キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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外伝7
キヴォトス未確認ミステリー!捜索隊西へ!ツチノコを追え!


 

 白河スズは姉から届いた連絡に、困惑と当惑を感じた。

 ちょっと困っている、という連絡が来て、少し手を借りたいと言うお願いが来ていた。

 スズからすれば何だ一体となるのは必然で、幸い別の用事もあった事もあり、彼女は先生と公安局に向かうことになった。

 一応の用事は、何でか便利屋の馬鹿どもが変な事に巻き込まれて、挙げ句の果てに闇バイトへのお礼参りになぜか旅団規模の匪賊共が出てきて、討伐作戦をやった件だった。

 何処から持ち出したか怪しい多脚戦車の類が出てきたりして、本格的な街区追討戦がヴァルキューレと連携して行われたのである。

 

「いったいどーなってんだろうなブラックマーケットは」

「噂じゃ生徒の卒業アルバムまで売られてる様ですからね」

「写真屋が流してるって話じゃねーだろうな」

「印刷屋の方かも、レッドウィンターの出版物が売れてる理由の一つはそこに信用がおけるからだそうですし」

 

 先生が呆れた顔をしている。

 いつかの授業で「銃砲火薬より余程歴史を変えたのは活版印刷と大量生産による言論の自由の容易化」と述べていたが、全くその通りだ。

 公安局の中に入ると、"ほぼ私服"であることの意味に気付いたカンナ局長と、姉である書記が「あぁ」と表情を変えた。

 制服ではなく私服であるという事は、「最悪、プライベートという事で処理します」と言う事であるからだ。

 軽い形式的な話し合いや資料の確認がされ、矯正局のミスズ局長らとの書類を確認した先生が戻ってきたのを見て、ぼえーっと口を開けたコノカ副局長をカンナ局長が小突いて、魂を再起動させた。

 

「んあ、姉御ぉ」

「何があったんです」

 

 スズは困惑と呆れが混じって尋ね、先生は「気まずい案件とかセンシティブな案件なら退席するが……」と返す、少女というものは複雑なのはよく知っている、彼も兄であった。

 帰ってきた答えは、二人を暫く絶句させた。

 

「ツチノコ」

「百鬼夜行辺りで警備局がシバいてたよな」

「やりましたね」

 

 スズと先生の会話に、スズの姉であるリッカ書記が言う。

 

「そう言うアノマリーじゃなくて別のやつらしいんですよ」

「はぁ」

 

 未確認生物と言われて「マルクトのことか?」と口にしかけた先生と、心当たりがありすぎるスズは、チラリとコノカを見る。

 少なくとも一人で行かせちゃヤバい状態の人間の様には思える。

 

「……で、適役そうな人が用件で潰れてまして」

 

 公安局契約のコントラクターのノナカの様な、ある意味フリーランスの人間に頼むとそれはそれでまずいと言う意見は納得した。

 まさか正規捜査中の捜査官とかを回す訳にもいかない、ある意味では白河リッカを送る手もあるが書記も書記で「ツチノコを探せと言われても分かりませんよ」と困惑するしか無い。

 そこで機密保護が出来て腕が良くて信頼が出来る人間を探していると、居たわけである。

 あぁ麗しきかな身内の素晴らしさというわけだ。

 

「ツチノコ、ってそもそも居るのか? なんか資料を見た感じ、これ獲物を丸呑みしてデブになった蛇かなんかじゃねーのか?」

「正論が通じれば苦労しませんよ、副局長そこ等をガチで信じてるんですよ」

 

 スズが「良い人なんだがなあ」と空を仰いだ。

 実際問題、数週間程度ではあったがコノカやカンナが悪い上司だったとは思えない、多分、先生と暴動で出会わなかったらそこで落ち着いていただろう。

 移った理由は簡単だ。

 カンナやコノカを有益に運用し得ない防衛室にはほとほと愛想が尽きていたし、連邦生徒会に嫌気がさしたのだ、馬鹿な上層部が良い上司を使い潰すのは見ていられないのだ。

 要するに耐えられなかったのだ。

 

「塹壕に無神論者は居ないというが……」

「ありゃ行き過ぎですよ」

「そこがなあ」

「そこが問題なんですよねえ」

 

 先生の呟きに、公安局局長と書記と元公安局局員の呟きが続く。

 

「ていうかどうやって探すんです、街中には居ないでしょう、シラトリにいるのは下水道のワニだけじゃないですか?」

「あ、そこはあれっす、協力者を募ったんで」

 

 あっ。

 スズと先生は、カンナ局長とリッカ書記が呼んだ理由を理解した。

 確かに俺なら呼ぶわと先生が呟き、ヒヨリがこれを言ったら多分先生やアツコも似た様なこと言うだろうなと思いながら協力すると言った。

 

 

 

 汚しても良い服装がちょうどタイミング悪く、そこに無かった。

 普段の大外套(グレーターコート)が無い、基本的にシャーレ制服を使ってるのだが、大半の被服が洗濯スケジュールの都合で使えないのだ、大規模作戦後の後始末である。

 仕方ないかと思い、衣装棚を開ける。

 連邦捜査部に従兵という制度はない、まず兵員が足りない、従い戦務幕僚などを用意して、臨時秘書兼ねてユウカらを使い、上手く回しているのだがそういう点で見劣りする。*1

