キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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ご安心ください、ベトナムのようにはなりません。
──ブッシュ大統領、イラク侵攻時演説──


カルネアデスの(タブレット)8

 

 

 アロナちゃんです、自分の空間に見知らぬ天井ではなく見知らぬ大人と言うか、見知ってるけどここにいる筈がない大人が居るんです。

 あ、あのー、プラナちゃん? 

 なんというか、ちょっと見た事あるような人がいる様な……、というか、あれはその……”ソッチ”の先生ですよね。

 え? 今回の振り返りとある意味私達への授業を兼ねてる? テストもやる? えーっ!? 

 

 ”いやいや言ってもダメダメ。生徒である以上絶対にしてもらうよ? 管轄侵害と言われてもやるからね”

「そ、そんなぁ」

 

 アロナちゃんは鬼教師の手からは逃げられないのですね……うぅ。

 それはそれとして着席はします。

 

 ”命より大事なものがあると言って戦争を始め、命より大事なものは無いと言って戦争は終わる。

 だが古今東西の歴史が証明する様に、終わらせた後が全て肝要で、其処をしくじれば全ての勝利も空虚な物になる。

 今回の話の要点とは其処にある”

 

 デジタル黒板の画面を起動し、過去の記録を映す。

 そんなには経ってない筈だが、懐かしく思えるエデン条約期の頃の先生だ。

 相も変わらずオーバーコートを着て、何食わぬ顔で戦地を歩くタイプを先生と分類したのは正しかったのかなと思えてきます。

 

 ”さて、基本的に独裁体制と言うものは劇的な内部・外部からの崩壊で終わる。

 ベアトリーチェ政権などは特にその代表例と言える、内部の不穏分子が外征の破綻から叛乱し、失敗した外征で生まれた外敵からも侵攻された。

 こうしてみると良くある独裁政権の末路だね”

 

 若干感慨深そうに”こうしてみると1980年から2006年までのイラクやバース党政権シリアみたいだなぁ”と呟いてますが、一体なんの事なのか……。

 いやまあ、どっちも何かろくでもないのはアリウス見て浮かぶあたり察しますけど。

 

 ”ただ彼は軍事指導者だが為政者としてやるべき事は理解していた、自身の侵攻で齎した破壊を再建し、前より良くする責任があると言う事だね。

 ここが重要になるんだな、戦後と言うのを成立させるには”

 

 軽く咳払いすると、彼は画面に地図を映した。

 

 ”例えば欧州復興計画(マーシャル・プラン)。破壊された都市や崩壊した人口、局所集中した難民などを助ける責任を戦勝国として果たさねばならなくなった。

 或いは、敗戦後のララ物資・ケア物資だけで食いつなげない占領統治日本におけるGHQの輸入規制取りやめに代表されるような、本格的な対日支援計画などの策定も代表例だね。

 戦勝国は敗戦国を立て直す責務がある事を最初の大戦で理解した、何故なら二度目の大戦とは戦勝国が作った秩序を維持する努力を怠り、成すがまま(レッセフェール)に任せたからだ。”

 

 黒板の画面に段階的復興計画案という文書が投影される。

 確か先生が軽く即興で書いた草案の、連邦生徒会へ提出した奴だ。

 法と秩序の確立、存在感の確立、段階的自主化、完全な自立への体制確立。

 その為にはインフラや食料供給を確立し、政治を安定化させ、敵愾心を鎮め、居住地を復興する。

 端的に言ってもやる事が多くあり、仕事は山のように有ります。

 

 ”今回のアリウスの事例に関しては概ね戦勝国による復興と言うよりは、彼は本格的に立て直しを図った。

 ただ予想外だったのは彼の思惑とは無関係なハイランダーが、積極的に支援を始めた事だろう。

 レッドウィンターが存在感を示すと言う政治的欲求もありながら支援を始めたのは予想できただろうけど、ハイランダーからやりたい放題な革新官僚たち(ラディカル・ギャング)が来るのは予想してなかった。

 害ではなく、むしろ降って湧いたような奇跡だったが、彼はこの価値を深く理解していた。”

 

