キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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政府は一時的な高揚ではなく、節度ある熟慮によって動かされるべきである。
──マーティン・ヴァン・ビューレン──


【HotLine KV】
対抗部隊(Opposing Force)


 

 中身はどうあれ、政府首班が帰還したのは全体にはプラスだった。

 現状ではアロナは「能力云々ではなく中身なんだし良いのでは?」と考え、プラナは「あれはミメシスの一種のようなものだ」と考えている、そして俺自身は「別にあんたが首班で良いけど誰なのよ」と考えている。

 現状では穏健中立派が2、排除派が1ということになる、大体誰かも知らないのに排除も出来んし、一応社会はあれを連邦生徒会の会長と認識している。

 つまり排除するとなるとクーデター、あるいはそれに類することになる。行動を起こすにしてもデカい失政や厄ネタをやらかした後でなければ社会に無用な混乱を齎し、挙げ句の果てに誰も得をしない状態になるばかりか連邦生徒会という弱体な政府は崩壊しかねない。

 だが良い事がある、溜まり切った宿題を解決し、責任と当事者意識を分散してみんなで抱き、まじめに仕事をする気があると言う事だ、もうあれが本物で良いんじゃないか? 

 

「えーと、今度のこの計画はなんですか」

COGCON(政府存続計画)です。具体的に言ってしまえば、先にあった色彩襲来時のような異常事態で連邦生徒会がちゃんと機能するための奴です」

「つまり、連邦生徒会が今度は統制者不在でも、やっていけるようにと言う事ですね?」

「そうだな、というか、俺が居なくてもすぐに滅ばない為のシステムでもある。

 トラブルは毎回起きてほしくない時に来る、マーフィーの法則だな」

 

 会長は承認の印鑑を押す。

 少し、緊張したような顔で彼女は言った。

 

「先生は、お疑いにならないので?」

「いや正直、"前任者"と違う人だと思うけど"後任者"として受け入れてるだけだな……要するに何も分からんから何も決めれん。俺だって君の名前も知らないのだ」

「……そして私も先生の名前を知りませんね」

「知ってる生徒はほぼ、居ないからな」

 

 この会長さんは「そもそも先生、何処からやって来たんです?」と聞いた事から俺が来る前までの記憶しかない。

 それでも彼女は連邦生徒会会長である、しっかりエデン条約機構の書類やアリウス関連書類が済んだ、長い宿題を片付けていく。

 

「多少、仕事が丸くなりました。感謝しています」

「本来はずっと前にやらなきゃいかん事だ……」

「ひぃん」

 

 嘆くような言葉の後、思い出したように彼女は言った。

 

「そうでした、シャーレに頼みたい案件があるのです」

「おい今度は水中から巨大不明生物が出たとか隕石迎撃とか言うんじゃ」

「いや、あのー、割と本当に貴方以外、適切な人がいないんです、先生」

 

 そう言うと、引き出しの鍵を開けて、フォルダーの束を取り出した。

 バサッと置かれたフォルダーは「未確認不明事象」と書かれており、幾らか速読する。

 内容は幾らかの、説明のし得ない何かの事象によって生徒らが被害に遭ったり、失踪したと言う事だ。

 明らかにオカルトであるから、錯乱したか混乱状態か、それとも明晰夢かで生活安全局は首を傾げているが、役人である以上全て報告され上告された。

 そして個別事件の数々に共通点がある事を認識し始めたヴァルキューレは、取り敢えず連邦生徒会へ報告を送り、今はこうと言うワケだ。

 

「……うちはゴーストバスターズでも、クインシーがいる訳でもありませんよ?」

 

 思わずスズ達が読んでたり見ていた作品が頭に浮かぶ。

 

「ですが、過去にこうした"存在"に対応し、経験があって、判断能力の高い作戦指揮官なんて、何処にいるって言うんですか? 

