キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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未来であれ過去であれ思想の自由が保障される時代、人類の多様性が保証されしかも孤独な生活を送らずに済むようになった時代へ……真実が存在し、二度と後戻りしなくなったその時代へ。
画一性の時代から、孤立の時代から、ビッグ・ブラザーの時代から、二重思考の時代から……拝啓!
──『1984年』 ジョージ・オーウェル──


The Man Who Sold the World

 

 本庁舎の地下階は1階から3階まではそれなりに利用されている、正確には大半の生徒らは地下二階までを使う。

 地下三階にはクラフトチェンバーが存在し、地下三階への入り口は常に実包を装填した警衛隊員を4人常時で展開し、防爆扉が非常時には下ろせる。

 地下1階から2階は車両格納庫などで、概ねここに部隊が機動する用の予備車両がある。

 

「地下階の大半は倉庫代わりだ、おかげで需品将校以外入る奴はあんまり多くない」

 

 しっかり明りが灯っているが、人の気配と言うものは少ない。

 低温で日光に晒されないから非常予備食料や医薬品、それに幾つかの武器弾薬類が保管できる。

 当然だがこうした非常時の備えは前回の経験もあるが、こうした備蓄はちゃんとしてないとヤバい事になり易い。

 需品将校数名を伴い、目的地の倉庫を開ける。

 

「聖櫃ってどんな奴なんです?」

「連邦生徒会マークがされた青い色のケースで、アタッシュケースくらいのサイズですね」

「てことは一目で分かりますね」

 

 詰みあがった段ボール箱やケースのMREや缶詰の山は、明らかにそれでは無いだろう。

 幸い、大半は未使用で開けられてない段ボール箱の山だから判別は簡単だった。

 ただ流石にあちこちにラックがあって、その棚の何処にあるかが分からない、せめて最初に説明して欲しかった。

 クラフトチェンバーやシッテムの箱と同じなら猶更である。

 とはいえ使ってないモノばかりだから、案外すぐに見つかった。

 

「あー、これじゃないですかね」

 

 確認に来たイロハが、奥の棚に積まれていた青い箱を見つけた。

 リン行政官が「それです!」と答え、イロハが梯子からするりと降りる。

 見つけた箱は確かに言われた通りの箱だ。

 

「なんか書いてますね」

 

 イロハが机の上に置き、見つかったから帰りマースと戻っていった。

 相変わらずマイペースだなと思いながら、リン行政官は箱の文字を目を細め、読んでみる。

 

「この者は汝らを楽園から導きし者だ……」

 

 すると、突如声紋認証された箱は開封された。

 いきなり開封した事で需品将校らが身構えたが、中にあったのはただのスマートウォッチだった。

 不可思議なものといえばそうだろうが……「試しにつけてみたら」というと、リン行政官はつけてみたが、何か起きたと言うように見えない。

 

「やはり先生の認証が居るのかもしれませんね」

「なに、またなんか怪しいものを接続させられるのか俺」

 

 アロナ曰く危険はないと言うようだが……。

 ただ着ける前に、アロナとプラナに確認を願うかと分析に入らせる。

 すると、プラナが『ペアリング機能でデータリンクが出来るんじゃないでしょうか』と提案した、確かにこれなら簡単だ。

 

『追加の生体認証を要請。手のひらを合わせてください』

 

 プラナの指示通り手のひらを合わせ、そうする事でなんか生体認証が出来るらしい。

 何と言うか出鱈目な性能してるがよくわからん、ケイやアリスは分かり易いし、マルクトははっきりしてんのに……。

 

 

 

 

 

ユーザーを承認。
 

 

ベレツ・ウザ、演算へ転用
 

最適化を実行中
 

 

分析を実行
 

 

ファイルを展開
 

 

展開中
 

 

ファイル展開
 

 

ERROR! 
 