 ぼそっと”ああいうタイプの官僚が仕事ができるのは満州と同じだよなぁ”と呟いていますが、なんのことでしょうか。

 

 ”こうした事もあり、シャーレが連邦の人間としてやるべき事に取り掛かった。

 この看板が重要なんだよね、連邦捜査部は連邦の独立した権限のある外局だけど、連邦組織である事は事実だから。

 これが無いとトリニティとかがデカい権力でアリウスを揉み潰したとか抗議運動されたら言い訳出来ないんだよね……。”

「肯定。そうした平行世界は幾つか存在しています」

 

 プラナちゃんが頷くので、本当? と首を傾げました。

 

 ”実際良くあるんだよ、そういうトリニティがシャーレの先生(強権)を背景に取り潰してアリウス解散させて、さもハッピーエンドでございと言う認識のままな事が。

 或いは安易に再併合するとかね、どう考えても碌なもんじゃないよ”

 

 黒板に”イラク……アフガニスタン……ベトナム……”と呟きながら書き、”無から民主主義や平和を愛する人民は生えない”と締めくくる。

 

 ”問題はアメリカ(かの国)は本気で救える限り救おうとして、自分が歩いた後には未完成な医療保険制度とコーラとバーガーを愛する民主主義者が出来ると心から信じてるけど、其処まで行ってないんだよね。

 彼らにはマイアやスバルの姿は見えちゃいないんだろう、認識しなきゃ責任なんか芽生えないんだからね。”

 

 だ、大分この人も言う時は言いますね……。

 いやまあ自身が何の関与も出来ないまま世界が滅んでるから当然でしょうけど……。

 

 ”ただあのラッパ吹きの天使もどきが唆すには、少しばかり相手が悪かったね。

 彼は占領統治に於いて見捨てられていない実感を与えるし、危険でも必要なら現地を歩くのを好んでいる。

 訪問や慰問は大事なんだよね、現地を視察して歩かない為政者は好まれないし、地位ある人間が具体的に現実の状況を見なきゃいけないから”

 

 そう言いながらも授業が進んでいきます。

 流通の改善、居住地の段階的再編、行政の再建、独力の治安部隊の編制。

 無論無数の問題がありました、カイザーによるアリウス食い込みの布石としての多数の商品売り込み攻勢、トリニティの急進派保守派双方からの有形無形の批判、隊員たちのストレス問題、連邦生徒会の一部からの批判。

 そしてその全てを「我々が成さねばならないのだ」という正義を以て退け進行させていく。

 実際、それが大人のやるべき事です。

 無論シャーレの存在意義と組織命題としてアリウスの復興を行う必要があるという事や、人道支援とは真実人の為であり批判者を叩き潰す正義を授けると言う点も、彼は重々承知しています。

 

 ”しかし彼が現地を歩いて現地民と話すのは大分重要なんだよね、現地の風習や世俗に合わせる覚悟があるという歩み寄りの姿勢は見せなきゃいけない。

 ゲリラの語源に関わってたしそりゃそうか……、これが出来ないと色々ヤバいんだよなあ”

 

 ”先生”はそう言うと、黒板にまた書き足していきます。

 八路(パーロ)軍って何ですか先生、何ですかそのなんか絶妙に禿げたおじさん。

 

 ”場合によるとどっかからこのおじさんが出てきちゃうんだよね”

「誰ェ?」

 ”元小学校国語教師の漢文専門のおじさん、軍事学をあまり知らないが指導力構想力が天才で内戦と侵略全部叩き返してしまった。

 いやぁ、正義とか人道とか冷笑する人は居るけど、実行するとどう言う風に利があるのかって実践したんだよね”

 

 毛沢東語録って何ですかソレ……。*1

 ”先生”の話が再開され、段階的に復興するアリウスを映し出しました。

 バシリカが再建され、道路が再建され、街区が補修され、先生は都市計画も練り始めています。

 ……あの人なんで都市計画まで練っているんでしょうか? 

