キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
他者が超越を意味するのは、より正確に言うなら、そもそも他者が意味するものであるのは、他者が新たなもの、未曾有の何ものかだからではない。
そうではなく、他者から新しさが到来するがゆえに、新しさのうちには超越と意味が宿っているのだ。
存在のうちで、新しさが「存在するとは別の仕方で」を意味するのは、<他者>によってである。
──E. レヴィナス著「存在の彼方へ」──
エリドゥ郊外、その片隅に銃声が響く。
弔銃として、シャーレの儀礼銃であるM1903が唸ったのだ。
射手はサオリ達と、クロコへ任せた。
しっかり埋めてやらねば問題だろうと言う事と、悲しみは乗り越えるものだ、従い葬式をしなきゃいけないという現実が、これを実現した。
三発の斉射が、銃口から霞んだ灰色の硝煙を僅かに漂わせ、粛々とした動作で列へ戻り、立て銃をした。
葬式とは死人を乗り越える為にある。
これがちょっと問題になった、これまで葬儀した相手だが、ユメ先輩はアビドス校舎でやればよいし、プレナパテスの奴はシャーレ本庁舎でやれば済んだ。
だが三姉妹は何処でするんだと言う問題には皆して困ってしまったのだ。葬儀をやらにゃいかんと言う点は皆同意してたが相応しい場所は? という事になると「わかんない」となった。
「少なくともアクセスしやすい方がいいよね」
モモイはそう言った。
「そうだな」
「でもみんながマルクトを見たらびっくりしちゃう」
ミドリは姉の意見へ述べる。
「そうなんだよなあ」
「……エリドゥ?」
ユズ部長がそれしかないだろうと言うように述べた。
「そうなっちゃうかぁ……」
ゲーム開発部の意見を覆せるだけの意見も無いのと、マルクトが同意したので取り敢えずそう決まった。
リオはしっかりエリドゥに墓地も用意していたから、用地は問題なかった。
本当は弔砲も用意するか考えたが、マルクトが「よい」と言った、ただの、有り触れた存在であるから尊い妹たちだったのだと言われた。
最後に、アツコによる説諭と、Amazing Graceを合唱して葬儀を終え、そしてもう一つ大きな問題が出て来た。
「マルクト、お前は何をしたい? ……なんてすぐに出る訳は無いし、どうしようかね」
マルクトのこれからである。
まさかシャーレで預かります、と言う訳にも──出来るが説明に困る──いかない、ユウカ達に「いやぁ家族が増えたよ」なんて言ったら殺されそうだ。
と言うか、連邦生徒会はAARに対して唖然としているし被害甚大で顔を赤くするか青くしてる、そんな中で新しく特記戦力増えましたなんか言ったらどうなるか分からん。
漸くサンクトゥムタワー再建作業を出来ている人たちなのだ、予算や選定業者がちゃんとしないからあの始末なのに。
困るもう一つの問題であるケイ……天童ケイはミレニアムにぶち込むことが決定している、一応ゲーム開発部と特異現象捜査部の所属だ。これは連邦生徒会が知らない案件だ。
マルクトがふと、口を開いた。
「もっと、色んな世界を、肌で感じて、見て、知りたいです。
我はまだ狭い世界しか知らないのです」
「ふむ、じゃあ結論を出すのはまだ早いか」
取り敢えずメンテナンス作業が出来るようにとか、あれこれあるし一旦特異現象捜査部預かりとしよう。
マルクトは生命維持に食料が要らない点と、そこらの奴じゃ勝てないのはありがたい。
しかしただ遊ばせても問題だ、という事で暫くセミナーの面子……というかリオとノアとユウカの話し合いに際して、御使いクエストとかしてもらおうか! と決まった。
現状はリオやアリスらと一緒にホド君がぶち壊した回線確認とか仕事は多いぞ。
「御使いクエスト?」
「はい! 詳しくはアリスが説明します」
「拝聴します」
アリスはにこやかに、人と交わる仲良くするおまじないを語った。
慈しむこと、優しくすることである。
マルクトは何を得て、何を成すのか、余白多き世界にまた一人増えたが些末事だ、世界は超人に合わせて出来ていないのだ。
アリスたちのだいぼうけんの話はひとまずおしまい、という事である。
何を得て何を失ったのか、何が違ったかは大事ではない。
選んで決めて進んで悩んで出した結論だ、後悔はしない。
気が重いとユウカに言ったが素っ気なく「諦めて下さい」と言われた。
カンポンが議会でぶっちゃけた時よりはマシな筈だが、気が重いのは変わらない。
まず今次作戦の被害は甚大である。
三胴巡洋艦<ケートー>級3隻、シラトリ湾で大破着底し浮揚作業中。
連邦生徒会から持ち出した無人戦闘機48機、全機撃墜。
こっそり編成していたパワーズ、保有機全損。
連邦生徒会重装備保管庫から持ち出したK9自走砲以下、残存1/3!