 

ファイル展開が膨大です
 

 

緊急再起動シーケンス作動
 

 

 

 

「オイ、どう言う事だこりゃ」

「ファイル量に耐えられなかったみたいですね……」

 

 リン行政官の困った顔を横目に、上のユウカから「データリンクが停止してますが何がりました」と電話が来た。

 

「今再起動中だ、現在アーティファクト解析中」

「分かりました。やるときは連絡してくださいよ」

 

 すまんと詫びつつ、再起動したプラナが声を挙げた。

 

『現在の当機では膨大過ぎて処理できませんでした』

「結構、有害ではないんだろ?」

『肯定。コアファイルもOSもある程度の保護能力があります。それ相応の防御力を与えてくれるようです』

「へー」

 

 アロナは仮想上でイメージされたコアファイルである種を握っていたが、どうやら中のファイルはすっぽ抜けたらしい。

 代わりにアロナとプラナが『あーでも、データリンクしていた各機材からモニタリングで見れるかも』と、分析と解析は始めようとしていたが、シッテムの箱がデータリンクしている端末数は半端じゃない。

 既に戦闘要員だけで自走砲兵や機械化大隊二個、自動車化歩兵大隊一個に空挺三個中隊、戦闘ヘリやら戦車やらがデータリンクしているのだ。

 それらのデータリンクが僅かな痕跡を持ってるとして、精査するのに時間がかかるは道理である。

 

「急いではいない、取り敢えずゆっくり進めておいてくれ」

『確認。タスクを割り当て』

『それはそれとして、これなんなのでしょうね』

「俺が知るかよ……」

 

 とはいえ、害が無いわけだ。

 

「どうせだし、リン行政官が付けたらいいんじゃないか?」

「私がですか?」

「ああ、俺にはこれがあるし、お前なら現状最適だろう」

 

 正直VIPなら安心できそうだ、防護力の提供と言うのが同じなら、大分有能と言う事である。

 それなら現状で一番つけて欲しいのはお前だろう、そうした理論を認識できないリンではなく、預かるのを兼ねると言う事で承認した。

 そうした確認が終える頃には午後も過ぎ、夕闇が近づいていた。

 

 

 

 翌日、日曜日の朝に電話が来た。

 リン行政官からだった、続けてアオイ室長からメールも来たが、何より驚くべき連絡が来た。

 

「会長が帰って来たぞ!」

「なにぃ!?」

「本当かぁっ!?」

「会長が帰ってきた!」

 

 幕僚や隊員らが口々に叫び、非番の隊員らまでが部屋から飛び出した。

 思わず執務室から出て、どう言う事だと確認を行うが、スズが「会見やってますよ」と連絡を入れて来た。

 取り敢えず連邦合同庁舎群(サンクトゥムタワー)へ赴くと伝え、連絡車両を手配する。

 食堂では寝てたところを飛び出して来たらしいシャツやパンツ一枚のままテレビ画面を見上げてる隊員までいた。

 流石に大騒ぎだなと思いつつ、やる事なくて寝てたミサキが車を用意してくれた。

 

『非常重大な放送が本日、午前8時から行われます。

 繰り返します、連邦生徒会の要請により全ての放送プログラムは一時中止し、現在、重要な放送の告知を行っております』

「カーラジオまで変更されてるね」

 

 ミサキが「ご丁寧な事で」と言いたげに呟いた。

 ただ、ミサキが気にしていたのは別の案件だった。

 

「で、シャーレはどうなるのかな」

「作って実働して成果が出てる以上組織解体なんか出来やしないさ」

 

 ぶっちゃけ連邦生徒会が何をするにしてもうちは解体出来んよ。

 そもそも解体してその後どうすると言う話だ、別に俺が消える訳じゃないし、俺は首になっても別件で食っていける。*1

 まして連邦が何ら介入策も積極策も取れない中でこうした事をやるんだったらマジで民衆が見限る。

 

 問題は……。

 

「誰ぇ!?」

「これは予想してなかったなぁ……」

 

 ミサキがボソッと呟いた。

 人違うじゃねえかどうなってんだ? 

 御真影の連邦生徒会会長と全く違うぞ、海鮮丼とアサリ汁頼んでカツとじと豚汁が出る様なもんだよ、美食なら爆破だぞ! 