 

 ”趣味人だねぇ、男子かくありたくもある”

「趣味、ですか」

 ”実益もあるタイプだよ、例えば再建した奴だ”

 

 画面にバシリカ前のユースティアヌス像や、大通りから真っすぐバシリカ前へある凱旋門が映される。

 

 ”例えばバシリカ前の像、裁判所と同じで目隠しをされた女神像、法と秩序と正義の象徴と言う点の強調だね。

 そしてあの凱旋門はある意味、アリウス全体の勝利の象徴としてだね、要するに新時代って奴を実感させるため、そういう現実政治の利害損得が出てるんだ”

 

 ただ”先生”には郊外の火力発電所もちょっと気になるみたいです。

 

 ”コンパクトなミレニアム系の火力発電所とは恐れ入ったね、インフラの一部自己完結だ”

「かなり急いでましたよね」

 ”誰かさんが任命した閣僚たちが何も決めれてないからではないかな”

 

 ヴっ……。

 あ、アロナちゃんわからないなぁー。

 

「質問。駅舎付近のこれは……?」

 

 プラナちゃんがやや不可思議そうに、アリウス中央駅の駅前広場の銅像について尋ねました。

 なんだか見た事あるハイランダーの双子が銅像に……あ、正午になって回り出した! 

 いやなんですかこれ、屋根まで付いてるんですけど。*2

 

 ”……たぶん、橘姉妹に対するアリウスなりの感謝だと思う。

 実際、彼女らのお陰で復興が進んだのは事実だし、彼女らが感謝される理由には十分だと思う”

 

 画面には何と言うか双子で左右に傾いてポージングしてる橘姉妹が映ってます。

 不可思議ですよね……、全くアリウスと無縁だった人がこうなるなんて。

 

 ”しかしこうして見ると面白いね”

 

 バシリカ玄関の先生の胸像、ポルタパシス前広場の無名兵士像、或いはトレウ通りのミノリ部長安全啓発像……、大分わけわかんないですね。

 二つは先生の戦後統治策でしょうけど、最後のはアレ……。

 

 ”プロ意識だろうねえ、流石”

「プロはプロでもプロレタリアートでは」

 ”無政府組合主義者(アナルコサンディカリスト)が自分の像を作らせたが作らせた像は安全啓発、一流のジョークで美談だと思うよ、立派でみんな傷つかないからね”

 

 ゼロ災で行こう! と書かれた像を作らせた人はアロナちゃんちょっと分かんないです。

 あれを抱えて良く統治が出来ますね。

 そんな変なのも増えましたが、それでも以前よりはずっといい、レムナントとは腰を据えてじっくりと向き合う、それが先生らの活動方針です。

 授業を始め、出稼ぎを開始し、安定した統治を開始する。

 結果として先生はアリウスの問題をある程度解決したわけである、当然自身の支援者に対しては人は優しくなるわけで……。

 

 ”ただ人間、衣食住を足りてやることやってると、失う恐怖を抱くんだよなぁ。

 欲望に対して超然主義で居られる訳もないし、居られる奴は別の欲を満たしたいだけだよ。

 ……そう言う点では彼は非常に欲深いね、素直だし”

 

 そんな事を言いながら、”先生”は時間を進めます。

 レムナントの過激派を率いて最期の聖戦を終えたマギさんは投降し、需品将校によるマネーゲームが終わり、世論は相対的繁栄を維持しようとする。

 無論廃墟が全て解決したわけでは無いし、未だ実体は軍政統治と言うのが近いし、司法権警察権は共有している様な物。

 性急な自主独立ではないが段階的に権限を引き渡す用意は開始されています、先生はその為にアリウス警察予備隊を編成させ、管区隊創設を行わせ、幹部を育成しました。

 

 ”何の皮肉かすっごいどっかで見た事ある流れなんだよなコレ”

 

 ”先生”が呆れた笑いをしています。

 ただ、先生は意図してなかった物がありました、将来への漠然とした不安です。

 

 

 規模や戦力や経済力では弱小が良いトコ、それをある意味自主権手放して連邦の管制下で庇護下に入り、辺境周縁勢力と連帯しつつ、中央と辺境に手を広めて関係を構築する。

 そうしなければ近いうちにアリウスは溶けて混ざって消えゆく、トリニティとの再統合にしたって急速に再統合したところで水と油、結局浮いて目立って叩かれるのは我々だ。

 そんな誇りも夢もない二等市民になりたい奴はいない。

 だからアイデンティティーを確保しながらもある程度の発言と影響力と帰れるところを守る為に選んだ新たな選択肢(ニューディサイズ)がこれだ。

 