 百花繚乱を動員するわけにも行きませんし、警官にやらせる事じゃないでしょう」

「うちも一応区分的には捜査部だからそれに近いんじゃ無いんですかね」

 

 皮肉と嫌味を込めつつ、とは言え他に誰がやるのと言われたらそうだよなと認識した。

「ミメシスの問題もありますし」と言われ、若干「あんたもそうじゃ無いのかって心配なんだけどな」と思いつつ、「やりますよ」と返した。

 会長は少し顔を明るくさせて「やった」と言い、もう一つ書類を出した。

 

「まだあるんです?」

「はい! 今次作戦に、打って付けと言うべき人たち、その人達です」

 

 実は本題こっちじゃねーのか、そう思いながら「なるほどね」と呟く。

 

 

 

【Hot Line KV】

対抗(Opposing)部隊(Force)

 

 

 

 

 シャーレのRG-33が矯正局へ止まる、You Are The Wildernessを流している運転手は待機し、先生とスズ、それに法務幕僚のエレテ、記録の第三者としてのコノカ副局長が降りた。

 気分でサイドテールとツインテールを変える緑髪の法務幕僚が、予定通りミスズ局長に書類を渡し、中を確認してミスズ局長は頷いた。

 

「あの子達、よろしくお願いしますね」

 

 心からの心配をしているのは、明らかに俺に対してと言うよりあいつらに対してだなと思いつつ、「まかせろ」と返事をする。

 看守らは疲れ切った様な顔で「ようやく肩の荷が降りる」と言いたげな顔をしていた、まあそりゃそうだろうな、その気になれば止めれるか怪しいもんな。

 幸いちゃんと真面目な連中だったので、そんな事態を引き起こさなかった、とても立派である。

 やってきたのは数名、来た順に言うと、七度ユキノ、吉野ニコ、高倉クルミ、天神山オトギ、一泊遅れて不知火カヤ、聖山マギ。

 少しズレて出てきたカヤだが、時間が時間だったためか髪が若干乱れていた、それなりにズボラな奴なのかもしれない。

 ユキノはやはり、前に話した時と変わらず、背筋がしっかりとしていた、癖も習慣も抜けていない。

 他の連中にしてもサボってると言う訳では無いのだろう、しっかり筋肉がついている。

 

「おーし、全員揃ったな」

 

 そう言うとオトギは「一体なんだろうね」とクルミの方を見て小さく呟いた。

 何となく悪戯心が湧いたので「気をォーつけッ(テーン・ハッ)!」と声をかけると、マギとカヤ以外が「やべっ!」と身を正した。

 

「よし、ちゃんと聞いとるな」

「先生、あんまりふざけてやらないでくださいよ……」

 

 スズが同じくビクッとした様子で、そう言う。

 

「すまんすまん、心の9歳児に素直になっただけだ。

 さて本題だ、連邦捜査部は連邦生徒会会長の命により、諸君らは現時刻を以って矯正局ではなく、連邦捜査部シャーレの民間不正期グループ(CIDG)へ編入となる。

 諸君らの任務の詳細が社会に知られ賞賛されることはおそらく100年は無いだろう、しかし全ての人々が君たちの貢献により護られる。

 諸君らは任務の詳細を知ってからそれを断る権利を有するし、本官の責任と義務により断ったとしても何らの報復及び適用はされない、釈放書もある」

 

 胸元から釈放命令書を取り出す。

 クルミが「ひょえー、初めて見た」と驚いたように呟いた。

 なるほどねと納得したユキノは、口角を僅かに歪ませて言った。

 

「それで、何をすれば良いんだ?」

 

 その言葉に柔かに「ようこそシャーレへ。私は与えられし大権を以て君たちを採用する」と言う先生を見たスズは、相変わらずだよなあとコノカ副局長と顔を見合わせた。

 

 

 

 MRAPを乗り換えたユキノ達は、とあるレストランへ連れてこられたことに彼女らは少し困惑した。

 

「どうかしたか?」

「これは、いったい?」

「まぁーついてこいついてこい」

 

 レストランはそれなりに大きな4階建ての建物で、そのうち2階がレストランとなっている様だった。

 内装やらはそれなりにゴージャスな感じだが、ファミリー向けと言う印象も強くある。

 少なくともちょっとおめかしして来たくなる様な場所だなと言う雰囲気で、店員達は柔かにしていた。

 だが先生は、店ではなくその奥にあるエレベーターに彼女らを載せた。

 そして、3階で待っていたのはガンラック、デスク、無線機、弾薬箱などが置かれた完璧なオペレーション・ルームと言うべきものだ。

 

