キヴォトスの若鷲(エグロン)   作:シャーレフュージリア連隊員

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友は近くに、敵はより近くに置け。
──『ゴッドファーザー』──



ハルカ遠き者

 

 アル社長は、白昼堂々の国道で困った様な顔をしていた。

 便利屋の唯一の社用車と呼ぶべきジープの左右に、ヴァルキューレの地方管区警察が転がす装甲強化型のハンヴィーが止まっているからだ。

 明らかにバイザー付きのヘルメットをし、防弾着を着込んでAR-18を装備しているのは、ヴァルキューレの地方管区警察では妙な話だ。

 地方管区警察ではMini14やM590系なら良い方、トンプソンと言った武装が平気で運用されているし、場合によってはガーランド小銃やM1カービンだ。

 

「煽った?」

 

 アル社長は運転席のカヨコに尋ねた、便利屋で運転免許があるのは社長と前職の経験で取ったカヨコだけである。

 ハルカには基礎講習を2人で教えているが、それも半ばだ、免許取らせる準備というものである。

 

「さあ?」

 

 カヨコもどうしようと言う顔つきであった。

 

「やっぱ厄ネタだったかな、案件」

「多分ね」

 

 アル社長は本当に困った顔をした。

 騙し騙されがアウトロー、然るに嵌ったこの罠もやむ無し。

 ただ彼女はそれなりに傲慢な気分だ、舐められてるのは我慢ならない、お礼参りはキッチリするべきだと彼女は勉強で理解した。

 彼女の決断は、背後にいる2人に伝えられた。

 

「2人でキチッと逃げ切って上手くやりなさい」

「えっ」

「この場合1番確実性があるのはあなたたちよ」

 

 ハンヴィーからAR-18を構えた警官が8名降車し、車両を取り囲む。

 連邦捜査部の支援と介入があったとはいえ、消防局まで範疇に含まれたヴァルキューレでは、地方管区警察がすぐに改善するはずはない。

 従い、予算が不足しがちな地域では多少の小遣いや予算や取り決めを組めば、容易く地方管区警察は見逃すどころか、犯罪協力までする様になった。

 まともな警官がする事ではないがまともな政府ではないから当然である。

 

「貴女を逮捕する」

「あらー、弁護士の権利とかは?」

 

 アル社長は呆れた様に言い、ムツキは即座に煙幕手榴弾を投じてハルカと駆け出す。

 

「あっ!?」

 

 汚職警官が汚職をするのは支援も何もかもが未熟だからである。従い逃げられるのである、ムツキとハルカに向け銃を構えて発砲するが、射線上のシビリアンを巻き添えにした。

 

「くそっ!」

「下手くそ……」

 

 狙撃の腕には自信があるアル社長は、見送る様に呟いた。

 

 

 

 一旦戦域を離脱したハルカとムツキだが、心当たりが無いではなかった。

 今回の依頼の標的は確か旧アランチーノ系のファミリー、そしてそこの敵対ファミリーからの依頼だったはずだ。

 最大規模のファミリーのドンの引退、それに乗じた敵対者の攻撃とまあよくある話である、だが始めから我々を狙っていたと言うことは、恐らく……。

 ムツキは「まずは依頼人をとっちめるか」と決めた。

 取り敢えずこの自分の隣で滅茶苦茶爆発しそうになってるハルカを適度に爆発させてやらねばならないし、自分も爆発させたい気分であった。

 依頼人の場所は、事前にある程度カヨコの調べがあったお陰でちゃんと知っていた、流石にカヨコも電波傍受などは機材がないので出来ないから、裏切ってるのは勘付けなかった。

 

「毎度毎度思うけど、カヨコちゃんどうやって調べてんだろ」

「さあ?」

 

 ハルカとムツキはそんな事を言いながら、普段の服装ではなくスーツで近付く。

 こう言う場所に乗り込む時、こう言う手段の方が手っ取り早いからだ。

 ハルカに「5分待ってから正面攻撃して、私が裏から先に依頼人を抑える」と告げ、ムツキは自身のLMGを預けるとバッグから短機関銃を出した。

 

「五分経ち次第、直ちに突入します」

「うん、頼んだよ」

 