 

 アツコさんの決意の中にあるのは再併合と言う一見すれば美辞麗句に隠された意味でした。

 ナギサさんに見えてない事があるとすれば、その妥協の末の再併合じゃいずれ爆発するという事で、一番穏当な解決策は連邦の介入なのです。

 自分を弾圧してた様な連中の中に入ってアイデンティティまで奪われて「自分はただの田舎者でんがな」なんて……惨めが過ぎます。

 

 そして何よりトリニティは溺れた犬に銃を撃つのが好きな人たちが多すぎるんですよ! 

 ぜっったい爆発します! 間違いない! なにかあった瞬間、誰かが「トリニティ・ファースト」とか言い出しますよ! 保証しても良い! 

 

「そりゃアツコさんが最悪身を捧げる気になる訳ですよね……」

 ”正直彼で良かったと思うよ、私と彼じゃちょっと抱いての意味合いが大分変っちゃうからね……”

「肯定。貴方の場合同様の状況では48%の確率で美味しく頂かれます」*3

 ”ひぃん……。”

 

 ……それはそれで面白かった気がします、まあこっちの先生では肩車する可能性が高いでしょうけど……。

 でもそんな先生たちを狙った脅威は、ミメシスでもなくベアトリーチェでもなく、虚無の主体……集団自我の存在でした。

 当然ですが、影と相撲をしても虚しいだけです。

 

 ”だが世の因果は良くも悪くもシンプルだ、彼の努力はここにきて結実する。

 アツコの協力、マギの資料提供、オリバの抜け道、そして無数のアリウス生たちの献身、シャーレ隊員らのJ.U.N.P.FORTH(四勢力統合PKO任務群)の努力。

 普段の活動から作られた信頼がここにきて意味を持つようになった。”

 

 先生たちは全く気付かない内に、ある意味盾を手にしていたわけです。

 急がば回れというか、塞翁が馬というか。

 先生がこれまで行ってきたことが最後に生徒を経由して先生を助けるわけです。

 マイアさんが授業を思い出して帰ってこれたように。

 

「質問。マイアさんは立ち返れましたが、スバルさんはダメージを負っていた。この差は何でしょうか」

 ”今のスバルは極めて幸せだから、だろうね。

 観測していた幾つかの世界では、”大人(せんせい)が責任を果たさないばかりか、アリウスに対応してない世界が幾つもあった。

 全く以て唾棄すべき存在(せんせい)世界(キヴォトス)で、大人(シャーレ)の無策の尻拭いの危険を見たら、ここのスバルは酷く……悲しむだろう”

 

 ”先生”は深く悲しむような口調で呟きました。

 

 ”挙げ句、原因を作った存在は「ハッピーエンド」と言い張ったのだからね、殺されても文句は言えないだろうね”

「大分鋭いと言うかエッジ効いてますね」

 ”考えて欲しいんだが、大人の責任とか都合良く言っておきながら、なんら責任ある行為(戦後復興)をしない大人はゲマトリアと何が違うんだい? 

 しかも本人はそれで仕事をしたと思う訳だ、欺瞞と偽りを武器としている時点で同じだと思うよ”

 

 ふと、ある事を思った。

 

「貴方なら、どうしてました?」

 ”リンちゃんとアオイに五体投地もかくやの土下座、 ドサ回りして何が必要か見て土下座行脚する。スクアッドを手伝いに連れてね”

「……それは何と言うか、ある意味それもそれで面白そうですね」

 

 この人もしかして結構、ファンキーと言うか、ユニークなんでしょうか。

 少なくとも子供の為に走り回って、頭下げるのを苦とは思わない辺りは良い人なんでしょうけど。

 小声で”口先だけの奴より金権政治でも地元に道路敷いてくれるバター醤油で飯食う政治家なんだよなあ”と言ってるのは聴かなかったことにします。*4

 

 

I have a dream(私には夢がある)

 

