キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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the many attempts of Nature to evolve a crab(カニへ進化するための自然の試み)
──Lancelot Alexander Borradaile carcinizationに関して──


carcinization(カニ化現象)
蟹の穴入り


 

 夜半、鐘崎港の近隣にある道路へ車両が3両近づく。

 BJ212という山海経の大量生産された4輪自動車が前後に二台挟み、真ん中にはSteyr 91トラックが運転席部分の天井を外して、その上に機銃としてFN MAGを積んでいる。

 よく見ればトラックの荷台には素人仕事よりはマシ、と言う程度の装甲版が付いていた、最近の情勢ではヘルメット団ですらDshKを撃ち込むかもしれない時代だ。

 そうなった原因には山海経の奥地にカイが銃器関連工場を再稼働させて、安価な武器を大量に売り出し自分の計画に利用したからで、更に百鬼夜行などにも一部をこさえていた。

 大半は摘発されて一掃されたが、カイ自体が自分の組織をセル化し、顔の見えない指導者となったせいで組織全容は把握が追い付いていない。

 お陰で、未だに「埋まってるんじゃないか?」と人々は内心考えている、先生もそう考えている。

 

「来た。チョークは待機せよ」

 

 夜半の市街を見下ろす廃墟、そこに砲隊鏡を構えたオートマタらが簡易無線へ囁いた。

 無線には秘話通信装置が付いているため、生半な人々では確認出来ない。

 目標の車列が進む道路、交差点で停車したBOV装甲兵員輸送車はライトを点け、連装式Kulspruta m/36機関銃を装弾した。

 北の方から流れて来た機関銃だが、水冷式である事は機関銃の本義たる長期の制圧射撃に耐えられる上に連装は都合が良かった、途切れず火力を提供しやすいからだ。

 

開始(ミュージック・オン)

 

 観測地点で葉巻を吸っていたかつてのカイザー理事、即ち現インペラトールPMSC理事は自身の掌で火を押し消すと、そう指示を出した。

 かつてのカイザーのアビドス派遣部隊は3個大隊基幹に一個大隊が追加で増強の戦闘団だったが、33大隊は先生により壊滅、34は編成未決、35は本拠地攻防で壊滅した。

 残る対デカグラマトン大隊は駐屯地が違う為、投入出来なかったが、司令部直属のレンジャーまで投入して惨敗こそすれ、彼に不満はなかった、概ね成るようになったと理解していた。

 色彩戦では彼と旧二個大隊のうちの志願兵が恩赦と引き換えに防衛戦へ投入され、旧35大隊とレンジャーなどを独立した際に引き抜いたのである。

 

「ラジャ―。開始する」

 

 オートマタの動きは素早く、構えたM727の動作は正確であった。

 基よりカイザーのPMC隊員らには「自分の命をチップにして稼ぐ」と言う事に喜ぶ者も少なくない、職業的プロ意識の高い人や、単に「構えて立つ仕事だから」という人もいるが、インペラトールPMSCは「腕次第」の風潮の人が多かった。

 BOV装甲兵員輸送車が飛び出し、交差点で車列に対して斜めになる様に停車すると、Kulspruta m/36機関銃をフルオートで唸らせる。

 続けて左右の歩道の影から縦隊を構成した小銃班が2個、左から近づく小銃班は機関銃を含んで火力支援しつつ、右側の小銃班は制圧射撃に援護されつつ前進する。

 合理と計算が無慈悲化はさておき、練られた計画による待ち伏せは無慈悲である。

 降車の暇なく先頭車と真ん中のトラックが銃撃されて運転手は気絶、機銃手も同様、最後尾の車両から降車しようとした4人はCQ 311などを構えて交戦に入ろうとするが、3人が瞬く間に倒れた。

 

「畜生!」

 

 右後方のドアから降り、打ち倒されなかった黒を基調とするカルパチョ・ファミリーの構成員は、56式班用機槍で応射しようと立ち上がるがM727を構えたオートマタに三点射で打ち倒される。

 トラックの中を確認すると、オートマタらはテルミット手りゅう弾を三つ投げ込んで処分した。

 掛かった時間は4分に満たない、乾麺を食べるには麺が少し堅いだろうが、戦争と赤線地帯の共通点は「早いと喜ばれる」ことだ。

 理事は満足と言うより、この世の必然を改めてみたような顔をしていた。

 斯くして、インペラトールPMSCはカルパチョ・ファミリーの集金車を殲滅したのである。

 