 ハルカが失敗するとは思わなかった。

 

 

 

 依頼人は電話連絡を受け、そして憤慨した。

 

「2人逃しただァ!?」

 

 依頼人の怒声が、相手のヴァルキューレ地方管区警察の分署の署長へ響く。

 長年、あの分署の警官は裏組織とズブズブの関係である。

 役立たずが餌もあげずに犬が仕事するわけないから当然であるが、そうであるが故に質の低下も相応のものがあった、射撃場が壊れて数ヶ月経っている、備蓄弾薬類の自費購入補填といっても限度がある、給与も予算も少ない。

 直ちに資料類を捨てる用意を指示する依頼人に、護衛の部下たちが首を傾げた。

 

「あれ、後ろのやつ」

 

 天井のタイルを外してストンと降りてきたムツキを、護衛が指差す。

 依頼人が振り向こうとする瞬間に、脚を思い切り蹴り膝を力任せに折る。

 続いて依頼人が悲鳴を上げるのと同時に、彼女は改造60連マガジンを装着したMP7を横薙ぎに掃射、数名の護衛は、1人を残して弾幕の嵐に倒れた。

 1番真横にいた護衛は、冷や汗を流しながら「た、たすけ」と口に出したが、即座にムツキの私物であるベレッタの拳銃から頭に2発撃ち込まれる。

 

「せめて両手上げて武器捨てて言いなよー」

 

 呆れた様にいうと、下階から軽機関銃の唸る音が近付く。

 

「残敵は片付いたー?」

もういません(鏖殺です)

「相変わらず早いねー」

 

 ハルカに手招きして、「足、足持って」と告げた。

 犬っぽい獣みたいな見た目をした奴で、取り敢えずムツキは適当に隣室へ連れ込む。

 彼女はふんふんと鼻歌を歌いつつ、依頼人を叩き起こす。

 痛みで気絶してるせいで運ぶ際は困ってしまったので、張り手には勢いがあった。

 

「おはよう!」

 

 ムツキはいつも通りスラム流の型通りでしか喋らない依頼人に、ハルカを手招きしてあるものを見せた。

 ラップに包まれたコンポジションC4、つまるところお馴染みの爆薬である。

 

「私ね、プラスチック爆薬っていうのに結構芸術を感じるんだよね。

 特にこの粘土みたいに捏ねることが出来るのに、デトフューズさえあれば簡単に起爆してくれるんだよ? 

 燃やしても安全、まさにベストセラーになる理由が詰まっている、そう、詰まっている(・・・・・・)んだよ」

 

 依頼人の顔が、すぐに青くなった。

 

「お前まさか!」

「悪党のお腹なんて黒いんだから焦げても良いよね?」

 

 ハルカにハンドサインで「そこのスプレーたち砕いて」と指示して、ムツキは言った。

 

「ほら、素直に話そ?」

 

 多量の汗を浮かべる依頼人に、ムツキはにこやかな笑顔を浮かべた。

 数分後、ビルは脱臭スプレー缶一箱分の大爆発が発生し、後に気が大きく動転してパニックになった哀れな男が発見された。

 

 

 

 

 便利屋の社長である陸八魔アルは、一時勾留されているヴァルキューレの地方管区警察分署の中で首を傾げていた。

 さっきから相手は妙にソワソワとし続けている、それに何か様子が変だと思った。

 すると、その理由が何か見えてきた、銃声が聞こえる。

 だがその理由が分かると今度は自身よりカヨコの方に心配が出てきた。自分は経歴がクリーンだがカヨコに関しては怪しい点は多い、恨んでる人もいる、引き離されたからどうなったかわからない。

 銃声が止み、ドアが開く。

 

「あ、社長」

「カヨコ!?」

 

 片手に手錠をぷらーんと吊るし、「アコの真似じゃないからね?」とカヨコは回収したライフルとアルのMP-9を渡す、近接戦闘時用のサイドアームとして持ったものだ。

 カヨコは恐らく拾ったらしきM590を吊るしていた。

 

「貴女どうやったの」

「親指外してスルッと……」

 