 結果的に、確かカヤの騒乱劇の後にコノカから貰ったアロハを投入する事になった。

 今の姿はグラサンにアロハに防弾着とベルトポーチ類などが並んでいる。

 

「……ブーガー・ルー?」

 

 スズが最初に見た時は爆笑ではなく、訝しむ眼であった。

 ズボンは幸い普段も使うシャーレ制服ズボンだから、なまじ絵になる。*2

 対するスズもそんなに見た目は大差が無い、分かりやすさと溶け込みやすさ重視で昔コノカが奢ったアロハシャツとLBVベストを着用し、キャップ帽をつけている。

 一行が目的地に着いた時、別ルートから来たコノカたちは到着した先生とスズを見てやや驚愕した。

 どっちもアロハが逆に胡散臭くさせているのだ。

 先生は明らかに立ち姿、というか立ち方が堅気では無い立ち方だ、長い軍歴と戦争経験が足の立たせ方を独特にしている。

 その立ち方は一任期満了のパートタイマーや予備役学生士官(ショートタイマー)ではなく、職業軍人(ライファー)の実戦経験者以外が漂わすものじゃ無い。

 対するスズは別の意味で怪しかった、出来得る限り目立たない様にしているが、カスタムされたACR小銃やレッグホルスターから出ているサプレッサー付き拳銃などの要素が怪しすぎる。

 

「……独特なお友達のようだね?」

「……独特、というか先生じゃない!」

 

 待っていた二人は驚愕した様に言った。

 片割れのレナは先生も見知っている、オカルト研究会のところの奴だ、というか、現在アリウス制服選定計画の有識者会議メンバーだ。

 礼服は選定したがセーラー系の制服がまだ決まっていないのである、こればっかしはJ.U.N.P.FORTH内でも意見が分かれる。

 先生は制服(ユニフォーム)礼服(ドレスユニフォーム)戦闘服(バトルドレス)の違いにてんで疎い、そんな訳でちょうどオカルト研究会の専門家も呼び出していた。

 

「先生? この人がそうなのかい?!」

 

 もう一人の少女は見知らぬ生徒だった。

 

「ミレニアム辺りの出身か?」

「そう思った訳は? はっ、やはりシャーレのエシュロン・システムによる完全統制システムが……」

「いや、単純にお前の眼が学者特有のキラキラした熱意に燃えた眼をしてるからだが」

「むむっ」

 

 嘘では無い、ミレニアム特有の「あれがしたいな、これもしたい、止まってちゃいられない」の眼は分かり易い。

 

「むぅ、やはり先生だけあって眼は優れている」

「でしょー、所長ぉー」

 

 コノカが笑ってそう言った。

 その生徒がけほんと咳払いし、ツバサと名乗るとIDを示した。

 ミレニアム生徒特有の生真面目さが絶妙に出ていた。

 レナはオカルト研究会に対して「ツチノコは存在しない!」と立証したいと来て、コノカは変な占いを信じて、ツバサは学会を驚かせてやると来たらしい。

 

「……少なくとも犯罪と無縁だな、お前等なら」

 

 先生が安心と困惑を感じながら返すと、バスが近づく。

 裏返しの腕時計を見て時間が早いなと疑い、レナが近づくバスのナンバープレートを単眼鏡で見た、ワイルドハントらしい古い狙的鏡で、カノエの私物だ。

 

「……先生、し44ってナンバープレート、ありましたっけ」

 

 レナが訝しんだ様子で尋ねる。

 アロナに検索をかけさせるが、プラナとアロナは「そんな番号のバスは登録されてない」とリストを見せた。バス会社の登録車両リストが更新されたのは今年であるからリスト漏れとは思えない、そもそも減便している。

 

「いや。データリンク機能を見たところそんなバスは登録されてない」

「違法バスって線、は無いですよね、民タクとかならここでやりませんし」

 

 レナがスズの至って職業病な言葉に、ある事を思い出した。

 

「そう言えばオカルトの一つにあったのよね、し44と書かれたバスには幽霊が乗るとか、キヴォトスじゃない世界に繋がってるとか」

「確かにそういうものはあったが、かなりマニアックなネタじゃないか?」

「せ、先輩から聞いたのよっ! 幽霊バスにデスメタル広告を貼るとか言い出して!」

「どういう事だ!?」

 

 ツバサの驚愕と同時に、バスが停車する。

 スズが何食わぬ顔でセレクターを動かしたが、コノカがニヤッと笑う。

 

「ちわー、ヴァルキューレ公安局ですけど、おたく車検も登録もされてませんよね? 降りてくれませんかねぇ」

 

 運転手が即座にドアを閉めた! 