 ミサキは首を傾げている。

 

「違うの?」

「そういやお前ら(アリウス)も見た事ないんだったか……」

「うん」

 

 状況がさっぱりよく分からない、彼女は、謎の自称連邦生徒会会長は周囲の認識を完璧にしている。

 ただ分からないのはこの自称連邦生徒会会長、彼女の話を聞くに俺もシャーレの存在も知らないのだ。

 

「あの、なんですかこの連邦捜査部って。

 自治権ガン無視じゃないですか、これは一体どうして」

「俺もそう言ったんですが会長さんが決めた事だそうで」

「というか……その……どちら様です? 外の方でしょうが……」

「知らねえよ何でか青髪の変な女が俺に封筒を顔面パンチして気付いたらここに居たんじゃい」

「それは拉致と言うのでは……?」

 

 すげえぞ、偽モンかも知れんが倫理観はある! これが本物と言う事にして良いんじゃねえかな。

 少なくともテディベア座らせてるよりかはずっとマシだし、連邦生徒会会長代行より一応政権首班があるのは安定に寄与するだろう。

 取り敢えず簡単に……前にミカと見たドラマに習って「前回までの連邦捜査部」を軽くあらましを説明した。

 だがこの自称連邦生徒会会長は唖然とした顔でこう返してきた。

 

「えっ、じゃあ怪しげなオーパーツと怪しい大人に頼り切って見たら、事態が制御不能になった挙句首都で市街戦やるわ戦術弾道弾撃ち込むわ極点で大戦争するわ、挙げ句クーデターなどによって中央政府の威信はどぶの底なんですか?」

「その失策と失態の半分は誰かさんの失政だぞ」

「えぇーっ……きゅう」

 

 自称連邦生徒会会長は白目をむいて倒れてしまった。

 横に居たアオイが「大変だ、連邦生徒会会長が」と慌てて言い、アユムが支える。

 

「……本物か偽物かはともかくとして政治的倫理観はしっかりしてるな、えぇ?」

「……なんだか色々と馬鹿馬鹿しいと言うか真剣に考えるのがあほらしく思えてきました」

 

 リン行政官が一端冷静になり、なんとか再起動した自称連邦生徒会会長は、ずれたベレー帽をかぶり直して椅子に座り直す。

 咳払いして気を落ち着けた自称連邦生徒会会長は、汗を浮かべながら尋ねた。

 

「えっと、取り敢えず、それらの案件も何とかしないといけませんね」

「あ、大丈夫です。そうした案件は大半が解決してます。

 大半の反連邦の武装勢力は皆殺し二歩手前くらいにしてありますから」

「エッ?」

「デカグラマトンは40メガトン級炉心転用爆弾などによって総力戦で沈黙、ゲマトリアは構成員二名の死亡を確認し二名は逮捕しています。

 また、カイザーはアビドスでの開発を断念したばかりか反政府路線を継続しえなくなりました。

 同じくネフティスは大型列車砲問題で惨敗しており再編中です。

 アリウスに関しては第五次復興計画により直接統治を終了し、第六次復興計画に基づき道路網再建を実行しております。

 また、百鬼夜行地域における百花繚乱の再編および、花鳥風月部とは現在捜索を続行中。

 何かご質問は? さらに幾つかの案件がありその全てはあなたのサインが必要な案件が満ち満ちております」

 

 自称連邦生徒会会長は顔を凍り付かせ、唖然とした顔でミサキが開封した書類カバンから出てきた書類を見た。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 

 なんですか連邦重装備保管庫から持ち出した装備品類の数は!? これは私以外の権限では開封できませんよね!?」

「んなこと言ってもアンタの手紙で俺にその権限あげちゃいますされてんだよ、文句はそいつに頼むよ」

「えっ?!」

 

 手紙を確認した自称連邦生徒会会長は「あ、確かに私の字です……」と呟き、呆然と空を仰いだ。

 

「……というかそもそも、貴女は何故失踪を?」

 

 任せてたら何も分からなくなりそうだなとリンは考え、核心へ迫ろうと尋ねた。

 

「いや、その、靄と言うか、霞がかっていた記憶しかなく……公務を終えた直後に意識が消えて、いまはこのように……」

「中身スッカスカのカスみたいな報告(AAR)が来たな……」

「そんな事言われても……」

 

 自称連邦生徒会会長がなんというか二頭身くらいに感じれるほど小さくなった。

 無論雰囲気だけだが……。

 