 カヨコの何気ない言葉に「身体は大事にしなさい」とアルが返す。

 なんとも常識的に考えてしまえばバカな言い分だが、そう言うのがカヨコの性分に合っていた。

 警察分署から脱出しようとしたアルたちは、地下駐車場へ脚を踏み入れる。

 

「ポリの車パクった経験はないなぁ」

 

 カヨコがそう呟いた直後、ドタドタと足音が聞こえ、ヴァルキューレ地方管区警察の警官隊が現れた。

 今度は装甲化されたハンヴィーにM1919をマウントしている。

 

「ちっ」

 

 カヨコの不貞腐れた様な舌打ちと、アルの周囲を探る思考が始まる。

 だがどう考えても逃げ切るのが難しいが、投降というのもまずいだろう。

 スマホ自体も押収されたから先生に救援要請を送るわけにもいかない。

 

「ん?」

 

 アル社長は何か変な音が聞こえるのに気づいた。

 

「何かしら、この音」

「え?」

 

 2人が遮蔽の陰から奥を見る、警官隊のアタッチメントライトと銃口の向こうから何かが聞こえる。

 痺れを切らしたらしい警官隊は発砲を始めたが、命中率自体はあまり高いものではない。だが機関銃の制圧射撃はキツい。

 ムツキやハルカが居れば、ムツキが制圧射撃で返して、カヨコを回り込ませ、ハルカに正面を預けれる、そうすれば自分は狙撃でガンナーを排除出来る。

 仲間の偉大さだよなと思いながら、アルは何としてもカヨコだけでも逃すかと決めた。

 

「カヨコ」

 

 そう声をかけた時、変な異音は姿を現した。

 

「「え?」」

 

 カヨコとアルは本気で絶句した。

 ホーリーシット! そこに現れたのはデコトラだ! 乗っているのはムツキとハルカだが、ハンドルを握るハルカと、横にいるムツキの顔は絶叫マシンのそれである! 

 警官隊の後ろから突如現れたデコトラは、車列を組んでいた警官隊どころか、射撃していたハンヴィーすら蹴っ飛ばして横滑りしながら壁へぶつかった。

 バグった物理エンジンで飛んでいくゴム人間めいて警官が何人も天井と床をビタンビタンと往復させられ、ハンヴィーは蹴っ飛ばされたミニカーよろしく旋回して爆ぜた。

 

「あああああ、アル様! 車ってどう止めれば良いんですか!?」

「……まずアクセルから足を離すのが良いと思うけど」

 

 取り敢えず足ががくがくしているハルカとムツキを回収し、カヨコは別の装甲強化型ハンヴィーを確保した。

 汚職警官と言ってもあんまり良い物ではないらしい、連邦生徒会のハンヴィーではないようだ。

 ともあれハンヴィーはハンヴィー、車両は車両である。

 だが元凶は未だに遺っている、社長はムツキやカヨコに「私たちに選択肢はいま三つある」と切り出した。

 

「一つは逃げ切る、相手に戦う力があるとはいえここまで大騒ぎになった以上、相手も諦めるという選択肢が出てくる。

 二つ目は先生を介入させること。恐らく一番安全な案よ」

 

 ムツキとカヨコは、「で、三番目の案は?」と尋ねた。

 

「反撃する。掃滅する。鏖殺する。徹底的に」

 

 凛とした眼は、はっきり戦意に満ち溢れていた。

 逃走・闘争本能において覚悟を決めた人間は何でもやってみせる、これはその一形態であった。

 ムツキが「一番楽しそうだしそれにしよう」と言い、カヨコが「この仕事は退屈とは無縁だね」と呟きながら無線機を確認し、ハルカは弾薬を確認しながら「お任せを」と返した。

 

「じゃあ多分標的のアテは……あいつに頼むか」

 

 カヨコは助手席の無線機を弄り、周波数帯を合わせ、何かコードを囁いた。

 

「”左利きの拳銃”から規定558Cを使用し回線を”ガンガ・ディン”へ」

『承認しました。しばしお待ちを』

 

 数秒して、無線機から暫し機械音がした後、聞き慣れた声がした。

 