各校からの供出兵力が受けた損害は現在計算中。
「どうするんですか! 連邦生徒会は10分おきに発狂して電話が来ますよコレ」
「電話の線を切れ」
「根幹が解決しません!」
「こっちじゃないサンクトゥムタワーの電話線だぞ」
「そうじゃなくて!」
いやぁ、AARの内容はユウカにはまだ見せないでおこう、今は心配かけたし見せたら倒れる。
酷い話だ、トキなんてパワードスーツは事実上全て全損、保有0になった、リオ会長が「予備機が尽きたわ」と匙を投げている。
心なしか半泣きジト目の二頭身みたいな姿に見えた。*1
「ともかく! 連邦生徒会の公報の会見には出てもらいます!」
「しょうがないな」
「説明もですよ!」
シャーレ本庁舎の中でそんな事を言い合っていると、階下の警衛司令から慌てた様子で呼び出された。
「おう、江波か。どうした」
『せせせ、先生! スズ団長が!』
「なんだ遺体か遺品でも出たか」
『生きてます!』
「偽モンじゃねえよな!?」
思わず声を荒げた。
てっきり死んだと思った、確認が出来たらちゃんと殉職の英雄にしてやる予定だったが死んでないならそれでよい。
幹部将校は無から生えないとボロディノで痛感した、あんな風に戦争やったらお国がマジで壊れちまう、と言うか軍隊を壊した。
急いで降りてみると、どっかで見た白熊のあんちゃんがいた。
「……あんちゃんもしかして村で釣りしてた?」
「あれ? 貴方は、親切な電器屋の人!」
何があったか尋ねると、夜戸浦村で釣りしてたら突然スズが降って来たらしい。
そして以前居た漁師のおじさんと水中捜索してたら、なんか頭の中で隻眼のおじさんから「ちょい右!」と叫ばれて、スズを拾い上げたそうだ。
その幻覚の隻眼隻腕のおじさんが「黙れ地球温暖化させるぞ!」とか言われたのは知らないが、良く見つけてくれた、功労章と年金を村一同にくれてやりたいくらいだ。
皇帝時代なら子々孫々まで減税してやりたいよ。
「お陰で風邪を引きました」
「おーそうか、良く休め。良かったな、来週だったら階級の星が二つ増えてたぞ」
「着衣泳法なんて実践したくありませんよ!」
結構な重装備だったが、靴も含めてほぼ投棄したらしい。
実際正しい判断だ。後は無為に体力を浪費せず脱力して浮かんだのも適切な行動だ。こいつこれでも訓練は履修してるんだな。
しかし遠くや異空間でも良かったろうに何故、村の近海何だろうか。
頭の中で前にあった謎のくさやと海産物事件を思い出したが、まさか……まさかなぁ……。
数日後、保管庫にぐちゃぐちゃに濡れたスズの装備と被服が発見された。
下着から鉄帽、防弾衣に上着までフルセットで見つかったのはなんなんだ。
恐かったのでオデュッセイアに依頼して海洋諸生物の餌を幾つか散布し、鎮まる様にと願掛けをしたが、内心律儀だなと思った。
少なくとも借りは返したという事なのだろうか?