「これは一体?」

「何ってお前、お前らが今次作戦で使う為の秘密作戦室さ。いわば専用の秘密基地だな」

「な、なんでまた……別に地下やコンテナハウスでも苦とも思いませんが」

 

 そう遠慮したようなユキノの言葉に、笑って「だって狭いだろそれじゃ、俺が困るのさ」と返す。

 こう言う遠慮しがちな奴には少しふざけた様な返しのが良かろう、それにもう少しコイツらは上級司令部を頼っても良い。

 

「で、ですが」

「ちなみにまだまだ人がいるからな、入ってこーい」

 

 そう言うと、隣の部屋から自由帳に何だかよくわからない健歯を見せつけるような笑顔を描いたアツコと、サオリが出て来た。

 ユキノ達が本気で驚愕したような顔をし、此方を見る。

 

「ど、どういう事ですか」

「支援要員さ、当たり前だろ。チーム単体で当たらせて全滅なんかさせたくない、お前らもアテになる特殊部隊との協同や上級部隊のガッツリとした支援に慣れて貰うからなー?」

「……貴方のような大人は、やはり苦手です」

「結構、結構」

 

 アツコとサオリが挨拶し、若干遠慮しがちにニコ達が挨拶した。

 カヤは「ほへー、其方だとこう言うあり触れた場所に置くんですね」と若干職業病の反応をし、マギは「私たちに飽き足らず彼女らまで動員するとは思わなかったなあ」と呟いた。

 隣の部屋はアリウス系とウチの隊員が無線機、画面を見ている所謂小さな"ウォー・ルーム"で、親指を立てた通信オペレーターが無言で挨拶した。

 

「レストランの真上に秘密基地、ねえ……」

「トラックを入れても人を入れても誰が気にする? しかも、下の店は正確には関係者だぜ」

「……それ違法じゃ」

 

 オトギが唖然とした顔をするが、ユキノが「私たちの作戦も半分は違法だろうが」と返した。

 すると、アツコがふふんと胸を張って言う。

 

「下の子達は出稼ぎしてる身内」

「はぁ!?」

「ついでにこのビルを施工したのは工務部だから機密保持契約済み」

「ひ、ひどい官民の癒着だ」

 

 呆れた顔をするオトギに、家主であるオリバが部屋をひょこっと覗き「新しい入居者さん?」と尋ねる。

 

「あっ!」

 

 カヤが驚いた顔をした、この武器商人から武器を買ってRabbit小隊を焚き付けたが、そこのサオリ達に阻止されたのだから。

 

「あんたしれっと司法取引して抜け出しましたね!」

「うん!」

「返事だけは一丁前ですね……」

 

 カヤの「コイツみたいに思い切りが必要だったのかなあ」と呟くのを横目に、オリバは「爆破は勘弁してね」と言い残して帰っていった。

 そう、表向きのビルの所有者はアリウスのオリバで、ここのレストランの入るビル自体はミノリ達が作り、アツコ達が秘密作戦に利用するのを紛らわす為にアリウス系の料理屋を入れた。

 そしてその全ての線を繋げるのは連邦捜査部シャーレでありその先生という訳だ。

 こうしたやり方自体は珍しいものでは無い、何せ帝政フランス時代からある、フーシェは恐ろしいまでに有能だった。

 

「なんだかなぁ……」

 

 ユキノの「世はしっちゃかめっちゃかだ」と言いたげな声を聞きつつ、ヨイショと金庫を開ける。

 ドン! と用意した札束に、ユキノはさらに目を丸くした。

 

「当座の作戦資金だ。装備品の要求などがあれば連絡しろ。取り敢えずお前ら大体使えるよな?」

 

 サオリに「そこのガンロッカー開けて」と言い、サオリが鍵でカバーがされたガンロッカーを開ける。

 中には.300ブラックアウト仕様のアサルトライフルや、昔ユキノも使ったMk V拳銃、あるいはアンダーバレルショットガンの付いたM4や、しっかりカスタムされたM82などなどがある。

 