 コノカが小さく「やれ」と言うと、スズが「フリーズ!」と叫んでACRを構える。

 バスが急加速して走り始めたのを見て先生は「被疑者逃亡、射撃許可」と下命した、警官の制止を無視して急加速している、ならば危険を加味して射撃を許可しても問題とは言わない。*3

 セレクターをフルオートにしたスズがトリガーを引き、乾いた連発音が連続して響く。

 忽ちにバス後部が穴だらけになり、黒煙を吹いたが逃げ去っていく。

 

「ちっ」

「擲弾使うのは間に合わんな」

 

 ただ変だなとは思うが逃げると言う事は勝てないと考えてると言う事だ、次来たらキッチリのしてやろう。

 

「相変わらず早いっスねぇ」

 

 コノカの呟きに、「職業病だな」と返す。

 レナとツバサはやや唖然と言うか、呆然としていた。

 

「これが連邦の”処理”かぁ」

「いやぁー、うーん、そうなのかな……」

 

 若干納得するツバサに、納得しづらい様子のレナが互いに見合う。

 スズはマガジンを抜いてチェンバーをクリアにし、セレクターをセーフティにしてから再装填した、チェンバーから出た一発は抜いたマガジンへ詰める。

 目的地である宿へ向かうバスはその後、直ぐに来た。

 運転手にそれとなく「他にバスって走ってたか」と聞くと、眠たげな眼をした老いた運転手は「20年前ならあっただろうけど今はねぇなァ」と懐かしむ様に返した。

 最近は鉄道はともかくバスが運転士不足で困ると言う話を前にモモカに言われたのを思い出す、確かハブとメイン交通が云々と言っていた、職業柄専門家の言葉には聞きこんでしまうが、モモカは割と話し上手で専門用語は控えめな話し方をする。

 

「しばらく前にアネモネ学園が閉鎖になったからなァ、アビドスの砂によるダストボウルの煽りもろに食らったけェ」

「あー、そう言えばここらでしたな」

 

 確かアネモネ学園は閉鎖された廃校だ、アビドスで舞い上がった砂のせいで天候不順や冷害や日照量不足が3年続いたせいで潰れてしまった。

 離散した集団が生まれて食う術がない連中はヘルメット団などになるという寸法である。

 まあ当の本人らはなにをトチ狂ったか土地を切り売りして列車砲を買うバカの一語に尽きる愚行をやらかした、何のために買ったか分からない様なモンを、使い方や目的もなく買って満足してポイという事をしたらそりゃまともな奴は金を貸さんわ。

 

「ハイランダーんとこの単線列車は無くなっちまったからなあ……いっけねえ、そろそろ着きますわ」

「いや、興味深い話だったよ、ありがとう」

 

 老いた運転手はベストの胸元の連邦のマークを見て、運賃をどうするか困っていた、外局職員は本局同様に処理するのかと悩んでいるらしい。

 面倒だしキリよくと言う事で、全員分纏めてと500円玉を入れた。

 

 

 

 宿がある目的地はなんとも管理がされてるのかされてないのか判断が付きかねる橋の向こうにあった。

 しょうがないので渡るかと言うと、レナはやや嫌そうに顔を顰める。

 

「いやか?」

「落ちそうなのはちょっと」

「なんなら担ぐが……」

「それはそれで別!」

 

 レナが驚いてそう声を挙げた。

 ツバサは縄や床板の木材を見て回ると「大丈夫だ、木は腐っていないし、縄はそんな古くないようだね」と告げた。

 流石にミレニアムだけはあるのか、ある程度目星が付くようだ。

 

「な、なら」

 

 何食わぬ顔で先に渡っているスズと、「仮に落ちても拾える拾える」とのたまうコノカに、やがてレナは心配するだけ無駄かと観念した。

 橋を渡った先の宿は二階建ての山小屋で、内装は多少埃っぽいくらいだった、問題はなさそうだ。

 外は夕方になりつつある、コノカとスズだけなら別に何ともなるが、ツバサとレナは明らかに夜行軍したら迷子になる。

 ご飯自体はガスがあるため、温めたレトルト食品を中心とする、パウチの飯を如何に食い延ばすかを考えるとかはしない。

 

「カロリーバーじゃ駄目かい?」

「明日の山中移動を考えると食っておくべきだと思うが、どうかな? 

 あと今日は足上げて寝ておけ、筋肉痛になるぞ」

 

 ツバサは何かキラキラした目を向けた。

 

「……なにかあったか?」

「手慣れている、さすがプロだ、ちがうなぁ……」

「前職の経験の方だぞ」

 

 コノカに、レナが探るように尋ねた。

 

「実際のとこどーなの」

「私よりそこでコーヒーメーカー弄ってる人の方が分かるかもしれないっすよ?」

「へ?」

 

 スズが振り向いて首を傾げる。

 大きめの手ぬぐいをパッケージから出して確認していたのを見て、レナは尋ねた。

 

「なにそれ?」

「明日の山の中で歩くときに使いますよ、はいこれは貴女の分です」

「どうつかうの?」

「帽子と組み合わせて背筋やうなじを隠しておくんです、汗をかくにしても蚊柱が立つほどのは大変ですよ」

 

 経験則の助言だった、誰もがどっかのスクアッドや小隊の様に、夏の野山で汗もかかないわけじゃない。

 レナは一体誰なんだとと言う目をした。

 

「先生に振り回されてるとそのうちこうなるんです、ええ」

「志願で入ったバカがなんかいってる~」

「コノカ先輩事実は人を傷つけるんですよ!」

 

 けらけら笑うコノカに笑ってスズが返し、「警察なの?」とレナが聴くと「元公安っすよ」とコノカがネタバラシをした。

 

「その前がSRTだったんですけどね」

 

 レナは単語を聞いてなんだっけそれと言う顔をした。

 無理もない、公式アカウントのフォロワー数が中堅手前の配信者に負けてるか同等レベルだ。

 そもそも公に議論されたら大問題でしかない、会長が自身で連邦の地方への独裁権力の行使をする事が出来てしまうものだ。

 