ミレニアム学園、ゲーム開発部の部室ではやはりだらけた空気が流れている。
部室内では全知アイマスクを着けたミサキが何故か寝てるし、トキは苦行としか思えない別惑星探査ゲームをプレイしている、モモイとミドリ達ゲーム開発部部員一同はテーブルの上にポテチを広げて、テレビを見ている。
テレビが映しているのは今次の作戦の公報をする先生と、質疑応答だ
『今次行われた作戦は全て、デカグラマトン問題の解決の為に行われた。ということをご理解していただければなりません。
我々は確信をもって、デカグラマトンを完全排除したことを確認しました』
『では、もうデカグラマトンは出現しないという事でしょうか?』
『新規は無い、と言う点ではそうです。少なくとも、デカグラマトン、ゲブラ、イェソド、コクマーは本体が消滅しました』
記者たちは騒めき、先生が続ける。
『ビナー、ケセド、ケテルなどは現在本体を確認していませんが、活動していると予測しています。
また、ティファレトは無害化を完了し、その結果安定した事も喜びを以てここに報告します』
『アリウス・デイリーのハナミです。今回作戦地域で複数のカイザーが活動していたようですが関連は有るのですか』
『いえ、カイザーの方は小官が認知しておりませんね、一部通報はありましたがそれだけです』
『では、昨日公開された新型弾頭搭載型弾道弾使用の事実は存在しないと』
『認知して、おりません』
先生が繰り返す様に言い、ミサキは「役者だね……」と寝ながら呆れて呟いた。
アリスがケイとマルクトを連れて来た、妙にメカっぽいマルクトはある意味ミレニアムでは不可思議そうにされたが、特別感は抱かせなかった。
そう言う点ではケイのがビックリされた、アリスに妹がいたのかと言う衝撃は大きく、スミレ部長とレイはひっくり返ったくらいだ。
「おかええりー」
「ただいま帰りました! ……これは?」
アリスがユズ部長に尋ねる。
「先生が会見やってる」
「思っても無い事を真顔で白々しくね」
ミサキが鼻で笑う。
会見は『全く要領を得ていません、おかしいでしょう!』と記者たちが質問責めにしている。
『緊急動員により各校の部隊が召し上げられたばかりか、予備役部隊に5分待機準備が発令されたという噂が、いえ、資料がですね、ここにあるんですよ!』
『アビドスとアリウスで緊急機動演習の準備が出たと言うのは?』
『連邦生徒会の統制はどうしたァ』
『えー。先ほども申した通り、それまで確認されたデカグラマトンのみならず、新型も出現した以上、非常措置に出たと言うのが事実でありそれ以上は有りません』
ケイの「相変わらず元気ですね」という声と、アリスがマルクト用の紅茶の入ったペットボトルを取り出す。
マルクトは不可思議そうにテレビの画面を見ている。
「これは?」
「市民の管制を受けてるってだけだよ、説明責任は大人のやる事だからね」
ミサキがアイマスクをずらして、面倒くさげにして、身を起こす。
「ま、そのうち明日明後日にはSNSにもっともらしく……」
ミサキは言うのを止めた、粛々と後処理の工作がされているが、聞かせない方がいい。
表向きにはデカグラマトンは完全に死んだ、だからここにいるマルクトはデカグラマトンではなく、不可思議ななにかだ。
彼女はこの星に生まれたもう一つの高等知性体ということになる。
明日辺りには暴れるダアトの映像を一部にリークして、先生の『あまり話せません』という態度をそれらしく補強するだろう。
「噂話として流して映像を出せばもっともらしく見えて、あとは映像の真贋とかで話が逸れてクロノスは冷めるよ、一部独立系メディアや放送局は分からないけど」
「情報戦ですか?」
「違うよ、パイを分けてそれなりに社会正義を満たして充足させてるんだよ、実現させたい人は少ないけど」
そう言うと、ちらりと窓の外を見た。
私服の生徒らしいのが居る、公安局だろう。
「あ、狂犬の所が来てる」
「カンナ局長さんとこの人? 挨拶しに行く?」
ミサキは本気で呆れたように、唖然とした。
張り込みしている警察の私服相手に自分から挨拶しに行くってどういう神経だ!?