「盾もある?」

「ウチの部隊仕様ならある。欲しけりゃ詳細は注文しろ」

「弾薬もー?」

アビドス規格特製弾薬(ガンランナー)のハンドロード弾までなら用意できるよ」

 

 クルミとオトギが呆然としたように火器を確認する。

 しっかりと兵站段列、予備弾を整えて交戦をするのが俺のやり方であり、畢竟すれば戦争は準備が6割だ。

 実際問題、俺の戦争では火力の致命的劣勢だけは起こさなかった事に誇りがある。*1

 

「ぜーたくな戦争してるなぁー……」

「貧乏になってから慌ただしく求めても来ないからなあ」

「痛い所つくね先生」

 

 それはそれとして、ニコが不可思議そうにして尋ねた。

 

「でも先生、この予算って何処から降りてるんですか? 

 まさか機密費って訳にもいかないでしょう?」

「あぁ、綺麗な金だよ? 心配するな。

 出元は大半が正規予算だし、それ以外の予算は俺のポケットから出てんだ」

「えっ? 特殊部隊火器を!?」

 

 ニコが本気で驚愕し、FOX小隊一同が此方を見る。

 マギとカヤは「あー、なんかやったかな」と考えている。

 

「俺の給料をとある生徒らへ預けたら株を使って倍増させ、落ち目になったカイザーとかの下落した株とかを買い叩いたりしたんだ」

「なんじゃあ、そりゃあ」

 

 呆れて口が開いたカヤの呟きと、「私は普通に電子銀行から金抜いて現金化したあと、オンラインカジノ使って綺麗な金にしたなあ」とマギが呟く。

 

「両耳からヤバそうな情報が流れてくる〜」

 

 クルミは聞いた情報に頭が混乱したように言い、ニコが「……あれ、でもそれだとここのビルとか話がおかしくなるのでは?」と尋ねた。

 

「お、良い視点だ。アリウス自体は自治権を回復している上に個人の生徒に買わせて運用はマズイよな」

「ですね」

「だが最初からこのビルもレストランも、オリバの奴が武器商人時代の稼ぎを誤魔化す綺麗な金の為に出来たんだよ、つまり出来た時は俺は無関係だ」

「詭弁スレスレじゃあ……それじゃアツコさん達はどうなっちゃうんですか……」

「だからアリウスに進出したがってるカイザーやネフティスの株を少なく無い数買える様に、あらゆる手段で出稼ぎしてるのさ」

 

 カヤが呆けたように「滅茶苦茶じゃないですかァ」と天井を仰ぎ、ユキノは心配や不安の意味が少し変わったのか、柔らかな笑みをして言った。

 

「おみそれしました」

「ありがとう。俺は褒めると機嫌が良くなってさらに財布の紐が緩くなるタイプだ」

 

 ユキノは呆れた顔をし、サオリに目線で「マジ?」と尋ねた。

 サオリの何とも言えない「そうなんだよなあ」と言う顔に、ユキノは「あぁ、マジなんだ……」と理解した。

 その後、取り敢えず下に降りて「おう取り敢えずまあ食え食え、食うとアリウスに金が入って助かるってワケよ」と飯を食わせた。

 流石に若いだけはあるのか、カヤにしても偉い勢いで食べている。

 

「懐かしいね、一年の頃も作戦後にこうして食べたっけ」

「そーそー、ユキノったらばんそーこーしても青タン浮かんでたのにバクバク食べてた!」

「そういうオトギはラーメンを何杯食べてた?」

「何十杯だったんじゃないの」

 

 そう笑い合う彼女らは、年相応の少女達だった。

 ちなみにこのレストランの名物は海老料理と蟹料理である、料理に関しては玄武商会の指導が入っているのでアジアンテイストな料理であることを、明記しておく。

 最もこの時はある意味、料理よりもご馳走様と言いたくなる光景だったが。

 

 

 

 

 腹を満たした事で意欲も出てきたらしく、仕事の話になった。

 ヒートアイランド現象やフェーン現象などにより陽炎が発生しやすくなった、気象変動の一種で気温が乱高下するDUだが、そこで事件が起きている。

 真昼にぶっ倒れ痙攣する人、あるいは意識を失う人、そうした人々は現在のところ十数名が発生している。

 そうした中で連邦捜査部シャーレに与えられたのは、何らかの怪奇現象に対する調査任務。

 

