キヴォトスの若鷲(エグロン) 作:シャーレフュージリア連隊員
鉄道狂双曲
アビドス方面の鉄道線が完成したと言う報せを受けた、いつも思うがハイランダーの連中仕事が早い。
アリウス地域沿線開発までしてたはずだが、官僚辺りが優秀なのか、なんとも不可思議な連中だ。
なんでそんなことを考えているかと言うと、1週間前から言われていたイベントに合わせて、環状線のアビドス駅に呼ばれている。
砂嵐が落ち着いて大分経つ、セトをしばいて以降アビドスはかなり天候が安定している様だ、無論まだ楽園じゃない、問題もある、ただ悪くなってない。
鉄道開発がストロー効果で住民の人口流出へ繋がる危険性はもう無い。*1
鉄道駅へ入ると、セリカとアツコが先に着いていた。
地域交流など色々とあるのだ。
「家とハイランダーの改めての友好になるのか?」
「初めて一緒に鉄道乗った時思い出すね」
「先生たちが信管になってどうすんのよ……」
手で顔を覆ってセリカがため息をついた。
本来ならアヤネがやるはずだったが、そのアヤネが風邪で「よし行けバイト戦士」と決まった。
それに若々しい地元住民が出ておかないと色々と問題になる。
『祝、A-Aライン完成を記念しまして、ここでゲストにご登場願います』
ハイランダーの事務とか運転士系の生徒が来るが、急に足が止まった。
セリカが何か察した顔をした、何とも言えない視線を向けている。
「どうした? どこか痛いのか?」
「そこのピンクに蹴られた部分が痛くなったんですぅ、あれ以来カニ食べれなくなったり」
「私はアビドスの時に腕を凄い方向に曲げられた」
「車両2,3吹き飛ばされたし、大権で戦時摘発された上に最新の電源車一つぶっ壊された」
随分トラウマを植え付けたらしいが、人の話聞かなかったり納期とは言え警告無視した代償だ家は悪くない、完璧な理論だ。
まあ高速整備保線作業車両類を大権で借用した際に、モモカから「なんてことを!」と言われたが、合法メン・タイを積んで黙らせた。
スオウ監理官の退院は間に合わなかったらしい、例のアホだが邪悪かは怪しい双子は見舞いらしいが、まあそれは良い。
「いきなり無賃乗車扱いして実力行使してきたから正当防衛だろ。だいたいお前らの一部が不正でつるんでたじゃねえか」
「しばらく、批判散々ぶち撒いてくれましたしね、暴走鉄道屋、戦争煽って漁夫の利狙ったとか、シャーレとカイザーにネガキャン撃たれまくって偉いことに……」
「ネフティスの企みに考えもせず乗っかった方が悪い、あの列車砲なんか得ても儲からないのにな」
「いやシェマタは知りませんよ、元々線路敷いていくのが仕事ですし。密売も別に客の荷物なんか知りませんね」
武器密売に関与して反社とつるんでマージン得てたのが元凶じゃねえかよ、えーっコラ!
ハイランダーの連中はなんというか別の意味でミレニアムに近い、こいつら鉄道を敷いて走らせるのが目的だ。
生きるために生きている、本質はこれなのだ、管制司令部も運輸担当も全員これだ、暴走列車と化してんじゃねえか!
