キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
──閃光のハサウェイ中巻 ハンドリー・ヨクサン長官──
ハイレディで銃を剥き身でぶら下げ、安全装置を解除したヴァルキューレの警官隊が地下繁華街を走る。
バイザー付きヘルメットなどを付けた警備局のSWATチームだ。
現場ではゲヘナ生徒らと白い姿をした不可思議な人が、数名の作業員を運び出している。
そんな現場に、先生らが走って来た事は全員にとって驚くべき事では無かった。
「状況は?!」
警備局のSWAT指揮官、公安局のスズの姉、真白い格好に青い作業着のマルクトやゲヘナの生徒らが視線を向ける。
ゲヘナ生徒らは地下繁華街に居合わせたギャルらしい格好をしたエリカとキララの2人だったが、判断力が高いのか靴を脱いで昏倒した作業員等を運び出して安静にしていた。
マルクトが居る理由は簡単だった、暇を持て余したマルクトが、ホドがぶっ壊してしまった配線類の調査をしているのだ。
ミレニアムの作業員たちやセミナーからも承認を得ている上に、ミレニアムの出身とすればマルクトは疑われたりしない。
「作業員が作業中数名昏倒しました、我が確保した4名及び回収を手伝おうとした作業員2名が昏倒。
CBRN兵器の反応はありませんでしたが、陽炎の中に何か未知なる反応がありました」
「当たりだな……」
マルクトの端的な状況報告を聞き、警備局の指揮官へ向くと、先生は即座に「こっちが追っている案件だ、かなり不味い案件だから」と告げたが、指揮官は青い顔で「すでに突入しております」と告げた。
先生が「呼び戻せ!」と告げたが、「坑内は電波が乱反射してます!」と無線手がつげる。
「こっちのも直ちに突入! 被害拡大をまず阻む、それに周辺区画を封鎖しろ!」
「はいっ!」
警備局の指揮官はすぐに頷き、「区画封鎖だ! 急げ!」と指示を出した。
同時にフェイスカバーの付いたヘルメットを付けたフォックスと、昔のマスクを持ち出したアツコらが急いで突入するため走り出した、双方物凄い速さで、怒涛の勢いがあった。
慌てて着用したので完全に閉じれていない防護ベストに気付き、マルクトがそっと横からマジックテープなのを確認して、固定させる。
「ン、すまん」
視線は向けなかったが感情と、状況と敵を見定めた男らしい声がしたので、マルクトは少し安心した。
人は人に期待するものである、と言うことくらいはマルクトも理解している。
従い、望みうるような姿を求めるのは、マルクトが幼いとか、少女的であるとか以前に、彼女が人間らしいと言う事を表しているのかもしれなかった。
アロナのタブレットが突入隊員等のヘルメットカメラとボディーカメラを中継し、映し始める。
横から、警備局の指揮官が困った顔をして言った。
「建設室から封鎖は困ると言ってます」
「なに?」
呆れたような顔で尋ねると、指揮官は困った顔で電話を渡した。
「電話を代わった、俺だ。封鎖は困るとはどう言う要件だ」
『こちらとしては困る、と言う事です。D.U.復興だってまだ完全じゃ無いんですから』
「ちんたらしていたのはお前等が事業者選定も碌に決めれんからだろうが! 第一生命館ビル暮らしで現実が見えんくなったか!」
『いやしかし、それに官報でも其方が何でそこにいるか聞いておりませんから……連邦捜査部であっても手続きがあります。横車を押されても』
警備局の指揮官は「知らねえぞ」と言う顔をした、概ね次に先生が何を言うか察しがついたのである。
当然、指揮車両の中にいるカヤやマギからしても、予想はつく。
「よォーしお前がそう言う気なら、
『エッ』
すぐにアロナを経由して、指揮車両に向かって先生が吠えた。
「ちょっとスズに連絡して、サンクトゥムタワー33階建設室にヘリを数機飛ばせ!