「……マジ? 幽霊相手にするの?」

「こーれはちょーっと予想外かな!」

 

 クルミとオトギの「もうちょい資料くれ」と言う声に頷き、プロジェクターに接続したアロナから、過去の作戦映像を映す。

 サオリが交戦したクロカゲ、エデン条約で警官隊等と交戦したユスティナ、色彩で出てきた不可思議な怪物、エビス自治区で出てきた「精巧なアヤメ委員長」、アリウスでの謎の天使もどき。

 過去の交戦映像や記録を見ると、2人は「そうしたものが実在する」と言う事を理解した。

 

「2年前のRATのカタコンベ交戦報告書は本当だったんだな」

 

 ユキノは深々と呟いた。

 偵察及び攻撃担当のチームが、地下のカタコンベの武器密輸痕跡を調査中に光る謎の化け物と遭遇したと言う交戦報告。これを何かの間違いかデマ、或いは「そういう隠語で呼ぶしか無いもの」だとユキノは考えていた。

 

「……それ、多分、私の部下との交戦だね」

「え? ……あー、そうか、カタコンベ、そうか」

 

 マギの言葉にユキノが納得した様に頷いた、確かにアリウス偵察総局の隠密浸透工作と不意遭遇はあり得る。

 当然、連邦生徒会も会長もアリウスを知らないから「何を言っている?」となるわけだ、まあ無理はない。

 ただユキノは少しポジティブな事に気付いた。

 クロカゲなどの一部を除いた場合、大半は物理排除自体が可能だと言う事実だ。

 そして、今回はオブザーバーとアシストに専門家がいる。

 

「カヤ、お前が情報処理及び分析、マギ、アシストをしつつ知見をまとめる。

 ユキノ、実働班の指揮を取れ、現時刻を以てサオリとアツコの指揮権を臨時編入する」

「えっ!?」

「よろしくー」

「よろしく頼む」

 

 ユキノが「良いのか?」と尋ねるが、「俺、基本的に特殊部隊はある程度自活させる方針だしこう言う作戦はお前等のがキャリアあるぜ」と返す。

 実際問題これは事実だ、シャーレに於ける秘密作戦とは「何も残すな」であり、そう言う点から平時の秘密作戦ではユキノの方が適任である。

 それに自己肯定感を高めるには彼女等がしっかり成功し、しっかり自信を持たせる事で、自信を持たせるには勝たせる事である。

 

そしてそれなら俺は得意だ。

 

 

 有臼清掃と書かれたトラックが、公園の影の駐車場で停止する。

 トラックのコンテナ部からは今回の作戦部隊の隊員、つまりユキノたちとサオリとアツコが降りた。

 コンテナ部の中はしっかりと明りに照らされた空間で、ノートパソコンと数枚の画面、更に予備の装具品類が吊るしてある。

 

『ゴールドイーグル。これより行動を開始』

「こちらゴールドイーグル。了解」

 

 中ではマギとカヤがデスクに付き、これまでの事件の数、時刻、目撃範囲を記録し、地図へ投影した。

 こうした作業をほぼ遅滞なく行えるのは間違いなくカヤの才能なのだろう、優秀な副官が居ても駄目な上官は駄目なままだ。

 ここ一番の決断力は有ったのだろうし、適切に育てれば優秀だったのだと思う。

 

「過去2週間、即ち連邦生徒会会長が帰還して以降発生した不明事件は15件。

 いずれも白昼、10時から15時までに発生しているが、公安局及び生活安全局は該当する事件にて不審人物を確認していない。

 監視カメラや現場近くの警官も目撃してない以上、絶対ツーマンセルを崩すな」

 

 範囲自体はさほど広くはない、せいぜい4キロちょっとだ。

 ゲリラ・コマンドの捜索撃滅(サーチアンドデストロイ)よりは狭いと言える。

 こうした状況ではまず索敵で、従い特殊作戦部隊の出番と言う訳だ。

 