『あらー、カヨコさん。わざわざ”昔のコード”で呼ぶなんて大変そうですね』

「状況は多分掴んでるんだろうけど、こっちにガセネタ掴ませてハメようとした馬鹿の居所まで掴んでたりする?」

『立派な職務がある参謀に情報を流せですって?』

「おおかた掴んでも対応できてないってことは公然と相手出来ないんでしょ? アンタがこういう貸しを作れる機会に介入しないほどお尻は重くないもんね?」

『なんですか! 誰もが貴女みたいなモデル体型じゃないんですよ!』

 

 キレたアコの声に笑いつつ、カヨコは本題の返事を促す。

 無論アコは素直には言わなかったが、暫ししてから告げた。

 

『あなた達の目標は数分前にトリニティ方面へ向かう高速道路上です、ボーダーランド遊園地の人混みに紛れるつもりかも』

「なるほどね? ありがとう」

 

 回線を切断し、ハンヴィーは目的地へ一気に加速する。

 カヨコは車内にあったMP5の40㎜擲弾発射器付きカスタムを確認しながら、ハルカへ告げた。

 

「今回の案件、騙したのは多分ハルカを使ってた奴だよ、ちょうどいいからお礼参りしに行こう」

 

 ムツキの目に、一際強い戦意が灯った。

 

 

 

 

 ハルカと出会った経緯自体は珍しいものではない。

 単に陸八魔アルが虐めっ子へ「突発性アウトロー症候群」の発作でぶちかましたのである。

 当時のハルカは万魔殿の警護要員の新人であり、実のところ今現在の便利屋で数少ない戦技教育を受けた人間ではあった。

 だが引っ込み思案のハルカに組織はなじまなかったし、前生徒会派の警護将校の叛乱謀議を告発した事がハルカの立場を一気に潰した、組織に貢献したが結果的に組織から嫌われてしまったのだ。

 理由は簡単だった、告発された幹部の一部などは部下から慕われる類いだったのだ。

 

「おー、万魔殿の制服着てる」

 

 ムツキは相変わらず綺麗な狙撃で頭へ撃ち込まれた首魁らしき女に、「ひょえー」と呟いた。

 

「別に制服が守ってくれるってわけじゃないのにね」

 

 カヨコの呟きと共に、逃げようとした不良生徒二人もダブルタップで撃たれた。

 ネックショットが成功したので、射撃練習は無駄じゃ無かったなと内心安堵する。

 ファーストコンタクト自体がこれであるが、入社の経緯はもう少し派手であった、そもそも万魔殿の制服を着てこのようなケチなカスリでしのぐのは変だ。

 それにカヨコの目には、スケ番にしちゃこの不良生徒、銃が良いなと感じられた。

 

「なんかあべこべだね」

 

 ムツキはそうした調査を、妙に真面目に調べた。

 内心負い目と言うのがあった、雑草ちゃんと呼んだのは不適切だったよなと思ったのである。

 謝るにしても、もう少し手土産は必要だろうと彼女はちょっと考えていた、そう言う点では彼女は常識人だ。

 そして数日しない内に、当時の便利屋68の3名は衝撃的光景を目にした。

 いじめ主犯格のあの役員が夜中に私服で出かけている、それならまだいいが……。

 

「ね、ねぇ。あの密会相手の生徒明らかに……ゲヘナ(うちの)じゃないわよね?」

 

 アルのスナイパースコープで覗きながら、アルはカヨコへ尋ねた。

 カヨコとムツキは双方私物の双眼鏡を使って覗いている。

 

「……明らかにトリニティだよね」

「たぶんサンクトゥスじゃないかなぁ」

 

 意外な展開になったなぁと思ったカヨコは、そっとこの案件をアコに「買わせた」、代金は簡単だった。

 ハルカの身の安全である。

 結果的にこの後のサツキによる万魔殿情報部の引継ぎが成功する要因の一つにはなったが、取引自体は明るみには出されていない、アコもヒナも協力者は明かさないからだ。

 と、なれば理由は分かる。

 そもそもちんけなバカが復讐をしようとしただけだ。

 

「ムツキ、ハルカ、ちょっとこれで目的地周辺の洗い出ししてくれる?」

「いいよー、狙いはー?」

「そうだね、トリニティの飛行計画提出済みのヘリとかあると良いかな」

 

