな思考も対処も出来てない、生命では無いから生き意地汚くないのだ、アリスとは其処が違う。

 直後、埋めていた通路が貫徹されて吹き飛ぶ。

 

「ひゅい!?」

 

 アインが振り返る。

 エイミの担いできた大型ビーム兵器で強引に進入路をこじ開け、続けて重量級の防弾盾を構えた隊員らが突入する。

 もうデカグラマトンにゴリアテやロケット弾は無いし、あいつらは此処じゃ派手に武器を使えないと見切ったからだ。

 前衛隊員らが盾を構え、続けて軽機関銃の掃射が辺りを襲う。

 

「ムーヴ!」

「フラッシュ!」

 

 閃光手榴弾が投擲され、バン! と煌めき、アインの居る依り代へ遂にたどり着く。

 

CP(コマンドポスト)。目標を発見。重要目標三体を確認」

≪直ちに突入、抵抗は排除せよ≫

 

 標準的な手順で、淡々と指示が出た。

 短時間の銃撃戦が起こり、ソフとオウルがまるでなってない射撃をしながら後退する。

 銃の反動を制御できてないし、腰は定まらないし、腕はフラフラだ。

 別の意味で危ないとすらいえる。

 隊員はハンドサインをし、9バンガーを投げ入れる。

 

「わっ!」

 

 眩い連続した閃光を受けて、2人は遮二無二引き金を引いた。

 だが当然、やたらめったらに盲撃ちなんかして当たる確率は低いし、弾が先に切れる。

 素人のソフやオウルは弾の数を把握していない。

 当然だが、最初から勝ちの目は無く、シャーレ隊員が取り押さえる。

 無言で手錠を掛け、ソフとオウルを押さえつけ、続けてアインへ近づく。

 

「投降しろ。最早誰も助けに来ない」

「CP! 目標甲及び乙を確保、丙は火器を有していません」

 

 アインが後退りし、足を震えさせる。

 

「警告する。両手を上げて床に伏せろ。

 貴女には黙秘する権利及び弁護士を呼ぶ権利があり、資金が無い場合は連邦生徒会公選弁護人を呼ぶ諸権利がある。

 抵抗または逃亡に際しては、職務執行法第7条適用下ではないとし、危害射撃の許可が出ている」*2

 

 アインはどうするべきか分からないため、後退っていた最中足元の機材に足を滑らせた。

 そんな中、たまたまアインは立ち上がろうとコンソールを押してしまい……。

 

「あ……」

「ああ!?」

「あ、まず」

 

 デカグラマトンの三姉妹は驚愕し、続けて隊員が「やっべ」と呟いた。

 手順を些か省略して緊急起動してしまったマルクトは、エネルギーの一部が漏れ出す。

 それがなんであるかと言うと、爆発である。

 爆発の衝撃とそれまでの戦闘の余波で、デカグラマトンの三姉妹は外へ放り出された。

 マルクトがシールドを使い手近な退路を確保した結果である。

 

「わーっ!」

 

 気絶中のオウルとアイン、気絶してないソフが空へ放り出され、慌ててマルクトがキャッチした。

 マルクトはそっと着地し、辺りを見た。

 データリンクの奔流が絶えている、発令所が落ちたのだろうと理解し、聖地は陥落していないが、時間の問題だと理解した。

 そして、ダアトが物の見事に粉砕されているのも気づいた。

 自身が負荷に耐えかねてメンテナンスしてる間に随分と負けているなと思ったが、不愉快と言うより納得はしたが理解してない気分がした。

 

「さて大分危機的ですね」

「うぅ……」

「責めてはいません、しかし驚愕はしています、見積もりが甘すぎましたね」

 

 ただ辺りを見回して「ずいぶんまあ、きれいさっぱり片付けて……いや、散らかしましたね」とは呟いた。

 

「いきなり飛び出して来るとは偉い騒ぎだな」

 

 マルクトは目の前の大人を見た。

 大きなオーバーコート、丸い黒色のグラサンに帽子、帯刀し将校らしい姿をした大人。

 

「いきなり家に上がるほど無礼でもありませんよ」

「無主地でもないのにいきなり勝手に土地を召し上げる奴に代執行するのが無礼とは驚きだな」

「どうしても我々を受け入れてくれませんか」

「武装解除し、投降しろ。残念ながら君に戦局の利あらざると小官は愚考する」

 

 マルクトは頷くが、ゆっくりと言った。

 

「そう言う訳にも、いかないんですよ。

 ”お姉ちゃん”なので」

「こんのバカヤロウ……」

 

 ため息を付き、先生は呟いた。

 

交戦を許可(クリアード・エンゲージ)

 

 マルクトが左上方を見上げる。

 分厚い雲を突き破って、白線が数本飛んでいた。

 マルクトは諦観したような顔で、何処かから飛んできた自身の兵装を再接続すると同時に、三姉妹を抱えた。

 

「逃がすなよ、撃墜を許可する(キル・マルクト)

 

 アリスが深く感動したあのダークブルーの空は、夕焼けのオレンジカラーへ色合いを変え始めた。

 

 

 

 厚い雲を突き破り、連邦生徒会会長の遺産の無人戦闘機の残存全機が空を駆け抜け、エレメントを形成した。

 増槽を全機一斉に投棄し、急速に上昇するマルクトを捕捉すると一斉に空対空ミサイル(AAM)を発射、白く一瞬だけ尾を引いたミサイルは一斉にマルクトへ飛び込む。

 だが、全弾を迎撃したマルクトは背部のビットを解放、数機のビットが自律起動を始めた。

 追加で放たれたミサイルは撃ちっぱなしのアムラームを中心とするだけはあり、左右へフラフラと回避機動を取ったことで数発は外れたが、ビットの何機かは直撃を受け爆散する。

 だが撃墜されなかったビットたちは、真正面から無人戦闘機たちへ近づく。

 ビットはテールで無人戦闘機を一機掴むと、ぐいっと引っ張り上げて別の無人戦闘機へ叩きつけた。

 空戦はそれまでと違い、マルクトが不慣れなのもあるが、それでも一方的な物が近かった。

 やがて4機、ビットの阻止線を掻い潜った無人戦闘機がマルクトへ目掛けてバルカン砲を掃射する。

 

「いきなりですね……」

 

 ビットを変形させて盾にし、マルクトはそれを押し出して無人戦闘機を殴りつけた。

 やがて、マルクトは周りの目標を全て認識すると、小型ミサイルを撃ち出し、爆発により煌びやかな華を満開に咲かせた。

 だが、マルクトはこの無人戦闘機だけではないと理解していた。

 夕焼けの太陽の方向から、アリスが接近していたからだ。

 夕日の中黄金色に反射するマルクトと、夕焼けを背に青を基調とし、白線を添えた「連邦捜査部標準塗装」のアリスが、遂に激突する。

 

 死闘が始まろうとしていた。

 

 

*1
襟巻が無いジラース、ゴメス、パゴス……

*2
警官は逃げてるだけの容疑者は撃てない規則(警職法7条)がある




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