最後まで許可を出す気がないならハイドラと20mmくらいは撃っていいぞ」
『実弾をですかァ!?』
カヤが驚いて尋ね返した。
「俺たちが扱ってるのがオモチャな訳ないでしょうが、ゲームやってんじゃねぇんだぞ!」
呆れたように言う先生の意思は数分しないうちに実現された。
本庁舎で整備が終わっていたコブラが慣らしで飛行を始めていたのが伝わったからである。
因みに整備確認の飛行だったから非武装だったのだが、それを知られてはいない。
流石にここまでやれば許可はすぐに出た、会長が慌てて手を回したらしい。
警備局の指揮官は遠い顔して「私のキャリアはどうなるんだよォ」と嘆いたが、「クビになったら拾ってやるから安心しろ」と言われて「畜生詰んでやがる」と呟いた。
ドヤドヤとした騒音と共に一斉突入する部隊は、アクティブシューターやテロ対策では至上命題と化した「直ちに突入」の原則に従っていた。
シャーレ創設以降、対テロ作戦は被害拡大を防ぐために法執行官を強引にでも突っ込ませろと言う路線が主流派である。
無論、法執行官の損耗と言う奴もあるが、その犠牲の数字が「市民の損害」と「市民の盾として奮戦の結果」である場合、後者に罪があるなら指揮官や指導部の問題だと先生が言ってのけた。
つまり、運用や装備に関わる最高指導部の責任であると言う事であった、連邦生徒会に全く遠慮しなかったし、被害に関しても「それを給料が求める範疇内とするのは当たり前」と返すのは当然である。
坑内に入った二つの特殊部隊は、相手を確認すると急いで突入を始めた。
警備局の特殊部隊、と言うのはそれなり以上に優秀なのである、そうでなければマギの様なアリウス出身のエリート相手に戦えないし、ミメシスとも戦えない。
ただシャーレの特務がほぼ私服の上から戦闘装備して走ってるのは異常だから、彼女等に譲ったのは当たり前だった。
「ラッシュラッシュラッシュ!」
クルミとアツコを先頭として突入が始まり、陽炎を捕捉し、ユキノとサオリがハンドサインで移動する。
通路自体は真っ直ぐだから、両脇にフォックスとアリウスが展開、縦列隊形で前進する。
「なんだ一体」
陽炎の向こうから、ゆらゆらと白い何かが見えた。
オトギはバイポッドを立てて、寝そべって伏せ撃ちの用意につく。
彼女の今使っているライフル自体はバレットではないが、委託射撃は安定性が高い。
M110は良い銃だが、狙撃手は安定志向である。
オトギはスコープの倍率を調整しながら、眉を顰めた。
目標の中心線を捉える様に銃を動かし、すぅと息を吸った。
「なにか、白いのが……」
『こちらのボディカムとヘルメットカメラに反応はないぞ?』
先生の声が、オトギの耳に入るがだんだんか細くなり始める。
何か先生が声を上げて───
「マルクト☆フラーッシュ!」
カッと真白い閃光が、バチッとオトギの視界に入る。
オトギはシャーレ隊員配備品の、予備軍倉庫から持ち出された対閃光ゴーグルをつけていたがしばらく目が焼きついた気がした。
スタン状態になったが、すぐにオトギは目の前でバーニアを最大限に吹かしたらしいマルクトに気付いた。
閃光弾などは持ってないが、バーニアを吹かして閃光を優位を取るのは、重機動メカ モフングル・モフコーンのモフトリア戦で見ていた。
案外咄嗟に出来るのだな、とマルクトは思った。
「うぇっ……」
オトギは目を揉みながら、即座にローリングして銃器を抱えて遮蔽に入る。
流石に特殊部隊の隊員らしく、身動きの所作は無駄を削ぎ落としている。
マルクトがなん等かの手段で視界を切ったのは理解した、手段とマルクトについては良くは知らなかったが、先生にそうした知己や関係があるのは理解できる。
『オトギ、一旦後退。
ユキノの威力偵察の判断に『了解』と短く返事し、隊列を再編する。
クルミとニコは「さっきと同じく、って言うけど……」と思うが、全力で手順を考えている。