 ハルカとムツキが「よし来た」と端末を弄り始め、航空関連アプリで確認する。

 ボーダーランド遊園地近隣は商業系施設も多いが河もある、それ故に逃げるルートは幾つか浮かぶ。

 幾らエデン条約以降、シャーレの仲介したETOが管理するとはいえ、共同警備区域はお互いに動きに躊躇があるから、どのルートでも一見逃げやすそうだ。

 だが共同警備区域とはいえ、ゲヘナ・トリニティの境界線をすり抜けるのは簡単じゃない、検問やパトロールは配置されている。

 河を使って船舶での離脱と言うのも考えたが、目立ち過ぎる上に自由度が無い。

 だから、空だ。

 

「あ、これ、でしょうか」

 

 ハルカは端末を見せた。

 カヨコの目の色が変わる。

 

「ビンゴ」

 

 目的地を指さし、アルは一気にアクセルを踏む。

 すると、目標への最後の直線路を塞ぐようにスパイクベルトと、正義実現委員会のL1小銃を構えた境界線旅団の委員たちが銃列を組んでいた。

 

「撃てぇッ!」

 

 強装ライフル弾特有のズダン! という銃声が連続して響き、アルはハンドルをくるっと回した。

 防弾ガラスを容易に貫通しているのは流石に学園正規部隊の前線部隊ということである、地方管区警察の想定する不良の再利用ライフル弾*1と違うからだ。

 ハンドル捌きから一時的に歩道へ、さらに建物の壁を舐めるように射撃部隊をすり抜けると、ハンヴィーは更に撃ち込まれたライフル弾が飛び込み、エンジンが逝った。

 白煙を巻き上げながらハンヴィーは慣性で道路に戻ると疾走、目標のいる建物へ突撃した。

 

「何だ一体!?」

「失礼!」

 

 突如ロビー、エントランスホールに突っ込まれたモールは困惑するが、その中を便利屋が走る。

 民衆が多い為、慌てて追いかけて来た正義実現委員会は射撃していない。

 モール内を駆け、屋上へ駆けあがる。

 屋上の扉を破った途端、アルはヘリコプターからのFN MAGによる掃射で慌てて遮蔽の空調機へ飛び込む。

 ライトを照らしながら目標を回収しようとしているのは黒を基調とし赤線が入ったSH-2G、すなわち正義実現委員会仕様の機だ。

 

「なにあれ?!」

「すっごい、SH-2Gだ。中核部旅団の捜索騎兵(ライト・キャヴァルリィ)とか一部しか有してないはずだけど」

 

 カヨコが応射しながら呆れた顔をした。

 形振り構わなさすぎとしか言いようがない、UH-60DAPのように捜索機材をカスタムしまくったSH-2Gが出たら、それだけで大ごとだ。

 相手は高度を下げず、ホイストで釣りあげようとしていた。

 アルは即座に手話で指示し、射撃を始める。

 まずはムツキとカヨコが制圧射撃、続けて自身がホイストの縄を打ち抜く! 

 続けてハルカが突入し、目標の顔面目掛けてスラグ弾を撃ち込んだ! 

 

「へぶっ!」

『くそっ! 中止(アボート)! 中止(アボート)!』

 

 慌てて離脱を始めようとするSH-2Gに、ハルカが即座にテールローターへ数発撃ち込んだ。

 銃手がFN MAGでハルカに制圧射撃を狙うが、その隙を見せた事にアルはほくそ笑む。

 排莢口から急いで装填したのは、アヤネによるアビドス製自作弾薬の徹甲焼夷弾(API)である。

 メインローター基部の非装甲部へ飛び込むように跳弾を計算した射撃が、メインローター基部を引き裂いた。

 

くそったれ(ブラッディ)! 落ちるぞ!』

 

 メインローター基部に火をなびかせながら、SH-2Gがモール屋上へ突っ込んで爆ぜる。

 

 

 

 モールの周辺に、車両音やサイレンが多く響き渡る。

 現場に臨場したイオリは、一体状況はどうなっているのか確認するべく取り敢えず無線を起動し、連邦捜査部との回線を確保した。

 手近な場所に居たトリニティの正義実現委員会の委員、マシロを捕まえてイオリはモールを指さす。

 