「で、今はシャーレと」

「はへー……」

 

 ワイルドハント生徒らには全く馴染みが無いシャーレ隊員と言う存在なので、レナは不可思議なものを見たという顔をした。

 実際問題、寮監隊で回る程度の問題しかなく、その問題もエキセントリックな門限破りと密輸──嗜好品の密輸に関しては先生はある種、容認しているが──程度だ。

 内部ゲパルト連発のゲヘナ・トリニティや労災インシデントが巻き起こるミレニアムに比べれば平和である。

 関わりが深い方であるレナだって見た事があるのはせいぜい制服と軽いベストの軽装隊員らでしかない。

 これはツバサにとっても同様だ。

 

「まぁー、ヘルメットやらプレキャリ着込んだ隊員らが出る案件はねえ」

 

 そう言うとスズは、マガジンにポーチの弾薬を再装填し始めた。

 

 

 

 

 朝も早くから山を歩く一行だが、コノカは「先生大分健脚っすね」と返した。

 

これ()は結構自信があるんだよ俺」

「先生たち……疲れるって概念が無いの……!?」

 

 レナの言葉に振り向くと、普段の服装とは違う可愛らしいズボンとそれなりにしっかりしたブーツのレナと、最早言葉に尽くしがたい顔色のツバサが見える。

 明らかに落伍しそうだからと後衛にスズを配置して正解だった。

 流石に落伍・脱落コンボはまずいと、仕方ないかとツバサを背負う、完全に息切れしている、ミレニアムモヤシスクールがよ……。

 

「やっぱヤバかったか」

「だろうなぁー、ミレニアムじゃ30キロ歩かせたら大半落伍したらしいし」

 

 それにしても20キロだか15キロくらいの山岳移動で参ったとは……。

 目的地につくと、ツバサがショルダーポーチからある機材を取り出した。

 

「M314動体検知器(モーション・トラッカー)の出番だな」

「それSRTが発注した奴……」

「闇市に価値も分からない素人が用廃品として転がしていたぞ、再生したんだから違法じゃない」

 

 スズが「……実際のとこは?」と聞いた。

 ツバサは眼を逸らして「……あいつら電子ロックやタグを解除できないから買いたたいた」と返す。

 

「じゃあタグとかは」

「自分で処理した! ヴェリタスの協力もあったがな!」

「なんたる、なんたる」

 

 スズが呆れ果てた顔で呟く。

 何処のアホだ、横流し品をタグそのままで流した奴は……。モエだろうな……。

 ツバサは勢いを取り戻したか「部を復活させる成果の為ならどんな手段も使うとも!」と返し、先生とスズに嫌な予感がした。

 だがそれよりも早く、コノカの気の抜けた悲鳴が聞こえる。

 

「なんだ骨でも出たか」

「まあ、ある意味で……」

 

 何か変なお札……で良いのか? そんな何かで覆われた物が出てくる。

 木箱のようだが漆塗りがされており、それなりに古いのだろうとは感じた。

 底面や横を見ても名前はない、手袋をしてゆっくりと開くか確かめる。

 

「なんでノータイムで開けようとするんすか~!」

「大丈夫だってむかし仕事で考古学の手伝いやったんだから」

「それとこれは違うでしょ~っ!」

「どう違う? 何も変わらんよ」

 

 ツバサが「躊躇が無いのはどうかと思うが……」と言いつつも、中身が気になるらしく止めなかった。

 レナは驚いて思考が停止している。

 中を開けてみると何か変な像が入っていた、石像かと思って持ってみるが、酷く軽い。

 

「石っぽいが軽すぎるな、どう思う」

 

 投げ渡してツバサに渡そうとするが、ツバサがキャッチし損ねてぱっくり割れた。

 バキッと音を立てて、白い断面が露わになる。

 ツバサはしばらく沈黙し「これレジンか石膏の類じゃないかな」と呟いた。

 何だつまらんと思い、タブレット端末を振り回してアルミの紙を千切り、続いてテルミット手りゅう弾を取り出す。

 

「コノカ―、ちょっと穴掘っておいてくれないか、お前らはこれを千切る手伝い」

 

 突然始まる軽作業に全員が困惑する。

 20分ほどでちょっとした穴が出来た、軍隊用語でいうタコ壺だが、深さは3mくらいだろう。

 これだけあれば十分だ、コノカを引き上げ、ケースや像を投げ入れる。

 続いて千切ったアルミを振りかけて、最後にピンを抜いたテルミット手りゅう弾を投げ込む。

 高温のテルミット手りゅう弾に燃焼促進のアルミはすさまじく、あっという間に溶けていく。

 乾燥してないから木は燃やすのが大変な筈だが、強引に燃やせばこのとおりだ。

 

「おーよう燃える」

 

 マシュマロでも持ってくりゃ良かったなあ、ヒヨリだったら入れて来てそうだが今は居ねえ。

 暫く待って、土をかけて消火する。

 酸素が無くなりゃ燃えないので土に埋めれば山も燃えない。

 

「よし、紛らわしいゴミを処分」

「呪いとか怖くないの?」

「俺を恨んでる亡霊だけで何個軍編成できっかなぁ」

「聴いた私が馬鹿だった!」

 

 レナの嘆きを横目に、ツバサが信じがたいものを見る目をしていた。

 