酷い事に概ね善人だから困る。
「本当に仲直りに来たのかな?」
「シャーレが鉄道利権狙ってるって言う噂は聞いてるんだぞ!」
「要らねーよ、鉄道利権じゃなくて欲しいのは時刻表の修正権や臨時列車徴発だし」
「スジ書き直すのがどれくらいヤバいと思ってんだコイツ」
セリカが「話進めなさいよ」と呆れた顔をした。
今日のイベント同行はチーム派遣参謀の中でくじ引きで決めたが、キキョウ呼んだ方が良かったかな。
「まっ、まぁ私達の普段の業務を知っていただければ、不幸な行き違いが起きた理由も理解してもらえると思います、お願いだからしてください、来年の入学希望者数考えると凄く怖いんです。理事会と管制の連中がてんてこ舞いなんですから」
「乗客の態度は露骨に悪くなるし、利用客は他が無いから減らないんで困るんですよ」
「色彩のせいで保線計画終わってねーのにカスウェナンとプリドゥエン号徴発するし……」
だいたい身から出た錆だよそれ。
とはいえハイランダーが弱っても困るから手は入れている、ハイランダー鉄道学園附属地と言う制度でハイランダーは沿線の行政権を得ているからだ。
基本的に物流の中心は鉄道である、船舶が陸を動けない限りこれは変わらない、概ねコンテナ船1隻は貨物50両程度だ。
つまり総人口が謎の壊滅しない限り、ハイランダーは絶対に滅びない。
こんなんだが色彩襲来時の混乱期には避難列車走らせたりまともな面子が多いから困る、潰れちゃ困るのは事実なのだ。
駅に列車が入ってきた、常識外れの巨大機関車……機関車1両で350トン! ハイランダー保有車両最大級のビッグボーイと呼ばれるものだ。
A-Aラインを結ぶキヴォトス弾丸列車、マスターチーフ号である、アビドスからアリウスまで49時間だ! *2
「相変わらずバカみたいなサイズだ」
「デカい列車を早く正確に動かす! 分からないんですか! これが美なんです!」
「馬鹿がよォ……」
ハイランダーはこれなんだから全く。
イベントの挨拶が終わると遂に動き出した機関車は発進した。
運転士の生徒はお祈りを始めて居る、無事故の祈願とは良い事だ。
ただ面白いのは巨大機関車なのに「1年のペーペーでも動かせる」くらいシンプルらしい。
2つ駅を超えたとこで電話が鳴る、どうやら客車の温度の話らしい。
「各車両一定温度を保ってると言って基本的な不快温度じゃなければいいだろ、体調悪いなら毛布でも渡して次の駅で病院でも進めてやれ」
この程度のクレーム相手してたら、気が持たんぞ。
「客車全体で熱いや寒いなら問題だが、一人二人のクレーム相手してたら図に乗るのがお客様だ、ただでさえ恩知らずの多いキヴォトスだぞ?」
「言いにくい事を平気な面で言いますね、これ撮影してるんですよ」
「後で家で編集するから安心してくれ」
今度は7号車でトラブルの様だ。
予約指定席の客に因縁を付けてる老人が居るらしい。
「みっともねぇクソ老人かよ、とっととくたばればいいのにな!」
「老人への敬意とかは?」
「友軍の5歩前や孤立無援の要塞で粘り続けれるような爺には十分払うぞ?」
現場に行くと喚いてる老人が杖を振り回している。
普通にスケバンが気の毒だ、不良生徒でも予約してんだぞアホじゃねえの。
往来危険と危険行為は規定上乗務員に法執行を許可するというのが管理局の規定だよな? と尋ねると、乗務員が「げ」と声をあげた。
「なぁ、次の橋であいつ川に投げ込もうぜ」
「あなた本当に先生?」
「未来にゴミ待ち散らす大人を掃除するのも大人の仕事だよ」
アツコにやらせるとどっかのDJのあんちゃんみたい成るし、それだと確実にあのお年寄りは棺桶だ。
ブリッヒャーのクソ爺なら生きてそうだがあれは無理そうだ、生命エネルギーないもん。
「お客様客室内で長物を振り回すのはおやめください、他のお客様の迷惑になります」
乗務員の子がまた祈り始めた、喚かれてるがおめーの100倍は苦労して七転び八起きの50年だよ!
アツコにハンドサインを送る。
「はぁ、ですがねぇ。それならば年長者としての威厳をですね、それでは子供と変わりありませんよ?」
俺に気づいたスケバンが震えている、寒いのかな?