「何で燃えてんだ、誰か突入したのか?」

「分かりません。何故か捜索騎兵(ライト・キャヴァルリィ)のSH-2Gが落ちたようなんです」

「なんでまたこんなトコにそんなモンが……?」

「いま本部に照会してる最中で何も」

 

 車両の無線機を確認するが、誰も何も掴んでないらしい。

 

『トリニティの指揮官呼び出せ! 部隊を下げさせろ!』

『封鎖状況はコード332を基に正義実現委員会が実行中』

『アントン、ベルタ、カール、突入用意よし』

『連邦へも照会かけてくれ』

 

 イオリは取り敢えず『状況と規模が分からんから、アントン以下各部隊は3階まで進出して、屋上への突入は待機しろ』と告げた。

 どうにも何かがおかしい、記録を見た所フライトプランは提出されてるのだが、明らかにトリニティ側のミスとも思えないし、中核部旅団の捜索騎兵(ライト・キャヴァルリィ)のSH-2Gが出張る用事があると思えない。

 そう言う用事が有ったら現場に出てくるのはパテルから移った特戦とかで、連邦から指揮介入がある筈だが、連邦も状況介入しないあたりあちらの案件じゃないらしい。

 

「事前提出の書類だとHSS-2じゃなかったっけ」

「ええ、そのはずです」

 

 マシロが嘘をついているとは思えなかった、嘘をついてるならとろすぎる、上が嘘をついてるなら動きが鈍すぎる。

 てことは正義実現委員会は何も知らないと言う事か……。

 

「待機してる連邦のは」

「3個チームがいつでも突入できる即応待機状態で臨場してます」

「分かった、私が一緒にそいつらと突入する。民間人退避は同時並行でそっちとうちでやる」

「了解」

 

 イオリは何がどうなってるんだと不可思議に思いつつ、一番マシな選択肢を選んだ。

 少なくとも連邦が介入すれば、後はややこしくなってもうまくやるだろう。

 

 

 

 便利屋68は交戦の意義を果たした事で突入してきたイオリらに投降した。

 彼女らは裏切り者へ一発カマすという本来の目的を果たしたのであるから、それでよい。

 しかしその後の調査で大きな問題が出て来た。正義実現委員会中核部旅団の中級指揮官1名が、この機密を売った奴と繋がっていたのが判明したからである。

 なにせ本来ならば出動自体が政治事案のトリニティ中核部旅団の捜索騎兵(ライト・キャヴァルリィ)、飛ばせば目立つなんてモンじゃあないからだ。

 

「そうか。失敗か……大丈夫だ、ちゃんと隠し金庫は用意してるよ」

 

 トリニティの別荘(ヴィラ)で、テラスから空を眺めながらそのサンクトゥスの幹部は呟いた。

 正確には元幹部だ、臨時代表として後釜を狙いに行って敗れた、アリウス反撃の侵攻でミカに点数を稼がれた経緯も災いしていた。

 無論、サンクトゥス閥だけあってコネは多い。

 正義実現委員会やそこの中核部旅団の人事権にパテルは口を挟まない──それなりの対立意識がある──から、他の派閥が口をはさみやすい、従い今回みたいな時には買収した駒を使える。

 

「ふん、意外と役に立たなかったな、あのゲヘナの奴」

 

 実のところ、数年前からハルカを虐めていたあの女はアセットだった。

 内部から特定機密や人事表などを流させていたが露見、あんなのでも駒としてそれなりに使えるから、工作用アセットで使ってきたがしくじりやがった。

 たかだかゲヘナのバカを誘導して、トリニティの地域でヤラカシを起こさせるだけだ、なのになぜそれくらい出来ないのか。

 そうすればゲヘナ相手に優位に外交を行い、アリウスへ圧力をかける事が出来る、ETOと言えど仲良しなんぞ正に虫唾が走る。

 

「ん?」

 

 その生徒は、ふと近付くヘリコプターの音に首を傾げた。

 私有地近隣は飛行禁止区域指定だ、何処のバカとも知らんが……。

 そしてすぐに、傍らにいるはずの部下に「MANPADS用意しろ!」と指示を出すが、返事がない為振り返る。

 