「人生皮肉だよな、前職の経験が活きるんだからさ。

 よく分からんね」

 

 昔、ブラックマーケットの銀行の集金スケジュールや移動ルートとか手順学んでたのが、襲う側で役立つとはなぁ。

 理事はしみじみとしながら撤収を確認し、自分らも撤退した。

 

 

 

  

 

carcinization(カニ化現象)
 

蟹の穴入り
 

 

  

 

 

 Fox小隊を編入したCIDGの活動拠点の一つ、料理屋「祝祭(フェストゥム)」は、実体はともかくとしても、公然の経営実態は単純にアリウスの独立した店舗である。

 衛生検査や手順は規則通りであるし、免許や手続きに関しては、七神リンですら「問題はない」と通せる書類で正面から申請している。

 これはオリバやアリウス生徒会が臨時で税理関連などをノア書記と先生の協力で書き方を教えてもらったからである。

 三割くらいのアリウス生徒は「税理申告ってなんだ」「知らないのか、美味しいんだよ」と会話する程度には阿呆である、書類と言うものに見慣れた需品将校だったオリバや、必要書類を書いていたスバルなどはともかく、他はそうはいかない。

 こうした阿呆にちゃんと基礎をぶち込んだ苦労が先生や、ミノリや、ハイランダーの革新官僚(シュポガキ)たちにあるのだが、完了はまだ遠い。

 

「ちわー、元気してます?」

 

 ガラっと戸を開けた生徒が、よっすと笑顔を浮かべて言った。

 山海経の玄武商会は重鎮にして会長の護衛、レイジョである。

 玄武商会での料理法などを仕込んだのはルミの単純な善意であるが、山海経の改革開放政策の宣伝という政治的事情もあった、要するにルミなりのキサキへ対するアシストだ。

 そう言う事情もあるから、レイジョやルミなどはしばしば店へ来る、恥ずかしいから「味を確かめに」と言っているが。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 ニコの声に、レイジョは直ぐに「あ、シャーレの所だな」と察しがついた。

 カンフーの腕は伊達ではない、彼女は瞬時に脳内で彼女と試合をイメージし、ただならぬ筋肉や腕を感じた。

 FOX小隊も伊達に特務ではない、ニコの二の腕やふとももはそれ相応の厚と堅さを有している。

 

「おや、新人さんですか。どうもよろしくお願いします」

 

 レイジョはにこやかに挨拶すると、相手も気付いたらしく、嬉し気な顔をした。

 商談と仕入れの終りで立ち寄るんだよ、という話をしながら、レイジョはゆっくりと料理を味わう。

 ニコが作ってみたいなり寿司のチョイスは、レイジョから見ても変わっていたが具のチョイスは丁寧さがあった。

 唐揚げや卵などを中心とする構成は移動などの片手間で食べて、腹を壊さない痛まないチョイスだ、水分を少し絞って米は保水力の高い品種にしているのも分かる。

 

「良いですね、作ってる人の考えが浮かびますよ」

 

 想像以上にレベルの高いものに仕上がっている、ウチにも引き抜きたいなと思いつつ、叶わぬことであるがとレイジョは微笑んだ。

 良い人材は囲える限り囲えと山海経の古典では描かれている、君子たるは人物の選定がこなせることも求める、才ある者には目下であろうと敬意を籠めて頼むのは品格をあげても下げる事はないのだ。

 ルミ会長は喜ぶであろう、教え子は油断ならぬ腕を見せ始めているのだ、そしてそれを知ったルミ会長は一番、強く嬉しがるのだ。*1

 

「さんじょー」

「やってるー?」

 

 そんな料理店へ、数名の生徒らが入る。

 何処の生徒かは制服で分かる、ハイランダーである、正確にはハイランダーの革新官僚(シュポガキ)たちである。

 彼女らが此処に来るのは、ちょうど徒歩圏内にハイランダーが使用する寮があるからだ、地価が安いのである。

 

「やってますよー」

 

 オトギが割烹着を着て注文を聞き、ハイランダーの生徒らに交じっていたアオバは蟹チャーハンを頼んだ。

 生徒らが来ている理由は夜勤明けの連中に飯でも奢って来いと、スオウから蹴り飛ばされてきた、お小遣いは配給されている。

 

「おっ、贅沢じゃーん。気分転換ってカンジ~?」

「む、無性に食べたくなるんですけど……」

「わかるー」

 