「頼むから二度目はやらないでくれ。ぶっちゃけた話、俺は本物か偽物かというか、ちゃんとした役職の人間が居ないのはヤバいと思う」

「うぅ……」

「最悪選挙だよ、頼むよ、子供だって責任があるんだよ役職に就いたからには……」

「は、はい……」

 

 自称連邦生徒会会長はしゅんとした顔でそう言い、会見に向かっていった。

 

 

 

 数日が経過したが、自称連邦生徒会会長は未だ其処に居る。

 リン行政官は未だに納得してないが、個人として言えるのは「ぶっちゃけ選挙やって”今の”連邦生徒会会長」と言う事で良いんじゃねえか? と言う事である。

 無論リンに個人的思いがあるのは分かる、だが政治的には居ないよりは居た方がいいし、居ない事による悪影響は大きすぎる。

 ぶっちゃけリン行政官は独創性が無い、連邦生徒会が全体としてそうなっている。

 だがあの自称連邦生徒会会長は「しかし、全体で考え、全体で進めていきたい」と言っている、正直なところ凄くアイツはまともに見える。

 

「しかし、跡形もなく痕跡を書き換えるって出来るのか?」

「まぁー、何らかの現実の改変だろう。ほら、前にそれでウチの本庁舎が爆破されたろ」

「あー……」

 

 やる事なくて暇してるサオリを伴いながら、リン行政官の話を聞く。

 しかしどうも変なのは、リン行政官の記憶は書き換えられていないし、写真は消えているのだ。

 おかしいと思ったが、なんとシャーレ本庁舎の御真影まで消えていた、額縁からさっくり消えていたのだ。

 更に変なのはサオリやアツコたちだ、彼女らは「会長?」と最初から知らない為に彼女らは認識があやふやになっている。

 アツコは「多分元から連邦生徒会へ期待してなかったせいでバグが起きてるのかも」と不可思議そうにしていた。

 

「おやっ、これはこれは……」

 

 ラーメン柴関移動型で、セリカのラーメンを啜っていたが、横から声が掛けられた。

 そう言えばホシノの記憶はどうなのだろうか、アイツはアイツで連邦生徒会自体を嫌っていた、ノノミと合わせてどんな認識だろうか? 

 ……いや待て、そもそもクロコはどうなっている? 

 少なくともアロナとプラナは違うと言っているわけだが……。

 顔を横に向けながらそんな事を考えていると、デカルトの奴が居た。

 

「あれ、デカルトお前何してんの」

「ラーメンを手繰ろうかと思い立ち匂いにつられてきたのですよ」

「自称清貧の求道者が言う事かァ?」

 

 まあいいやと思いながら、ふと「連邦生徒会会長がすり替わったみたいな話が流れてるが、お前はどう思うよ」と尋ねた。

 デカルトはラーメンを頼みながら「へ? 髪の色? ……そもそも私は失踪前を知りませんよ?」と返された、そういや浮浪者だったな。

 

「髪が違うとかじゃなくて、政治手腕じゃないんですか? 一人の市民としてはそう思いますが」

「お前が言うとムカつくなァ~……!」

 

 セリカが「喧嘩はよそでやれ、よそで」と目で制し、へいへいと返す。

 割り箸を割った直後に、デカルトが「あっ」と思い出した様に言った。

 

「そういえばそうでした、先生、なんだか先生を待ってる人が居ると手紙を預かっていたんですよ」

 

 デカルトは手紙を取り出すと、開いて渡した。

 内容は、リン行政官と先生を本気で驚かせるものだった。

 慌てて飛び出す二人に、サオリは相変わらずだなぁと思いながら、領収証は庁舎にお願いしますとセリカへ告げておいた。

 

「ついでに吾輩のも載せといてください」

「後でバレても知らないわよ」

「プライドよりただ酒が美味いと感じてこそ大人なのですよ」

「ウチに酒は無いわよ!」

 

 デカルトはぐいっとウーロン茶を飲みながら、そういや手紙を預けて来たあの子、誰だったんだ? と首を傾げた。

 

 

 

 深夜の市街地に、パブ「トライアド」のある小さな雑居ビル前をシャーレのMRAPが数両停車する。

 既に周囲の道路自体は流通が停止している、MRAPからは重装のアリウス・スクアッドと突入隊員らが降車した。

 

「合図あるまで発砲はするな」

 