「ハロー」

 

 其処に居たのは、黒衣に赤線、そしてJTFの袖章がされたガスマスクの生徒ら。

 正義実現委員会の特殊空挺部隊、すなわち旧パテル系生徒らなどで編成された正義実現委員会の精鋭である。

 カスタムされたハンドガードや4-12倍可変スコープなどが載せられているM4の銃口が彼女へ向いていた。

 姿を見せたAW159 リンクス・ワイルドキャットのドアが開き、降り立って来たのは、百合園セイア当人である。

 姿はベレー帽にウッドランド迷彩のフード付きジャケットを羽織り、隣には白い制服にケピ帽を着けた連邦捜査部の生徒が立っていた。

 

「まったく、後処理する人間の苦労を考えてくれないかね? 

 何時までも銃や戦車でドンパチでもあるまいに」

「貴女を拘束します。容疑は学園間の抗争と戦闘誘発の陰謀と教唆、そしてエデン条約3項と7項の違反だ。

 これからトリニティの内部と連邦捜査部で非公式ながら厳しく査問を行います」

 

 連邦捜査部の法務将校は罪状を述べ、逮捕状を見せると「連れていけ」と告げた。

 被疑者を確保し、飛び去るAW159 リンクス・ワイルドキャットを見上げながら、「これじゃミカがクーデターを考えるのも無理ないね」と呟く。

 

「しかし、ヴァルキューレ管区警察まで抱えてたとはね、派閥の予算には相当大きいブラックホールか、大食漢が居るらしいね」

「アリウス救援金不正利用もその一つでしょうな、先は長そうですね」

 

 ともあれ、自分の代で出来るだけトリニティの旧弊をさっぱりさせておかなきゃなぁ。

 セイアはそう思いながら、ツルギへ「終わった」とだけ電話で告げた。

 

 

 

 一方、そうした暗闘を知らない便利屋一同は、自称セクシーフォックスから払われた報酬と追加ボーナスで送られたカスタム済みハマーを、どうするべきかと言う目で見ていた。

 

「ん、報酬で勝ち取った以上受け取るのが礼儀」

「い、いや、それは分かるんだけど、これだけの報酬と釣り合ってたかなって」

「ん! 要らないなら私が奪う!」

「それは困るわよぉぉぉ……」

 

 発言内容が相変わらず暴虐なシロコにアルが嘆いている。

 どうしてこうなったかと言うと、前任の社用車くんは押収後即時売られてしまったのである。

 悲しいかな、腐敗しても金が無いとコレである! 

 そんなわけで偽装工作用で売られなかったスマホは奪還したが、社用車を失った。

 そうした事を聞いた謎の自称セクシーフォックスは、手持ちのコレクションの一つを報酬として渡したのである。

 

「気前が良く出てくると逆に恐いよね」

「うん」

 

 ムツキとカヨコの感想はある意味素直な物であった。

 当然だが彼女らは真相を知る事は永遠に無い、その真相に彼女らは価値を見出さないからである。

 結局のところ、あれも戦闘、これも戦闘、何処で戦うかは自分の好きを通したいと言う事である。

 

 それが、便利屋68である。

 

「そう言えばさ、実は」

 

 ムツキが、そう言えば言い損ねていたことを思い出した。

 だが帰ってきた答えは、ムツキの予想の外であった。

 

「え、結構気に入ってたの……あれ」

「はい!」

 

 個人の好みっていろいろあるよなぁ、ムツキは満面の笑みで答えるハルカにそう思った。

 いや無論、一筋縄じゃ行かない集まりなのは今更だが。

 取り敢えず、セリカの屋台ラーメンを手繰るかと、4人はまた気の向くままに進み始めた。

 

 

*1
弾頭と火薬を詰め直したもの。所謂チープアモで、アビドスなどの技能者製に明確に劣る。




感想評価お待ちしてます。
誤字脱字などの報告本当にありがとうございます!
この場を借りてお礼申し上げます。

今月は恐らく便利屋のターンです。

特別編を明日の11:05に投稿予定です。
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