キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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今週は短め


4月中旬から下旬 外伝1 
For What It's Worth


アビドスでシャーレが勝利して数日後……。

とあるブラックマーケット地区の今は誰も使用していない倉庫に灯りが灯る。

中ではグロックやイサカなどを装備したヘルメット団が、倉庫に貯め込まれた武器を確認している。

その中に河駒風ラブもいた、セーラー服の上にt65-2プレートキャリアを着用しており、ベルトもカイザーの古い中古のオリーブドラブ系で、彼女以外のヘルメット団の団員も似たり寄ったりだ。

カタカタヘルメット団や他のアビドス方面で活動していたヘルメット団が事実上壊滅したので、彼女らはこうしてアビドスとゲヘナ境界近くの片隅を拠点化している。

 

「やっぱ砂漠は店じまいだねェ」

「カイザー相手はなあ」

 

こうして廃倉庫、に漬け込んだ貯蔵庫は元々カイザーの物だ。

ちんけなヘルメット団やスケ番へ流される装備はこういう場所で渡され、武装化される。

そのため火器類もMAT49やM16A1、エンフィールドやルイスガンがそこそこ、まともそうなのはレッドアイが僅かばかりではあるが、MREやCレーションの箱は大量にあった。

防具はせいぜいがM1951アーマーやM1961ベストだが、ろくな火器や防具も無いヘルメット団には嬉しいものである。

誰もがPASGTやACHヘルメットを着けている訳じゃないし、使いこなせるわけでもない。

ラブ自体はそこそこ出来る方ではあるにしても、ベテランやプロの差は大きい。

例えばハスミやツルギ、ヒナに対して戦いを挑みたいか?と言われれば大半の答えは「逃げる」で、立ち向かうだけで勇気があるのだ。

アビドスでのカイザーへの総力攻撃成功は数と勢いと計画による無理無茶を強引に引っ込めるもので、常識で考えれば普通はやらない。

 

「お、ボス―!シェルの箱があった!」

「あ?まーた錆び弾じゃねンだろうなあ」

 

ラブはあまり期待してない声で、弾薬箱を確かめる。

60㎜迫撃砲の箱が腐り錆びて使えないのを見てからでは、あまり期待を持てるわけも無いから当然だが。

元々用廃寸前品を不安定化工作や横流しの小遣いにしてるだけで、大して期待してないのだ。

しかしこの日のラブはツキに恵まれていた、レーザー検知式警報機が2つもあったし、12ゲージの弾薬箱は適切に封されていた。

中身を開けてみれば、いくつかの箱が小分けにされている。

 

「00バックショット、スラグ、……お」

 

ラブの眼が喜びへ変わる。

 

「すっげえ、フラグだ!」

「おっ、すげえ」

 

ラブが眼を輝かせてポケットへ弾をジャラジャラと音を立てていれていく。

鳥打用散弾だろうと正規の弾丸は軽んじれない、ブラックマーケットの一部では正規の軍用弾丸が通貨並みに価値を有するとも言う。

民生品の弱装やチープアモはあまりアテにならないばかりか、たまに機関部爆発する、装薬も間違えてたり火薬割合がおかしい事もしばしばだ。

カイザーの製品が売れていたのはその中で大半の弾薬よりまともでそこそこ安いのが売りと言う、安いといえば安いのだが称賛もしづらい。

正規の銃砲弾薬店では自作機械もあるが、ここはキヴォトス、そんなまともな機械で作る奴はそもそもそういうことをしない。

 

「へへ、ついてるなあウチら」

 

ラブがニヤッと笑い、飲料水のペットボトルにCレーションのジュースの粉を入れて振る。

ぐいっと飲もうと口を付けた瞬間、バン!と爆発音がした。

爆発の煙があがり、HK33A3を持ったカイザーのオートマタが突入する。

濛々とした爆煙を越えて、オートマタ達が左右へクリアリング、流れる動作でヘルメット団を銃撃する。

 

「GO!GO!GO!」

「わァ!手入れだ!」

 

乾いたパン!という5㎜特有の銃声がいくつも響き、油断していたヘルメット団が次々打ち倒される。

奇襲攻撃というものに対してここ2週間ほどある種トラウマを有するヘルメット団は慌てて散り、ラブは廃倉庫二階で手すきの舎弟を集める。

その間にも1階のヘルメット団はろくな応戦も出来ないまま、カイザーに打ち倒されている。

慌てふためいていたヘルメット団の一人がM1911で応戦を試みてみるが、アマチュアとPMSCの差はデカい、まるで話にならないままスタンへ追い込まれる。

それでも素人特有のキレのない動きで応戦を試みるが、立て続けに上半身や腕に命中し、拳銃はどこかへ飛んでいった。

完全に心が折れたそのヘルメット団の団員は両手を上げたが返答は数発の銃弾であった。

 