 雑居ビルの地下階にあるパブへ降りていく。

 リンとサオリが随行し、合図あり次第強行突入する。

 雑居ビル前の道路ではカイザーPMSCのランドローバーが一台止まっており、パブの前ではカイザーのオートマタが一体居たが、構える気は無いため、脇へ退いた。

 

「どう言う事だ、オイ」

 

 パブの扉を開けると、店内は異様な雰囲気をしていた。

 中に居たのは数で言えば三人、たったそれだけだ。

 だが中に居る面子が問題だ。

 一人はある意味見慣れたカイザーのジェネラル、だが極めて憔悴しきった顔をしている。

 もう一人は同じくカイザーの制服を着ている生徒のような少女、確か便利屋が以前交戦したりした特殊作戦などに従事しているヤツ、トフーとか言う奴だ。

 そしてもう一人は見間違えようがない、テメェ、ゲマトリアのゴルゴンゾーラだかフランソワだか言うクソ虫だな、なんかテレビ被ってるが天才てれびくんとか名乗る気かアーン?! 

 

「あ、ほら、ジェネラル。来ましたよ」

 

 トフーが促し、ジェネラルがやさぐれたような飲み方でビールを煽って言った。

 若干酒臭い。

 

「先生、あんたの認識してる連邦生徒会会長の髪色は何色だった」

「確か青で、今はなんでかプラチナブロンドだな。染めた上に整形してない限り別人に見える」

「アンタにもそう見えるか……」

 

 どう言う事だと尋ねると、トフーという生徒が起立して状況を解説した。

 カイザーの方でも会長が帰って来たとビックリしたら、プレジデントとジェネラル、それにトフーとカイザーの会長以外の認識が変えられていたのだ。

 そして改変により若干メンタルが参っているジェネラルの所へ、ゲマトリアの所の奴が接触して来た。

 そしてそのゲマトリアは「案外先生も改変されてないんじゃないか」と聞いたと言う。

 

「少なくともこれで俺だけ狂ってる……とはいかないわけだ、へへっ」

 

 トフーが無言でビールを取り上げ、水を渡す。

 ジェネラルはなんだか拗ねた様に「飲まねえとやってらんねぇよ!」と言いながら、フラフラとした足取りでトイレへ向かっていった。

 

「すいません。ジェネラルはちょっと心が参ってます」

 

 トフーは呆れた様に呟き、困った顔をした。

 そして、ソファーに座ったゲマトリアのメンバーを示した。

 

「申し遅れました。私はカイザー最高役員会付き秘書、名天トフーと言います。

 御呼びたてして申し訳ありませんが、詳しくはこちらの方にお聞きください」

 

 名刺を取り敢えず交換し、トフーに「つまり無関係と言う感じでOK?」と聞くと、「YES」と返す。

 

「よし来た」

 

 やがて、テレビ頭が長々関係ない事を話し始めたので「サオリ、本題に入らせる魔法だ」と告げた。

 瞬間、ゲマトリア相手の場合は特に容赦がない本気のサオリの膝蹴りが、テレビ画面へぶち込まれる。

 

「君は不死身だと聞いたのでね、不死者の相手なら以前もしたことがあるが」

 

 ぐしゃぁっ! と音を立ててテレビ頭が倒れ、よろよろと立ち上がる。

 

「い、いきなり酷い事をする」

「お前と言い黒服と言いベアトリーチェと言い地下生活者と言い、自分がやられる立場になった瞬間弱者のフリしてんじゃねえよダボハゼ。サオリ、腕の関節か足の関節どっちがいい」

「足!」

「よし、次言い訳したら足だな。死ねないのは辛いぞフランソワだかゴルゴンゾーラさん」

 

 唖然としたリン行政官と、勝手にメロンクリームを作り出すトフーの視線に見下ろされながら、テレビ頭は立ち上がる。

 

「フランシスは前の名前で、今はオーウェルだ……」

「そうか、お前バッドエンドが云々とか言っておいて地下生活者解き放ったらしいな?」

「な、なんでそれを」*2

「あいつが全部喋ったよ」

 

 サオリ、やれとハンドサインすると膝の関節があらぬ方向に曲げられた。

 

「今のはアビドスにかけた迷惑の分」

 