老人は自分に震えてると思たったのだろうか、強気になる。
少し後ろの乗客のトリニティ生は鞄で頭を覆う対爆姿勢だ、どうしたんだ。
「良いか老人には、クェッ……」
アツコがテーザーガンをぶち込み、無言でセリカが引き摺る。
クレーマー対応に慣れた奴が二人いると楽だよなあ。
「OK、グッドナイト、おや旅の疲れでしょうかね? 少し後ろの椅子にしっかり固定して休ませて差し上げなさい」
「あれ先生だよな?」
「前見たことある、あんな白々しい朗らかな笑顔と敬語使わねぇよ」
「皆様、電車ではお静かに最低限の常識とモラルを守りましょう」
乗っていた生徒らがなんとも言い難い引き攣った笑みを浮かべた。
「勿論ですとも」
「ヨロコンデー!!」
「味方になると頼もしいのがすご~~く悔しい」
乗務員はため息まじりに「事態解決」と報告するが、別の問題だ。
今度は通路でどちらがよけるかでもめてるらしい。
「お前ら良い事思いついた、もう5kmほど加速して急ブレーキかけろ、そうすりゃあの馬鹿共は病院送りだ!」
「それだと私達の今月の評価もあの世行きだよ! 勘弁して!」
「なんだよノリ悪いなー」
セリカが揉めてる二人に、肩を叩いた。
「「なんだよ」」
セリカが無言で先生を指さす。
その後セリカは、無言で親指を動かしにこやかな笑顔を浮かべてクビを描き切る動作をした。
「ご理解?」
「「あ、すんません」」
「先生、今からでもあの子ハイランダーに誘えませんか!」
「やめとけホシノがキレる」
次は車内でのミレニアム生の不法販売らしいが、やはり定期的な急ブレーキですっ飛ばすのが一番の気がする。
アロナに回線でユウカに確認を取ると疑似科学部らしい、モモイ共はこいつら襲撃して金巻き上げればいいのにな!
同時に変な場所に入ってる客が、さらにまだクソ客が発生している、こいつ等がスレる理由は少しわかった。
「ミレニアムのバカは俺が対応、もう一人は2人で相談、乗車券無いし窓からたたき出してもいいんじゃねえか! お客様は神様らしいので天の王国に送迎してやれ、サクラコ様もお許しになる」
「悪党の行くイェルサレムは無いよ」
アツコが駄目だこりゃとさじを投げた。
セリカが乗務員に何かささやいている。
「大丈夫大丈夫、正当防衛、先生言ってた」
「そうかな……そうかも……」
「セルフディフェンスこれ一番、悪党から身を守るには善人が銃を持つのが一番ね」
いかん度重なるバイトで迷惑客を血祭りにあげたバイト戦士がハイランダーと反応し出した!
アツコも「そうだよ」と囁いている、これはマズい気がしてきた。
「無賃乗車トばして、ええのんか……!?」
「良いのよ! 悪党には5.56㎜でもかませばいいのよ」
あっさりと乗務員がなんか洗脳された。
ハイランダー、お前らは中々とんでもない連中だったが、アリウスとアビドスはお前ら以上なんだよ……。
ハイランダー鉄道学園理事会に見舞いから帰ってきた橘姉妹は思わず首を傾げた。
マスターチーフ号がトラブル発生はまあ分かる、なんでまた先生がいるのだ。
「えー、またなんか怒ってる感じー?」
『あーいや、どうも先生も関係ない感じみたいで……』
「じゃあ何がトラブル起こしてんの」
続く報告にノゾミが「はァ?!」と驚愕した。
なんで乗務員がVIPの口車に載せられて鎮圧行動してるんだ。
確かに必要なら警察権と法執行権を限定的に有するのがハイランダー鉄道学園規則だが。
後ろでヒカリが該当列車と連絡を取るが、ヒカリの問いの答えは思わず思考が停止する内容だ。
『銃は死んでも手放さないぞ! 善人が持つAR-15が秩序を守る! 感情的な説教は要らない!』
「わーお」
「……スオウ監理官早く帰ってきてくれないかなあ! 本当にさァ! 分かんないよこれェ!」