「で、そう、どういう奴なんだ先生って」

「んああ、聞いた話じゃ怪物とか」

 

まだ意識があるヘルメット団へ頭に何発か撃ちながら、オートマタ達が掃討へ移行している。

ラブは即座に舎弟へハンドサインして、頭の中で攻撃計画を組み立てる。

敵はカイザーのオートマタ、およそ8名、小銃手6、分隊指揮官、擲弾手らしきM203持ちのHK33A3持ちが1。

舎弟と自分たちが5人、武装はせいぜいがUZIやTEC9で、ラブが圧倒的に不利ではある。

しかしラブには勇気が、勝てる根拠なき自信があった。

人間の頭は意外と単純である、ラブの脳裏にある自信の源はアビドスでの勝利の光景だ、幾つかの理由が重なり勝てたのだが、ラブにはその要件をあまり理解してない。

だがラブはある意味最適解に近い行動をしていた、同時奇襲攻撃だ。

 

「ヘッズアップ!コンタクト!」

 

突如の上方からの奇襲攻撃、更に投げられたF1グレネードが炸裂、たちまちに二体がダウンする。

続けて後退して遮蔽に隠れて再編を図るカイザーのオートマタに、ラブが通路を走りながら撃つ。

無論カイザーのオートマタも木偶ではない、擲弾手が位置を報告し、小銃手がHK33A3で舎弟を倒す。

だがその隙に飛び降りてきたラブが小銃手を更に三体排除し、残りの舎弟が擲弾手へ射撃して制圧する。

 

「今のうち!」

 

ラブが叫び、よれよれの姿ではあるがヘルメット団団員たちが走り出す。

どのみち物資拠点がバレたのなら駄目だ、今は良くてもすぐに続かなくなる。

舎弟と合流して煙幕手りゅう弾を投げ、ラブが廃マンションへ走る。

 

 

 

ブラックマーケット地区へ進出していたVSOT-64A/R2*1 指揮装甲車両内部で、カイザーの中佐(コロネル)が画面表示に出たコード33(至急応援求む)へ顔を顰めた。

確か装備予備保管庫だかを掃討していたチーム3だ。

状況を確認する為コンソールを見るとノックアウト3、負傷5と出ている、奇襲攻撃で受けたのならかなり動きのキレが良いという事だ。

シャーレに対して”記録的大惨敗”を飾ってしまったカイザーの将校には敗北は許容されない、先生の様なガチガチな軍事指揮官ならまだしもただのチンピラに舐められてはいけないのだ。

 

「こちらはビクター。サーチアンドデストロイ任務のチーム3が10-33だ。対応部隊、10-32(増援を要求)。」

『アファーマティブ。QRFチームの742が急行中』

 

くぐもった返答が返される。

コロネルの端末に部隊情報が表示され、HMDのデータリンクと飛行船からのデータリンクは正確にラブの逃げ込んだマンションを把握している。

捜索撃滅と対ゲリラスウィープ中のカイザー任務部隊は火消し作業へ取り掛かり出した。

 

 

 

カイザーのハンヴィーがブラックマーケット地区を走り、車内ではcolt model 703を確認中のカイザー達が詰まっている。

ひときわ目を引くのは重装の大型オートマタで、分厚い追加装甲を身に纏い、バイザーを確かめている盾持ちだ。

ハンヴィーがマンションの駐車場に隠れて停車し、重装オートマタと普通のカイザーのオートマタが降りる。

緊急対応部隊の1個班、重装1にノーマルなオートマタが3の自動車化班だ。

武装もModel703自動小銃持ちが3に、重装型のSAIGA12で、カイザーのオートマタとしては小規模火力だ。

ただしそれは何の慰めにもならない、動きはそれなり以上の洗練はされており、少なくとも各校風紀組織と戦える程度の質は感じられた。

 

『エリアクリア。742配置についた』

『アファーマティブ。742は直ちに施設へ突入。コード・キロ・インディア・リマ』

『アファーマティブ。スウィープ指令受領。武器使用自由。』

 