 続けてひじの関節をてこの原理で捻じ曲げる。

 

「これは本庁舎爆破の分」

 

 続けて頭を押さえつけて机に叩きつける。

 

「これはテメェに迷惑かけられた大人(プレナパテス)の分だ」

 

 最後に蹴り飛ばしてソファーへぶち込む。

 トフーは何食わぬ顔でクリームを味わっていたし、トイレから戻ってきたジェネラルは「タオルあるか」と聞いたが、転がってる男を見て「ばっかじゃねえの」と呟いた。

 ぶっちゃけゲマトリアには特に害意は有ったが友好は無いカイザーである、ましてこいつらのせいで今の大問題があるから、最悪目の前で死んでも知った事じゃない。

 

「よし、サオリ。クリームメロンでも飲んでていいぞ。

 さ、洗いざらい話そうな」

 

 ジェネラルのするめを横からふんだくり食べながら、オーウェルを自称する天才てれびくんに説明させる。

 研究者とか芸術家とか言うが、ゲーテやダヴィッドやらの連中は滅茶苦茶インテリだったが、こいつは中身が変わってねぇ。

 

「よ、要するに、世界は昨晩を以て一部が変わりましたが、その痕跡自体は存在しているのです。

 貴方が見て来たライブラリー・ロアのように……そうした微細な徴候や異変を集めなさい、そうすれば反証として成立し、この世界にあなた達の認識する連邦生徒会会長が生まれます」

「異変や徴候?」

「イエス、あー、インターネットのような、SNS情報媒体の急流の中に、シャーケードの枝をひたし、見抜くと言う事です。

 先生、あなたのタブレット端末を使えば不可能ではありますまい? 

 そうして成立した反証は、やがて論題となり、意味を問われる、その先はともかくそうすれば何とかなるでしょう」

 

 ……アテにならねえ。

 それはそれとして、なるほどインターネットの流れを使い痕跡を探すのは確かにいい案だ。

 アロナとプラナは『任せて下さい』と返事しているが、それはそれとしてリオ会長にエリドゥのサーバーの一時使用を要請しておこう、信用しないのではなく出来得る限り楽しておくのが戦略だ。

 そう言うと、トフーが「今ならサーバー借りるの安いですよ」と言ってきた。

 

「そりゃ俺がお前の会社のサーバー壊滅させたもんな」

「あれのせいで俺のキャリアは滅茶苦茶だよバカヤロー」

「因果応報だバカ。それはそれとしてサーバーは一部レンタルはしよう、吹き飛んでも心が痛まないからな」

 

 流石にエリドゥとかミレニアムのシステムぶち壊れたらユウカに詫び行脚どころか偉い事になる。

 ちょっとそれは避けておきたいし、危険なものは別途でやっておきたい。

 

「この世界の神秘、ついに我は協力者を」

「やかましいわ」

 

 首を蹴り上げても死なないって便利だよなぁ……。

 首が完全に真後ろへ向いているのを横目にサオリが「うわー、いたそー」と呟き、トフーが「そりゃいたいよー、みてたもん」と返しながら、メロンソーダを飲み切る。

 ジェネラルが「じゃ、そう言う事なので帰ります」と言い、トフーに「帰るよ」と告げた。

 

「ジェネラル、お腹が減りました」

「またかお前……」

 

 アイツ苦労してんな……と思いつつ、曲がった首を何とか直そうと、片腕だけでおろおろしているテレビ頭を見る。

 

「今度余計な事したら、黄昏へセクシーフォックス経由で投げ込むから覚悟しとけ」

「エッ、先生は黄昏の狭間の地にも行けるのですか」

「行けるが……?」

 

 行けないのかコイツ……、まあクズノハ様も嫌だろうな。

 アヤメみたいに真面目過ぎた奴じゃないんだし……。

 取り敢えず次やらかしたらクロコとホシノでアビドス砂漠にでも埋めに行くか。

 ユメ先輩へ捧ぐラプソディーとして呻き声を送ってあげるからな、俺は善人だ、感謝の声が聞こえてくるぜ。*3

*1
ジェネラル「待ってるよ……」

*2
散々イキって地下生活者制御不能になった事まで

*3
ひぃん……。




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