さっきは善意のシビリアンのおかげで助かったが、最初からそれに頼るは無責任だと思うのは、真面目な特殊部隊隊員というより、職業病なのかも知れなかった。
先行する2名は目標に近づく。
「"確認"」
アツコのハンドサインにユキノが頷く。
基本的に特殊部隊であるから、各自の職権に立ち入らない、アツコが優れたフロントマンなのをユキノも知っている。
カウントし、一気に突入、2人がトリガーを絞った。
弾丸は狙うと言うより、面制圧のように行われた。
だが飛んで行った弾丸に手応え、と言うものがない。
すり抜けてもいないのはユキノやアツコにもわかった、ユキノはティア1の
それと同時に、ユキノが視界に何かが割り込んできたのに気づいた。
「まずいっ!」
アツコは即座に煙幕手榴弾のピンを抜いて投げる。
それと同時に走り出したクルミは、背負ったままの盾をユキノの前に持ち出して、「ピカッと行くわよ!」と点火した。
続けて、ニコが後ろから抱き抱える。
「よしっ!」
ユキノを確保して後退しながら、作戦に参加していた全員が「あれ、アツコはなぜなんともないんだ?」と、新しい疑問を浮かばせていた。
翌日、朝は近くにある会館を借り上げたヴァルキューレの指揮所に仮泊した。
ドヤドヤと色んな学校のアルバイト生徒等が牛乳瓶を──警備局の出動かデモがある時は牛乳瓶を調べろと言うくらいに馴染んでいる──ケース単位で運んでいる。
出動したのはヴァルキューレ第六機動隊第三中隊、街区封鎖の確認と維持だ。
ただそれでも二百人ばかしの食べ盛りの仮泊であるから、弁当の量だけでも大変なものになる、幸い集団戦術を売りとするヴァルキューレだからそうした手配はこなれている。
「体調は、問題なさそうだな」
警備局側が「面倒ですからこっちで呼んでおきます」と手配した朝食は、何とも脂っこい感じの牛肉がドカンと乗った弁当で、肉汁が少し肉の部分から漏れて白米を侵蝕している。
肉体労働者や消費カロリーの多い人間の朝飯という奴だが、これにあさり汁などを添えているのは、兵站段列の気配りという奴なのか、弁当を作る側の気配りだろうか。
体調が良いのはみんなきっちり食べ終わっているので、よく分かった。
ユキノは申し訳なさそうな顔をしたが「威力偵察で失わずに帰ってきたなら、最悪じゃねーし、仮に失った場合は指揮者の俺の責任だろォ」と返した。
それでも、と何かを言いたげな顔をしたユキノだったが「これから先で取り返せる」と言うサオリの言葉に、何か納得した顔をした。
「さて、気象情報などを確認したが、今後数日曇りだ。
つまり奴はあそこから動けない、あるいは他で出現し得ない。
だがどう考えても今回の案件はヴァルキューレにとっても手が出せん、本館も同意しているし正式に介入要請が出た」
当然だった、犯罪対策が仕事であって悪魔祓いなんか出来るかと言われたら無理はない。
ライトハンドガードのついたMP5や89式小銃で解決する問題じゃない。
それに、連邦生徒会長はあれはあれなりに有能らしい、事態収集のために対応しているとして今次事件は新型または変種のミメシスであると報道した。
これの対応としてヴァルキューレとシャーレは初動対応を行なっているから、これは安全のための致し方ない行為であるとしつつ、現場付近の生徒等が被害者救出に多大な貢献をしたと述べた。
要するに危機は対応されている、多くの優秀な人たちと、現場の善意あるシビリアンは一致団結しているとしたのである。
「しかし、なぜ私はダメだったのだろう。
直視したのが不味かった、というのは分かるが、それでは話が通らない」
「スコープ越しがダメなんだからマスクもダメっぽい気がするんだけどね」
「フルフェイスマスクという点では大差なかったしなあ」
オトギやユキノの言葉に、アツコは懐のにこやかと言うより、歯を剥き出しにした笑顔のアツコボードではなく、マスクを出した。
「これ自体が
ユキノは「えっ」と困惑した。