「同時に複数例が出た事件自体は少ない、と言う事は単独ですかね」

「ミメシスなどである場合、各自のPDAや端末が反応する。アリウスにおけるミメシス実体化フェーズはそうした空間異常があるからなぁ」

 

 カヤとマギが過去の事件を再度、今度は周辺環境の方でサーチングに出た。

 上空展開しているMQ-20 アヴェンジャーが2機、旋回しながらスキャンに入るがレーダーコンタクトは無い。

 指揮官には致命的に向かなかったと言うことが無能の証明ではない事をカヤは証明していた、リンと同じく独創性に欠いていると言うだけで、官僚や幕僚としては優秀なタイプで、本人自身がそれに気付いている。

 案外セミナーかパンデモニウムなら大成したのかもしれない。

 

「地上活動でユキノ達4名、ユキノ、ニコ、サオリ、アツコらを展開します。事後、これをファランクスと呼称。

 高所観測として残りのオトギを全体観測に、クルミを直掩に当て、これを事後ゴルフと呼称する」

『ゴールドイーグル。高所観測に我を配置した理由を』

「オトギのケツを誰がカバーすんだ、重たい盾持って疲労困憊にしても問題だ。各自ツーマンセルを崩すな。標的襲来時におかしくなる可能性がある」

『了解した。……オトギ、ちゃんと尻を引き締めてかかりなさい』

『スパッツ越しに拝んでな〜』

 

 展開地域を加味し、オデュッセイアのやり方……すなわちクローバーリーフを描く方式で地上のファランクスチームを歩かせる。

 これは潜水艦捜索の手順だと聞いたが、マス目を区切って捜索する訳であるから、成程確かに悪くない。

 セナ氏のレポートを確認したが、熱中症の様に思えるがちょっと見たらすぐにそうじゃないのがわかる、そもそも熱中症は不可逆的な脳へのダメージだ。

 ゆで卵は元に戻らないのと同じで適度に休み、水を飲ませ、最悪休ませる。

 だが気温がおかしい、運動部はそんな事百も承知で、しかも倒れたのはレギュラーメンバー、退いていいタイミングくらい分かっている。

 

「共通事項もない、変ですねえ」

 

 マギとカヤが記録を確認してみるが首を傾げる。

 

「ミメシスって言うのは人の意志や記憶が必要なもんです、詰まるところ記憶による具体的な立体化が……でも脈絡が無いですね。

 ローンウルフの犯罪者がすることに思えないし」

「ローンウルフ型ならミメシスが公共交通機関で自爆するだけでも良いからねえ」

 

 以前にコハルが遭遇したレポートではミメシスのユスティナが、小さな小島で水着で遊んでいたらしい。

 調べたところアリウス追放以前のユスティナの、シスター達がこっそり俗世も教会も忘れて遊んでいた場所だったかららしい。

 そうした「具体的な記憶」が無いとそうした存在は実体化を保てない、楽しい記憶だけならともかく負の記憶が強いと人を襲うが、何も無いと湧けもしない。

 ミレニアムにユスティナが湧かないのは関わりもないからだ。

 裏では人力車で高速道路を走っている生徒を見たと言う知らせを聞いてひっくり返った合歓垣が、パトカーの無線で《うわああぁぁっ御子神だぁぁぁっ!》と謎めいた叫びを発していた。

 新手の別件か、もしくは怪異か何かかと思ったが、普通に人力車部の百鬼夜行生徒であった、単純にキヴォトス特有のとんでもない奴だったが別の意味でホラーだ。

 一応そっとキキョウに連絡しつつ、パトカーの誘導の下に連行されていく人力車とか言う異常な光景からそっと目を逸らす。

 と言うか此処までえらい距離がある筈だが……。

 合歓垣により調書が書かれるまでの間に、ふと思いついたのかユキノが白い何かを見たかと聞いたが、少し悩んだ後に思い出したかそのナツキと言う生徒が言った。

 

『あっ、思い出した。くねくねですね! 昔からちょっとした口伝で伝わる話なんですよ』

「また百鬼夜行の奴か? またナグサ案件なのか? なんてこった」

 

 くそっ、コクリコは進出しない様子とはいえ警戒は怠っていなかったが、別件で何かが起きてるのか? 