「どうした」

「あんなところに、電話機なんてあったかな」

 

 木々の間にある広間の様な空間に、赤い公衆電話器がぽつんと立っている。

 ツバサが誘われるように近づき、コノカらも近づく、それと同時に電話機は鳴り始めた。

 

「うわあああ!」

「公衆電話機って呼び出し出来たよな」

 

 パニックなコノカをなだめつつ、スズやツバサに尋ねる。

 

「出来ますね」

 

 スズが頷いた、技術的には可能だし手段もある、実際特務などで使う事もある。

 ただツバサが不可思議そうに底面や横を見た。

 

「先生、これは凄いオカルトだ、型番も銘板も無いんだ」

「非合法電話ってことか? 世も末だな、盗電した電気でマイニングしてる方が納得だぞ」

 

 そう思いながら受話器を手に取る。

 

「はーい此方連邦捜査部移動大本営」

 

 コノカの首根っこを掴んで、受話器を手に取って話してみるが、相手は熱いとか云々言い出した。

 

「焼死は先に喉が死ぬから叫んでるならまだ助かるぞ、頑張れ」

 

 つまらん内容だ、これで受話器から『こうて~い、貴方のフーシェですよォ~』と聞こえたら俺はこの電話機を、デイジーカッターを使おうが何しようが吹き飛ばすところだ。

 相手さんが何も言い返せなくなったのか沈黙が続く。

 ガチャンと切ると、まあいいやと踵を返す。

 突然公衆電話器が発火し始めたので、コノカが根本を蹴って捻じ曲げ、続けてスズと俺でさっさと土で覆って土饅頭にする。

 

「リチウムイオンバッテリーでも使ってたのかね」

 

 最近、怪異程度ではもう動揺しなくなっているスズたちにレナは「別の意味で怪異じゃないの?」と空を仰ぎ、ツバサは「流石シャーレ、この程度の怪奇現象は何ら動揺していない」と認識を深めていた。

 ともかく、ツチノコはいまだに出て来ない。

 真面目に何か食わせた蛇を用意して「恐らくツチノコ」と言い張ろうか考えるが、コノカは騙せてもツバサは納得し得ない、言いくるめる何かがいるなと思う、というかキヴォトスではツチノコがいるかいないか確信が持てない、怪しいもんしかない。

 

「ふぅーむ、今日も証拠がない」

 

 土をほじくり返し岩をひっくり返したが、蟻とダンゴムシたちしか出て来ない、前にウチの隊員がやってたゲームよろしく数メートルでも無いから怪奇現象とはまるで大違いだ。

 コノカの予言は明日がタイムリミットだ、だが疑問がある。

 

「あの新しい木箱、誰が何のために埋めたんだろう?」

 

 ツバサが同じ疑問を口に出した。

 誰かを揶揄うならば対象と観測者が居る、時間は経ってない、という事は誰かが我々を対象としていると言う事か? 

 

「なあ、今回の件って誰かに言ったか」

 

 そう聞いてみるが、ツバサは「ツチノコ探索としか言ってない」と言い、レナは「先輩にしか言ってない」と言い、コノカは「姉御らの一部しか知らないんすけどね」と返した。

 全員が間違いなく白い、エリ達は確定白、ツバサはそもそも誰と行くとか書いてねえ、カンナは当然喋る訳がない。

 じゃあどう言う事だとなるわけだが、コノカが頭を絞ってある人物を思い浮かべた。

 

「そういや七囚人にそんな奴が居たような、なんか警察嫌いの奴でしたっけ……えーっとなんだっけ」

 

 なんだ七囚人案件なのか? と思いつつ、さりとて指名手配犯目撃情報は出てこない。

 というかやるなら此処で仕掛けるだろうか? という大きな疑問がある、粘着質で執拗な警察嫌いにしちゃ回りくどい。

 夕食のレトルトを食べ終えた直後、紛れもなく悲鳴と、何かがドスドスと音を立てて迫ってくる音がした。

 

「近づく、動目標。種別、不明」

 

 スズが耳を澄ませて訝しみながら報告したが、取り敢えず二階に上がって射点を確保しに行った。

 悲鳴はますます近くなり、すぐに三人の生徒が出て来た、一人は見た事がある白い服を着ている。

 似非科学部だかの部長だったはずだ、後ろに続くのは身なりからして不良生徒だろう。

 灯りがあるこちらに一目散に飛び込んできたが、音の原因も現れた、またなんか良く分からない何か、二足歩行のバスやら何やらが合体した気色の悪い何かが出てくる。

 

「なんじゃあ、あれは」

 

 呆れてモノが言えないとはこのことか、思わず冷静な評論を浮かべたくなる。

 つくづく最近は意味不明なモンが多すぎる、なんなんだよこれ! 