無論、アツコに全く異常らしいものを感じていない、だが明らかに「そう言うやばいブツ」を使う人には見えなかった。
まして、先生はそうしたものを使わせるのだろうか? という点もある。
「たーしかベアトリーチェだったかが掘り出してきた無名の司祭の遺産だったかな、防護能力とドローン能力もある。あと光る、ダークライト的に」
ユキノの頭の中に、じゃあ他に無傷だった人……とマルクトが浮かんだが、彼女自体はミレニアムあたりの超技術ボディーだと理解していた。
ボディカムやヘルメットカメラで捕捉していないと言うのも気になった。
すると、カヤが回線を繋ぎ、リストを投影する。
『今回の案件、被害者にオートマタが1人もいませんでした』
その言葉を聞いて、ユキノは「そうか」と納得がいった。
生身の目を通して直接、全身義体のサイボーグやオートマタでは見えない。
だが光学観測以外の手段があるから、マルクトには捕捉できた、そして、そうであるから煙幕という手段が有効になる。
『つきまして、提案なんですが』
「なんだ? 適当にカイザーの連中突っ込ませて鉱山のカナリアにするのか?」
『あ、考えてましたか』
カヤはそりゃそうだろうがと言う顔をした。
だが先生の顔は少し面倒そうな顔をしていた。
「問題は失敗した時より成功した時なんだよなあ、政治的失点がある」
『連中もミメシス程度の戦果であれこれ言えないと思いますよ、誰かさんのせいで』
「連中はもうしばらくぐだぐだしていて欲しいんだ、成果をあげて面倒な連中が活気付くのは避けたいんだよ」
カヤは理由を聞いて納得し、頷いた。
感情的理由ではないし、それなりに大志や構想があってなら、まあ現実的理由として納得する。
続けて、カヤはマルクトのレコーダーの情報提供と、アツコのヘルメットカメラのデータを確認した、熱源探索くらい容易いマルクトのデータに、怪しい熱源があるのは気付いた。
『マギや先生らがアリウスなどで得たデータを参照すると、恐らく発動条件は"アレ"と目が合う事です。
恐らく顔を見られる、直視されると言うのが条件なのでしょうね』
作戦を考え直す、と言うのは其処までの必要が無いのは分かっている。
まさかアリスやケイに動員令だしてバキューンと言うのは流石に駄目だ。
だが考えてみれば直接見なきゃ良いのだろうか、ユキノは「じゃあ、暗視装置にして言ってみますか」と提案した。
「良いけど、大丈夫か?」
先生の尋ねた理由は簡単に言えば「お前、自己犠牲と自殺願望同一に扱ってねーか」というものだ。
ユキノは真っすぐな目をして返した。
「1つ、前回同様の手段で意識がちゃんと戻せること。
2つ、アツコ氏の援護がある事。
そしてクルミの盾は効果があった事……幾つか案がある以上、負けない五分の戦が出来ます」
完璧な回答だった。
死にたがりの作戦案は戦果は無く被害は甚大という、向こう見ずの新兵だけが気持ち良くなると言ったバカな事を平気でやる。
そうした気負いなどが多い事業は経済でも失敗するものだ。
だがユキノの意見は「どうあがいてもこのサイコロを投げても負けませんよ」と言う事を告げていた、ならば信じるに値する。
「よろしい、情報だけじゃなく、お前を信じるよ」
「はい……。はい?」
ユキノは一拍置いてから目をぱちぱちとさせて、首を傾げさせた。
呆れたような顔をするオトギは、サオリに「あの人はいつもあんな感じ?」と聞いたが、サオリは何とも言えない複雑な顔をして「人には、色々あるんだよ」と返した。
何か勘違いしたようなオトギは、少し顔を赤くした。
「へ、へぇ……。クルミの補正下着じゃ通用しないかもね」
「怪異にやられて口が滑らかになったらしいわね」
「ぐえっ」
オトギの頭にクルミの拳がゴリゴリと押し付けられるが、アツコはそれを見ながら「でも既婚者だよ?」と返した。
オトギとクルミが真顔になり、ニコとユキノは「中尉には婚約者がいるもので、大尉ならば結婚してるもんだもんなぁ」と納得した顔をした、それにどう考えてもこの慣れた姿は佐官のそれとは思えない。