 自然発生した怪異が移動した? にしては変だが。

 取り敢えずナグサに用意を頼む準備はしておこうか考えていると、ふとニコが『そのくねくね、というのの伝承の内容を知ってます?』と聞いてみた。

 すると、ナツキと言う生徒は「またなんでそんなことを?」と言う顔で『噂なら聞いたことがありますよ、うちの部活でも言い伝えがありますし』と、水筒の麦茶を飲んで言った。

 

『へー、どんな内容で?』

『はい、人力車部の人たちとかに伝わる話で、陽炎の中にそれを見たら早く戻って休むべきだって言う奴です。

 でもまたどうしたんです?』

『あー、それは……』

 

 ニコが答えに困っていると、合流してきたサオリらを見て「あぁ! 百花繚乱の方でも調べているんですね」と納得した顔をした。

「会った事はあっただろうか?」という2人に、ナツキは「クロカゲが出た時に見ましたよ」と言い、すとんと腑に落ちた。

 百花繚乱自体がそれなりに大きな組織であり、身近な武装組織である以上、見慣れない武芸者を百花繚乱と思うのは無理もないし、筋が通る過程だ。

 

『あー、いや、あの時と同じく手伝いだ。色々大変だから』

『なるほどー!』

 

 嘘が下手なサオリは事実を意図的に省略し編集して発言した。

 恐らくスバルが見れば笑いを堪えるのに必死だろうし、画面の前のマギは「成長したなあ」と思い、カヤは「あ、あまりに嘘が下手っ……」と絶句した。

 書面上のデータではない個人であるから仕方ないが、ユキノとニコですら若干の困惑や苦笑を抑えられなかった。

 幸い、合歓垣が書類を書き終えると「次から気をつける様に」と告げて、ナツキを解放した。

 

『……陽炎の中に見たら、すぐ帰れ?』

 

 ユキノの訝しむ様な呟きに、カヤとマギが「先生、気温記録の一覧を回してください」と申請を出した。

 構わないとアロナのサーチを許可し、確認された事例と地域の気温を組み合わせる。

 事例はすぐに出てきた、全て被害者の発見時期の気温自体は高くない。

 

「表面的な気温じゃないのかな」

 

 首を傾げたマギが違うみたいだと呟いたが、カヤは検索欄に「フェーン現象とヒートアイランド現象を加味して」と追加した。

 基本的にアリウスではアビドスから舞い上がった砂の影響で日照が少ない為、昼はクソ暑く夜はクソ寒いからだ、前提環境が違う。

 都市化と密集による高温、アスファルトの反射やビルの窓ガラスによる照射が組み合わさった局所的な高音は陽炎を生む。

 理屈としては知っているがアリウス生まれにはあまり身近ではないものだった。

 

「ありました!」

 

 カヤが日照率と雲の量で統計を確認した。

 そして、付け足す様に報告する。

 

「"理屈を考えると、今日は湧きません。今日は曇りです。"」

「発生しないってことか?」

「恐らく」

 

 カヤは見逃してる条件はあるかもしれないが現状は無いとして、そう返した。

 だがこれはこれで良いテストになる、これで「今日はいない」なら確実になるからだ。

 この先、数日間は曇りですと言う知らせにムッとした顔をした先生だったが、プラナは「陽炎が起因なら他でも出るのでは?」と意見を出した。

 

「それだと怪物カーニバルだろ」

「イエス。しかるに"ある程度大規模な陽炎が発生する場所"が必要かと思われます」

 

 そんな場所あるか? と首を傾げるのは、当然のことだった。

 先生は都市計画にはそれなりに理解があったが少し世代が古過ぎたし、カヤは防衛官僚で、ユキノたちは当然だが詳しく無い、サオリたちもマギも「都市計画たぁなにものだ?」と言う訳である。

 数少ない例外は復興計画で書類をよく読んだアツコくらいだが、彼女だって素人だ。

 そんな最中に、アロナがビクッと肩を震わせて緊急通報を告げた。

 通報者はマルクトだった。

 

 

*1
雨のせいで弾が跳ねなかったワーテルローとかは現地気象のせいだし……




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