 無論聞くだけ無駄なのは分かる、だが更に良く分からないのはその怪物も悲鳴を上げているのだ。

 

「なんなんだよ! 客でもないのに切符きろうとする奴に銃を撃つ野蛮人! お次は何か気持ちが悪い奴! お前らの方が怪談だ!」

「とっとと主の下におかえりする時間だぞ」

 

 その声がした後、不明動体目標は運転席を穴だらけにされてしまった。

 サイレンサーではなく短機関銃特有の乾いた銃声が響き渡る。

 ずしんと倒れたが、まだ動きそうなのでコノカが「怪しいし撃っておくっすかねえ」とスラグ弾を装填、スズにも射撃許可を出しておく。

 取り敢えずアリウスとかのアノマリーとして滅多打ちにしてみた、少なくとも感情があるのは明白だった。

 暫くズタボロになるまで撃ち込んだ後、テルミット手りゅう弾を取り出して点火、暫くなんかジタバタしていたが身動きをしなくなった。

 

「くたばったかな」

「多分」

 

 なんだったんだよと思っていると、茂みからもう一人出て来た。

 銃声の主なのは明白だったが、姿が異様だった。

 Scrim net(スクリムネット)をベールの様に頭から覆い、Arktisの特殊部隊(SAS)用ズボンにコヨーテブラウンのスモックとプレートキャリア、さらにPASGTヘルメットを身に着けた謎めいた姿。

 まず間違いなく夜中に出くわした瞬間ビビるだろう。

 

「コノカ副局長に……スズ! 先生までなんでここに居るんです?」

「あっ」

 

 スズが声を聴くと、アタッチメントライトの点いた銃を下ろした。

 すると、追われていたらしい3人の生徒が縋る様にコノカに抱き着いていた、何をしてるんだと思ったが、スズが話を聞いて呆れた顔をした。

 明らかにその3人は現れた生徒を恐れている。

 

「せんせー、そいつらここの電話線切ってたらしいんすけど」

「有線電話線敷くの大変なんだぞボケ!」

「ついでにそこのミライ部長は脱走したけどホシノさんに捕まって砂漠に埋められてたのをビナー君のミサイルで逃げ出せたみたいです」

「もっかい埋めるか」

「で、そのー」

 

 スクリムネットから顔を見せるとコノカが「あれぇ~?」と不可思議そうにした。

 

「なにしたのオメェ」

 

 そう尋ねると、困り果てた様にヴァルキューレ公安局契約請負エージェント、すなわち元SRT三年生であるノナカは困り果てた顔をした。

 マガジンを抜いて安全確認しながらノナカが言う。

 

「はぁ、ミライ部長の目撃情報を見たので捜査に来たら、そこのバカたちが電話線切断していたので追跡してただけですが……」

「電磁警棒で頸椎狙って闇の中から出てくるのはおかしいじゃん!」

「はぁ、負けたら嫌だなぁって」

「挙げ句変なの出てきてもあたしらごと潰そうとしてきたし!」

「はぁ、どっちも敵ですし……」

 

 不良生徒らの嘆きの内容を聞いていると、どうやらここに居る全員が入れ違っているらしい。

 コノカ達を釣り出そうとした不良たちはこの始末、ミライ部長を追っていたノナカ捜査官はたまたまここに、この謎の不明動体目標くんは言動からしてコノカやスズへの報復か? 

 つまり、状況を取りまとめると全員が行動して奇跡的に噛みあい、狂犬の捜査官が乱入して滅茶苦茶にされたようだ。

 

「というか、ミライ部長はなんでいるんだ?」

 

 状況確認していると、やってきたツバサが歓喜して抱きつき尋ねた。

 すると一番意外な反応をした、照れた顔で「ツバサが知らない人と出かけると言うのが心配で」と呟いたのだ。

 コイツははっきり言えばアレな詐欺師だが、嘘をつくときは分かり易い。

 つまりこの不良生徒は特に関係ないのかと聞くとどちらからも「知らん……」と返された、まして変なこの不明動体目標くんも知らないらしい。

 

「バラシて売れるかな」

「屑鉄にしかならないかと」

「屑鉄でも売れる気がするけどなぁ」

 

 不良生徒らとミライ部長が取り敢えず拘束され、拘束された三名が半分現実逃避のバカ話をしている。

 コノカが「悪い事言わねえから自首しなよー」と返し、「砂埋めはヤダ―っ!」とミライ部長が首を猛烈に横に振っていた。

 

「そりゃ辺境で舐めた商売したらそうなるって」

「だからって砂漠で神明裁判はおかしいじゃないですか! 逃げて安心してたらいきなり部屋がブチ破られたんですよ!」

「そりゃ辺境で舐めた事やりゃそぉーなるって」

 

 ミライ部長がどうやってかエキスポの際に護送車から逃げ出し、数日は安心したがホシノに襲われたらしい。

 まあ無理はないわなと言う感想があるが、マジで砂漠で神明裁判されたのか……。

 ビナーくんがまき散らしたミサイル攻撃で何とか砂から逃げ出し、デブリに紛れて脱出したあたりコイツは妙に逞しい。

 で、取り敢えず戻ってみたが後輩が出かけるというので慌てて此処へ来たと言う事だ。

 すごいぞ、コイツ今回は真っ白かよ! 

 

「……悪い事言わねえから自首しろって、多分このままだと遠くない内にピンクの悪魔が出るよお前」

「ヤダ―っ!」

「せめて自首しなって、公然と投降すれば法の保護も受けれるよ?」

 

 ミライ部長に「それも嫌だったらウチから楽しいアリウスを送ってアビドス速達便だよ?」と言うと、途端素直に「し、司法取引……」と返してきた。

 よろしい、話はつけといてやる。

 そして、不良生徒どもだが……復讐が虚しくなったらしい。

 まあ、うん、変なのが出て来て滅茶苦茶になれば厭戦主義になるわな、復讐は冷まして食べるとか言う奴が居るがあんなもん嘘だ、熟成させて美味いのはチーズとワインと恋愛だけだっていうの! 