 自律行動を始めた天使は、空へと昇りミメシスを搔き集め始める。

 当然、あっちこっちからミメシスは大殺到です。

 それは平和をいきなり打ち切られるという事でもあります。

 駐屯地前の警衛、正義実現委員会の委員とアリウス自治警察予備隊もまだ呑気に会話してるわけですが……。

 

「先公、遂にくたばったかなありゃ」

「頭のネジ飛んでるタイプがあっさり死ぬかな」

「ああ見えて決断力と判断力は高いけど危険からの防衛本能が薄いタイプっぽいからなぁ。なんちゃらとハサミは使いようって言うじゃん」

「気違いに刃物じゃないの」

 

 ……駐屯地前で何話してるんですかねこの人たち!? 

 人間ヤバいときはある意味性根が出ると言いますが、最前線では取り繕う気も起こらないという事でしょうか。

 当然、81㎜迫撃砲弾の嵐が来た時、即座に壕に飛び込む訳ですが……。

 さほど大きくない土嚢によるMGバンカーに、同じように飛び込んできた人もいます。

 

「よっ、大丈夫か」

「えっ」

「ミメシスの嵐が来るぞ、引き寄せなくていい、しっかり撃ちまくれ」

 

 信じられないものを見る様な眼で、その正義実現委員は半笑いになりながら言いました。

 

「おい! 先生(・・)のツラ見たか?!」

「あの人正気じゃねえ、笑ってる!」

「ひょっとするとまだ何とかなるかも知れないよ!」

 

 さっと砲撃が止んだ瞬間走り出す先生たちを見た彼女は、即座に水冷式のM1919を構えて待機し始めました。

 兵を従わせるにはカリスマとクソ度胸と言う訳です、大分何と言うか、無茶苦茶ですね。

 

 ”なんというか、ある意味、彼は来た時から変わってないんだよね。

 暴動を粉砕した最初の日、エデン条約での反撃戦、彼は自身の命を博打のチップとする。

 粗末にすると言うのではなく、必要な時に使われる資源の一つなのだろうな……僕にゃあ出来ないねぇ”

 

 嘘つけ。やったでしょ一回(色彩襲来で)

 しかし走りながら良くもまあ、作戦指揮と言うか、当面の防衛方針の発令まで出来ますね。

 まあ一番の想定外は、FOX小隊たちだったのかもしれません、彼女らは「やむを得ず自己防衛戦闘をした」のですから。

 そして臨時で武器使用許可も出したのは先生です、なにせ非常事態ですから。

 ただこの臨時編成部隊、本当にキヴォトスでの最精鋭を集めただけあって動きが素早いというか。

 

「かーっ畜生!ガキにゃ体力じゃ勝てんな!」

 

 この大人が一番兵隊屋としては長い筈なんですがね、まあ特殊部隊(SF)相手じゃあそうでしょうが。

 一番後ろで後衛戦闘してるのがクルミとニコ、前衛に出てるのがアリウス・スクアッド、左右をユキノとオトギでカバー、マイアとスバルとカヤとマギが中衛、手慣れた連中の阿吽の呼吸で全て解決しています。

 

 ”贅沢な戦だねえ……”

 

 呆れた顔をした”先生”も思わず呟いています。

 もっとも、一番呆れたくなるのは此処からでした、彼はミメシスの海のど真ん中の島と化した、ミネ団長らの拠点へ降下する訳です。

 無論危険地帯ど真ん中。

 ただそれでも先生に勝ちの目が無いとは誰もいっていません、言わばこれはどっちが先に旗へ飛びつくかの棒倒しという事です。

 そしてその先頭を確実に勝つ為に自分が走ると言う次第、なんともはや。

 

各自任意に撃て(ファイアアットウィル)!」

 

 敵の突撃を初撃は統制射撃、続けて任意射撃で撃退する、間違いなくそれは、先生の時代のやり方です。

 どっしり腰を据えて、メカワニくんをお供に連合部隊で防衛戦闘という訳です。

 無論ミメシスはバカじゃありません、波状突撃は仕掛けても無理押しではなく、スナイパーや機関銃が制圧射撃を行い威圧しながら進んできます。

 何人も倒れる者も出ています、それでも彼は続けています。

 そして、彼にとってある意味最もアテになる援軍も居ます。

 残っていたレムナントの孤立主義者、誰の為でもなく、自分の意志で守りたいと願う人たちの意志。

 腐ってもアリウスです、装備はエンフィールドなどの旧来型装備ですが、手慣れた覚悟のある兵が使えば全てが脅威です。

 