ユキノやニコなりに浮かぶのは「何らかの都合で前職を退いた高級将校なのではないか?」というイメージだ、ナギサやミカが「一代貴族の類かも」と推測するのも無理はない。
「マジ?」
「マジだけど? 子供いるよ?」
クルミは「はへー」と見上げて、仰ぎ見た。
そうした反応はある意味、彼女らが大人というより子供が近い年齢と言う事である、子供は親と言う存在を無意識的にすごく思えるものだからだ。
「恋人とか居たの?」
何かを刺激されたらしいオトギが尋ね、カヤまでが『ちょっと気になるな』と言う顔をした。
ユキノは止めるべきか迷ったが、ニコの判断に任せた。
「話すと長くなるぞ。俺の人生は360ページになるし、俺のやって来た事を纏めると上下巻で1200ページくらいになるからな*1」
はぐらかしにしちゃ大分具体的じゃないかと思いながら、オトギは納得はした。
前職がどうした理由で辞めたにせよ不名誉除隊じゃないなら良いか、ということもある。
もっとも仮に不名誉除隊としたなら、一体どのような手段でそれをしたんだか……と思わなくはなかった、大人しく捕まるタチじゃなかろう。
VR機能などが着いたGPNVG-18、所謂F-Panoがケースから開封される。
地下街の一部区画は隔離されているが、漏れ出しているわけではないから、人々は遠巻きにしているだけだ。
カラーコーンや三角コーンで規制された線に、テントで使う様なビニールの覆いがされているので、傍目には害虫駆除や殺菌中のそれである。
包囲中の機動隊は遠巻きにライトハンドガード付きのMP5を持ちつつ封鎖しているが、うんともすんともしないから訝しんでいるか、焦れている感じがした。
「消えちまったんじゃないか?」
「さぁ、分からんから行くんでしょ」
「私にゃミメシスって言うのが良く分かんないんだよね」
大楯を立てながら包囲環を構成している警官らの呟きを横目に、ユキノらは突入する。
傍から見ればMICH2000ヘルメット着用でバラクラバ、暗視装置付きに対閃光ゴーグルだから人相などまるで分からない。
服装もシャーレ隊員らが使うアーバンウォーリアー迷彩のTパターンだから、傍から見ればシャーレのところの隊員以外には分かるところもない、本来特殊部隊は顔出しNGである。
マスメディアの眼前に出てしまうような状態で生放送に映ったとか起きたなら、現場封鎖や報道管制をしてない後方指揮所の問題であり、マスメディアと政府組織の問題である。*2
扉を開け、バックヤードへ入る。
「先行する」
アツコとユキノが前列に立ち、少し間隔を開けてニコたちが続く。
今回は普段と装備を変え、サオリとユキノはBCMの300BLKカスタム、ニコが後方支援を兼ねたSR-16、クルミはDDM4 PDW 300 BLACKOUTに主武装を変えた。
まあ要するに一撃必殺の火力重視装備だ。
ユキノは息を小さく吐き、危険区域に入ると同時に暗視装置を下ろした。
暗視装置といっても完全な闇が見えると言う訳じゃない、集光装置で増幅しているというわけだ、したがい施設内の電源はそのままである。
保全用のか細いライトでは暗視装置の邪魔にはならない。
前回と同じく、通路の曲がり角に奴はいた。
「
ユキノの短い通達が入る。
『
「了解。
ハイレディで待機していた隊員らが一気に構えて突入を開始する。
暗視装置で捉えた敵は、意外なほどはっきりと見えた。
閉所屋内戦特有の籠った破裂音そのものの銃声が響き始める。
タイヤの破裂音のような独特の銃声だ。
「
倒したくねくねに更に胴体に二発、頭に一発アツコが撃ち込む。
影に実体はないが、実体を捉えて撃ち抜けばこの通りだ。
突入して五分しない内に、明らかに尋常じゃない勢いの銃声が響き始めた。
暗い通路内をフラッシュハイダーで抑えられた発砲の煌めきが灯り、薬莢が転がり、捕捉されたくねくねが倒れて消えていく。