 風呂とスープと復讐は熱いうちに済ませておくべきだ、頷きながらそう教訓を述べたらこいつらドン引きしやがった。

 

「ねぇわー」

「風呂はぬるい感じだよなー」

「分かってねぇジャリどもだなお前ら! 俺は風呂と酒には妥協しないし同じくらいに火力も妥協しねえんだ!」

 

 後ろから「ああなると話長いんで、取り敢えず冷えるし中入りますか」とスズが屋内へ戻っていく。

 数日後、ヴァルキューレの地方管区警察に自首した不良生徒らは「……大人の趣味の話ってガチで長いんすよ」と警官に供述し、警官らを困惑させた。

 

 

 

 翌日、取り敢えず逃亡の意志が無い三名と、「何時でも必要なら嚙んでいい」と指示しているノナカを増援にツチノコ捜索を再開した。

 捜索中、同じく帰るところがなくなった点から、ノナカとスズへツバサが尋ねた。

 

「きみたちは……SRTが無くなった時、どうしようと思った」

「「いやぜんぜん?」」

「へ」

 

 ツバサがあんぐり口を開ける。

 

「無くなったなーって思った」

「潰れんなら姉のトコ移ろーって転入したから別に?」

 

 ツバサは理解の範疇を越えた答えに絶句したが、理解できないラインではあるが納得はした。

 別に常に良い思い出だけと言う訳ではなかったし、それなりに特殊部隊なりの苦労があったのかなと思いをはせる程度には労りや慈しみの心があった。

 だが続けてスズが言った。

 

「ぶっちゃけコノカ先輩のトコで仕事してる方が楽しかったしなあ。

 素直になる魔法(右ストレート)尊法意識の魔法(銃床打突)も習ったし」

「現場を走ってる間のが落ち着く」

「可愛い事言ってくれるじゃないの!」

 

 レナが「えっ、そんな感じだったの」と本気で尋ねていた。

 

「いやー、ひっどいもんだよ、権限はデカいけど決定権が無いのを無責任と勘違いしたバカな官僚軍人とろくでもない連邦生徒会会長(最高指揮官)が居るんだよ?」

「私なんて警察相手にイキってた頃のツケで懲戒だからね」

 

 ノナカやスズの言葉に、ミライ部長や不良生徒らが「宮仕えにはそれ相応に苦労があるんだなぁ」と呟く。

 レナも想像以上の返しに「幸せそうな人たちは皆同じように幸せだけど不幸ってそれぞれに不幸なのね」と呟いた。

 

「でもまあ、シャーレに移った理由は別です」

 

 スズが少し、真面目な顔をして言った。

 

「正直見たくなかったんですよ、真面目なカンナ局長やコノカ副局長が連邦生徒会(バカな役人ども)に苦しめられるのは。

 金も人も出さねえくせに結果は欲しがるクソ野郎のおもねり屋、追従大好きのクソ共め……」

「まともな役人の言う事じゃないっすねえ」

連邦捜査部(シャーレ)がまともな役所なワケないでしょうが」

「機密漏洩だ、警衛にしょっ引かれるぞオメェ」

 

 笑いながらそう返し、少しコノカ副局長の顔に安堵が浮かんだのが見えた。

 個人的には少し安心した、スズなりにはあいつら好きだったんだなと分かった。

 

「まーともな組織だったら私がこんな出世しやーしません」

「そうなんだよなあ」

 

 人は少なくとも正論を言う事があるよなと思いつつ、何もかもしっちゃかめっちゃかだったなと組織を振り返る。

 何を何処でしくじったのかなと思うと心当たりがあり過ぎて訳が分からん。過去をやり直したいとは思わないが、考えると「いや多分変わらねえや」という感想が出てくる、おぉ神様(ジーザス)

 

「今の職場は楽しいっスか?」

「少なくとも、こうして自由な討論が出来ますよ」

 

 そうスズが笑って言い、コノカは腹を抱えて大笑いした。

 コノカにはコノカなりに、スズや先生に対して気が引けるところがあった。

 恐らく、それは彼女のカンナ局長(姐御)に対しての感情とは少し違っている、互いにどこか相手を見捨てた様な自罰意識があったのだ。

 そして二人に共通していたのはカンナ局長に対しての同情と尊敬だった、不器用な仕事人が無能な為政者のせいで苦しんでいるのは見ていられない。

 恐らく先生が別の人間ならスズは転属しなかっただろう。転属した最大の理由は「あんな人があんな苦しむのはおかしいよ」だったからだ。

 

「だからまあ、ツバサはツバサなりに明日を作ってみても良いんじゃないかな」

「うーむ」

 

 ツバサは考え込むようにした。

 

「やはりミレニアムの地下などで目撃される真ん丸大きな帽子をした謎の存在とかそう言う現象を追うべきか……?!」

「オーッと話が変わって来たな」

「或いはミレニアムにはセミナーによる秘密基地(ブラックサイト)があり、そこでビッグシスターによる秘密の研究開発がされていると言うが……!」

 

 そうだ方向性はそっちだったんだ! 