まあ意味はあるかと行かせたが、帰る時は挨拶の裏で帰るかと決めた。
最近はヴァルキューレの監視が少し増えた、理由は先生がアレコレしたからである。
不平不満は無い、そりゃそうだと思う。
「よーっす。チビども居るか」
「ネル先輩」
「お、マルクトも居るか」
ネルがバッグを片手に現れた。
「時間空いてるならゲームやろうぜ」
「やるー!」
「なにする?」
ゲーム開発部の小さな幸せは、しっかりと此処にある。
マルクトは何をするか、ふと考えた。
「では、カタン*2でもやりましょうか」
「お、良いねェ」
人間はいつも予想外だ、ゲームはそれを端的に描き出す。
モモイの不運、ミドリのガバ、ユズ部長のなんか変に偏重した内政、アリスのバランス型内政、何もかも予想外だ。
さあて、今日は誰がネル先輩の初期ラッシュを喰らうのか。*3
そして少し目を離すと内政偏重で国力増大させまくるケイを誰が止めるのか。
頼むから前みたいに泥仕合はやめてくれと思いつつ、マルクトは再び指揮卓へ向き合った。
誰だユズ部長とネル先輩を隣国に配置した奴は、軍拡競争で破綻したぞ。
マッキントッシュ調の天井の高い再建中のサンクトゥムタワー執務室、帽子を脇に挟んで立った先生が淡々とリン行政官へ報告した。
渡した書類には写真などが添えられているが、内容はダアトやデカグラマトンなどだ。
「以上が、今回の詳細と今後の対応だ。
気がかりなのは、ゲマトリアとは別の諸勢力が活動している可能性が出ている、今次案件は先ぶれだろう」
「面倒ですね……」
リン行政官は困った顔をして、そして不可思議気にした。
「マルクトを排除しなかった理由は?」
「甲乙丙、三種あるが要約できる。
勝つにしろ負けるにしろ、もはやマルクトを相手にする戦争は
つまり、もはや絶滅戦争の対象ではない。
絶対戦争は相手の殲滅を以て終了とする、現実戦争とは妥協点を探り合うものだ。
ゆえに、もう高脅威目標ではない。
「……了解しました」
「それとだが、本気でそろそろ連邦生徒会会長を選び直すべきだと思う」
「それは……」
「残念だが本格的に検討するしかないだろう、情勢は予断を許さない時期になり始めた」
ゲマトリアの残存勢力はまだいる、無名の司祭は動き始めた、故に脅威に備えねばならない。
リン行政官はそう告げられると、静かに頷いた。
居ないものは力にならない、今ここに居る者が未来を作る義務がある、死人じゃない。
「と、いうわけで補正予算、お願いいたします。
0の桁を一つ減らして何万の民衆が犠牲になるかはよくお考えを」
いい加減、連邦生徒会も当事者意識を有して頂かねばならない。
前回のように梟首並べて狼狽じゃ本気で民衆が見限るぞ。
俺が権力を握っても何も解決しないのは連邦生徒会に対して信頼している数少ない点だ、連邦生徒会会長の愚行を再生産しかねない、自助も努力も無い家畜の群れをつくって「自分は素晴らしい指揮者だ」なんて己惚れるのは耐えられん。
遠くの氷の世界で、巨大なクレーンなどが備えた船舶が作業を続ける。
大きな船体の側面には<グローマーエクスプローラー>と船名が書かれ、大きな機材を下ろしている。