 その話を聞きながら、レイジョは「そういや蟹が原価割れしてるんですよね」とニコへ話した。

 

「原価割れですか? またなんで」

「なんでもね、蟹の消費と出荷のペースが釣り合わないらしいんですよ」

「へぇ、需要がしぼむとは思いませんが」

「そうなんですよねー、お陰で玄武商会としては纏めて契約出来たんですが……あ、これオフレコですよ」

 

 さりげのない情報提供は客商売の長さが故であろうレイジョの、ちょっとした茶飲み話程度の会話は、思わぬところへ波及した。

 聞いていたアオバが「ドラム缶カニのせいでしょうか」と呟いたのだ。

 

「なにそれー?」

「い、いえ、鐘崎港の貨物積み下ろし確認で聞いただけなんですけど……」

 

 ノゾミの問いへの返事で、ヒカリは「何かできいたようなー?」と考えた。

 頭に浮かんできたのはアレコレ説明して来て「きいとンのかお前らァ」と言ってくるスオウである。

 頭の中に浮かんだスオウへ「わすれたー」と思いながら、スマホのニュースを見ていたヒカリだったが、漸く思い出した。

 最近鐘崎港の辺りで抗争が起きたらしいから、周辺各職員は警戒せよとか言っていた。

 

「確か抗争絡みー」

 

 漸く思い出せたヒカリはそう言うと、アオバは「こ、抗争で報復にカニを使って処分したんですね」と怖がった顔をした。

 だが注文のまとめを書いていたオトギが、きょとんと首を傾げる。

 

「あれ、蟹って腐食だから死んでないと食べれないよ? それにそういう生食してくれるのはフナムシとかだし、ドラム缶は無いんじゃないかな」

「く、詳しいんですね」

「昔に寿司屋で働いたからね」

 

 オトギの言葉を聞いて、アオバは「じゃ、根も葉もない噂話ですか」と安堵した。

 そんな暇な待機時間の間の手伝いも終わり、ユキノと先生が新たな仕事を抱えて戻ってきた。

 今回は手伝い枠としてミサキとヒヨリが来た事に、FOXはある意味安心した。

 ただビックリさせられたのは、公安局の副局長であるコノカもいるのである。

 

「ちわーっす」

 

 そして困惑するニコたちへ、ユキノが告げた。

 

「”カニ狩り”をやる」

「うんんんん、どう言う事?」

 

 クルミの困惑が、ある意味メンバー全員の気持ちを表していた。

 

 

 

 

 事の発端は簡単である、コノカ副局長はオカルトやジンクスが好きである。

 そんなコノカ副局長には、ドラム缶カニの噂が妙に不可思議に感じられた。

 まず、ファミリーが始末に使うならそう言う面倒をかけない、キヴォトス人が頑丈と言うだけで、始末したいなら数日ドラム缶で固めて放置してれば精神を病ませることができる。

 そうすればポイしてしまえばおしまいだ、長持ちするなら何週間もそうしてればいい、殺すより簡単である。

 

「しかもこれ、変なのが失踪者はなんというか、居るには居るんスけど変なんすよね~」

 

 コノカ副局長は取り敢えず、某所にある開運の館を自称するミライ部長の店へ乗り込むと、ガラスと散弾二発を使った魔法により資料提供させた。

 だが帰って来たのはミライ部長の「理論上できるかもしれませんが、ファミリーが相当バカって事になりますよ?」という答えだった。

 なまじミレニアムの学生であったことと、ミレニアムの港湾調査はしばしば大規模にされているので、意外と海洋知識はある方だ。

 

「ドラム缶にカニなんか詰めたら、底のカニちゃんは死んじゃいますよ。

 荷重でカニちゃんミックスジュースです、人間が仮に生徒でも50キロくらいだとしたら大半はカニちゃんが死にますよ?」

「ほーん?」

「あと、ドラム缶である以上密閉すると、酸欠になると思います。

 水質問題がある以上、溶存酸素量を確かめたりする手間が多すぎますよ、デカいプールに沈めてアクアリウムみたいに飼うとかのが脅せる気がしますが……」

 

 ミライ部長の真面目な答えは彼女自身を救った。

 そんな経緯で抗争の調査やカルパチョ・ファミリーの捜査も兼ねていたところを、連邦生徒会会長の命令で調査中である先生に発見されたのである。

 