四体目を排除した辺りでユキノが「リロード!」と声を上げ、「カバー!」とニコが隊列の位置を入れ替わる。
制圧射撃しながら前進を継続し、こうした動きをしっかり果たせるのは、双方高い技能と信頼を要求するが、それは当然だった。
相手が無能だったらあんなに苦労しなかった。
「
すかさずクルミの抜いたSTACCATO C2拳銃が唸り、くねくねの頭に弾丸が撃ち込まれていく。
更に天井からくねくねが手を伸ばすが、サオリに素早く頭に三点射が撃ち込まれ、ぼろっと消えていく。
指揮車両の液晶画面、ヘルメットカメラとマイクから膨大な銃声が聞こえている。
カヤはトラックボールマウスを動かしながら、画面を確認し、未知目標をトラッキングし、アロナ経由でマーキングしている。
官僚や参謀としてのカヤは極めて優秀だったのだろう、なにせカヤがクーデターで用いた資金源は彼女の投資予測だったらしい、確かにマルチタスクで処理できるルールのゲームなら強いだろう。
そう思いながら、7体目のくねくねが排除されたのを見ていると、マギがコーヒーをコップへ淹れた。
「ン、ありがとう」
彼女は妙にカヤやユキノたちを気にしている、納得は出来る。
「外は素晴らしい」と言うならば「選ぶことも教育されなかった特殊作戦武力」はどのように選択するのだろうか?
カヤに対しての所作は良く分からない、彼女なりに亡くした妹を重ねているのか、或いは単純に彼女は主人足りうると期待しているのか。
「……聞いてもよろしいですか」
「おう」
カヤが尋ねた。
「今回、彼女らを二人だけにした理由は、自信を着けさせたいからですか」
「それもある。極論を言えばLMGによる面制圧と言う手や、爆破突入の手もある」
カヤは「まあそうだろうな」と考えた。
非戦闘員が明確に居ない環境では通常、歩兵戦闘は爆破して撃ちまくりながら制圧前進で良い。*3
だが今回そうしなかった理由は簡単だ、相手の数は推定して14体。
恐らく被害者数+1程度だ、であるならば、強行突入させるよりこれでいい。
そして今回ミサキとヒヨリが留守番の理由だが……。
「ミサキは、今日と明日は女なんだ……」
「はっ? ……あー……」
一瞬理解に迷ったカヤだが、直ぐに言いたい事を理解する。
マギは「アイツ重いからなぁ」と察した顔をした、今頃がっつり体調崩して寝込んだミサキをヒヨリが面倒見ているだろう。
そんな訳でミサキとヒヨリはお休みだ、それにミサキやヒヨリは今回の環境では些か問題もある、ヒヨリは陣地変換が活かせずミサキは過剰火力が過ぎる。
チャイナレイクやM32A1という手もあるが、それはそれで天井が問題だ。*4
「まァ、結局のところ自分を許せるかどうかなんだよな。
正直今のユキノは気負い過ぎている、SRTが破綻してしまったのは自分のせいと考えている、そんな狭窄した認識の指揮官を生み出した会長に責任がある。
なぜなら最高指揮官であり直轄であるからだ」
「
「やはりお前とは上手くやっていけるかもしれんな」
すると、銃声が止んだ。
画面を確認していたマギが「怪異の排除完了」と告げ、先生がコーヒーをぐいっと飲んだ。
少しミルクが多めなのはカヤに対しての味付けなのだろうか。
「……2分38秒、で損害なし。完璧だな」
「合同部隊最初の実戦投入です。満点かと」
満足げに笑うように、カヤはそう言った。
制圧が終わり、生活安全局のキリノ等が後始末の確認などを始める。
警備局の機動隊員らが機材を畳んでいるのを横目に、指揮車両へユキノ等が入る。
指揮車両自体は普通のコンテナトラック風なので、倉庫の近くにあるこれに乗り込むのを誰も見ていない。
ユキノらは「この後どうしよう」と言いかけたが、しっかり休もうと決めたが、ふと思い出したようにニコが言った。
「疲れましたね、セーフハウスにお風呂はありましたかね」
「あるにはあるが、この時間だったら銭湯がある。機密保証はちゃんとしているよ」
ニコは「また
「……繋がりが多いようで」