後部ヘリ甲板にKa-28ヘリコプターが二重反転式ローターを廻して着艦し、横のスライドドアを開けてプレジデントが降り立つ。
「幾ら何でもやり過ぎだ、莫迦者」
「ちゃんと利益にはなるぞ」
降りて来たのを出迎えた会長はそう言うだけの論拠があった。
デカグラマトンは大半の構造物を塩に換えて消えてしまったが、そうじゃないものもいくつかが存在する。
例えば試作していたケテルの部品類は水底ではあるが存在するし、ゲブラの改造部品も多く残留している。
その為にわざわざ<グローマーエクスプローラー>を、カイザー・コンストラクションから引っこ抜いて回させたのだ。
公海上で作業する分には誰も介入する論拠が無いので、連邦捜査部だろうが介入できないのを突いたわけだ。
「恐らくだが、かなり安価にゲブラやケテルの劣化版が出来るだろうな。
我が社のゴリアテを勝手に利用されたのだ、こちらが使っても文句あるまい」
「戦闘兵器だけなら利益が出るとは思わんが?」
「当たり前だ、ブラフだよ」
プレジデントは呆れたように呟いた。
「お前まさか、我々がデカグラマトン本体の遺骸を確保しているか分からないようにする気か」
「正解だ、ハッタリが信用を作る事がある。
それにゲブラやケテルだが、これは統合しようと思う」
会長は背中からコードを出し、プレジデントへ接続した。
転送されたデータにはゲブラの脚部の高機動さと、ケテルの胴体部を足した兵器構想が詰まっていた。
この火力型多脚兵器と、ゲブラを小型化させた対人機動兵器案の二種類を前提としている。
ミニ・ゲブラは対人の小型、ケテルの系譜はゴリアテの直協で使おうと決めた。
そうこうしていると、現場監督のオートマタがやって来た、オレンジ色のヘルメットを着けている。
「あの、問題が」
「何かね」
「……見てもらった方が」
場合によっちゃ俺の出世はおしまいだと思いつつ、現場監督があるコンテナの残骸を見せる。
区画化されたコンポーネント、ミレニアム式の建設が極めて近い方式の施設の残骸が出て来た。
水は入っていないが、内部から出て来たものは大問題だった。
「これは、なんだ」
プレジデントと会長が、懐中電灯に照らし出されて見えた物を見上げた。
破損したカプセルの群れが幾つも並び、あちこち欠損した真っ白な人形たち。
この時点でカイザーはケイが使用したサブ端末などを知らない為、当初は三姉妹か何かかと身構えた。
だが不可思議な事に、起動されたと言う様子もなかったし、奥で生きている容器は一つだけだ。
「不完全。欠陥品。コードKG-129……」
「例のデカグラマトンの何かか?」
「恐らくマルクト、そしてデカグラマトンの義体予備だろうな、正副予備で三体はあるだろうが」
生きている容器を見上げる。
中にあるのはマルクト、デカグラマトンの姿とは違い、ポニーテール型の髪型をした白い義体の何かだ。
恐らくマルクトの義体構成の試作品で、失敗したがサンプルで保管していたのだろうと思えた。
「と言う事はこれは全てヤツがための贄か、胸糞が悪いな、再利用の概念がないのか」
「ある奴が神様になろうとするか? わが友よ」
会長が呆れて呟き、少し沈黙して考えた。
これを用いて、もっと面白くなるだろうか?