「っーことで、よろしくお願いしまぁーす」

 

 公然身分がある人間は協力者として極めて役に立つ、Fox小隊はそう言う点をよく理解していた。

 連邦生徒会会長の秘密部隊と言っても、秘密の内に出来る事は少ない。

 真面目な話をすれば違法な作戦で得た証拠に何の能力も無いと、司法としては言い渡されるのは常識的範疇だ、例えば相手を令状も命令も無く襲って証拠を取ってもそれに司法能力は認められないのである。

 そんな無法を一度許せば事あるごとにそれを連発する様な部隊になる、公権力とは制御出来ねば獣と変わらない。

 逆に表と繋がりがあるとそういう時に強く出れる、表の令状と捜査で挙げた証拠は堂々振り回せれる。

 

「で……何がどうして、カニなんかを……」

「いやあ、逆になんでかカニは調べれば調べるほど”クリーン”過ぎるんすよね~」

 

 財務室から調達した税務記録を見せ、コノカが頬をぽりぽりと掻いた。

 確かにカニを購入してはいるが、普通はカニを大量購入する理由は一つ、食べる為だ。

 

「でも問題がある、あいつらがカニをバクバク食べてたらゴミ箱はどうなるっすかね」

「溢れるな、カニの跡で」

「そうなんすよー、でもこの港全体でそんなカニが恒常的に消費されてるわけじゃないし、清掃局は心当たりがないんすよね」

 

 コノカの言葉は彼女が生半な捜査官ではない事を表している。

 清掃局までは全て調べ尽くしていると言う事だ、そういう回り道も時として捜査活動に役に立つ。

 こうした事は姐御から教わったのが彼女である。

 

「……んじゃあ、見に行くか」

 

 先生はそう言うと、前を見た。

 トラックの前にはあまり素行の良くなさそうな生徒らが、3人ほど道路を見ている。

 運転席に居るのはマギが助手席に、ニコが運転席、ミサキが真ん中に座っている。

 マギはシルバーの色合いのスーツを着て、ミサキは如何にも釣り人らしいアロハシャツにサングラスを、ニコはシンプルに配達員らしい軽装である。

 笛を吹いて、カルパチョ・ファミリー構成員らしい生徒がG3を握りつつ車へ近づく。

 

「見ない顔だな、何しに来た」

 

 ニコへハンドサインした後、マギは窓から顔を出して「あぁ? オメェ、うちのお嬢が海釣りしちゃいけねぇって言うのか?」と返した。

 バカにされてるのには気付いたらしい構成員は、「んだとゴラ」と声を挙げるが、マギは「テメェの上との話はついてんだよ」と返した瞬間、動揺が入る。

 畳みかけるようにスマホを出して、マギは言った。

 

「それともお前、電話すっか? 

 ”アンダーグラウンドボス、貴女の許可したお客様をお調べしてよろしゅうござんすか”ってな」

 

 後ろのミサキへ指さすように言うと、構成員はしぶしぶと言いたげな顔で「分かった、分かった」と返した。

 マギは嬉し気に笑うと「分かんじゃねぇか、これでつめてぇモンでも買えよお前ら」と、千円札の束を丸めて構成員の胸元へ挿し込んだ。

 車両が通り、呆れた顔をしたミサキが呟く。

 

「なんでアタシがお嬢なの」

「一番それっぽそうだから?」

 

「ええいこの先輩は」とミサキは拗ねた様に言いながら、トラックは予定通り駐車場で停止する。

 後部ドアが開き、Fox小隊とスクワッドが降車する。

 海風の為、暑いが過ごしやすい風が吹いている。

 

「まずは失踪した奴の調査からだな」

 

 失踪したミヤグチなる漁師を含む数名は、大半が借金苦というのは人が失踪するに整いすぎている。

 ただその場合、借金苦で失踪しても殺すとは思えないと先生は言った。

 

「基本的にそう言う奴、拉致って最低限の飯と監禁部屋さえあれば労働力に使い潰せるからなぁ。

 最近は詐欺電話とか使えるしな」*2

「あー、あれバイトじゃないんだ」

 

 オトギは素直に好奇心で尋ねた。

 

「いや、バイトもいるが大抵そう言うのに釣られるのは同じく奴隷労働パターンっすよ。

 要するに犯罪組織が約束破ったりせず金くれるって考えてるバカっスから、脳足りんの自己証明っすね、棄てても惜しい人材じゃないっす」

 