重装オートマタは背後から円盤状の小型ドローンを展開し、先行させる。

カイザーの良く使うドローンではあるが屋内戦・治安戦向けのカスタムタイプで、この種のドローンは度々効果を上げている。

ずしっと装具の重さを感じさせる足音を響かせ、重装オートマタ達は前進を開始した。

 

 

未完成で放置されて久しい廃マンション、その二階通路を風が通り抜ける。

ラブたちが秘密裏にこさえたセーフハウス、追撃を振り切るにはここである程度勝たねばならない。

当然だが武装は厳しいものがある、隠しておいていたAK74Uなどで一応再武装したが、万全なコンディションではないし、弾薬も頼りない。

 

「中に入ってきた」

「外にいるうちに待ち伏せしなくていいの?」

「数は4……なんとかなるかな」

 

ラブが各自の視線を見て、静かに語る。

 

「大丈夫、うち等にはこういう時に備えた手だってある、うちらは地の利もある。分かった?計画通りやろう」

 

全員がごくりと唾を呑んだ。

ラブがあるスイッチを起動し、ポケットからチューブへシェルを籠め始めた。

 

 

 

カイザー重装オートマタ達はややHMDにノイズが入った事に気付き、各自のHMDを自閉し有視界へ切り替える。

ジャミング源が確認され、重装オートマタは『リコール』とドローンを呼び戻し、直掩へ切り替えた。

電波探知からジャミングが2階の229号室から出ているのが確認され、即座に地図を参照すると重装オートマタは階段を上がり始める。

目標が居る可能性は非常に高い。

ズン!ズン!と重装オートマタの足音と振動が伝わり、ラブは息を殺しながら静かに装弾を終え、装填した。

壁を一枚挟んで向こうでは重装オートマタを先頭に、カイザーのオートマタが廊下を突き進む。

ラブの口内が乾き、無性に水が飲みたくなった、口がべたついて舌が異様に乾いている。気分が不快さを増す。

 

『レディ』

『アファーマティブ』

 

重装オートマタが指示し、ドアの前で隊列を整える。

重装オートマタは左腕のシールドを展開し、オートマタがドアノブを二回回して鍵を確認した。

鍵はかかっている、重装オートマタが片足を振り上げてハイレディで構えつつドアを蹴り破って突入する!

 

『ライトクリア』

『レフトクリア』

 

カイザーのオートマタ達が突入するが、ごく普通のマンションの廃墟の一部屋だ。

確かに幾つか生活ごみがあるにはあるが、感じさせるだけで人が居る気配ではない。

 

『オールクリア。』

 

重装オートマタがふとリビングのテーブルを見る。

カイザーコーポレーション製の携帯ジャミング装置が置かれていた。

おそらく鹵獲装備品か何かかもしれない、重装オートマタは銃をハイレディからローレディへ切り替え、シールドを畳んだ。

 

『エリアセキュア―。スウィープ指令、指示を待つ』

『QRF、機材を確認せよ』

『アファーマティブ。フレンドリーの機材。不法改造の兆候、警戒要す』

 

重装オートマタのHQとの交信をしているのを横目に、ふとオートマタがタンスを見る。

埃が動いた跡がある、重装オートマタの肩を叩き、ハンドサインで報せ、オートマタがタンスを開ける。

 

『段ボール?』

 

オートマタが不可思議気に首を傾げ、敵ではないかと疑いをかけたその瞬間その段ボール箱が飛び上がった。

中に隠れていたのはミレニアム製ペットロボットだ、しかし胴体に巻きつけられているのはC4爆薬!

ペットロボットは犬の様に跳躍し、隊列へ飛び込む。

 

『ファーック!』

 

 

 

バゴォ!と独特な衝撃音が響き、ラブはそっとドアを開ける。

コンクリートやら何やらが飛び散り、焦げ臭さとプラスチック爆薬の匂いが漂い、室内は燦爛としている。

 

「うわァ、すっげえ破壊力だ」

「でしょ、前にゲヘナの子が教えてくれたんだ」

 

ラブが舎弟と共に中へ入る。

すると、ノックアウトされていたオートマタが立ち上がったので、ラブの舎弟は即座にAK74Uを三発撃ち込んだ。

オートマタの戦闘不能を告げる独特なビープ音が鳴り響き、オートマタが沈黙する。

 

「大丈夫?」

「済んだ、あっぶねえな」

 