幸い”もう使わない不用品”はここに一杯転がってるから、「煮るなり焼くなりは不用品でやれば良い」ので、利益以外で考えればいい。
ジェネラルが居ないのは幸いだった、アイツなら「沈めて見なかったことに」としたに違いない。
「そうだ我が友よ」
「なんだ」
「……悪の大企業は美人秘書が必要じゃないかな?」
「おい、まさか」
プレジデントは呆れたように、会長を見た。
「
コンソールを叩き、起動した容器は蓋を開ける。
ごとんと音を立て、転がってきた少女をキャッチする。
何でおれはコイツの口車に乗せられたんだかと思いながら、もう何を言っても無駄とプレジデントはさじを投げた。
「……あの、会長」
現場監督が会長へ尋ねた。
「なんだね、今結構気分が乗ってるんだ、こうも楽しい事が連続して起きるのは久方ぶりでね」
「はぁ、それは良い事ですが……。その、お名前はどうするんですか」
会長はきょとんとした後、「そうか、名前が要るのか」と呟いた。
それに気づいた事で、会長はどうするべきか軽く独り言として思考を取りまとめて呟く。
「何が相応しいか、アディシェス、ケムダー……いや、キムラヌート……」
その名の意味を理解する者はほぼいないキヴォトスで、会長はやや楽し気に考える。
セフィロトを自分勝手に改変したものの生き残り、所謂クリフォトの系譜、
それは強制と非難と威圧と、反感と無知と無感動と強欲と物質主義を繋げる
「では、君は今日から
そう言うと、会長はAve verum corpusをにこやかに歌い始めた。
カイザーによる鋼鉄大陸調査作戦<オペレーション・ジェニファー>は、予想外の結果に終わったのである。
数日ほどして、ジェネラルは会長が見たこともない女性を連れているのを見て腰を抜かす事となる。
暫くしてから「役員会の秘書って事は、あれ俺より上なのか」と気付いたが。*4
斯くして、アリスたちの根幹と、戦いを巡る物語は一応の結末を迎えた。
無論、全てが終わっていない、始まったという事は言える。
将来起きる対決に備え始める人々、いずれ起こるその時に備えて営々と準備は進められ始めた。
ミレニアム学園はともかく、戦いに今は勝利したことを安堵した。
全てに勝利したわけでも全てに解決がついたわけじゃないが、取り敢えず今は安心だ。
マルクトは色々な人々を見ていく中で、多くのことを学んでいくだろう。
それがどのように作用するか、どのようになるかは巨大な未知数である。
トリニティはある意味、巨大校の面子を守り抜いた。
派遣された諸部隊はしっかりと到着したし、しっかり活躍した。
大きな改善点もあった、緊急展開に関して政治改革の影響で家や派閥の対立が鎮まり始め、機能と目的に関しての熱論がされている。
一部の生徒は少しばかりガラは悪いが、正義実現委員会が真に機能し始めている事を喜んでいる。
ゲヘナにとって今次作戦派遣は類を見ない強行軍であった。
基本的に戦備を揃えて部隊で活動するのが難しい中で軽装部隊を即応させたことは、風紀委員会がシャーレの支援を的確に運用出来ている証拠である。
マコト議長は、珍しくヒナを褒めたと言う。
アリウス自治警察予備隊混成団は今回の参加に際して幾つかの課題点を見つけた。
まず、専守防衛をある程度の主眼として再編された武力組織である自治警察予備隊は、部隊の重装備などから機動力に難点があるという事だ。
これに対し、アツコ生徒会長は「改善はしたいがすぐには難しい」と述べた、彼女は他の学校からの視点の問題点の方も考慮していた。
最終的に緊急展開部隊の構想をある程度進める事となった。
連邦捜査部は今回の作戦に関して、深い満足感と、大きな衝撃を受けた。
航空脅威目標の新たな姿を見たのだから当然のことである。
エアカバーと言う点に見直しが入り、対空火力増強が考慮され始めてきた。
とはいえ、やるべき事は大きくある。
パワーズ部隊は事実上全滅! 機甲部隊は半壊! 何もかも滅茶苦茶だ。
だが根幹は変わらない事は確かだ、「シャーレは暴力を唯一のランゲージとする存在へ巨大な鉄拳を叩きつける組織である」と言う点はしばらく変わらないだろう、攻性かつ公正の組織でなければならない。
今後も脅威は尽きない、愚者は出る、だがやる事は変わらない。
必要ならば、きっちり根まで皆殺しにする、彼らにその意思を叩きつける、それでも変えないなら実行する。
慎ましく大人しければ
レッドウインター連邦学園にとっての今次作戦は突然始まったブリザードであった。
いきなり始まり、いきなり終わる。
ピオン重自走砲を頑張って運び込んで来たマリナ委員長は、全て終わったと聞いて「せっかく頑張ったのに!」と駅の鉄道プラットホームで叫んだと言う。
チェリノは本格的にインフラ問題を何とかしなければと考え始めた。
実現できるかについては疑問視されているが、希望は捨ててはならない。
人生を生きるのならチンパンジーがシェイクスピアをタイプする日を信じてる方が素晴らしいからだ。
諦めるより素晴らしい事である。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げま