 コノカの返しは表現に問題はあるが真実ではあった、バカのふるい落としはちゃんと出来ていると言う事だ。

 無論、想定外のバカは出てくる、ほぼ全て悪い意味でパーフェクトなバカである、死んでも役に立たなさそうなタイプだ。

 そう言う奴は捨ててしまえば良い。

 

「犯罪組織も色々あるんだね」

 

 オトギの言葉に皆が「まあそう言うもんか」と頷く。

 犯罪組織も消費前提になるとは大量消費の資本主義極まれりだ。

 ただミヤグチを連れて行きそうな組織、カルパチョ・ファミリーはサラ金ではあるが、詐欺に関与してるかは疑問がある。

 

「関連組織に売ればマージン入ってペイできるんじゃないの」

「そうなんだよなー、俺もそれを浮かぶんだが……カルパチョ・ファミリー自体が抗争中なのが引っ掛かるんだよ」

 

 ミサキの疑問に対する反証は抗争中という事である。

 基本犯罪組織における戦争や抗争は、関連組織や拠点の叩き合いで、そのため関連組織はいったん地下に潜行するケースが多いのが通り相場だ。

 結果的に抗争は直球表現としての実弾と、比喩としての実弾の総量で我慢比べになるケースが多く、抗争自体は長引く例は少ない。*3

 

「カルパチョ・ファミリー抗争してんだ?」

「そうっすね、旧アランチーノのファミリーがコンシリエーレ*4の下、再編されて港湾事業に噛んで拡大したんすよ」

「あー、だからあいつらピリピリしてんだ」

 

 クルミは納得して頷いた。

 

「つまり、だ。人が失踪するにはあべこべなんだよ、筋が通らん。

 取り敢えずそんな訳で聞き込みから行くしかないだろうな」

「「「りょうかーい」」」

 

 つまり何も分からんから靴をすり減らしてでも歩いて調べようと言う事か。

 指揮官としてはちょっと問題だな、と先生は思いながら、生徒らを送り出した。

 

 

 

 ニコはヒヨリと歩きながら調べて回ったが、得られたのはミヤグチ自体が賭博に狂ってると言う話くらいであった。

 深窓の令嬢めいたロングスカートのワンピース風の服に、大きな帽子の恰好*5のヒヨリと、配達員風の恰好をしたニコは、偽装身分(カバー)はただの会社の市場調査だ。

 これ自体はちゃんと実体がある、事実ここで調べて料理店の仕入れをする、偽装はちゃんとやって経営実態が存在する方が良いとフーシェはしていたしそれは正しいと思う。

 

「こっちは何かの痕跡も無いですね」

 

 そうしょんぼりした様子のニコとヒヨリだったが、調査をしていたユキノのボディーカムに見慣れた姿を見た。

 

「ユキノ。方位238あたりに向けてくれ」

『はい? 分かりました』

 

 画面のカメラを拡大すると、そこに見えたのはアオバだ。

 現地労働者の意見や証言は多角的に欲しい、ここは俺自身が行くべきだろう。

 

「ちょいと聞きに行くか」

「良いんです?」

「なに、白いスーツ(この姿)だしな」

「いや安全の方ですが……言うだけ無駄ですね」

 

 呆れた様子のカヤに笑いつつ、ハイランダーの管轄してる貨物方面へ近づく。

 不可思議な事にカルパチョ・ファミリーの構成員は何も聞かず通した。

 顔を知っていると言う雰囲気ではなかったが……。

 

「よぉ、アオバ」

「へ? ……」

 

 アオバの機械油のかかった顔が振り向き、やがて機械油で隠せないくらいに青くなった。

 

「ま、またなんか変な列車でヤバい目に遭うのは嫌なんですけど……!」

「いや、今回はお前やお前の同僚の証言をちょっと聞きたいんだ、上長さん居るか?」

「あ、あちらに……」

 

 アオバの指す方向にあるプレハブ三階建ての建物に上がり、管理部と書かれた戸を開ける。

 中では数名のハイランダーの生徒らが居たので、同じように上長は誰かと聞くと、一人が立ち上がった。

 

「自分ですが誰でしょうか」

「連邦捜査部だ、ちょっと聞き込みがしたい」

「伺っておりませんが……」

 

 名前を聞き、端末に送る。

 

「これで出来た。なに、数分で終わる」

 