「ボルトアクションも馬鹿に出来ねえな、弾薬消費量が跳ね上がる訳だぜ」

 

 先生の呟きもある意味納得です、なにせ先生がいた時代から100年ばかし後の銃ですから。

 それを聞いてレムナントの子達はきょとんとした顔をしました。

 

「何でもない、幹部将校は度々独り言を吐くんだ。それとな」

 

 肩を叩いて先生が笑って言いました。

 

「優れた防衛者の顔だ、こんな防御戦闘やった奴なんてシャーレにもそうそう居ねえ、誇っていいぞ。

 こんなしっかりした頼もしき(しこ)御楯(みたて)、尽忠を俺は忘れんぞ」

 

 先生の笑みに、レムナント達の顔も緩みます。

 やや呆れたようなミネ団長が「すっかり慕われてますね」と言うと、先生は笑って言いました。

 

「いかんかな?」

「いずれ貴方の命令なら何でもやる人が出てくるのが恐ろしいと思います」

 

 その言葉を聞いて、先生は更に楽し気な笑みを浮かべてミネ団長へ答えました。

 

「やはり君とは上手くやっていけると確信したよ。騎士(シュヴァリエ)は婦人の目を向けられて完成すると言うのは事実だな」

「ぬけぬけと良く仰る」

 

 ミネ団長の言葉はある意味正当な意見です、そして彼は当然と正当性のある意見を聞くのが大好きです。

 特に臆さず言う人も……。

 そして、マギさんのブローパイプが直撃した天使もどきは、寄るべき場所の無いまま消えていきました。

 途端にミメシスの動きが怪しくなり、飛んできたヘリコプターの支援が後続を分断し、先生は好機を確信しました。

 

「臨時集成連邦捜査部、前へ! 敵軍を撃滅する!」

「逆襲―っ! 前へぇ―っ!」

 ”最後を決すは我が任務、か”

 

 

【 WAR IS OVER 】

 

 さて、ミメシスを撃退しましたが、仕事はいっぱいです。

 無論それは大人がやらなきゃいけない事で、そしてその大半は直ぐには何とかならない問題です。

 そんな中で全く関係ない事から、事態は大きな変化を見せる事になります。

 まずトリニティでサンクトゥスとパテルの右派と左派が粛清されました、救援金中抜き&偽造書類の捜査が終わったからです。

 ある意味エデン条約以降のトリニティの政治動乱は、極右の反動保守派が完全に没落し、事実上貴族だけが政治を動かす時代が終わったという事です。

 

 もう一つアリウスで大きな変化がありました、シスター・ヒナタが掘り起こした遺跡からカタコンベ制御の機材が見つかり制御可能になりました。

 結果、アリウスをハブとする高速道路網をこさえて流通を活性化させる案が通りました、お陰でDUの復興が進みました。

 ……ヒナタさんも何と言うか、エライの掘り起こしましたね。

 

 そしてもう一つ、段階的な統治権と兵権の返還。

 遂にアリウスはアリウスと言う一つの独立した学校として、社会へ復帰する訳です。

 無論トラブルも問題もある、色んな事もある、でも大丈夫。

 今回の事態で得た教訓は「あまり悲観しても始まらない、やってみよう」だったのです。

 もし駄目だったら? そん時は先生に泣きつくか、というわけです。

 

 小さな幸せを探して行こう、それを希望として明日を生きる。

 

 ”斯くして、キヴォトスというポーカーテーブルを囲うプレイヤーが一人増えた訳だ。

 カイザーは虎視眈々とアリウスと言う市場に眼を向けている、油断ならないプレイヤーに注目し……そしてどうなるかは対局(ゲーム)次第かな”

 

 ”先生”が、晴れやかな顔でそう言いました。

 ただ、ちょっと分からなかった事があります。

 