舎弟たちは奥へ進もうとするが、先頭のAK74Uを持ったヘルメット団の団員は横を見る。

倒れた本棚だが何か気配がした、セレクターを連発へ切り替えて何とはなしに撃ってみる。

すると本棚がぐぐっと起き上がり、続けてSAIGA12の銃声が轟いて壁に打ち付けられたハエの様に舎弟が吹き飛んだ。

 

「やっべ!!」

 

ラブが慌てて後退を命じ、ヘルメット団の団員たちも泡を喰って後退する。

立ち上がって廊下へ出て来た重装オートマタは健気とすら言える儚い抵抗を試みるTEC9持ちのヘルメット団の団員を狙うが銃弾の連射が銃口をブレさせた。

二発のSAIGA12の弾丸が虚しく天井と側面の壁を打ち砕いてぐしゃぐしゃにしたが、TEC9のボルトがキーン!と異音を鳴らす。

弾が焼き付いてジャミング、給弾不良を起こしたのだ。

弾が出ない事に恐怖して逃げようとしたが、隠れたり逃げる前にSAIGA12の弾丸が団員を廊下の奥まで跳ね飛ばす。

 

「ちきしょう!」

 

側面からAK74Uを回収したヘルメット団の団員が更に射撃するが、反撃で右腕にもろに直撃しAK74Uは損壊、撃たれたヘルメット団の団員が転げまわる。

絶叫しながら転げまわる団員へトドメを撃ち込んで沈黙させ、重装オートマタが装備を再確認する。

背中のドローンは損壊、腕の展開シールド破損、弾薬はある。

直ちに再装填し、HMDとデータリンク喪失のため有視界戦闘へ切り替える。

 

『742ステータスレポート。WIA3。インサージェンシー3制圧。装備機能不全』

 

戦闘モードが切り替わり、先ほどまでと異なりSAIGA12を両手で保持し、しきりに左右を確認する。

付近の部屋に残党が居ると推測した重装オートマタは、ドアや壁の割れ目を注意深く観測しつつ歩いている。

 

『もう出てこれます、安全ですよ、カイザーが周囲を制圧しました。』

 

欺瞞的な発言だがこれも戦闘プロトコルの一つだ、インサージェンシーのあぶり出しにブラフ戦術は有用である。

無論壁一枚隔てて隠れてるラブからすれば「どの口が言うのよ」である。

残る舎弟はあと一人、しかし武装があまりに頼りない、なんとマカロフ拳銃だ。

止めれば良かったかなあとラブは何もかもを後悔するプロセスに入りかけたが、顔を振って拒否する。

すると、ガチャン!と音がした。

隣の舎弟がビール瓶を隠れようとする際に蹴ってしまった。

 

『そこにいましたか』

 

SAIGA12が唸りを上げ、廃マンションの壁など濡れ紙同然にぶち抜く。

慌てて腰砕けになりながらヘルメット団の団員が走り、ふらふらになりながら寝室からキッチンへ逃亡する。

かすかにアンモニアの匂いもしたが笑う気もない、正直ラブも怖いのだ。

寝室タンスの影に隠れたラブに気付かないまま重装オートマタが突入、さらに二発射撃してキッチンへ向かおうとする。

ラブが背後から重装オートマタへ射撃する。

HEフラグ弾だ!爆発が重装オートマタの頭部を揺るがす。

即座に重装オートマタは旋回してラブを狙うが、横へ飛ぶように跳躍したラブをわずかに掠めて窓枠を粉砕する。

 

「くたばれボケェ!!!」

 

ラブが更に排莢、もう一撃を叫びながら撃った。

もろに顔面へ飛び込んだHEフラグが炸裂し、壁にもたれるように重装オートマタが倒れ込む。

さらにラブがもう一撃真鍮スラグを撃ち込み、あの独特なビープ音が鳴り響いた。

 

「よっ……しゃあ……」

 

シェルを再装填し、排莢されたショットシェルがカツーンと音を立てて飛び出し、部屋の外に出て行った。

ラブは腰のベルトから、ペットボトルを取り出すと戦闘と逃亡の揺れでこぼれて半分程度しかないペットボトルの中身を、ぐいっと一気に飲み干す。

呑み終えたペットボトルを疲れた様に投げて、ラブは仲間を起こし、引き摺ってその場を離れた。

無性に街に誰かが流しているラジオから聞こえるBuffalo SpringfieldのFor What It's Worthが、心にしみた気がした。

 

 

*1
今回のカイザー車両





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