 失念していたスズのミスに、そっと先生が「はーいそれ以上はうちの情報機密(ブラックチェンバー)に関わるぞ~」と待ったをかけた。

 

「むぅ~」

「ムーじゃないモーだろ」*4

 

 残念ながら、ツチノコは発見されなかった。

 何もしないまま帰るのは癪であるとして、肉でも焼くかと思ったが、電話が入る。

 

「はぁーいこちらいつもニコニコ連邦捜査部」

 

 怒ったユウカの声に思わず耳を離す。

 

「なにしてるって……ツチノコ捜索……」

 

 あ……。

 どうせすぐ見つかるだろと連絡してなかった……。

 

『ともかく! 連邦矯正局のミスズさんとの会合予定があるんですよ!』

「分かった、分かった、すぐ戻る」

 

 急いで荷物を確認し、コノカに適当に3万ほど握らせておく。

 

「肉とか足りなかったらそれで補充しとけ、腹いっぱい食っとけ」

「あざーっす!」

「スズは自腹で買えバカ!」

「ふざけんな!」

 

 急いで山を下りていき、呆れた顔をして迎えに来ていたヒヨリがサイドカーへ先生を載せると国道を走り去っていく。

 

「……大人になるってさぁ」

「はい」

「忙しいんだな」

「……だね」

 

 コノカと、ツバサと、レナは深々と頷き、そう言った。

 スズはカルビを齧りながら「あの大人が特段忙しいだけなんじゃねえか」と思っていたが……。

 

 

 帰りのヘリの機内でいつもの制服と外套に着替えた姿を見て、ヒヨリは「さっきまで山で肉焼いてた人が素知らぬふり出来るのは役者だよなあ」という、ヒヨリらしいリアリズムの目線を向けた。

 残念ながら一定階級まで上がるとシャーレでは先生の上裸の衝撃は薄れる。

 割と普通に必要なら脱いでるのである。

 

「で、案件はアレか、矯正局の人員問題か」

「はい」

 

 さっさと会合に入り、時間を取らせても問題なので話を進める。

 

「で、ミスズ局長は、何用で……?」

 

 矯正局長自身が出て来たのは普通とは思えないが、と尋ねるとミスズ局長は困り果てた顔をした。

 

「それが、先だって話された一部囚人は其方で保護観察してもらう件、もう少し拡張してもらう必要がありまして……」*5

 

 封筒を開き、中の書類を読む。

 矯正局人員不足による看守の意欲低下、看守不足問題、モラル問題が重なっているのは知っていたが、一部の重犯罪扱いの人たちを預かってほしいというのだ。

 問題はその面子だ。

 

「カイはまあ、以前話した通りしっかり首輪をつければ素直なタイプだが……」

 

 書類のリストにはユキノ以下FOX小隊の名前や、聖山マギの名も乗っていた。

 こりゃどう言う事だと思わず首を傾げる。

 

「それが……」

 

 困り果てたミスズ局長が、しょんぼりとした様子で言った。

 

「書類の付録を見て頂ければ」

 

 付録書類には数枚の写真や資料が記載されている。

 驚いた事にマギの野郎アイツ矯正局の需品とつるんで米を多めに入荷し密造醸造酒を作成、大人の犯罪者に尻の毛まで毟る様に売り付けたと言う記録がある。

 更にこの案件がバレた際には警衛担当などが暴動抑制で黙認した事実や、彼女の知る限りの看守問題事例を暴露する用意があるとかましたらしい。

 不知火カヤがなんとか引き留め役をやってると言う時点でどうなってんだ矯正局! 今のあそこはどうなっているのか。

 

「で、問題事項はあったのか」

「……数多く」

 

 ブチギレた看守が報復に出たケースなどが多くあるのは事実だったらしい。

 問題は俺がアリウスを解放したら逞しいタイプの阿呆があそこに入り、音声記録などを別ルートで確保する様な奴が出て来たせいで看守が逆に負けている。

 

「……どうしてカイザーを潰せてないか良ーくわかったよ」

 

 そりゃ連邦生徒会が企業に舐められるわ、これ大体の部署で失点やらが多いと言う事だろ、そりゃ脅迫できるわ。

 なまじオウンゴールだから知らないとすっとぼけれない訳だわ……。

 更に分からないのは、先のアリウス騒乱時に体良く出せないかと企んだ際に「まだカヤたちがどうなるか見れてないからヤダ」と言い張って断ったのである。

 

「もうそうなると……頼れるのは先生しか居なくなるわけでして……」

 

 そりゃー政治案件だもんなぁーっ! 

 何でかって言ったら連邦生徒会長がご失踪あそばされているからなんだよなぁーっ! 

 

「ただこれすぐには返事が出来んぞ、参ったな……本人らとも話さねばならなくなるが……」

 

 強情と言うか堅物なんだよなアイツら。

 さてどうしたものか……。

 

「とりあえず、そちらの意向や状況は理解した。善処するが上手くいくかな……」

 

 やっぱあれか、一気に旅団単位で敵を潰したの不味かったかな……。

 畜生、許せねえよ……。

 何時か叩きのめしてやるぞ陸八魔アル。

 

*1
本作で従兵がつくのはアリウスIFだけである

*2
映画「ボーダーライン」のアホな事言ってたCIA職員みてーだ

*3
実例あり

*4
そっちは駄目だろうが

*5
本作のアキラとかがこの例




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