「あの天使が見せた映像では、シャーレの支持を取り付けられていなかった最大の理由はなんだったんでしょうね」

 

 ”先生”は少し腕を組んで、椅子に腰かけて暫し沈黙してから、重々し気に呟きました。

 

 ”貧困は文明の病だよ、無知と戦乱は人間の病、あれじゃ病人に残飯投げて悦に浸っていただけさ。

 ちゃんと「(管理責任)」を処方(行使)する気さえあればこうはならなかったさ。”

 

 お茶を飲んで、”先生”は続けます。

 

 ”強制された少年兵、洗脳された少年兵になんの刑事責任があると言うのか? まして、それに対し保護もせず、ただ無責任に放り投げる事は責任と義務であるのか? 

 挙げ句の果てに現地は放棄して忘れ果てて、享楽に甘んじている奴が義務? 責任? その言葉の意味を履き違えているとしか思えないよ。

 あの地で生きる人たちは、同じように見えるかもしれないが皆、人生の主役なんだ。

 抱えきれないとか、時間が無いとか、そんな事で生徒を放置するなど、正当化しようもない悪だよ”

 

 ”先生”が画面のスバルさんを見て、ふと呟きます。

 

 ”しかし彼女、地頭がしっかりしてるんだね、かなり話す論拠が筋道立っているよ。

 彼女の批判の上手い所は「トリニティに騙された善人な先生を責めるわけないじゃないですか」で、罪人ではなく、無関係な人間という外野へ押し出したんだ。

 ある意味、返しとしては大分強烈だよコレは。放置されて起こった問題を「貴方は無関係でしょう?」で返すんだからね、えげつない事するなぁ……。”

 

 ”僕なら泣いちゃうよ”と言いながら、お茶を飲み切る貴方は貴方で変なルートに行きそうですが……。

 まあ此処まで言わせてしまった理由は「人権や投票権の前に今日を生きる物資をくれ」という事が理由でしょう、食う為に多くの苦労を、努力を重ねているのに、その環境へ貶めた上に投げ出した人の授業を誰が聴くと言うんですか。

 

 ”ま、大事な事は大言壮語や美辞麗句ではなく行為を見ろってコトなんだろうね。

 ……参ったな、これじゃ軍隊のつもりでいる”

 

 咳払いして、”先生”は紙を取りだしました。

 

 ”では諸君、休憩の後、テストをやろう。

 今日を生きる物資が得れた後でなら、勉強は自身の欲求を概ね満たせれるのだから。

 だが傲慢が過ぎれば容易くトロイとなる、諸君アキレスたるべし、友よアガメムノンとならぬべしと言う訳だ。”

 

 もっとも、傲慢と言うものはいつの間にかカーペットを掴んでいるのだが。

 ただ”先生”にはもう一つ、思った事があった。

 

 ”乙女に率いられた熱情のある軍隊がどう強いかは、フランス人が一番知ってるだろうしね……”

 

 そう思いながら、空の深く青い色合いを見上げて彼は呟いた。

 全てが終わった訳ではない、じめじめした自己顕示欲があるくせに凡愚で先天的所属以外誇るものも無い見下げ果てた奴ら(連邦とトリニティの腐敗役人)や、異端の神の名の下歪んだ加虐欲や行為を正当化する悪魔のような連中(デカグラマトン)、正に言葉の通じぬ非文明的な唯一暴力と徹底的根絶のみ正当な解決手段たる(ゲマトリア)

 だがそれを耐え忍ぶ必要はない、必要があるなら打って出る、卑屈に耐えて生きるなど人間のやる事ではない。

 

 どうやるかはあなた次第だ、どうするかは生徒次第だ、どうなろうと、幸せを守れるかが肝要だ。

 上手くやってくれよ。

 Vive la France(フランスに栄光を)、生徒たちに幸せを。

 

 

*1
軍事政治格言集だから面白い、党は軍より上にあると言う点ではトハチェフスキーよりまともな事言ってるし

*2
概ね角栄先生像と同じ扱い

*3
「うおっ……力つよっ……」「お前がパパになるんだよ!」される

*4
某政治家の大好きな食い方らしい




8と9を取り違えると言う、大チョンボをかましました、申し訳ありませんでした。
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