 基本的にハイランダーの耳は結構長い所がある、運営の都合やあれこれもあり、列車強盗対策でそれなりに情報屋も居る。

 そのため、今回の抗争も巻き込まれない様に警戒命令が出ているというと述べていた。

 ただハイランダーの上層部と違い、現場は現場でソースやコネを確保しているものだ、軍隊もそういうもんである。

 

「その、オフレコで聞いてほしいんですが」

「なるほど?」

 

 先生はくるりと後ろへ視線を映した、これで立ち聞きしただけと言う事だ。

 

「そもそも抗争自体がアランチーノが仕掛けたというより、港湾警備事業絡みみたいなんすよ。

 少し前に、シラトリ湾に巡洋艦がブッ刺さったせいで鐘崎港の使用が増えたんすけど、組合はアランチーノ系が強いんで……それで組合に荒らし屋送った報復が原因みたいなんすよね」

「あー……」

 

 抗争自体の様子はそう言う所か、なるほどと納得は出来た。

 アランチーノは武器密売のマージンに噛んだだけはあり、輸送業務にコネが多い、ハイランダーや港湾関連に顔が利いていた大親分というところだ。

 だがアランチーノは司法取引で隠居、アンダーグラウンドボスは引退した、相談役(コンシリエーリ)はカポたちを纏めて再編し、相談役(コンシリエーリ)であるが故に組合連中と顔が利いたから組織は再出発で来たと言う事だ。

 アランチーノ・ファミリー自体はかなりコネが深い組織だったし、そこの相談役(コンシリエーリ)……というか相談役(コンシリエーリ)と言う職業の第一人者であるから当然か。

 だがカルパチョ・ファミリーの連中はこれを機に奴らを追い出したかったんだろう。

 普通ならまともにやれば勝てる筈だ、再編したてでコマが足りんし、カポや構成員(ソルジャー)もそれぞれに野望がある。

 

「てことは、どっか用心棒でも雇ったか」

「其処までは自分も知りません、それなり以上に強いようですよ、2週間前にカルパチョ・ファミリーの集金車が車列ごとあっという間に殲滅されてますし」

「……あっ」

 

 急に心当たりが出て来た気がする。

 そう言う事やれそうで居そうな奴に心当たりが出て来た。

 

 

 

 戻ってきた先生の「さーてなんか色々絡んできたな」という言葉に、同じく戻ってきたユキノたちの視線が向く。

 

「コノカ、ここら辺の連中、情報屋とか居るか?」

「んえ? ……ちょーっと待ってくださいね」

 

 ごそごそとコノカが鞄をあさり、警察手帳を確認した。

 

「あ、居るっす。ちょっと歩く事になるっすね」

「よし、ユキノ。お前もちょっと来い、居ると迫力が出る」

「え? ……了解」

 

 些か理解の外の理由で呼ばれたことに困惑はしたが、交渉に於いて自分が迫力が出るか? と思いつつユキノは頷いた。

 先生はシルクシャツに白いボルサリーノ帽を被ると、ジャケットにネクタイをキュッと通し、ジャケットの内ポケットへタブレット端末を仕舞った。

 全てオーダーメイドであるから、迫力という点では先生が一番悪党らしい気がすると全員が思いつつ、何も言わない事にした。

 トラックから降車して、治安のあまり良くなさげな街路へ近づいても、挨拶こそされ喧嘩は振られていない。

 先生の方もチンピラや悪党を特に意に介してないばかりか、ジャケットのポケットへ両手をいれている。

 

「危なくないですか」

「なぁに、こういうのはな、ビビったら負けなんだよ」

「はぁ……、御詳しいんですね」

「人生いろいろあるからな」

 

 明らかに正規将校の筈だが……出身が悪いとはユキノには思えなかった。

 無論ユキノの想像力や思考力に原因がある訳ではない、祖先をたどればコンドッティエーリ辺り、貴族とは名ばかり程度の地位で生まれた男を理解するには時間も経験も不足しているだけだ。

 

「……ちなみになぜ、その目立つ帽子を?」

「白い帽子は善人のアイテムだからさ」

 

 先生は笑ってそう告げた。

 

*1
虎が笑ってるの間違いだよ

*2
通りすがりのタイ空軍「JDAM投下!」

*3
山竹戦争とかカリ・メデジン抗争とか世界的に関連組織を叩き合うのがいつものパターン

*4
相談役の事、組織のNo3くらい

*5
アートワークスの初期案ヒヨリ




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