「大人の特権は世話を焼けると言う事だ、俺の趣味と言われればそうだが……」
「は、はぁ」
ニコは当惑した様に述べた。
先生がそれなり以上に風呂好きなのはオシントやシギントの情報でなくても伝わる情報だ。
到着した銭湯はよくある下町の銭湯だが、清潔感や手入れの入念さを感じさせる。
古びているが汚くはないため、しっかりとしている。
「じゃ、俺は報告やらあるから」
「了解しました。……連絡はどうすれば?」
「君たちは最重要対象だ、携帯端末からか、監視カメラとかに合図をおくるなりしても繋がるよ」
オトギが「便利なこって」と呆れた様な目をした。
クラフトチェンバーにリンクしたアロナは、事実上キヴォトスに存在するあらゆる通信接続された電子機器にアクセスが可能だ、閉じたネットワークで運用されているか自閉されているスタンドオフ兵器類などは例外であるが。
そのため言ってしまえば全キヴォトスの監視カメラや警官らのボディカムなどは、通信端末経由でリンクしている。
当然こんなものを精査する才能は、流石に先生にも無い、だがアロナとプラナが無作為に流れる情報を管理・処理し、さらに本庁舎らの隊員等が観測している、要するに分散して複数端末で処理してる。
「いっそがしいんだなあ、大人って」
オトギは迎えにきたスーツ姿の生徒ら2人──恐らく公安局だろう──と合流し、去っていった。
番頭は「シーズン分は前払いで貰ってるから、どうぞー」と呑気にテレビを見ながら告げた。
作戦時間自体は長く無いのだが、火薬の匂いやら、地下坑内の埃やらで、なんとも言えない感じが上着からした。
「着替え、どうするかな」
そうクルミが言った際、番頭が思い出したように紙袋を取り出した。
「あ、一応預かってます」
「手回しがいい事で」
「ちょっと前に緑髪したデッカい銃した子がお使いで買ってきたらしいです」
ユキノらが「あー」とイメージがついた、スクアッド自体のデータは知っている。
サイズがちゃんとあっているのは公的情報の照会がされているからだから、当然だった。
ユキノらが纏めた髪を一旦ほどき、くるりと丸める。
ゆっくり湯船に浸かると言うことに、とんと最近縁がない事に気付いたので、久方ぶりの風呂というものは心地よかった。
「はぁ……」
「おー、おー、おぉ……」
オトギが驚愕した顔でサオリを見ている。
正確には胸部だが。
「すンごい、クルミの何倍あるんだろ」
そう言った直後にオトギがクルミに沈められた。
オトギが「もかががが、耳から入るから堪忍して」と言い、クルミが「次抜かしたらシラトリ湾に投げ込んでやるんだから」と返した。
すると、それを聞いたアツコが思い出したように言った。
「そういえば、オデュッセイアが何か海中探索してるって言ってたような」
「へぇ、なんかしてんの?」
「らしいよ? ただ、シラトリ湾近海自体はちょっと今混んでるらしいけど」
アツコの聞いた話は港湾局やインペラートルPMSCの話だった。
巡洋艦がデカグラマトンに転送させられてブッ刺さったせいで、浮揚作業で大混乱しているのだ。
おかげで港湾荷役組合が揉めているから、元理事が「仕事に困るんだよなあ」とカフェで愚痴っていた。
「そういやアイツ、特赦されたんだっけ」
「精神鑑定である意味無罪になったからね」
「かわいそ」
クルミが呆れたというか、本気で憐んでいるのか、判別のつかない声で言った。
喜べるほど人間的に下劣ではないが悲しめるほど高潔でもないのが人間というものである。
アツコはそのあと、ユキノの腹筋に興味を移したらしく、「おぉ、さっちゃんと同じく硬いよ!」と楽しげに触っていた。
「え、あのうなにを?」
「ロイヤルハラスメント?」
「えぇー……」
アツコの言葉にフォックスは全員、わけわからんと一旦棚上げする事にした。
彼女等は常識的な人々だった。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。