『大概のクレームはM4があれば解決出来る!』
橘姉妹はしょうがないとばかりに、保安部隊の用意を始めた。
鉄道警備隊は最近創設されたハイランダーの委託武力機関だ、シャーレに頼り様がない場合が多いハイランダーの鉄道事案ではこうした独自活動前提で部隊を組む方が早いとされたのだ。
なにせ高速鉄道は事件現場が300キロの時速で動いているからだ、そうなると中央管制センターのCCCとしては代わりに分室を作る事になる。
列車強盗が月に1度は起こるキヴォトスだ、理事会にしても損は無い、委託武力機関に頼んでも誰の腹も痛まないからである。
「それじゃ一発ワルキューレの空間軌道行ってみよう」
ヒカリが呼び出しのボタンを押した。
車内はある種のカーニバルと化している。
機関助手と乗務員を懐柔、説得……いや洗脳? したら完全にネジが飛んだ。
「迷惑行為をやめない狂犬! 無賃乗車の駄犬! 暴力行為に違法販売の害獣! オールマストダ―イ!!」
「わァ!」
銃声が轟いて迷惑客が鎮圧されていく。
アロナが呆れたように「どうすっぺ……」と呟いているが無視だ、プラナも「どうしよ」と上の空である。
また銃声が轟き、ミレニアムの疑似科学部の部員がぶちのめされた。
「簡単ッ! 簡単ッ!!」
「鎮圧は良いけどどうすんだよコレ」
なんか目を血走らせて、乗務員が振り向いた。
「お客様は言わないでしょそんな事ッ!」
それと同時に、窓をぶち破ってIBHヘルメットにHRMベストを着け、紺色に赤線が入った隊員たちが突入する。
ベストには鉄道警備隊と白テープに書かれていた。
G36Cを構えて直ちに辺りのクリアリングへ移る。
「またアンタのせいか先生!」
「ちがわい! 相次ぐ違法行為に乗務員がキレた!」
鉄道警備隊が最後部の車両を確認しに行くからついてこいと言われ、やむなく従う。
「連邦の外局の銃の使用は良しとされるのに、なんで学校の校則を護らせるための使用は悪いと何故言えるんだあああ!」
鉄道警備隊の隊員が振り向き「すまんありゃ想定外だ」と返した。
アツコが「元気だねえ」と呟き、セリカはにこやかに微笑んでいる。
「銃のないのは無法の荒野よ」
アビドスで生きるって大変なんだろうなあ……。
まあ理解できる範疇だ。
「武器を所持する基本的権利は行使されなければならないの、将来への見通しが利かない時代に安全性を高めることは確実に必要なことよ」
「誰かこの馬鹿猫何とかできんのか」
鉄道警備隊の隊員が嘆くように尋ねるが、どうしようもない事がある。
そうこうしているうちに乗務員が掃除を済ませて帰ってきた。
「わたし目が覚めました!
「そういうことよ! 善人の銃所持が増えれば、それだけキヴォトスは安全になるのよ」
セリカと乗務員が堅い握手を結んでいる。
少なくともアビドスとハイランダーの関係は改善したな、ウン。
そう言う事にしよう。
後日、どうなっているのかとホシノ達に尋ねた。
ホシノからは「なに言ってんのアビドスだよ?」と返され、会長代行のアヤネからはにこやかにこういわれた。
「いざという時、アビドスでは警察も行政も役に立たない事がご理解頂けたと思います」
「ん、110番するよりM110がアビドスのやり方」
シロコがアヤネは正しいと頷いた、自力救済出来る力と環境じゃそうもなる、やはり連邦生徒会会長の失政のせいだな。
ノノミからも「銃の”誤用”は許されませんが正しく使用されるものですからねえ」と言われちゃどうしようもない。
そうなのだ、110番しても5分はかかる、M110でドタマ撃てば5秒で済むがアビドスなのだ。
セリカはにこやかに対策委員会の部屋に「ハイランダー感謝状」を掲げた。
感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。